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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1281791
審判番号 不服2010-29489  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-28 
確定日 2013-11-11 
事件の表示 特願2004-529873「吸入組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月4日国際公開,WO2004/017914,平成18年7月6日国内公表,特表2006-516531〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は,2003年8月21日(パリ条約による優先権主張 2002年8月21日,英国)を国際出願日とする出願であって,本願請求項1?13に係る発明は,平成22年12月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
乾燥粉末吸入組成物であって、
(a)ホルモテロール又は薬学的に許容できるその誘導体の粒子、及び
(b)70?120ミクロンのVMDと250ミクロン未満の直径を有するラクトース粒子の混合物であって、96重量%までの該ラクトース粒子が直径150ミクロン未満であり、6.5?24.5重量%の該ラクトース粒子が直径5ミクロン未満であることを特徴とする混合物
からなる組成物。」

2.引用刊行物

これに対して,当審において平成24年12月21日付けで通知した拒絶の理由に引用され,本件の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物であるInternational Journal of Pharmaceutics, 1999, Vol.182, p.133-144(以下,「引用文献1」という。)及び国際公開第02/45682号(以下,「引用文献2」という。)には,それぞれ,以下の事項が記載されている。なお,いずれの引用文献も英文のため訳文により記し,下線は当審が付した。

(1)引用文献1(International Journal of Pharmaceutics, 1999, Vol.182, p.133-144)(なお,「(R)」は,「R」の丸付き文字を表す。)

a.(標題)
「乾燥粉末処方からのサルブタモール硫酸塩の沈着に対する,微粒子ラクトースの粒径と添加順序の影響」

b.(要約欄)
「要約
66.5:1:1 w/wの比率の,粗粒子ラクトース(CL)(92.8 μm),サルブタモール硫酸塩(SS)(5.8 μm),及び,微粉化ラクトース(ML)(5 μm)又は中間サイズラクトース(IML)(15.9 μm)のいずれかからなる三成分混合物が,いくつかの成分の異なる混合順序を用いて調製された。加えて,CLとSS(67.5:1 w/w)からなる二成分混合物も,対照として調製された。ロタヘーラー(R)を用いて60及び90 l min^(-1)でエアロゾル化後,ツイン・ステージ・インピンジャーを用いてSSのインビトロの沈着が測定された。エアロゾル化されたSSとラクトースの両方の空気力学的粒径分布が,アンダーセン・カスケード・インパクターを用いて60 l min^(-1)で,さらに分析された。全ての三成分混合物は,60又は90 l min^(-1)のいずれかでのエアロゾル化後に,対照よりも有意に高い(分散分析,P<0.01)SSの微粒子画分(FPF)と微粒子用量(FPD)を生じさせた。MLを含む製剤は,いずれのエアロゾル化流量でも,IMLを含むものより有意に(P<0.05)高いSSのFPFとFPDを生じさせた。異なる混合順序は,MLを含む三成分混合物の60 l min^(-1)でのエアロゾル化後において,SSとラクトースの両方で,異なる沈着プロファイルを引き起こすことも示された。SSと混合する前に最初にMLとCLを混合することで調製した製剤は,組成に関しては同一の製剤であるが三成分の混合順序が異なるものに比べて,より高いSSのFPFとFPDを引き起こしたが,より低いラクトースのFPFであった。その一方,IMLを含む製剤は,混合順序にかかわらず,SSについて類似の沈着プロファイルを引き起こし,90 l min^(-1)でエアロゾル化したMLを含む製剤についても同様であった。これらの結果は,薬物沈着に対する混合順序の影響は,より低いエアロゾル化流量において,及び,添加される微粒子ラクトースの粒径の減少によって,より目立つようになる可能性があることを示す。」

