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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1281758
審判番号 不服2012-25049  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-18 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 特願2007- 28291「Al-Mg系合金熱延上り板」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月21日出願公開、特開2008-190021〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年2月7日の出願であって、平成23年10月27日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日付けで手続補正がなされ、平成24年9月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成24年12月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定

【補正の却下の決定の結論】
平成24年12月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【決定の理由】
[1]本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、次の(1-1)を次の(1-2)とする補正を有するものである。(下線部は補正箇所を示す。)

(1-1)
「【請求項1】
3質量%(以下、質量%は%と略記する。)以上・5%未満のMgを含有するとともに、Mn:1.0%以下、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Cr:0.4%以下、Zn:0.5%以下、Zr:0.3%以下の1種もしくは2種以上およびCu:0.6%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる厚さが1.5?10mmの冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金板であって、板厚表層部および板厚中心部の各平均結晶粒径がともに50μm以下であり、板厚表層部の平均結晶粒径が、板厚中心部の平均結晶粒径の0.95倍以下であることを特徴とするAl-Mg系合金熱延上り板。

【請求項2】
Ti:0.005?0.2%を含有することを特徴とする請求項1に記載のAl-Mg系合金熱延上り板。

【請求項3】
B:0.0001?0.05%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のAl-Mg系合金熱延上り板。」

(1-2)
「【請求項1】
3質量%(以下、質量%は%と略記する。)以上・5%未満のMg、0.5%以下のZn及び0.0001?0.05%のBを含有するとともに、Mn:1.0%以下、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Cr:0.4%以下、Zr:0.3%以下の1種もしくは2種以上およびCu:0.6%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる厚さが1.5?10mmの冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金板であって、板厚表層部および板厚中心部の各平均結晶粒径がともに50μm以下であり、板厚表層部の平均結晶粒径が、板厚中心部の平均結晶粒径の0.95倍以下であることを特徴とするAl-Mg系合金熱延上り板。」

【請求項2】
Ti:0.005?0.2%を含有することを特徴とする請求項1に記載のAl-Mg系合金熱延上り板。」

[2]本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1及び請求項2を削除するとともに、補正前の請求項1を引用する請求項3及び補正前の請求項2を引用する請求項3をそれぞれ新たな請求項1及び請求項2とするとともに、選択成分であったZnを必須成分とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除及び特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的とするものに該当する。
以下、新たに請求項1とする補正を「補正事項a」といい、補正前の請求項2を引用する請求項3を新たな請求項2とする補正を「補正事項b」という。

[3]補正事項aについての検討
補正事項aが、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて、以下に検討する。

本発明に係るAl-Mg系合金熱延上り板において、Ti及びBの添加に関し、当初明細書等の発明の詳細な説明には、以下のとおり記載されている。

「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のAl-Mg系合金熱上り板は、合金成分の面からは、比較的少量のMgの単独配合で固溶強化による強度向上ならびに加工硬化能を高め、材料を均一に塑性変形させるものである。
・・・(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。以下同じ。)
【0035】
また、この種のアルミニウム合金においては、鋳塊結晶粒微細化のためにTiあるいはTiおよびBを微量添加することが行われており、この発明においても、必要に応じてTi0.005?0.20%またはこれとB:0.0001?0.05%との組合わせで添加してもよい。
【0036】
Tiは0.005%未満ではその効果が得られず、0.20%を超えると巨大なAl-Ti系金属間化合物が晶出して成形性を阻害する。TiとBとを添加しても鋳塊結晶粒微細化効果を示すが、B量が0.0001%未満ではその効果がなく、0.05%を超えるとTi-B系の粗大粒子が混入して成形性を阻害する。」(以下、「記載事項A」という。)

