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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1281759
審判番号 不服2013-1156  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-22 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 特願2007- 75140「有機性廃棄物の可溶化方法、及び有機性廃棄物の可溶化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 2日出願公開、特開2008-229550〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年3月22日の出願であって,平成23年6月13日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成23年6月21日)、平成23年8月19日付けで意見書が提出され、平成24年2月9日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成24年2月14日)、平成24年4月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年10月17日付けで拒絶査定がなされ(発送日は平成24年10月23日)、これに対して、平成25年1月22日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?5に記載される発明は、平成24年4月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項5に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項5】
固形有機物を含む有機性廃棄物を超音波処理するための超音波処理装置と、
超音波処理された有機性廃棄物を、有機物の生物学的処理によって生じた汚泥により60℃以上の温度条件下で処理するための汚泥処理槽と
を備える、メタン発酵基質製造装置。」

3.原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成24年2月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」とするものであり、平成24年2月9日付け拒絶理由通知書に記載の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1及び2(本審決の「刊行物1」及び「刊行物2」)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
そこで、上記理由について、本願発明が依然として特許を受けることができないものかどうかを以下で検討する。

4.刊行物の記載
4-1.刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-231334号公報 (以下「刊行物1」という。)には図面と共に次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「本発明者らは、有機性廃棄物をメタン発酵処理に供する前に、60℃以上の温度条件下で、有機性廃棄物に含まれる有機物をメタン発酵汚泥により分解することにより、有機性廃棄物の分解率を向上させることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。」(【0006】)
(刊1-イ)「また、本発明は、下記に掲げる有機性廃棄物処理装置である:
項8. 有機性廃棄物に含まれる有機物をメタン発酵汚泥により分解するメタン発酵汚泥処理槽、及び該処理槽により分解された分解物をメタン発酵処理するメタン発酵槽を含む、有機性廃棄物処理装置。
項9. 更に、有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する混合槽を含み、該混合槽で得られる有機性廃棄物・汚泥混合物がメタン発酵汚泥処理槽に供給されるように構成されている、項8に記載の装置。
項10.更に、メタン発酵槽から得られるメタン発酵処理物の少なくとも一部をメタン発酵汚泥処理槽又はそれより上流側に返送するメタン発酵汚泥返送手段を含む、項8又は9に記載の装置。」(【0008】)
(刊1-ウ)「・・・本発明の方法で処理される有機性廃棄物は、有機物を含むものであれば特に制限されないが、例えば、動物又は植物由来のものが挙げられる。具体的には、固形の有機性廃棄物、半固形の有機性廃棄物、不溶性固形分として有機物を含む有機性廃棄物、スラリー状の有機性廃棄物[以下、これらを“固形有機性廃棄物”という場合がある。]などが例示される。更に具体的には、厨芥,生ゴミ,生ゴミの乾燥物、食品工場廃棄物,下水汚泥,畜産廃棄物(家畜のし尿と、わら、おがくず等との混合物)などが例示される。また、本発明の方法で処理される有機性廃棄物は、濃厚廃液(糖廃蜜、焼酎の廃液等)、下水や有機排水(ビール工場の排水等)など、有機物を可溶性成分として含む液状のもの、有機物濃度の濃厚な廃液又は希薄な廃液であってもよい。」(【0009】)
(刊1-エ)「工程(a)
工程(a)では、60℃以上の温度条件下で、有機性廃棄物に含まれる有機物をメタン発酵汚泥により分解する。
