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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1281769
審判番号 不服2013-5470  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-25 
確定日 2013-11-14 
事件の表示 特願2008- 92862「海底光ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月22日出願公開、特開2009-244715〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯

本願は、平成20年3月31日の出願であって、平成24年5月10日、同年10月5日及び同年12月21日に手続補正がなされたが、平成25年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月25日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。

2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、平成24年12月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「縦添えされた金属製の扇形の分割個片によって構成されている円筒状の耐圧層と、
前記耐圧層内に挿通された単心または複数本の光ファイバ心線、又はテープ心線と、
前記耐圧層の外周に撚り合わせた抗張力線と、
前記抗張力線の外周を拘束する金属チューブと、
前記金属チューブの外周を被覆している絶縁層と、
を備え、
前記単心または複数本の光ファイバ心線、又はテープ心線の間隙に非弾性コンパウンドを充填し、
前記抗張力線の間隙に、水の侵入を防止すると共に、前記耐圧層を構成する前記分割個片の継ぎ目を押さえ付けるための23℃で0.5N/mm^(2)以上の弾性率である弾性コンパウンドを充填したことを特徴とする海底光ケーブル。」(以下「本願発明」という。)

なお、請求項1における「23度Cで0.5Nmm2」は、「23℃で0.5N/mm^(2)」の誤記と認められるので、上記のとおり認定した(下線は当審にて付した。以下、同じ。)。

3 刊行物の記載

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-305403号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 円筒状の耐圧層により形成された円筒状の耐圧殻と、
前記耐圧殻に対して抗張力を付与する抗張力線と、
前記抗張力線の外周を拘束する金属チューブと、
前記金属チューブの外周を被覆している絶縁層とを備え、
前記円筒状の耐圧殻の内部に、製造時に複数本の光フアイバ芯線、または光フアイバテープ芯線が挿通され、該光フアイバを保護するコンパウンドが充填されていることを特徴とする海底光ケーブル。
【請求項2】 前記コンパウンドは常温で流動性を示すジェリーによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の海底光ケーブル。
【請求項3】 前記コンパウンドのちょう度は常温で350?450とされていることを特徴とする請求項2に記載の海底光ケーブル。」

イ 「【0002】
【従来の技術】
光ファイバを伝送路とした海底光ケーブルの構造としては、例えば図4?図6に示すようなものが提案されている。これらの構造を以下に簡単に説明すると、1は光ファイバ芯線1aを複数本撚り合わせた光ファイバの集合体、……2は前記光ファイバユニット1を水圧から保護するための耐圧層、3はケーブルに加わる引張力に十分対応できるように、主として鋼線を撚り合わせて構成した抗張力体層である。
【0003】
この抗張力体層3は1層、または2層構造とされ、ケーブルの敷設時の負荷に十分耐える抗張力を付加し、かつ、障害に対してケーブルを保護する役目をする。4は前記抗張力体層3の結束と気密、中継器への給電路となる金属層で、通常、銅またはアルミ等からなる金属テープを縦添え、溶接して縮径(絞り込み)し、チューブ状に形成したものである。 また、5及び6は海水との絶縁を目的とする低密度と高密度のポリエチレン等で形成する絶縁層(シース)である。
【0004】
これらのケーブルのうち図4に示したものは、特に耐圧層2として銅、またはアルミ、その他SUS等の金属材料を溶接したパイプを用いたものであり、図5では耐圧層が内層の抗張力線3aと外層の抗張力線3bからなる2層に撚り合わされている抗張力線の競り合いによって、光フアイバユニットの外周に耐圧殻が実現するように構築されている。また、図6では耐圧層2として3個の扇形の鉄の分割個片を組み合わせたものを使用している。
【0005】
また、一般的に海底に敷設される光ケーブルの場合は、何らかの障害によってケーブル内に海水が侵入した場合、その高い海水圧によって侵入した海水がケーブルの長手方向に短時間で浸透し、ケーブルの通信機能を短い期間で遮断し大きな障害を残すことがないように、ケーブル内にはこのような走り水を阻止するためにコンパウンドが充填され、走水の滲出をできるだけ少なくするようにしている。」

