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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C12N
管理番号 1281951
審判番号 無効2011-800261  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-22 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3897805号発明「核酸の増幅法およびこれを利用した変異核酸の検出法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3897805号に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての特許出願は、平成16年12月24日(優先権主張:平成15年12月25日、平成16年10月28日)に出願され、平成19年1月5日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。

2.これに対して、請求人は、平成23年12月22日に、請求項1ないし13及び請求項16ないし27に係る発明について、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることを主張して特許無効審判を請求し、証拠方法として、甲第1ないし第11号証を提出した。

3.被請求人は、平成24年3月19日付け答弁書を提出するとともに、証拠方法として、乙第1ないし第9号証を提出した。

4.請求人が平成24年7月12日付け口頭審理陳述要領書(以下、「請求人口頭審理陳述要領書」という。)を提出するとともに、証拠方法として、甲第12号証及び甲第13号証を提出し、被請求人が平成24年7月12日付け口頭審理陳述要領書(以下、「被請求人口頭審理陳述要領書」という。)を提出し、平成24年7月26日に口頭審理が行われた。

5.請求人は、平成24年8月23日付け上申書(以下、「請求人上申書」という。)を提出し、被請求人は、同日付で、上申書(以下、「被請求人上申書」という。)を提出するとともに、証拠方法として、乙第10号証及び乙第11号証を提出した。

第2 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
(1)請求人は、「特許第3897805号の特許請求の範囲の請求項1ないし13、及び請求項16ないし27に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、その主張は、以下のとおりであると認められる。

本件請求項1ないし13、及び請求項16ないし27に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証ないし甲第10号証に記載された発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(以下、「無効理由」という。)

(2)請求人が提出した甲第1ないし第13号証は次のとおりである。
甲第1号証:C.R.Acad.Sci.Paris.Science de lavie/Life Sciences, 1998, 321, 909-914
甲第1号証の2:甲第1号証の全文和訳
甲第2号証:特開2000-37194号公報
甲第3号証:国際公開第02/24902号
甲第4号証:国際公開第96/01327号
甲第4号証の2:甲第4号証の全文和訳
甲第5号証:EMBL/GenBank/DDBJデータベースにある
Accession No. Z72478のHepatitis B virusのDNA配列
甲第6号証:国際公開第01/34838号
甲第7号証:Nucleic Acids Research Vol. 17, No.7, 2503-2516(1989)
甲第8号証:「PCR法最前線-基礎技術から応用まで」(抜粋)(共立出版株式会社、1997年6月15日、425頁?428頁)
甲第9号証:特開2002-345499号公報
甲第10号証:国際公開第01/77317号
甲第11号証:特許第3897805号公報
甲第12号証:市販の非耐熱性ポリメラーゼであるクレノウフラグメントの説明書
甲第13号証:市販の非耐熱性ポリメラーゼであるDNAポリメラーゼ(E.coli)の説明書

2.被請求人の主張
(1)一方、被請求人は、本審判と同じ請求人の先行無効審判(無効2008-800293)の確定審決の登録があった後において、先行無効審判と同一の事実及び同一の証拠に基づき無効審判を請求するものであるから、一事不再理(特許法第167条)の規定に反するものであり、棄却すべきものであると主張している。
詳細には、本審判の甲第1号証及び先行無効審判の甲第3号証は、実質的に同一であり、本審判の甲第2号証は、先行無効審判の甲第2号証と同一であり、本審判の甲第1号証及び甲第2号証に基づく本件発明1の進歩性欠如の無効理由は、先行無効審判において審理されたのであるから、本審判請求における本件発明1の進歩性欠如の主張は、先行無効審判の審理された事項の蒸し返しであると主張している。(答弁書6?12頁(4)一事不再理)

(2)また、請求人が主張する進歩性欠如の無効理由は理由がないものであり、本審判の請求は成り立たないと主張している。(答弁書13?17頁(5)進歩性)

(3)被請求人が提出した乙第1ないし第11号証は次のとおりである。
乙第1号証:先行無効審判の平成21年3月23日付け答弁書
乙第2号証:先行無効審判の平成21年7月24日付け口頭審理陳述要領書
乙第3号証:先行審決取消訴訟の平成22年9月8日付け技術説明資料
乙第4号証:審判経過情報写し
乙第5号証:先行無効審判の審判請求書
乙第6号証:知的財産高等裁判所平成18年4月11日判決
(平成17年(行ケ)第10467号)
乙第7号証:先行無効審判の平成21年8月7日付け口頭審理陳述要領書
乙第8号証:先行無効審判の平成21年11月2日付け第3上申書
乙第9号証:「Nature Methods」 Vol 4, 257-262 (2007)
乙第10号証:特許第3313358号公報
乙第11号証:特開平5-276947号公報

第3 本件発明
本件発明のうち本件請求項1ないし13、及び請求項16ないし27に係る発明は、特許明細書又は図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13、及び請求項16ないし27に記載された事項を発明特定事項とする、以下のとおりのものである。(以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。)

「【請求項1】
標的核酸配列を増幅しうる少なくとも二種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、
前記プライマーセットに含まれる第一のプライマーが、標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるものであり、
前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーが、前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなるものである、プライマーセット。
【請求項2】
さらに、第三のプライマーを含み、前記第三のプライマーは、前記標的核酸配列またはその相補配列にハイブリダイズし、かつ標的核酸配列またはその相補配列へのハイブリダイゼーションについて他のプライマーと競合しないプライマーであり、前記第三のプライマーは、前記第一のプライマーまたは第二のプライマーの増幅産物が部分的に一本鎖の状態になった時に、その一本鎖部分に存在する標的核酸配列にアニーリングすることができ、これにより前記増幅産物中の標的核酸配列に新たな相補鎖合成起点が提供されるプライマーである、請求項1記載のプライマーセット。
【請求項3】
前記第一のプライマーにおいて、前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY’としたときに、{X-(Y-Y’)}/Xが-1.00?1.00の範囲にある、請求項1または2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
前記第二のプライマーにおいて、前記折返し配列(D-Dc’)が2?1000ヌクレオチド長である、請求項1から3のいずれか一項に記載のプライマーセット。
【請求項5】
前記プライマーセットに含まれる少なくとも1種のプライマーが、固相担体または固相担体と結合可能な部位を有するものである、請求項1から4のいずれか一項に記載のプライマーセット。
【請求項6】
固相担体が、水不溶性有機高分子担体、水不溶性無機高分子担体、合成高分子担体、相転移性担体、金属コロイドおよび磁性粒子からなる群から選択されるものである、請求項5に記載のプライマーセット。
【請求項7】
固相担体と結合可能な部位が、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、抗原、抗体、リガンド、レセプター、核酸およびタンパク質からなる群から選択されるものである、請求項5または6に記載のプライマーセット。
【請求項8】
鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、
(a)標的核酸配列を含む鋳型核酸を用意する工程、
(b)請求項1?7のいずれか一項に記載のプライマーセットを用意する工程、および
(c)前記鋳型核酸の存在下において、前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程
を含んでなる、方法。
【請求項9】
核酸増幅反応が等温で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
鎖置換能を有するポリメラーゼが使用される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
核酸増幅反応が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
核酸増幅反応が酵素安定化剤の存在下で行われる、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
核酸試料中の核酸配列における変異の有無を判定する方法であって、
(a)核酸試料を用意する工程、
(b)請求項1?7のいずれか一項に記載のプライマーセットであって、前記変異を有するか、または該変異を有さない核酸配列を標的核酸配列とし、該変異に係るヌクレオチド残基が配列(A)、配列(B)または配列(C)に含まれるように設計されたプライマーセットを用意する工程、および
(c)前記核酸試料の存在下において、前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程
を含んでなる、方法。

