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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1281890
審判番号 不服2012-9145  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-17 
確定日 2013-11-20 
事件の表示 特願2006-536042「エレクトロルミネセンスのための新規材料、およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年5月6日国際公開、WO2005/040302、平成19年6月28日国内公表、特表2007-517079〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.出願の経緯
本願の特許出願の経緯は次のとおりである。
2003年10月22日 パリ条約による優先権主張1:ドイツ連邦共和国
2004年1月20日 パリ条約による優先権主張2:ドイツ連邦共和国
2004年10月21日 国際出願日(欧州特許庁)
平成18年4月24日 国内書面提出(特許法第184条の5第1項)
平成18年6月23日 翻訳文提出(同法第184条の4第1項ただし書)
平成23年4月25日付け 拒絶理由通知書
平成23年8月3日 意見書及び手続補正書提出
平成24年1月6日付け 拒絶査定
平成24年5月17日 拒絶査定不服審判請求及び手続補正書提出
平成24年6月12日付け 前置報告書
平成24年9月24日付け 審尋
平成24年12月20日 回答書提出

第2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年5月17日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年5月17日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲を次のとおりに補正するものである。
本件補正前
【請求項1】
(A)少なくとも1つの構造単位L=Xを含む1?100モル%の1以上の繰り返し単位(MONO1)を含む、5?99.9重量%の少なくとも1つのポリマー(POLY1)、
(式中、用いられる記号には、以下が適用される。すなわち、
Lは、出現毎に同一であるか異なり、(R^(1))(R^(2))C、(R^(1))P、(R^(1))(R^(2))(R^(3))P、(R^(1))(R^(2))S、(R^(1))または(R^(2))S(=O)であり、
Xは、出現毎に同一であるか異なり、OまたはSであって、但し、Lが、Sを表わす場合には、Xは、Sでなく、
R^(1)、R^(2)、R^(3)は、出現毎に同一であるか異なり、H、F、CN、N(R^(4))_(2)、1?40のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基若しくはチオアルコキシ基(これは、R^(5)により置換されていてもよく、または置換されない)(ここで、1以上の非隣接のCH_(2)基は、-R^(6)C=CR^(6)-、-C≡C-、Si(R^(6))_(2)、Ge(R^(6))_(2)、Sn(R^(6))_(2)、C=O、C=S、C=Se、C=NR^(6)、-O-、-S-、-NR^(6)-または-CONR^(6)-により置き換えられてもよく、および1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CNまたはNO_(2)により置き換えられてもよい)、または1?40のC原子を有する芳香族環構造若しくはヘテロ芳香族環構造(これは、1以上の置換基R^(5)により置換されていてもよい)であり、ここで、2以上の置換基R^(1)、R^(2)および/またはR^(3)は、互いに単環若しくは多環の脂肪族環構造または芳香族環構造を形成していてもよく、1つの構造単位上の全ての置換基R^(1)?R^(3)が、HまたはFであってはならず、R^(1)?R^(3)基は、さらに任意に、ポリマーへの結合を有してもよく、
R^(4)は、出現毎に同一であるか異なり、1?22のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル鎖若しくはアルコキシ鎖(ここで、さらに、1以上の非隣接のC原子は、-R^(6)C=C^(6)-、-C≡C-、Si(R^(6))_(2)、Ge(R^(6))_(2)、Sn(R^(6))_(2)、-NR^(6)-、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-O-により置き換えられてもよく、また、1以上のH原子は、フッ素により置き換えられてもよい)、1?40のC原子を有するアリール基、ヘテロアリール基若しくはアリールオキシ基(これは、1以上のR^(6)基により置換されていてもよい)、またはOH、またはN(R^(5))_(2)であり、
R^(5)は、出現毎に同一であるか異なり、R^(4)またはCN、B(R^(6))_(2)またはSi(R^(6))_(3)であり、
R^(6)は、出現毎に同一であるか異なり、H、または1?20のC原子を有する脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基である)、および
(B)8?10族の金属を含有する0.1?95重量%の1以上の三重項エミッタ(TRIP1)
を含有する混合物(BLEND1)。
【請求項2】 ≪省略≫
【請求項3】
前記ポリマー(POLY1)が、共役している、部分的に共役している、交差共役している、または共役していないことを特徴とする請求項1または2記載の混合物。
【請求項4】
前記ポリマーPOLY1が、さらなる構造要素を含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項記載の混合物。
【請求項5】 ≪省略≫
【請求項6】 ≪省略≫
【請求項7】
少なくとも1つの前記R^(1)?R^(3)基が、9,9'-スピロビフルオレンを含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項8】
前記構造要素L=Xまたは前記式(1)?(5)の構造要素を含む前記繰り返し単位(MONO1)が、式(6)?(148)(これらは置換されていてもよく、または置換されない)から選択されることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項記載の混合物。