c.(第134頁左欄第1行?同頁右欄第33行)
「1.序論
全ての乾燥粉末吸入器(DPI)は,吸入器具と,粉末処方とからなっている。肺深部浸透のためには,薬物は1?5 μmの空気力学的直径を有さなくてはならないことが一般的に認められている(Newman及びClarke,1983;Gonda,1990)。再現可能な投与量を与えるようにバルク貯槽から分配されること,又は,器具で使用される単位投与量を生産するのに自動充填機でうまく処理されるのを可能とすることの,いずれかのためには,粉末処方は十分に流動することも必要である。薬物粒子は凝集性が高く,流動特性が低いので,通常,より粗い担体粒子とともに混合され(Canderton,1992),そこでは,薬物は担体に接着し,秩序混合物(ordered mix)を形成するものと考えられている(hersey,1975)。薬物は,しばしば,粉末製剤中に低濃度で存在し,1:67.5 w/wの薬物の担体に対する比率は典型的である。吸入後,担体は,理想的には吸入器具に残留するか,又は,その大きな粒径(例えば,63?90μm)のために,口腔咽頭領域に沈着するべきである。それゆえ,担体からの薬物分離は,乾燥粉末エアロゾルからの薬物の全体の送達効率を決定する重要なものと考えられている(Ganderton 及びKassem,1992)。
多くの以前の研究が,DPIから送達される吸入薬物量について,粉末処方の操作によって,改善がなされたことを報告してきており,これらには,担体表面の平滑化(Ganderton,1992),担体の粒径の低減(Ganderton及びKassen,1992;Frenchら,1996;Steckel及びMuller,1997),及び,粉末処方における三成分材料の使用(Staniforth,1996)が含まれる。担体に粗粒子ラクトースを採用した粉末への微粉化ラクトースの添加についても,サルブタモール硫酸塩(Zengら,1996)と噴霧乾燥ウシ血清アルブミン(Lucasら,1998)の両方において,分散と脱凝集を改善することが見出された。それゆえ,薬物送達では,粗粒子ラクトース,微粒子ラクトース及び薬物からなる三成分混合物は,粗粒子ラクトース及び薬物のみを含む二成分混合物に比べて,下気道への薬物送達においてより効率的であるかもしれない。しかしながら,粉末処方への微粒子ラクトースの添加に関連して,少なくとも2つの潜在的な問題がある。第一に,微粒子ラクトースは,低い粉末の流動特性を生じさせるかもしれず,これは,処方中に粗い担体粒子を組み込んだ元々の理由の一つである。第二に,吸入では,添加された微粒子ラクトースのあるものは,末梢気道内への浸透能があるかもしれず,これは,特にラクトース不耐症の患者には,望ましくない。それゆえ,実質的に処方の流動特性への影響や過度な微粒子ラクトースの肺取り込みを伴わずに,下気道への薬物送達の効率を改善するため,三成分混合物は注意深く処方されるべきである。我々は,以前に,添加される微粒子ラクトース(15.9 μm)を最高9% w/wまで濃度増加させたのに伴って,サルブタモール硫酸塩の微粒子画分(FPF)が増加したにもかかわらず,添加微粒子ラクトースの濃度を0から1.5% w/wに増加させた時に,薬物FPFに最大幅の増加が起こったことを報告した(Zengら,1998)。本研究の目的は,三成分混合物における,添加される微粒子ラクトースの粒径及び三成分(粗粒子ラクトース,微粒子ラクトース及びサルブタモール硫酸塩)の混合順序が,60及び90 l min^(-1)でのエアロゾル化後の薬物のインビトロ沈着に対して及ぼす影響を調査することである。」

d.(第137頁右欄第13行?第138頁左欄第10行)
「3.結果
3.1 個々のバッチのラクトースの粒子径分布
本研究で採用された個々のバッチのラクトースの粒子径分布を図1に示す。粗粒子ラクトースは,90.8 μmの体積中央直径(VMD)で,2.2の幾何学的標準偏差(GSD)であり,このバッチのラクトースは空気処理を受けたにもかかわらず,約11%(v/v)の<20 μmの粒子と,7%(v/v)の<5 μmの粒子を含んだままであった。IMLは,15.9 μmのVMDで,1.3 μmのGSDを示し,また,60%(v/v)の<20 μmの粒子と,20%(v/v)の<5 μmの粒子を含むものだった。MLのVMDは5 μm(1.8 μmのGSD)で,全ての粒子は20 μmより小さかった。」

e.(第137頁図1)


図1.レーザー回折により測定された異なるバッチのラクトースの粒子径分布」
なお,図1中の記載の訳文については次のとおり。横軸は「直径(μm)」,縦軸は「累積%アンダーサイズ」。凡例は,上から「微粉化ラクトース」,「中間サイズラクトース」及び「粗粒子ラクトース」。