本工程により、有機性廃棄物に含まれる有機物が分解されて可溶化、液状化される。メタン発酵汚泥に含まれるメタン細菌は、60℃以上では生育不能であるが、該メタン発酵汚泥にはメタン細菌以外に、60以上で生育可能な細菌も存在している。本工程では、メタン発酵汚泥に含まれる60℃以上で生育可能な細菌の内の高分子有機物を低分子化できる細菌(以下、可溶化菌と表記することもある)の働きか、メタン発酵汚泥に含まれる酵素の作用により、高温条件下で溶解度が上昇した有機物(炭水化物、蛋白質、脂質)が、低分子量化(例えば、糖、アミノ酸、ペプチドなどまで)され、更にその一部又は大部分は酸分解を受けてプロピオン酸、酪酸等の有機酸まで分解されていると思われるが、詳細は完全には解明されていない。
本工程(a)でいう「分解」とは、有機性廃棄物の全てが可溶化している程度に低分子化されていることに限らず、有機性廃棄物に含まれる不溶化有機物が、好ましくは20重量%以上程度、より好ましくは25重量%以上程度の不溶化有機物が水に溶ける程度まで低分子化されることを意味する。
本工程において使用するメタン発酵汚泥とは、有機物をメタン発酵することにより得られる発酵物、又は該発酵物の固形分のことである。当該メタン発酵汚泥として、例えば、有機性廃棄物をメタン発酵処理することにより得られたメタン発酵処理物を使用することができる。好ましくは、本発明における工程(b)で得られるメタン発酵処理物である。また、メタン発酵汚泥として、有機物をメタン発酵することにより得られる発酵物そのものを使用する場合、固形分が0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上含まれているものが望ましい。なお、ここでいう固形分には、メタン発酵により得られる発酵物中の不溶化残渣と、メタン細菌菌や可溶化菌等の細菌が含まれる。
本工程のメタン発酵汚泥による分解において、温度条件は60℃以上であれば、特に制限されないが、好ましくは60?90℃程度、更に好ましくは65?80℃程度、特に好ましくは70?80℃程度である。本工程において、60℃以上の所定温度に保つためには重油、都市ガス、電力等を利用することもできる。しかし、該温度の維持には相当量の熱量が必要となるので、電力源として重油等を単独で利用するよりも、後述する工程(b)で発生するメタンガスを利用して熱と電力を得るコジェネレーション手段(ガスエンジン、燃料電池等)を利用し、発生する排熱を有効利用することが望ましい。
メタン発酵汚泥による有機性廃棄物に含まれる有機物の分解は、上記温度条件を調節・保持できる槽(以下、メタン発酵汚泥処理槽という)内で、有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを共存させ上記条件下で保持することにより行うことができる。」(【0020】?【0025】)
(刊1-オ)「有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とをメタン発酵汚泥処理槽内で共存させるには、例えば、以下の方法が例示される:(1)有機性廃棄物をメタン発酵汚泥処理槽に供給し、また別にメタン発酵汚泥をメタン発酵汚泥処理槽に供給して、メタン発酵汚泥処理槽内で有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する方法、及び(2)有機性廃棄物を混合手段を備えた混合槽に供給し、またメタン発酵汚泥を該混合槽に供給し、該混合槽内で両者を予め混合し、得られた有機性廃棄物・汚泥混合物をメタン発酵汚泥処理槽に供給する方法。後者の(2)の方法の場合、有機性廃棄物・汚泥混合物の固形分濃度を10重量%以下にすることによって、小型で安価なポンプにより該混合物をメタン発酵汚泥処理槽に供給することが可能になる。また、後者の(2)の方法の場合、具体的には、本工程(a)には、以下態様の工程が含まれる:
(a-1)有機性廃棄物を、混合槽に供給する工程
(a-2)メタン発酵汚泥を混合槽に供給する工程、
(a-3)混合槽において、有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する工程、
(a-4)工程(a-3)で得られた有機性廃棄物・汚泥混合物をメタン発酵汚泥処理槽に供給する工程、及び
(a-5)メタン発酵汚泥処理槽において、60℃以上の温度下で、有機性廃棄物に含まれる有機物を分解する工程。」(【0026】)
(刊1-カ)「本工程(a)のメタン発酵汚泥による分解は、嫌気性雰囲気、好気性雰囲気の何れの雰囲気で行ってもよい。」(【0031】)
(刊1-キ)「本工程(a)に供された固形有機性廃棄物は、固形有機性廃棄物に含まれる有機物が分解されて可溶化し、液状になるので、本工程(a)で得られた分解物をそのままメタン発酵処理に供することが可能になる。これによって、固形有機性廃棄物をメタン発酵処理に直接供する場合に、メタン発酵により有機物が十分に処理されないという問題が解消される。
本工程(a)により得られた分解物は、そのまま後述の工程(b)に供してもよく、また該分解物を固液分離をした後に、その液体分を後述の工程(b)に供してもよい。」(【0036】、【0037】)
(刊1-ク)「工程(b)
工程(b)では、工程(a)で得られた分解物を嫌気性雰囲気下でメタン発酵する。本工程において、工程(a)で得られた分解物がメタンと二酸化炭素に分解される。本工程におけるメタン発酵は、従来公知のメタン発酵菌及びメタン発酵槽を用いて行うことができる。」(【0041】)