【請求項16】
核酸増幅反応が等温で行われる、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
鎖置換能を有するポリメラーゼが使用される、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
核酸増幅反応が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
核酸増幅反応が酵素安定化剤の存在下で行われる、請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
核酸試料中の核酸配列における配列の欠失または挿入の有無を判定する方法であって、(a)核酸試料を用意する工程、
(b)請求項1?7のいずれか一項に記載のプライマーセットであって、欠失または挿入に係る配列を含むか、または該配列を含まない核酸配列を標的核酸配列とし、欠失または挿入に係る部位が、配列(A)、配列(B)もしくは配列(C)に含まれるか、または配列(A)と配列(B)との間もしくは配列(A)と配列(C)との間に配置されるように設計されたプライマーセットを用意する工程、および
(c)前記核酸試料の存在下において、前記プライマーセットによる核酸増幅反応を行う工程
を含んでなる、方法。
【請求項21】
工程(b)において、欠失または挿入に係る部位が前記配列(A)と前記配列(B)との間に配置されるように設計されたプライマーセットが用意される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
欠失または挿入に係る配列が、ゲノム上の遺伝子に含まれるイントロン配列である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
標的核酸配列がmRNAである、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
核酸増幅反応が等温で行われる、請求項20から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
鎖置換能を有するポリメラーゼが使用される、請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
核酸増幅反応が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項20から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
核酸増幅反応が酵素安定化剤の存在下で行われる、請求項20から26のいずれか一項に記載の方法。」

以下において、本件発明1の「標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるもの」である「第一のプライマー」を「TP」(ターンバックプライマー)といい、本件発明1の「前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなるもの」である「第二のプライマー」を「FP」(フォールディングプライマー)ということがある。

第4.当審の判断
1.一事不再理について
被請求人は、本審判請求は一事不再理の規定に反するものであり、棄却されるべきものである旨主張しているので、これについて検討する。
請求人は、先行無効審判において、本件発明1は、先行無効審判の甲第1号証(特許第3313358号公報)を主引用例とし、先行無効審判の甲第2号証(特開2000-37194号公報)及び先行無効審判の甲第3号証(国際公開第96/01327号)を副引用例として適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張するものであるのに対し(乙第5号証;先行無効審判の審判請求書47頁)、本審判において、本件発明1は、甲第1号証(C.R.Acad.Sci.Paris.Science de lavie/Life Sciences,1998,321,909-914)を主引用例とし、甲第2号証(特開2000-37194号公報)(先行無効審判の甲第3号証)を副引用例として適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを主張するものである(審判請求書34頁?38頁)。
両審判における証拠を比較すると、先行無効審判の甲第2号証と本審判の甲第2号証は同一証拠であるものの、先行無効審判で主引用例とした甲第1号証(特許第3313358号公報)は、本審判では証拠として提出されていないから、先行無効審判の甲第3号証と本審判の甲第1号証が実質的に同じ証拠であるか否かにかかわらず、本審判は、「同一証拠」に基づいて請求されたものとはいえない。
また、主引用例との一致点、相違点も異なるものであって、相違点が容易であるとの論理付けもまた異なるものである。
そうであるから、本審判請求は、先行無効審判の蒸し返しとはならない。
よって、本審判請求は一事不再理の規定に反するものであり、棄却すべきものである旨の被請求人の主張は採用できない。

2.無効理由について
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載事項が記載されている。(下線は、当審による。以下、同様。)
ア.「遺伝子増幅技術の発明は、生物学の多くの研究領域を激変させてきた[1-3]。ここ数年、定温で実施できる方法を開発すべく多くの努力が払われてきた[4-10]。この目的で、我々は、DNAポリメラーゼに対する基質として役立つ特殊なプライマー対を試してきた。これらのプライマーは、標的DNAの特異的部分ならびにこのプライマーを「ヘアピン」状の構造に適合させることのできるパリンドローム(回文)配列を含む部分を有する。それら特異的部分は、数百塩基対の長さの標的DNA領域にわたる。」(甲第1号証の2、1頁下6行?2頁1行)

イ.「予想される反応を図1に詳細に示す。プライマー類及びDNAポリメラーゼの存在下で標的DNAを短時間加熱し(図1a)、ついで、試験管を約60℃の湯浴中に3分間置く。それらプライマーは標的DNAとハイブリダイズし、DNAポリメラーゼがそれらプライマーからの新しい鎖の伸長を開始する(図1b及び1c)。2度目にはごく短時間、最後には100℃に加熱する(図1d及び1e)。新しく合成された鎖は解離し、今度は新しいプライマーの標的としての役割を果たし、新しい鎖が合成される。