f.(第138頁表2)
「表2
ロタヘーラー(R)を用いて60 l min^(-1)で異なる処方をエアロゾル化した後のTIでのサルブタモール硫酸塩の沈着特性(平均±標準偏差,n=3?6)
?????????????????????????????????
処方 FPD(μg) FPF(%) 分散性(%) 放出(%)
?????????????????????????????????
対照 29.8±2.7 6.7±0.6 8.0±0.7 83.4±2.4
ML含有
A 61.0±4.6 14.7±1.1 19.8±1.5 74.4±0.8
B 35.8±2.0 9.1±0.5 11.6±0.6 78.4±2.5
C 42.2±2.4 10.7±0.6 14.1±0.8 76.1±2.3
IML含有
A’ 39.5±3.7 9.6±0.9 12.1±1.1 79.5±1.1
B’ 31.7±2.1 7.6±0.5 9.4±0.6 80.8±2.1
C’ 42.9±4.0 9.7±0.9 12.0±1.1 80.9±3.3
?????????????????????????????????」

g.(第139頁表3)
「表3
ロタヘーラー(R)を用いて90 l min^(-1)で異なる処方をエアロゾル化した後のTIでのサルブタモール硫酸塩の沈着特性(平均±標準偏差,n=3?6)
?????????????????????????????????
処方 FPD(μg) FPF(%) 分散性(%) 放出(%)
?????????????????????????????????
対照 47.5±1.3 10.6±0.3 13.2±0.4 80.4±2.1
ML含有
A 96.6±7.2 22.9±1.7 29.9±2.2 76.7±0.9
B 80.1±3.9 18.6±0.9 23.9±1.2 77.9±0.7
C 83.3±7.2 18.6±1.6 24.0±2.1 77.5±0.7
IML含有
A’ 54.4±3.7 13.3±0.9 16.6±1.1 80.0±3.1
?????????????????????????????????」

(2)引用文献2(国際公開第02/45682号)

a.(請求の範囲)
「【請求項10】
a)10 μmを超える平均直径を有する実質的に結晶質の粒子を,10 μm未満の平均直径を有する少なくとも部分的にアモルファスな粒子と混合する工程;
b)部分的な結晶化が生じるように,所定の期間,アモルファス粒子の結晶化を誘導し得る条件に該混合物を暴露する工程,
を包含する,粒子状サブストレートの製造方法。……
【請求項21】
薬学的に活性な薬剤を粒子状サブストレートと混合するさらなる工程を包含し,該混合する工程が好ましくは工程(b)の後に生じる,請求項10?20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記薬学的に活性な薬剤が,薬物,好ましくは請求項7に記載のサブストレートからなる群より選択され,該薬物が,ステロイド,ホルモン,治療タンパク質およびペプチド,β-2アゴニスト,気管支拡張薬,コルチコステロイドならびに抗ヒスタミン薬から選択される,請求項21に記載の方法。【請求項23】
前記薬物が,サルブタモール,テルブタリン,インスリン,カルシトニン,ヒト成長ホルモン,クロモリン,ベクロメタゾン,ブデソニド,モメタゾン,シクレソニド,トリアムシノロン,フルチカゾン,ロフレポニド,サルメテロール,ホルモテロールおよび薬学的に許容されるその塩,水和物および溶媒和物からなる群より選択される,請求項22に記載の方法。」

b.(第1頁第1?4行)
「 粒子吸入担体
発明の分野
本発明は,吸入を介する薬物送達の分野に関する。」

c.(第1頁第25行?第2頁第3行)
「担体粒子を有する多くの乾燥粉末吸入(DPI)デバイスは,最適な結果を与えるように1より多くのサイズ画分の混合物との共存下であり得る,ラクトースを利用する(Zengら(Zeng, X. M., Pandhal, K. H., Martin, G. P., Int. J. Pharmaceutics, vo. 197, 41-52, 2000))。乾燥粉末エアロゾル由来の二プロピオン酸ベクロメタゾンの成分均一性および分散性に対するラクトース担体の影響は,微粒子の添加,並びに,粗粒子ラクトース,微粒子ラクトース及び薬物が混合される順序が,薬物付着に影響することを示してきた。ラクトースに対するいくつかの代替物が検討され,例えば,空所を満たすためにラクトース表面上に付着した第三成分の使用が提案されている(Ganderton, D., Kassem, N. M., 1992. Dry powder inhaler. Ganderton, D.(編), Advances in Pharmaceutical Sciences. Academic Press, London 165-191頁)。」

