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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20137008 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 判示事項別分類コード:356 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1281797
審判番号 不服2013-7007  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-16 
確定日 2013-11-11 
事件の表示 特願2009-158106「光学フィルム用表面保護フィルム、及び、表面保護フィルム付き光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月20日出願公開、特開2011- 13496〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願及び特願2009-158139号は、いずれも、平成21年7月2日の出願であって、平成24年9月28日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月3日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成25年1月11日付けで拒絶査定がなされ、同年4月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものであり、本願は、さらに、拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成25年7月5日付け審尋に対して同年9月6日付けで回答書を提出している。

2 本願の原査定の拒絶の理由の概要
(1)平成24年9月28日付けで通知された拒絶の理由1は以下のとおりである。

この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア 請求項1-9
請求項1には、「粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下」、「(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μm」、…略…請求項3には、「(B-A)が、22%以下」、…略…という所望の特性が特定されているが、発明の詳細な説明には、材料・製造条件をどのように調整すれば、上記特性を実現できるのかについては説明されていないので、実施例に記載された材料・製造条件以外で、請求項に係る発明を実施するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であり、当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

イ 本願明細書の記載によれば、粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度は、「45%以下」が良いとされているのに対し、本願と出願人及び発明者が共通し、本願と同日に出願された特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)の記載によれば、上記食い込み度は「80?120%」が良いとされているほか、ゴム系ポリマー中のスチレン含有量に関する説明(本願明細書の【0032】、上記同日出願の【0033】)など、両者の説明は整合してない。また、例えば、本願の比較例2と上記同日出願の実施例1はなぜ光学欠点(ii)の評価が異なるのかも不明である。
したがって、本願明細書には不審な点が多々あり、発明の詳細な説明や、実施例及び比較例の結果は信頼性が乏しく、本願発明の技術的意義を理解することができない。よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-9に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

(2)平成25年1月11日付け拒絶査定の内容は以下のとおりである。

この出願については、平成24年 9月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考:
出願人は意見書において、本願と特願2009-158139号(以下、「同日出願」という。)に記載の発明の食い込み度が異なるから、実施可能要件を満足しないとの指摘は承服できない旨を主張しているが、当該拒絶理由は、末尾に明記しているように、実施可能要件違反ではなく委任省令要件違反をいうものであるから、上記主張はそもそも前提において誤っている。

また、出願人は、両出願に記載の発明は、食い込み度が「50%」や「60%」といった場合には、効果が得られないこと示すものであり、それぞれ、別の基準に基づく、別の発明であり、両者の食い込み度の数値範囲がそれぞれ異なるからといって、何ら矛盾点を含むものではなく、問題がないことは明らかである旨を主張している。
しかしながら、本願においては、同日出願の実施例に相当する、食い込み度が「89.6%」である比較例2を、食い込み度が大きいため光学欠点が確認されたと記載しており(【0088】)、他方、同日出願においては、本願の実施例に相当する、食い込み度が「20.4%」である比較例5を、食い込み度が小さいため光学欠点が確認されたと記載している(【0087】)のであるから、両出願が矛盾していることは明らかであるし、まして、両出願の比較例の記載から見て、「50%」や「60%」といった場合に限り、効果が得られないこと示すものとは読み取ることができない。

さらに、出願人は、「光学欠点(ii)の評価結果」について、両出願間での評価にレベルの差異があったとしても、その評価のレベルをそれぞれの出願で規定(決定)することは、出願人(発明者)に認められるものあり、出願人が評価結果を決定すること自体、何ら問題はないことは明らかである旨を主張している。
しかしながら、両出願の光学欠点の評価(ii)は、全く同じ手法により、光学欠点の有無を確認したにもかかわらず、真逆の結果を示すものであり、評価レベルの差異では説明がつかない。また、評価者によりこのような結果の違いが生じるというのであれば、その評価結果に客観的な信頼性はないといわざるを得ず、当該評価結果に基づいて効果を主張する本願発明の技術的意義は理解することができないものである。

したがって、上記主張はいずれも採用することができない。

(3)平成25年7月5日付け審尋において請求人の意見を求めた前置報告書の内容は以下のとおりである。

《前置報告書の内容》
…略…
この審判請求に係る出願については、下記の通り報告します。


第36条第4項第1号
審判請求人は、本願の比較例2において、「光学欠点(ii)」の評価結果が、誤記であること(×が〇である)が判明したので、補正により比較例2を削除し、同日出願(特願2009-158139号、審判係属中)と矛盾している点を解消した旨を主張しているが、本願の比較例2において、「光学欠点(ii)」の評価結果が、実際は「〇」であるとの主張を裏付ける証拠は何ら示されておらず、具体的に何をどう検討して誤記であることが判明したのか不明であり、上記主張は採用することができない。
また、仮に、本願の比較例2の「光学欠点(ii)」の評価結果が「〇」であるとすれば、本願明細書の【0045】の、プリズムシートの食い込み度が、45%を超えると、表面保護フィルムとプリズムシートとの間の部分的に不均一な加圧(過密着)によって、光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことになるとの説明とは誤っているということであり、プリズムシートの食い込み度を「45%以下」とすることによる技術的意義は見いだせず、依然として、委任省令要件違反は解消されない。
なお、審判請求人は、本願と同日出願は、出願日や出願人等が相違すれば、このような委任省令要件違反を指摘されないとすると、審査の判断基準が相違することになり、このような指摘は公平の観点からも認められない旨の主張をしているが、本願明細書の記載内容の信頼性が乏しいことを示す資料として同日出願を挙げているのであって、出願日や出願人等が共通しているという理由で、委任省令要件違反を指摘しているわけではないし、出願日や出願人等が相違しても、このような委任省令要件違反は指摘され得るから、上記主張は失当であり、採用することができない。

3 請求人の主張する請求の理由
(1)意見書において請求人が主張する内容は概略以下のとおりである。
ア 審査官殿は、拒絶理由通知書の中で、『請求項1には、(ア)「粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下」、(イ)「(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μm」、…略…請求項3には、(エ)「(B-A)が、22%以下」、…略…という所望の特性が特定されているが、発明の詳細な説明には、材料・製造条件をどのように調整すれば、上記特性を実現できるのかについては説明されていないので、実施例に記載された材料・製造条件以外で、請求項に係る発明を実施するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であり、当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。また、上記特定の実施例の記載のみから、上記特性を満足する表面保護フィルム全般についてまで特許請求の範囲を拡張できるとはいえない。』と指摘されています。なお、便宜上、前記ご指摘中に(ア)?…略…の番号を付しております。
上記ご指摘(ア)に対しまして、「前記ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が、16?40重量%」であるとする補正を行い、前記「食い込み度」の調製方法を明確にしました。具体的には、本願明細書に「前記ゴム系ポリマー中のスチレン含有量としては、16?40重量%であることが好ましく・・・・。16重量%未満であると、粘着剤層が柔らかくなり、基材層表面の凹凸の影響を受けやすく、プリズムシートのレンズ頂角付近に応力が集中しやすく、光学欠点(SEM画像や目視により観察されるプリズムシート上の輝点)の原因となり、一方、40重量%を超えると、粘着剤層が硬くなり、プリズムシートの粘着剤層への食い込み度が小さくなり、十分な接着面が得られなくなり、好ましくない。」との記載に基づきます。上記補正により、前記食い込み度の調製方法が、明確になっております。
また、上記(イ)につきましては、表面粗さを調整すること自体は、技術常識であり、当業者であれば、当然に調整することができ、更に、本願明細書には、「また、上記基材層としては、たとえば、基材層の原料中に天然ゼオライト、合成ゼオライト、天然シリカ、合成シリカ、架橋PMMA、超高分子量PEなどのアンチブロッキング剤を、ブロックプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ランダムPP、ゴム成分とリアクターブレンドされたPP、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・αオレフィン共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、6-ナイロン、12-ナイロンなどと配合することにより、所望の表面粗さを有する基材層を形成することができる。上記表面粗さを有する基材層となり得る市販品としては、たとえば、商品名FMK-BT#40(フタムラ化学社製)等が挙げられる。」と記載(【0028】)され、本願明細書に記載された内容、及び、出願時の技術常識に基づけば、当業者であれば、前記表面粗さを有する基材層を調整することが、当然に実施でき、更に、本願発明1等の効果を得られることは、明らかであります。
よって、本願発明1におきましては、実施可能要件、及び、サポート要件違反を理由とする拒絶理由1及び2は、解消したものと思料します。
また、本願発明2以降につきましても、以下に、陳述いたします。
上記(ウ)及び(エ)の貯蔵弾性率及び応力緩和につきましては、これらを調整すること自体、当業者にとって、技術常識ですし、上記補正により、貯蔵弾性率や応力緩和に起因することが知られているスチレン含有量を特定範囲に調整しましたので、ここでの拒絶理由は解消しているものと思料します。
なお、前記貯蔵弾性率等の調整する方法につきましては、今回提出する手続補足書の資料1?4に記載された内容(スチレン含有量)からも、明らかであります。
…略…
よって、本願発明1等におきましては、実施可能要件及びサポート要件違反を理由とする拒絶理由1及び2は、解消したものと思料します。