(刊1-ケ)「本発明の方法によれば、工程(a)により有機性廃棄物の固形分の分解率(可溶化率)が向上するため、工程(b)において残渣となる固形物の発生量は低減される。
本発明の方法によれば、有機性廃棄物に含まれる有機物の分解率が、例えば、60%以上、特に80%以上になる。」(【0060】、【0061】)
(刊1-コ)「本発明の有機性廃棄物処理方法の概略図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図1】(18頁)は以下のようであり、「有機性廃棄物」が「メタン発酵槽」で処理されるまでの工程に着目すると、(刊1-イ)(刊1-オ)(刊1-ク)に記載された事項と共に、「メタン発酵槽」から得られる「メタン発酵処理物の少なくとも一部」を「混合槽」に返送することがみてとれる。



4-2.刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-212487号公報 (以下「刊行物2」という。)には図面と共に次の事項が記載されている。
(刊2-ア)「従来から、下水廃水などの有機廃水を処理する方法としては、好気性微生物を用いた活性汚泥処理方法が最も一般的に用いられている。この活性汚泥処理方法では、例えば特許文献1に開示されているように、図5に示される活性汚泥処理装置が用いられている。図5は、従来の活性汚泥処理装置の構成を示す概略図である。」(【0002】)
(刊2-イ)「しかしながら、上記特許文献1記載の技術においては、確かに有機廃水aの活性汚泥処理を好適に行うことが可能ではあるが、可溶化処理装置120に供給される汚泥eは、通常、活性汚泥微生物(有機性固形物)が出す粘性物質により形成されたフロック状の物質であり、有機性固形物が堅固にフロックを形成している部分が含まれている場合には、すなわち汚泥の状態によっては、必ずしも短時間でかつ十分に可溶化することができないという問題があった。これにより、可溶化処理装置120の寸法や容量を低減させること、さらには活性汚泥処理装置の構成を簡素化することが比較的困難であるという問題があった。」(【0006】)
(刊2-ウ)「そこで、本発明は、好熱菌を用いた有機性固形物の可溶化処理方法および処理装置において、超音波処理を最適な条件で利用することによって、有機性固形物の状態にかかわらず短時間でかつ十分に可溶化し、可溶化処理装置の寸法や容量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を行った結果、有機性固形物を好熱菌を利用して可溶化処理する有機性固形物の処理方法において、可溶化に先だって有機性固形物を超音波処理すれば、有機性固形物のフロックを効果的に微細化(液化を含む)することができ、微細化された有機性固形物と増殖させた好熱菌とを続く可溶化処理において接触させることにより、前記有機性固形物の状態にかかわらず短時間でかつ十分に可溶化することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、有機性固形物を好熱菌により可溶化するための可溶化処理装置を有する有機性固形物の処理装置であって、前記有機性固形物が前記可溶化処理装置に供給される前に、当該有機性固形物を超音波処理する超音波処理装置を具備すること、を特徴とする有機性固形物の処理装置を提供する。
本構成によれば、可溶化処理前に有機性固形物のフロックを効果的に微細化することができ、続く可溶化処理において、微細化された有機性固形物と増殖させた好熱菌とを接触させることにより、前記有機性固形物の状態にかかわらず短時間でかつ十分に可溶化することができ、可溶化処理装置の寸法や容量を低減させることができる。」(【0009】?【0011】)
(刊2-エ)「・・・図1は、本発明の有機性固形物の処理装置を適用した活性汚泥処理装置の第一の実施形態の構成を示す概略図である。図1に示すように、本発明の活性汚泥処理装置においては、有機廃水貯留槽11に貯留された原廃水である有機廃水Aが、経路12を経て曝気処理装置13に導入され、好気条件下、微生物による酸化分解反応、すなわち生物酸化による好気性生物処理によって二酸化炭素や水などの無機物に分解される。曝気処理装置13で得られた曝気処理液Bは、経路14を経て沈殿装置15に導入されて固液分離され、得られた処理水(上澄液)Cは経路16を経て排出される。一方、沈殿装置15で分離された汚泥(有機性固形物)の一部Dは、第1の返送経路18を経て経路12に達し、有機廃水Aと合流して曝気処理装置13に再導入される。
また、沈殿装置15で分離された汚泥の他の一部E(以下、単に「汚泥E」ともいう)は、経路17および19を経て可溶化処理装置20に導入される。可溶化処理装置20では、高温条件下、嫌気的または好気的に汚泥Eの可溶化が行われる。可溶化処理装置20で得られた可溶化処理液Fは、第2の返送経路22を経て経路12に達し、有機廃水Aと合流して曝気処理装置13に再導入される。
ここで、従来の活性汚泥処理装置では、上述のように、曝気処理装置13および可溶化処理装置20における処理サイクルの繰り返しだけでは、汚泥の他の一部Eの状態によっては必ずしも短時間でかつ十分に可溶化することができないという問題があった。そこで、本発明の活性汚泥処理装置においては、このような問題を解決すべく、可溶化処理装置20における可溶化処理に先だって、汚泥Eを超音波処理によって微細化し、続く可溶化処理をより効果的に行うものである。詳細は後述するが、沈殿装置15からの汚泥Eを、可溶化処理装置20に導入する前に、経路19の途中に設けた超音波処理装置21に導入し、ここで超音波処理を行う。