d.(第5頁第19?33行)
「本発明の第2の側面による方法に関しては,10μmを超える平均直径を有する実質的に結晶質の粒子(以降粗粒子という)は,一般的にふるいにかけられるか,そうでなければ吸入による送達に適していない微粒子または大きい粒子から分離される。概して,粗粒子は,10 μm?500 μm,好ましくは20 μm?100 μm,最も好ましくは45 μm?90 μmの範囲の直径を有する。
ラクトースの粗粒子は,好ましくは,実質的に全ての微粒子を取り除くために,メッシュ上で1?60分間,市販の医薬品ラクトースをふるいにかけることによって調製される。
少なくとも部分的にアモルファスな粒子(以降,微粒子という)は,概して,約0.1 μm?約10 μm,好ましくは約1 μm?約8 μmの範囲の直径を有する。
好ましい実施形態において,少なくとも部分的にアモルファスな粒子は,ラクトースの水溶液を噴霧乾燥することによって調製される。」

3.対比・判断

(1)引用文献1に記載された発明

引用文献1には,「66.5:1:1 w/wの比率の,粗粒子ラクトース(CL)(92.8 μm),サルブタモール硫酸塩(SS)(5.8 μm),及び,微粉化ラクトース(ML)(5 μm)又は中間サイズラクトース(IML)(15.9 μm)のいずれかからなる三成分混合物が,いくつかの成分の異なる混合順序を用いて調製」された「乾燥粉末処方」について記載されており(摘記a及びb),これら調製された乾燥粉末処方の中で,「MLを含む製剤」が,「いずれのエアロゾル化流量でも,IMLを含むものより有意に(P<0.05)高いSSのFPFとFPDを生じさせた」こと,及び,60 l min^(-1)でのエアロゾル化後では,この「MLを含む製剤」の中でも,「SSと混合する前に最初にMLとCLを混合することで調製した製剤は,組成に関しては同一の製剤であるが3成分の混合順序が異なるものに比べて,より高いSSのFPFとFPDを引き起こしたが,より低いラクトースのFPFであった」ことについても記載されている(摘記b)。
また,摘記a及びcからみて,引用文献1は,「乾燥粉末吸入器(DPI)」で用いる「乾燥粉末処方」に関するものであることが明らかである。
さらに,引用文献1では,調製した「粗粒子ラクトース(CL)」については,「90.8 μmの体積中央直径(VMD)」で「7%(v/v)の<5 μmの粒子を含んだまま」であることが記載されるとともに(摘記d),図1に示される粒径分布からみて,直径190 μm付近で累積%アンダーサイズが100%に達し,直径150 μmの累積%アンダーサイズがおよそ85%であるものと読み取れる(摘記e)。また,調製した「微粉化ラクトース(ML)」については,「VMDは5 μm」であり「全ての粒子は20 μmより小さ」いことが記載されている(摘記d)。
これらのことから,引用文献1には,「乾燥粉末吸入器で用いる乾燥粉末処方であって,66.5:1:1 w/wの比率の粗粒子ラクトース(CL)(92.8 μm),サルブタモール硫酸塩(SS)(5.8 μm),及び,微粉化ラクトース(ML)(5 μm)からなる三成分混合物のものであり,前記粗粒子ラクトースは,90.8 μmのVMDで7%(v/v)の<5 μmの粒子を含み,かつ,直径190 μm付近で累積%アンダーサイズが100%に達し,直径150 μmの累積%アンダーサイズがおよそ85%であるものであり,前記微粉化ラクトースは,VMDが5 μmであり,全ての粒子は20 μmより小さいものであって,サルブタモール硫酸塩と混合する前に最初に微粉化ラクトースと粗粒子ラクトースを混合することで調製した乾燥粉末処方」(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比

