• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05H
管理番号 1281959
審判番号 不服2012-7851  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-27 
確定日 2013-12-09 
事件の表示 特願2006-139042「誘導結合プラズマ処理装置、誘導結合プラズマ処理方法およびコンピュータ読取り可能な記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-311182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年5月18日の出願であって、平成23年9月1日付けで手続補正書が提出されたが、平成24年2月2日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成24年4月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成24年9月11日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年11月12日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年4月27日付けの手続補正の補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年4月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項に記載された発明
平成24年4月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のように補正された。
「被処理基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、
前記処理室内で被処理基板が載置される載置台と、
前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室の外部に誘電体部材を介して配置され、整合器を介して高周波電源に接続されて高周波電力が供給されることにより前記処理室内にそれぞれ異なる電界強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテナ部を有する高周波アンテナと、
前記各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され、その接続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段と
を具備し、
前記インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により、前記複数のアンテナ部の電流値を制御し、前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ密度分布を制御するとともに、
アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され、所定のアプリケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段をさらに有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置。」

そこで、本願の補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用刊行物

(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2000-323298号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アンテナに高周波電力を供給して電界を発生させ、その電界により発生させたプラズマを用いて試料をプラズマ処理するのに好適なプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。」
(1b)「【0007】一方、有磁場プラズマタイプのプラズマ処理装置では、電磁石等が発生する磁場を変化させることでプラズマの分布を制御でき、試料の均一処理や反応生成物の付着が少ない条件のプラズマ分布に容易に調整可能である。しかし、無磁場の誘導放電プラズマタイプのプラズマ処理装置では、プラズマ分布を調整する手段が限られ、例えば、真空容器の形状を変えたり、誘導結合アンテナの位置を調節して分布を制御していた。しかし、ガス圧等のプロセス条件を変えると、プラズマの分布は変化してしまい、一台のプラズマ処理装置ではごく限られた条件でしか、プロセス処理ができなかった。
【0008】本発明の第一の目的は、誘導結合アンテナを用いたプラズマ処理において、容易にプラズマ分布を制御することのできるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することにある。」
(1c)「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の第一の実施例を図1ないし図3により説明する。図1に、本発明のプラズマ処理装置の縦断面図を示す。真空容器2は、この場合、内部にプラズマ生成部を形成する絶縁材料(例えば、石英,セラミック等の非導電性材料)で成る放電部2aと、被処理物である試料、例えば、ウエハ13を配置するための電極が設置された処理部2bとから成る。処理部2bはアースに設置されており、電極5は絶縁材を介して処理部2bに取付けられている。放電部2aの外側にはコイル状の誘導結合アンテナ1が配置されている。また、放電部2aの天井の大気側には、プラズマ6と静電容量的に結合する円盤状の静電容量結合アンテナ8が設けられている。誘導結合アンテナ1と静電容量結合アンテナ8は、整合器(マッチングボックス)3を介して第一の高周波電源10に直列に接続されている。また、静電容量結合アンテナ8と並列に、インピーダンスの大きさが可変可能な負荷17の回路がアースに接地してある。真空容器2内にはガス供給装置4から処理ガスが供給され、真空容器2内は排気装置7によって所定の圧力に減圧排気される。電極5には、第二の高周波電源12が接続されている。」
(1d)「【0029】次に、本発明の第二の実施例を図5ないし図8によって説明する。図5に、本発明のプラズマ処理装置の縦断面図を示し、図6に放電回路の斜視図を示す。本図において、前記第一の実施例で示した図1および図2と同符号は同一部材を示し、説明を省略する。本図が図1および図2と異なる点は、誘導結合アンテナ1aと誘導結合アンテナ1bの二系統を上下に設置し、並列に接続し、誘導結合アンテナ1aに直列にバリコン16を接続している点である。
【0030】このように構成された装置では、二系統の誘導結合アンテナ1a,1bに流れる高周波電流の大きさを制御することで、プラズマ分布を制御することができる。以下、プラズマ分布の制御方法について述べる。
【0031】二系統の誘導結合アンテナ1aと誘導結合アンテナ1bが作る誘導電界が強い領域を領域25aと領域25bとする。また静電容量結合アンテナ8が作る電界が強い領域を領域25cとする。これら電界が強い領域でプラズマの生成が行われる。真空容器2の放電部2aは、図示上において、上方に向かい径を小さくすることで、領域25aと領域25bの径の大きさが異なる。この場合は、領域25aの径が小さく、領域25bの径が大きくなっている。これに伴なって誘導結合アンテナ1aが作るプラズマは中央の密度が高いプラズマとなり、誘導結合アンテナ1bが作るプラズマは外周の密度が高いプラズマとなる。したがって、誘導結合アンテナ1aと誘導結合アンテナ1bとに流れる電流の割合を調整することによって、プラズマの分布を制御することができる。
【0032】次に、誘導結合アンテナ1aと誘導結合アンテナ1bとに流れる高周波電流の割合を調整する方法について説明する。図7に図6の放電回路の等価回路を示す。誘導結合アンテナ1aを負荷9a、誘導結合アンテナ1bを負荷9bとして表している。負荷9aとバリコン16を合成したインピーダンスの大きさをZa、負荷9bのインピーダンスの大きさをZbとすると、負荷9aと負荷9bに流れる高周波電流の大きさは、1/Zaと1/Zbに比例する。誘導結合アンテナは正のリアクタンスをもつが、負のリアクタンスをもつバリコンでZaを正の値からゼロまで変化させることで、電流を制御することができる。
【0033】ここで、Zbのリアクタンスは正であるので、Zaのリアクタンスが負となる条件の場合、マッチングが取れない場合があるので、Zaのリアクタンスは正となる条件で用いるのが望ましい。よって、図7の回路は、負荷9aに流れる電流を増加させるのに適した回路であるといえる。
【0034】上述の装置および方法を用いウエハを処理する場合、静電容量結合アンテナ8に流れる高周波電流を強くし、誘導結合プラズマ1aと誘導結合アンテナ1bに流れる電流の割合を一定にした場合、領域25cにおいて生成するプラズマが多くなり、誘導結合プラズマ1aと誘導結合アンテナ1bに流れる電流は相対的に減少するので、領域25aと領域25bで生成するプラズマは少なくなる。そのためプラズマの中央の密度が高くなり、ウエハ13上の処理速度分布も中央が早くなってしまう。
【0035】そこで、誘導結合アンテナ1aに流れる電流を小さく、誘導結合アンテナ1bに流れる電流を大きくすることで、径の大きい領域25bで生成するプラズマを多くし、径の小さい領域25aで生成するプラズマを少なくすることで、プラズマの分布を制御し、ウエハ13上の処理速度を均一にすることができる。」
(1e)「【図5】