ウ 「【0010】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の一実施例を示す海底光ケーブルを斜視図として示したもので、従来のケーブルと同一の部分は同一の名称を使用している。この図において10は中心部に挿通された複数本の光フアイバ芯線、11はこの光フアイバ芯線と同時に充填されたコンパウンド(ジェリーコンパウンド)である。光フアイバ芯線10は、予め数本の光フアイバ芯線を拡大図Eに示しているようにテープ状に拘束している光フアイバテープ芯線の形で供給することもできる。20は耐圧層を示し、本実施例では耐圧層20が3分割された扇形の個片によって構成されている。そして、この耐圧層20の外周には複数本の抗張力線30,30,・・を撚り巻きして耐圧層20を円筒状に固定している抗張力線30,30、・・はその外周を金属性チューブ層40で固めて、その外周には絶縁層50が押し出し成型機によって形成されている絶縁層の内層側50aは比較的低密度のポリエチレンで構成され、外層側50bは高密度のポリエチレンによって構成されている。
【0011】
図2はこのような光海底ケーブルを製造する際の、一つの方法を示した海底光ケーブルの集合機の説明図である。この図において、60は光ファイバ芯線10のサプライドラムである。61は上記した3分割固片を供給しているサプライドラムを示す。なお、耐圧層20を抗張力線の競り合い構造によって形成する場合は、サプライドラム61は不要になり、直接、次に抗張力線の撚り巻きが2層撚りで施される。
【0012】
62は前記した抗張力線30を集合する抗張力線集合機を示す。サプライドラム60から繰り出された光ファイバ芯線と、サプライドラム61から供給されている分割固片は抗張力線集合機62のホローシャフト62aを挿通し、集合ダイスと、常温で流動性を持っているコンパウンドを充填する充填部を兼用している集合充填装置63で一体化され、この集合充填装置63を通過した直後に抗張力線30、30が耐圧層の周辺部に巻き回される。……
【0013】
抗張力線集合機62の回転部分には前記抗張力線30、30・・・をドラム巻きした多数の抗張力線ドラム62b、62b、・・が回転可能に懸架されており、この各抗張力線ドラム62b、62b、・・から引き出された複数本の抗張力線30,30、・・が図示されていない目板で整合されながら、集合ダイス64において長さ方向に特定のピッチで撚り合わせ集合されるようになされている。
【0014】
集合ダイス64にはポンプ70を介して、例えば本出願人が先に提案した2液混合タイプのコンパウンドをタンク70a.70aから集合ダイス64に供給し、抗張力線の間隙部分に所定の圧力をかけながら コンパウンドを充填すると共に、抗張力線を撚りを加えながら巻き回し、抗張力体層も走水防止効果を持たせるようにしている。
【0015】
65は金属チューブ層40を形成するための金属テープサプライであり、66は金属テープを縦沿えしてパイプ状に形成し、溶接機66aによってその合わせ目を溶接し、縮径加工を施す金属チューブ層形成装置である。67は金属チューブ層の成形が終了したケーブルを巻き取る巻取ドラムである。長尺のケーブルの場合は、通常のこのドラムに巻き取ったケーブルが、絶縁層50を抗張力線の外周に積層するための押出成型機と、冷却ラインをタンデムに配置しているシース加工ラインに移送され、金属チューブ層40の外周に絶縁層50(a、b)が付加されて海底光ケーブルが完成することになる。
……
【0017】
複数本の光フアイバ芯線10を耐圧層内に挿通する方法は、上記したように光フアイバ芯線を個別に挿入する方法以外に、挿通する複数本の光フアイバ芯線を予め3分割個片の内周に所定数本づつジェリー等によって張り付けておき、この3分割個片を集合したときに複数本の光フアイバ芯線が耐圧層内に留まるようにすることもできる。
【0018】
また、複数本の光フアイバ芯線をそれぞれ独立に供給し、耐圧層内に充填されるジェリーと共に、上記集合充填部63の直前の位置まで細いパイプによって圧送して耐圧層内に挿通するようにすることも考えられる。
【0019】
なお、各抗張力線30,30,・・・の隙間にはコンパウンドが充填されるが、この隙間を埋めているコンパウンドpはケーブルの長手方向に充填部と、非充填部が交互に形成されるようにするためにコンパウンドの供給量が、ポンプの圧力またはコンパウンド制御部72によって制御される。
……
【0021】
上記二つの実施例のいずれの場合も、光フアイバ芯線と共に充填されるコンパウンド(ジェリー)の粘度が高くなりすぎると、ケーブルが屈曲したときに光フアイバの動きがコンパウンドによって阻害され、断線する危険が生じる。また、コンパウンドの粘度を低くすると光フアイバ芯線のスラック状態を保持できなくなるため、ケーブルの状態によっては長手方向のスラックにバラツキが生じ伝送損失に影響を与えるようになる。
【0022】
そこで、本発明に適応されるジェリーの粘度としては常温(25度C)で350?450程度とすることが好ましい。このようにして形成したケーブルを往復ベンド試験(所定長のケーブルの一端部を固定し他端部を左右に所定回数屈曲しながらケーブルの伝送特性、および機械的な強度特性を試験する)にかけて種種の特性を調べた結果、ケーブルの敷設/回収作業で受ける光学的/機械的なストレスに対しても海底ケーブルとして必要とされる諸条件を満足するものであることが判明した。」