本願発明と引用発明とを比較すると,引用発明における「乾燥粉末吸入器で用いる乾燥粉末処方」は,本願発明における「乾燥粉末吸入組成物」に相当し,また,引用発明において,「最初に微粉化ラクトースと粗粒子ラクトースを混合する」ことで得た混合物(以下,便宜的に「ML+CL混合物」という。)は,本願発明における「ラクトース粒子の混合物」に相当する。
また,微粒子ラクトースは,「全ての粒子は20 μmより小さいもの」であり,粗粒子ラクトースは,「直径190 μm付近で累積%アンダーサイズが100%に達」するものであるから,それらが混合された「ML+CL混合物」に含まれるラクトース粒子は,「250ミクロン未満の直径」を満足するものである。
さらに,前記「ML+CL混合物」は,VMDが90.8 μmの粗粒子ラクトースと,VMDが5 μmの粗粒子ラクトースとを,66.5:1 w/wの比率で混合したものであるから,「ML+CL混合物」のVMDは,「70?120ミクロン」の範囲内に入ることは明らかである。
加えて,「VMDが5 μm」であることから体積の半分(すなわち,50% (v/v))を5μm未満の粒子が占めているといえる微粒子ラクトースを,「<5 μmの粒子」が「7%(v/v)」である粗粒子ラクトースに対して加えるのであるから,「ML+CL混合物」における「<5 μmの粒子」は「7%(v/v)」から低下することはなく,重量と体積とは比例関係にあることを考慮すれば,「ML+CL混合物」における「直径5ミクロン未満」のラクトース粒子の重量%も7%から低下することはない。また,そのような粗粒子ラクトース66.5に対して微粒子ラクトースが1の比率で混合されたところで,「直径5ミクロン未満」の粒子が「24.5重量%」を超えることもない。
そして,直径150 μmの累積%アンダーサイズがおよそ85%の粗粒子ラクトース66.5に対して,微粒子ラクトースが1だけ加えられた程度では,「直径150ミクロン未満」のラクトース粒子が96重量%を超えることがないのも明らかである。
そうすると,前記「ML+CL混合物」は,本願発明における「(b)70?120ミクロンのVMDと250ミクロン未満の直径を有するラクトース粒子の混合物であって、96重量%までの該ラクトース粒子が直径150ミクロン未満であり、6.5?24.5重量%の該ラクトース粒子が直径5ミクロン未満であることを特徴とする混合物」に該当するといえる。
したがって,本願発明と引用発明は,ともに,

「乾燥粉末吸入組成物であって、
(a)有効成分の粒子、及び
(b)70?120ミクロンのVMDと250ミクロン未満の直径を有するラクトース粒子の混合物であって、96重量%までの該ラクトース粒子が直径150ミクロン未満であり、6.5?24.5重量%の該ラクトース粒子が直径5ミクロン未満であることを特徴とする混合物
からなる組成物。」

であることで一致し,以下の点で相違している。

[相違点]本願発明では,有効成分が,「ホルモテロール又は薬学的に許容できるその誘導体」であるのに対し,引用発明では,「サルブタモール硫酸塩」である点。

(3)検討

ア.相違点について

引用文献1には,「DPIから送達される吸入薬物量」についての「以前の研究」に関し,「担体に粗粒子ラクトースを採用した粉末への微粉化ラクトースの添加についても,サルブタモール硫酸塩(……)と噴霧乾燥ウシ血清アルブミン(……)の両方において,分散と脱凝集を改善することが見出された。」(摘記c)と記載されているから,DPI(乾燥粉末吸入器)用の乾燥粉末処方おける,粗粒子ラクトースへの微粉化ラクトースの添加の技術は,サルブタモール硫酸塩に限ったものではなく,噴霧乾燥ウシ血清アルブミンといった他の薬物に適用できるものとして記載されているといえる。また,引用文献1には,前記記載に続けて,「それゆえ,薬物送達では,粗粒子ラクトース,微粒子ラクトース及び薬物からなる三成分混合物は,粗粒子ラクトース及び薬物のみを含む二成分混合物に比べて,下気道への薬物送達においてより効率的であるかもしれない。」(摘記c)と記載され,当該記載以降しばらくは,特に有効成分の化合物名を具体的に特定することなく「薬物」という用語を用いて,三成分混合物についての特徴及び課題について記載していることから,当業者には,三成分混合物の流動特性や薬物送達に関する特性は,サルブタモール硫酸塩に限られたものではなく,乾燥粉末吸入される同様の薬物に対しても適用できるものとして理解できる。そして,こうした文脈の中で,引用文献1の論文で報告される「本研究」の目的が述べられていることや,その内容が,技術的にサルブタモール硫酸塩に特有の課題であるとも解されないことを踏まえると,当業者であれば,引用発明についても,サルブタモール硫酸塩だけでなく,乾燥粉末吸入される同様の薬物に対しても適用できるものとして理解できる。
この点については,引用文献2においても,背景技術として,乾燥粉末吸入用の「粗粒子ラクトース,微粒子ラクトース及び薬物」の混合物に,薬物として二プロピオン酸ベクロメタゾンが適用された旨が記載されており(摘記c),これも,また,三成分混合物の技術がサルブタモール硫酸塩に限られない証左といえ,そして,上記の理解を支持するものである。
一方,引用文献2には,「吸入を介する薬物送達」において用いられる「粒子吸入担体」について(摘記b),「a)10 μmを超える平均直径を有する実質的に結晶質の粒子を,10 μm未満の平均直径を有する少なくとも部分的にアモルファスな粒子と混合する工程」を包含する「粒子状サブストレートの製造方法」に関する発明が記載されており(摘記a),また,工程a)の後に行われることが明らかな工程b)の後に生じることが好ましいものとして「薬学的に活性な薬剤を粒子状サブストレートと混合するさらなる工程」が包含されることが記載されるとともに,薬物としては,サルブタモールと並列してホルモテロール等が挙げられている(摘記a),さらに,引用文献2には,「実質的に結晶質の粒子」の具体例としては,「最も好ましくは45 μm?90 μmの範囲の直径を有する」ような「ラクトースの粗粒子」が,また,「少なくとも部分的にアモルファスの粒子」の具体例としては,「ラクトース」から調製された,「好ましくは約1 μm?約8 μmの範囲の直径を有する」ような「微粒子」が,それぞれ,記載されている(摘記d)。
これら引用文献2の記載によれば,粗粒子のラクトースと微粒子のラクトースとが混合されてなる粒子状サブストレートに薬物を混合することで得られる吸入用の組成物,すなわち,三成分混合物,における薬物として,ホルモテロールがサルブタモール等と同様に適用できるものであることが,本願優先日前に当業者に理解されていたものと認められる。
そうすると,上述のように,サルブタモール硫酸塩だけでなく,乾燥粉末吸入される同様の薬物に対しても適用できるものとして理解できる引用発明において,有効成分のサルブタモール硫酸塩に代えて,引用文献2に記載のように,吸入用の三成分混合物に使用される薬物としてサルブタモール硫酸塩と同様に適用できるものとして当業者に理解されていた,ホルモテロールを採用することは当業者が容易になし得たことである。