(1f)「【図7】



これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「内部にプラズマ生成部を形成する絶縁材料で成る放電部(2a)と、被処理物である試料、例えば、ウエハ(13)を配置するための電極が設置された処理部(2b)とから成る真空容器(2)を有し、
放電部の外側には整合器(マッチングボックス)(3)を介して高周波電源(10)に直列に接続されているコイル状の誘導結合アンテナが配置されており、
該誘導結合アンテナは、第1の誘導結合アンテナ(1a)と第2の誘導結合アンテナ(1b)の二系統を上下に設置し、並列に接続したものであって、第1の誘導結合アンテナには直列にバリコン(16)が接続され、
真空容器内にはガス供給装置(4)から処理ガスが供給され、真空容器内は排気装置(7)によって所定の圧力に減圧排気され、
バリコンでインピーダンスの値を変化させることで二系統の誘導結合アンテナに流れる高周波電流の大きさを制御することによりプラズマ分布を制御することができる、
プラズマ処理装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用文献2
同じく、特開2003-179045号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、プラズマを用いて被処理体に成膜処理等の処理を施すプラズマ処理装置に関する。」
(2b)「【0041】また、インピーダンス整合器34は、例えば図5に示すように、可変コンデンサC1、C2と、インダクタ(コイル)L1とを備えて構成される。可変コンデンサC1、C2の容量は、例えばサセプタ8上に載置されたウェハWを処理するための各プロセスの初期設定時点において、第2の高周波電源51側の出力インピーダンスとシャワーヘッド5側への入力インピーダンスとを整合させるため、インピーダンス制御回路46によって制御される。
【0042】インピーダンス制御回路46は、例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えるCPU(Central Processing Unit)等から構成され、インピーダンス整合器34のインピーダンスを制御するためのものである。即ち、インピーダンス制御回路46は、真空容器2内の処理空間におけるプロセス条件が変化する際に、インピーダンス整合器34におけるインピーダンスを調整し、各プロセス条件に対応したインピーダンスの初期設定を行う。例えば、インピーダンス制御回路46は、インピーダンス整合器34が備える可変コンデンサC1、C2の電極を回転(或いは、並進)させるためのモータを回転駆動するなどして、プロセス条件に対応して予め定めたインピーダンスの初期値付近で、第2の高周波電源51側の出力インピーダンスとシャワーヘッド5側への入力インピーダンスとを整合させる。
【0043】より具体的には、インピーダンス制御回路46は、各プロセスの初期設定段階において、位相差センサ41が計測した電圧成分と電流成分との間の位相差に基づき、可変コンデンサC1の容量を調整する。例えば、インピーダンス制御回路46は、各プロセスの初期設定段階にてインピーダンス整合器34に入力される高周波電力における電圧成分と電流成分との間の位相差が0となるように、可変コンデンサC1の容量を調整する。また、インピーダンス制御回路46は、各プロセスの初期設定段階において、インピーダンスセンサ42が計測したインピーダンス整合器34側への入力インピーダンスの大きさに基づき、可変コンデンサC2の容量を調整する。例えば、インピーダンス制御回路46は、各プロセスの初期設定段階にてインピーダンス整合器34側への入力インピーダンスの大きさが50Ωとなるように、可変コンデンサC2の容量を調整する。なお、インピーダンス制御回路46は切替機能を持ち、位相差センサ41の計測結果に基づいて可変コンデンサC2の容量を調整し、インピーダンスセンサ42の計測結果に基づいて可変コンデンサC1の容量を調整するように変更することも可能である。