有機廃水Aが導入される曝気処理装置13における「好気性生物処理」とは、活性汚泥微生物である「好気性微生物」を用いた生物酸化によって有機廃水に含まれる有機物を、二酸化炭素や水などの無機物に分解する処理をいう。ここで用いられる「好気性微生物」としては、下水浄化のための活性汚泥法において従来から用いられているグラム陰性またはグラム陽性桿菌、例えばシュードモナス(Pseudomonas) 属およびバチルス(Bacillus)属が挙げられる。これらの接種菌体は、通常の下水浄化処理プラントから得られる。」(【0021】?【0024】)
(刊2-オ)「また、沈殿装置15で分離された残りの汚泥Eは、経路17および19を経て可溶化処理装置20に導入される前に、超音波処理装置21に導入される。汚泥Eは、上述のように、通常は活性汚泥微生物が粘性を有する有機性固形物で保護されて形成されたフロック状の物質であるため、このまま可溶化処理装置20に導入すると、汚泥Eの状態によっては迅速かつ的確に可溶化を促進できない場合がある。
そこで、本発明における超音波処理装置21では、可溶化処理に供されるフロック状の汚泥Eを解体してあらかじめ微細化し、さらには微生物の細胞壁を少しでも破壊して分解しておくことにより、続く可溶化処理をより効果的に行うことを可能とするものである。・・・」(【0031】、【0032】)
(刊2-カ)「超音波処理装置21で超音波処理された汚泥Eは、経路19を経て可溶化処理装置20に導入される。可溶化処理装置20では、高温条件下、嫌気的または好気的に汚泥Eの可溶化を行う。高温条件において用いられる嫌気性または好気性の微生物(好熱菌)としては、例えば、従来の好気性または嫌気性の消化槽から微生物や接種菌体を培養することによって得られる。
ここで、本発明における可溶化は、例えば、プロテアーゼ等の可溶化酵素によってなされる。この可溶化酵素は、好熱菌、例えばバチルス属細菌等の好気性好熱菌によって産生されるものである。このような好熱菌は可溶化処理槽に予め保持されるか、可溶化槽に供給される汚泥にあらかじめ含有されており、もしくは可溶化槽で新たに添加されてもよい。」(【0039】、【0040】)
(刊2-キ)「また、可溶化処理装置20における可溶化処理温度は、50?90℃であるのが好ましいが、汚泥Eに含まれる有機性固形物を分解する好熱菌の種類に応じて調整すればよい。例えば、下水余剰汚泥から分離した好熱菌を用いる場合には、微生物(好熱菌)による可溶化反応と熱による物理化学的な熱分解とが同時に効率よく生じるように、高温条件における温度を60?80℃、さらには60?70℃に調整するのが好ましい。」(【0043】)
(刊2-ク)「本発明の活性汚泥処理装置の第一の実施形態の構成を示す概略図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図1】は以下のようであり、(刊2-エ)で記載されたことがみてとれる。



5.当審の判断
5-1.引用発明の認定
刊行物1の記載事項について検討する。
i)刊行物1の摘示事項(刊1-イ)(以下、単に「(刊1-イ)」のように記載する。)には、「有機性廃棄物処理装置」について「項8.」「項9.」が記載されており、「項8.」を引用する「項9.」を独立形式で記載すれば、刊行物1には、
「有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する混合槽を含み、該混合槽で得られる有機性廃棄物・汚泥混合物がメタン発酵汚泥処理槽に供給されるように構成されていて、有機性廃棄物に含まれる有機物をメタン発酵汚泥により分解するメタン発酵汚泥処理槽、及び該処理槽により分解された分解物をメタン発酵処理するメタン発酵槽を含む、有機性廃棄物処理装置。」の発明について記載されているといえる。
ii)上記「有機性廃棄物処理装置」の「メタン発酵汚泥処理槽」の機能についてみてみる。
まず、「混合槽」に「有機性廃棄物」と「メタン発酵汚泥」が供給され混合され、その「有機性廃棄物・汚泥混合物がメタン発酵汚泥処理槽に供給され」る。
ここで、(刊1-イ)の「項10.」と(刊1-コ)の記載から、「メタン発酵汚泥」は「メタン発酵槽」から「混合槽」に返送されたものである。
そして、(刊1-エ)には、上記「有機性廃棄物・汚泥混合物」において、「有機性廃棄物に含まれる有機物が分解されて可溶化、液状化」されること、すなわち「メタン発酵汚泥による有機性廃棄物に含まれる有機物の分解」は、「上記温度条件を調節・保持できる槽(以下、メタン発酵汚泥処理槽という)内で、有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを共存させ上記条件下で保持することにより行う」と記載され、さらに、その「温度条件」は「温度条件は60℃以上であれば、特に制限されないが、好ましくは60?90℃程度、更に好ましくは65?80℃程度、特に好ましくは70?80℃程度である。」ことが記載されている。
すなわち、「メタン発酵汚泥処理槽」では、「メタン発酵汚泥」により、「温度条件」が「60℃以上」で「有機性廃棄物に含まれる有機物が分解されて可溶化、液状化」されるものといえる。
iii)以上の検討を踏まえ、本願発明の記載に沿って整理すれば、刊行物1には、
