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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1282079
審判番号 不服2012-23962  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-04 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2008- 65601「走査光学装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 1日出願公開、特開2009-222861〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年3月14日の出願であって、平成24年3月30日に手続補正がなされ、同年8月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月4日付けで拒絶査定不服審判請求がなされ、当審において、平成25年7月18日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月20日付けで手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、平成25年9月20日付けで当審拒絶理由に対する意見書を提出している。

2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年9月20日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年9月20日付け補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「偏向器で偏向された複数のビームを、複数の光学素子からなる走査光学系を介してそれぞれ異なる被走査面上に露光する走査光学装置において、
前記偏向器を保持している第1の筐体部分と、
前記複数の光学素子を保持していると共に、前記第1の筐体部分に対して位置調整可能に取り付けられている第2の筐体部分と、
前記第2の筐体部分に設けられ、前記複数の光学素子の位置調整を行うための調整手段と、
を備えており、
前記複数の光学素子は、一列に並ぶように配置されており、
一方の端に設けられている前記光学素子には、前記調整手段が設けられておらず、
前記第2の筐体部分と前記第1の筐体部分との位置調整において基準となる基準位置が、前記複数の光学素子の内、前記一方の端に設けられている前記光学素子の長手方向のほぼ延長線上であって前記光学素子の近傍に配置された長孔と該長孔に係合するピンとで構成されており、前記長孔は前記光学素子の長手方向に対して直交する方向又は平行な方向に延在していること、
を特徴とする走査光学装置。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
当審拒絶理由に引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-114396号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査光学装置、特に、電子写真方式の複写機やプリンタなどカラー画像形成用の画像形成装置に搭載されるレーザ走査光学装置に関する。」

