• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1282086
審判番号 不服2012-25382  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-21 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2007-534494「難燃性樹脂組成物並びにそれを用いた電線及び絶縁チューブ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月15日国際公開、WO2007/029833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年9月4日(優先権主張 2005年9月9日)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年7月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月31日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年10月2日付けで拒絶査定がなされ、同年12月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成25年3月11日付けで前置報告がなされ、当審で平成25年6月3日付けで審尋がなされ、同年7月31日に回答書が提出されたものである。


第2.平成24年12月21日付け手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成24年12月21日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.手続補正の内容
平成24年12月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成24年8月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の内容について、
「【請求項1】
熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を15:85?85:15の重量比で含有する樹脂成分、並びに無機フィラーを、該樹脂成分100重量部に対して、30?250重量部の割合で含有する難燃性樹脂組成物であって、(i)該無機フィラーが、金属水酸化物、炭酸カルシウム、及びタルクからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラーであり、かつ、(ii)該難燃性樹脂組成物が、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の難燃剤を含まない難燃性樹脂組成物。」
を、
「【請求項1】
熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を15:85?85:15の重量比で含有する樹脂成分、並びに無機フィラーを、該樹脂成分100重量部に対して、30?250重量部の割合で含有する難燃性樹脂組成物であって、(i)該無機フィラーが、金属水酸化物、炭酸カルシウム、及びタルクからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラーであり、(ii)該難燃性樹脂組成物が、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の難燃剤を含まない難燃性樹脂組成物であり、かつ(iii)該熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂が、カルボン酸成分とグリコール成分とを重縮合して得られるランダム共重合体であって、
a)該カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸成分、脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボン酸成分であり、
b)該グリコール成分が、脂肪族ジオール成分及び脂環式ジオール成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール成分であり、かつ、
c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有するものである難燃性樹脂組成物。」
とする、補正事項を含むものである。

2.本件補正の目的について
上記した特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂」に関して「a)該カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸成分、脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボン酸成分であり、
b)該グリコール成分が、脂肪族ジオール成分及び脂環式ジオール成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール成分であり、かつ、
c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有する」に限定する補正であり、請求項1についてする本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という場合がある。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する


(1)本願補正発明
本願補正発明は、次のとおりのものである。

「熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を15:85?85:15の重量比で含有する樹脂成分、並びに無機フィラーを、該樹脂成分100重量部に対して、30?250重量部の割合で含有する難燃性樹脂組成物であって、(i)該無機フィラーが、金属水酸化物、炭酸カルシウム、及びタルクからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラーであり、(ii)該難燃性樹脂組成物が、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の難燃剤を含まない難燃性樹脂組成物であり、かつ(iii)該熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂が、カルボン酸成分とグリコール成分とを重縮合して得られるランダム共重合体であって、
a)該カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸成分、脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボン酸成分であり、
b)該グリコール成分が、脂肪族ジオール成分及び脂環式ジオール成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール成分であり、かつ、
c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有するものである難燃性樹脂組成物。」

(2)刊行物及びその記載事項
以下、特開2002-80813号公報(平成24年7月13日付け拒絶理由通知で引用した引用例1。)を「刊行物A」という。

A.刊行物Aの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

A1「【請求項1】下記の(A)成分および(B)成分の少なくとも(A)成分と、下記の(C)?(E)成分を含有し、かつ、上記(C)成分の配合量が、上記(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して40?120重量部の範囲に設定されていることを特徴とする接着剤組成物。
(A)下記の(A1)および(A2)の少なくとも一方を含有する飽和共重合ポリエステル。
(A1)融点90?130℃未満の飽和共重合ポリエステル。
(A2)融点130?180℃の飽和共重合ポリエステル。
(B)ポリオレフィン系樹脂。
(C)難燃剤。
(D)難燃助剤。
(E)酸化防止剤。」

A2「【0014】上記飽和共重合ポリエステル(A成分)は、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分とを共重合することにより得ることができる。そして、これらの成分の組み合わせや配合割合等を変化させたり、あるいは他の成分をランダムに共重合させることにより、融点等を自由に調整することができる。」

A3「【0015】 上記ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸,イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸,セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。」