「有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する混合槽と、該混合槽で得られる有機性廃棄物・汚泥混合物を、メタン発酵汚泥により60℃以上の温度条件で分解して可溶化、液状化するメタン発酵汚泥処理槽と、該メタン発酵汚泥処理槽により分解された分解物をメタン発酵処理するメタン発酵槽と、を備える、有機性廃棄物処理装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5-2.本願発明と引用発明との対比
i)刊行物1の(刊1-ウ)には「有機性廃棄物」が「固形有機性廃棄物」を含むことが記載されているから、引用発明の「有機性廃棄物」は、本願発明の「固形有機物を含む有機性廃棄物」に相当するものといえる。
ii)本願明細書【0006】【0007】には「・・・本発明の可溶化方法及び装置によれば、有機性廃棄物に含まれる固形有機物を効率的に生物学的処理(特にメタン発酵処理)に適した基質(原料)に変換でき・・・また、上記可溶化方法により得られた可溶化物をメタン発酵に供することにより、一層効率的に、有機性廃棄物を最終的にメタンガスに変換できる・・・」と記載されており、同【0037】には「メタン発酵
上記の可溶化方法により得られた可溶化物をそのまま又は固形分を分離して嫌気性雰囲気下でメタン発酵する(第3工程)・・・当該メタン発酵処理におけるメタン発酵は、従来公知のメタン発酵菌及びメタン発酵槽を用いて行うことができる。」と記載されることから、本願発明は「メタン発酵処理」装置である「メタン発酵槽」を用いるものといえる。
そして、本願発明は、「可溶化方法及び装置」により「有機性廃棄物に含まれる固形有機物を効率的に生物学的処理(特にメタン発酵処理)に適した基質(原料)に変換」して「メタン発酵槽」に投入するものであることから、「メタン発酵基質製造装置」と呼称するものといえる。
他方で、引用発明も「有機性廃棄物・汚泥混合物を、メタン発酵汚泥により60℃以上の温度条件で分解して可溶化、液状化」して、メタン発酵処理に適するようにした「分解物」を「メタン発酵槽」に供給するものであるから、引用発明の「有機性廃棄物処理装置」は、本願発明の「メタン発酵基質製造装置」に相当するものということができる。
iii)本願明細書【0031】には、「有機性廃棄物及び生物学的処理汚泥を汚泥処理槽に供給する方法」の「具体的」な「態様」として、「(iii)有機性廃棄物を混合手段を備えた混合槽に供給し、また生物学的処理汚泥の一部又は全量を該混合槽に供給し、該混合槽内で両者を予め混合した後に超音波処理し、得られた超音波処理物(有機性廃棄物・汚泥混合物)を汚泥処理槽に供給する方法。」が記載されている。
すなわち、本願発明は、「有機性廃棄物」と「生物学的処理汚泥の一部又は全量」とを混合する「混合槽」を含み、該「混合層」で得られる「有機性廃棄物・汚泥混合物」が「汚泥処理槽」に供給されるものを含むものである。
ここで、「生物学的処理汚泥」は、本願明細書【0020】に「当該汚泥処理において使用される生物学的処理汚泥としては・・・可溶化効率を高めるという観点からは、有機物のメタン発酵処理で生じる汚泥(メタン発酵汚泥)が望ましい。」と記載され、上記ii)でみたように本願発明が「メタン発酵処理」に関するものであることから、「メタン発酵汚泥」であり得る。
すると、本願発明と引用発明は共に「有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する混合槽」を備える点で共通するといえる。
iv)そして、引用発明の「メタン発酵汚泥処理槽」は「混合槽で得られる有機性廃棄物・汚泥混合物」を供給されて「メタン発酵汚泥により60℃以上の温度条件で分解して可溶化、液状化する」ものであり、他方で、本願発明の「汚泥処理槽」は「固形有機物を含む有機性廃棄物」を供給されて「メタン発酵汚泥」により「60℃以上の温度条件下で処理」されて可溶化されるものである。
ここで、引用発明は「混合槽」で得られる「有機性廃棄物・汚泥混合物」を「メタン発酵汚泥処理槽」へ供給するものであり、本願発明は同じく「混合槽」で得られる「固形有機物を含む有機性廃棄物」と汚泥との混合物を「汚泥処理槽」へ供給するものであり、「混合槽」では引用発明と本願発明は共に「メタン発酵汚泥」が混合されるものである。
そうすると、引用発明の「有機性廃棄物・汚泥混合物を、メタン発酵汚泥により60℃以上の温度条件で分解して可溶化、液状化するメタン発酵汚泥処理槽」は、本願発明の「有機性廃棄物を、有機物の生物学的処理によって生じた汚泥により60℃以上の温度条件下で処理するための汚泥処理槽」に相当するということができる。
また、本願発明と引用発明は共に「メタン発酵汚泥処理槽により分解された分解物をメタン発酵処理するメタン発酵槽」を備える点で共通するといえる。
iv)以上から本願発明と引用発明とは
「有機性廃棄物を、有機物の生物学的処理によって生じた汚泥により60℃以上の温度条件下で処理するための汚泥処理槽を備える、メタン発酵基質製造装置。」の点(一致点)で一致し、次の点で両者は相違する。

(相違点)本願発明が「固形有機物を含む有機性廃棄物を超音波処理するための超音波処理装置」を有し、「固形有機物を含む有機性廃棄物」を「超音波処理」するものであるのに対して、引用発明は「超音波処理装置」を備えない点。

5-3.相違点の検討
(1)刊行物2に記載の技術手段について