補正事項aは、Al-Mg系合金熱上り板において、Tiを添加することなく、Bのみを添加するものとする補正を有するものであるところ、記載事項Aによれば、本発明のAl-Mg系合金熱上り板において、Ti及びBの添加に関し、鋳塊結晶粒微細化を目的として、Tiのみを単独で添加すること、またはTiとBとを複合添加することは記載されていたとすることができるが、Tiを添加せず、Bのみを単独で添加することは記載されていたとすることはできないし、記載事項Aから自明な事項であるとすることもできない。
また、当初明細書等のすべての記載を総合しても、Tiを添加せず、Bのみを単独で添加するとの技術的事項を導くことはできない。
よって、補正事項aは、当初明細書等に記載の技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

以上のとおりであるから、補正事項aを有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[4]補正事項bについての検討

前記[2]について検討したとおり、補正事項bは、限定的減縮を目的とするものに該当するから、以下、本件補正後の請求項2に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

[4-1]刊行物及び刊行物の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2002-348629号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
Siを0.07?0.18mass%、Mgを4.35?4.75mass%、Cuを0.05?0.15mass%、Feを0.07?0.35mass%、Mnを0.25?0.45mass%、Crを0.02?0.05mass%、Tiを0.001?0.1mass%含有し、Naを0.0005mass%以下、Caを0.0010mass%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金板材であって、その板厚方向に計測した平均結晶粒径が表層部で10μm以下、中央部で表層部の1.2倍以上であることを特徴とする塗装性およびプレス成形性に優れた輸送関連構造体用アルミニウム合金板材。
【請求項2】
アルミニウム合金板材の厚さが0.5?5.5mmであることを特徴とする請求項1記載の塗装性およびプレス成形性に優れた輸送関連構造体用アルミニウム合金板材。」

(1b)「【0004】
このようなことから、本発明者等は、前記従来の合金板材が塗装性およびプレス成形性に劣る原因を調べ、従来の合金板材は結晶粒が粗大で結晶粒の方位差に起因して曲げ加工部に凹凸が顕著に現れるのが原因であることを突き止め、前記凹凸(以下、肌荒れと称す)は表層部の結晶粒径を適度に微細化することで改善し得ること、また前記プレス成形性はアルミニウム合金板材の結晶粒径を表層部より中央部で大きくすることで改善し得ることを見いだし、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。 本発明の目的は、所要の強度を有し、かつ塗装性およびプレス成形性に優れた輸送関連構造体用アルミニウム合金板材を提供するにある。」

(1c)「【0014】
NaおよびCaは結晶粒界に偏析して熱間圧延割れの原因になる。そのためNaは0.0005mass%以下に、Caは0.001mass%以下にそれぞれ規制する。」

(1d)「【0022】
【実施例】以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)表1に示す本発明規定組成のアルミニウム合金を半連続鋳造法により鋳造し、製出鋳塊に面削および均質化処理を施し、次いでリバース式熱間粗圧延機により熱間圧延して厚さ30mmの熱延板とし、この熱延板を4スタンドのタンデム型熱間仕上圧延機により圧延して厚さ2mmの板材の熱延コイルを製造した。熱間仕上圧延機の最終スタンドで、圧下量、圧延温度、圧延速度、クーラント吐出量を調整して、前記板材(再結晶組織)の結晶粒径およびその分布を本発明で規定する範囲内で種々に変化させた。
・・・
【0025】実施例1および比較例1、2で製造した各々の熱延コイルから試験片をサンプリングして、平均結晶粒径、引張特性、絞り成形性(プレス成形性)、曲げ加工性を調べた。結晶粒径は、板材を縦に切断し、切断面を研磨し、エッチングして、板材の一方の表層部から他方の表層部にかけて疑似ラインを引き、前記疑似ラインを横切る結晶粒界数を光学顕微鏡で測定し、その平均結晶粒径を表層部(表面から0.2mmまでの外側部分)と中央部(表面から0.8?1.2mmの中央部分)について求めた。引張特性は、JIS5号引張試験片を作製し、これをJIS Z 2241に準じて引張試験して調べた。絞り成形性は直径40mmの平頭パンチを用いた深絞り試験により調べた。曲げ加工性は、曲げ半径0tで180度曲げ加工し、曲げ加工部の表面を観察し肌荒れの有無で評価した。結果を表2に示す。
【0026】
【表1】
No. Si Fe Cu Mn Mg Cr Ti Na Ca
1 0.17 0.16 0.08 0.35 4.6 0.03 0.006 0.0002 0.0003
・・・
【0027】
【表2】
平均結晶粒径μm 引張特性N/mm2
試料No. 合金No. 表層 中央部 比率 YS TS 伸び%
1 1 9 14 1.6 141 287 26
・・・」