図1.反応の詳細
ADN cible 標的DNA
denaturation 変性
amorce プライマー

この段階から、反応は定温で行なわれる(この温度はプライマー類の配列に依存する)。
プライマーが新しく合成された鎖に固定され、新しい鎖が重合される(図1g)。ヘアピン領域に到達すると、酵素は対応する鎖をパリンドローム領域へ移動させ、重合を続ける。
ある温度で、形成されたDNAの線形形態と2つのヘアピンが形成された形態との間に平衡が生じる(この平衡は広い温度範囲内で起こるが、多少ともいずれか一方の形態の方へずれる)。
約50℃から、極めて速やかにこの平衡に到達する(図1h)。2つのヘアピン領域のうちの一方は遊離の3′末端をもつ:それは、DNAポリメラーゼに対するプライマーの役割を果たすことができる。そのポリメラーゼが、新しい鎖を合成し、相補鎖を移動させて、これが離れるようにする(図1i)。
この鎖に新しいプライマーが固定され、サイクルが再開する。
この間に、最初の鎖の上での合成が終了し、線状形態と2つのヘアピンをもつ形態との間に平衡が樹立される(図1j):2つのヘアピンのうちの一方は再び当該酵素に対するプライマーの役割を果たし、新しい鎖が合成されて、古い鎖を移動させる(図1k)。各サイクル当り、合成されたDNAのサイズが2倍になる。」(甲第1号証の2、2頁2行?3頁18行)

ウ.「2.1試薬
遺伝子増大反応の実施に用いた構成要素はパーキン・エルマー社によって提供されたものである:10mM Tris HCl pH 8.3、50mM KCl;1.5mM MgCl2;0.01%ゼラチン(シグマ社カタログ番号G2500);200mMの各dNTP;耐熱性でないDNAポリメラーゼを使用できるが、初期の実験は、2.5単位/100mlの酵素アンプリタックDNAポリメラーゼを用いて実施した;プライマーLabi1及びLabi2:各0.5mM;HIVマトリックス:1試験管当り104コピー;パラフィン油:1試験管当り60μl(シグマ)」(甲第1号証の2、3頁下7行?4頁2行)

エ.「プライマーLabi1は、HIVウイルスのGAG遺伝子の配列[12-14]に特異的な26ヌクレオチドの部分及びヘアピンを形成できる50ヌクレオチドのパリンドローム部分(ランダムに構成された)から構成されている。」(甲第1号証の2、4頁4?6行)

オ.「第二のプライマー(Labi2)は同様に構成されているが、28塩基のHIV特異的部分が60塩基離れた配列と相補的であり、かつ逆方向を向いている。両パリンドローム配列は66℃という融点(ウォレス則に従って算出)をもつ[15]。両特異的配列は78℃という融点をもつ。」(甲第1号証の2、4頁9?12行)

カ.「2.3遺伝子増大反応に最適な温度を調べる装置
我々は、先験的には、ある与えられたプライマー対にとっての最適の反応温度がどの程度であるかを知らない。一方では、図1hに示した平衡が生じるのに充分なだけ温度が高いこと、すなわちその温度で二本鎖が開きうること、また、十分に安定なヘアピン構造の形成が可能なことが必要である。他方では、その温度で標的DNAにそれらのプライマーがハイブリダイズできる必要がある。それゆえ、今直ちに、両プライマーの特異的部分の融点がパリンドローム部分の融点よりも高くなければならないことがわかる。我々の知る限り、与えられたプライマー対の反応最適温度を予測するための十分に性能のよいコンピュータープログラムは存在していない。それゆえ、我々は、この温度を実験的に求めることを可能にする装置を構築した。この温度が求まると、プライマー対を用いてのすべての増大実験を行うのに、その温度に調節された単純な湯浴で十分である。・・・
3.結果
HIVゲノムを含有するプラスミド[19,20]計10^(4)コピーを、温度勾配のある前記台上で、温度が45℃から88℃まで段階的に変化するウェルの中でインキュベートした。2時間後に、2%アガロースゲルにかける。結果を表1にまとめた:
ウェル7、9及び10において、さまざまな長さのDNA鎖に対応する極めて明瞭な染色領域(スミア)が観察される・・・それゆえ、この反応のための最適温度は53℃である。・・・反応混合物の最善の組成を求めることを目的とした、このプライマー対を用いてのその後の実験は、この温度で実施した。」(甲第1号証の2、6頁2行?7頁下2行)

キ.「表1.HIVゲノムを含有するプラスミドのインキュベーションの結果

」(甲第1号証の2、7頁、表1)

ク.「我々は非耐熱性のDNAポリメラーゼ酵素を用いなかったが、これの使用は可能である:PCR手法において酵素を破壊するのは、100℃で3分間の反復処理だからである。我々が提示している手法では、試験管を100℃に加熱するのは2回だけであり、しかも数秒間である:それ程の短い処理は、耐熱性でないDNAポリメラーゼを用いても、重要な酵素活性を残存させる。反応試験管中にそれをより大量に導入すれば十分である。非耐熱性酵素のコストが低いことから考えて、そのことは問題とはならない。加熱工程の後に酵素を追加することができる。
我々は確認していないけれども、生細胞中で当該反応が生起する可能性がある。理論上は、遺伝子増大反応が始まり、核(または細胞質)を高分子量DNAで満たすのに十分な数のプライマー類が細胞膜を透過できれば十分である。ポリメラーゼDNA類は核内に存在し、二重らせんを開くための蛋白質および組換えを促進するための蛋白質もそこに存在する。100℃での加熱の2工程なしに反応を開始させうる可能性も高い。」(甲第1号証の2、9頁16行?下2行)

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載事項が記載されている。
ア.「【請求項12】 特定の核酸配列を非直線的に増幅するためのプロセスであって、以下の工程:
該特定の核酸配列、
該特定の核酸配列ついての第1の初期プライマーまたは核酸構築物であって、該第1の初期プライマーまたは核酸構築物が、以下の2つのセグメント:
(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および、
(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、そして(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成されて第1のプライマー伸長を置換するように、均衡または限定サイクリング条件下で、続く第2のプライマーまたは核酸構築物の第1のセグメントの、該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメント、を含む;ならびに、
該特定の核酸配列の相補体に対する続く初期プライマーまたは核酸構築物であって、該続く初期プライマーまたは該核酸構築物が、以下の2つのセグメント、
(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および、
(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成され、そして第1のプライマー伸長を置換するように、均衡または限定サイクリング条件下で、続くプライマーの第1のセグメントの、該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメント、を含む:ならびに基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素;を提供する工程:ならびに、
均衡または限定サイクリング条件下で、該基質、緩衝液、またはテンプレート依存性重合化酵素の存在下で、該特定の核酸配列および該新規プライマーまたは核酸構築物をインキュベートし;それにより、該特定の核酸配列を非線形に増幅する、工程、を包含する、プロセス。」(請求項12)

