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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G10H
管理番号 1281999
審判番号 不服2013-10013  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-30 
確定日 2013-12-12 
事件の表示 特願2008- 55263「楽曲演奏プログラム、楽曲演奏装置、楽曲演奏方法、および楽曲演奏システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月17日出願公開、特開2009-210917、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年3月5日の出願であって、手続きの概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年10月10日(起案日)
意見書 :平成24年12月12日
手続補正 :平成24年12月12日
拒絶査定 :平成25年 2月26日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 5月30日
手続補正 :平成25年 5月30日
審尋 :平成25年 8月20日(起案日)
回答書 :平成25年10月17日

第2 平成25年5月30日付けの手続補正の適否

平成25年5月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲のについてするもので、補正前の請求項14、16、18、20を削除するものである。

本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たす。

第3 本願発明について

1.本願発明

本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たすから、本願の請求項1ないし16に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
楽曲を構成する各音の音高情報および再生タイミング情報を含む楽曲データを再生することによって当該楽曲の演奏を行う楽曲演奏装置において実行される楽曲演奏プログラムであって、
前記楽曲演奏装置のコンピュータに、
任意の音量で前記楽曲データを再生する機能を有する楽曲データ再生ライブラリを利用して、音量0で前記楽曲データを再生する無音再生処理を開始する無音再生開始ステップ、
前記無音再生処理中に、前記楽曲を構成する各音が無音で再生される毎に、当該無音で再生された音に関する音情報を音情報記憶領域に順次格納する音情報格納ステップ、
前記無音再生処理が開始された後に前記楽曲データを有音で再生する有音再生処理を、前記無音再生処理と並列に再生するように開始する有音再生開始ステップ、
前記有音再生処理中に、前記音情報記憶領域に記憶されている前記音情報を利用した情報処理を行う音情報利用ステップ、および、
前記有音再生処理が開始される前の期間において、前記無音再生処理における前記楽曲の再生速度を、前記有音再生処理における当該楽曲の再生速度よりも一時的に速くする再生速度制御ステップを実行させる、楽曲演奏プログラム。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-224084号公報(平成11年8月17日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、楽音に応答して画像を生成する技術、特に、楽音発生のための楽音制御情報を解釈して得た情報に応答してグラフィックス動画像を生成するためのシステム、方法及び記録媒体に関する。」

(2)「【0006】さらに、楽音データを基にしてCG動画像を生成する場合には、この画像生成が楽音イベントの発生後に生じる反応であるために、無視し得ない画像生成の遅れを生じる恐れがあり、また、補間の際には、コンピュータのCG描画能力やCPUへの負荷変動によりアニメーション速度が変化したりキーフレーム位置の描画が飛ばされてしまうことがあるために、音楽の演奏に同期してCGアニメーションを作成することができないことがあり、さらには、CG動画像を楽器演奏者モデルとする際には、画像各部を単に各楽音データに応じて個別的に制御するだけでは、CG動画像に対して楽音データに応じた自然な動きを与えることができない。従って、この発明のさらに別の目的は、このようなCG動画像生成上の諸事情に鑑み、所望画像の生成の遅れを回避することができ、また、システムの処理能力に応じてスムースな補間処理を行うことができ、さらには、楽音データのまとまりを解析することにより演奏者モデルを自然な演奏形態で動作させることもできる新規な画像生成方法を提供することにある。」

(3)「【0009】この発明による楽音応答画像生成方法においては、さらに、前記楽音及び画像を生成する両ステップにおいて前記楽音制御情報のうち楽音及び画像が生成されるべき部分の情報が読み出される前に、当該部分の情報を先読みし解析して、当該部分の情報に対応するグラフィックスデータを用意するステップが備えられ、このグラフィックスデータを利用して当該部分の情報に対応する前記画像を生成することによって、画像の動きをビートやイベントに適合したものとする。」

(4)「【0012】さらに、この発明による楽音応答画像生成のための記憶媒体には、演奏すべき楽曲に対応して楽音制御情報及び同期信号を順次出力させ、前記演奏すべき楽曲に対応して動作パラメータを供給し、前記楽音制御情報に基づいて楽音を生成させると共に、前記楽音制御情報及び同期信号に基づき、前記動作パラメータに従って各部の動きが制御される画像を生成させて、楽音生成の進行に合わせて画像を動かすようにしたプロセスを実行するためのプログラムが記憶される。」

