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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10G
管理番号 1281792
審判番号 不服2011-18666  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-30 
確定日 2013-11-11 
事件の表示 特願2006-509051「フィッシャー・トロプシュワックスからの基油の異性化/デヘイジング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月23日国際公開、WO2004/081154、平成18年 9月 7日国内公表、特表2006-520428〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
この出願は、2004年3月3日(パリ優先権による優先権主張:2003年3月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年3月31日付けの拒絶理由通知に対して同年7月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年6月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、当審において平成24年8月9日付けで審尋がされ、同年11月12日に回答書が提出され、平成25年1月21日付けで拒絶理由が通知され、同年4月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである

第2 本願発明
平成25年4月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載によれば、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は以下のとおりである。

「(a)フィッシャー・トロプシュ合成に由来し、750°F(399℃)未満の初期沸点と900°F(482℃)より高い最終沸点を有するパラフィン系供給原料を、軽質潤滑剤基油画分と重質画分に分離し;
(b)軽質潤滑剤基油画分を中細孔サイズのモレキュラーシーブ触媒上で水素化異性化条件下で水素化異性化して、130より大きい粘度指数を有し、-9℃未満である目標流動点以下の流動点を有する異性化済み軽質潤滑剤基油を生成し、重質画分を中細孔サイズのモレキュラーシーブ触媒上で水素化異性化条件下で水素化異性化して、-9℃未満である目標流動点以上の流動点と0℃未満である目標曇点より高い曇点を有し、5重量%未満のワックスを含む異性化済み重質画分を生成し、ここで、重質画分に対する水素化異性化条件が、異性化済み重質画分中にこの5重量%未満のワックスが残存するように制御され;そして
(c)異性化済み重質画分をデヘイジングして、140より大きい粘度指数を有し、-9℃未満である目標流動点以下の流動点と0℃未満である目標曇点以下の曇点を有する重質潤滑剤基油を提供し、ここで、重質潤滑剤基油の粘度指数が、工程(b)において5重量%未満のワックスが接触除去されるまで重質画分に対して水素異性化を行うときに得られる異性化済み重質画分の粘度指数よりも高くなる
諸工程を含む、潤滑剤基油を製造する方法。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
平成25年1月21日付けで当審が通知した拒絶理由は、「本願発明1?29は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、刊行物1として以下のものが提示されている。