エ 図1及び図2は次のものである。



(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-40406号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

ア 「2.特許請求の範囲
引張破断強度0.50Kg/cm^(2)以上、破断伸び250%以上の範囲内にあって、応力緩和試験より計算で求めたクリープ特性(ε_(t)/ε_(0))が測定時間60秒内に於て2.5以下であり、かつ、圧縮弾性率が50Kg/cm^(2)以下の範囲内にあるような特性を有する2液混合硬化タイプのポリウレタン系樹脂を光ファイバユニット周辺の空隙部分、およびケーブル抗張力体周辺の空隙部分に充填したことを特徴とする海底光ケーブル。」

イ 「下記第1表は、実施例1,2,3,4のコンパウンド組成物の機械的物性を示したものである。」(4頁左下欄2ないし3行)

ウ 第1表は次のものである。



4 引用発明

上記3(1)アないしエによれば、引用文献1には、

「円筒状の耐圧層により形成された円筒状の耐圧殻と、
前記耐圧殻に対して抗張力を付与する抗張力線と、
前記抗張力線の外周を拘束する金属チューブと、
前記金属チューブの外周を被覆している絶縁層とを備え、
前記円筒状の耐圧殻の内部に、製造時に複数本の光フアイバ芯線、または光フアイバテープ芯線が挿通され、該光フアイバを保護するコンパウンドが充填されている海底光ケーブルであって、
前記コンパウンドは常温で流動性を示すジェリーによって構成され、ちょう度は常温で350?450とされ、
耐圧層20が3分割された扇形の鉄の分割個片によって構成され、
耐圧層20の外周には複数本の抗張力線30、30、・・を撚り巻きし、
抗張力線の間隙部分に2液混合タイプのコンパウンドを充填し、抗張力体層も走水防止効果を持たせるようにした海底光ケーブル。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「円筒状の耐圧層」、「扇形の鉄の分割個片」、「抗張力線30、30、・・」、「撚り巻き」、「金属チューブ」、「絶縁層」、「光フアイバ芯線」、「光フアイバテープ芯線」及び「海底光ケーブル」は、それぞれ本願発明の「円筒状の耐圧層」、「金属製の扇形の分割個片」、「抗張力線」、「撚り合わせ」、「金属チューブ」、「絶縁層」、「光ファイバ心線」、「テープ心線」及び「海底光ケーブル」に相当する。

(2)引用発明の「分割個片」は、「円筒状の耐圧層」を構成するものであるから、「縦添えされ」るものといえ、この点で本願発明の「分割個片」と共通する。

(3)引用発明の「常温で流動性を示すジェリーによって構成され、ちょう度は常温で350?450」である「コンパウンド」は、本願発明の「非弾性コンパウンド」に相当する。

(4)引用発明の「光フアイバを保護するコンパウンド」を「複数本の光フアイバ芯線、または光フアイバテープ芯線が挿通され」た「円筒状の耐圧殻の内部」に充填することは、本願発明の「複数本の光ファイバ心線、又はテープ心線の間隙に非弾性コンパウンドを充填」することに相当する。