(5)「【0017】この発明では、演奏データのCG画像処理に際し、演奏データに基づく楽音生成の進行に先行して演奏データを逐次先読みしておき、画像が応答すべきイベントに対応して事前にCG解析や予測を行うようにすることによって、楽音生成時において、描画(画像生成)をスムースに行うことができ、描画の遅延や「もたり」を生じにくくすると共に、描画処理負担が軽減され、また、画像オブジェクトをより一層自然な動作を行わせることができる。」

(6)「【0021】図1を参照すると、ここには、この発明の一実施例による楽音応答画像生成システムのハードウエア構成が示されている。このシステムは、音源内蔵パーソナルコンピュータ(パソコン)システムや、ハードディスク付きシーケンサ(パソコン)に音源及びディスプレイを加えたシステムと同様に、中央処理装置(CPU:central processing unit )1、読出専用メモリ(ROM:read only memory)2、ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)3、入力装置4、外部記憶装置5、入力インターフェース(I/F)6、音源装置7、表示処理装置8等を備え、これらの装置は、バス9を介して互いに接続される。
【0022】図1において、ROM2には、このシステムを制御するための所定のプログラムが記憶されており、これらのプログラムには、後で説明する各種処理に関するプログラムが含まれる。CPU1は、このシステム全体をROM2に記憶されている所定のプログラムに従って種々の制御を行い、特に、後述するシーケンサ及び画源モジュール機能を中枢的に遂行する。RAM3は、これらの制御に際して必要なデータやパラメータを記憶し、また、各種レジスタやフラグ等を一時記憶するためのワーク領域として用いられる。」