刊行物1:国際公開第2002/046333号

第4 当審の判断
当審は、本願発明1は、上記拒絶理由に記載した理由によって拒絶をすべきものと判断する。
以下、詳述する。

1.刊行物に記載された事項
上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ASTM D2887で測定して1150°Fより高い温度で95%ポイントを有する一番目の画分およびASTM D2887で測定するとき1150°F未満で95%ポイントを有する二番目の画分を得て;
b)当該一番目の画分を溶媒脱ロウ条件で処理して115以上の粘度指数(VI)を持つ潤滑油ベース原料を得て;そして
c)当該二番目の画分を接触脱ロウ条件で処理して工程b)の潤滑油ベース原料の粘度より小さな粘度を持つ潤滑油ベース原料を得る
ことを含む、潤滑油ベース原料を調製する方法。
・・・
【請求項3】
当該一番目の画分を、溶媒脱ロウに次ぐ接触脱ロウおよび接触脱ロウに次ぐ溶媒脱ロウからなる群から選択する接触脱ロウおよび溶媒脱ロウを行うことを更に含む、請求項1の方法。
【請求項4】
当該接触脱ロウプロセスが水素化異性化脱ロウプロセスである、請求項3の方法。
【請求項5】
当該水素化異性化脱ロウプロセスが完全水素化異性化処理プロセスである、請求項4の方法。
【請求項6】
当該接触脱ロウ処理プロセスが水素化異性化処理プロセスである、請求項1の方法。
【請求項7】
当該水素化異性化脱ロウプロセスが完全水素化異性化脱ロウプロセスである、請求項6の方法。
【請求項8】
少なくとも当該一番目および当該二番目の画分の一部は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物、・・からなる群から由来するものである、請求項1の方法。
【請求項9】
当該一番目および当該二番目の画分の少なくとも一つはフィッシャー・トロプシュ合成生成物から由来する、請求項8の方法。
【請求項10】少なくとも当該潤滑油ベース原料の一つは流動点/曇り点の差が30℃未満である、請求項1の方法。
・・・
【請求項13】
-15および-40℃の間の流動点、115より上の粘度指数、-10℃未満の曇り点および300ppm未満の硫黄含量を有する、請求項1に記載のプロセスから製造された潤滑油ベース原料。」(第26頁1行?第27頁12行)
1b:「本明細書で用いる“一連の潤滑油ベース原料中の炭化水素”は一連の潤滑油中に存在する沸点を有する炭化水素類(即ち、650および1200°Fの間)である。」(第5頁30?31行)
1c:「溶媒脱ロウおよび接触イソ脱ロウ工程用の原料油
主にパラフィン類およびイソパラフィン類を含む炭化水素原料油で1150°F未満にて95%ポイントのものはいずれも接触脱ロウに用いることができる。主にパラフィン類およびイソパラフィン類を含む炭化水素原料油で1150°Fより上にて95%ポイントのものはいずれも溶媒脱ロウに用いることができる。一つの実施態様では、一方または両方の画分(1150°F+および1150°F-画分)は少なくとも一部はフィシャー・トロプシュ合成から由来する。」(第6頁1?7行)
1d:「原料油は本プロセスに供される前に水素化精製および/または水素化分解プロセスで処理してもよい。・・・
適した原料の更なる例には軽油、潤滑油原料、合成油およびフィッシャー・トロプシュ合成で生産されるロウのようなロウ状留出物原料、・・などを含む。」(第6頁23?31行)
1e:「一般的に約0℃、より普通には約10℃より高い流動点を持つ高度のパラフィン性原料は同様に当該発明のプロセスで使用するのに適している。そのような原料はパラフィン性炭素を約70%より多く、幾つかの実施態様では約90%より多くのパラフィン性炭素を含有できる。」(第7頁15?19行)
1f:「より高い沸点画分、例えば当該1150°F+画分を従来の溶媒脱ロウ工程で脱ロウして高分子量n-パラフィン類を除去する。回収した脱ロウ生成物または脱ロウ油は減圧下で分画して異なる粘度段階のパラフィン性潤滑油画分を生産するか、接触脱ロウ画分と直接混合する。高ロウ含有1150°F+原料油(フィッシャー・トロプシュプロセスからのように50%より多いロウを含有する)は好ましくはまず水素化異性化脱ロウを通して加工する。」(第9頁16?22行)
1g:「溶媒脱ロウ処理は製品の流動点および曇り点をほぼ同じ値まで低下させる。」(第10頁20?21行)
1h:「約1150°Fより高で95%ポイントを持つフィッシャー・トロプシュ原料(極めて好ましくは粘度指数が115より大であるもの)は好ましくは先ずパラフィン類の異性化(水素化異性化脱ロウ)、次いで溶媒脱ロウが関わる作業工程の組合せで好ましくは処理すべきである。好ましくは、当該水素化異性化脱ロウは完全水素化異性化脱ロウプロセスである。約1150°Fより低で95%ポイントであるフィッシャー・トロプシュ原料は接触脱ロウのみで処理でき、好ましくは接触脱ロウを達成する水素化異性化脱ロウ(極めて好ましくは完全水素化異性化脱ロウ)を用いる。
溶媒脱ロウおよび接触脱ロウは依然として僅かなロウを残す。」(第13頁28行?第14頁4行)
1i:「当該潤滑油ベース原料および/または潤滑油原料組成物は好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも115、極めて好ましくは140以上の粘度指数(温度での変化に対する粘度変化の抵抗の尺度)を有する。」(第19頁3?5行)
1j:「(実施例)
実施例1:潤滑油ベース原料組成物の形成
一連の水素化異性化脱ロウ処理触媒を調製し試験を行った。当該目的は流動点-曇り点の差を最小限にする方法を見出すことである。0.25および10グラムの間の触媒を管状の反応器に充填し、水素で還元し、種々のロウ状潤滑油につき評価した。本研究から流動点-25℃と0℃の間の流動点を有する潤滑油ベース原料を生じた結果を選び出した。全ての触媒は完全または部分的のいずれかの水素化異性化脱ロウ処理に有効であることが知られているゼオライトおよびモレキュラーシーブを含有していた。試験をした触媒には以下の構造物がそれだけの相または組合せのどちらかが含まれている:SSZ-20、-25、-28、-31、-32、-41、-43および-54;SAPO-11,31および-41;ZSM-5、-11、-12、-23および-48;モルデナイト、Ferrerite、Beta、SUZ-4およびEU-1。」(第21頁25行?第22頁3行)
1k:「50%より多いロウ含量を有し、約1150°Fより上で95%ポイントを有するフィッシャー・トロプシュ原料(および115より高い粘度指数値のベース原料を生成するものが極めて好ましい)は好ましくは先ず当該パラフィン類の異性化(水素化異性化脱ロウ)、次いで溶媒脱ロウを含む組合せ操作で処理する。好ましくは、当該水素化異性化脱ロウは完全水素化異性化脱ロウプロセスである。約1150°Fより下で95%ポイントを有するフィッシャー・トロプシュ原料は接触脱ロウでのみ処理、好ましくは接触脱ロウを達成するには水素化異性化脱ロウ(極めて好ましくは完全水素化異性化脱ロウ)を用いて処理できる。」(第24頁15行?25頁3行)