イ 審査官殿は、拒絶理由通知書の中で、『本願明細書の記載によれば、粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度は、(カ)「45%以下」が良いとされているのに対し、本願と出願人及び発明者が共通し、本願と同日に出願された特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)の記載によれば、上記食い込み度(キ)は「80?120%」が良いとされているほか、ゴム系ポリマー中のスチレン含有量に関する説明(本願明細書の【0032】、上記同日出願の【0033】)など、両者の説明は整合してない。また、例えば、(ク)本願の比較例2と上記同日出願の実施例1はなぜ光学欠点(ii)の評価が異なるのかも不明である。』と指摘されています。なお、便宜上、前記ご指摘中に(カ)?(ク)の番号を付しております。
しかし、上記ご指摘に対しまして、承服できませんので、以下に陳述いたします。
上記(カ)とは、本願発明1において規定する「前記粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下」であり、前記食い込み度が「45%以下」と低く設定することにより、本願発明の効果が得られることを示しています。
これに対して、審査官殿が指摘する特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)に記載の食い込み度(キ)は、「80?120%」と高い場合に、前記出願に記載の発明の効果が得られることを示しています。
つまりは、両出願に記載の発明は、前記食い込み度が「50%」や「60%」といった場合には、効果が得られないこと示すものであり、それぞれ、別の基準に基づく、別の発明であり、両者の前記食い込み度の数値範囲がそれぞれ異なるからといって、何ら矛盾点を含むものではなく、問題がないことは、明らかであります。
また、前記スチレン含有量につきましても、本願発明1におきましては、上記補正により、スチレン含有量を「16?40重量%」と高い配合割合を示し、一方、前記特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)におきましては、逆にスチレン含有量を「11重量%以下」と低い割合の場合に有利な効果を示すことが記載され、これら両出願の記載からも、前記食い込み度とスチレン含有量の相関関係が明らかにされています。
従いまして、両出願に記載の発明の前記食い込み度が異なるからといって、実施可能要件を満足しない発明であるとの審査官殿のご指摘は、承服できるものではありません。
また、上記(ク)の「光学欠点(ii)の評価結果」につきましては、両出願が同日出願だからといって、両出願の発明自体が異なるのであり、出願間での評価にレベルの差異があったとしても、その評価のレベルをそれぞれの出願で規定(決定)することは、出願人(発明者)に認められるものあり、出願人が評価結果を決定すること自体、何ら問題はないことは明らかであります。
また、特許・実用新案審査基準においても、本願(の比較例等)と、別出願(の比較例等)を対比して、実施可能要件を判断することにつき、一切記載されておりません。
更に、実施可能要件は、例えば、物の発明であれば、その物を製造等できるように記載されていれば済むものであって、本願の評価結果と別出願の評価結果とを対比して、判断する必要がないことは、特許・実用新案審査基準からも、明らかであります。
よって、本願発明1等におきましては、実施可能要件違反を理由とする拒絶理由1は、解消したものと思料します。

(2)審判請求書において請求人が主張する請求の理由は概略以下のとおりである。

審査官殿は、先の拒絶査定の中で、『両出願に記載の発明は、食い込み度が「50%」や「60%」といった場合には、効果が得られないこと示すものであり、それぞれ、別の基準に基づく、別の発明であり、両者の食い込み度の数値範囲がそれぞれ異なるからといって、何ら矛盾点を含むものではなく、問題がないことは明らかである旨を主張している。しかしながら、本願においては、同日出願の実施例に相当する、食い込み度が「89.6%」である比較例2を、食い込み度が大きいため光学欠点が確認されたと記載しており([0088])、他方、同日出願においては、本願の実施例に相当する、食い込み度が「20.4%」である比較例5を、食い込み度が小さいため光学欠点が確認されたと記載している([0087])のであるから、両出願が矛盾していることは明らかであるし、まして、両出願の比較例の記載から見て、「50%」や「60%」といった場合に限り、効果が得られないこと示すものとは読み取ることができない。さらに、出願人は、「光学欠点(ii)の評価結果」について、両出願間での評価にレベルの差異があったとしても、その評価のレベルをそれぞれの出願で規定(決定)することは、出願人(発明者)に認められるものあり、出願人が評価結果を決定すること自体、何ら問題はないことは明らかである旨を主張している。しかしながら、両出願の光学欠点の評価(ii)は、全く同じ手法により、光学欠点の有無を確認したにもかかわらず、真逆の結果を示すものであり、評価レベルの差異では説明がつかない。また、評価者によりこのような結果の違いが生じるというのであれば、その評価結果に客観的な信頼性はないといわざるを得ず、当該評価結果に基づいて効果を主張する本願発明の技術的意義は理解することができないものである。したがって、上記主張はいずれも採用することができない。』と指摘されております。

(a)上記ご指摘に対しまして、再度検討しましたところ、本願における比較例2において、「光学欠点(ii)」の評価結果が、誤記であること(×が〇である)が判明しました。この点、先日、お電話にて、審査官殿にもお伝えしました。
そこで、本願につきましては、誤記を排除し、新規事項の追加にもならないようにするため、補正により、前記評価結果の比較例2を削除しました。
また、前記同日出願における拒絶査定不服審判請求と同日に、本願において、拒絶査定不服審判の請求と共に、手続補正書を提出することにより、対応しております。
そして、上記補正を行うことにより、「両出願が矛盾」している点も解消しましたので、ここでの委任省令要件違反を理由とする拒絶理由は、解消したものと思料します。

…略…

(e)更に、特許・実用新案審査基準におきましては、「委任省令では発明がどのような技術的貢献をもたらすものかが理解でき、また審査や調査に役立つように、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきものとし、記載事項の例として課題及びその解決手段を掲げている。」等と記載されています。
この点、本願発明におきましては、本願明細書等に基づき、本願発明の技術上の意義を理解できることは明らかですし、課題や解決手段も、本願明細書等に記載([0006]、[0009]、[0019]等)されております。
従いまして、委任省令要件違反を理由とする拒絶理由は、解消したものと思料します。

(3)回答書において請求人が主張する請求の理由は概略以下のとおりである。
ア 前置報告において、審査官殿は、『・・・・仮に、本願の比較例2の「光学欠点(ii)」の評価結果「○」であるとすれば、本願明細書の[0045]の、プリズムシートの食い込み度が、45%を超えると、表面保護フィルムのプリズムシートとの間の部分的に不均一な加圧(過密着)によって、光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことになるとの説明とは誤っているとのことであり、プリズムシートの食い込み度を「45%以下」とすることによる技術的意義を見いだせず、依然として、委任省令要件違反は解消されない。』と指摘されております。
しかし、本願発明は、プリズムシートの食い込み度を「45%以下」にすることのみにより、発明の課題を解決するものではなく、例えば、本願請求項1における「粘着剤層」を形成するために用いられるゴム系ポリマー中のスチレン含有量が、「16?40重量%」であることも必要であり、更に、その他の発明特定事項を満足することも、課題を解決するためには、必要であります。
従いまして、前置報告における審査官殿のご指摘は、本願発明を十分に理解することなく、「プリズムシートの食い込み度」だけで、本願発明を特定しようとするものであり、そのようなご指摘に基づく委任省令要件違反を理由とする拒絶理由は、認められないことは、明らかであります。

