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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1282080
審判番号 不服2012-24035  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-04 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2006-127565「発光素子封止用組成物及び発光素子並びに光半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月15日出願公開、特開2007-299981〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年5月1日の出願であって、平成24年4月9日付け及び同年8月8日付けで手続補正がなされたところ、同年8月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月4日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成25年7月4日付けで拒絶理由が通知され、同年9月9日付けで手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項に係る発明は、平成25年9月9日付け手続補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のものである。

「分散粒径が1nm以上かつ20nm以下でありかつ屈折率が1.8以上の無機酸化物粒子を、透明なシリコーン樹脂中に分散してなる、透明複合体からなり、
この透明複合体中の無機酸化物粒子の含有率は40重量%以上かつ50重量%以下であり、
放出する光の波長を450nmとしたときの、光路長1mmにおける光透過率は80%以上であることを特徴とする発光素子封止用組成物。」(以下「本願発明」という。)


2 引用刊行物の記載事項
当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-15063号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【技術分野】
本発明は発光デバイスに関し、より詳細には半導体発光デバイスに関する。」

(2)「【0006】
【発明の開示】
幾つかの実施形態においては、発光デバイスは、第1光を発光する光源と、第1光に対してほぼ透明であり、第1光の少なくとも一部を受け取るように配置された第1材料と、第1材料中に分散された第2材料の粒子とを含む。第2材料は、第1光の波長において第1材料の屈折率より大きい屈折率を有する。粒子は、この波長より小さい直径をもち、この波長の光を実質的に吸収しない。光源は、例えば発光半導体デバイスとすることができる。」

(3)「【0017】
高い屈折率のナノ粒子を低い屈折率の母材の中に分散させることによって達成される屈折率の増加は、有効媒体理論の観点において理解することができる。引用によりその全体がここに組み入れられる「Principles of Optics. Sixth Edition」(Max Born and Emil Wolf、Pregamon Press、1980年、第2章)に記載されているような有効媒体理論は、混合物の光学的及び誘電的特性を、構成成分の特性の観点から説明するものである。混合物の屈折率は、例えば、混合物が、他の材料の非散乱部分を含む母材として扱われる場合には、成分の屈折率の体積加重平均によって良好に概算することができる。こうした条件下では、屈折率niをもつ体積vlの成分の混合物によって形成された媒体の屈折率nは、次式(1)によって与えられる。

【0018】
一例として、約1.5の屈折率をもつエポキシ又はシリコン中に分散された約2.3から約2.4までの屈折率をもつ酸化セリウムか又は酸化チタンのような材料のナノ粒子の場合には、式(1)は、混合物中のナノ粒子の体積分率が約0から約0.35まで変化するのに伴って、混合物の屈折率が約1.5から約1.8まで変化することを表す。こうした混合物の屈折率の上限は、母材中のナノ粒子の分散性と、ナノ粒子と母材の屈折率によって設定される。本発明者らは、例えば、酸化セリウム及び酸化チタンのナノ粒子は、体積分率が約30%を超えて約40%までになるようにシリコン中に分散させることができると考えている。…
【0019】
本発明者らはまた、発光半導体デバイスからの光抽出は、デバイスから発光された光の波長(例えばピーク波長)より小さいナノ粒子を母材中に分散させて、該混合物を発光半導体デバイスの上に又は周りに配置することによって増加させることができることを見出した。ナノ粒子は、母材より大きい屈折率をもつように選択される。混合物の屈折率の増加によって全内反射に起因する損失が減少するので、光抽出は、母材のみで包み込まれた同様の発光半導体デバイスと比較して増加する。」