【請求項9】
前記ポリマーが、芳香族ポリケトン、芳香族ポリホスフィンオキシドまたは芳香族ポリスルホン(それぞれは、より優れた溶解性のために、置換されていてもよい)、ポリカルボン酸誘導体、主鎖ポリエステル、側鎖ポリエステル、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリアクリレート、ポリ(ヒドロキシ安息香酸)、ポリ(アルキレンテレフタレート)、ポリカルボン酸無水物、ポリアミド、ポリ(ε-カプロラクタム)、ポリペプチド、ポリアラミド、ポリベンズアミド、ポリイミド、ポリ(アミド-イミド)、ポリ(エステル-イミド)、ポリ(エーテル-イミド)、ポリカーボネート、ポリ(エステル-コ-カーボネート(ester-co-carbonate))、ポリ(イソシアヌレート)、ポリウレタン、ポリエステル-ポリウレタン、ポリ(テレフタレート)、ポリ(アクリレート)、ポリ(フェニルアクリレート)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルアセテート)、側鎖ポリホスフィンオキシド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンアミド、ポリスルホンイミド、ポリ(ビニルケトン)、芳香族ポリビニルケトン、置換若しくは無置換ポリ(ビニルベンゾフェノン)、ポリスチレン類似ケトン(polystyrene-analogous ketone)、ポリカルバゼン(polycarbazene)、ポリニトリル、ポリイソニトリル、ポリスチレン、PVK(ポリビニルカルバゾール)、またはこれらの誘導体のクラスから選択されることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項記載の混合物。
【請求項10】
低分子量、オリゴマー、樹枝状またはポリマーであるさらなる分子を、前記有機半導体に混合することを特徴とする請求項1?9のいずれか一項記載の混合物。
【請求項11】 ≪省略≫
【請求項12】 ≪省略≫
【請求項13】 ≪省略≫
【請求項14】
有機発光ダイオード(PLED)、有機太陽電池(O-SC)、有機レーザダイオード(O-laser)における、または非線形光学素子における請求項1?12のいずれか一項記載の混合物の使用。
【請求項15】
1以上の活性層を含み、ここで、これらの活性層の少なくとも1つが、請求項1?12のいずれか一項記載の混合物の1以上を含む電子部品。
【請求項16】
有機発光ダイオード、有機太陽電池、または有機レーザダイオードであることを特徴とする請求項15に記載の電子部品。

本件補正後
【請求項1】
(A)少なくとも1つの構造単位L=Xを含む5?80モル%の1以上の繰り返し単位(MONO1)を含む、5?99.9重量%の少なくとも1つのポリマー(POLY1)であって、
前記構造要素L=Xは、式(6)?(148)(これらは置換基R^(4)で置換されていてもよく、または置換されない)から選択され、

