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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1282097
審判番号 不服2013-3619  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-26 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2007-325370「封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年7月2日出願公開、特開2009-144107〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成19年12月18日の特許出願であって,平成23年12月27日付けで拒絶理由が通知され,平成24年2月28日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,同年11月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成25年2月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,その後,当審において平成25年6月3日付けで審尋がなされ,これに対して同年7月31日に回答書が提出されたものである。

第2.平成25年2月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成25年2月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年2月26日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「(A)エポキシ樹脂と,
(B)フェノール樹脂系硬化剤と,
(C)硬化促進剤と,
(D)無機質充填材と,
(E)下記一般式(1)で表されるシリコーンオイルと,
(F)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1),及び/又は,カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)と,
離型剤と,を含み,
前記(E)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.05重量%以上,2重量%以下の割合であり,
前記(f1)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合であり,且つ前記(f1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下であることを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(ただし,上記一般式(1)において,R1は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は炭素数1ないし9のアルキレン基を示す。R3は水素原子又は炭素数1ないし9のアルキル基である。Aは,炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基である。R4は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基,又は炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。また,平均値であるl,m,n,a,及びbについては以下の関係にある。
l≧0,m≧0,n≧1,l+m+n≧5,
0.02≦n/(l+m+n)≦0.8,
a≧0,b≧0,a+b≧1)」
なる記載を,
「(A)エポキシ樹脂と,
(B)フェノール樹脂系硬化剤と,
(C)硬化促進剤と,
(D)無機質充填材と,
(E)下記一般式(1)で表されるシリコーンオイルと,
(F)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1),及び/又は,カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)と,
離型剤と,を含み,
前記(A)エポキシ樹脂がビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂,又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂を含み,
前記(E)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.05重量%以上,2重量%以下の割合であり,
前記(f1)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合であり,且つ前記(f1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下であることを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(ただし,上記一般式(1)において,R1は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は炭素数1ないし9のアルキレン基を示す。R3は水素原子又は炭素数1ないし9のアルキル基である。Aは,エポキシ基から構成される基である。R4は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基,又は炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。また,平均値であるl,m,n,a,及びbについては以下の関係にある。
l≧0,m≧0,n≧1,l+m+n≧5,
0.02≦n/(l+m+n)≦0.8,
a≧0,b≧0,a+b≧1)」
と補正するものであり,かかる補正は次の補正事項1及び2を含むものである。

補正事項1:本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)である,「エポキシ樹脂」について,「前記(A)エポキシ樹脂がビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂,又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂を含み,」との事項を付加する補正。

補正事項2:発明特定事項である「一般式(1)で表されるシリコーンオイル」の置換基Aについての「Aは,炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基である。」との事項を「Aは,エポキシ基から構成される基である。」とする補正。

2.補正の目的について
上記補正事項1及び2は,本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件の有無について
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,次のとおりのものである。
「(A)エポキシ樹脂と,
(B)フェノール樹脂系硬化剤と,
(C)硬化促進剤と,
(D)無機質充填材と,
(E)下記一般式(1)で表されるシリコーンオイルと,
(F)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1),及び/又は,カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)と,
離型剤と,を含み,
前記(A)エポキシ樹脂がビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂,又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂を含み,
前記(E)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.05重量%以上,2重量%以下の割合であり,
前記(f1)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合であり,且つ前記(f1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下であることを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(ただし,上記一般式(1)において,R1は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は炭素数1ないし9のアルキレン基を示す。R3は水素原子又は炭素数1ないし9のアルキル基である。Aは,エポキシ基から構成される基である。R4は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基,又は炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。また,平均値であるl,m,n,a,及びbについては以下の関係にある。
l≧0,m≧0,n≧1,l+m+n≧5,
0.02≦n/(l+m+n)≦0.8,
a≧0,b≧0,a+b≧1)」