更に、特許・実用新案審査基準におきましても、「委任省令では発明がどのような技術的貢献をもたらすものかが理解でき、また審査や調査に役立つように、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきものとし、記載事項の例として課題及びその解決手段を掲げている。」等と記載されています。
この点、本願発明におきましては、本願明細書等に基づき、本願発明の技術上の意義を理解できることは明らかですし、課題や解決手段も、本願明細書等に記載([0006]、[0009]、[0019]等)されております。

従いまして、前置報告において、審査官殿が指摘する委任省令要件違反を理由とする拒絶理由は、解消しているものと思料します。

イ また、前置報告書において、審査官殿は、『・・・・審判請求人は、本願と同日出願は、出願日や出願人等が相違すれば、このような委任省令要件違反を指摘されないとすると、審査の判断基準が相違することになり、このような指摘は公平の観点から認められない旨の主張をしているが、本願明細書の記載内容の信頼性が乏しいことを示す資料として同日出願を挙げている・・・・』と指摘しています。
また、審査官殿は、最初の拒絶理由通知(平成24年10月2日発送)において、『・・・・食い込み度は、「45%以下」が良いとされているに対し、本願と出願人及び発明者が共通し、本願と同日に出願された特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)の記載によれば、上記食い込む度は「80?120%」が良いとされているほか、ゴム系ポリマー通のスチレン含有量に関する説明など、両者は整合していない。また、本願の比較例2と上記同日出願の実施例1はなぜ光学欠点(ii)の評価が異なるのかも不明である。したがって、本願明細書には不審な点が多々あり・・・・信頼性に乏しく、本願発明の技術的意義を理解することができない。』と指摘しています。
しかし、上記ご指摘には承服できません。
その理由としましては、本願発明は、「食い込み度を45%以下」と小さくすると共に、「ゴム系ポリマー中のスチレン含有量を16?40重量%」に高い値に設定することなどにより、課題を解決する発明であります。
これに対して、本願と「出願日や出願人等」が「共通」している出願(特願2009-158139号(特開2011-13500号公報))に記載の発明は、「食い込み度を80?120%」と大きくすると共に、一方で「ゴム系ポリマー中のスチレン含有量を11重量%以下」と低い値に設定することなどにより、課題を解決するものであります。
そうしますと、両出願に記載の発明は、発明特定事項の組み合わせが全く相違し、それぞれの発明特定事項の違った組み合わせにより、それぞれの発明が、課題を解決できるものであります。そして、それぞれの明細書の記載より、技術的意義も明確に理解できます。
なお、上述しましたように、『本願の比較例2と上記同日出願の実施例1はなぜ光学欠点(ii)の評価が異なるのかも不明である。』との点につきましては、誤記を含むものであり、既に補正により、削除しております。
従いまして、審査官殿が「信頼性が乏しい」、「両者は整合していない」、「不審な点が多々ある」との判断は、明らかに両出願に記載の発明を十分に理解することなく、判断したものであり、失当であると思料します。

また、前置報告において、審査官殿は、『出願日や出願人等が共通しているという理由で、委任省令要件違反を指摘しているわけではない』と指摘され、更に、『出願日や出願人等が相違していても、このような委任省令要件は指摘され得るから、上記主張は失当であり、採用することができない。』と指摘されています。
更に、審査官殿は、最初の拒絶理由通知(平成24年10月2日発送)におきまして、審査官殿は、『・・・・食い込み度は、「45%以下」が良いとされているに対し、本願と出願人及び発明者が共通し、本願と同日に出願された特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)の記載によれば、上記食い込む度は「80?120%」が良いとされているほか、ゴム系ポリマー通のスチレン含有量に関する説明など、両者は整合していない。・・・・』と指摘されています。
しかし、…略…本願発明と出願人及び発明者が共通し、本願と同日に出願された特願2009-158139号(特開2011-13500号公報)と、本願発明とを対比することにより、はじめて、審査官殿は、『両者は整合していない。』と判断されるものであります。
そして、審査官殿は、本願と出願日や出願人等が共通している出願(特願2009-158139号(特開2011-13500号公報))との対比に基づき、本願が委任省令所以違反であると判断されていることも、明らかであります。
そうしますと、審査官殿が、『出願日や出願人等が相違していても、このような委任省令要件は指摘され得るから、上記主張は失当であり、採用することができない。』との指摘そのものが、明らかに失当であります。
また、本願と「出願日や出願人等」が「相違」する出願に基づき、今回のような委任省令要件違反の拒絶理由をどのように判断し、通知することが可能なのか、理解できません。

また、先の審判請求書におきましても陳述しましたように、出願時点での本願比較例2の一部の評価結果の「誤記」により、誤記を含まない前記「同日出願(特願2009-158139号)」との関係において、「出願日」や「出願人」などが共通することを理由に、また、そのような理由がなくとも、出願時点での本願比較例2の一部の評価結果の「誤記」のみにより、特許査定を受けられないとすることは、あまりにも、出願人にとって、酷であります。この点、先日、審査官殿にお電話で相談させて頂いた際にも、同様のご意見を頂きました。
また、本願と前記同日出願におきましては、「同一出願人等」の「同日出願」でなければ、このような委任省令要件違反を指摘されないとすると、出願日や出願人等の相違により、審査の判断基準が相違することになり、このようなご指摘は、公平の観点からも、認められないものと思料します。

4 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲には請求項1ないし6が記載されているところ、その請求項1の記載は次のとおりである。

「微細凹凸を有する光学フィルム用の表面保護フィルムであって、
前記表面保護フィルムが、基材層の少なくとも片面に粘着剤層を有するものであり、
前記粘着剤層が、主としてゴム系ポリマーを含有する粘着剤により形成され、
前記ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が、16?40重量%であり、
前記粘着剤が、粘着付与剤を含有し、
前記粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下であり、
前記基材層の粘着剤層側と反対面の測定範囲5mm×5mmの算術平均粗さ(Ra_(1))と、測定範囲0.25mm×0.25mmの算術平均粗さ(Ra_(2))との差(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μmであり、
前記粘着剤層の23℃×50%RH雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率A(%)と、50℃雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率B(%)との差(B-A)が、22%以下であることを特徴とする光学フィルム用表面保護フィルム。」