イ.「本発明は、特定の核酸配列を直線的に増幅するためのプロセスを提供する。このプロセスは、以下の工程:該特定の核酸配列、初期プライマーまたは核酸構築物であって、以下の2つのセグメント:(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列に第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的な配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成され、そして第1のプライマー伸長を置換するように、均衡(isostatic)または限定サイクリング条件下で、第2のプライマーまたは核酸構築物の第1のセグメントの、続く該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメントを含む、初期プライマーまたは核酸構築物;ならびに、基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素;を提供する工程;ならびに、均衡または限定サイクリング条件下で該基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素の存在下で、該特定の核酸配列および該新規プライマーまたは核酸構築物をインキュベートし;それにより、該特定の核酸配列を直線的に増幅する工程、を包含する。」(8頁左欄41行?右欄14行)

ウ.「この産物は、図1に例示される、連続する一連の以下の工程によって、形成され得る。新規のプライマーまたは核酸構築物のテンプレート依存性伸長は、この新規のプライマーまたは核酸構築物の第2セグメントを含む配列に相補的である伸長部分配列において生成する。これらの自己相補性領域は、テンプレートに結合しままであり得るか、または自己相補性構造を形成し得る。二次構造の形成は、テンプレートからの、伸長した新規のプライマーの第1セグメントの全てまたは一部の除去を提供し得る。このことは、別の初期プライマーが、テンプレートからの新規の第1伸長プライマーの除去の前に、テンプレート配列に結合することを可能にする。テンプレート上の第2プライマーの伸長は、テンプレートからの第1伸長プライマーの置換を導き得る。このことは、伸長プライマーの分離が、別の結合および伸長反応のためのテンプレートの使用の前に常に起こる先行技術とは対照的である。これらの手段によって、単一のテンプレートは、均衡条件下で、2つ以上の初期事象を提供し得る。さらに、この方法は、全ての温度が伸長産物およびそのテンプレートのTmのものを下回る、限定サイクル条件下で使用され得る。連続するプロセスにおいて、新規の第2伸長プライマーにおける二次構造の形成は、新規の第3プライマーの結合および続く伸長を提供し得る。このようにして、変性条件の非存在下において、本発明の新規のプロセスは、核酸テンプレートの単鎖からの多重プライミング、伸長、および遊離事象を提供し得る。さらに、これらの工程の全ては、均衡条件下で、同時および連続的に起こり得る。」(15頁右欄16行?43行)

エ.「

」(図1)

オ.「非直線的増幅産物は、均衡または限定条件下で、連続した一連の以下の工程によって、新規のプライマーおよび標準的なプライマーによって合成され得る。新規のプライマーは標的鎖に結合し、そして新規の単一プライマーとの直線的増幅について以前に記載されるのと、同じ一連の伸長、二次構造形成、プライマー結合部位の再生、第2結合、第2伸長、およびテンプレートからの第1伸長プライマーの分離が存在する。新規の伸長プライマーは、他方の新規のプライマーの連続する結合および伸長によって置換されるので、これらの1本鎖産物は標準的なプライマーに結合し得、そしてそれらを伸長させて、完全な2本鎖アンプリコンを作製し得る。この潜在的な一連の事象を、図2に示す。得られる2本鎖構造は一方の鎖において新規のプライマーについてのプライマー結合部位に相補的な配列と、および他方の鎖において新規のプライマーについてのプライマー結合部位に同一の配列と隣接する各鎖自己相補配列を含む。この結果として、各鎖は、アンプリコンの一方の末端で、ステムループ構造を形成し得る。次いで、1本鎖ループ構造におけるプライマー結合部位の露出は、図1において以前に示した同じプロセスによって、さらなる一連のプライマー結合および置換反応をもたらし、それにより均衡または限定サイクル条件下で、目的の配列の非直線的増幅の生成を可能にする。」(第20頁左欄23行?46行)

カ.「

」(図2)

キ.「【図3】一対の新規のプライマーによる非直線的増幅を例示する模式図である。」(段落【0224】【図面の簡単な説明】【図3】)

ク.「

」(図3)

ケ.「一方のプライマーが標準的なプライマーであり、そして他方が新規のプライマーである場合、テンプレート依存性結合および伸長の最終産物は、一方の末端において、各鎖のステムループ構造を含む2本鎖分子であり得る。両方のプライマーが新規のプライマーである場合、テンプレート依存性結合および伸長の最終産物は、各末端において、各鎖のステムループ構造を含む2本鎖分子であり得る。」(20頁左欄7行?14行)

コ.「本発明において、上記のように、線状2本鎖分子のセグメントの、鎖内ステムループ構造への転移は、プライマー開始事象を、伸長プライマーのそのテンプレートからの分離の前に起こることを可能にし得る。これらの2つの構造の間の平衡は、多数の要因に依存する。第1に、首尾良いプライマー結合のために、標的に結合する初期プライマーのセグメントは、反応に使用される温度で、安定なプライミングが可能であるように適切な長さおよび塩基組成でなければならない。第2に、初期プライマーの伸長後に自己ハイブリダイゼーションに関与するプライマーのセグメントは、適切な長さおよび塩基組成でなければならず、その結果伸長されたプライマーのテンプレートからの部分解離は、十分に安定な二次構造の形成(すなわち、ステムループ構造のステム)を可能にし得る。
これらの反応に適切な温度は、伸長プライマーのそのテンプレートからの分離に必要な温度を下回る。均衡反応において、単一の温度が、結合、伸長、および二次構造形成に使用され得る。」(16頁左欄26行?43行)

(3)対比
甲第1号証の記載事項ア?クによると、甲第1号証には、
「標的核酸配列を増幅しうる二種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、
プライマーLabi1は、HIVウイルスのGAG遺伝子の配列に特異的にハイブリダイズする26ヌクレオチドの部分及びプライマーの5’側に位置するヘアピンを形成できる50ヌクレオチドのパリンドローム部分から構成されており、
第二のプライマーであるLabi2は、Labi1と同様に構成されており、28塩基のHIV特異的部分が60塩基離れた配列と相補的であり、かつ逆方向を向いているものである、プライマーセット。」が記載されていると認められる。
ここで、甲第1号証のプライマーLabi1及びLabi2は、共にFPであると認められる。

本件発明1と甲第1号証に記載された発明を対比する。
甲第1号証の「第二のプライマー(Labi2)」は、本件発明1の「前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなるものである」「第二のプライマー」、すなわち、FPに相当する。