A4「【0016】上記ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。」

A5「【0017】上記融点130?180℃の飽和共重合ポリエステル(A2)は、カルボン酸変性されたものが好ましい。そして、このカルボン酸変性された飽和共重合ポリエステル(A2)は、例えば、トリメリット酸等をランダムに共重合されることにより得ることができる。」

A6「【0025】 上記飽和共重合ポリエステル(A成分)と、ポリオレフィン系樹脂(B成分)の配合割合は、重量比で、A成分/B成分=100/0?50/50の範囲が好ましく、特に好ましくはA成分/B成分=95/5?75/25である。」

A7「【0026】上記難燃剤(C成分)としては特に限定はなく、例えば、エチレンビスペンタブロモジフェニル,デカブロモジフェニルオキサイド,ヘキサブロモベンゼン,臭素化ビスフェノールA等の臭素系難燃剤、塩素化パラフィン,塩素化ポリエチレン,パークロロペンタシクロデカン等の塩素系難燃剤、リン酸エステル,赤リン,ポリリン酸アンモニウム,ポリリン酸アミド等のリン系難燃剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。」

A8「【0028】 上記難燃剤(C成分)の配合量は、上記飽和共重合ポリエステル(A成分)とポリオレフィン系樹脂(B成分)の合計100重量部(以下「部」と略す)に対して、40?120部の範囲に設定する必要があり、好ましくは60?100部である。すなわち、40部未満であると、UL規格の難燃性を満たすことができず、逆に120部を超えると、接着力が低下するからである。」

A9「【0029】上記難燃助剤(D成分)としては、特に限定はなく、例えば、三酸化アンチモン、硼酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、メラミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0030】上記難燃助剤(D成分)の配合量は、上記飽和共重合ポリエステル(A成分)とポリオレフィン系樹脂(B成分)の合計100部に対して、5?60部の範囲が好ましく、特に好ましくは5?40部である。」

A10「【0076】〔難燃性〕UL規格 VW-1に記載の垂直燃焼テストに準じて難燃性の評価を行った。そして、上記規格に合格のものを○、不合格のものを×として評価した。なお、難燃性に特に優れるものを◎として表示した。」

(3)刊行物Aに記載された発明
摘示A1及びA6,A9の記載からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されているといえる。

「下記の(A)成分および(B)成分の少なくとも(A)成分と、下記の(C)?(E)成分を含有し、かつ、上記(C)成分の配合量が、上記(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して40?120重量部の範囲に設定されている接着剤組成物において、
(A)下記の(A1)および(A2)の少なくとも一方を含有する飽和共重合ポリエステル。
(A1)融点90?130℃未満の飽和共重合ポリエステル。
(A2)融点130?180℃の飽和共重合ポリエステル。
(B)ポリオレフィン系樹脂。
(C)難燃剤。
(D)三酸化アンチモン、硼酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、メラミンから選ばれる難燃助剤。
(E)酸化防止剤。
上記飽和共重合ポリエステル(A成分)と、ポリオレフィン系樹脂(B成分)の配合割合は、重量比で、A成分/B成分=100/0?50/50であり、
上記難燃助剤(D成分)の配合量は、上記飽和共重合ポリエステル(A成分)とポリオレフィン系樹脂(B成分)の合計100部に対して、5?60部である
接着剤組成物。」

(4)対比・判断
本願補正発明と刊行物A発明とを比較する。

刊行物A発明における「飽和共重合ポリエステル」「ポリオレフィン系樹脂」は、それぞれ本願補正発明における「熱可塑性共重合ポリエステル樹脂」「ポリオレフィン樹脂」に相当する。
また、刊行物A発明における、上記飽和共重合ポリエステル(A成分)と、ポリオレフィン系樹脂(B成分)の配合割合は、重量比で、「A成分/B成分=100/0?50/50」は、本願補正発明における、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を「15:85?85:15の重量比で含有する樹脂成分」と重複一致している。