5 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)、フィールドエミッションディスプレイなどを構成する光学フィルム(光学シート)の表面保護フィルムおよび表面保護フィルム付き光学フィルムに関する。本発明は、なかでも特に、透明性に優れたポリエステルフィルムなどの表面に、アクリル樹脂などのプリズムパターンを精密成形したプリズムシートやレンズシート、拡散フィルム、拡散シート、導光板などの微細凹凸を有する光学フィルムの表面保護フィルムに好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック製品や金属板を加工、運搬等する際には、それら被着体の表面に傷等がつかないように、表面保護フィルムを仮貼付して被着体の表面の保護を図っている。このような被着体の表面保護フィルムとしては、基材フィルムの片面に粘着剤層を設けた粘着フィルムが用いられている。
【0003】
特に上記被着体としてプリズムシートまたはレンズシートと呼ばれる光学シート(光学フィルム)を用いた場合、精密成形されたアクリル樹脂のプリズム(レンズ)パターンへ光学的に悪影響を及ぼさないようにするため、これら光学フィルム用シートの表面保護フィルムに使用される粘着剤として、通常、ゴム系粘着剤が用いられる(たとえば、特許文献1参照)。しかしながら、プリズムの表面は数10μmの凹凸があるため、他の被着体に比べて、粘着剤との接触面積が非常に小さくなり、プリズム面に安定して貼り付けることが困難である。
【0004】
かかる問題に対して、粘着剤層の厚さを厚くすることによりプリズムの凹凸により密着させようと試みる手法が考えられる。しかしながら、プリズムの凹凸に食い込む(入り込む)粘着剤が部分的に不均一になり、光の透過率が異なってしまい、その結果、プリズム面に貼り付けた保護フィルムの外観にムラが発生し、保護フィルムを貼り付けた状態でプリズムシートの外観検査ができなくなってしまう問題が新たに生じてしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-181370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、本発明者らは、表面保護フィルムを光学フィルム(光学シート)に貼り合せ、温度や湿度調整がなされていない船舶や車両等により、運搬・保管されるような場合や、表面保護フィルムを光学フィルム(光学シート)に貼り合せた状態で、ロール体として保管する場合に、光学フィルム(光学シート)、特にプリズムシートのプリズム面の凹凸部分に対する食い込み深さが深い表面保護フィルムを使用すると、その後、表面保護フィルムからプリズムシートを剥離する際に、重剥離になったり、プリズム面の凹凸に食い込む(入り込む)粘着剤(層)が部分的に不均一となり、光の透過率にバラツキが生じ、プリズム面に貼り付けた表面保護フィルムの外観検査の際に、ムラが発生するなど、問題が生じてしまうことを見出した。
【0007】
そこで、本発明は、上述の問題に対処すべく、表面保護フィルムを貼り付けた状態で、プリズムシート等の微細凹凸を有する光学フィルムの外観検査が可能であり、前記光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことがなく、接着信頼性に優れた光学フィルム用表面保護フィルム、およびそれを用いた表面保護フィルム付き光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、下記の光学フィルム用表面保護フィルムを用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、微細凹凸を有する光学フィルム用の表面保護フィルムであって、前記表面保護フィルムが、基材層の少なくとも片面に粘着剤層を有するものであり、前記粘着剤層が、主としてゴム系ポリマーを含有する粘着剤により形成され、前記粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下であり、前記基材層の粘着剤層側と反対面の測定範囲5mm×5mmの算術平均粗さ(Ra_(1))と、測定範囲0.25mm×0.25mmの算術平均粗さ(Ra_(2))との差(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μmであることを特徴とする。
…略…
【0012】
本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、前記粘着剤層の23℃×50%RH雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率A(%)と、50℃雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率B(%)との差(B-A)が、22%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、前記ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が、16?40重量%であることが好ましい。
…略…
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、上記の特定範囲の表面粗さを有する基材層、および、特定の原料を使用し、特定範囲の食い込み度を有する粘着剤層を含む構成を有しているため、表面保護フィルムを貼り付けた状態で微細凹凸を有する被着体(光学フィルム)の外観検査も可能であり、前記光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことがなく、接着信頼性に優れたものとなる。特に、表面保護フィルムを貼付けた光学フィルムのロール体として保存・運搬等を行う場合や、複数枚を重ね合わせて保存等する場合に、問題となる光学欠点(たとえば、表面保護フィルムをプリズムシートに貼付し、その後剥離した際に、プリズムシートに確認される輝点や、表面保護フィルムを貼付した状態で、プリズムシートに確認される輝点や輝点の集合体など)の発生を抑制できる。また、表面保護フィルムを貼り付けた状態で、光学フィルムの外観検査が容易に可能となるため、従来に比べて作業性を大きく向上させることができる。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、微細凹凸を有する光学フィルム用の表面保護フィルムであって、前記表面保護フィルムが、基材層の少なくとも片面に粘着剤層を有するものであり、前記粘着剤層が、主としてゴム系ポリマーを含有する粘着剤により形成され、前記粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下であり、前記基材層の粘着剤層側と反対面の測定範囲5mm×5mmの算術平均粗さ(Ra_(1))と、測定範囲0.25mm×0.25mmの算術平均粗さ(Ra_(2))との差(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μmであることを特徴とする。
【0023】
本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、図1に示すように、微細凹凸を有する光学フィルム14用の表面保護フィルム1であって、前記表面保護フィルム1が、基材層10の少なくとも片面に粘着剤層12を有するものである。なお、本発明の光学フィルム用表面保護フィルム1は、シート状やテープ状等で用いることができる。また、前記粘着剤層12は単独層であってもよく、また2層以上を積層して使用することもできる。
…略…
【0027】
前記基材層の粘着剤層側と反対面における測定範囲5mm×5mmの算術平均粗さ(Ra_(1))と、測定範囲0.25mm×0.25mmの算術平均粗さ(Ra_(2))との差(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μmであり、好ましくは、0.45?0.85μmであり、より好ましくは、0.50?0.85μmである。Ra_(1)とRa_(2)との差が0.45μm未満や0.90μmを超える場合には、表面保護フィルムを光学フィルムに貼り付けた際に光学的な悪影響を及ぼす傾向にあり、好ましくない。なお、基材層の表面が所定範囲の表面粗さを有することで、平滑な基材層に比べて、プリズムシート側からの透過光が表面保護フィルムを透過した際に、部分的に透過光量が増えるような場合であっても、透過光が散乱され、透過光量のバラツキが抑えられるものと推察される。また、基材層表面の凹凸が大きい場合には、粘着剤層を介して前記凹凸に起因して、プリズムシートのレンズ頂角付近に応力が集中するなどの問題が生じ、表面保護フィルムの剥離後に、プリズムシート表面に光学欠点(輝点)が発生し、好ましくない。なお、前記輝点(白点のように見える点)とは、汚染物や粘着剤層に基づく糊残りではなく、恐らくプリズムシートそのものの部分的な変形によるものと推察される。
…略…
【0030】
上記粘着剤層は、主としてゴム系粘着剤を含有する粘着剤により形成される。前記ゴム系粘着剤としては、特に制限はされないが、光学フィルムとしてプリズムシートを使用する場合であって、そのプリズムシートがアクリル樹脂によって形成される場合には、そのプリズム面に対しては、外観上の光学欠点が発生しにくいとの観点からも、主として、ゴム系ポリマーを含有するゴム系粘着剤を使用する。
【0031】
粘着剤中のゴム系ポリマーとしては、たとえば、天然ゴム、天然ゴムとメチルメタクリレートなどのアクリル成分との共重合物、ならびに、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)およびその水素添加物(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)およびその水素添加物(SEPS)、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)などをもちいたものがあげられる。なかでも、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBS)およびその水素添加物(SEBS)や、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SIS)およびその水素添加物(SEPS)が、特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
前記ゴム系ポリマー中のスチレン含有量としては、16?40重量%であることが好ましく、より好ましくは、18?35重量%である。16重量%未満であると、粘着剤層が柔らかくなり、基材層表面の凹凸の影響を受けやすく、プリズムシートのレンズ頂角付近に応力が集中しやすく、光学欠点(SEM画像や目視により観察されるプリズムシート上の輝点)の原因となり、一方、40重量%を超えると、粘着剤層が硬くなり、プリズムシートの粘着剤層への食い込み度が小さくなり、十分な接着面が得られなくなり、好ましくない。
…略…
【0034】
上記粘着剤には、その他の公知の添加剤を含有していてもよく、たとえば、架橋剤(加硫剤)、シランカップリング剤、粘着付与剤、着色剤、顔料などの粉体、染料、界面活性剤、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、無機または有機の充填剤、金属粉、粒子状、箔状物などを使用する用途に応じて適宜添加することができる。また、制御できる範囲内で、還元剤を加えてのレドックス系を採用してもよい。
…略…
【0045】
また、本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、前記粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間(24時間)押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度は、45%以下であり、好ましくは、5?45%であり、特に好ましくは、10?40%である。前記食い込み度が5%未満であると、光学フィルムであるプリズムシートに前記表面保護フィルムを貼り付けた際に、前記表面保護フィルムの浮きが発生してしまい、一方、45%を超えると、前記表面保護フィルムをプリズムシートに貼り付けた際に、例えば、光学フィルムであるプリズムシートのプリズム面に表面保護フィルムが貼り付けられ、ロール状態、または、それを打ち抜き加工し、表面保護フィルムが貼り付けられた光学フィルム(プリズムシート等)を数十枚重ねられた状態で保管等した場合、表面保護フィルムとプリズムシートとの間の部分的に不均一な加圧(過密着)によって、表面保護フィルムに部分的に押し跡が発生し、外観不良となり、表面保護フィルムを光学フィルム(プリズムシート等)に貼り合せた状態での検査ができなくなるなど、光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことになりまた、粘着力が非常に重くなり、表面保護フィルムを剥離する際の作業性が著しく低下するなどの問題が生じ、好ましくない。
…略…
【0047】
前記粘着剤層の23℃×50%RH雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率A(%)と、50℃雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率B(%)との差(B-A)が、22%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下である。応力緩和率の差が22%を超えると、表面保護フィルムを光学フィルムに貼り付けた際に光学的な悪影響を及ぼす傾向にあり、好ましくない。」