そうすると、両者は、「標的核酸配列を増幅しうる少なくとも二種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーが、前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなるもの(すなわち、FP)であるプライマーセット。」である点で一致し、「第一のプライマー」が、本件発明1では、「標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるもの」、すなわち、TPであるのに対し、甲第1号証では、「前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなるもの」、すなわち、FPである点で相違する。

(4)判断
請求人は、本件発明1は、甲第1号証に記載されたプライマーセットにおいて、プライマー1に代えて、甲第2号証に記載の「初期プライマー」を採用することにより、容易に想到し得たと主張するので、この点について検討する。

甲第1号証に記載されたプライマーセット(FP-FP)による核酸増幅の原理は、実質的に先行無効審判の甲第3号証に記載されたものと同一であり、このような核酸増幅においては、先行無効審決(無効2008-800293)において述べられているように(審決24頁)、「末端が相補鎖との塩基対結合(base pairing)を解消して改めて同一鎖上で塩基対結合を構成するステップが必須である」こと、「高度な反応効率を達成するためには、厳密な反応条件の設定が求められる」こと、「プライマー自身がループ構造を作っている。そのためプライマーダイマーがいったん生成すると、標的塩基配列の有無にかかわらず自動的に増幅反応が開始され非特異的な合成産物を形成してしまう」こと、「プライマーダイマーの生成とそれに伴う非特異的な合成反応によるプライマーの消費が、目的とする反応の増幅効率の低下につながる」ことの様々な問題点が存在することは、優先日前に知られていた(特許第3313358号公報(先行無効審判の甲第1号証)の6欄9行?41行)。
そして、先行無効審決に対する審決取消訴訟判決(平成21年行(ケ)第10420号)においても、先行無効審判の甲第1号証には、FP-FPプライマーを使用する方法では、高度な反応効率を達成するために厳密な反応条件の設定が求められることと、非特異的な合成産物を形成してしまうという問題点が指摘されていることを認めている(先行判決19頁1行?下6行)。

甲第2号証の記載事項ア(請求項12)における「特定の核酸配列についての第1の初期プライマー」及び「特定の核酸配列の相補体に対する続く初期プライマー」は、共に以下の2つのセグメント「(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および、(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、そして(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成されて第1のプライマー伸長を置換するように、均衡または限定サイクリング条件下で、続く第2のプライマーまたは核酸構築物の第1のセグメントの、該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメント」を含むものであって、これらはそれぞれTPであるから、甲第2号証には、TP-TPプライマーセットが記載されている。

甲第2号証の記載事項キ(【0224】【図面の簡単な説明】【図3】)には、図3の説明として、「一対の新規のプライマーによる非直線的増幅を例示する模式図である。」と記載されており、図3には、2つのTPを用いた核酸増幅の模式図が記載されている(記載事項ク)。
このような記載からみて、甲第2号証には、TP-TPプライマーセットによる核酸増幅は、非直線的増幅を示すものであることが記載されている。

そして、甲第2号証の図2(4)(原文では丸付き数字の4。以下同様。)には、TPによるステムループ構造のループの部位に新たなTPがアニールする模式図が示されている(記載事項カ)。これに関して、甲第2号証の記載事項オには、アンプリコンの一方の末端でステムループ構造が形成され、一本鎖ループ構造におけるプライマー結合部位の露出は、さらなる一連のプライマー結合をもたらすことが記載されている。つまり、甲第2号証には、TPは、新規な核酸鎖の合成基点となることにより、核酸を非直線的に増幅するものであることが記載されている。

さらに、記載事項ケには、新規なプライマー(TP)と標準的なプライマーによる増幅は、最終産物として、一方の末端において、各鎖のステムループ構造を含む二本鎖分子が生成されることが記載されており、これは、図2の(4)に示されるような、ループ構造が2個存在する状態を意味するものと認められ、図2の(4)によれば、2個のループ構造のうち、新たにTPが結合できるものは1個である。
これに対し、記載事項ケには、両方がTPである場合は、最終産物として、各末端において、各鎖のステムループ構造を含む二本鎖分子が生成されることが記載されており、これは、図3の(4)(原文では丸付き数字の4。)に示されるような、ループ構造が4個存在する状態を意味すると認められ、このうち、新たにTPが結合できるループ構造は2個である。
これらの記載からみて、プライマーセットにおいて、一方のみをTPとし他方は標準プライマーとする場合よりも、TP-TPとした場合の方が、新規な核酸鎖の合成基点となる、TPが結合できるループ構造が多く形成されるため、良い増幅効率を示すことが理解できる。

そうすると、甲第1号証の核酸増幅において、FP-FPプライマーセットに代えて、甲第2号証に記載された増幅効率の良いTP-TPプライマーセットをそのまま採用することは、当業者が容易に想到することであるといえるとしても、上述のように、様々な問題点が存在するFP-FPプライマーセットにおいて、一方のFPのみをTPに代え、もう一方のプライマーにFPをそのまま残すということは、技術的に不自然なことであり、そのような置き換えが動機付けられることはなく、当業者が想到しないことである。

さらに、甲第1号証の記載事項オに示されるように、FPによる反応が進行するためには、標的核酸にハイブリダイズしたFPが伸長することにより形成された二本鎖が開き、図1hに示されるヘアピン構造の形成が可能な反応条件を設定する必要がある。
一方、甲第2号証のTPによる増幅反応が進行するためには、TPが標的核酸にハイブリダイズして伸長することにより形成された二本鎖と、鎖内ステムループ構造が平衡となる反応条件を設定する必要がある(甲第2号証の記載事項コ)。
このように、FPとTPは、構成が異なるプライマーであり、それを用いた増幅反応が進行する原理も異なるものであって、それぞれ厳密な反応条件の設定を必要とするものであるから、甲第1号証に甲第2号証を適用する際に、FPとTPを組み合わせてプライマーセットとすることは、当業者であれば回避しようとするものであって、TP-TPプライマーセットそのものを採択するものであるといえる。

そして、本件発明1のプライマーセットは、標的核酸を特異的かつ効率的に等温増幅することができるとともに、一塩基変異を効果的に検出できる(本件特許明細書段落【0145】)という格別顕著な効果を奏するものである。

(5)小括
したがって、本件発明1が甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載されたプライマーを適用することにより容易になし得たとはいえない。