(式中、用いられる記号には、以下が適用される。すなわち、
R^(1)、R^(2)、R^(3)は、出現毎に同一であるか異なり、H、F、CN、N(R^(4))_(2)、1?40のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基若しくはチオアルコキシ基(これは、R^(5)により置換されていてもよく、または置換されない)(ここで、1以上の非隣接のCH_(2)基は、-R^(6)C=CR^(6)-、-C≡C-、Si(R^(6))_(2)、Ge(R^(6))_(2)、Sn(R^(6))_(2)、C=O、C=S、C=Se、C=NR^(6)、-O-、-S-、-NR^(6)-または-CONR^(6)-により置き換えられてもよく、および1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CNまたはNO_(2)により置き換えられてもよい)、または1?40のC原子を有する芳香族環構造若しくはヘテロ芳香族環構造(これは、1以上の置換基R^(5)により置換されていてもよい)であり、ここで、2以上の置換基R^(1)、R^(2)および/またはR^(3)は、互いに単環若しくは多環の脂肪族環構造または芳香族環構造を形成していてもよく、1つの構造単位上の全ての置換基R^(1)?R^(3)が、HまたはFであってはならず、R^(1)?R^(3)基は、さらに任意に、ポリマーへの結合を有してもよく、
R^(4)は、出現毎に同一であるか異なり、1?22のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル鎖若しくはアルコキシ鎖(ここで、さらに、1以上の非隣接のC原子は、-R^(6)C=C^(6)-、-C≡C-、Si(R^(6))_(2)、Ge(R^(6))_(2)、Sn(R^(6))_(2)、-NR^(6)-、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-O-により置き換えられてもよく、また、1以上のH原子は、フッ素により置き換えられてもよい)、1?40のC原子を有するアリール基、ヘテロアリール基若しくはアリールオキシ基(これは、1以上のR^(6)基により置換されていてもよい)、またはOH、またはN(R^(5))_(2)であり、
R^(5)は、出現毎に同一であるか異なり、R^(4)またはCN、B(R^(6))_(2)またはSi(R^(6))_(3)であり、
R^(6)は、出現毎に同一であるか異なり、H、または1?20のC原子を有する脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基である)、および
(B)0.1?95重量%のトリスオルト金属化イリジウム錯体である三重項エミッタ(TRIP1)
を含有する混合物(BLEND1)。
【請求項2】
前記ポリマー(POLY1)が、共役している、部分的に共役している、交差共役している、または共役していないことを特徴とする請求項1記載の混合物。
【請求項3】
前記ポリマーPOLY1が、さらなる構造要素を含むことを特徴とする請求項1または2記載の混合物。
【請求項4】
少なくとも1つの前記R^(1)?R^(3)基が、9,9'-スピロビフルオレンを含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項5】
前記ポリマーが、芳香族ポリケトン、芳香族ポリホスフィンオキシドまたは芳香族ポリスルホン(それぞれは、より優れた溶解性のために、置換されていてもよい)、ポリカルボン酸誘導体、主鎖ポリエステル、側鎖ポリエステル、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリアクリレート、ポリ(ヒドロキシ安息香酸)、ポリ(アルキレンテレフタレート)、ポリカルボン酸無水物、ポリアミド、ポリ(ε-カプロラクタム)、ポリペプチド、ポリアラミド、ポリベンズアミド、ポリイミド、ポリ(アミド-イミド)、ポリ(エステル-イミド)、ポリ(エーテル-イミド)、ポリカーボネート、ポリ(エステル-コ-カーボネート(ester-co-carbonate))、ポリ(イソシアヌレート)、ポリウレタン、ポリエステル-ポリウレタン、ポリ(テレフタレート)、ポリ(アクリレート)、ポリ(フェニルアクリレート)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルアセテート)、側鎖ポリホスフィンオキシド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンアミド、ポリスルホンイミド、ポリ(ビニルケトン)、芳香族ポリビニルケトン、置換若しくは無置換ポリ(ビニルベンゾフェノン)、ポリスチレン類似ケトン(polystyrene-analogous ketone)、ポリカルバゼン(polycarbazene)、ポリニトリル、ポリイソニトリル、ポリスチレン、PVK(ポリビニルカルバゾール)、またはこれらの誘導体のクラスから選択されることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項記載の混合物。
【請求項6】
低分子量、オリゴマー、樹枝状またはポリマーであるさらなる分子を、前記有機半導体に混合することを特徴とする請求項1?9のいずれか一項記載の混合物。
【請求項7】
有機発光ダイオード(PLED)、有機太陽電池(O-SC)、有機レーザダイオード(O-laser)における、または非線形光学素子における請求項1?6のいずれか一項記載の混合物の使用。
【請求項8】
1以上の活性層を含み、ここで、これらの活性層の少なくとも1つが、請求項1?6の
いずれか一項記載の混合物の1以上を含む電子部品。
【請求項9】
有機発光ダイオード、有機太陽電池、または有機レーザダイオードであることを特徴とする請求項8に記載の電子部品。

2.補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に、さらに以下の発明特定事項の減縮をしたものについて、本件補正後の請求項1とする補正事項を含んでいる。(審判請求書の【請求の理由】の「3-2.補正の説明」を参照)
(ア)繰り返し単位(MONO1)について、本件補正前の請求項8の内容(ただし、式(6)?(148)について、「これらは置換されていてもよく、または置換されない」は「これらは置換基R^(4)で置換されていてもよく、または置換されない」とする。)を組み込む補正
(イ)繰り返し単位(MONO1)の含有割合について、「1?100モル%」を「5?80モル%」とする補正
(ウ)三重項エミッタ(TRIP1)について、「8?10族の金属を含有する」から「トリスオルト金属化イリジウム錯体である」とする補正