(3)「【実施例】
【0056】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして行った。
【0057】
〔実施例1〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1041、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0058】
〔実施例2〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.71μmで、厚さが40μmのポリプロピレンポリエチレンブレンドフィルム(FMK-BT #40、二村化学社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0059】
〔実施例3〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1053、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0060】
〔実施例4〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0061】
〔実施例5〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)(セプトン2007、クラレ社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0062】
〔実施例6〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ1.5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0063】
〔実施例7〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ9μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0064】
〔実施例8〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.45μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0065】
〔比較例1〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.34μmで、厚さが40μmのポリプロピレンフィルム(サントックスMK-84、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0066】
〔比較例2〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0067】
〔比較例3〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(ダイナロン8601P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0068】
〔比較例4〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(クレイトンG-1657、クレイトンポリマー社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、トルエン792重量部に溶解して粘着剤溶液(固形分濃度15重量%)とし、これをガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0069】
〔比較例5〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.98μmで、厚さが35μmのポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、トルエン792重量部に溶解して粘着剤溶液(固形分濃度15重量%)とし、これをガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0070】
〔比較例6〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が1.50μmで、厚さが35μmのポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(タフテックH1062、旭化成社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、トルエン792重量部に溶解して粘着剤溶液(固形分濃度15重量%)とし、これをガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。」

(4)「【0071】
実施例および比較例で得られた表面保護フィルムについて下記評価を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0072】
(スチレン含有量の分析)
使用するゴム中のスチレン含有量(重量%)の特定は、以下の装置及び条件にて行った。
分析装置 :NMR装置(UNITY-INOVA-400、Varian社製)
観測周波数 :400MHz(1H)、100MHz(13C)
フリップ角 :45°
測定溶媒 :CDCl3
測定温度 :室温
化学シフト基準:測定溶媒(1H:7.25ppm、13C:77.05ppm)
試料回転数 :1H 2600Hz、13C 2300Hz
【0073】
(貯蔵弾性率)
サンプル作成方法:シリコーン処理剤を塗布したPET基材からなる剥離ライナー(ダイアホイル、三菱樹脂社製)上のシリコーン処理面に、アプリケーターを使用して、粘着剤を乾燥後の厚みが25μmになるように塗布し、7分風乾後、更に90℃×3分間乾燥させ、粘着剤層を得た。この粘着剤層の剥離ライナーの貼付されていない面に、更に剥離ライナーのシリコーン処理剤の塗布された面に貼り合せ、更に5cm×5cmに切断、このサンプルの片側の剥離ライナーを剥離し気泡が入らないように粘着剤同士を重ね合わせ、厚みが2?3mmになるまでこの作業を繰り返し試料を作製した。
【0074】
(算術表面平均粗さRa_(1))
サンプル作成方法:スライドガラス上に、基材なしでPETの剥離ライナーを使用した糊厚25±3μmの両面テープ(CS9621、日東電工社製)を貼り合せ、その上に測定したい面を上にして保護フィルムを貼った。
【0075】
光学式プロファイラー(NT-9100、Veeco社製)を使用して、VSI方式で対物レンズ:2.5倍、内部レンズ:1.0倍、Backscan:20μm、Length:15μm、threshold:1%、Window Filtering:None、Data Restore:On、光量:4.00、測定範囲:5mm×5mmの条件で、n=5で測定を実施した。そのうち上限値と下限値を除く残りの3つのデータの平均で判断し、MDとTDの平均値をとり、各算術表面平均粗さRa_(1)を算出した。
【0076】
(算術表面平均粗さRa_(2))
サンプル作成方法:スライドガラス上に、基材なしでPETの剥離ライナーを使用した糊厚25±3μmの両面テープ(CS9621、日東電工社製)を貼り合せ、その上に測定したい面を上にして表面保護フィルムを貼った。
【0077】
光学式プロファイラー(NT-9100、Veeco社製)を使用して、VSI方式で対物レンズ:50.0倍、内部レンズ:1.0倍、Backscan:20μm、Length:15μm、threshold:1%、Window Filtering:None、Data Restore:On、光量:10.00、測定範囲:0.25mm×0.25mmの条件で、n=5で測定を実施した。そのうち上限値と下限値を除く残りの3つのデータの平均で判断し、MDとTDの平均値をとり、各算術表面平均粗さRa_(2)を算出した。
【0078】
(粘着剤層への食い込み深さ)
光学式プロファイラー(NT-9100、Veeco社製)を使用して、VSI方式で対物レンズ:10.0倍、内部レンズ:1.0倍、Backscan:20μm、Length:15μm、threshold:1%、Window Filtering:None、Data Restore:On、光量:4.00、測定範囲:1mm×1mmの条件で、測定した。サンプルは、プリズムシート(プリズム角度:90°、プリズムピッチ:50μm)に表面保護フィルムを線圧:18N/cm、速度:3m/分で貼り合わせし、圧力11g/cm2がかけた状態で50℃、24時間保存し作成した。その後、室温(23℃、50%RH)にて1時間以内に表面保護フィルム(50mm×150mm)を剥離し、表面保護フィルムのしわを伸ばした状態で、測定した。測定データを2Dで傾き補正し、プリズムシート接触跡(糊面のV字型の変形)の最深点と、最深点から両側5μmの範囲以内のプリズムシート接触跡の最高点との差(μm)を計測した。測定範囲内に存在する全てのプリズムシート接触跡について測定し、最深点と最高点の差の平均値を食い込み深さとした。また、食い込み度(%)としては、食い込み深さTkと粘着剤層厚さTaから、以下の式より、算出した。
食い込み度(%)=(Tk/Ta)×100
【0079】
(応力緩和率)
サンプル作成方法:シリコーン処理剤を塗布したPET基材からなる剥離ライナー(ダイアホイル、三菱樹脂社製)上のシリコーン処理面に、アプリケーターを使用して、粘着剤を乾燥後の厚みが25μmになるように塗布し、7分風乾後、更に90℃×3分間乾燥させ、粘着剤層を得た。この粘着剤層の剥離ライナーの貼付されていない面に、更に剥離ライナーのシリコーン処理剤の塗布された面に貼り合せ、更に5cm×5cmに切断して、一方の剥離ライナーを剥離し、粘着剤層のみを指で気泡が入らないようにしながら棒状に丸めて、試料を作製した。この試料を、測定前に、50℃雰囲気下で10分間エージング後、測定し、最大値Smaxと最小値Sminから、以下の式より、応力緩和率(%)を算出した。
応力緩和率(%)=100×(Smax-Smin)/Smax
【0080】
インストロン型引張試験機(AUTOGRAPH AG-G、島津製作所社製)を使用して、雰囲気温度50℃で、引張速度0.3m/分、チャック間30mmでチャック間を10%引張った状態で10分間応力変化を測定した。測定はn=5で実施し、その平均値を算出した。」