2.刊行物に記載された発明
刊行物1の摘示1aの【請求項1】には、
「a)ASTM D2887で測定して1150°Fより高い温度で95%ポイントを有する一番目の画分およびASTM D2887で測定するとき1150°F未満で95%ポイントを有する二番目の画分を得て;
b)当該一番目の画分を溶媒脱ロウ条件で処理して115以上の粘度指数(VI)を持つ潤滑油ベース原料を得て;そして
c)当該二番目の画分を接触脱ロウ条件で処理して工程b)の潤滑油ベース原料の粘度より小さな粘度を持つ潤滑油ベース原料を得る
ことを含む、潤滑油ベース原料を調製する方法。」
が記載されている。
また、上記方法は、刊行物1の記載より、以下のとおりのものであると認められる。

ア.a)工程の原料に関して
「当該一番目および当該二番目の画分の少なくとも一つはフィッシャー・トロプシュ合成生成物から由来する」(摘示1aの【請求項9】)との記載、及び
「溶媒脱ロウおよび接触イソ脱ロウ工程用の原料油
主にパラフィン類およびイソパラフィン類を含む炭化水素原料油で1150°F未満にて95%ポイントのものはいずれも接触脱ロウに用いることができる。主にパラフィン類およびイソパラフィン類を含む炭化水素原料油で1150°Fより上にて95%ポイントのものはいずれも溶媒脱ロウに用いることができる。一つの実施態様では、一方または両方の画分(1150°F+および1150°F-画分)は少なくとも一部はフィシャー・トロプシュ合成から由来する。」との記載(摘示1c)より、
上記a)工程の原料は、「フィッシャー・トロプシュ合成生成物から由来する」、「主にパラフィン類あるいはイソパラフィン類を含む炭化水素原料油」である。

イ.b)工程の「一番目の画分」の「溶媒脱ロウ」に関して
「当該一番目の画分を・・・接触脱ロウに次ぐ溶媒脱ロウからなる・・・接触脱ロウおよび溶媒脱ロウを行うことを更に含む」との記載(摘示1aの【請求項3】)、
「高ロウ含有1150°F+原料油・・・は好ましくはまず水素化異性化脱ロウを通して加工する」との記載(摘示1f)、
「約1150°Fより高で95%ポイントを持つフィッシャー・トロプシュ原料・・・は好ましくは先ずパラフィン類の異性化(水素化異性化脱ロウ)、次いで溶媒脱ロウが関わる作業工程の組合せで好ましくは処理すべきである。」との記載(摘示1h)、及び、
「約1150°Fより上で95%ポイントを有するフィッシャー・トロプシュ原料・・・は好ましくは先ず当該パラフィン類の異性化(水素化異性化脱ロウ)、次いで溶媒脱ロウを含む組合せ操作で処理する。」(摘示1k)との記載
より、上記b)工程において、「一番目の画分」は、「水素化異性化脱ロウ」についで「溶媒脱ロウ」がされるものである。

ウ.c)工程の「二番目の画分」の「接触脱ロウ」に関して
「当該接触脱ロウ処理プロセスが水素化異性化処理プロセスである、請求項1の方法。」との記載(摘示1aの【請求項6】)より、
c)工程の「接触脱ロウ」は、「水素化異性化」「脱ロウ」である。