(2)「【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンタなどの電子写真方式によるフルカラーの画像形成装置にあっては、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色に対応して四つの感光体ドラムを並置し、各感光体ドラム上に形成された各色の画像を中間転写体に転写して合成するタンデム方式が主流になっている。
【0003】
この種のタンデム方式の画像成形装置に搭載されるレーザ走査光学装置として、従来、特許文献1に記載されているように、偏向器と該偏向器で偏向されたビームを被走査面に導く光学素子を筐体に取り付け、該光学素子の位置調整部材も同じ筐体に取り付けられていた。
【0004】
しかしながら、偏向器を保持する筐体は偏向器の発熱(主にモータの発熱)によって加熱され、筐体とこれに取り付けられた位置調整部材との線膨張係数の差に基づいて筐体あるいは位置調整部材に歪みが発生し、被走査面上での露光位置が変化するという問題点を有していた。このように露光位置が変化すると、タンデム方式のカラー画像形成装置にあっては、色ずれとなって画像品質を著しく悪化させてしまう。
【特許文献1】特開2002-148551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、偏向器の発熱に起因する筐体の歪みの影響を極力排除して露光位置の変化を抑えることのできるレーザ走査光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明は、少なくとも単一の偏向器で偏向された複数のビームを、複数の光学素子からなる走査光学系を介してそれぞれ異なる被走査面上に露光するレーザ走査光学装置において、前記偏向器及び前記走査光学系を保持する筐体は、偏向器を保持する第1の筐体部分と光学素子を保持する第2の筐体部分とに分割されており、前記第2の筐体部分に前記光学素子の位置調整手段が設けられていること、を特徴とする。
【0007】
本発明に係るレーザ走査光学装置においては、偏向器を保持する第1の筐体部分と光学素子を保持する第2の筐体部分とに分割されているため、偏向器の発熱によって生じた第1の筐体部分の熱や歪みが第2の筐体部分に影響を及ぼすことが極力回避され、位置調整手段にて調整された光学素子の位置ずれがなくなり、または極めて小さくなり、露光位置の変化を抑えることができ、ひいては色ずれのない高品質のカラー画像を得ることができる。
【0008】
本発明に係るレーザ走査光学装置において、前記光学素子及び位置調整手段は第2の筐体部分の偏向器から離れた外側面に設けられていることが好ましい。偏向器の発熱からの影響を極力排除することができる。
【0009】
また、前記光学素子の少なくとも一つが偏向器の回転軸のほぼ延長線上に設けられていてもよい。複数のビームを走査する光学装置はどうしても大型化するが、光学素子の少なくとも一つを偏向器の回転軸のほぼ延長線上に設けることで、筐体内のスペースを効率的に利用してレーザ走査光学装置の小型化を図ることができる。
【0010】
また、第1及び第2の筐体部分を同じ材料から構成すれば、熱による線膨張係数が同じなので歪みが小さくなる。
【0011】
また、第1の筐体部分に対して第2の筐体部分が弾性的に固定されていてもよく、あるいは、第1及び第2の筐体部分は第1の筐体部分よりも熱伝導率の低い材料を介して固定されていてもよく、あるいは、第1及び第2の筐体部分は少なくとも1箇所が点接触していてもよい。このような構成によって、偏向器の発熱によって生じた第1の筐体部分の熱や歪みが第2の筐体部分に及ぼす影響を極力排除することができる。
【0012】
さらに、第1の筐体部分に対して第2の筐体部分は、主走査方向に直交する方向においてほぼ2等分した領域のうち偏向器から遠い領域で固定されていてもよい。第2の筐体部分の偏向器に近い領域が第1の筐体部分に対してフリーとなっていることにより、第1の
筐体部分の歪みの影響が小さくなる。
【0013】
また、第2の筐体部分に保持された光学素子のうち偏向器に最も近い光学素子は位置調整手段を有していなくてもよい。つまり、偏向器(熱源)に最も近い光学系を基準として他の光学系を調整することにより、他の光学系の調整幅を小さく抑えることができる。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るレーザ走査光学装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施例、図1及び図2参照)
本発明の第1実施例であるレーザ走査光学装置1Aは、図1及び図2に示すように、電子写真法によるタンデム方式の画像形成装置の画像露光用として構成され、並置された四つの感光体ドラム10(10Y,10M,10C,10K)に対してレーザビームBY,BM,BC,BKを走査する。
【0016】
各感光体ドラム10の周囲には帯電器、現像器、転写器などの周知の作像エレメントが配置され、四つの作像ユニットとして構成されている。レーザビームの走査によって各感光体ドラム10上に形成された画像(静電潜像)は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナーによって現像され、図示しない中間転写体上に1次転写/合成され、さらに転写材上に2次転写される。この種のタンデム方式による画像形成プロセスは周知であり、その説明は省略する。