[4-2]本願補正発明についての当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1a)の請求項1を引用する請求項2には、Siを0.07?0.18mass%、Mgを4.35?4.75mass%、Cuを0.05?0.15mass%、Feを0.07?0.35mass%、Mnを0.25?0.45mass%、Crを0.02?0.05mass%、Tiを0.001?0.1mass%含有し、Naを0.0005mass%以下、Caを0.0010mass%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金板材であって、その板厚方向に計測した平均結晶粒径が表層部で10μm以下、中央部で表層部の1.2倍以上である、塗装性およびプレス成形性に優れた輸送関連構造体用アルミニウム合金板材が記載され、刊行物1の(1d)の実施例1及び表1のNo.1のアルミニウム合金を用いた表2の試料No.1には、前記アルミニウム合金板材の実施例として、熱間仕上圧延により得られた厚み2mmの熱間圧延板材であって、Siを0.17mass%、Feを0.16mass%、Cuを0.08mass%、Mnを0.35mass%、Mgを4.6mass%、Crを0.03mass%、Tiを0.006mass%含有し、Naを0.0002mass%、Caを0.0003mass%に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、その板厚方向に計測した平均結晶粒径が表層部で9μm、中央部で14μm、中央部で表層部の1.6倍であるアルミニウム合金熱間圧延板材が記載されている。
そして、(1d)によれば、前記熱間圧延板材は、熱間仕上圧延機の最終スタンドで、圧下量、圧延温度、圧延速度、クーラント吐出量を調整して、厚さ2mmの板材の熱延コイルとして製造されるものであるから、冷間圧延および焼鈍が行われることのない、熱間圧延のままの板材であるといえる。 そこで、以上の記載事項及び認定事項を本願補正発明の記載ぶりに則り整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されているといえる。

「Siを0.17mass%、Mgを4.6mass%、Cuを0.08mass%、Feを0.16mass%、Mnを0.35mass%、Crを0.03mass%、Tiを0.006mass%含有し、Naを0.0002mass%、Caを0.0003mass%に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなる厚さ2.0mmの冷間圧延ならびに焼鈍を行わないアルミニウム合金熱間圧延板材であって、その板厚方向に計測した平均結晶粒径が表層部で9μm、中央部で14μm、中央部で表層部の1.6倍であるアルミニウム合金熱間圧延板材。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(2)本願補正発明と刊行物1発明との対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「冷間圧延ならびに焼鈍を行わないアルミニウム合金熱間圧延板材」は、Mgを含むから、本願補正発明の「冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金熱延上り板」に相当し、また、Mg、Mn、Fe、Si、Cr、Cu及びTiの含有量において一致する。
そうすると、本願補正発明と刊行物1発明とは、「3質量%(以下、質量%は%と略記する。)以上・5%未満のMg及びTi:0.005?0.2%を含有するとともに、Mn:1.0%以下、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Cr:0.4%以下、Zr:0.3%以下の1種もしくは2種以上およびCu:0.6%以下を含有し、厚さが1.5?10mmの冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金熱延上り板。」である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点1;本願補正発明は、さらに0.5%以下のZn及び0.0001?0.05%のBを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるAl-Mg系合金熱延上り板であるのに対し、刊行物1発明は、Zn及びBを含有せず、Naを0.0002mass%、Caを0.0003mass%に規制し、残部がAl及び不可避的不純物であるアルミニウム合金熱間圧延板材である点。

