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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20129701 | 審決 | 特許 |
不服201126007 | 審決 | 特許 |
不服201217207 | 審決 | 特許 |
不服201126373 | 審決 | 特許 |
不服2012475 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04G |
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管理番号 | 1281854 |
審判番号 | 不服2012-10397 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-06-05 |
確定日 | 2013-11-21 |
事件の表示 | 特願2009-150761「建築物およびその耐震補強方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月13日出願公開、特開2011- 6896〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年6月25日の出願であって、平成24年4月11日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成24年6月5日に本件審判が請求されるとともに、審判請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成24年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年6月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の請求項1に記載された発明 本件補正により、特許請求の範囲の【請求項1】は、 「【請求項1】 4つの壁面部・上面部・下面部の6つの面部を有して立体形状に形成される立体ユニットを1つ以上備える建築物において、 前記立体ユニットの6つの面部のうちの、少なくとも1つの壁面部を含む面部に対して、耐震強度補強手段を適用し、 前記耐震強度補強手段として、 前記壁面部の側端部にある隙間から前記面部の内部空間に注入された発泡ポリウレタン、 前記面部の外面に設置された下地材の表面に吹き付けられた発泡ポリウレタン、 前記面部の外面と前記面部の外面から所定寸法を設けて前記外面を覆う外枠部材との空間に、前記面部の外面と前記外枠部材との間にある側端部の隙間から注入された発泡ポリウレタン、 のいずれかを用いて前記壁面部の壁倍率を変形角1/200に対して壁仕上げなしのとき平均1.01程度、プラスタボード仕上げのとき平均2.49程度に上昇させ、耐震強度を向上させる、ことを特徴とする建築物。」 と補正された(下線は出願人が付与)。 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である壁面部の壁倍率を「変形角1/200に対して壁仕上げなしのとき平均1.01程度、プラスタボード仕上げのとき平均2.49程度に」と、限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-097728号公報(以下、「刊行物1」という)には、既設木造建築物の気密断熱改修工法に関して、次の技術的事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】屋根垂木の下または母屋の下に下地材を打ち付け、その下面に現場発泡ポリウレタンを吹き付ける、もしくは桁の上に下地材を打ち付け上面または下面に現場発泡ポリウレタンを吹き付ける、もしくは天井板の上面に現場発泡ポリウレタンを吹き付けする、次に壁体内の充填断熱材と外壁材の間、もしくは充填断熱材と内装材の間に現場発泡ポリウレタンを注入し、布基礎の内側と土間コンクリート表面に現場発泡ポリウレタンを吹き付けることを特徴とする、既設木造建築物の気密断熱改修工法。」 (イ)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、既設木造建築物の屋根、桁、天井、壁、床、布基礎、土間コンクリート、床下土壌の、それぞれ特定な個所に、必要において下地を設けたうえ気密断熱工事を施すことにより、気密断熱の連続性を確保する気密断熱改修工法に関するもので、特に現状の建築物をほとんど傷つけず、原則として充填済みの断熱材等は撤去しない施工方法なので産業廃棄物も発生しない、しかも住んだまま施工が可能なので住人の移動も不要であることに特徴がある気密断熱改修工法に関するものである。」 (ウ)「【0004】 【課題を解決する為の手段】請求項1記載の既設木造建築物の気密断熱改修工法は、屋根垂木又は母屋の下もしくは桁の上に、下地材を打ち付けて、その下面又は上面に現場発泡ポリウレタンを吹き付ける、あるいは天井板の上面に現場発泡ポリウレタンを吹き付け、屋根面もしくは天井面の気密断熱施工する、又壁体内の気密断熱は充填断熱材を現状で使えるものについては撤去せずに、外壁材と充填断熱材の間、もしくは充填断熱材と内装材の隙間をから注入ホースで現場発泡ポリウレタンを注入し、布基礎の内側と土間コンクリート表面には現場発泡ポリウレタンを吹き付けることを特徴とする。」 (エ)「【0009】図1は本発明による既設木造建築物の実施例を示す全体図であるがまず屋根垂木1の下面に下地材4として厚さ3mm程度の合板もしくはシートを打ち付け、その下面より現場発泡ウレタン5を吹き付けて屋根部分の気密断熱を行う。 【0010】図2は母屋2の下面に下地材4として3mm程度の合板もしくはシートを打ち付け、その下面より現場発泡ウレタン5を吹き付けて屋根部分の気密断熱を実施したものである。 【0011】図1で屋根断熱を行わない場合は、天井断熱として天井板6の上面に現場発泡ウレタン5を吹き付けて天井部分の気密断熱を行う。 【0012】図3は桁3の上面に下地材4として3mm程度の合板もしくはシートを打ち付け、その上面より現場発泡ウレタン5を吹き付けて屋根部分の気密断熱を実施したものである。 【0013】図1左側で壁体内の充填断熱材7と外壁材8との隙間もしくは図1右下側の充填断熱材7と内装材9の隙間に図6の各注入個所17より現場発泡ウレタン5を注入し、壁体内の気密断熱を行う、図1右上で壁体内に充填断熱材が無い場合は、壁体内空間全体に現場発泡ポリウレタン5を注入し、壁体内の気密断熱を行う。」 (オ)「【0017】図5は布基礎10の内側と土間コンクリート11表面もしくは床下土壌12表面には処理をせず、床板14の下面に現場発泡ウレタンを吹き付けて床部分の気密断熱を確保する実施例である。」 (カ)上記記載事項(ア)?(オ)と共に図1?6を参照すると、図1?6には、「屋根」、「天井板」、「壁体部」及び「床板」を備えた「建築物」が記載されている。 (キ)上記記載事項(エ)と共に図6を参照すると 「【0013】図1左側で壁体内の充填断熱材7と外壁材8との隙間もしくは図1右下側の充填断熱材7と内装材9の隙間に図6の各注入個所17より現場発泡ウレタン5を注入し、壁体内の気密断熱を行う、図1右上で壁体内に充填断熱材が無い場合は、壁体内空間全体に現場発泡ポリウレタン5を注入し、壁体内の気密断熱を行う。」との記載において、「現場発泡ウレタン5を注入」する「各注入個所17」は「壁体部の側端部にある隙間」であるといえる。 すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。 「屋根、天井板、壁体部、及び床板を備えた建築物において、屋根垂木、天井板、壁体部、あるいは床板に気密断熱工事を施し、 当該気密断熱工事として 屋根垂木に下地材を打ち付けてその下面に現場発泡ウレタンを吹き付け、 天井板の上面に現場発泡ポリウレタンを吹き付け、 壁体部については壁体部の側端部にある隙間から、壁体内の充填断熱材と外壁材の間、もしくは充填断熱材と内装材の間に現場発泡ポリウレタンを注入し、 床板の下面に現場発泡ウレタンを吹き付けたことを特徴とする建築物」 (2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である登録実用新案第3095275号公報(以下「刊行物2」という。)には、建物の壁、床又は天井の耐震構造に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。 (ア)「【考案の詳細な説明】 【0001】 【考案の属する技術分野】 本考案は建物の壁、床又は天井の耐震構造に関するものであり、特に優れた耐震性を有すると共に好ましい断熱性、遮音性、気密性等を備え、居住者等の健康に好影響を及ぼすようにした建物の壁、床又は天井の耐震構造に係るものである。」 (イ)「【0006】 (1)内側部材と、外側部材と、該内側部材と外側部材との間の空間部に充填したマイナスイオンを発生するポリウレタンフォームとよりなることを特徴とする建物の壁、床又は天井の耐震構造(請求項1)。」 (ウ)「【0009】 【作用】 [請求項1の考案] 建物の壁、床又は天井における内側部材と外側部材は、該内側部材と外側部材との間に充填されたポリウレタンフォームを介して一体化される。換言すれば、壁、床又は天井の全体が一体化される。従って、該壁、床又は天井は地震による水平方向の衝撃に対しても、垂直方向の衝撃に対しても充分に耐え得るものとなる。また、該壁、床又は天井の断熱性、遮音性、気密性等も著しく向上する。」 (3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-49273号公報(以下「刊行物3」という。)には、建築、構築物の外装施工方法に関して、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。 (ア)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、建築、構築物の外装施工方法に関するものであり、さらに詳しくは、断熱構造と気密構造を有する外装(高断熱・高気密の構造)を一挙に形成できる外装施工方法に係るものである。」 (イ)「【0006】 【課題を解決するための手段】本発明はこのような欠点を除去するために、鉄骨下地よりなる躯体の表側に外装材を形成し、鉄骨下地よりなる躯体と断熱ボードの境界に気密材を貼着し、鉄骨下地よりなる躯体の屋内側の面に剥離シートを貼着し、鉄骨下地よりなる躯体と外装材により囲まれた空間に現場発泡型の合成樹脂発泡体を吹き付けると共に鉄骨下地よりなる躯体間に空間ができるように充填し、その後剥離シートを剥がし、鉄骨下地よりなる躯体の屋内側の面には内装材を施工して施工することにより、断熱性、耐震性、気密性、施工性、防水性を向上し、結露防止を図った外装施工方法を提供するものである。」 3.本願補正発明と引用発明との対比 (1)両発明の対応関係 引用発明は「天井板」、「壁体部」、「床板」が結合された構造を備えた「建築物」であり、「壁体部」を「4つの壁面部」で形成することは普通に行われていることであるので、引用発明の「建築物」は、本願補正発明における「4つの壁面部・上面部・下面部の6つの面部を有して立体形状に形成される立体ユニットを1つ以上備える建築物」に相当する。 また、引用発明の「壁体部については壁体部の側端部にある隙間から、壁体内の充填断熱材と外壁材の間、もしくは充填断熱材と内装材の間に現場発泡ポリウレタンを注入し」の壁体部は、本願補正発明の「立体ユニットの6つの面部のうちの、少なくとも1つの壁面部」に相当し、そこに注入することは「1つの壁面部を含む面部に対して」注入することといえる。そして、引用発明は「壁体部の側端部にある隙間から、壁体内の充填断熱材と外壁材の間、もしくは充填断熱材と内装材の間に現場発泡ポリウレタンを注入」しており、この場合には、壁体部の「外壁材」と「内装材」との間には「内部空間」が形成されて、「現場発泡ポリウレタン」を「注入」することにより、「内部空間に注入された発泡ポリウレタン」が形成されることになるので、引用発明の「壁体部の側端部にある隙間から壁体内の充填断熱材と外壁材の間、もしくは充填断熱材と内装材の間に現場発泡ポリウレタン」は、本願補正発明の「立体ユニットの6つの面部のうちの、少なくとも1つの壁面部を含む面部に対して」「前記壁面部の側端部にある隙間から前記面部の内部空間に注入された発泡ポリウレタン」に相当する。 (2)両発明の一致点 「4つの壁面部・上面部・下面部の6つの面部を有して立体形状に形成される立体ユニットを1つ以上備える建築物において、 前記立体ユニットの6つの面部のうちの、少なくとも1つの壁面部を含む面部に対して前記壁面部の側端部にある隙間から前記面部の内部空間に注入された発泡ポリウレタン、 を用いた建築物。」 (3)両発明の相違点 ア.壁面部の内部空間に注入された発泡ポリウレタンを、本願補正発明は「耐震強度補強手段として」、1つの壁面部に対して「耐震強度補強手段を適用」しているのに対して、引用発明は「気密断熱」工事として使用している点。 イ.本願補正発明は「壁面部の壁倍率を変形角1/200に対して壁仕上げなしのとき平均1.01程度、プラスタボード仕上げのとき平均2.49程度に上昇させ、耐震強度を向上させる」のに対して、引用発明は、そうではない点。 4.本願補正発明の容易推考性の検討 (1)相違点ア.