【0017】
レーザ走査光学装置1Aは、図示しない四つのレーザダイオードを含む光源ユニットと、単一のポリゴンミラー5と、該ポリゴンミラー5から各感光体ドラム10までの光路を形成する走査光学系20とで構成されて、これらの部材は筐体30に保持されている。走査光学系20は、四つの光路に共通な走査レンズ(以下、第1レンズ21と記す)と、平面ミラー23Y,23M,24M,23C,24C,23K,24Kと、走査光学系20の終端部に位置して四つの光路に個別に配置された走査レンズ(以下、第2レンズ22(22Y,22M,22C,22K)と記す)とで構成されている。
【0018】
光源ユニットからはポリゴンミラー5に対して副走査方向Zに所定の角度を有するレーザビームが放射され、該レーザビームはポリゴンミラー5の回転に基づいて主走査方向Yに等角速度で偏向される。図1及び図2において、BY,BM,BC,BKはポリゴンミラー5で偏向されたビームを示し、走査光学系20の光軸を符号Pで示す。第1及び第2レンズ21,22は、各ビームにfθ特性を与えるとともに収差を補正する機能を有している。
【0019】
各レーザビームBY,BM,BC,BKは第1レンズ21を透過した後、ビームBYは平面ミラー23Yで反射され、第2レンズ22Yを透過して感光体ドラム10Yを露光する。ビームBMは平面ミラー23M,24Mで反射され、第2レンズ22Mを透過して感光体ドラム10Mを露光する。ビームBCは平面ミラー23C,24Cで反射され、第2レンズ22Cを透過して感光体ドラム10Cを露光する。ビームBKは平面ミラー23K,24Kで反射され、第2レンズ22Kを透過して感光体ドラム10Kを露光する。
【0020】
筐体30は、概略、第1の筐体部分31と第2の筐体部分35とに2分割されており、第2の筐体部分35には各ビームが通過するウインドウ36が形成されている。第1の筐体部分31には、モータ6を備えたポリゴンミラー5と、第1レンズ21と、平面ミラー23Y,23M,23C,23Kとが保持されている。また、第2の筐体部分35には、内側に平面ミラー24M,24C,24Kと、ポリゴンミラー5から離れた外側に第2レンズ22が保持されている。
【0021】
ポリゴンミラー5は第1の筐体部分31に形成された隔室32内に収容され、他の光学素子への熱影響をできるだけ避けるように配置されている。また、隔室32には偏向されたビームを通過させるスリット33が形成されている。
【0022】
第2の筐体部分35には各第2レンズ22の位置調整手段40が、主走査方向Yに沿って図2での上部と中央部とに設けられている。この位置調整手段40は、ブラケット41に螺着した調整ねじ42とU字形状の板ばね43との間に第2レンズ22を挟み込んだもので、調整ねじ41の進退によって第2レンズ22が主走査方向Yとは直交する方向に位置調整される。なお、第2レンズ22の図2での下部は、板ばね43と押圧部材44とで弾性的に位置固定されている。
【0023】
前記調整手段40による第2レンズ22の位置調整は、各ビームによる感光体ドラム10上での走査ラインのスキュー(直線S1参照)やボウ(曲線S2参照)を補正するために行われる。なお、走査光学系20を構成する各種光学素子の位置調整手段は第2レンズ22に対してのみ設けられており、他の光学素子に対しては設けられていない。
【0024】
ところで、ポリゴンミラー5を駆動することによるモータ6の発熱は第1の筐体部分31を加熱し、かつ、歪ませる。そして、この発熱や歪みが第2の筐体部分35に影響を及ぼし、調整された第2レンズ22の位置が変化する。このような不具合を防止するため、本第1実施例では、筐体30を、ポリゴンミラー5を保持する第1の筐体部分31と第2レンズ22を保持する第2の筐体部分35とに分割している。このような分割によって、モータ6の発熱によって生じた第1の筐体部分31の熱や歪みが第2の筐体部分35に影響を及ぼすことが極力回避され、第2レンズ22の位置ずれが防止される。
【0025】
特に、第2レンズ22とその位置調整手段40が第2の筐体部分35のポリゴンミラー5から離れた外側面に設けられているため、モータ6の発熱からの影響を極力排除することができる。
【0026】
また、本第1実施例においては、平面ミラー24K及び第2レンズ22Kをポリゴンミラー5の下方(即ち、ポリゴンミラー5の回転軸5aのほぼ延長線上)に配置した。これにて、筐体30内のスペースを効率的に利用してレーザ走査光学装置1Aの小型化を図ることができる。
【0027】
また、筐体部分31,35は同じ材料又は異なる材料であってもよいが、同じ材料から構成すれば熱による線膨張係数が同じなので歪みが小さくなる利点を有する。
【0028】
第2の筐体部分35は第1の筐体部分31に対してねじ止めなどで固定されるが、第1の筐体部分31に対して第2の筐体部分35が弾性的に固定されていてもよい。具体的には、図1のa点やb点をスプリングなどの弾性材で押圧する構成を採用することができる。これにて、第1の筐体部分31の歪みが第2の筐体部分35に及ぼす影響を極力排除することができる。」