3.補正の適否
上記補正事項に関し、本件補正前の請求項1においては、「少なくとも1つの構造単位L=Xを含む……1以上の繰り返し単位(MONO1)」は「Lは、出現毎に同一であるか異なり、(R^(1))(R^(2))C、(R^(1))P、(R^(1))(R^(2))(R^(3))P、(R^(1))(R^(2))S、(R^(1))または(R^(2))S(=O)であり、Xは、出現毎に同一であるか異なり、OまたはSであって、但し、Lが、Sを表わす場合には、Xは、Sでなく」と特定していることから、構造単位L=Xとしてイミド化合物(すなわち、Lが(R^(1))(R^(2))C、XがN-R^(4)に該当するもの)を含んでいないことはその記載上明らかである。
なお、本件補正前の請求項8は、「前記構造要素L=X……を含む前記繰り返し単位(MONO1)が、式(6)?(148)(……)から選択される」と特定しているところ、式(29)?(59)、(142)及び(143)はイミド化合物(Lが(R^(1))(R^(2))C、XがN-R^(4)で、R^(4)がアルキル又はN-フェニルに該当するもの)であることから、本件補正前の請求項8においては、あたかもイミド化合物を包含しているかのようにも見える。しかし、本件補正前の請求項8は、「請求項1?7のいずれか一項記載の混合物」と特定されているとおり、本件補正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件補正前の請求項8においても本件補正前の請求項1における前記発明特定事項を充足することが当然の前提であると理解される。そうすると、本件補正前の請求項8にイミド化合物が記載されていても、それは平成23年8月3日付け手続補正書による補正により請求項14を補正する際に(この補正により請求項14は本件補正前の請求項8となった。)、引用する請求項1からイミド化合物を除外したこととの整合性をとることを単に錯誤により失念したことによるものにすぎないから、本件補正前の請求項8においては、式(29)?(59)、(142)及び(143)のイミド化合物は当然に含まれないものとして解釈すべきである。
(請求人が、平成23年8月3日付け手続補正書により請求項1からイミド化合物を意識的に除外したことは、原審で請求人(原審の出願人)が提出した同日付け意見書の【意見の内容】の「II.補正の内容と根拠」の(iii)において、「補正前の請求項1のLをC、PおよびSに限定し、XをOおよびSに限定し、……と補正しました。」と、また、「III.本願発明が特許されるべき理由」の「1.理由IV、:記載不備について」において、「LをC、PおよびSに限定し、XをOおよびSに限定し、……と補正する上記補正(i)?(iv)により解消したものと信じます。」と述べているとおり、同手続補正書による補正前の請求項1における「Xは、……、O、S、SeまたはN-R^(4)であって」から、「N-R^(4)」を除外する補正をすることにより拒絶理由を解消しようとしていることからも明らかである。)
しかるに、本件補正後の請求項1においては、「少なくとも1つの構造単位L=Xを含む……1以上の繰り返し単位(MONO1)」は、単に「前記構造要素L=Xは、式(6)?(148)(……)から選択され」と特定しているのみであって、別途、LやXについて限定しているわけではないことから、式(29)?(59)、(142)及び(143)というイミド化合物も含まれるものとなった。
(このことは、請求人が、当審において提出した回答書において、「ポリマー中の式(6)?(148)の構造要素は、一個(窒素原子を含む場合)または二個(酸素原子を含む場合)の自由電子対を含むことを特徴としています。」と述べているように、「窒素原子を含む場合」、すなわちイミド化合物を包含させていることからも明らかである。)
そうすると、上記補正により、請求項1に係る発明は式(29)?(59)、(142)及び(143)のイミド化合物に関して拡張するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しないし、また、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

4.むすび
したがって、本件補正は、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記したとおり、平成24年5月17日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?16に係る発明は、平成23年8月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。

「(A)少なくとも1つの構造単位L=Xを含む1?100モル%の1以上の繰り返し単位(MONO1)を含む、5?99.9重量%の少なくとも1つのポリマー(POLY1)、
(式中、用いられる記号には、以下が適用される。すなわち、
Lは、出現毎に同一であるか異なり、(R^(1))(R^(2))C、(R^(1))P、(R^(1))(R^(2))(R^(3))P、(R^(1))(R^(2))S、(R^(1))または(R^(2))S(=O)であり、
Xは、出現毎に同一であるか異なり、OまたはSであって、但し、Lが、Sを表わす場合には、Xは、Sでなく、
R^(1)、R^(2)、R^(3)は、出現毎に同一であるか異なり、H、F、CN、N(R^(4))_(2)、1?40のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基若しくはチオアルコキシ基(これは、R^(5)により置換されていてもよく、または置換されない)(ここで、1以上の非隣接のCH_(2)基は、-R^(6)C=CR^(6)-、-C≡C-、Si(R^(6))_(2)、Ge(R^(6))_(2)、Sn(R^(6))_(2)、C=O、C=S、C=Se、C=NR^(6)、-O-、-S-、-NR^(6)-または-CONR^(6)-により置き換えられてもよく、および1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CNまたはNO_(2)により置き換えられてもよい)、または1?40のC原子を有する芳香族環構造若しくはヘテロ芳香族環構造(これは、1以上の置換基R^(5)により置換されていてもよい)であり、ここで、2以上の置換基R^(1)、R^(2)および/またはR^(3)は、互いに単環若しくは多環の脂肪族環構造または芳香族環構造を形成していてもよく、1つの構造単位上の全ての置換基R^(1)?R^(3)が、HまたはFであってはならず、R^(1)?R^(3)基は、さらに任意に、ポリマーへの結合を有してもよく、
R^(4)は、出現毎に同一であるか異なり、1?22のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル鎖若しくはアルコキシ鎖(ここで、さらに、1以上の非隣接のC原子は、-R^(6)C=C^(6)-、-C≡C-、Si(R^(6))_(2)、Ge(R^(6))_(2)、Sn(R^(6))_(2)、-NR^(6)-、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-O-により置き換えられてもよく、また、1以上のH原子は、フッ素により置き換えられてもよい)、1?40のC原子を有するアリール基、ヘテロアリール基若しくはアリールオキシ基(これは、1以上のR^(6)基により置換されていてもよい)、またはOH、またはN(R^(5))_(2)であり、
R^(5)は、出現毎に同一であるか異なり、R^(4)またはCN、B(R^(6))_(2)またはSi(R^(6))_(3)であり、
R^(6)は、出現毎に同一であるか異なり、H、または1?20のC原子を有する脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基である)、および
(B)8?10族の金属を含有する0.1?95重量%の1以上の三重項エミッタ(TRIP1)
を含有する混合物(BLEND1)。」

