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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1281734 |
審判番号 | 不服2010-26973 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-30 |
確定日 | 2013-11-14 |
事件の表示 | 特願2006-238783「Fcα/μレセプターに対する抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 56647〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成18年9月4日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成23年5月23日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 マウスFcα/μレセプターを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞をFcα/μレセプター遺伝子欠損マウスに免疫することにより生成される、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体であって、ヒトFcα/μレセプターとIgM又はIgAとの結合を阻害する、前記抗体。」(以下、「本願発明」という。) 第2 引用例の記載事項 1.前置審査における平成23年3月16日付け拒絶理由において引用文献1として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である日本免疫学会総会・学術集会記録,2005年,Vol.35,p.118,1-H-W15-19-P(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 ア.「【目的】Fcα/μreceptor(Fcα/μR)特異的抗体を用いて、Fcα/μRとIgAおよびIgMの結合様式を解析した。 【方法】Fcα/μR欠損マウスからマウスFcα/μR特異的ハイブリドーマの樹立を試みた。得られたクローンのIgAおよびIgM結合阻害能をFACSにて検討した。他のIgAおよびIgMに対するFcreceptorであるpolymeric Ig receptorとヒト、マウスFcα/μRの間で高い相同性を示すアミノ酸配列部分の合成ペプチド(motif peptide)を用い、各クローンのmotif peptideへの反応性を検討した。 【結果】12個のFcα/μR特異的クローンを樹立した。12クローンのうちマウスFcα/μRとIgAおよびIgMの結合を完全に阻害するものが1クローン、部分的に阻害するものが7クローン得られた。これらの8クローンは全てmotif peptideに対して反応性を示した。」(1行?12行) 引用例1の「Fcα/μR欠損マウスからマウスFcα/μR特異的ハイブリドーマの樹立」という記載は、技術常識からみて、Fcα/μレセプター欠損マウスを免疫することにより、マウスFcα/μレセプター特異的抗体を産生するハイブリドーマの樹立を意味するものである。 そうすると、引用例1には、以下の発明が記載されているに等しいものと認められる。 「Fcα/μレセプター欠損マウスを免疫することにより生成される、ポリIgRとヒト、マウスFcα/μレセプターの間で高い相同性を示すアミノ酸配列部分の合成ペプチドであるモチーフペプチドに対する抗体。」(以下、「引用発明」という。) 2.前置審査における平成23年3月16日付け拒絶理由において引用文献2として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物であるNature Immunology,2000年,Vol.1, p.441-446(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、引用例は英語で記載されているため、以下、日本語訳で記載する。下線は当審で付した。)。 ア.「抗マウスFcα/μR抗体(TX6)は、Sp2/0ミエローマ細胞株と、マウスFcα/μRを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞によって免疫したラット由来の脾臓細胞を融合させることにより、生成された。」(445頁右欄23行?25行) イ.「 図1 Fcα/μRの分子生化学的特性評価。 (a)ヒト及びマウスFcα/μRの推定アミノ酸配列・・・IgA及びIgMへの予想される結合部位は、ボックスで囲む。・・・矢印は、免疫グロブリンドメインのジスルフィド結合に含まれるポテンシャルシステイン残基を示す。cDNA配列は、EMBL、GenBank及びDDBJからアクセッション番号E15470(ヒト)及びAB048834(マウス)で利用可能である。 (b)予想されたFcα/μR及びポリIgRにおけるIgA及びIgM結合部位のアミノ酸配列の比較。・・・」(442頁図1a、b) ウ.「細胞外ドメインの2つのシステイン残基は、免疫グロブリン様ドメインのコンセンサス配列に隣接し(図1a、b)、このことは、Fcα/μRと名付けられたこの分子は、免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーのメンバーであることを示す。 マウスFcα/μRと相同性を有するヒトcDNAは、ヒトリンパ節cDNAライブラリーから単離され、マウスFcα/μRと49%アミノ酸同一性のタンパク質をコードすることがわかった。・・・Fcα/μRは、GenBank、EMBL又はDDBJに登録された他のタンパク質又は塩基配列と有意な相同性を示さず、ユニークであることわかった。しかし、我々は、ヒト、ウシ及び齧歯類のポリIgRの最初の免疫グロブリンドメインにおいて保存され、かつ、IgA-Fc及びIgM-Fcに結合する免疫グロブリンドメイン中のモチーフを観察した(図1b)。」(441頁右欄下から2行?442頁左欄19行) 第3 対比 本願発明と引用発明を対比すると、両者は、「Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスを免疫することにより生成される抗体」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスへの免疫源が、本願発明では、「マウスFcα/μレセプターを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞」であるのに対し、引用発明では、免疫源は記載されていない点。 相違点2:本願発明は、「配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体」であって、「ヒトFcα/μレセプターとIgM又はIgAとの結合を阻害する」ものであるのに対し、引用発明は、「ポリIgRとヒト、マウスFcα/μレセプターの間で高い相同性を示すアミノ酸配列部分の合成ペプチドであるモチーフペプチドに対する抗体」である点。 第4 判断 1.