(2)特許法第29条第2項について
(2-1)刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された,本件出願日前に頒布された刊行物である,国際公開第2006/098425号(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア.「1.(A)エポキシ樹脂,(B)フェノール樹脂,(C)硬化促進剤,(D)無機質充填材,並びに(E)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)及び/又はカルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)とエポキシ樹脂との反応生成物(e2)を必須成分として含み,前記(e1)成分として全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合で含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
2.前記(A)エポキシ樹脂がビフェニル型エポキシ樹脂(a1),ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(a2)から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み,かつ前記(B)フェノール樹脂がフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型樹脂(b1),ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型樹脂(b2)から選ばれる少なくとも1種のフェノール樹脂を含む請求の範囲1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
5.前記(e1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下である請求の範囲1ないし4のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1,2及び5)

イ.「発明の開示
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的は,流動性,離型性,連続成形性に優れた特性を有するエポキシ樹脂組成物及びそれを用いた耐半田リフロー性に優れた半導体装置を提供することにある。」(第2頁18?21行)

ウ.「発明を実施するための最良の形態
本発明は,(A)エポキシ樹脂,(B)フェノール樹脂,(C)硬化促進剤,(D)無機質充填材,(E)ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)及び/又はカルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)とエポキシ樹脂との反応生成物(e2)を必須成分として含むことにより,成形封止する時の離型性,連続成形性に優れ,かつ低応力性であり,耐半田リフロー性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られるものである。」(第4頁24?30行)

エ.「本発明で用いられるエポキシ樹脂(A)は,分子中に2個以上のエポキシ基を有するモノマー,オリゴマー,ポリマー全般であり,例えば,フェノールノボラック型エポキシ樹脂,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂,ビスフェノール型エポキシ樹脂,スチルベン型エポキシ樹脂,トリフェノールメタン型エポキシ樹脂,フェノールアラルキル型エポキシ樹脂,ナフトール型エポキシ樹脂,アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂,トリアジン核含有エポキシ樹脂,ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。これらのエポキシ樹脂は単独で用いても2種類以上併用してもよい。これらの内で特に耐半田性が求められる場合,常温では結晶性の固体であるが,融点以上では極めて低粘度の液状となり,無機質充填材を高充填化できるビフェニル型エポキシ樹脂,ビスフェノール型エポキシ樹脂,スチルベン型エポキシ樹脂等が好ましい。その他のエポキシ樹脂も極力粘度の低いものを使用することが望ましい。更に可撓性,低吸湿化のためには,フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の使用が好ましい。しかし低粘度や可撓性を有するエポキシ樹脂を用いることにより無機質充填材を高充填化できるが,架橋密度が低くなるため離型性が低下するという問題点もあり,後述の(E)成分を用いることにより離型性を改善できる。」(第5頁2?19行)

オ.「本発明においては,(E)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)及び/又はカルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)とエポキシ樹脂との反応生成物(e2)を含み,かつ前記(e1)成分として全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合で含むことが必須である。前記カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)は,ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり,(e1)及び(e1)とエポキシ樹脂との反応生成物(e2)を樹脂組成物に配合すると,優れた耐クラック性が得られるのみならず,離形性を向上させるという特徴も得られるものである。
前記カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)としては,特に限定するものではないが,その構造の両端にカルボキシル基を有する化合物が好ましく,一般式(1)で表される化合物がより好ましい。このカルボキシル基が極性を有しているため,封止用エポキシ樹脂組成物の原料として含まれるエポキシ樹脂中でのブタジエン・アクリロニトリル共重合体の分散性が良好となり,金型表面の汚れや成形品表面の汚れの進行を抑えることができ,また連続成形性を向上させることができる。」(第6頁23行?第7頁8行)

カ.「本発明においては,(F)カルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)及び/又はカルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)を用いることもできる。本発明に用いることができるカルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)は,1分子中に1個以上のカルボキシル基を有するオルガノポリシロキサンである。前記(F)カルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)及び/又はカルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)を用いることにより,樹脂組成物の成形時における流動性や離型性を低下させることなく,金型や成形品の汚れがより発生し難く,連続成形性が特に良好となる効果が得られる。
・・・・
本発明で用いることができる(f1)成分の配合量は,全エポキシ樹脂組成物中0.01重量%以上,3重量%以下が好ましい。配合量を上記範囲にすることで,離型剤や過剰のオルガノポリシロキサン(f1)による成形品の外観汚れを抑え,良好な連続成形性を得ることができる。
また,本発明においては,(F)カルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)及び/又はカルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)を添加する効果を損なわない範囲で,他のオルガノポリシロキサンを併用することができる。」(第9頁13行?第11頁1行)