また、本件発明2ないし13、及び16ないし27についても本件発明1と同様に、「標的核酸配列を増幅しうる少なくとも二種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって、前記プライマーセットに含まれる第一のプライマーが、標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるものであり、前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーが、前記標的核酸配列の相補配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D-Dc’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなるものである、プライマーセット。」を発明特定事項とするものであるから、本件発明2ないし13、及び16ないし27が、甲第1ないし第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)請求人の主張
請求人は、無効理由について、概略以下のように主張している。
ア.審判請求書における主張の概要
(ア)甲第1号証のタイトルが「等温遺伝子増幅方法」となっているとおり、甲第1号証は等温での遺伝子増幅方法の提供をその解決課題とする発明である。甲第1号証においては、熱変性を2回要することから、熱変性を一切含まないという意味での完全な等温増幅反応には至っていないという課題は依然として残っている。当業者であれば、甲第1号証の熱変性工程が完全な等温増幅を阻んでいる点に着目し、かかる熱変性工程を排除するよう改良を行うはずである。(審判請求書35頁(3)(原文では丸付き数字の3。)引用発明1の解決課題)

(イ)甲第2号証は、TPを採用することによりプライマーの鋳型上の伸長生成物を、熱変性を経ずに分離する方法という技術的思想を開示している。さらに、甲第2号証の初期プライマー(TP)は、折り返しを提供する機能を有しており、かかる機能は、甲第1号証のプライマーの機能と共通するものである。当業者であれば、甲第1号証の増幅方法の改良として、その増幅方法において採用した際にプライマー1と同じ機能を果たし、かつ、伸長後鋳型核酸から熱変性を経ずに分離できる、甲第2号証のプライマーを採用する改良を行ったはずである。(審判請求書36?38頁(4)(原文では丸付き数字の4。)引用発明2について)

イ.請求人口頭審理陳述要領書における主張の概要
(ウ)暫定見解(注:平成24年5月18日付け審理事項通知書。以下、同様。)は、本件無効審判において引例として一切使用していない特許第3313358公報(先行無効審判の甲1)(以下、「先行甲1」という。)には、本件無効審判において本件発明1の引例として使用していない国際公開第96/01327号公報(先行無効審判の甲3;本件無効審判の甲4)(以下、「先行甲3」という。)についての問題点が記載されていることから、先行甲3と原理を同一とする本件無効審判の甲第1号証の発明にも同様の問題点があったと認定するものである。
しかしながら、甲第1号証は、先行甲3の優先日又は国際出願日から3?4年後に発行された文献である。甲第1号証の記載内容の認定にあたり、甲第1号証が発行される3?4年前に作成された特許明細書(先行甲3)に関し、甲第1号証とは無関係の先行甲1に問題点が記載されていることに基づいて、甲第1号証にもかかる問題点が依然として存在すると認定することは失当である。
先行甲3と本件無効審判の甲第1号証は、FP-FPプライマーセットを使用するという原理においては共通するが、その開示内容は異なる。先行甲3と違い、甲第1号証には、実際の実験結果である表1及び図2の記載が存在する。すなわち、甲第1号証において、FP-FPプライマーセットによる増幅方法の反応条件について充分に検証がなされている。暫定見解が指摘する甲第1号証における「厳密な反応条件の設定が求められる」との問題点は解消している。
さらに、甲第1号証と甲第2号証の反応条件に顕著な差は存在しないから、「厳密な反応条件の設定が求められる」との問題点は、仮に存在していたとしても、甲第1号証と甲第2号証の組み合わせを阻害する要因にはならない。
さらに、甲第1号証の図2(電気泳動図)によれば、プライマーダイマー等による非特異的な合成産物が形成されないことが明らかとされており、「プライマーダイマー」の問題点は存在しない。
したがって、甲第1号証について、「様々な問題点が存在するFP-FPプライマーセット」であるとする暫定見解の認定は誤りである。(請求人口頭審理陳述要領書8?11頁(4)引用発明1の認定について)。

(エ)甲第2号証には、図1に表されているように、単独でTPを使用することにより、等温にて鋳型核酸からプライマーの伸長生成物を分離する方法が記載されている。
甲第2号証の段落【0103】、【0104】及び請求項1の記載によれば、甲第2号証は、「TPを採用することによりプライマーの鋳型上の伸長生成物を、熱変性を経ずに分離する方法という技術的思想を基本原理とするものである。暫定見解が認定するTP-TPプライマーセットによる非直線的増幅方法(図3)も、その前提として図1による直線的増幅方法が行われ、直線的増幅方法による増幅産物に対し、セットの他方のTPが反応することにより行われるものである。甲第2号証には、TPとTPでない標準的なプライマーとのプライマーセットによる増幅方法も開示されているが、そのようなプライマーセットが開示されているという事実自体、甲第2号証は単独のTPによる直線的増幅が基本原理であることの証左となる。
したがって、暫定見解は、甲第2号証をTP-TPプライマーセットによる非直線的増幅に限定的に解釈するものであって、甲第2号証の認定を誤るものである。甲第2号証に開示された単独のTPによる直線的増幅は、TPを採用することによりプライマーの鋳型上の伸長生成物を、熱変性を経ずに分離することができるものであり、それ自体が独立した技術的事項として甲第1号証に適用可能なものである。(請求人口頭審理陳述要領書12?15頁(5)引用発明2の認定について)

(オ)遺伝子増幅方法の技術分野において、等温による遺伝子増幅反応を達成することは、課題であることは周知の事実である。
甲第1号証では、加熱工程が2回だけであり、PCR法に対して、加熱回数及び時間を減らすことはできたが、完全に加熱工程の問題を解決していない。
1回の加熱工程鋳型からのプライマー伸長生成物の分離工程が存在し、それさえ排除すれば完全な等温増幅方法となるという事実からすれば、かかる1回の加熱工程を排除しようとすることは、依然、甲第1号証の課題として存在する。
なお、甲第1号証が提案するように、ポリメラーゼを大量に使用すれば、逆に凝集が生じ、増幅反応が阻害される可能性があるから(甲第12号証及び甲第13号証)、甲第1号証は、加熱工程を排除するという課題が根本的に解消しているものではない。(請求人口頭審理陳述要領書15?17頁(6)動機付けの不存在について)