(5)引用発明の「走水防止効果を持たせるようにした」は、本願発明の「水の侵入を防止する」に相当し、引用発明の「2液混合タイプのコンパウンド」と本願発明の「弾性コンパウンド」とは、「コンパウンド」である点で共通する。

以上によれば、両者は、

「縦添えされた金属製の扇形の分割個片によって構成されている円筒状の耐圧層と、
前記耐圧層内に挿通された複数本の光ファイバ心線、又はテープ心線と、
前記耐圧層の外周に撚り合わせた抗張力線と、
前記抗張力線の外周を拘束する金属チューブと、
前記金属チューブの外周を被覆している絶縁層と、
を備え、
前記複数本の光ファイバ心線、又はテープ心線の間隙に非弾性コンパウンドを充填し、
前記抗張力線の間隙に、水の侵入を防止するコンパウンドを充填した海底光ケーブル。」

で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

本願発明では、弾性コンパウンドは、水の侵入を防止すると共に、耐圧層を構成する分割個片の継ぎ目を押さえ付けるためのものであり、23℃で0.5N/mm^(2)以上の弾性率であるのに対し、引用発明では、2液混合タイプのコンパウンドは、水の侵入を防止するためのものであり、弾性率が特定されていない点(以下「相違点」という。)。

6 判断

(1)相違点について

ア 本願明細書には、弾性コンパウンドの弾性率の特定について、

「一方、符号31で示されるコンパウンドについては、抵抗力が低すぎる場合には水走りを十分に防止することができないので、適度の抵抗力を有する弾性コンパウンドとした。具体的には、常温(23度C)で0.5Nmm2以上の弾性率とすることが好ましい。」(段落【0017】)

と記載されるにとどまり、本願発明において、弾性コンパウンドの弾性率を特定したことに、水走りを防止するために必要な設計上の適宜の範囲を定めた以上の意義は認められない。

イ そして、引用発明において、2液混合タイプのコンパウンドは、水の侵入を防止するために設けられるのものであって、そのために必要な抵抗力を設定することは当業者が当然に考慮すべき事項というべきところ、引用文献2(上記3(2)(特にウ)を参照。)に記載のように、海底光ケーブルにおいて、初期圧接弾性率が0.5N/mm^(2)(5kg/cm^(2))以上の2液混合タイプのコンパウンドが知られていることも参酌すると、引用発明において、2液混合タイプのコンパウンドの弾性率を23℃で0.5N/mm^(2)以上とすることは当業者が適宜なし得る設計上の事項である。また、このとき2液混合タイプのコンパウンドは、耐圧層を構成する分割個片の継ぎ目を押さえ付ける作用をも有するものと認められる。

ウ さらに、本願発明の「水の侵入を防止すると共に、前記耐圧層を構成する前記分割個片の継ぎ目を押さえ付けるための」という文言は、本願発明に係る「弾性コンパウンド」の使用目的についての主観的な認識を示すにとどまり、「物」の発明である本願発明について、その発明特定事項を限定する意義を有するものということはできない。

エ 上記アないしウを踏まえると、引用発明において本願発明の上記相違点に係る構成となすことは、当業者が容易になし得ることというべきである。

(2)本願発明の効果について

本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、引用発明及び引用文献2に記載の技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(3)審判請求書の主張について

請求人は、審判請求書において、本願発明は、分割個片内のコンパウンドの抵抗力を小さく設定して、光フアイバ心線に応力を与えて伝送特性を変化させる危険性を回避するとともに、23℃で0.5N/mm^(2)以上の弾性率である弾性コンパウンドによって、水の進入を防止することができ、分割個片の継ぎ目を弾性コンパウンドがブロックして押さえ付けるため、非弾性コンパウンドと接触する可能性を低減することができるので、異種材料が接触して変性する可能性を小さくすることができるという、引用文献1及び2には記載されていない効果を奏し得るものである旨主張するが、上記(1)及び(2)のとおりであって、採用できない。

7 むすび

したがって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-11 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2008-92862(P2008-92862)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 英一石原 徹弥  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 畑井 順一
服部 秀男
発明の名称 海底光ケーブル  
代理人 脇 篤夫  
代理人 中川 裕人  
代理人 岩田 雅信  
代理人 鈴木 伸夫  

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