(4)「【0022】
図2を参照すると、例えば、本発明の実施形態は、Al_(x)In_(y)Ga_(z)NベースのLED10を使用することができる。LED10は、基板16上に配置されたバッファ層14上に配置される多層エピタキシャル構造12を含む。基板16は、例えば、サファイア(Al_(2)O_(3))、炭化ケイ素、又はIII族窒化物材料から形成することができる。エピタキシャル構造12は、上側のp型Al_(x)In_(y)Ga_(z)N領域20と下側のAl_(x)In_(y)Ga_(z)N領域22との間に配置された活性領域18を含む。Al_(x)In_(y)Ga_(z)N領域22は、n型の及び/又は非ドープのAl_(x)In_(y)Ga_(z)N層を含む。活性領域18は、Al_(x)In_(y)Ga_(z)Nの層から形成された1つ又はそれ以上の量子井戸を含む。p型オームコンタクト24と金属層26は、互いに及び上側のAl_(x)In_(y)Ga_(z)N領域20に電気的に接続される。n型オームコンタクト28は、下側のAl_(x)In_(y)Ga_(z)N領域22に電気的に接続される。コンタクト24及び28を横切る適切な順バイアスの印加によって、電子と正孔が活性領域18に注入される。活性領域18において電子と正孔が放射再結合することによって光が生成する。…」

(5)「【0023】
一実施形態(図3)においては、発光デバイス30は、反射カップ34に配置された発光半導体デバイス32を含む。反射カップ34はまた、デバイス32によって発光された光に対してほぼ透明である材料36を収容する。デバイス32によって発光された光の波長において材料36より大きい屈折率をもつナノ粒子38は、ほぼ透明な材料中に分散される。ナノ粒子は、デバイス32によって発光された光の波長(例えばピーク波長)より小さい直径をもつように選択され、これにより発光された光を実質的に散乱させない。ナノ粒子38は、デバイス32のピーク発光波長の約1/4より小さい直径をもつことが好ましい。例えば、幾つかの実施においては、ナノ粒子38は、約2nmから約50nmまでの直径をもち、デバイス32は、約400nmより大きい波長をもつ光を発光する。反射カップ34は、発光半導体デバイス32によって発光された光を反射して、発光デバイス30の光学的出力を生成する。…
【0024】
ここで用いられる「ほぼ透明な」という用語は、デバイス32によって発光されたピーク波長における光を、吸収又は散乱に起因する一回の通過損失が約25%より少なく、好ましくは約10%より少なく、より好ましくは約2%より少ない状態で透過させる材料を指すために用いられる。材料36は、有機物又は無機物とすることができ、例えば、この限りではないが従来のエポキシ、アクリルポリマー、ポリカーボネート、シリコンポリマー、光学ガラス、カルコゲナイドガラス、スピロ化合物、及びこれらの混合物を含む材料から構成することができる。
【0025】
幾つかの実施においては、ナノ粒子38は、デバイス32によって発光された波長、具体的にはピーク発光波長における光をほぼ吸収しない。「ほぼ吸収しない」及び「ほぼ非吸収性」という句は、ここでは、こうした実施におけるナノ粒子が、包囲体によって透過された光の一回の通過損失が、約30%より多くまで、好ましくは約20%より多くまで増加しないようにするのに十分なだけ非吸収性であることを指すのに用いられる。当業者であれば、デバイス32によって発光された光の、ナノ粒子による吸収に起因する損失は、個々のナノ粒子の吸収断面と、ほぼ透明な材料36中のナノ粒子の濃度と、ことによるとナノ粒子とそれを取り囲む材料との間の相互作用とに依存することを理解されるであろう。こうした実施に好適なナノ粒子は、この限りではないが、金属酸化物、窒化物、ニトリドシリケート、及びこれらの混合物のナノ粒子を含むことができる。好適な金属酸化物は、この限りではないが、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、及びこれらの混合物を含むことができる。例えば約2nmから約10nmまでの範囲のサイズをもつ、こうした金属酸化物のナノ粒子は、例えば、ドイツのフランクフルト/マイン所在のDegussa-Huls AG社から入手可能である。