刊行物A発明における「(D)三酸化アンチモン、硼酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、メラミンから選ばれる難燃助剤」は、本願補正発明における「(i)該無機フィラーが、金属水酸化物、炭酸カルシウム、及びタルクからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラー」に相当する。
また、刊行物A発明における、上記難燃助剤(D成分)の配合量は、上記飽和共重合ポリエステル(A成分)とポリオレフィン系樹脂(B成分)の「合計100部に対して、5?60部」は、本願補正発明における、該樹脂成分「100重量部に対して、30?250重量部の割合で含有」と重複一致している。

接着剤組成物である刊行物A発明は、難燃剤、難燃助剤を含んでいることから、本願補正発明における、「難燃性」樹脂組成物であるといえる。

以上をまとめると、本願補正発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
熱可塑性共重合ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を15:85?85:15の重量比で含有する樹脂成分、並びに無機フィラーを、該樹脂成分100重量部に対して、30?250重量部の割合で含有する難燃性樹脂組成物であって、(i)該無機フィラーが、金属水酸化物、炭酸カルシウム、及びタルクからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラーである難燃性樹脂組成物。

〔相違点1〕
熱可塑性共重合ポリエステル樹脂について、本願補正発明は「熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂」と特定しているのに対し、刊行物A発明は、飽和共重合ポリエステル樹脂と特定するのみで、「ランダム」との特定がない点。

〔相違点2〕
本願補正発明は、「(ii)該難燃性樹脂組成物が、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の難燃剤を含まない難燃性樹脂組成物であり、」と特定するものであるのに対し、刊行物A発明はそのような特定がない点。

〔相違点3〕
本願補正発明は、「(iii)該熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂が、カルボン酸成分とグリコール成分とを重縮合して得られるランダム共重合体であって、
a)該カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸成分、脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボン酸成分であり、
b)該グリコール成分が、脂肪族ジオール成分及び脂環式ジオール成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール成分であり、かつ、
c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有するもの」と特定するものであるのに対し、刊行物A発明はそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

〔相違点1〕について
刊行物A発明は、(A)成分として融点を特定した共重合ポリエステルを用いるとの特定事項を有するところ、刊行物Aには、融点を調整する手段として「他の成分をランダムに共重合させる」ことが記載(摘示A2)されていることからすると、刊行物Aには、(A)成分として、ランダム共重合ポリエステル樹脂が実質的に記載されているといえ、この点は実質的な相違点ではない。

〔相違点2〕について
刊行物Aには、刊行物A発明の難燃剤(C成分)について臭素系難燃剤等の具体的な例示(摘示A7)はあるものの、これら例示の化合物が刊行物A発明あるいは刊行物Aのクレームに記載された発明において必須成分であるとの記載はない。すなわち、刊行物Aによれば、刊行物A発明は、接着性と難燃性の双方の特性に優れた接着剤組成物という課題を解決するものであるところ、このような課題を解決するにあたり、難燃剤は特定量(樹脂100重量部に対して40?120部)配合しなければならないが、難燃剤が上記例示の化合物でなければならないというものではない。そうすると、刊行物A発明で規定する難燃剤を、刊行物Aに具体的に例示されているもののみに限定して解すべき理由はない。
よって、刊行物A発明における難燃剤は、本願明細書中(再公表特許2007-029833号公報 第10頁29行-34行)に記載のメラミンシアヌレート等の臭素系、塩素系、及びリン系以外の窒素系難燃剤をも含んでいることから、刊行物A発明において、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤以外の難燃剤を用いる場合において、本願補正発明と刊行物A発明との間に差異はなく、この点は実質的な相違点ではない。

あるいは、本願の優先日において、ハロゲン系難燃剤を用いた樹脂組成物の焼却時にダイオキシン等が発生する問題、リン系難燃剤を用いた場合に成形物から滲み出す問題を回避するために、ハロゲン系、リン系難燃剤以外の難燃剤を用いることは、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において周知の技術的事項であるから、刊行物A発明において、上記問題を回避するべく、その難燃剤にハロゲン系、リン系以外のものを用いることは当業者であれば想到容易である。
そして、その効果も予測の範囲内のものである。

〔相違点3〕について
刊行物Aには、「飽和共重合ポリエステル(A成分)は、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分とを共重合することにより得る」との記載(摘示A2)があることから、刊行物A発明は、本願補正発明における、「カルボン酸成分とグリコール成分とを重縮合して得られる」との態様を備えているといえる。