第4.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「平成23年4月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由IV?VI」であり、そして、平成24年1月6日付け拒絶査定には、理由V、VIとして以下の点が備考として付記されている。なお、理由Vは特許法第36条第6項第1号、理由VIは同条第4項第1号に関するものである。
「請求項1においては、成分(A)のポリマー、及び成分(B)の三重項エミッタは具体的な化学構造が特定されていないから、これらの成分を不特定の比率で含み得る本願の請求項1に係る発明は非常に多くの化合物の組合せを包含するものである。また、請求項8についても、成分(A)のポリマーはMONO1以外の不特定の99モル%まで含み得るものであるから、本願の請求項8に係る発明は非常に多くの化合物の組合せを包含するものである。請求項1、8を引用する他の請求項に係る発明も同様である。ここで、一般に、化学物質の分野においては、化合物の化学構造の相違がその性質に予想外の差異をもたらすことが知られているから、本願の請求項1に係る発明は様々な性質の材料を含むことになると考えられるが、本願明細書において実際に調製され、その発光性能が実験データで確認されているのは実施例で用いられた配合物1?6で用いられたポリマーP1?P6と所定のIr錯体との混合物だけである。そして、本願明細書の記載を参酌しても、所望の発光特性が得られる発明の範囲を不特定の化学構造を含むポリマーを用いる請求項1?16に記載された広汎な範囲にまで拡張できるものとは認められないし、実施例で採用された特定のポリマーと錯体との組合せ以外によって所望の発光性能を得ようとすれば、(A)、(B)成分の具体的な化学構造の選択や配合割合の最適化のために当業者は過度の試行錯誤を強いられることになるものと認められる。よって、本願の請求項1?16は発明の詳細な説明に実質的に記載したものとすることができず、また、本願の発明の詳細な説明は当業者が請求項1?16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
出願人は、意見書において、「本願発明1は……従来技術による同様の材料と比較して、より優れた溶解性を有し、且つより容易に合成的に入手できる」、「従来技術では式L=Xの単位は三重項エミッタを消光することが知られていましたが……これらの単位がポリマー中に含まれると……消光しないことを見出した」と主張しているが、ポリマーの溶解性や電子状態、エネルギーの授受の性質はその一部の化学構造L=Xだけでなく、ポリマーの全体の化学構造や立体構造により予想外の影響を受けるし、組み合わせて用いられる三重項エミッタの種類、電子状態、相溶性の程度、素子の製造条件等によっても発光特性は変化するから、明細書に記載された限定的な実施例の実験結果は出願人の主張を裏付けるのに十分なものでない。よって、出願人の主張を採用することはできない。」

第5.当審の判断
1.本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
A.「蒸着できる三重項エミッタの上記の利点を、ポリマーアプリケーションにも利用する試みが、近年、ますますなされている。つまり、小分子OLEDの利点と、ポリマーOLED(=PLED)の利点とを組み合わせた、いわゆる複合デバイス構造が考えられ、これは、三重項エミッタを、ポリマー中に混合することにより形成される。他方、三重項エミッタを、ポリマーに共有結合させることもできる。双方の方法とも、化合物を溶液から処理することができ、および低分子量化合物に基づくデバイスについて必要である高価で複雑な蒸着プロセスを必要としないという利点を有する。(例えば、高解像度印刷プロセスを用いての)溶液からの適用は、長期的には、今日では一般的な真空蒸着プロセスに対して、とりわけ、拡張性、構造化能力(structurability)、コーティング効率および経済に関して、かなりの利点を有し得る。ここでもまた、適切なマトリックス材料が必要であり、これは、三重項エミッタへの効率的なエネルギー遷移を可能にし、それと共に、長寿命と低い駆動電圧を有するものである。
WO 04/070772 は、三重項エミッタと、ある種のカルバゾール含有共役ポリマーの配合物およびコポリマーを記載し、これは、効率的な発光と低減された駆動電圧をもたらす。さらなる改善が、未公開特許出願 DE 10328627.6 に記載される、ある種の架橋されたカルバゾール単位を導入することにより達成されている。
しかしながら、上記した刊行物および特許出願に挙げられる進歩にもかかわらず、溶液から処理することができる三重項エミッタの領域において、対応する材料の改善についてのかなりの可能性がなお存在する。改善についての重要な要求は、さらに、とりわけ以下の分野におけるものであると考えられる。
……
(3)直近の従来技術である、上記の架橋されたカルバゾール単位を含むポリマーおよび配合物の溶解性は、なお不満足である。例えば、そこに記載される高い割合の架橋されたカルバゾール単位は、これらが不溶性ポリマーを生じるために、共重合させることができない。しかしながら、適用するには、溶解性のポリマーが必要である。
……
従って、この分野における改善に対する大きな要求が存在し続けることは明らかである。
驚くべきことに、三重項エミッタと組み合わせた、ある種の構造単位を含むポリマーおよび混合物は、従来技術による混合物またはポリマーと比較して、有意な改善を与えることが見出された。これらのポリマーおよび混合物は、……、そして一般的に、容易に溶解するポリマーをもたらす。……。従って、これらは、本特許出願の主題である。」(段落0004?0009)