(刊2-ア)の記載から、刊行物2に記載の技術手段は「下水廃水などの有機廃水」の処理についてのものであるといえるところ、(刊2-イ)には「可溶化処理装置120に供給される汚泥eは、通常、活性汚泥微生物(有機性固形物)が出す粘性物質により形成されたフロック状の物質であり、有機性固形物が堅固にフロックを形成している部分が含まれている場合には、すなわち汚泥の状態によっては、必ずしも短時間でかつ十分に可溶化することができないという問題があった」と記載され、「下水廃水などの有機廃水」に「活性汚泥」が混在すると「フロック状の物質」が形成されるため、「可溶化処理装置120に供給される汚泥e」の可溶化が不充分になる問題の生じることが示されている。
そこで、(刊2-ウ)には「可溶化処理前に有機性固形物のフロックを効果的に微細化することができ、続く可溶化処理において、微細化された有機性固形物と増殖させた好熱菌とを接触させることにより、前記有機性固形物の状態にかかわらず短時間でかつ十分に可溶化することができ」ることが記載され、そのために(刊2-オ)には「超音波処理装置21」を用いて「可溶化処理に供されるフロック状の汚泥Eを解体してあらかじめ微細化し、さらには微生物の細胞壁を少しでも破壊して分解しておくことにより、続く可溶化処理をより効果的に行うことを可能」と出来ることが記載されている。
これをより具体的に見れば、(刊2-ク)の視認事項と(刊2-エ)の記載から、刊行物2には、「有機性固形物の処理装置を適用した活性汚泥処理装置」において、「有機廃水A」が「曝気処理装置13に導入され、好気条件下、微生物による酸化分解反応、すなわち生物酸化による好気性生物処理によって二酸化炭素や水などの無機物に分解」され、得られた「曝気処理液B」は「固液分離」され、「汚泥(有機性固形物)」(汚泥E)は「超音波処理装置21」に導入されて「超音波処理」がなされた後で「可溶化処理装置20」へ導入され、「高温条件下、嫌気的または好気的に汚泥Eの可溶化」が行われ、「可溶化処理液F」は、「有機廃水Aと合流して曝気処理装置13」に再導入されることが示されている。
そして、(刊2-キ)には、「可溶化処理装置20」の「高温条件」は「50?90℃であるのが好ましい」ものであることが記載されている。
すると、刊行物2には、後段の「可溶化処理装置20」において「50?90℃」の「高温条件下、嫌気的または好気的」に「汚泥」の「可溶化処理をより効果的に行う」ために、「下水廃水などの有機廃水」に「活性汚泥」が混在している「フロック状の物質」をあらかじめ「解体」して「微細化」し「微生物の細胞壁を少しでも破壊して分解」しておくための「超音波処理装置21」を前段に備える「汚泥」の処理装置に関する技術手段について示されているものといえる。
(2)引用発明の「メタン発酵汚泥処理槽」と刊行物2の「可溶化処理装置20」について
(刊1-カ)に「本工程(a)のメタン発酵汚泥による分解は、嫌気性雰囲気、好気性雰囲気の何れの雰囲気で行ってもよい。」と記載されている。
すると、引用発明の「メタン発酵汚泥により60℃以上の温度条件で分解して可溶化、液状化するメタン発酵汚泥処理槽」は、「混合槽で得られる有機性廃棄物・汚泥混合物」を「60℃以上の温度条件」で「嫌気性雰囲気」または「好気性雰囲気」で「可溶化、液状化」するものといえるから、「50?90℃」の「高温条件下、嫌気的または好気的」に「下水廃水などの有機廃水」と「活性汚泥」の混在物の「可溶化」を行う刊行物2の「可溶化処理装置20」は、引用発明の「メタン発酵汚泥処理槽」に対応するといえる。
ここで、「メタン発酵汚泥処理槽」内には「有機性廃棄物」と「メタン発酵汚泥」の混合物が存在し、「可溶化処理装置20」内には、「生物酸化による好気性生物処理」によって得られる「活性汚泥」と「下水廃水などの有機廃水」が存在し、両者の「汚泥」中の細菌が相違する。
しかし、それらの「汚泥」による「可溶化」の作用機序をみると、(刊1-エ)には「60℃以上で生育可能な細菌の内の高分子有機物を低分子化できる細菌」(可溶化菌)と「酵素」が「可溶化」を担うことが推測されることが示され、(刊2-カ)には「高温条件において用いられる嫌気性または好気性の微生物(好熱菌)」と「可溶化酵素」が「可溶化」を担うことが推測されることが示されるから、両者の「可溶化」の作用機序は同じものであるといえるので、引用発明の「メタン発酵汚泥処理槽」と刊行物2の「可溶化処理装置20」は同様の作用機序で機能するものということができる。
(3)引用発明への「超音波処理装置21」の適用の容易性について
刊行物2に示される技術手段では、「下水廃水などの有機廃水」に「活性汚泥」が混在すると「フロック状の物質」が形成されるところ、引用発明の「有機性廃棄物」は(刊1-ウ)の記載から「下水汚泥」を含み得るから、引用発明においても、「有機性廃棄物」と「メタン発酵汚泥」が「混合」される「混合槽」で「フロック状の物質」が形成されるものといえる。
また、引用発明の「有機性廃棄物」が「下水汚泥」を含まないとしても、汚泥と有機物の混在によって「フロック」が形成されることは周知の事項(例えば、以下の(4)i)を参照。)であるから、引用発明における「有機性廃棄物とメタン発酵汚泥とを混合する混合槽」内で「フロック」が発生していることは、当業者が当然に認識し得る事項であり、引き続く「メタン発酵汚泥処理槽」での「可溶化処理をより効果的に行う」ために、そのようなフロックを「解体」して「微細化」し「微生物の細胞壁を少しでも破壊して分解」しておくための「超音波処理装置」を「メタン発酵汚泥処理槽」の前段に設けることは、「メタン発酵汚泥処理槽」と同一の作用機序で可溶化を行う「可溶化処理装置20」の前段で、フロックを「解体」して「微細化」し「微生物の細胞壁を少しでも破壊して分解」しておくための「超音波処理装置」を使用する刊行物2に記載の技術手段に基づき、当業者が容易に成し得るものといえる。