また、刊行物Aには、「ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸,イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸,セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等があげられる」との記載(摘示A3)があることから、刊行物A発明は、本願補正発明における、「a)該カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸成分、脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボン酸成分であ」るとの態様を備えているといえる。

また、刊行物Aには、「ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等があげられる」との記載(摘示A4)があることから、刊行物A発明は、本願補正発明における、「b)該グリコール成分が、脂肪族ジオール成分及び脂環式ジオール成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール成分であ」るとの態様を備えているといえる。

また、刊行物Aには、「飽和共重合ポリエステル(A2)は、カルボン酸変性されたものが好ましい。そして、このカルボン酸変性された飽和共重合ポリエステル(A2)は、例えば、トリメリット酸等をランダムに共重合されることにより得ることができる」との記載(摘示A5)があり、これは、上記ジカルボン酸としてあげられた成分にさらにトリメリット酸等をランダム共重合させることであり、そうすると、飽和共重合ポリエステル(A2)は、カルボン酸成分を複数の成分の組み合わせにより得られることを意味していることから、刊行物A発明は、本願補正発明における、「c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有するものである」との態様を備えている。
さらに、刊行物Aには、「ジカルボン酸成分としては、・・・。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる」との記載(摘示A2)及び「ジオール成分としては、・・・。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。」との記載(摘示A3)があることからも、刊行物A発明は、本願補正発明における、「c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有するものである」との態様を備えている。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。

そうすると、本願補正発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、刊行物A発明と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成25年7月31日付け回答書において、本願補正発明は、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の難燃剤を含まないにも関わらず、「UL規格の垂直燃焼試験VW-1に合格する高度の難燃性を示し、機械物性、耐熱性、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性、電気絶縁性などに優れた被覆層を形成することができる」という作用効果を奏していることから、本願補正発明は進歩性を有する旨の主張をしている。
しかし、刊行物Aにも、UL規格の難燃性を満たすために、難燃剤の配合割合を特定する記載(摘示A8)があるものの、特定の難燃剤でなければならないとの記載はないし、刊行物Aの難燃性の評価としているUL規格は、本願補正発明で採用しているのと同じ「VW-1」であることが記載(摘示10)されていることからすると、この点に関する主張を採用することもできない。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、刊行物A発明と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。よって、本件補正は特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、平成24年8月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂を15:85?85:15の重量比で含有する樹脂成分、並びに無機フィラーを、該樹脂成分100重量部に対して、30?250重量部の割合で含有する難燃性樹脂組成物であって、(i)該無機フィラーが、金属水酸化物、炭酸カルシウム、及びタルクからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラーであり、かつ、(ii)該難燃性樹脂組成物が、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、及びリン系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の難燃剤を含まない難燃性樹脂組成物。」

2.拒絶の理由の概要
平成24年7月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2の概要は、

1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2002-80813号公報

というものである。

3.当審の判断
(1)引用例の記載事項
A.引用例1の記載事項
引用例1は、刊行物Aと同じである。そして、引用例1には、前記2.3(2)A.で提示した事項が記載されている。

(2)対比・判断
本願補正発明は、本願発明における「熱可塑性ランダム共重合ポリエステル樹脂」に関して「a)該カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸成分、脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分、及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボン酸成分であり、
b)該グリコール成分が、脂肪族ジオール成分及び脂環式ジオール成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のグリコール成分であり、かつ、
c)該カルボン酸成分及び該グリコール成分の一方または両方が、それぞれ前記成分から選ばれる複数の成分の組み合わせを含有する」と限定したものである。
そうすると、本願発明をさらに限定した本願補正発明が前記第2.3で述べたとおり、刊行物Aに記載された発明であるか、または、刊行物A発明と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明もまた引用例1(刊行物Aと同じ)に記載された発明であるか、または、引用例1と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこれらの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-24 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-15 
出願番号 特願2007-534494(P2007-534494)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 純  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 加賀 直人
須藤 康洋
発明の名称 難燃性樹脂組成物並びにそれを用いた電線及び絶縁チューブ  
代理人 野田 直人  
代理人 野村 康秀  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