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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65H |
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管理番号 | 1281988 |
審判番号 | 不服2013-16563 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-08-27 |
確定日 | 2013-12-10 |
事件の表示 | 特願2008-306810「紙管およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月10日出願公開、特開2010-126360、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年12月1日の出願であって、平成24年10月5日付けで拒絶理由が通知され、同年12月14日付けで手続補正がされ、平成25年5月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成24年12月14日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 原紙を巻き重ねることにより形成された紙管であって、 当該紙管を構成する原紙がバルカナイズドファイバーのみであり、 前記巻き重ねられた原紙の層間が、酢酸ビニル系樹脂エマルションを用いて接着されており、 当該紙管の外周面が、前記巻き重ねられた原紙の最外層を研磨することにより形成され、該外周面の、JIS B0601:2001に準拠して測定される表面粗さ(Ra)が4μm以下であることを特徴とする紙管。」 (以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 第3 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:登録実用新案第3105798号公報 刊行物2:特開2005-231896号公報 刊行物3:特開2006-200044号公報 刊行物4:実願昭55-91711号(実開昭57-13550号)の マイクロフィルム 第4 当審の判断 1.刊行物の記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、図面とともに以下の記載がある。 「【0013】 図1は、本考案に係る紙管1を示す。この紙管1は、図2に示したように、所定幅の帯状原紙2を接着剤3で貼り合わせ、スパイラル状に複数層巻き付けて形成されている。 【0014】 本考案の紙管1を形成する帯状原紙2は、後述するような無塵紙又は硫酸紙で構成される。 【0015】 帯状原紙2に使用される無塵紙は、例えば、リンテック株式会社製のもので、アクリル樹脂を含浸させてパルプ繊維同士が結合されたパルプ材であり、単位重量60g/m2?450g/m2、厚さ0.06mm?0.55mmで形成されているのが好ましい。無塵紙は、前記厚さの範囲内で、同一の厚さのもの又は異なる厚さのものを適宜組み合わせて使用され、本考案の紙管1を形成する。 【0016】 また、帯状原紙2に使用される硫酸紙は、例えば、アールストローム社(米国)製のもので、パーチメント処理したパルプ材、すなわち、化学パルプを濃硫酸に浸し、表面のセルロースを分解してアミロイド化させ、膨潤したパルプ繊維を硬化させた半透明状の薄紙であり、厚さ0.1mm?0.25mmで形成されているのが好ましい。 【0017】 接着剤3としては、酢酸ビニル系エマルジョン接着剤又はアクリル系エマルジョン接着剤が使用され、接着剤3の粘度は、800?3000mPa・sで形成されるのが好ましく、塗布量を20g/m2?40g/m2として、帯状原紙2に塗布される。 【0018】 紙管1は、公知の紙管製造装置のマンドレル上で所定幅の帯状原紙2をその表面に連続的に接着剤3を塗布して貼り合わせ、スパイラル状に複数層巻き付けて製造される。なお、紙管1は、帯状原紙2がスパイラル状に複数層巻き付けられたものに限定されるものではなく、帯状原紙2を平巻状に複数層巻き付けて構成されたものであってもよい。」 また、【図1】【図2】から、複数層巻き付けられた帯状原紙2の層間が、接着剤3を用いて接着されていることが看取できる。 そうすると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「帯状原紙2を複数層巻き付けて形成されている紙管1であって、 当該紙管1を形成する帯状原紙2は、無塵紙又は硫酸紙であり、 前記複数層巻き付けられた帯状原紙2の層間が、酢酸ビニル系エマルジョン接着剤又はアクリル系エマルジョン接着剤3を用いて接着されている紙管1。」 2.