について 刊行物2の記載事項(ウ)には、 「・・・建物の壁、床又は天井における内側部材と外側部材は、該内側部材と外側部材との間に充填されたポリウレタンフォームを介して一体化される。換言すれば、壁、床又は天井の全体が一体化される。従って、該壁、床又は天井は地震による水平方向の衝撃に対しても、垂直方向の衝撃に対しても充分に耐え得るものとなる。また、該壁、床又は天井の断熱性、遮音性、気密性等も著しく向上する。」 ことが記載されており、 また、刊行物3の記載事項(イ)には、 「・・・鉄骨下地よりなる躯体と外装材により囲まれた空間に現場発泡型の合成樹脂発泡体を吹き付けると共に鉄骨下地よりなる躯体間に空間ができるように充填し、その後剥離シートを剥がし、鉄骨下地よりなる躯体の屋内側の面には内装材を施工して施工することにより、断熱性、耐震性、気密性、施工性、防水性を向上し、結露防止を図った外装施工方法を提供するものである。」 ことが記載されている。 このように、発泡ウレタン等の発泡性の樹脂部材を建築物に対して用いることにより「気密断熱」を高めることと併せて「耐震強度」を補強することは周知慣用技術であり、かつ引用発明の建築物においても耐震強度を補強することは望ましいことであるので、引用発明において、発泡ポリウレタンを建築物の壁面部を含む面部に対して適用するにあたり「耐震強度補強手段」として適用し、本願補正発明の相違点ア.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点イ.について ア.まず、本願補正発明において相違点イ.に係る構成を採用した効果に関して本願明細書には、次の記載がある。 (ア)「【0032】 【表1】 現行の設計基準での『壁倍率』の考え方は、『変形角1/200における壁倍率』を設計に用いている。 そこで、実験結果から、仕上げなしの断熱材だけの壁の壁倍率は1.01、両面プラスターボードの間に断熱材を充填した壁の壁倍率は2.49となる。」 (イ)「【0034】 建築基準法での建物重量は、平屋建ての場合、軽い屋根で1.07kN/m^(2)、重い屋根で1.47kN/m^(2)、2階建ての場合、軽い屋根で2.78kN/m^(2)、重い屋根で3.14kN/m^(2)と仮定して、必要壁量を定めている。 阪神大震災の結果、建物の地震時強度が建物重量の0.46倍以上有った建物の被害は少ない、との報告があった。 そこで、阪神大地震で被害にあわない、「床面積当りの壁量と壁倍率の関係」は、次のようになる。 【0035】 調査した建物の最小の壁量 0.28m/m^(2) 平家軽い屋根 必要耐力 1.07×0.46=0.492kN 必要壁耐力 0.492/0.28=1.76kN/m 必要壁倍率 1.76/1.96=0.9 全ての壁が0.9以上の壁倍率 平家重い屋根 必要耐力 1.47×0.46=0.676kN 必要壁耐力 0.676/0.28=1.42kN/m 必要壁倍率 2.42/1.96=1.23 全ての壁が1.23以上の壁倍率 2階建軽い屋根 必要耐力 2.78×0.46=1.279kN 必要壁耐力 1.279/0.28=4.57kN/m 必要壁倍率 4.57/1.96=2.33 全ての壁が2.33以上の壁倍率 2階建重い屋根 必要耐力 3.14×0.46=1.444kN 必要壁耐力 1.444/0.28=5.16kN/m 必要壁倍率 5.16/1.96=2.63 全ての壁が2.63以上の壁倍率 【0036】 ここでの、必要壁倍率は変形角1/50程度に対応した壁倍率であり、実験結果は十分これらの値を満足している。 このように、本発明による発泡ポリウレタンを注入(充填)した壁材を用いることにより、阪神大地震程度の震度7クラスの地震を受けてもほとんど被害の生じない建物を作ることが出来る。 調査した建物は最近の建物で壁量が多いことが予想されるが、発泡ポリウレタンが注入された壁材では、壁倍率が大きいので、壁量が半分程度になっても安全である。 また、壁量の多い建物では外壁のみを発泡ポリウレタン入りの壁として、間仕切り壁には発泡ポリウレタンを入れなくても、建物は安全であるともいえる。 ただし、床の強度(床倍率)や、偏心率については検討が必要である。」 イ.そうすると、本願補正発明の「 壁面部の壁倍率を変形角1/200に対して壁仕上げなしのとき平均1.01程度、プラスタボード仕上げのとき平均2.49程度に上昇させ、耐震強度を向上させる」としたことの技術的意義は、「阪神大地震程度の震度7クラスの地震を受けてもほとんど被害の生じない建物を作る」ことを目的として「建物の最小の壁量が0.28m/m^(2)」である建物において「地震時強度が建物重量の0.46倍」以上となる耐震強度の補強が壁倍率の選択によってなされ得ることにあると認識されるものの、本願補正発明の「変形角1/200」に対して「平均1.01程度」及び「平均2.49程度」となる値固有の技術的意義、例えば臨界的な意義は、本願明細書から認識できるものではない。 