(4)「【0029】
(第2実施例、図3参照)
本発明の第2実施例であるレーザ走査光学装置1Bは、図3に示すように、第1の筐体部分31と第2の筐体部分35とを熱伝導率の低い部材37を介して固定したものである。他の構成は前記第1実施例と同様である。従って、図3において図1と同じ部材には同じ符号を付し、重複した説明は省略する。
【0030】
部材37としては、熱伝導率が第1及び第2の筐体部分31,35よりも低い材料を使用することができ、少なくとも第1の筐体部分31よりも低ければよい。これにて、第1の筐体部分31から第2の筐体部分35に熱が伝導されにくくなる。」

(5)「【0031】
(第3実施例、図4参照)
本発明の第3実施例であるレーザ走査光学装置1Cは、図4に示すように、第1の筐体部分31の下端34に丸みを設け、第2の筐体部分35に対して点接触させたものである。他の構成は前記第1実施例と同様である。従って、図4において図1と同じ部材には同じ符号を付し、重複した説明は省略する。
【0032】
第1及び第2の筐体部分31,35が点接触することによって、第1の筐体部分31から第2の筐体部分35に熱が伝導されにくくなる。なお、点接触部分は少なくとも1箇所であればよく、発熱源(ポリゴンミラー5)に近い部分、即ち、図4の左側のみが点接触していてもよい。また、第2の筐体部分35に半球状あるいはかまぼこ状の突起を形成して点接触する構成としてもよい。」

(6)図1及び図2から、複数の第2レンズ22Y,22M,22C,22Kは、一列に並ぶように配置されており、一列に並ぶように配置されている複数の第2レンズのうちで偏向器であるポリゴンミラー5に最も近い光学素子は、その一端に設けられている第2レンズ22Kであることが見て取れる。

(7)上記(1)ないし(6)から、引用例には、
「少なくとも単一の偏向器で偏向された複数のビームを、複数の光学素子からなる走査光学系を介してそれぞれ異なる被走査面上に露光するレーザ走査光学装置において、
偏向器、該偏向器で偏向されたビームを被走査面に導く光学素子及び該光学素子の位置調整部材を同じ筐体に取り付けていた従来のものは、偏向器を保持する筐体が偏向器の発熱(主にモータの発熱)によって加熱され、筐体とこれに取り付けられた位置調整部材との線膨張係数の差に基づいて筐体あるいは位置調整部材に歪みが発生し、被走査面上での露光位置が変化するという問題点を有していたので、
偏向器の発熱に起因する筐体の歪みの影響を極力排除して露光位置の変化を抑えるため、
前記偏向器及び前記走査光学系を保持する筐体を、偏向器を保持する第1の筐体部分と光学素子を保持する第2の筐体部分とに分割し、
前記第2の筐体部分に前記光学素子の位置調整手段を設け、
偏向器の発熱によって生じた第1の筐体部分の熱や歪みが第2の筐体部分に影響を及ぼすことを極力回避し、位置調整手段にて調整された光学素子の位置ずれをなくすか、極めて小さくし、露光位置の変化を抑えることにより、色ずれのない高品質のカラー画像を得ることができるようにした、レーザ走査光学装置であって、
四つのレーザダイオードを含む光源ユニットと、単一のポリゴンミラー5と、該ポリゴンミラー5から各感光体ドラム10までの光路を形成する走査光学系20とで構成されて、これらの部材は筐体30に保持され、
走査光学系20は、四つの光路に共通な走査レンズである第1レンズ21と、平面ミラー23Y,23M,24M,23C,24C,23K,24Kと、走査光学系20の終端部に位置して四つの光路に個別に配置された走査レンズである第2レンズ22Y,22M,22C,22Kとで構成され、
第2レンズ22Y,22M,22C,22Kは、一列に並ぶように配置されており、その一端に設けられている第2レンズ22Kは前記ポリゴンミラー5に最も近接しており、
筐体30は、概略、第1の筐体部分31と第2の筐体部分35とに2分割されており、第2の筐体部分35には各ビームが通過するウインドウ36が形成され、第1の筐体部分31には、モータ6を備えたポリゴンミラー5と、第1レンズ21と、平面ミラー23Y,23M,23C,23Kとが保持されており、第2の筐体部分35には、内側に平面ミラー24M,24C,24Kと、ポリゴンミラー5から離れた外側に第2レンズ22Y,22M,22C,22Kが保持されており、
第2の筐体部分35には各第2レンズ22Y,22M,22C,22Kの位置調整手段40が、主走査方向Yに沿って上部と中央部とに設けられ、第2レンズ22Y,22M,22C,22Kの下部は、板ばね43と押圧部材44とで弾性的に位置固定されており、
平面ミラー24K及び第2レンズ22Kをポリゴンミラー5の下方、即ち、ポリゴンミラー5の回転軸5aのほぼ延長線上に配置して、筐体30内のスペースを効率的に利用してレーザ走査光学装置1Aの小型化を図るとともに、第2の筐体部分35は第1の筐体部分31に対してねじ止めなどで固定されるが、第1の筐体部分31に対して第2の筐体部分35を弾性的に固定したり、第1の筐体部分31と第2の筐体部分35とを熱伝導率の低い部材37を介して固定したり、第1の筐体部分31の下端34に丸みを設け、第2の筐体部分35に対して点接触させたりすることによって、第1の筐体部分31の歪みが第2の筐体部分35に及ぼす影響を極力排除しており、
偏向器であり発熱源であるポリゴンミラー5に最も近い光学系を基準として他の光学系を調整することにより、他の光学系の調整幅を小さく抑えることができるので、第2の筐体部分に保持された第2レンズ22Y,22M,22C,22Kのうちポリゴンミラー5に最も近い第2レンズ22Kは位置調整手段40を有していなくてもよい、レーザ走査光学装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「『偏向器』、『ポリゴンミラー5』」、「複数のビーム」、「『複数の光学素子』、『第2レンズ22Y,22M,22C,22K』」、「走査光学系」、「それぞれ異なる被走査面」、「レーザ走査光学装置」、「少なくとも単一の偏向器で偏向された複数のビームを、複数の光学素子からなる走査光学系を介してそれぞれ異なる被走査面上に露光するレーザ走査光学装置」、「偏向器を保持する第1の筐体部分」、「光学素子を保持する第2の筐体部分」、「『前記第2の筐体部分』に設けた『前記光学素子の位置調整手段』」、「第2レンズ22Y,22M,22C,22Kは、一列に並ぶように配置されており」及び「『その一端に設けられている第2レンズ22Kは前記ポリゴンミラー5に最も近接』しており、『第2の筐体部分に保持された第2レンズ22Y,22M,22C,22Kのうちポリゴンミラー5に最も近い第2レンズ22Kは位置調整手段40を有していな』くてもよい」は、それぞれ、本願発明の「偏向器」、「複数のビーム」、「複数の光学素子」、「走査光学系」、「それぞれ異なる被走査面」、「走査光学装置」、「偏向器で偏向された複数のビームを、複数の光学素子からなる走査光学系を介してそれぞれ異なる被走査面上に露光する走査光学装置」、「前記偏向器を保持している第1の筐体部分」、「『前記複数の光学素子を保持』している『第2の筐体部分』」、「前記第2の筐体部分に設けられ、前記複数の光学素子の位置調整を行うための調整手段」、「前記複数の光学素子は、一列に並ぶように配置されており」及び「一方の端に設けられている前記光学素子には、前記調整手段が設けられておらず」に相当する。