(7)「【0114】〔演奏データの先読み解析〕前述したように、演奏データのCG画像処理への具体的適用に当って、演奏データに基づく楽音生成の進行に若干先行して演奏データを逐次先読みしておき、事前にCG解析や予測を行っておくことは、「もたり」と呼ばれる処理の重なりを防止したり、生成される楽音との同期並びに各可動部間の同期の確実性を一層向上させるのに、非常に有利である。このような先読み解析を行うために、この発明の好ましい実施態様によれば、演奏データの再生ポインタとは別個に先読みポインタを用意しておき、アプリケーション側でこの先読みポインタを使い、当該演奏データによる楽曲演奏に先行して事前に演奏データを解析しておく。
【0115】図17には、この発明の好適な実施態様に従い、ダンシングモードにおいて演奏データの先読み解析を行い、その解析結果に基づくCG画像を楽曲演奏に合わせて生成させる場合を原理的に示す概念図が示されている。この図に示されるように、この発明による先読み解析処理においては、演奏データの読出しポインタとして、再生ポインタRP及び先読みポインタPPの2つが用意される。再生ポインタRPは、演奏データブロックD0 ,D1 ,D2 ,…からなる演奏データのうちの現在再生中のデータブロックの位置管理のためのポインタであり、この再生ポインタRPとは別個に設けられる先読みポインタPPは、再生ポインタRPにより指示される再生データブロックに対して、例えば、所定数(n-m)だけ、先行するデータブロックを指示し、当該再生データブロックに対してCGデータを準備するためのポインタである。
【0116】先読みポインタPPは、演奏すべき楽曲が選択されると、演奏データの発音指示がくる前に当該演奏データを先読みしてその解析を開始し、解析した結果を記憶装置に記憶させて行く。例えば、時点tm+1 にて先読みポインタPPにより演奏データのうちデータブロックDm が指示されると、このデータブロックDm の演奏データが解析される。そして、この演奏データから、指定された動作パラメータに対応する必要なイベントを見つけ、このイベント及びその時刻を判断材料として、当該演奏データの再生時点tn+1 において生成されるべき画像に対応するCGデータを決定し、これを解析結果として記憶させる。そして、この演奏データの楽音発生時(tn+1 )に、記憶装置から解析結果を読出して対応するCG画像を表示システムDPに描画させる。
【0117】図18には、このような先読み解析処理フローSEの一実施例が示されており、先読みポインタPPでの処理(A)及び再生ポインタRPでの処理(B)から成る。再生ポインタRPでの処理(B)は、定期的な割込みによって起動する必要があり、先読みポインタPPでの処理(A)も、定期的な割込みにて起動することが好ましいが、他の重要な処理(例えば、再生ポインタでの処理)の負担が重いときには起動されず、余力がある場合に起動されるようにしても構わない。
【0118】〔先読みポインタ処理(A)〕先読み解析処理フローSEにおいては、先ず、以下の各ステップSE11?SE14から成る先読みポインタ処理(A)によって、事前に描画準備がなされ、その後、再生ポインタ処理(B)が行われる。
【0119】〔ステップSE11〕イベント情報を受けることにより先読みポインタ処理(A)が起動されると、ステップSE11にて、先読みポインタPPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出される。例えば、図17において、時点tm+1 にて先読みポインタPPにより指示されるデータブロックDm の演奏データが検出され、ステップSE12に進む。
【0120】〔ステップSE12〕ステップSE12では、検出された演奏データDm が解析され、例えば、演奏データから、指定された動作パラメータに対応する必要なイベントを見つけ、このイベント及びその時刻を判断材料として、当該演奏データの再生時点tn+1 において生成されるべき画像に対応するCGデータを決定する。なお、このステップSE12における解析には、当該演奏データDm の他に、例えば、それ以前に実行された先読みポインタ処理のときに演奏データDm-1 ,Dm-2 ,…について解析された結果を利用することができる。
【0121】〔ステップSE13〕ステップSE13では、ステップSE12において解析結果として決定されたCGデータを当該ポインタと共に記憶装置に格納して、ステップSE14に進む。
〔ステップSE14〕ステップSE14では、先読みポインタPPを1つ進めて、次の割込みを待機する状態に復帰する。
【0122】〔再生ポインタ処理(B)〕このようなステップSE11?SE14から成る先読みポインタ処理(A)の後に行われる再生ポインタ処理(B)は、以下のステップSE21?SE25から成る。
【0123】〔ステップSE21〕先読みポインタ処理(A)に若干の遅れをもってイベント情報を受けることにより再生ポインタ処理(B)が起動されると、ステップSE21にて、再生ポインタRPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出される。例えば、図17において、時点tn+1 にて再生ポインタRPにより指示されるデータブロックDm の演奏データが検出され、ステップSE22に進む。
〔ステップSE22〕ステップSE22では、検出された演奏データ(例えば、Dm )に基づいて直ちに発音処理及びその他必要な音源処理が行われる。
【0124】〔ステップSE23〕ステップSE23では、ステップSE22における発音処理に並行して、先読み時〔先読みポインタ処理(A)のステップSE12〕に当該演奏データに対して準備しておいた解析結果(CGデータ)を、再生ポインタを基にして記憶装置から読み出し、ステップSE24に進む。
〔ステップSE24〕ステップSE24では、読み出された解析結果(CGデータ)に基づいてCG画像を描画し、ステップSE25に進む。その結果、ディスプレイ12の画面上には、当該演奏データ(例えば、Dm )に対応した画像がその演奏に同期して表示される。
〔ステップSE25〕ステップSE25では、再生ポインタRPを1つ進めて、次の割込みを待機する状態に復帰する。このような処理フローによって、演奏データに対応した発音及び画像生成処理が順次実行されていく。
【0125】上述した例では、先読み及び再生をリアルタイムで並行処理していくものにつて説明したが、再生前に、MIDIファイルからの演奏データをバッチ処理することによって、先読みを1つの楽曲全部について行ってしまい、全ての演奏データについて描画準備を整えた後に、再生処理を行うようにしても構わない。
【0126】以上のように、この発明の先読み解析処理によると、画像が応答すべきイベントに対応するCGデータを予め準備しておくので、当該イベントに基づく再生時点(イベント発生時)での発音及び描画(画像生成)をスムースに行うことができ、描画の遅延や「もたり」を生じにくくすることができる。また、再生時点での描画処理負担が軽減されるので、例えば、画像オブジェクトとしてピアニストを表示する場合などにおいて、イベント発生時の可動部をピアニストの右手のみとしてこの右手を当該イベントに対応して動くように描画しようする際、余力で、当該イベントに直接関係しない左手を上げさせたりするというような間合いをつくることもできる。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)引用例には、「楽音発生のための楽音制御情報を解釈して得た情報に応答してグラフィックス動画像を生成するためのシステム、方法及び記録媒体」が記載されており、「楽音応答画像生成のための記憶媒体」には、「楽音生成の進行に合わせて画像を動かすようにしたプロセスを実行するためのプログラム」が記憶される(摘示事項(1)、(4))。