ウ.そして、建物を設計するにあたり、目標となる震度において被害を生じないように、壁部材の強度を上げて特定の値にすることは、例えば特開2000-204693号公報【0008】?【0010】に記載されるように周知慣用技術であり、また、本願補正発明において特定された値についても、上記イ.に記載したようにその値の選択により格別な効果が得られような臨界的な意義を生じる(例えば、「建物の最小の壁量が0.28m/m^(2)」である建物において「地震時強度が建物重量の0.46倍」以上となるために最適な壁倍率の提示等)ものと認識できるものではなく、建物の設計において選択された一つの例が示されたにすぎず、これにより従来技術と比較して異質のあるいは際だって優れた効果が得られるわけでもない。 エ.したがって、本願補正発明において、壁部材の強度のパラメータである壁倍率を上昇させて、その値を特定することにより、上記(1)の引用発明において発泡ポリウレタンを「耐震強度補強手段」として適用するにあたり、上記周知慣用技術によって壁部材の強度を特定の値に設計して、本願補正発明の相違点イ.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (3)総合判断 そして、本願補正発明の総合的な作用効果は、引用発明、刊行物2?3記載の事項、及び当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2?3記載の事項、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成24年6月5日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年11月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 4つの壁面部・上面部・下面部の6つの面部を有して立体形状に形成される立体ユニットを1つ以上備える建築物において、 前記立体ユニットの6つの面部のうちの、少なくとも1つの壁面部を含む面部に対して、耐震強度補強手段を適用し、 前記耐震強度補強手段として、 前記壁面部の側端部にある隙間から前記面部の内部空間に注入された発泡ポリウレタン、 前記面部の外面に設置された下地材の表面に吹き付けられた発泡ポリウレタン、 前記面部の外面と前記面部の外面から所定寸法を設けて前記外面を覆う外枠部材との空間に、前記面部の外面と前記外枠部材との間にある側端部の隙間から注入された発泡ポリウレタン、 のいずれかを用いて前記壁面部の壁倍率を上昇させ、耐震強度を向上させる、ことを特徴とする建築物。」 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3とその記載事項は、前記の「第2 2.」に記載したとおりである。 3.本願発明と引用発明との対比 本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明が、前記「第2」の「3.」、「4.」に記載したとおり、引用発明、刊行物2?3記載の事項及び当業者に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も本願補正発明と同様の理由により、引用発明、刊行物2?3記載の事項、及び当業者に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-20 |
結審通知日 | 2013-08-27 |
審決日 | 2013-10-09 |
出願番号 | 特願2009-150761(P2009-150761) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(E04G)
P 1 8・ 121- Z (E04G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 五十幡 直子 |
特許庁審判長 |
杉浦 淳 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 中川 真一 |
発明の名称 | 建築物およびその耐震補強方法 |
代理人 | 萩原 誠 |