よって、刊行物1には、
「a)フィッシャー・トロプシュ合成生成物に由来する、主にパラフィン類あるいはイソパラフィン類を含む炭化水素原料油から、ASTM D2887で測定して1150°Fより高い温度で95%ポイントを有する一番目の画分およびASTM D2887で測定するとき1150°F未満で95%ポイントを有する二番目の画分を得て;
b)当該一番目の画分を、水素化異性化脱ロウについで溶媒脱ロウして潤滑油ベース原料を得て;そして
c)当該二番目の画分を水素化異性化脱ロウして潤滑油ベース原料を得ることを含む、
潤滑油ベース原料を調製する方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・判断
ア.対比
本願発明1と引用発明を対比する。

a.
引用発明の「フィッシャー・トロプシュ合成生成物に由来する、主にパラフィン類あるいはイソパラフィン類を含む炭化水素原料油」は、本願発明1の「フィッシャー・トロプシュ合成に由来」する「パラフィン系供給原料」に相当する。
また、引用発明の「一番目の画分」は、その沸点範囲がより高い画分であるので「重質」であり、また、「二番目の画分」は、その沸点範囲がより低い画分であるので「軽質」であるといえるので、本願発明1の「重質画分」と「軽質潤滑剤基油画分」に相当する。
よって、引用発明の「a)フィッシャー・トロプシュ合成生成物に由来する、主にパラフィン類あるいはイソパラフィン類を含む炭化水素原料油から、ASTM D2887で測定して1150°Fより高い温度で95%ポイントを有する一番目の画分およびASTM D2887で測定するとき1150°F未満で95%ポイントを有する二番目の画分を得て」との工程は、本願発明1の「(a)フィッシャー・トロプシュ合成に由来し、750°F(399℃)未満の初期沸点と900°F(482℃)より高い最終沸点を有するパラフィン系供給原料を、軽質潤滑剤基油画分と重質画分に分離し」との工程における、「(a)フィッシャー・トロプシュ合成に由来するパラフィン系供給原料を、軽質潤滑剤基油画分と重質画分に分離」する工程に相当する。

b.
引用発明の「c)当該二番目の画分を水素化異性化脱ロウして潤滑油ベース原料を得る」工程は、「当該二番目の画分」は上記のとおり「軽質潤滑剤基油画分」に相当するので、本願発明1の「(b)」工程において、「軽質潤滑剤基油画分を」「水素化異性化条件下で水素化異性化」して「異性化済み軽質潤滑剤基油」「を生成」する工程に相当する。
さらに、引用発明の「b)当該一番目の画分を、水素化異性化脱ロウ」することは、「当該一番目の画分」は、上記のとおり「重質画分」に相当するので、本願発明1の「(b)」工程において、「重質画分を」「水素化異性化条件下で水素化異性化して」「異性化済み重質画分を生成」することに相当する。

c.
引用発明の「b)当該一番目の画分を、・・・溶媒脱ロウして潤滑油ベース原料を得」る工程における「溶媒脱ロウ」は、刊行物1の摘示1gには、「溶媒脱ロウ処理は・・曇り点を・・・低下させる。」との記載があること、及び本願発明の詳細な説明段落【0054】には、「デヘイジング」の処理として「溶媒脱蝋」が挙げられていることから見て、本願発明1の「異性化済み重質画分をデヘイジング」することに相当する。

よって、引用発明と本願発明1は、
「(a)フィッシャー・トロプシュ合成に由来し、パラフィン系供給原料を、軽質潤滑剤基油画分と重質画分に分離し;
(b)軽質潤滑剤基油画分を水素化異性化条件下で水素化異性化して、異性化済み軽質潤滑剤基油を生成し、重質画分を水素化異性化条件下で水素化異性化して、および異性化済み重質画分を生成し;そして
(c)異性化済み重質画分をデヘイジングして、重質潤滑剤基油を提供する
諸工程を含む、潤滑剤基油を製造する方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:パラフィン系供給原料が、本願発明1は「750°F(399℃)未満の初期沸点と900°F(482℃)より高い最終沸点を有する」のに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点