(b)楽音応答画像生成システムは、音源内蔵パーソナルコンピュータ(パソコン)システムや、ハードディスク付きシーケンサ(パソコン)に音源及びディスプレイを加えたシステムと同様のハードウエア構成である(摘示事項(6))。

(c)演奏データの再生ポインタとは別個に先読みポインタを用意しておき、アプリケーション側でこの先読みポインタを使い、当該演奏データによる楽曲演奏に先行して事前に演奏データを解析しておく。再生ポインタRPは、演奏データブロックD0 ,D1 ,D2 ,…からなる演奏データのうちの現在再生中のデータブロックの位置管理のためのポインタであり、この再生ポインタRPとは別個に設けられる先読みポインタPPは、再生ポインタRPにより指示される再生データブロックに対して、例えば、所定数(n-m)だけ、先行するデータブロックを指示し、当該再生データブロックに対してCGデータを準備するためのポインタである。先読みポインタPPは、演奏すべき楽曲が選択されると、演奏データの発音指示がくる前に当該演奏データを先読みしてその解析を開始し、解析した結果を記憶装置に記憶させて行く(摘示事項(7))。

(d)定期的な割込みにより先読みポインタ処理(A)が起動されると、ステップSE11にて、先読みポインタPPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出され、ステップSE12では、検出された演奏データDm が解析され、当該演奏データの再生時点tn+1 において生成されるべき画像に対応するCGデータを決定し、ステップSE13では、ステップSE12において解析結果として決定されたCGデータを当該ポインタと共に記憶装置に格納する(摘示事項(7))。

(e)先読みポインタ処理(A)に若干の遅れをもって定期的な割込みにより再生ポインタ処理(B)が起動されると、ステップSE21にて、再生ポインタRPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出され、ステップSE22では、検出された演奏データ(例えば、Dm )に基づいて直ちに発音処理及びその他必要な音源処理が行われ、ステップSE23では、ステップSE22における発音処理に並行して、先読み時〔先読みポインタ処理(A)のステップSE12〕に当該演奏データに対して準備しておいた解析結果(CGデータ)を、再生ポインタを基にして記憶装置から読み出し、ステップSE24では、読み出された解析結果(CGデータ)に基づいてCG画像を描画する(摘示事項(7))。

(f)先読み及び再生をリアルタイムで並行処理していく(摘示事項(7))。

「楽音応答画像生成システム」のハードウエア構成である「コンピュータ」に、各ステップを実行させる構成を、「プログラム」として捉えることができることを踏まえて、以上を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「楽音応答画像生成システムにおいて実行されるプログラムであって、
楽音応答画像生成システムのコンピュータに、
定期的な割込みにより先読みポインタ処理(A)が起動されると、ステップSE11にて、先読みポインタPPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出され、ステップSE12では、検出された演奏データDm が解析され、当該演奏データの再生時点tn+1 において生成されるべき画像に対応するCGデータを決定し、ステップSE13では、ステップSE12において解析結果として決定されたCGデータを当該ポインタと共に記憶装置に格納し、
先読みポインタ処理(A)に若干の遅れをもって定期的な割込みにより再生ポインタ処理(B)が起動されると、ステップSE21にて、再生ポインタRPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出され、ステップSE22では、検出された演奏データ(例えば、Dm )に基づいて直ちに発音処理及びその他必要な音源処理が行われ、ステップSE23では、ステップSE22における発音処理に並行して、先読み時〔先読みポインタ処理(A)のステップSE12〕に当該演奏データに対して準備しておいた解析結果(CGデータ)を、再生ポインタを基にして記憶装置から読み出し、ステップSE24では、読み出された解析結果(CGデータ)に基づいてCG画像を描画し、
先読み及び再生をリアルタイムで並行処理していく動作を実行させるプログラム。」