B.「本発明の目的上、三重項エミッタとは、三重項状態から光を放射する、すなわち、エレクトロルミネセンスにおいて蛍光の代わりにリン光を示す化合物を意味すると解釈され、好ましくは、有機金属三重項エミッタである。この化合物は、原則として、低分子量のもの、オリゴマーのもの、樹枝状のもの、またはポリマーのものであり得る。特定の理論に結び付けられることを望まないが、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt元素を含む全ての発光化合物を、本特許出願の目的上、三重項エミッタと呼ぶ。」(段落0021)

C.「交差共役ポリマーPOLY1……に適するクラスの化合物は、芳香族ポリケトンおよび芳香族ポリスルホンであり、これらのそれぞれは、より高い溶解性を目的として置換されていてもよい。……
ポリマーPOLY1……が、非共役ポリマーである場合、原則として、ポリマーであれば、いずれもの所望のクラスの化合物が、この目的に適するが、配合物として処理される場合には、ポリマーは、他の配合成分が溶解する溶媒または溶媒混合物において十分な溶解性を有し、従って、全ての成分を、溶液から一緒に処理することができる。……
……
ポリマーPOLY1……は、ホモポリマーであり得る、すなわち、これらは、単一のモノマー構造のみを含有するが、一般的にはコポリマーである。……。コポリマーは、ランダム構造、交互構造またはブロック様構造を有するか、あるいは、これらの構造の複数を交互に有する。同様に、ポリマーは、直線構造または樹枝状構造を有し得る。複数の異なる構造要素を用いることにより、例えば、溶解性、固体状態形態等の性質を調節することができる。」(段落0041?0044)

D.「BLEND1……中に混合された三重項エミッタTRIP1……は、室温で三重項状態から光を放射することができる、すなわち、蛍光の代わりにリン光を示す、いずれかの所望の有機物質の、有機金属物質の、または無機物質のクラスから選択され、これらは、まず第1に、とりわけ、重原子、すなわち、36を超える原子番号を有する元素の周期表からの原子を含む化合物である。上記の条件を満たすd遷移金属およびf遷移金属を含む化合物が、この目的に特に適する。8?10族からの元素(すなわち、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt)を含有する、対応する構造単位が、ここでは非常に特に好ましい。トリスオルトメタル化金属錯体に基づく三重項エミッタが、特に好ましい。
三重項エミッタTRIP1……は、低分子量化合物、オリゴマー化合物、樹枝状化合物またはポリマー化合物であり得る。これらは、いくつかの場合において、混合物成分として処理される(BLEND1、……)ので、溶液からの処理を可能にするために、適切な溶媒(例えば、トルエン、キシレン、アニソール、THF、メチルアニソール、メチルナフタレン、またはこれらの溶媒の混合物)への十分な溶解性が必要である。」(段落0062)

E.「本発明による有機半導体、すなわち、本発明による混合物BLEND1……は、とりわけ、上記の従来技術に対して以下の驚くべき利点を有する。
・有機溶媒中での溶解性は、従来技術によるポリマーおよび混合物の溶解性と比べて一様に優れる。このより優れた溶解性は、例えば、直近の従来技術として述べた架橋されたカルバゾール単位に対する利点を提供する。何故なら、そこでの最大限の割合のカルバゾールでは、しばしば、乏しい溶解度が測定されているが、いくつかの場合においては、高いカルバゾールの割合が、デバイス性質のさらなる改善には所望され得るためである。」(段落0072?0073)

F.「例1:ポリマーのためのコモノマーの合成
……。以下で用いるモノマーM1?M5およびM8を、明瞭にするためにここに再び示す。

例2:4,4'-ジブロモベンゾフェノン(式(1)のモノマーM6)
……
例3:ビス(4-ブロモフェニル)フェニルホスフィンオキシド(式(3)のモノマーM7)の合成
……
b)ビス(4-ブロモフェニル)フェニルホスフィンオキシド(モノマーM7)の合成

……
例4:2,7-ジブロモ-9-ケト-10-(2-エチルヘキシル)-10-メトキシジヒドロフェナントレン(式(1)のモノマーM9)の合成
……
b)2,7-ジブロモ-9-ケト-10-(2-エチルヘキシル)-10-メトキシジヒドロフェナントレン(モノマーM9)の合成

……」(段落0079?0088)

G.「例7:配合物における使用のための構造単位TRIP1
一例としてここで用いられる化合物TRIP1は、トリス(フェニルピリジル)イリジウム(III)の誘導体である。……。明瞭にするために、ここで用いたイリジウム錯体を、重ねて以下に示す。

」(段落0093)