(5)「【0081】
(光学欠点の評価(i))
プリズムシート(プリズム角度:90°、プリズムピッチ:50μm)に表面保護フィルムを線圧:18N/cm、速度:3m/分で貼り合わせし、圧力11g/cm2がかけられた状態で50℃、24時間保存した。その後、室温(23℃×50%RH)にて表面保護フィルム(50mm×150mm)を剥離し、目視により、プリズムシートのプリズムと反対のフラット面から光学欠点の有無を確認した。
○:プリズムシートに光学欠点は全く観察されなかった場合
×:プリズムシートに光学欠点が観察された場合:×
【0082】
(光学欠点の評価(ii))
プリズムシート(プリズム角度:90°、プリズムピッチ:50μm)に表面保護フィルムを線圧:18N/cm、速度:3m/分で貼り合わせし、圧力11g/cm2がかけられた状態で50℃、24時間保存した。その後、室温(23℃×50%RH)にて表面保護フィルムを貼り付けた状態で、目視により、プリズムシートのプリズムと反対のフラット面から光学欠点の有無を確認した。
○:プリズムシートに光学欠点は全く観察されなかった場合
×:プリズムシートに光学欠点が観察された場合:×」

(6)「【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
表1から、実施例1?8で作製した光学フィルム用表面保護フィルムは、プリズムシートを被着体に用いた場合でも、被着体に貼り付けた状態でプリズムシートの外観検査が可能であり、上記被着体に光学的な悪影響を及ぼすことがなく、接着信頼性に優れたものであることが確認できた。
【0088】
一方、比較例1?6の全てにおいて、プリズムシートを貼り付けた状態で、外観検査を行ったところ、光学欠点が確認された。具体的には、比較例1においては、算術平均粗さの差が所定範囲を下回る(基材層の凹凸が小さすぎる)場合、光学欠点が確認され、比較例2~4においては、プリズムシートの食い込み度が大きいため、光学欠点が確認され、特に比較例2においては、食い込み度が非常に大きいため、50℃×7日間保存後の粘着力が初期粘着力に比べて、9倍大きな値となり、保存後の剥離が非常に重いことがわかり、接着信頼性が劣り、比較例5及び6においては、算術平均粗さの差が、所定範囲より大きいため、つまりは、基材層の表面の凹凸が大きいため、光学欠点が確認され、実施例よりも、比較例が光学特性や粘着特性において、劣ることが確認された。」

(7)本願の拒絶査定不服審判の請求と同時になされた平成25年4月16日付け手続補正により、上記(6)の【表2】から「比較例2の欄」が削除されるとともに、上記(6)の【0088】の記載から、「比較例2」の表記と「特に比較例2においては、食い込み度が非常に大きいため、50℃×7日間保存後の粘着力が初期粘着力に比べて、9倍大きな値となり、保存後の剥離が非常に重いことがわかり、接着信頼性が劣り、」との記載が削除された。

6 特願2009-158139号の各例
特願2009-158139号には次の例が示されている。
「【0061】
〔実施例1〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが、30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0062】
〔実施例2〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部、及び、軟化剤(クラプレンLIR-290、クラレ社製)10重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0063】
〔実施例3〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部、及び、軟化剤(クラプレンLIR-290、クラレ社製)10重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0064】
〔実施例4〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、ポリイソブチレン(PIB)(重量平均分子量:80万、オパノール B-80、BASF社製)80重量部に対し、ポリイソブチレン(オパノールB-12、BASF社製)20重量部、紫外線吸収剤(チヌビン326、BASF社製)0.5重量部、粘着付与剤(DUREZ19900、SUMITOMO BAKELITE EUROPE社製)0.4重量部、光安定剤(キマソーブ944FDL、BASF社製)0.05重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0065】
〔比較例1〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.34μmで、厚さが40μmのポリプロピレンフィルム(サントックスCP-MK84、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0066】
〔比較例2〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(8601P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0067】
〔比較例3〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.98μmで、厚さが35μmのポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部、を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0068】
〔比較例4〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が1.50μmで、厚さが35μmのポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製)を用いた。また、粘着剤層として、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)(ダイナロン1321P、JSR社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0069】
〔比較例5〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレ-ンイソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)の水素添加物(SEPS)(セプトン2002、クラレ社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)30重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0070】
〔比較例6〕
基材層として、粘着剤層側と反対面の算術表面平均粗さの差(Ra_(1)-Ra_(2))が0.84μmで、厚さが30μmのポリプロピレンフィルム(MK-92 #30、サントックス社製)を用いた。また、粘着剤層として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(クレイトンG-1657、クレイトンポリマー社製)100重量部に対し、粘着付与樹脂(アルコンP-125、荒川化学工業社製)40重量部を加えたものを、ガラス板上に水をひいた状態で配置した基材層上に、アプリケーターを使用して、塗布し、その後乾燥させ、厚さ5μmの粘着剤層を形成して、光学フィルム用表面保護フィルムを得た。
【0071】
実施例および比較例で得られた表面保護フィルムについて下記評価を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0072】
(スチレン含有量の分析)
使用するゴム中のスチレン含有量(重量%)の特定は、以下の装置及び条件にて行った。
分析装置 :NMR装置(UNITY-INOVA-400、Varian社製)
観測周波数 :400MHz(1H)、100MHz(13C)
フリップ角 :45°
測定溶媒 :CDCl3
測定温度 :室温
化学シフト基準:測定溶媒(1H:7.25ppm、13C:77.05ppm)
試料回転数 :1H 2600Hz、13C 2300Hz
【0073】
(引張弾性率)
JIS K7161に準拠して以下の条件で測定した。なお、引張弾性率は、規定された2点のひずみε1=1及びε2=2の間の曲線の線形回帰によって求めた。
測定温度 :25℃
試験片の幅 :10mm
引張速度 :300mm/min.
チャック間距離:50mm
MDおよびTD:各n=3
サンプルは、シリコーン処理剤が塗布されたPET基材の剥離ライナー(ダイアホイル、三菱樹脂社製)上にアプリケーターを使用して粘着剤を糊厚25μmになるように塗布し、7分間風乾させた後90℃×3分で乾燥させ、その後このサンプルをシリコーン処理が塗布されたPET基材の剥離ライナーに貼り合せた。更に、このサンプルを5cm×5cm角にカットし、片面の剥離ライナーを剥離し粘着剤のみを指で気泡が入らないようにしながら棒状に丸めて作製した。
【0074】
(算術表面平均粗さRa_(1))
サンプル作成方法:スライドガラス上に、基材なしでPETの剥離ライナーを使用した糊厚25±3μmの両面テープ(CS9621、日東電工社製)を貼り合せ、その上に測定したい面を上にして表面保護フィルムを貼った。
【0075】
光学式プロファイラー(NT-9100、Veeco社製)を使用して、VSI方式で対物レンズ:2.5倍、内部レンズ:1.0倍、Backscan:20μm、Length:15μm、threshold:1%、Window Filtering:None、Data Restore:On、光量:4.00、測定範囲:5mm×5mmの条件で、n=5で測定を実施した。そのうち上限値と下限値を除く残りの3つのデータの平均で判断し、MDとTDの平均値をとり、各算術表面平均粗さRa_(1)を算出した。
【0076】
(算術表面平均粗さRa_(2))
サンプル作成方法:スライドガラス上に、基材なしでPETの剥離ライナーを使用した糊厚25±3μmの両面テープ(CS9621、日東電工社製)を貼り合せ、その上に測定したい面を上にして表面保護フィルムを貼った。
【0077】
光学式プロファイラー(NT-9100、Veeco社製)を使用して、VSI方式で対物レンズ:50.0倍、内部レンズ:1.0倍、Backscan:20μm、Length:15μm、threshold:1%、Window Filtering:None、Data Restore:On、光量:10.00、測定範囲:0.25mm×0.25mmの条件で、n=5で測定を実施した。そのうち上限値と下限値を除く残りの3つのデータの平均で判断し、MDとTDの平均値をとり、各算術表面平均粗さRa_(2)を算出した。
【0078】
(粘着剤層への食い込み深さ)
光学式プロファイラー(NT-9100、Veeco社製)を使用して、VSI方式で対物レンズ:10.0倍、内部レンズ:1.0倍、Backscan:20μm、Length:15μm、threshold:1%、Window Filtering:None、Data Restore:On、光量:4.00、測定範囲:1mm×1mmの条件で、測定した。サンプルは、プリズムシート(プリズム角度:90°、プリズムピッチ:50μm)に表面保護フィルムを線圧:18N/cm、速度:3m/分で貼り合わせし、圧力11g/cm2がかけた状態で50℃、24時間保存し作成した。その後、室温(23℃、50%RH)にて1時間以内に表面保護フィルム(50mm×150mm)を剥離し、表面保護フィルムのしわを伸ばした状態で、測定した。測定データを2Dで傾き補正し、プリズムシート接触跡(糊面のV字型の変形)の最深点と、最深点から両側5μmの範囲以内のプリズムシート接触跡の最高点との差(μm)を計測した。測定範囲内に存在する全てのプリズムシート接触跡について測定し、最深点と最高点の差の平均値を食い込み深さとした。また、食い込み度(%)としては、食い込み深さTkと粘着剤層厚さTaから、以下の式より、算出した。
食い込み度(%)=(Tk/Ta)×100
【0079】
(応力緩和率)
サンプル作成方法:シリコーン処理剤を塗布したPET基材からなる剥離ライナー(ダイアホイル、三菱樹脂社製)上のシリコーン処理面に、アプリケーターを使用して、粘着剤を乾燥後の厚みが25μmになるように塗布し、7分風乾後、更に90℃×3分間乾燥させ、粘着剤層を得た。この粘着剤層の剥離ライナーの貼付されていない面に、更に剥離ライナーのシリコーン処理剤の塗布された面に貼り合せ、更に5cm×5cmに切断して、一方の剥離ライナーを剥離し、粘着剤層のみを指で気泡が入らないようにしながら棒状に丸めて、試料を作製した。この試料を、測定前に、50℃雰囲気下で10分間エージング後、測定し、最大値Smaxと最小値Sminから、以下の式より、応力緩和率(%)を算出した。
応力緩和率(%)=(Smax-Smin)/Smax
【0080】
インストロン型引張試験機(AUTOGRAPH AG-G、島津製作所社製)を使用して、雰囲気温度50℃で、引張速度0.3m/分、チャック間30mmでチャック間を10%引張った状態で10分間応力変化を測定した。測定はn=5で実施し、その平均値を算出した。
【0081】
(光学欠点の評価(i))
プリズムシート(プリズム角度:90°、プリズムピッチ:50μm)に表面保護フィルムを線圧:18N/cm、速度:3m/分で貼り合わせし、圧力11g/cm2がかけられた状態で50℃、24時間保存した。その後、室温(23℃×50%RH)にて表面保護フィルム(50mm×150mm)を剥離し、目視により、プリズムシートのプリズムと反対のフラット面から光学欠点の有無を確認した。
○:プリズムシートに光学欠点は全く観察されなかった場合
×:プリズムシートに光学欠点が観察された場合:×
【0082】
(光学欠点の評価(ii))
プリズムシート(プリズム角度:90°、プリズムピッチ:50μm)に表面保護フィルムを線圧:18N/cm、速度:3m/分で貼り合わせし、圧力11g/cm2がかけられた状態で50℃、24時間保存した。その後、室温(23℃×50%RH)にて表面保護フィルムを貼り付けた状態で、目視により、プリズムシートのプリズムと反対のフラット面から光学欠点の有無を確認した。
○:プリズムシートに光学欠点は全く観察されなかった場合
×:プリズムシートに光学欠点が観察された場合:×
【0083】
(ヘイズ値)
へイズメーター(HM-150、村上色彩技術研究社製)を使用して、JIS K7136に準じて測定を行なった。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表1から、実施例1?4で作製した光学フィルム用表面保護フィルムは、プリズムシートを被着体に用いた場合でも、被着体に貼り付けた状態でプリズムシートの外観検査が可能であり、上記被着体に光学的な悪影響を及ぼすことがなく、接着信頼性に優れたものであることが確認できた。
【0087】
一方、比較例1?6の全てにおいて、プリズムシートの食い込み度が小さく、プリズムシートを貼り付けた状態で、概観検査を行ったところ、光学欠点が確認された。具体的には、比較例1、3及び4においては、算術平均粗さの差が所定範囲外であり、プリズムシートと貼り合せた場合の透過光を均一に散乱させることが出来ず、光学欠点が確認されると推察される。また、比較例2、5及び6においては、粘着剤層中のスチレン含有量が多く、プリズムシートの食い込み度が小さいため、粘着力不足やプリズムシートに貼付した際の押し跡が理由で、光学欠点が確認されたものと考えられ、これらの結果より、実施例よりも、比較例が光学特性において、劣ることが確認された。」

