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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1281864
審判番号 不服2012-18324  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-20 
確定日 2013-11-21 
事件の表示 特願2009-116358「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日出願公開、特開2010-264817〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件は、平成21年5月13日の出願であって、平成24年5月8日付けで拒絶理由通知がなされ、平成24年6月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年7月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月20日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において、平成25年5月29日付けで拒絶理由通知がなされ、平成25年8月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであり、その請求項1ないし6に係る発明は、平成24年6月28日付けの手続補正書により補正された明細書、平成25年8月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲、及び、出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
車両の動力を発生する内燃機関と、電力を蓄える蓄電装置と、クラッチを介して上記内燃機関の出力軸に連結し、上記蓄電装置の電力によって車両の動力を発生するモータと、上記内燃機関の吸気通路に設けられた電動アクチュエータにより駆動され、吸入空気量を制御するスロットルバルブとを備えたハイブリッド車両の制御装置において、無負荷アイドリング時に機関回転速度を目標アイドル回転速度に近づけるようにスロットルバルブ開度をフィードバック制御しつつ、目標機関回転速度が得られるようにスロットルバルブの目標開度を学習補正する吸入空気量学習であって、モータによる車両走行中に上記クラッチが開放状態かつ上記内燃機関がかかっている状態で上記学習が実行されることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」

2.引用刊行物
(1)引用文献
本件出願前に頒布され、当審の拒絶理由に引用された刊行物である特開2007-153165号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。
(なお、下線は発明の理解の一助として、当審において付したものである。)

ア)「【0004】
本発明の車両およびその制御方法は、内燃機関から出力される動力と変速機を介して電動機から出力される動力とを用いて走行する車両において、内燃機関のアイドル運転の制御量を適正に学習することを目的の一つとする。 …後略…」(段落【0004】)

イ)「【0019】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、変速機60を介して動力分配統合機構30に接続されたモータMG2と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0020】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0021】
動力分配統合機構30は、 …中略… サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32には変速機60を介してモータMG2がそれぞれ連結されており、 …中略… リングギヤ32に出力された動力は、ギヤ機構37,デファレンシャルギヤ38を介して駆動輪39a,39bに出力される。
【0022】
モータMG1およびモータMG2は、共に発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2の一方で発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2から生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。 …後略…」(段落【0019】ないし【0022】)

ウ)「【0026】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。」(段落【0026】)

エ)「【0030】
続いて、エンジン22のアイドル運転の制御量を学習する学習条件(以下、アイドル制御量の学習条件という)が成立しているか否かを判定する(ステップS120,S130)。学習条件が成立しているか否かの判定は、具体的には、アイドル運転判定フラグFの値を調べると共に(ステップS120)、車速Vを閾値Vrefと比較することにより行なわれ(ステップS130)、アイドル運転判定フラグFが値1であり且つ車速Vが閾値Vref未満のときに学習条件が成立していると判定される。ここで、アイドル運転判定フラグFは、初期値として値0が設定されると共にエンジン22をアイドル運転するときに後述するステップS250で値1が設定されるフラグである。また、閾値Vrefは、エンジン22の特性などにより定められ、例えば、55km/hや60km/hなどに設定することができる。」(段落【0030】)

オ)「【0040】
一方、車速Vが閾値Vref未満のときには、アイドル制御量の学習条件が成立していると判定される。いま、変速機60の変速指示がなされていないときを考えているから(ステップS290)、アイドル制御量の学習が完了したか否かを判定し(ステップS350)、学習が完了していないと判定されたときには、要求トルクTr*を閾値Trefと比較する(ステップS360)。ここで、閾値Trefは、アイドル運転の制御量の学習を継続可能か否かを判定するために用いられるものであり、例えば、モータMG2から出力可能なトルクの上限近傍の値として設定される。したがって、ステップS360の要求トルクTr*と閾値Trefとの比較は、要求トルクTr*をモータMG2からだけで出力しつつエンジン22をアイドル運転することができるか否か、即ちエンジン22のアイドル運転が許容されるか否かを判定するものである。要求トルクTr*が閾値Tref未満のときには、エンジン22のアイドル運転が許容されると判断し、アイドル運転の制御量の学習が行なわれるようエンジンECU24に学習の指示を行ない(ステップS370)、前述したステップS240以降の処理を実行する。この場合、エンジン22のアイドル運転は継続される。また、学習の指示を受信したエンジンECU24は、エンジン22のアイドル回転数を目標アイドル回転数にするのに必要な制御量(例えば、図示しないスロットルバルブのスロットル開度など)の学習を行ない、その値を記憶して次回以降のエンジン22のアイドル運転時の制御に用いる。」(段落【0040】)

(2)引用文献の記載から分かること

カ)上記イ)及びウ)並びに図1の記載から、車両の動力を発生するモータMG2が、動力分配統合機構30を介してエンジン22のクランクシャフト26に連結されており、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードにおいて、モータMG2による車両走行中に動力分配統合機構30は、動力伝達関係においてエンジン22と非接続状態であることが分かる。

キ)電子制御において、スロットルバルブを電動アクチュエータ駆動とすることは通常態様であるから、エンジン22の吸気通路に設けられた電動アクチュエータにより駆動され、吸入空気量を制御するスロットルバルブを備える装置であることが分かる。

ク)アイドル運転制御量の学習を無負荷で行うこと及びフィードバック制御とすることは、それぞれ通常態様であるから、上記ア)ないしキ)並びに図1及び2の記載から、次のことが分かる。
無負荷アイドリング時にアイドル回転数を目標アイドル回転数に近づけるようにスロットルバルブ開度をフィードバック制御しつつ、目標アイドル回転数にするために必要なスロットルバルブ開度を学習補正する吸入空気量学習であって、モータMG2による車両走行中に動力分配統合機構30が非接続状態かつエンジン22がかかっている状態で学習が実行されることことが分かる。