【0044】ここで、インピーダンス制御回路46は、真空容器2内でウェハWを処理するための複数のプロセス条件毎に、インピーダンス整合器34のインピーダンスをウェハWの処理以前に予測した整合点に合わせて調整するための制御データを記憶しており、この制御データに基づいて可変コンデンサC1、C2の容量を調整する。この制御データは、可変コンデンサC1、C2の可動範囲を、プロセス条件に対応して予測される整合点を含んだ範囲で、且つ、可変コンデンサC1、C2の全可動範囲よりも狭く限定された一定の範囲に制限して、インピーダンスを整合させるためのデータである。」
(2c)「【0048】この際、インピーダンス制御回路46は、各プロセスの初期設定段階において、例えばROM等に記憶されている制御データを読み出して、インピーダンス整合器34のインピーダンスを調整する。ここで、制御データは、予め計算により、或いは実験結果に基づいて作成され、インピーダンス制御回路46が備えるROM等に記憶されている。この制御データは、例えば、各プロセス条件に対応した整合点が存在すると予測される可変コンデンサC1、C2の容量を、各プロセスの初期設定段階でインピーダンスを整合させるための初期値としている。
【0049】インピーダンス制御回路46は、制御データに従って、可変コンデンサC1、C2の容量を、それらの全可動範囲よりも狭く限定された所定の範囲内で変動させ、インピーダンス整合器34のインピーダンスを調整する。例えば、真空容器2内で行われるウェハWの処理が第1及び第2のプロセスP1、P2からなり、第1のプロセスP1に対応して予め定めた可変コンデンサC1の容量の初期値がD1、第2のプロセスP2に対応して予め定めた可変コンデンサC1の容量の初期値がD2であるものとする。ここで、初期値D1、D2は、それぞれ、第1及び第2のプロセスP1、P2において再現性のある整合点に対応した値である。」
(2d)「【0052】次に、第1のプロセスP1が終了した後、第2のプロセスP2に移行する際には、可変コンデンサC1の容量を第2のプロセスP2に対応して予め定めた初期値D2付近で調整して、インピーダンスを整合させる。即ち、インピーダンス制御回路46は、図6(a)に示すように、可変コンデンサC1の容量を、第2のプロセスP2に対応して予め定められた可動範囲R2内で調整し、初期値D2付近でインピーダンスを整合させる。この可動範囲R2も、可変コンデンサC1の容量の全可動範囲Raよりも狭く限定されている。
【0053】図6(b)は、こうした可動範囲の制限を行わずにインピーダンス整合器34のインピーダンスを調整した場合における、可変コンデンサC1の容量の変化を示す図である。図6(a)、(b)の比較から明らかなように、第1及び第2のプロセスP1、P2に対応して予め定められた可動範囲R1、R2内で可変コンデンサC1の容量を調整することで、第1のプロセスP1から第2のプロセスP2に移行するまでに要する時間(整合時間)を短縮することができる。即ち、図6(a)、(b)において、T1<T2となる。
【0054】インピーダンス制御回路46は、可変コンデンサC2の容量についても、その全可動範囲よりも狭く限定した所定の範囲を各プロセス条件に対応して予め定めておき、各プロセスの初期設定段階において、インピーダンスを整合させるための調整を行う。このように、プロセス条件が変化する際に可変コンデンサC1、C2の可動範囲を制限してインピーダンスを整合させるので、各プロセスの初期設定段階におけるインピーダンスの整合に要する時間を短縮することができる。また、不安定な整合点での偶発的な整合を避けることができ、真空容器2内に安定したプラズマを生成させることができる。」