7 当審の判断

(1)本願発明の課題
本願の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の課題は、上記5(1)の記載からみて、次のことにあると解される。

「従来より、プラスチック製品や金属板を加工、運搬等する際には、それら被着体の表面に傷等がつかないように、表面保護フィルムを仮貼付して被着体の表面の保護を図っており、このような被着体の表面保護フィルムとしては、基材フィルムの片面に粘着剤層を設けた粘着フィルムが用いられ、被着体がプリズムシートまたはレンズシートと呼ばれる光学シート(光学フィルム)の場合は、精密成形されたアクリル樹脂のプリズム(レンズ)パターンへ光学的に悪影響を及ぼさないようにするため、これら光学フィルム用シートの表面保護フィルムに使用される粘着剤としては、通常、ゴム系粘着剤が用いられているところ、プリズムの表面は数10μmの凹凸があるため、他の被着体に比べて、粘着剤との接触面積が非常に小さくなり、プリズム面に安定して貼り付けることが困難であり、粘着剤層の厚さを厚くすることによりプリズムの凹凸により密着させようと試みると、プリズムの凹凸に食い込む(入り込む)粘着剤が部分的に不均一になり、光の透過率が異なってしまい、その結果、プリズム面に貼り付けた保護フィルムの外観にムラが発生し、保護フィルムを貼り付けた状態でプリズムシートの外観検査ができなくなってしまう問題が新たに生じてしまい、また、本発明者らは、表面保護フィルムを光学シート(光学フィルム)に貼り合せ、温度や湿度調整がなされていない船舶や車両等により、運搬・保管されるような場合や、表面保護フィルムを光学シート(光学フィルム)に貼り合せた状態で、ロール体として保管する場合に、光学シート(光学フィルム)、特にプリズムシートのプリズム面の凹凸部分に対する食い込み深さが深い表面保護フィルムを使用すると、その後、表面保護フィルムからプリズムシートを剥離する際に、重剥離になったり、プリズム面の凹凸に食い込む(入り込む)粘着剤(層)が部分的に不均一となり、光の透過率にバラツキが生じ、プリズム面に貼り付けた表面保護フィルムの外観検査の際に、ムラが発生するなど、問題が生じてしまうことを見出したので、これらの問題に対処でき、表面保護フィルムを貼り付けた状態で、プリズムシート等の微細凹凸を有する光学フィルムの外観検査が可能であり、前記光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことがなく、接着信頼性に優れた光学フィルム用表面保護フィルムを提供すること。」

(2)本願発明の技術上の意義
ア 本願発明の特徴に係る次の構成1ないし5の技術上の意義は、上記5(2)の記載からみて、それそれ次のとおりであると解される。

(ア)構成1:
「前記粘着剤層が、主としてゴム系ポリマーを含有する粘着剤により形成され、前記ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が、16?40重量%であり」
○ 技術上の意義:
・プリズムシートがアクリル樹脂によって形成される場合には、プリズム面に対しては、外観上の光学欠点が発生しにくいとの観点からも、主として、ゴム系ポリマーを含有するゴム系粘着剤を使用する。
・ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が16重量%未満であると、粘着剤層が柔らかくなり、基材層表面の凹凸の影響を受けやすく、プリズムシートのレンズ頂角付近に応力が集中しやすく、光学欠点(SEM画像や目視により観察されるプリズムシート上の輝点)の原因となり、好ましくない。
・ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が40重量%を超えると、粘着剤層が硬くなり、プリズムシートの粘着剤層への食い込み度が小さくなり、十分な接着面が得られなくなり、好ましくない。