(カ)甲第1号証の実施例で使用された反応条件と甲第2号証の実施例の反応条件との間に顕著な差は存在せず、甲第1号証において、甲第2号証のTPを採用することに阻害要因はない。
さらに、甲第2号証自体には、TPとTPでないプライマーとのプライマーセットを使用する増幅反応も発明として記載されており、実施例において電気泳動図を用いて増幅が確認されているのである。
以上のとおり、異なるプライマーを組み合わせることは、甲第2号証自体に記載されており、また、甲第1号証と甲第2号証のそれぞれの実施例において反応条件が大きく異ならないことも公知となっていたのであるから、甲第1号証の増幅反応において、甲第2号証のTPを採用することに阻害要因は存在しない。
また、請求人は、甲第1号証のFP-FPの増幅反応が2時間であり、甲第2号証の実施例の一つにTP-TPの反応が2時間であることが記載されていることを理由に、同じ分子数の鋳型核酸から核酸増幅を始めた場合には、甲第1号証に記載のFP-FPプライマーセットの増幅効率は、甲第2号証に記載のTP-TPプライマーセットの増幅効率と遜色ないことが示されており、同定DNAの増幅効率を示す2つのプライマーを組み合わせて使うことに阻害要因は存在しない。(請求人口頭審理陳述要領書17?20頁(7)被請求人の主張について)

ウ.請求人上申書における主張の概要
(キ)本件発明1は、単純なTP-FPプライマーセットに係る発明であり、被請求人らが主張する一塩基変異の識別に関する効果は、プライマーセット自体に関する本件発明1の効果とはいえない。
仮に、被請求人らによる効果の主張を、一塩基変異の識別に関する請求項13に係る発明の効果についての主張と解するとしても、かかる主張は、請求項13に係る発明のうち、特定の一部の態様のみが奏する効果の主張に過ぎず、請求項13に係る発明の進歩性の判断において参酌することはできない。
また、乙第9号証の補足図3によれば、SMAP法による一塩基変異識別がLAMP法による一塩基変異識別に対し、有利な効果を有するものではないことが示されている。
また、被請求人らは、被請求人口頭審理陳述要領書において、乙第9号証の補足図1に基づいて作成した図2を示して、「本件発明では、バックグラウンドの上昇につながる指数関数的な増幅が起こらない」と主張するが、乙第9号証の補足図1の記載によれば、Fという構造から指数関数的増幅のパスウェイにつながるDという分子が発生することが記載されており、乙第9号証補足図1の記載と矛盾した主張を行っている。(請求人上申書2?12頁4.(2)被請求人らの主張する効果について)

(7)請求人の主張についての判断
ア.請求人の主張(ウ)について
先行甲1には、先行甲3のFP-FPプライマーセットについて、「末端が相補鎖との塩基対結合(base pairing)を解消して改めて同一鎖上で塩基対結合を構成するステップが必須である」こと、「高度な反応効率を達成するためには、厳密な反応条件の設定が求められる」こと、「プライマー自身がループ構造を作っている。そのためプライマーダイマーがいったん生成すると、標的塩基配列の有無にかかわらず自動的に増幅反応が開始され非特異的な合成産物を形成してしまう」こと、「プライマーダイマーの生成とそれに伴う非特異的な合成反応によるプライマーの消費が、目的とする反応の増幅効率の低下につながる」ことの様々な問題点が記載されており、FP-FPプライマーセットには、これらの問題点があったことは、本願優先日前に知られていた。
請求人は、甲第1号証には、実際の実験結果が記載されており、「厳密な反応条件の設定が求められる」及び「プライマーダイマーが形成される」等の問題点は解決されているから、甲第1号証の認定において、先行甲1に記載された問題点が依然として存在すると認定することは失当である旨主張する。

しかしながら、甲第1号証には、FPプライマー対を用いた遺伝子増幅反応において、最適温度は、実験的に検討して決定する必要が記載されており(記載事項カの「2.3」)、甲第1号証においても、最適な反応温度を決定するため、表1に示されるような実験をした結果、53℃が好ましい温度であると決定したこと、さらに、その後、53℃において、反応混合物の最善の組成を目的とする実験を実施したことが記載されている(記載事項カの「3.」)。このように、甲第1号証において、反応条件の設定のため試行錯誤を要しており、さらに、表1をみると、「結果」の項が「++」の評価となった温度は53℃のみであって、最適温度は非常に狭い範囲である(記載事項キ)。
よって、FP-FPプライマーセットは、厳密な反応条件の設定が求められるという問題点が存在するものであり、甲第1号証では、検討の結果、増幅反応が実施できる温度等を厳格に設定することにより、この問題を解決したものである。
また、プライマーダイマーの問題点については、甲第1号証においては、Labi2において、パリンドローム配列の融点よりも、標的核酸への特異的配列の融点を高くなるようにプライマーを設計することや反応条件の最適化により、プライマーダイマー形成の問題点を解決したものであるが(記載事項オ及び記載事項カ)、そもそも、FPは、一つのプライマー内にヘアピンを形成できる相補的な領域を有するものであって、プライマー同士がハイブリダイズする、いわゆるプライマーダイマーとなり得る構造を有するものであるから、プライマーダイマーの形成という問題点は、FPが潜在的に有する課題であるといえる。
したがって、先行甲1が指摘する「厳密な反応条件の設定が求められる」及び「プライマーダイマーが形成される」との問題点は、FP-FPプライマーセットが一般的に有する問題点であるといえる。

したがって、請求人の主張(ウ)は採用することができない。

イ.請求人の主張(イ)、(エ)及び(カ)について
請求人は、甲第2号証は単独でTPを採用することにより、プライマーの鋳型上の伸長生成物を熱変性を経ずに分離するという技術的思想を開示しているものであって、甲第2号証をTP-TPプライマーセットによる核酸増幅であると限定的に解釈すべきではないと主張する。

しかしながら、上記(4)にて述べたように、甲第2号証の記載からみて、プライマーセットにおいて、一方のみをTPとし他方は標準プライマーとする場合よりも、TP-TPとした場合の方が、新規な核酸鎖の合成基点となる、TPが結合できるループ構造が多く形成されるため、良い増幅効率を示すことが理解できるのであるから、甲第1号証に甲第2号証を適用するに際し、当業者であれば、FP-FPプライマーセットにおいて、一方のみをTPとせずに、TP-TPセットで用いようとすることが自然である。

また、請求人は、甲第1号証に甲第2号証を適用することに阻害要因はないと主張する。
しかしながら、上記(4)にて述べたように、甲第1号証のFPと甲第2号証のTPは、構成が異なるプライマーであり、それを用いた増幅反応が進行する原理も異なるものであって、それぞれ厳密な反応条件の設定を必要とするものであるから、甲第1号証に甲第2号証を適用する際に、FPとTPを組み合わせてプライマーセットとすることは、当業者であれば、むしろ回避することであるといえる。