相違点2;本願補正発明は、板厚表層部および板厚中心部の各平均結晶粒径がともに50μm以下であり、板厚表層部の平均結晶粒径が、板厚中心部の平均結晶粒径の0.95倍以下である、Al-Mg系合金熱延上り板であるのに対し、刊行物1発明は、板厚方向に計測した平均結晶粒径が表層部で9μm、中央部で14μm、中央部で表層部の1.6倍であるアルミニウム合金熱間圧延板材である点。

(3)相違点についての検討

(3-1)相違点1について
刊行物1の(1c)の記載によれば、刊行物1発明におけるNa及びCaに関する規定は、本来不可避不純物であるNa及びCaについて、熱間圧延割れの観点からその他の不可避不純物と区別して別途規定したにすぎないものであり、本願補正発明における不可避的不純物に相当するから、刊行物1発明における、「Naを0.0002mass%、Caを0.0003mass%に規制し、残部がAl及び不可避的不純物」と、本願補正発明1における、「残部がAl及び不可避的不純物」とは、実質的な相違点とはならない。
また、高強度及び成形性に優れたAl-Mg系合金板において、Znを0.5質量%以下で添加し、強度向上を図ること、及び、Tiと共にBを0.0001?0.05質量%で添加し、結晶粒の微細化や熱間圧延性の改善を図ることは、本願出願前に周知の技術である(要すれば、Zn添加及びB添加に関し、それぞれ、例えば、特開2004-250738号公報(前置報告で周知文献として提示)の段落【0050】及び段落【0021】、特開平10-310854号公報の段落【0017】及び【0015】を参照。)から、刊行物1の(1b)の記載によれば、構造体用アルミニウム合金板材として所要の強度や結晶粒の微細化による圧延加工性が求められる刊行物1発明において、前記周知技術を適用し、所定量のZn添加による強度向上やTiに対する所定量のB添加による結晶粒の微細化及び圧延加工性の向上を図ることは、当業者が容易に想到し得るものであり、奏される効果についても当業者が予測する範囲内のものである。

そうすると、相違点1は、当業者が容易になし得るものである。

(3-2)相違点2について
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0055】の記載によれば、板厚表層部とは、最表面から500μmの領域をいい、また、板厚中心部とは、板厚1/2部をいうものであるから、本願補正発明は、最表面から500μmの領域、及び、板厚1/2部において、平均結晶粒径がともに50μm以下であって、最表面から500μmの領域の平均結晶粒径は、板厚1/2部の平均結晶粒径の0.95倍以下である。
これに対し、刊行物1発明は、刊行物1の(1b)の記載によれば、従来の合金板材において結晶粒が粗大で結晶粒の方位差に起因して曲げ加工部に顕著に現れる凹凸を、表層部の結晶粒径を適度に微細化することで改善し、またプレス成形性をアルミニウム合金板材の結晶粒径を表層部より中央部で大きくすることで改善したものであるから、その結晶粒径は、表層部から中央部に向かって漸増しているものと認められるところ、(1d)の記載によれば、その表層部、すなわち、表面から200μmまでの平均結晶粒径は9μm、その中央部、すなわち、表面から800?1200μmの中央部分の平均結晶粒径は14μmであるから、表面から500μmまでの平均結晶粒径、及び、板厚1/2部、すなわち、表面から1000μmの部分での平均結晶粒径は、いずれも50μm以下であることは明らかであり、また、表面から500μmまでの平均結晶粒径は、板厚1/2部における平均結晶粒径の0.95倍以下であるものと認められる。
そうすると、相違点2は実質的なものとすることができない。