(イ)構成2:
「前記粘着剤が、粘着付与剤を含有し」
○ 技術上の意義:
・使用する用途に応じて適宜添加することができる。

(ウ)構成3:
「前記粘着剤層を、プリズムシートに貼り付けた後、50℃雰囲気下で、11g/cm^(2)圧で、1日間押し付けた際の前記プリズムシートの前記粘着剤層の厚みに対する食い込み度が、45%以下であり」
○ 技術上の意義:
・食い込み度が45%を超えると、前記表面保護フィルムをプリズムシートに貼り付けた際に、例えば、光学フィルムであるプリズムシートのプリズム面に表面保護フィルムが貼り付けられ、ロール状態、または、それを打ち抜き加工し、表面保護フィルムが貼り付けられた光学フィルム(プリズムシート等)を数十枚重ねられた状態で保管等した場合、表面保護フィルムとプリズムシートとの間の部分的に不均一な加圧(過密着)によって、表面保護フィルムに部分的に押し跡が発生し、外観不良となり、表面保護フィルムを光学フィルム(プリズムシート等)に貼り合せた状態での検査ができなくなるなど、光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことになり、また、粘着力が非常に重くなり、表面保護フィルムを剥離する際の作業性が著しく低下するなどの問題が生じ、好ましくない。

(エ)構成4:
「前記基材層の粘着剤層側と反対面の測定範囲5mm×5mmの算術平均粗さ(Ra_(1))と、測定範囲0.25mm×0.25mmの算術平均粗さ(Ra_(2))との差(Ra_(1)-Ra_(2))が、0.45?0.90μmであり」
○ 技術上の意義:
・Ra_(1)とRa_(2)との差が0.45μm未満や0.90μmを超える場合には、表面保護フィルムを光学フィルムに貼り付けた際に光学的な悪影響を及ぼす傾向にあり、好ましくない。

(オ)構成5:
「前記粘着剤層の23℃×50%RH雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率A(%)と、50℃雰囲気下での引張速度0.3m/min.における10%応力緩和率B(%)との差(B-A)が、22%以下である」
○ 技術上の意義:
・応力緩和率の差(B-A)が22%を超えると、表面保護フィルムを光学フィルムに貼り付けた際に光学的な悪影響を及ぼす傾向にあり、好ましくない。

イ 技術上の意義の検証
(ア)上記ア(イ)によると構成2は用途に応じて適宜選択できる構成にすぎないが、上記アの構成1、3ないし5の技術上の意義は、上記アによると、光学的な悪影響を及ぼさず、光学欠点の発生を防ぐ点にあるものと解されるところ、その根拠は上記5(3)ないし(6)の実施例1ないし8及び比較例1ないし6しかなく、理論的に証明されてはいない。
他方、本願の発明者らは、上記6の実施例1ないし4及び比較例1ないし6についても、上記5(5)と同じ方法で光学欠点(i)及び光学欠点(ii)の評価を行っている。
上記アの構成1、3ないし5の技術上の意義は、上記5(3)ないし(6)の例の評価のみならず上記6の各例の評価も含めた本願の発明者らが行った評価からみると、次のようになる。

a 構成1の技術上の意義について
・ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が16重量%未満である上記6の実施例1ないし4のものの光学欠点の評価(i)及び光学欠点の評価(ii)は、プリズムシートに光学欠点は全く観察されなかったことを示す「○」であったから、ゴム系ポリマー中のスチレン含有量が16重量%未満であると、光学欠点の原因となるということはできない。

b 構成3の技術上の意義について
・食い込み度が45%を超える上記6の実施例1ないし4のものの光学欠点の評価(i)及び光学欠点の評価(ii)は、プリズムシートに光学欠点は全く観察されなかったことを示す「○」であったから、食い込み度が45%を超えると、表面保護フィルムを光学フィルム(プリズムシート等)に貼り合せた状態での検査ができなくなるということはできず、光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことになるということもできない。

c 構成4の技術上の意義について
・Ra_(1)とRa_(2)との差が0.45?0.90μmである上記5の比較例2ないし4及び上記6の比較例2、5及び6のものの光学欠点の評価(ii)は、プリズムシートに光学欠点が観察されたことを示す「×」であったから、Ra_(1)とRa_(2)との差が0.45μm未満や0.90μmを超える場合に限らず、Ra_(1)とRa_(2)との差が0.45?0.90μmであっても表面保護フィルムを光学フィルムに貼り付けた際に光学的な悪影響を及ぼすことがあることになる。

d 構成5の技術上の意義について
・応力緩和率の差(B-A)が22%以下である上記5の比較例1、2、5、6及び上記6の比較例1、3、4のものの光学欠点の評価(ii)は、プリズムシートに光学欠点が観察されたことを示す「×」であったから、応力緩和率の差(B-A)が22%を超える場合に限らず、応力緩和率の差(B-A)が22%以下であっても、表面保護フィルムを光学フィルムに貼り付けた際に光学的な悪影響を及ぼすことがあることになる。

(イ)請求人の主張について
a 請求人は、両出願に記載の発明は、前記食い込み度が「50%」や「60%」といった場合には、効果が得られないこと示すものであり、それぞれ、別の基準に基づく、別の発明であり、両者の前記食い込み度の数値範囲がそれぞれ異なるからといって、何ら矛盾点を含むものではなく、問題がない、と主張するが、
本願発明は上記ア(ウ)のとおり、食い込み度が45%を超えると、表面保護フィルムを光学フィルム(プリズムシート等)に貼り合せた状態での検査ができなくなるなど、光学フィルムに光学的な悪影響を及ぼすことになり、また、粘着力が非常に重くなり、表面保護フィルムを剥離する際の作業性が著しく低下するなどの問題が生じ、好ましくないとしている発明である。

b 請求人は、光学欠点(ii)の評価結果については、両出願の発明自体が異なるのであるから問題ない旨主張するが、
本願発明の課題は上記(1)のとおりであり、特願2009-158139号に係る発明と異なるものではなく、本願発明及び特願2009-158139号に係る発明は、いずれもその主要な評価を光学欠点の評価(i)及び光学欠点の評価(ii)で行っているものであるから、問題ないとすることはできない。

c 請求人は、本願における比較例2において、光学欠点(ii)の評価結果の「×」は誤記であり正しくは「〇」であることが判明しましたので、この誤記を排除するため、補正により、前記評価結果の比較例2を削除したから、委任省令要件違反を理由とする拒絶理由は解消した旨主張するが、
本願の発明の詳細な説明に記載されている本願発明の技術上の意義(上記ア(ア)ないし(オ)参照。)のうち、構成2の技術上の意義は上記ア(イ)によると用途に応じて適宜選択できる構成にすぎず、構成1、3ないし5については、上記(ア)のとおり、本願の発明の詳細な説明に記載されている本願発明の技術上の意義は正しいものとはいえないので、当業者が本願の発明の詳細な説明の記載により構成1、3ないし5の技術上の意義を理解することはできない。このことは、仮に、本願における比較例2において、光学欠点(ii)の評価結果の「×」は誤記であり正しくは「〇」であったとしても変わることではない。

(3)まとめ
上記(2)のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明に記載されている本願発明の技術上の意義は正しいものとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものではない。

8 むすび
本願の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものではないので、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
したがって、本願は、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-13 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2009-158106(P2009-158106)
審決分類 P 1 8・ 356- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 光学フィルム用表面保護フィルム、及び、表面保護フィルム付き光学フィルム  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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