相違点2:軽質潤滑剤基油画分及び重質画分の水素化異性化脱ロウが、本願発明1は「中細孔サイズのモレキュラーシーブ触媒上で」行われるのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点

相違点3:(b)工程において得られる異性化済み軽質潤滑剤基油が、本願発明1は「130より大きい粘度指数を有し、-9℃未満である目標流動点以下の流動点を有する」のに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点

相違点4:(b)工程の重質画分を水素化異性化する工程において、本願発明1における生成された異性化済み重質画分は「-9℃未満である目標流動点以上の流動点と0℃未満である目標曇点より高い曇点を有し、5重量%未満のワックスを含む」ものであり、さらに、「重質画分に対する水素化異性化条件が、異性化済み重質画分中にこの5重量%未満のワックスが残存するように制御され」ているのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点

相違点5:(c)工程において得られる重質潤滑剤基油は、「140より大きい粘度指数を有し、-9℃未満である目標流動点以下の流動点と0℃未満である目標曇点以下の曇点を有する」、「粘度指数が、工程(b)において5重量%未満のワックスが接触除去されるまで重質画分に対して水素異性化を行うときに得られる異性化済み重質画分の粘度指数よりも高くなる」ものであるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点

イ.相違点についての判断
(ア)相違点1について
刊行物1の摘示1bには、
「本明細書で用いる“一連の潤滑油ベース原料中の炭化水素”は一連の潤滑油中に存在する沸点を有する炭化水素類(即ち、650および1200°Fの間)である。」
と記載されているので、引用発明の「炭化水素原料油」の沸点範囲を、上記範囲において、特に、本願発明1と同程度の「750°F(399℃)未満の初期沸点と900°F(482℃)より高い最終沸点を有する」ような範囲のものとすることは当業者が容易になし得るものである。

(イ)相違点2について
刊行物1の摘示1jには、水素化異性化脱ロウ処理に用いられる触媒として、SSZ-32、SAPO-11,31および-41、ZSM-12や48を用いることが記載されている。そして、これらは、本願発明の詳細な説明の段落【0047】において「中細孔サイズのモレキュラーシーブ触媒」として挙げられている触媒である。
よって、引用発明の水素化異性化脱ロウにおいて、上記の「中細孔サイズのモレキュラーシーブ触媒」を用いることは当業者が容易になし得るものである。

(ウ)相違点3について
刊行物1の摘示1aの【請求項13】には、
「-15および-40℃の間の流動点、115より上の粘度指数、-10℃未満の曇り点および300ppm未満の硫黄含量を有する、請求項1に記載のプロセスから製造された潤滑油ベース原料。」
と、記載されている。そして、例えば、同【請求項10】における
「少なくとも当該潤滑油ベース原料の一つは流動点/曇り点の差が30℃未満である、請求項1の方法。」
などの記載を参酌すると、刊行物1の特許請求の範囲においては、「潤滑油ベース原料」とは、b)工程及びc)工程から得られたいずれのものも意味すると認められる。よって、上記記載箇所には、引用発明のc)工程から得られた潤滑油ベース原料を「-15及び-40℃の間の流動点」とすること、及び「115℃より大きな粘度指数」とすることが記載されていると認められる。また、さらに、摘示1iには、
「当該潤滑油ベース原料・・・は・・・極めて好ましくは140以上の粘度指数・・・を有する。」
と、潤滑油ベース原料の粘度指数を140以上とすることがより好ましいこと記載されている。
よって、引用発明のc)工程における潤滑油ベース原料の流動点を「-15及び-40℃の間」である-9℃未満とし、かつ、粘度指数を140℃以上程度のものとすることは当業者が容易になし得るものである。