3.対比

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)楽曲演奏プログラム
「演奏データ」は、一般に、楽曲を構成する各音の音高情報および再生タイミング情報を含むものであるから、「楽曲を構成する各音の音高情報および再生タイミング情報を含む楽曲データ」といえる。引用発明の「楽音応答画像生成システム」は、検出された演奏データに基づいて直ちに発音処理及びその他必要な音源処理を行うものであるから、「楽曲データを再生することによって当該楽曲の演奏を行う楽曲演奏装置」といえる。引用発明の「プログラム」は、検出された演奏データに基づいて直ちに発音処理及びその他必要な音源処理を行うステップを実行させるものであるから、「楽曲演奏プログラム」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「楽曲を構成する各音の音高情報および再生タイミング情報を含む楽曲データを再生することによって当該楽曲の演奏を行う楽曲演奏装置において実行される楽曲演奏プログラム」である点で一致する。

(2)楽曲演奏装置のコンピュータに、各ステップを実行させる、楽曲演奏プログラム
引用発明の「プログラム」は、楽音応答画像生成システムのコンピュータに、各ステップを実行させるものであるから、本願発明と引用発明とは、「前記楽曲演奏装置のコンピュータに、各ステップを実行させる、楽曲演奏プログラム」である点で一致する。

(3)無音再生開始ステップ
引用発明は、定期的な割込みにより先読みポインタ処理(A)が起動されると、「ステップSE11」にて、先読みポインタPPにより指示されるデータブロック部分の演奏データを検出するものであり、検出された演奏データに基づく発音処理は行われないから、初めて実行される「ステップSE11」は、「音量0で前記楽曲データを再生する無音再生処理を開始する無音再生開始ステップ」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「音量0で前記楽曲データを再生する無音再生処理を開始する無音再生開始ステップ」を実行させる点で一致し、「音量0で前記楽曲データを再生する」際に、本願発明は、「任意の音量で前記楽曲データを再生する機能を有する楽曲データ再生ライブラリを利用」するのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

(4)音情報格納ステップ
引用発明は、ステップSE12では、検出された演奏データDm が解析され、当該演奏データの再生時点tn+1 において生成されるべき画像に対応するCGデータを決定し、ステップSE13では、ステップSE12において解析結果として決定されたCGデータを当該ポインタと共に記憶装置に格納するものである。引用発明の「CGデータ」は、検出された演奏データDm が解析され、当該演奏データの再生時点tn+1 において生成されるべき画像に対応するCGデータとして決定されたものであるから、「無音で再生された音に関する情報」といえるものの、「音情報」とまではいえない。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記無音再生処理中に、前記楽曲を構成する各音が無音で再生される毎に、当該無音で再生された音に関する情報を情報記憶領域に順次格納する情報格納ステップ」を実行させる点で一致し、「無音で再生された音に関する情報」について、本願発明が「音情報」であるのに対し、引用発明が「CGデータ」である点で相違する。

(5)有音再生開始ステップ
引用発明は、先読みポインタ処理(A)に若干の遅れをもって定期的な割込みにより再生ポインタ処理(B)が起動されると、「ステップSE21」にて、再生ポインタRPにより指示されるデータブロック部分の演奏データが検出され、「ステップSE22」では、検出された演奏データ(例えば、Dm )に基づいて直ちに発音処理及びその他必要な音源処理が行われ、先読み及び再生をリアルタイムで並行処理していくものであるから、初めて実行される「ステップSE21」「ステップSE22」は、「前記無音再生処理が開始された後に前記楽曲データを有音で再生する有音再生処理を、前記無音再生処理と並列に再生するように開始する有音再生開始ステップ」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記無音再生処理が開始された後に前記楽曲データを有音で再生する有音再生処理を、前記無音再生処理と並列に再生するように開始する有音再生開始ステップ」を実行させる点で一致する。