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「帯状原紙2」及び「紙管1」は、各々本願発明の「原紙」及び「紙管」に相当し、引用発明の「複数層巻き付けて形成されている」ことは、本願発明の「巻き重ねることにより形成された」ことに相当し、また、引用発明の「酢酸ビニル系エマルジョン接着剤又はアクリル系エマルジョン接着剤3」は、使用接着剤として「酢酸ビニル系樹脂エマルション接着剤」を含む限りにおいて本願発明と一致するから、本願発明の用語を使用して、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「原紙を巻き重ねることにより形成された紙管であって、 前記巻き重ねられた原紙の層間が、酢酸ビニル系樹脂エマルションを用いて接着されている紙管。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本願発明では、紙管を構成する原紙がバルカナイズドファイバーのみであり、接着剤が酢酸ビニル系樹脂エマルション接着剤であるのに対して、引用発明では、原紙が無塵紙又は硫酸紙であり、接着剤が酢酸ビニル系エマルジョン接着剤又はアクリル系エマルジョン接着剤である点。 [相違点2] 本願発明では、紙管の外周面が、前記巻き重ねられた原紙の最外層を研磨することにより形成され、該外周面の、JIS B0601:2001に準拠して測定される表面粗さ(Ra)が4μm以下であるのに対して、引用発明では、そのような限定がない点。 3.判断 上記相違点について検討する。 上記相違点1について、原査定で引用されたいずれの刊行物にも、紙管を構成する原紙としてバルカナイズドファイバーを用い、接着剤として酢酸ビニル系樹脂エマルションを用いることは、記載されていない。したがって、原紙をバルカナイズドファイバーのみとすることが容易であるとはいえない。 加えて、仮に、無塵紙又は硫酸紙の代わりにバルカナイズドファイバーからなる原紙を採用することが周知であったとしても、このバルカナイズドファイバーからなる原紙の層間を酢酸ビニル系樹脂エマルションを用いて接着することまでもが、容易であるとはいえない。 これに対して、本願発明では、上記相違点1を含む構成を採用することによって、 「【0047】 上記本発明に用いられる酢酸ビニル系樹脂エマルションは、バルカナイズドファイバー同士を強固に接着し得るものであり、該酢酸ビニル系樹脂エマルションを用いることによって、バルカナイズドファイバーのみを多層に巻き重ねることが可能となる。そのため、本発明によれば、従来は得られなかった、原紙としてバルカナイズドファイバーのみを用いた紙管を提供することができる。 また、本発明の紙管は、原紙としてバルカナイズドファイバーのみを用いているため、強靱で、一般的な紙管に比べて圧縮強度や耐摩耗性に優れている。また、樹脂管に比べて衝撃強度が高く、割れや欠損が生じない。 また、バルカナイズドファイバーの特性上、研磨、切断等の加工を行った際にも、その加工面から繊維や紙粉が飛び散りにくい。そのため、ハンドリング時、運搬時等において衝撃が加わった場合でも発塵しにくい。 また、樹脂による表面加工処理を行わなくても、外周面を研磨するだけで、紙管外周面の凹凸を無くすることができる。かかる紙管は、巻き取る製品に跡がつきにくく、巻芯としての有用性が高い。 また、摩擦による帯電現象が生じにくい、環境負荷が小さい等の利点もある。 また、該紙管は、特定の樹脂エマルションを使用していることで、バルカナイズドファイバーの吸水時の伸縮が抑制されており、製造時、または経時的な吸湿による皺の形成や寸法変化が抑制されている。 また、該紙管は、バルカナイズドファイバーの巻き重ねにより形成されるものであり、一般紙管製造装置で製造できるため、成型による製法が主流であるABS樹脂管等の樹脂管に比べて、小ロット・他品種の巻芯への適用が容易である。」 という優れた効果を奏するものと認められる。 したがって、この点について、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2013-11-26 |
出願番号 | 特願2008-306810(P2008-306810) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B65H)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 松原 陽介 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
熊倉 強 渡邊 真 |
発明の名称 | 紙管およびその製造方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 柳井 則子 |
代理人 | 柳井 則子 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 高橋 詔男 |