なお、「フロック」を超音波処理で微細化しその後の処理を容易にすることも周知の事項(例えば、以下の(4)ii)を参照。)であることも勘案すれば、本願発明は引用発明に、刊行物2と周知例3と周知例4に代表される周知技術を適用することにより当業者が容易に成し得るものともいえる。
(4)周知技術
i)例えば刊行物2の(刊2-イ)(刊2-オ)や、以下の周知例1,2に記載されるように生物処理された「汚泥」は有機物を吸着する「フロック」を形成すること、さらに以下の周知例4の記載等から、汚泥と有機物の混在によって「フロック」が形成されることは周知の事項といえる。
○周知例1:特開2003-62421号公報
「ここで活性汚泥とは、多数の好気性微生物を含むフロックからなる生物性汚泥をいう。活性汚泥は有機物の吸着能や酸化能に優れ、また、沈降性も極めて高いため、廃水の生物学的処理に用いられるものである。」(【0034】)
○周知例2:特開平11-267700号公報
「活性汚泥は微生物の集団でフロックを形成しているので、有機物が吸着し微生物(細菌、カビ、藻類)は自己の繁殖に必要なエネルギーを得て炭酸ガスと水に酸化分解している。」(【0007】)
ii)例えば以下の周知例3,4の記載から、汚泥と有機物の混在によって生じる「フロック」を超音波処理で微細化し、その後の処理を容易にすることは周知技術といえる。
○周知例3:特開2006-35069号公報
「汚泥処理装置16は主として、機械的微細化装置(以下、微細化装置という)42と、その後段の二酸化塩素酸化装置(以下、酸化装置という)44で構成される。分配管38を流れる汚泥は、まず微細化装置42に供給される。微細化装置42は、汚泥を機械的に微細化処理することによって、汚泥のフロックを分散・微細化する装置である。」(【0019】)
「微細化装置42としては、例えば図2(A)に示すように、超音波式のものがある。超音波式の微細化装置42は、処理室60の内部に超音波発振器62を備え、この超音波発振器62から処理室60内の汚泥に超音波を発振する。これにより、汚泥のフロックが微細化され、さらに汚泥が破砕されて可溶化される。なお、超音波振動器62は、処理室60の壁に外側から当接するようにして設置してもよい。」(【0200】)
○周知例4:特開2003-71484号公報
「また、残りの活性汚泥は、超音波処理工程8に供給され、超音波照射により活性汚泥中に含まれるフロックと呼ばれる微生物や有機物などの集合を微細化し、さらに微生物自体の一部も破砕する。超音波処理工程8に供給する汚泥は、返送汚泥の他に、生物処理槽から直接供給することも可能である。」(【0006】)
「超音波処理工程8から排出された超音波処理汚泥4は、酸化処理工程9に供給され、酸化剤(例えばオゾンガス)を供給され、酸化分解処理される。このとき、あらかじめ汚泥は、超音波処理工程で微細化と破砕が起きているため、汚泥中の粒子の表面積が増し、添加された酸化剤が反応しやすくなると考えられる。」(【0007】)
(5)結言
したがって、上記相違点に係る本願発明の特定事項に想到することは、当業者の容易に推考し得るところということができる。
そして上記相違点に基づく本願発明の奏する作用効果も、刊行物1、2の記載事項、上記周知技術及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない

6.請求人の主張について
請求人は請求書において概ね以下のように主張する。
(1)「刊行物2に記載の技術は、有機性固形物を無機物にまで分解する技術であり、また好気性微生物の種類も限定されていない(刊行物2の段落0024)ことから、好気性微生物処理の基質(可溶化処理物)は、無機物に近づくほど好ましいと思料します。
一方、刊行物1には、メタン発酵汚泥処理(可溶化処理)、及びそれに続きメタン発酵処理により、有機性廃棄物をメタンと二酸化炭素にまで分解する技術が記載されています(刊行物1の請求項1?3、段落0037等)。このように、刊行物1に記載の技術は、メタン菌という特定の微生物による処理であることから、メタン発酵の基質(メタン発酵汚泥(可溶化)処理物)は、メタン菌の基質となり得る物質の割合が多いということが重要になります(刊行物1の段落0022)。すなわち、刊行物1においては、メタン発酵の基質となれないような、メタン発酵汚泥(可溶化)処理物の過剰な無機物化は避けるべきであります。
そうしてみますと、刊行物2に可溶化処理前に超音波処理を行うことが記載されているといっても、これは可溶化処理においてより無機物化することが好ましいために行われているのであって、メタン発酵汚泥(可溶化)処理物の過剰な無機物化を避けるべき刊行物1において、メタン発酵汚泥(可溶化)処理前に超音波処理を組み合わせようとはしないはずです。」
(2)「本願発明のように、超音波処理と汚泥処理とを組み合わせることにより、可溶化率が顕著に上昇します(本願図1の実施例1)。また、それだけではなく、超音波処理と汚泥処理を組み合わせて得られた可溶化物は、メタン発酵の基質として優れたものです(本願表1)。これらの効果は、上記従来技術からすると予想外の効果であります。」
以下に、これらについて判断する。

(1)について