3.対比
補正発明と引用発明を比較する。
(1)引用発明の「ウエハ」、「真空容器」、「ガス供給装置」及び「排気装置」は、それぞれ、補正発明の「被処理基板」、「処理室」、「処理ガス供給系」及び「排気系」に相当する。
引用発明は、「ウエハを配置するための電極が設置され」ているから、補正発明の「載置台」に相当する構成を有することは明らかである。
また、引用発明の「プラズマ処理装置」は補正発明の「誘導結合プラズマ処理装置」に相当する。
(2)引用発明の「放電部」が「絶縁材料で成」り、その「外側に整合器(マッチングボックス)を介して高周波電源に直列に接続されているコイル状の誘導結合アンテナが配置されている」構成は、補正発明の「処理室の外部に誘電体部材を介して配置され、整合器を介して高周波電源に接続されて高周波電力が供給される」「高周波アンテナ」に相当する。
そして、引用発明の「第1の誘導結合アンテナと第2の誘導結合アンテナの二系統」のアンテナが補正発明の「それぞれ異なる電界強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテナ部」に相当する。
(3)引用発明の「第1の誘導結合アンテナには直列にバリコンが接続され」た構成は、補正発明の「各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され、その接続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段」に相当する。
そして、引用発明の「バリコンでインピーダンスの値を変化させることで二系統の誘導結合アンテナに流れる高周波電流の大きさを制御することによりプラズマ分布を制御する」構成は、補正発明の「インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により、前記複数のアンテナ部の電流値を制御し、前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ密度分布を制御する」構成に相当する。
以上のことから、両者は、
「被処理基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、
前記処理室内で被処理基板が載置される載置台と、
前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室の外部に誘電体部材を介して配置され、整合器を介して高周波電源に接続されて高周波電力が供給されることにより前記処理室内にそれぞれ異なる電界強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテナ部を有する高周波アンテナと、
前記各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され、その接続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段と
を具備し、
前記インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により、前記複数のアンテナ部の電流値を制御し、前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ密度分布を制御する誘導結合プラズマ処理装置。」
の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点)
補正発明は「アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され、所定のアプリケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段」を有しているのに対して、引用発明がそのような制御手段を有するかどうか不明な点。

4.判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、プラズマ処理装置のインピーダンス整合器を、プロセス毎に異なるインピーダンスに整合させるために「各プロセスに対応して予め定めた、ROM等に記憶されている制御データを読み出して可変コンデンサによりインピーダンスを調整するインピーダンス制御回路」(以下「引用2発明」という。)が記載されている。
引用2発明と上記相違点に係る構成を対比すると、引用2発明の「プロセス」、「調節パラメータ」、「インピーダンス調節手段」、「各プロセスに対応して予め定めた、ROM等に記憶されている制御データ」及び「インピーダンス制御回路」は、それぞれ、相違点に係る構成の「アプリケーション」、「制御データ」、「可変コンデンサ」、「アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータ」及び「インピーダンス調節手段を制御する制御手段」に相当する。
してみると、引用2発明は上記相違点に係る構成の「所定のアプリケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段」という構成を有している。
引用2発明はインピーダンス調整に際してごく普通に用いられる可変コンデンサを用いたものであり、引用2発明がインピーダンス整合器に限らず、広くインピーダンス調整のために用いることが可能であることは当業者にとって自明である。
そして、引用発明がウエハを処理するための装置であることを考慮すれば、引用発明が「バリコンでインピーダンスの値を変化させることで」「プラズマ分布を制御する」のは、アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られるようにインピーダンスを調整するものであることは明らかである。そのための制御手段として引用2発明を用いることに、格別の技術的困難性も阻害要因もない。

そして、補正発明全体の効果も、引用発明及び引用2発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、補正発明は、引用発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.小括
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
平成24年4月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年9月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「被処理基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、
前記処理室内で被処理基板が載置される載置台と、
前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室の外部に誘電体部材を介して配置され、高周波電力が供給されることにより前記処理室内にそれぞれ異なる電界強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテナ部を有する高周波アンテナと、
前記各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され、その接続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段と
を具備し、
前記インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により、前記複数のアンテナ部の電流値を制御し、前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ密度分布を制御するとともに、
アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され、所定のアプリケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段をさらに有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置。」(以下「本願発明」という。)

1.引用刊行物
原査定に引用され、本願出願前に頒布された刊行物及びその記載内容は、前記「第2」の「2.」に記載したとおりである。

2.対比
本願発明は、前記「第2」で検討した補正発明から「整合器を介して高周波電源に接続されて」(高周波電力が供給される)という特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する補正発明が、前記「第2」の「4.」に記載したとおり、引用発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-07 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2006-139042(P2006-139042)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05H)
P 1 8・ 121- Z (H05H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 加代子  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 誘導結合プラズマ処理装置、誘導結合プラズマ処理方法およびコンピュータ読取り可能な記憶媒体  
代理人 高山 宏志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