(4)小括
したがって、本願補正発明は、刊行物1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[4-3]むすび
以上のとおり、補正事項bを有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての審決

[1]本願発明
平成24年12月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、本願の請求項1?3に係る発明は、平成23年12月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第1」の「【決定の理由】[1](1-1)」の請求項2を独立形式にて記載した、以下のとおりのものである。

「【請求項2】
3質量%(以下、質量%は%と略記する。)以上・5%未満のMg及びTi:0.005?0.2%を含有するとともに、Mn:1.0%以下、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Cr:0.4%以下、Zn:0.5%以下、Zr:0.3%以下の1種もしくは2種以上およびCu:0.6%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる厚さが1.5?10mmの冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金板であって、板厚表層部および板厚中心部の各平均結晶粒径がともに50μm以下であり、板厚表層部の平均結晶粒径が、板厚中心部の平均結晶粒径の0.95倍以下であることを特徴とするAl-Mg系合金熱延上り板。」

[2]原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の一つは、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された前記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

[3]刊行物の主な記載事項
前記刊行物1の主な記載事項は、前記「第2【決定の理由】[4-1]」に記載したとおりである。

[4]当審の判断
(1)刊行物1発明の認定
刊行物1発明は、前記「第2【決定の理由】[4-2]の(1)」に記載したとおりである。

(2)本願発明と刊行物1発明との対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「冷間圧延ならびに焼鈍を行わないアルミニウム合金熱間圧延板材」は、Mgを含むから、本願発明の「冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金熱延上り板」に相当し、また、Mg、Mn、Fe、Si、Cr、Cu及びTiの含有量において一致する。
そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、「3質量%(以下、質量%は%と略記する。)以上・5%未満のMg及びTi:0.005?0.2%を含有するとともに、Mn:1.0%以下、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Cr:0.4%以下、Zr:0.3%以下の1種もしくは2種以上およびCu:0.6%以下を含有し、厚さが1.5?10mmの冷間圧延ならびに焼鈍を行わない熱延上りのAl-Mg系合金熱延上り板。」である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点3;本願発明は、残部がAl及び不可避的不純物からなるAl-Mg系合金熱延上り板であるのに対し、刊行物1発明は、Naを0.0002mass%、Caを0.0003mass%に規制し、残部がAl及び不可避的不純物であるアルミニウム合金熱間圧延板材である点。

相違点4;本願発明は、板厚表層部および板厚中心部の各平均結晶粒径がともに50μm以下であり、板厚表層部の平均結晶粒径が、板厚中心部の平均結晶粒径の0.95倍以下である、Al-Mg系合金熱延上り板であるのに対し、刊行物1発明は、板厚方向に計測した平均結晶粒径が表層部で9μm、中央部で14μm、中央部で表層部の1.6倍であるアルミニウム合金熱間圧延板材である点。

(3)相違点についての検討

(3-1)相違点3について
前記「第2【決定の理由】[4-2]の(3-1)」において、刊行物1発明における、「Naを0.0002mass%、Caを0.0003mass%に規制し、残部がAl及び不可避的不純物」と、本願補正発明における、「残部がAl及び不可避的不純物」とについて、検討したと同じ理由により、相違点3は実質的な相違点とはならない。

(3-2)相違点4について
前記「第2【決定の理由】[4-2]の(3-2)」において検討したと同じ理由により、相違点4は実質的なものとすることができない。

(3-4)まとめ
前記相違点3?4は、いずれも実質的なものではないから、本願発明は、刊行物1発明である。

[5]むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-28 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2007-28291(P2007-28291)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C22C)
P 1 8・ 121- Z (C22C)
P 1 8・ 575- Z (C22C)
P 1 8・ 561- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河口 展明  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
小柳 健悟
発明の名称 Al-Mg系合金熱延上り板  
代理人 武仲 宏典  
代理人 亀岡 誠司  
代理人 坂谷 亨  
代理人 竹中 芳通  

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