イ.効果について

引用文献1には,乾燥粉末吸入器に用いられる粉末処方について,「再現可能な投与量を与えるようにバルク貯槽から分配されること,又は,……の,いずれかのためには,粉末処方は十分に流動することも必要である。」(摘記c)と記載されていることから,引用発明においても,再現可能な投与量,すなわち,不変の投与量とすることが念頭に置かれていると理解できる。また,引用発明の乾燥粉末処方についてのFPD(微粒子用量)及びFPF(微粒子画分)等の測定結果は,「標準偏差」と共に記載されており(摘記f及びgにおける「処方A」),この「標準偏差」は,本願明細書でいう「バラツキ」又は「均一」性の程度を示すものの一つとして,当業者に周知の指標である。
したがって,引用発明においても,乾燥粉末処方におけるFPDやFPFは,バラツキが無く,均一なものとすることが記載されているに等しい。
そして,本願明細書をみても,本願発明の用量均一性が,引用文献1から予測できない程の顕著なものであるとも認められない。

ウ.請求人の主張について

請求人は,平成25年5月27日提出の意見書において,概略,サルブタモールは,ホルモテロールほど強い吸入薬剤ではないので,ホルモテロールの8.3?16.7倍の量で使用されるが,ホルモテロールは,担体に対する量が非常に少ないため薬剤の偏在が従来の分散方法によってもなかなか解消されない等の,サルブタモールとは異なる独自の難題を抱えているものであるから,このような独自の難題を解決しようとするとき,当業者は,そうした難題を有さないサルブタモールがどのように製剤されるかなど考えない旨を主張する。
しかしながら,引用発明が,サルブタモール硫酸塩だけでなく,乾燥粉末吸入される同様の薬物に対しても適用できるものとして理解できること,及び,ホルモテロールが,三成分混合物における薬物として,サルブタモール等と同様に適用できるものであることは,上記アの項目で述べたとおりである。
また,請求人の主張する「難題」とは,薬物の均一性について,ホルモテロールで要求される程度がサルブタモールよりも高いことをいうに過ぎず,サルブタモールにおける均一性向上の技術が,ホルモテロールにおいて適用できない技術的理由を主張するものではないし,当業者であれば,むしろ,薬物等用量の均一性が向上する技術があれば,ホルモテロールに限らず,乾燥粉末処方において同様の課題を解決する技術を積極的に参照すると考えるのが自然である。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり,本願発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-20 
結審通知日 2013-06-21 
審決日 2013-07-02 
出願番号 特願2004-529873(P2004-529873)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 中村 浩
大久保 元浩
発明の名称 吸入組成物  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 中田 隆  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
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