【0028】
幾つかの実施においては、材料36中のナノ粒子38の体積分率(濃度)は、材料にナノ粒子38が組み合わされたものが、特定の屈折率をもつ媒体を与えるように選択することができる。所望の屈折率を与えるのに必要とされる材料36中のナノ粒子38のおおよその体積分率は、上記に説明されたような有効媒体理論を用いて求めることができる。材料36中のナノ粒子38の体積分率は、特定の所望の屈折率をもつ混合物を与える体積分率を求めるために、算出された値の付近で変えることができる。
【0029】
幾つかの実施においては、材料36中のナノ粒子38の体積分率は、約20%から約60%まで変えることができる。シリコン中の酸化セリウム又は酸化チタンナノ粒子の例について上記に説明したように、材料36にナノ粒子38が組み合わされたものは、例えば、発光半導体デバイス32からの一次発光のピーク波長において約1.6より大きい、好ましくは約1.8より大きい屈折率をもつ媒体を与えることができる。
当業者であれば、材料36とナノ粒子38は、種々の公知の方法によって反射カップ34中に配置できることを認識するであろう。
【0030】
ナノ粒子38と材料36との混合物の屈折率を増大させることによって、デバイス32と材料36との界面における全内反射に起因する損失が減少するので、発光半導体デバイス32からの光抽出は、材料36の中に包み込まれた同様の発光デバイスに比べて有利に増加させることができる。このデバイス32からの光抽出の増加は、発光された光の散乱を増加させることなく達成することができる。」

(6)上記(1)?(3)及び(5)に照らして、引用刊行物には、「発光半導体デバイスの上又は周りに配置され、該発光半導体デバイスからの光の少なくとも一部を受け取るように配置された第1材料(材料36)と該第1材料中に分散された第2材料の粒子(ナノ粒子38)との混合物」が記載されているといえる。

よって、上記の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「発光半導体デバイスの上又は周りに配置され、該発光半導体デバイスからの光の少なくとも一部を受け取るように配置された第1材料(材料36)と該第1材料中に分散された第2材料の粒子(ナノ粒子38)との混合物であって、
前記第2材料は、第1光の波長において第1材料の屈折率より大きい屈折率を有し、粒子は、この波長より小さい直径をもち、この波長の光を実質的に吸収せず、
高い屈折率のナノ粒子を低い屈折率の母材の中に分散させることによって屈折率の増加が達成され、一例として、約1.5の屈折率をもつエポキシ又はシリコン中に分散された約2.3から約2.4までの屈折率をもつ酸化セリウムか又は酸化チタンのような材料のナノ粒子の場合には、混合物中のナノ粒子の体積分率が約0から約0.35まで変化するのに伴って、混合物の屈折率が約1.5から約1.8まで変化し、
発光半導体デバイスからの光抽出は、デバイスから発光された光の波長(例えばピーク波長)より小さいナノ粒子を母材中に分散させて、該混合物を発光半導体デバイスの上に又は周りに配置することによって増加させることができ、
発光半導体デバイスとして、Al_(x)In_(y)Ga_(z)NベースのLED10を使用することができ、
デバイス32によって発光された光の波長において材料36より大きい屈折率をもつナノ粒子38は、ほぼ透明な材料中に分散され、ナノ粒子は、デバイス32によって発光された光の波長(例えばピーク波長)より小さい直径をもつように選択され、これにより発光された光を実質的に散乱させず、ナノ粒子38は、デバイス32のピーク発光波長の約1/4より小さい直径をもつことが好ましく、例えば、ナノ粒子38は、約2nmから約50nmまでの直径をもち、デバイス32は、約400nmより大きい波長をもつ光を発光し、
材料36は、例えば、エポキシ、アクリルポリマー、ポリカーボネート、シリコンポリマー、光学ガラス、カルコゲナイドガラス、スピロ化合物、及びこれらの混合物を含む材料から構成することができ、
ナノ粒子38は、デバイス32によって発光された波長、具体的にはピーク発光波長における光をほぼ吸収せず、デバイス32によって発光された光の、ナノ粒子による吸収に起因する損失は、個々のナノ粒子の吸収断面と、ほぼ透明な材料36中のナノ粒子の濃度と、ナノ粒子とそれを取り囲む材料との間の相互作用とに依存し、好適な金属酸化物は、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、及びこれらの混合物を含むことができ、例えば約2nmから約10nmまでの範囲のサイズをもち、
材料36中のナノ粒子38の体積分率(濃度)は、材料にナノ粒子38が組み合わされたものが、特定の屈折率をもつ媒体を与えるように選択することができ、材料36中のナノ粒子38の体積分率は、約20%から約60%まで変えることができ、シリコン中の酸化セリウム又は酸化チタンナノ粒子の例について、材料36にナノ粒子38が組み合わされたものは、例えば、発光半導体デバイス32からの一次発光のピーク波長において約1.6より大きい、好ましくは約1.8より大きい屈折率をもつ媒体を与えることができ、
ナノ粒子38と材料36との混合物の屈折率を増大させることによって、デバイス32と材料36との界面における全内反射に起因する損失が減少するので、発光半導体デバイス32からの光抽出は、材料36の中に包み込まれた同様の発光デバイスに比べて有利に増加させることができる、混合物。」