H.「例10:ポリマーP1の合成
WO 03/048224 中に記載されるプロセスに従って、合成を行った。19mlのジオキサン、6mlのトルエンおよび12mlのH_(2)O中の、1.6013g(2mmol)のモノマーM1、0.8118g(1.2mmol)のモノマーM2、0.3035g(0.4mmol)のモノマーM5、0.1744g(0.4mmol)のモノマーM7、および2.03g(2.2当量)のリン酸カリウム水和物を用いた。0.45mgのPd(OAc)_(2)および3.65mgのP(o-トリル)_(3)を触媒として用いた。処理すると、58,000g/モルのMn、および185,000g/モルのMw(ポリスチレン標準を用いるTHF中でのGPC)の分子量を有する、1.57gのポリマーを与えた。
例11:ポリマーP2の合成
WO 03/048224 中に記載されるプロセスに従って、合成を行った。19mlのジオキサン、6mlのトルエン、および12mlのH_(2)O中の1.2889g(2mmol)のモノマーM3、0.7951g(1.2mmol)のモノマーM4、0.3035g(0.4mmol)のモノマーM5、0.1360g(0.4mmol)のモノマーM6、および2.03g(2.2当量)のリン酸カリウム水和物を用いた。0.45mgのPd(OAc)_(2)および3.65mgのP(o-トリル)_(3)を触媒として用いた。処理すると、87,000g/モルのMnおよび219,000g/モルのMw(ポリスチレン標準を用いるTHF中でのGPC)の分子量を有する1.72gのポリマーを与えた。
例12:非共役ポリマー(POLY1)P6およびP7
7.5のメルトフローインデックスを有するポリスチレンP6を、アルドリッチ社から商業的に購入した。ポリ(ビニルベンゾフェノン)P7の合成は、Helv. Chim. Acta 1999, 82, 338-346 に従って行った。
例13:配合物の調製
混合物を、トルエン中に、所望する比率、および所望する濃度における配合物成分を溶解することにより調製した。溶解プロセスは、60℃、不活性雰囲気下で行った。混合物を単離する(固体成分の再沈殿)ことなく、この溶液を直接加工した。
例14:ポリマー発光ダイオード(PLED)の製造
PLEDを製造することができる方法は、例えば、WO 04/037887 およびそこに挙げられる文献中に詳細に記載されている。本発明によるポリマーおよび配合物は、従来技術によるポリマーおよび配合物と比較して、より均質なフィルムを形成することが、ここに見出された。特定の理論に結び付けられることを望まないが、本発明者等は、これは、これらの化合物のより優れた溶解性に起因すると推測する。
例15:合成し、用いたポリマーの概要
表1は、合成し、デバイス中で用いたいくつかのポリマーの組成の概要を与える。

」(段落0096?0101)

I.「例16:デバイス例
表2は、ポリマーおよび三重項エミッタ、任意にさらなる成分の種々の配合物の概要を与える。

表2:いくつかのデバイスの結果と、本発明似よる配合物
^(a)ポリマーまたはさらなる配合成分の割合は、三重項エミッタ以外の全ての成分の全組成に基づく
^(b)三重項エミッタの割合は、マトリックス、すなわち、ポリマーまたはポリマーと他の成分の混合物に基づく。」(段落0102?0103)

2.サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反について
(1)ポリマー(POLY1)について
上記摘示A及びEの記載からみて、本願請求項1に係る発明は、高価で複雑な蒸着プロセスを必要とせず、溶液から処理することができる三重項エミッタの領域において、直近の従来技術である架橋されたカルバゾール単位を含むポリマー及び配合物の溶解性はなお不満足であったという問題点を解決するために、「容易に溶解するポリマー」を提供することを課題の一つとするものといえる。
そのため、ポリマーは、置換されたり、複数の異なる構造要素を用いてコポリマーとすることにより、溶解性の改善を行う必要があるものとされているが(摘示C参照)、その一方で、構造単位L=Xを有することがポリマーの溶解性の向上に直接結び付くことの記載はない。
ところで、本願明細書(摘示H)の「例13:配合物の調製」に、「混合物を、トルエン中に、所望する比率、および所望する濃度における配合物成分を溶解することにより調製した。」と、また、「例14:ポリマー発光ダイオード(PLED)の製造」に、「本発明によるポリマーおよび配合物は従来技術によるポリマーおよび配合物と比較して、より均質なフィルムを形成することが、ここに見出された。……、これは、これらの化合物のよりすぐれた溶解性に起因すると推測する。」と記載されている溶解性に優れたポリマーが具体的にいかなる構造のポリマーであるのか明確ではないが、「例15:合成し、用いたポリマーの概要」に「表1は、合成し、デバイス中で用いたいくつかのポリマーの組成の概要を与える。」と記載されていることからみて、表1に記載されたポリマーが溶解性に優れたポリマーに該当するものとも解される。
そして、表1において具体的に合成されたポリマーのモノマー構成は以下のとおりである(摘示H参照)。なお、摘示Fによれば、モノマーは、M6(例2:L=Xが式(6))、M7(例3:L=Xが式(63))及びM9(例4:L=Xが式(140)の置換体)が繰り返し単位(MONO1)に該当する。