(2)引用発明の「第2の筐体部分」35は、「第1の筐体部分」31に対してねじ止めなどで固定されるから、本願発明の「前記第1の筐体部分に対して位置調整可能に取り付けられている第2の筐体部分」と、「前記第1の筐体部分に対して取り付けられている」点で一致する。

(3)上記(1)及び(2)から、本願発明と引用発明とは、
「偏向器で偏向された複数のビームを、複数の光学素子からなる走査光学系を介してそれぞれ異なる被走査面上に露光する走査光学装置において、
前記偏向器を保持している第1の筐体部分と、
前記複数の光学素子を保持していると共に、前記第1の筐体部分に対して取り付けられている第2の筐体部分と、
前記第2の筐体部分に設けられ、前記複数の光学素子の位置調整を行うための調整手段と、
を備えており、
前記複数の光学素子は、一列に並ぶように配置されており、
一方の端に設けられている前記光学素子には、前記調整手段が設けられていない、走査光学装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明では、前記第1の筐体部分に対する前記第2の筐体部分の取り付けが位置調整可能なものであって、その前記第2の筐体部分と前記第1の筐体部分との位置調整において基準となる基準位置が、前記複数の光学素子の内、前記一方の端に設けられている前記光学素子の長手方向のほぼ延長線上であって前記光学素子の近傍に配置された長孔と該長孔に係合するピンとで構成されており、前記長孔は前記光学素子の長手方向に対して直交する方向又は平行な方向に延在しているのに対して、
引用発明では、前記第1の筐体部分に対する前記第2の筐体部分の取り付けは、弾性的に固定したり、熱伝導率の低い部材37を介して固定したり、点接触させて固定したりするものであって、ねじ止めなどで固定されるものであり、他の光学系の調整に前記「一方の端に設けられている前記光学素子(その一端に設けられている第2レンズ22K)」を基準としているが、前記第1の筐体部分に対する前記第2の筐体部分の取り付けが位置調整可能となっているかどうかは明らかでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)走査光学装置の分野において、他の3つの光学部材の微調整の基準となる第1の光学部材を第1の光学部材及び他の3つの光学部材を搭載した支持体ごと位置決め固定し、その後他の3つの光学部材を位置決めした第1の光学部材を基準として前記支持体上で微調整することは、本願の出願前に周知である(以下「周知技術1」という。例.いずれも当審拒絶理由で引用した、特開2006-243460号公報(図5の3Kと3C、3M及び3Yとの関係参照。)、特開2006-337679号公報(図5の右端のシリンドリカルレンズ3と、他の3つのシリンドリカルレンズ3との関係参照。))。