(3)引用文献に記載された発明
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「車両の動力を発生するエンジン22と、電力を蓄えるバッテリ50と、動力分配統合機構30を介してエンジン22のクランクシャフト26に連結し、バッテリ50の電力によって車両の動力を発生するモータMG2と、エンジン22の吸気通路に設けられた電動アクチュエータにより駆動され、吸入空気量を制御するスロットルバルブとを備えたハイブリッド自動車20のハイブリッド用電子制御ユニット70において、無負荷アイドリング時にアイドル回転数を目標アイドル回転数に近づけるようにスロットルバルブ開度をフィードバック制御しつつ、目標アイドル回転数にするために必要なスロットルバルブ開度を学習補正する吸入空気量学習であって、モータMG2による車両走行中に動力分配統合機構30が非接続状態かつエンジン22がかかっている状態で学習が実行されるハイブリッド自動車20のハイブリッド用電子制御ユニット70。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「エンジン22」は、その機能又は技術的意義からみて、本願発明の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「バッテリ50」は「蓄電装置」に、「クランクシャフト26」は「出力軸」に、「モータMG2」は「モータ」に、「スロットルバルブ」は「スロットルバルブ」に、「ハイブリッド自動車20」は「ハイブリッド車両」に、「ハイブリッド用電子制御ユニット70」は「制御装置」に、「アイドル回転数」は「機関回転速度」に、「目標アイドル回転数」は「目標アイドル回転速度」に、「目標アイドル回転数にするために必要なスロットルバルブ開度」は「目標機関回転速度が得られるようにスロットルバルブの目標開度」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「動力分配統合機構30」及び「非接続状態」は、それぞれ「動力伝達機構」及び「非接続状態」という限りにおいて、本願発明の「クラッチ」及び「開放状態」に相当する
したがって、本願発明と引用発明は、
「車両の動力を発生する内燃機関と、電力を蓄える蓄電装置と、動力伝達機構を介して内燃機関の出力軸に連結し、蓄電装置の電力によって車両の動力を発生するモータと、内燃機関の吸気通路に設けられた電動アクチュエータにより駆動され、吸入空気量を制御するスロットルバルブとを備えたハイブリッド車両の制御装置において、無負荷アイドリング時に機関回転速度を目標アイドル回転速度に近づけるようにスロットルバルブ開度をフィードバック制御しつつ、目標機関回転速度が得られるようにスロットルバルブの目標開度を学習補正する吸入空気量学習であって、モータによる車両走行中に動力伝達機構が非接続状態かつ内燃機関がかかっている状態で学習が実行されるハイブリッド車両の制御装置。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
「動力伝達機構」及び「非接続状態」について、本願発明においては、「クラッチ」及び「開放状態」であるのに対し、引用発明においては、「動力分配統合機構30」及び「非接続状態」である点。(以下、「相違点」という。)。

4.判断
モータ及びエンジンのいずれか一方又は両者の動力により車両走行を行うことが一般的であるハイブリッド車両の技術分野において、モータによる車両走行を行う際に、エンジンを動力伝達機構から開放状態とするクラッチ等の接続手段を設けることは慣用技術である(例として、当審の拒絶理由において引用した特開2003-293816号公報参照[段落【0019】及び図1]。以下、「慣用技術」という。)。
そして、引用文献には、要求トルクをモータMG2からだけで出力しつつ、エンジンのアイドル運転の制御量の学習を行うことが記載されており(上記2.(1)オ))、上記2.(2)ク)でも述べたように、アイドル運転の制御量の学習は、無負荷アイドリングで行うことが通常であるから(例として、当審の拒絶理由において引用した特開平11-107834号公報参照[段落【0045】及び【0046】]。)、引用発明のいわゆるアイドリング学習制御における「動力分配統合機構30」の「非接続状態」を、上記慣用技術に基づき、クラッチの開放状態とすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び慣用技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

なお、請求人は、平成25年8月1日付け意見書において、引用文献の学習制御が、ハイブリッドモードの走行であって、モータのみで走行するEVモードでの走行ではない旨の主張をしているが、引用文献には、「エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モード」(上記2.(1)ウ))について記載されており、該モードはEVモードに対応するものである。してみると、引用文献記載の前記モードでの走行を含め、慣用技術といえるEVモードでの走行における、引用発明のアイドリング学習制御として構成することに、当業者の格別の創意は要しないといえるから、上記請求人の主張は採用できない。
特に、当審の拒絶理由において、ハイブリッド車両の動力切換に係るクラッチの開放・接続状態に係る例、及び、上記慣用技術の例として提示した特開2003-293816号公報には、本願発明の実施例[図1等参照。]と同様に、エンジン1とモータ2との間に第1クラッチ4を設け、モータ2と駆動輪11との間に第2クラッチ5を設けるハイブリッド車両において、モータ走行する場合に、第1クラッチ4を開放し、第2クラッチを締結することで、エンジン1のフリクションの影響を受けずにモータ2の動力を駆動輪に伝えること(EVモードといえる。)が記載されている(特に、【0019】及び図1参照。)。そして、アイドリング学習制御を備えるエンジンとすることは、ごく一般的な態様であるから、前記した慣用技術といえる第1及び第2クラッチを備えたハイブリッド車両において、引用発明のアイドリング学習制御を適用することに困難性はないし、該適用によりアイドリング学習制御を具体化したハイブリッド車両が、本願発明と同様の構成となることは、明らかである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び慣用技術に基き、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-19 
結審通知日 2013-09-24 
審決日 2013-10-07 
出願番号 特願2009-116358(P2009-116358)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 裕介  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 藤原 直欣
加藤 友也
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置  
代理人 橋本 剛  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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