刊行物2の(刊2-ウ)には「有機廃水Aが導入される曝気処理装置13における「好気性生物処理」とは、活性汚泥微生物である「好気性微生物」を用いた生物酸化によって有機廃水に含まれる有機物を、二酸化炭素や水などの無機物に分解する処理をいう。ここで用いられる「好気性微生物」としては、下水浄化のための活性汚泥法において従来から用いられているグラム陰性またはグラム陽性桿菌、例えばシュードモナス(Pseudomonas) 属およびバチルス(Bacillus)属が挙げられる。これらの接種菌体は、通常の下水浄化処理プラントから得られる。」と記載されており、「好気性微生物」を用いた「生物酸化」により「有機廃水に含まれる有機物を、二酸化炭素や水などの無機物に分解」されるものである。
他方で、「可溶化処理装置20」は、上記「好気性微生物」を用いた「生物酸化」がなされやすいように、「有機廃水に含まれる有機物」と「汚泥」でなる「フロック」を可溶化するものであって、その可溶化の程度は「曝気処理装置」で「好気性微生物」が「生物酸化」出来る有機物である必要があり、「二酸化炭素や水などの無機物に分解」することまでを意味しないことは技術常識に照らして当然のことといえる。
そうすると、引用発明の「メタン発酵汚泥処理槽」も刊行物2に記載された技術手段の「可溶化処理装置」でも可溶化の程度は共に後段の「メタン発酵槽」、「曝気処理装置」で微生物が「メタン発酵」、「生物酸化」できるような有機物の状態であるといえるから、両者の状態が異なるから引用発明への刊行物2に記載された技術手段の適用はできないとする請求人の主張は採用できない。

(2)について
この主張は、本願発明は「超音波処理と汚泥処理とを組み合わせること」による相乗効果を有するものである旨の主張と解される。
i)【図1】について
この主張は、本願明細書の【図1】をみると、たとえば「超音波照射時間(秒)」が「0秒」(超音波照射なし)と「2秒」とを比較すると、メタン発酵汚泥の添加なしに加熱する「比較例1」では、超音波を照射すると照射しない場合に比べて「1?2%」程度の「可溶化率」の向上がみられるのに対して、メタン発酵汚泥を添加して加熱する「実施例1」では超音波を照射すると照射しない場合に比べて「7%」程度の「可溶化率」の向上がみられる。このことから、超音波照射とメタン発酵汚泥の添加加熱を双方行うものは、メタン発酵汚泥の添加加熱のみを行うものと比較して、双方を行うことによる相乗効果が現れているとの主張と考えられる。
しかしながら、上記で述べたように、超音波の照射されたものは微細化し破砕までされることがあり、それにより表面積が増加し、後処理が容易にされるものであることから、上記「実施例1」の場合であっても、超音波の照射によって微細化され表面積が増加したものが、その後のメタン発酵汚泥の添加加熱により、より可溶化されやすくなったといえるものであり、上記「7%」程度の「可溶化率」の向上は十分に予測されるものであり、予測し得ない相乗効果が発現したものとはいえない。
ii)【表1】について
また、本願明細書【表1】(【0075】)には「メタン発生量の相対比」として、「比較例2-1」(超音波照射なし、メタン発酵汚泥の添加加熱なしでのメタン発酵)の場合を「100.0」とするとき、「比較例2-2」(超音波照射あり、メタン発酵汚泥の添加加熱なしでのメタン発酵)の場合は「105.2」、「実施例2」(超音波照射あり、メタン発酵汚泥の添加加熱ありでのメタン発酵)の場合は「109.9」であることが記載されている。
そして、超音波処理による効果を示す「比較例2-1」に対する「比較例2-2」の効果は「5.2」(=105.2-100.0)であり、超音波照射とメタン発酵汚泥の添加加熱の双方による効果を示す「比較例2-1」に対する「実施例2」の効果は「9.9」(=109.9-100.0)であるといえる。
ここで、「超音波照射とメタン発酵汚泥の添加加熱の双方」による「予測し得ない相乗効果」があるとすれば、それは「超音波照射による効果」と「メタン発酵汚泥の添加加熱による効果」の和よりも大きい値となっているはずである。
しかし、そのためには「メタン発酵汚泥の添加加熱」のみによる効果を示す実験例が必要だが、当該実験例は【表1】には見いだせない。
すると、【表1】には「メタン発酵汚泥の添加加熱」のみによる効果について示されていないから、【表1】から、本願発明が、上記「超音波照射とメタン発酵汚泥の添加加熱の双方」による「予測し得ない相乗効果」を有するとまではいえない。
さらに、仮に相乗効果があったとしても、それは上記i)で述べたように十分に予測されるものであり、予測し得ない相乗効果が発現したものとはいえない。
以上から、本願発明の効果は予測し得るものであり、予測し得ない相乗効果とまではいえず、請求人の主張は採用できない。

7.むすび
したがって、本願発明は、引用発明および刊行物2に記載された技術手段、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-10 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2007-75140(P2007-75140)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 真々田 忠博
中澤 登
発明の名称 有機性廃棄物の可溶化方法、及び有機性廃棄物の可溶化装置  
代理人 三枝 英二  
代理人 林 雅仁  
代理人 中野 睦子  
代理人 中野 睦子  
代理人 三枝 英二  
代理人 林 雅仁  

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