(2)位置決め固定できるようにする手段に長孔と該長孔に係合するピンとからなる構成を採用したものは、本願の出願前に周知である(以下「周知技術2」という。例.特許第3444134号公報(【0017】、図5参照。)、特開2000-258710号公報(【0055】、図7参照。)、特開2001-51483号公報(【0047】、図6参照。)、特開2001-159784号公報(【請求項9】参照。)、特開2007-85419号公報(【請求項4】?【請求項6】参照。)、特開2008-58866号公報(【0070】、図3、図4参照。))。

(3)引用発明において、前記第1の筐体部分に対する前記第2の筐体部分の取り付けはねじ止めなどで固定されるものであり、各第2レンズ22Y,22M,22C,22Kの位置調整は第2の筐体部分35に設けた位置調整手段40で行われるようになっているので、第2レンズ22Kの位置調整も位置調整手段40で行うことができるが、第2レンズ22Kは位置調整手段40を有していなくてもよいから、そのようにするだけでは、第2レンズ22Kの位置調整ができなくなってしまうことが当業者に自明である。
したがって、引用発明において、偏向器であり発熱源であるポリゴンミラー5に最も近い光学系を基準として他の光学系を調整することにより、他の光学系の調整幅を小さく抑えることができるので、第2の筐体部分に保持された第2レンズ22Y,22M,22C,22Kのうちポリゴンミラー5に最も近い第2レンズ22Kは位置調整手段40を有しないものとするとともに、そのようにしても第2レンズ22Kの位置調整ができなくなってしまわないように、他の3つの第2レンズ22Y,22M,22Cの微調整の基準となる第2レンズ22Kを各第2レンズ22Y,22M,22C,22Kを搭載した第2の筐体部分ごと位置決め固定できるようにし、第2の筐体部分ごと位置決め固定した後、他の3つの第2レンズ22Y,22M,22Cを位置決めした第2レンズ22Kを基準として前記第2の筐体部分上で微調整するようになすことは、当業者が、周知技術1に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(4)本願発明の「『前記複数の光学素子の内、前記一方の端に設けられている前記光学素子の長手方向のほぼ延長線上であって前記光学素子の近傍に配置された長孔と該長孔に係合するピンとで構成』されている『前記第2の筐体部分と前記第1の筐体部分との位置調整において基準となる基準位置』」が、上記(3)の「第2レンズ22Kを第2の筐体部分ごと位置決め固定できるように」する手段に相当するといえるが、本願の発明の詳細な説明の記載からみて、本願発明で、その位置決め固定できるようにする手段に「前記複数の光学素子の内、前記一方の端に設けられている前記光学素子の長手方向のほぼ延長線上であって前記光学素子の近傍に配置された長孔と該長孔に係合するピンと」を採用した点に周知技術2を超える技術上の意義があるとは解せない。

(5)したがって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、上記(1)ないし(4)からして、当業者が周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(6)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(7)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-26 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-15 
出願番号 特願2008-65601(P2008-65601)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 浩司  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 鉄 豊郎
西村 仁志
発明の名称 走査光学装置  
代理人 特許業務法人プロフィック特許事務所  

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