ポリマー モノマー
M1 M2 M5 M6 M7 M8 M9
P1 50% 30% 10% 10%
P2 50% 10% 10% 30%
P3 50% 30% 10% 10%
P4 50% 30% 10% 10%
P5 50% 50%
P6 50% 50%

なお、表1には、ポリマーP7も記載されているが、そのモノマー組成は記載されていない。一方、摘示Hの例12には、非共役ポリマーP7として「ポリ(ビニルベンゾフェノン)」が記載されていることから、表1のP7は「ポリ(ビニルベンゾフェノン)」を意味するとも解されるが、同例12には、非共役ポリマーP6も記載されているところ、これは市販のポリスチレンであって、表1のP6とは全く異なるものである。また、摘示Hの例11のポリマーP2はM3(50%)、M4(30%)、M5(10%)及びM6(10%)のモノマー組成を有するものであるから、表1のP2とはモノマー組成において明らかに異なるものである。そうすると、表1におけるポリマーは、例11及び例12に記載されたポリマーと直接関係はないと解される。

ここで、表1のポリマーP1?P6が溶解性に優れたものであるとしても、これらのポリマーは、摘示Fの例1に示されるとおり、大きな置換基構造(例えば、9,9'-スピロビフルオレン構造や複数の2-メチル-ブトキシ基)を有するコモノマー成分(M1、M2及びM8)が50?80モル%含まれた特殊な構造を有するものであるところ、摘示Cに記載のとおり、ポリマーの置換基やコモノマーの構造はそのポリマーの溶解性に影響を与えるものであるから、このような特殊な構造のコモノマーを含まない場合にも同様に優れた溶解性を持つことは自明とはいえない。
そうすると、「構造単位L=Xを含む繰り返し単位(MONO1)」を1?100モル%含む「ポリマー(POLY1)」は、置換基や繰り返し単位(MONO1)以外の繰り返し単位について何も特定されていないことから、すべてが同様の溶解性を有するものということはできず、上記課題を解決できるものということはできない。

(2)三重項エミッタ(TRIP1)について
成分(B)の三重項エミッタ(TRIP1)は、「8?10族の金属を含有する」とだけ特定されているが、摘示Dでは、「重原子、すなわち、36を超える原子番号を有する元素の周期表からの原子を含む化合物」及び「d遷移金属およびf遷移金属を含む化合物」との条件も記載されており、結局、「8?10族の金属」のなかでも「Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt」を含有するものに限られるものと解される。
しかしながら、「Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Ptを含有する」三重項エミッタは種々のものが知られているし、また摘示Bに記載のとおり、三重項エミッタは「低分子量のもの、オリゴマーのもの、樹枝状のもの、またはポリマーのもの」のいずれでもよいとされていることからすると、この三重項エミッタの溶解性は必ずしも同様でないことは当業者に自明である。
そして、本願明細書(摘示G)に具体的に記載されているのは、3種の低分子量のイリジウム錯体(Ir1?Ir3)のみであって、摘示Iの表2には、この3種のイリジウム錯体(Ir1?Ir3)を表1(摘示H)に示されたP1?P6(前述のとおりP7は如何なるポリマーか不明である。)と混合、溶解したものが記載されているものと解される。(なお、溶媒は摘示Hの例13に記載されたトルエンであると解される。)
そうすると、Ir1?Ir3の3種のイリジウム錯体は溶解性が良好であり、またポリマーP1?P6と相溶性があるとしても、種々のポリマー(POLY1)を溶解するための溶媒に対して「8?10族の金属を含有する三重項エミッタ(TRIP1)」であれば、同様に溶解性が優れるものであるとは必ずしも言えるものではない。

(3)小括
上記した理由により、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された事項から、本願請求項1に係る発明の(A)成分のポリマー(POLY1)及び(B)成分の三重項エミッタ(TRIP1)にまで拡張ないし一般化することができない。
したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

なお、上記した点は、平成24年5月17日付け手続補正書により補正(この補正は前記したとおり却下されたものである。)された特許請求の範囲の請求項1で特定された(A)成分のポリマー(POLY1)、すなわち構造要素L=Xが式(6)?(148)から選択されるものであったとしても、また、(B)成分の三重項エミッタ、すなわちトリスオルト金属化イリジウム錯体(低分子量のもの、オリゴマーのもの、樹枝状のもの、またはポリマーのものの態様がある)であったとしても、変わるところはない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合しておらず、同項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、他の理由について検討するまでもなく、原査定の理由Vによって拒絶をすべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-20 
結審通知日 2013-06-25 
審決日 2013-07-08 
出願番号 特願2006-536042(P2006-536042)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C09K)
P 1 8・ 537- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小石 真弓
橋本 栄和
発明の名称 エレクトロルミネセンスのための新規材料、およびそれらの使用  
代理人 竹内 将訓  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 中村 誠  
代理人 白根 俊郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 佐藤 立志  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  

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