したがって、請求人のこれらの主張(イ)、(エ)及び(カ)は採用することができない。

ウ.請求人の主張(ア)及び(オ)について
請求人は、遺伝子増幅方法の技術分野において、等温による遺伝子増幅反応を達成することは周知の課題であるから、甲第1号証において、加熱工程を排除しようとすることは、課題として存在する旨主張する。
しかしながら、甲第1号証の記載事項クによれば、甲第1号証において、加熱工程は問題とはならないという認識であって、加熱工程を排除しようとする課題が記載されていない以上、あえて加熱工程を排除することは、当業者が発想しないことである。

仮に、請求人が主張するように、遺伝子増幅方法の技術分野において、等温による遺伝子増幅反応を達成することが周知の課題であったとしても、その課題は、甲第2号証ですでに解決されているのであり、甲第1号証と甲第2号証の開示に接した当業者が、その課題を解決するために、甲第1号証のFP-FPプライマーセットにおいて、一方のFPのみを甲第2号証のTPとすることは、そもそも容易に想到し得ないことであることは、上記(4)及び(7)イで述べたとおりである。

また、請求人は、甲第1号証が提案するように、ポリメラーゼを大量に使用すれば、凝集が生じることを主張するが、請求人が指摘する甲第1号証の記載(記載事項ク)は、非耐熱性のDNAポリメラーゼ酵素を使用した場合は、加熱工程ののちに酵素を追加することができることを提案したものである。しかし、甲第1号証において実際に使用した「アンプリタックDNAポリメラーゼ」は耐熱性酵素であるから(記載事項ウ)、加熱工程により酵素が失活するという問題は起こらず、加熱工程後に酵素を添加する必要はないから、請求人が主張するような酵素を大量に添加したことによる凝集の問題はそもそも生じないものである。
したがって、請求人の主張(ア)及び(オ)は採用することができない。

エ.請求人の主張(キ)について
請求人は、一塩基変異の識別に関する効果は、プライマーセット自体に関する本件発明1の効果とはいえない旨を主張するが、そもそも、上記(4)で述べたように、本件発明1は、その構成を容易に想到することができないものであるから、本件発明1は、一塩基変異の識別に関してTP-TPプライマーセットと比べて有利な効果を奏するものであるかどうかにかかわらず、進歩性を有するものである。

念のため、一塩基変異の識別に関する効果の主張について検討する。
本件発明1はプライマーセットに係る物の発明であるが、物の発明において、具体的な使用の態様が様々である場合、そのすべてにおいて効果がなければ、物の発明として認められないとはいえない。特定の使用の態様における効果であっても、そのような態様における使用に適しているということは、そのような効果がない場合と比較して、物としての利用価値が高いということであるから、そのような効果を物の発明の効果として参酌することは許されるというべきである。
しかも、一塩基変異の検出はプライマーセットの用途として代表的なものの1つであるからなおさらである。
本件発明13の「核酸試料中の核酸配列における変異の有無を判定する方法」に係る発明についても、「変異の有無を判定する方法」として一塩基変異の識別はまず思い浮かぶ方法であるから、一塩基変異の識別に関する効果は、本件発明13においても参酌されるべきであるといえる。

また、請求人は、乙第9号証の補足図3によれば、SMAP法による一塩基変異識別はLAMP法による一塩基変異識別と比較して有利な効果を奏するものではないことを主張するが、乙第9号証に記載されたSMAP法とは、TP-FPプライマーセットに加えてさらに、TP及びFPからの伸長鎖を分離する作用を有する2つのアウタープライマーを用いた増幅方法であり(乙第9号証の第258頁図2参照)、また、補足図3は、特定の塩基配列からなるプライマー群を用いて特定の遺伝子における変異を検出した結果を示したものであるから、補足図3におけるSMAP法の結果のみをもって、本件発明1に係るTP-FPプライマーセットは、LAMP法と比して有利な効果を有するものではないと結論付けることはできない。

また、請求人は、乙第9号証の補足図1の脚注の一部の記載を取り上げて、補足図1の記載と、被請求人口頭審理陳述要領書の図2に基づく、「本件発明では、バックグラウンドの上昇につながる指数関数的な増幅が起こらない」という主張は、矛盾するものであることを主張するが、補足図1の脚注には、請求人が指摘した記載に続いて、「非対称プライマーデザインにおけるセルフプライミング現象も指数関数的増幅パスウェイを引き起こす分子を生成するが(“*”で示す)、そのパスウェイは3サイクル後、2次指数関数的キネティクス(1子の分子から2個の産物(outcome)の生成が考えられる)に続いて開始される。バックグラウンド増幅を引き起こしえるフリー3’末端の数についても、図内に示す表に示す。フリー3’末端の増幅“サイクル”中における数的進行は、非対象プライマーデザインの方がかなり少ない。更に、試験管におけるDNAの全生成率は、DNA合成がプライムされる3’末端の数に比例する為、SMAP2におけるバックグラウンド増幅は結果的に限定される。」と記載されているように、補足図1は、非対称プライマーセット(TP-FP)は、対称プライマーセット(TP-TP)と比較して、一塩基変異識別においてバックグラウンド増幅が少ないことを模式図を用いて説明したものである。このような記載を考慮すれば、本件発明1のTP-FPプライマーセットは、一塩基変異の識別においてバックグラウンド増幅が少ないものであることを推認できるものであって、このことは、被請求人らが作成した図2におけるTP-FPのパスウェイの記載が正確なものであるかどうかに影響されるものではないといえる。

以上のとおり、請求人のこれらの主張(ア)?(キ)はいずれも採用することができない。

(8)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし13、及び16ないし27が、甲第1ないし第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである、とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-07 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2005-516642(P2005-516642)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 豊  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 六笠 紀子
冨永 みどり
登録日 2007-01-05 
登録番号 特許第3897805号(P3897805)
発明の名称 核酸の増幅法およびこれを利用した変異核酸の検出法  
代理人 永島 孝明  
代理人 浅村 昌弘  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 渡辺 光  
代理人 磯田 志郎  
代理人 吉田 玲子  
代理人 山上 和則  
代理人 滝澤 敏雄  
代理人 伊佐治 創  
代理人 安國 忠彦  
代理人 浅村 皓  
代理人 池田 幸弘  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 井上 慎一  

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