3 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「混合物」は、「発光半導体デバイスの上又は周りに配置され、該発光半導体デバイスからの光の少なくとも一部を受け取るように配置された第1材料(材料36)と該第1材料中に分散された第2材料の粒子(ナノ粒子38)と」からなるものであって、「約1.5の屈折率をもつエポキシ又はシリコン(ポリマー)中に分散された約2.3から約2.4までの屈折率をもつ酸化セリウムか又は酸化チタンのような材料のナノ粒子の場合には、混合物中のナノ粒子の体積分率が約0から約0.35まで変化するのに伴って、混合物の屈折率が約1.5から約1.8まで変化」し、また、「シリコン(ポリマー)からなる第1材料(材料36)」は「ほぼ透明な材料」であるから、
(1)引用発明の「約2.3から約2.4までの屈折率をもつ酸化セリウムか又は酸化チタンのような材料の第2材料の粒子(ナノ粒子38)」は、本願発明の「(屈折率が1.8以上の)無機酸化物粒子」に相当し、
(2)引用発明の「シリコン(ポリマー)からなる第1材料(材料36)」は、本願発明の「透明なシリコーン樹脂」に相当し、
(3)引用発明の「混合物」は、本願発明の「(屈折率が1.8以上の無機酸化物粒子を、透明なシリコーン樹脂中に分散してなる、透明複合体からなる)発光素子封止用組成物」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「屈折率が1.8以上の無機酸化物粒子を、透明なシリコーン樹脂中に分散してなる、透明複合体からなる発光素子封止用組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

a 無機酸化物粒子につき、本願発明は、その分散粒径が1nm以上かつ20nm以下であるのに対し、引用発明は、その直径が約2nmから約50nmまでである点(以下「相違点1」という。)。
b 透明複合体中の無機酸化物粒子の含有率につき、本願発明は、40重量%以上かつ50重量%以下であるのに対し、引用発明は、体積分率が約20%から約60%である点(以下「相違点2」という。)。
c 本願発明は、放出する光の波長を450nmとしたときの、光路長1mmにおける光透過率が80%以上であるのに対し、引用発明は、当該波長における光透過率が不明である点(以下「相違点3」という。)。


4 判断
上記相違点につき検討する。
(1)相違点1について
本願明細書によれば、本願発明において「無機酸化物粒子」の分散粒径を1nm以上かつ20nm以下と定めた理由は、「透明性を維持」し、「屈折率及び機械的特性を向上させる」との作用効果を得るためであると認められる(【0010】)。一方、引用発明の「混合物」は、「『発光半導体デバイスからの光抽出』を『増加させ』」、「『高い屈折率のナノ粒子を低い屈折率の母材の中に分散させることによって屈折率の増加』を『達成』」するものであり、また、それ自体、それ相応の機械的特性を備えるものといえるから、引用発明も、本願発明の上記作用効果と同様の作用効果を備えるものということができる。
しかるところ、平成25年9月9日付け意見書において請求人も認めるとおり、「一般に、ジルコニアやチタニアのような無機酸化物粒子を溶媒や樹脂等の分散媒中に分散させた場合、無機酸化物粒子同士が付着し合って凝集してしま」い、「無機酸化物粒子が複数個凝集した凝集体として存在するものがほとんどで」ある((4)(b))と認められるから、シリコン(ポリマー)中に「ナノ粒子38」として「酸化チタン」あるいは「酸化ジルコニウム」を含む引用発明も、該「ナノ粒子38」が複数個凝集した凝集体として存在するものといえる。
そうすると、上述のとおり、引用発明は、本願発明と同様の作用効果を有するものと認められるところ、「ナノ粒子38」が複数個凝集した凝集体として存在すると認められる引用発明において、透明性を維持し、屈折率及び機械的特性を向上させるとの上記作用効果を実現するに際し、無機酸化物粒子の凝集体を1つの粒子と見なして測定した場合の粒子径である「分散粒径」に着目し、その上下限の具体的な値を定めることそれ自体が、当業者において格別困難なことであるとはいえない。また、本願明細書をみても、本願発明において、無機酸化物粒子の分散粒径を1nm以上かつ20nm以下と定めた点に設計的事項の域を超えるほどの格別の技術的意義があるものとは認められず、本願発明の奏する効果が、引用発明から当業者が予測困難な程の格別顕著なものということはできない。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜になし得ることである。

(2)相違点2について
本願明細書をみても、本願発明において「透明複合体中の無機酸化物粒子の含有率」を「40重量%以上かつ50重量%以下」としたことの技術上の意義は必ずしも明らかではないが、「…光透過率は、透明複合体における無機酸化物粒子の含有率により異なり、…無機酸化物粒子の含有率が40重量%では80%以上である」(【0026】)、「無機酸化物粒子の屈折率は1.8以上であるから、この無機酸化物粒子を樹脂中に分散させることにより、シリコーン樹脂の屈折率1.4程度と比べて、樹脂の屈折率をそれ以上に向上させることが可能である」(【0027】)との記載に照らせば、その技術上の意義は「透明複合体(発光素子封止用組成物)」の光透過率及び屈折率の値をある程度以上にする点にあるものと認めることができる。
しかるところ、引用発明は、「ナノ粒子38」が「デバイス32によって発光された波長…をほぼ吸収せず」、「デバイス32によって発光された光の、ナノ粒子による吸収に起因する損失は、…ほぼ透明な材料36中のナノ粒子の濃度と…に依存」し、しかも「材料36中のナノ粒子38の体積分率(濃度)は、材料にナノ粒子38が組み合わされたものが、特定の屈折率をもつ媒体を与えるように選択することができ」るものであるから、引用発明において、「混合物」の光透過率及び屈折率の値をある程度以上のものとすべく、当該「混合物」中に含まれる「ナノ粒子38」の含有率を規定することは、当業者が当該引用発明を実施する際に適宜に定めるべき事項であって、当該「ナノ粒子38」の含有量を、如何なる物理量で規定し、その上下限の具体的な値をどの程度とするかは、当業者が必要に応じて適宜に定めるべき設計的事項である。そして、本願明細書をみても当該物理量として「重量%」を採用し、その上下限の値を具体的に「40重量%以上かつ50重量%以下」と定めた点に設計的事項の域を超えるほどの格別の技術的意義があるものとは認められず、また、本願発明の奏する効果が、引用発明から当業者が予測困難な程の格別顕著なものということはできない。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜になし得ることである。

(3)相違点3について
引用発明は、「粒子(ナノ粒子38)」が「(発光半導体デバイス)の波長の光を実質的に吸収せず」、また、「第1材料(材料36)」が「ほぼ透明」なものであって、「発光半導体デバイスからの光抽出」を「(発光半導体)デバイスから発光された光の波長(例えばピーク波長)より小さいナノ粒子を母材中に分散させて、該混合物を発光半導体デバイスの上に又は周りに配置することによって増加させることができ」るものであるから、引用発明の「混合物」は、その光透過率が、「発光半導体デバイス」の発光波長においてある程度以上の大きな値を有するものといえる。そして、引用発明の「(発光半導体)デバイス32」は、「約400nmより大きい波長をもつ光を発光」し、「Al_(x)In_(y)Ga_(z)NベースのLED10を使用することができ」るものであるところ、引用発明の「混合物」が、約400nmより大きい波長をもつ光に対して具体的にどの程度の光透過率を有するものとするかは、当業者が当該引用発明を実施する際に適宜に定めるべき設計的事項というべきものであって、本願明細書をみても、本願発明において、放出する光の波長を450nmとしたときの、光路長1mmにおける光透過率が80%以上と定めた点に設計的事項の域を超えるほどの格別の技術的意義があるものとは認められない。また、本願発明の奏する効果が、引用発明から当業者が予測困難な程の格別顕著なものということはできない。
よって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜になし得ることである。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-25 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-15 
出願番号 特願2006-127565(P2006-127565)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠岡田 吉美  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 藤本 義仁
黒瀬 雅一
発明の名称 発光素子封止用組成物及び発光素子並びに光半導体装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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