(エ)相違点4及び5について
a.重質画分からの流動点、曇点、粘度指数について
刊行物1の摘示1aの【請求項13】には、上記(ウ)で述べたものと同様の理由により、引用発明のb)工程で得られた組成物についても、「-15及び-40℃の間の流動点」とすること、曇り点を「-10℃未満」とすること、及び「115℃より大きな粘度指数」とすることが記載されていると認められ、また、摘示1iには、潤滑油ベース原料の粘度指数を140以上とすることがより好ましいこと記載されている。
よって、引用発明のb)工程における潤滑油ベース原料の流動点を-9℃未満であり、かつ、粘度指数を140℃以上程度に設定することも当業者が容易になし得るものである。
また、刊行物1の摘示1fには、
「例えば当該1150°F+画分を従来の溶媒脱ロウ工程で脱ロウして高分子量n-パラフィン類を除去する。」と、記載され、また、摘示1gには、
「溶媒脱ロウ処理は製品の流動点および曇り点をほぼ同じ値まで低下させる。」
と、溶媒脱ロウは、高分子量n-パラフィンを除去して流動点及び曇点を低下させることが記載されている。すなわち、引用発明は、溶剤脱ロウにより、流動点や曇点を低下させて、最終調整物である潤滑ベース油原料を目標となる流動点や曇点に到達させるものであるから、水素異性化脱ロウ直後の画分は、引用発明における最終調整物である「潤滑油ベース原料」の目標流動点や曇点よりも高くなることは明らかである。
よって、引用発明における水素異性化脱ロウ直後の画分(本願発明1の「異性化済み重質画分」に相当)の物性を、上記のとおり「潤滑油ベース原料」(本願発明1の重質潤滑剤基油に相当)について設定した流動点や粘度指数の高いものとすることも当業者が容易になし得るものである。

b.ワックスの残存率について
刊行物1の摘示1hには、
「接触脱ロウは依然として僅かなロウを残す。」
と、接触脱ロウ、すなわち水素化異性化脱ロウによって、ロウ(すなわちワックス)を完全には除去できないことが記載されている。
よって、上記b)工程の水素化異性化脱ロウにおけるロウ(ワックス)の残存率を5重量%未満程度となるように制御することは、当業者ならば通常想到し得るものである。

また、本願発明の詳細な説明の段落【0046】においては、
「特に、ワックスの最後の数%の転化は収率およびVIにかなりの損失を生じさせる。」と、水素異性化を完全に行って得られた基油よりも、水素化異性化を、過度の転化を生させずにワックスが残存する程度で終了して、その後溶剤脱ロウを行って得られた基油の方が、粘度指数が高くなることが記載されている。
さらに、例えば、特開2000-514124号公報第5頁16?17行において、
「米国特許明細書…はカルシウム交換結晶アルミノケイ酸塩(即ちゼオライト)担体と白金族金属成分を含む第2段階水素化異性化-水素化分解触媒を開示している。ここでは、第2段階は第1段階よりも苛酷な条件で操作され、…圧力を含む。…。第2段階では、窒素レベルを更に低下させ、ろう分子の水素化異性化と水素化分解により流動点を低下させる。しかし、第2段階をこのような苛酷な条件で操作すると、不可避的にガス成分が形成され、最終基油生成物の収率が悪化する。更に、ろう分子の過度の水素化分解が生じると、最終油の粘度指数が著しく悪化する。」(下線は当審が付した。)
と、記載されているとおり、過度の水素化による粘度指数の低下は、技術常識であると認められる。
よって、上記のとおり、引用発明において、ロウ(ワックス)の残存率を5重量%未満程度となるように制御したものは、「5重量%未満のワックスが接触除去される」ような厳しい条件での水素化異性化処理を経ていないので、そのように処理されて得られたものよりは、当然にその粘度指数は高くなると認められる。

(オ)効果について
本願発明の有する効果は、本願発明1の詳細な説明の段落【0013】の記載からみて、
「広範な沸点範囲の供給原料から許容できる流動点と粘度指数と収率をもつ複数の潤滑剤基油を製造するための比較的低コストで低複雑性の方法を提供すること」であると認められる。
そして、上記(エ)において述べたとおり、水素化異性化における過度の水素化が収率や粘度指数の悪化を招くことも技術常識である。
よって、引用発明において、過度の転化を抑制することにより、粘度指数の低下が防止できるであろうことも、当業者が予測しうるものと認められる。

4.まとめ
したがって、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-05 
結審通知日 2013-06-07 
審決日 2013-07-02 
出願番号 特願2006-509051(P2006-509051)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10G)
P 1 8・ 537- WZ (C10G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小石 真弓
橋本 栄和
発明の名称 フィッシャー・トロプシュワックスからの基油の異性化/デヘイジング方法  
代理人 安藤 克則  
代理人 亀岡 幹生  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  

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