相違点1について 引用例2には、マウスFcα/μレセプターを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞によって免疫を行った結果、抗Fcα/μレセプター抗体TX6が取得できたことが記載されている以上、引用発明において、Fcα/μレセプター遺伝子欠損マウスの免疫源として、引用例2に記載された、マウスFcα/μレセプターを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞を利用して、抗マウスFcα/μレセプター抗体を取得することは、当業者が容易に想到することである。 2.相違点2について 本願発明の配列番号6で表されるアミノ酸配列とは、本願明細書によれば、マウス、ヒト、ラットのFcα/μレセプター及びポリIgRにおける保存領域のアミノ酸配列であって、ヒトFcα/μレセプター由来のアミノ酸配列である「Gly Gly Ala Val Thr Ile Gln Cys His Tyr Ala Pro Ser Ser Val Asn Arg His Gln Arg Lys Tyr Trp」である(段落【0066】、図3及び配列表)。 そして、このアミノ酸配列は、引用例2において、ヒト、マウスのFcα/μレセプター及びポリIgRの免疫グロブリンドメインにおける保存アミノ酸配列であって、ヒトFcα/μレセプター由来のアミノ酸配列として記載されたアミノ酸配列と同一である(引用例2の記載事項イ及びウ参照)。 ところで、引用発明の抗体が結合するモチーフペプチドは、ヒト及びマウスFcα/μレセプター間で高い相同性を示すアミノ酸配列からなるものであるから、抗マウスFcα/μレセプター抗体が得られた場合、マウスFcα/μレセプターにおける保存領域と高い相同性を有する、ヒトFcα/μレセプターにおける保存領域のアミノ酸配列、すなわち、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合するかどうか確認することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、実際に本願発明の抗体がヒトFcα/μレセプターにおける保存領域である配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合するものであったことは、当業者が予測し得る範囲のことである。 さらに、本願発明の配列番号6のアミノ酸配列は、ヒトFcα/μレセプターにおけるIgM及びIgAとの結合部位のアミノ酸配列であるから(引用例2の記載事項イ参照)、「配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体」は、「ヒトFcα/μレセプターとIgM又はIgAとの結合を阻害する」ものであることは十分に予想されることであって、そのような性質を有する抗体を取得することもまた、当業者にとって困難性を要することではない。 そして、本願明細書をみても、本願発明が当業者が引用例1及び2から予測し得ない格別な効果を奏するとは認められない。 3.審判請求人の主張について (1)審判請求人は、平成23年5月23日付け意見書において、以下の点を主張する。 ア.引用例2には、Ba/F3細胞をどのような状態でラットに免疫したかは記載されておらず、技術常識に従ってウシ胎児血清の存在下で培養した場合、Ba/F3細胞の表面に発現したマウスFcα/μRに、ウシ胎児血清に由来するIgA/IgMが結合してしまい、Fcα/μRにおけるIgA/IgMとの結合サイト(Ig様ドメイン)に対する抗体を取得するための抗原となり得ないので、当業者は引用例1及び2の記載に基づいて、本願発明の抗体を取得できない。 イ.Fcα/μR欠損マウスは、出願時において本発明者ら以外にはその作製に成功しておらず、公知技術に基づいて当業者が作製することは極めて困難であるので、単に「Fcα/μR欠損マウスからマウスFcα/μR特異的ハイブリドーマを樹立」と記載されているにすぎない引用例1の情報に基づいて、Fcα/μR欠損マウスを作製することは困難である。 (2)審判請求人の主張について検討する。 ア.主張アについて 引用例2には、Fcα/μレセプターがIgA/IgMと結合することが記載されているから(特に、442頁-443頁 「Fcα/μR binds IgM and IgA」の項参照)、Fcα/μレセプターを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞を免疫源として利用する場合に、当該細胞を、Fcα/μレセプターの抗原性に影響を与え得るファクターであるIgA及びIgMと接触させないように調製することは、当業者が容易になし得ることである。 また、BaF/3細胞は、マウス由来の細胞であるところ、本願出願日前において、動物細胞を培養する場合、ウシ胎児血清に代えて血清を含まない無血清培地を用いることができることは、技術常識であったから(日経バイオ最新用語辞典 第5版」、日経BP社、2002年9月17日、824頁「無血清培地」の項参照。)、Ba/F3細胞を培養する場合に、ウシ胎児血清等の血清が必須であるともいえない。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 イ.主張イについて ES細胞において、遺伝子ターゲティング技術により、標的遺伝子が欠損したマウスを作製することは、例を挙げるまでもなく本願出願日前における周知技術であった。そして、マウスFcα/μレセプターの塩基配列は、本願出願日前に既に知られている(引用例2の記載事項イ参照)。 このような技術的状況の下、本願出願時に既知であるマウスFcα/μレセプター遺伝子をターゲットにして、Fcα/μレセプター欠損マウスを作製することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願明細書にも、Fcα/μレセプター欠損マウスの作製に関して、「Fcα/μR欠損マウスは、ES細胞を用いた遺伝子ターゲティングにより作出した。」(段落【0047】)と記載されているにすぎない。 また、上記意見書には、Fcα/μレセプター欠損マウスの作製が困難であった事情について、具体的に記載されていないため、審判請求人の主張は採用することはできない。 第5 まとめ 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-12 |
結審通知日 | 2013-09-17 |
審決日 | 2013-09-30 |
出願番号 | 特願2006-238783(P2006-238783) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 幸田 俊希 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
冨永 みどり 田中 晴絵 |
発明の名称 | Fcα/μレセプターに対する抗体 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 片山 英二 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 小林 浩 |