(6)音情報利用ステップ
引用発明は、ステップSE23では、ステップSE22における発音処理に並行して、先読み時〔先読みポインタ処理(A)のステップSE12〕に当該演奏データに対して準備しておいた解析結果(CGデータ)を、再生ポインタを基にして記憶装置から読み出し、ステップSE24では、読み出された解析結果(CGデータ)に基づいてCG画像を描画するものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記有音再生処理中に、前記情報記憶領域に記憶されている前記情報を利用した情報処理を行う情報利用ステップ」を実行させる点で一致し、「情報」について、本願発明は、「音情報」であるのに対し、引用発明は、「CGデータ」である点で相違する。

(7)再生速度制御ステップ
本願発明と引用発明とは、本願発明が、「前記有音再生処理が開始される前の期間において、前記無音再生処理における前記楽曲の再生速度を、前記有音再生処理における当該楽曲の再生速度よりも一時的に速くする再生速度制御ステップを実行させる」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「楽曲を構成する各音の音高情報および再生タイミング情報を含む楽曲データを再生することによって当該楽曲の演奏を行う楽曲演奏装置において実行される楽曲演奏プログラムであって、
前記楽曲演奏装置のコンピュータに、
音量0で前記楽曲データを再生する無音再生処理を開始する無音再生開始ステップ、
前記無音再生処理中に、前記楽曲を構成する各音が無音で再生される毎に、当該無音で再生された音に関する情報を情報記憶領域に順次格納する音情報格納ステップ、
前記無音再生処理が開始された後に前記楽曲データを有音で再生する有音再生処理を、前記無音再生処理と並列に再生するように開始する有音再生開始ステップ、
前記有音再生処理中に、前記情報記憶領域に記憶されている前記情報を利用した情報処理を行う情報利用ステップを実行させる、楽曲演奏プログラム。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「音量0で前記楽曲データを再生する」際に、本願発明は、「任意の音量で前記楽曲データを再生する機能を有する楽曲データ再生ライブラリを利用」するのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(2)「無音で再生された音に関する情報」について、本願発明が「音情報」であるのに対し、引用発明が「CGデータ」である点。

(3)本願発明が、「前記有音再生処理が開始される前の期間において、前記無音再生処理における前記楽曲の再生速度を、前記有音再生処理における当該楽曲の再生速度よりも一時的に速くする再生速度制御ステップを実行させる」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

4.判断

そこで、上記相違点(3)について検討する。

引用発明は、演奏データのCG画像処理に際し、演奏データに基づく楽音生成の進行に先行して演奏データを逐次先読みしておき、画像が応答すべきイベントに対応して事前にCG解析や予測を行うようにすることによって、楽音生成時において、描画(画像生成)をスムースに行うことができ、描画の遅延や「もたり」を生じにくくすると共に、描画処理負担が軽減され、また、画像オブジェクトをより一層自然な動作を行わせることができるものである(摘示事項(5))。
引用発明において、「前記有音再生処理が開始される前の期間において、前記無音再生処理における前記楽曲の再生速度を、前記有音再生処理における当該楽曲の再生速度よりも一時的に速くする再生速度制御ステップを実行させる」と、演奏データのCG画像処理に際し、演奏データに基づく楽音生成の進行に先行して演奏データを逐次先読みしておき、画像が応答すべきイベントに対応して事前にCG解析や予測を行うようにする時間が足りなくなりかねず、引用発明の目的に相反する。
したがって、引用発明において、「前記有音再生処理が開始される前の期間において、前記無音再生処理における前記楽曲の再生速度を、前記有音再生処理における当該楽曲の再生速度よりも一時的に速くする再生速度制御ステップを実行させる」動機付けがあるとはいえない。

したがって、上記相違点(1)、(2)について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項2ないし13は、請求項1を直接若しくは間接に引用する請求項であるから、請求項2ないし13に係る発明も、本願発明と同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項14ないし16に係る発明は、本願発明とはカテゴリーは異なるものの、その内容は実質的に同じであるから、請求項14ないし16に係る発明も、本願発明と同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし16に係る発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-11-29 
出願番号 特願2008-55263(P2008-55263)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G10H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小宮 慎司  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 乾 雅浩
関谷 隆一
発明の名称 楽曲演奏プログラム、楽曲演奏装置、楽曲演奏方法、および楽曲演奏システム  
代理人 小沢 昌弘  
代理人 石原 盛規  
代理人 寺本 亮  

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