キ.「本発明のエポキシ樹脂組成物は,(A)?(F)成分以外に,必要に応じて臭素化エポキシ樹脂,三酸化アンチモン,リン化合物,金属水酸化物等の難燃剤,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤,カーボンブラック,ベンガラ等の着色剤,カルナバワックス等の天然ワックス,ポリエチレンワックス等の合成ワックス,ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類若しくはパラフィン等の離型剤,酸化ビスマス水和物等の酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。更に,必要に応じて無機質充填材をカップリング剤やエポキシ樹脂あるいはフェノール樹脂で予め表面処理して用いてもよく,表面処理の方法としては,溶媒を用いて混合した後に溶媒を除去する方法や,直接無機質充填材に添加し,混合機を用いて処理する方法等がある。」(第11頁2?12行)

ク.「実施例
以下に本発明の実施例を示すが,本発明はこれらに限定されるものではない。配合割合は重量部とする。
実施例1
E-1:式(3)で表されるエポキシ樹脂[日本化薬(株)製,NC3000P,軟化点58℃,エポキシ当量274] 8.07重量部

H-1:式(4)で表されるフェノール樹脂[明和化成(株)製,MEH-7851SS,軟化点107℃,水酸基当量203] 5.98重量部
(化学構造式は省略)
1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(以下,DBUという) 0.15重量部
溶融球状シリカ(平均粒径21μm) 85.00重量部
ブタジエン・アクリロニトリル共重合体1[宇部興産(株)製,HYCAR CTBN 1008-SP,[一般式(1)において,x=0.82,y=0.18,zの平均値は62,数平均分子量3550,カルボキシル基当量2200g/eq,ナトリウムイオン量5ppm,塩素イオン量200ppm,非リン系酸化防止剤(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)含有] 0.20重量部
カップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
0.20重量部
カーボンブラック 0.20重量部
カルナバワックス 0.20重量部
を混合し,熱ロールを用いて,95℃で8分間混練して冷却後粉砕し,エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を,以下の方法で評価した。結果を第1表に示す。
評価方法
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機を用いて,EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型に,金型温度175℃,注入圧力6.9MPa,硬化時間120秒の条件でエポキシ樹脂組成物を注入し,流動長を測定した。単位はcm。判定基準は100cm未満を不合格(×),100cm以上を合格(○)とした。
連続成形性:低圧トランスファー自動成形機を用いて,金型温度175℃,注入圧力9.6MPa,硬化時間70秒の条件で,80pQFP(Cuリードフレーム,パッケージ外寸:14mm×20mm×2mm厚,パッドサイズ:6.5mm×6.5mm,チップサイズ6.0mm×6.0mm)を連続で700ショットまで成形した。判定基準は,未充填等全く問題なく700ショットまで連続成形できたものを◎,未充填等全く問題なく500ショットまで連続成形できたものを○,500ショットまでに未充填が発生したものを×とした。
成形品外観及び金型汚れ:上記連続成形において500及び700ショット経過後のパッケージ及び金型について,目視で汚れを評価した。パッケージ外観及び金型汚れの判定基準は,700ショットまで汚れていないものを◎で,500ショットまで汚れていないものを○で,500ショットまでに汚れが発生したものを×とした。
金線変形:低圧トランスファー成形機を用いて,成形温度175℃,圧力9.3MPa,硬化時間120秒で,160pLQFP(PPFフレーム,パッケージサイズ24mm×24mm×1.4mm,チップサイズ7.0mm×7.0mm,金線の太さ25μm,金線の長さ3mm)を成形した。パッケージ成形した160pQFPパッケージを軟X線透視装置で観察し,金線の変形率を(流れ量)/(金線長)の比率で算出した。判定基準は,変形率4%以下のものを○,変形率4%を超えるものを×とした。
半田耐熱性:上記連続成形性の評価において成形したパッケージを,175℃,8時間で後硬化し,85℃,相対湿度85%で168時間加湿処理後,260℃の半田槽にパッケージを10秒間浸漬した。顕微鏡でパッケージを観察し,クラック発生率[(クラック発生率)=(外部クラック発生パッケージ数)/(全パッケージ数)×100]を算出した。単位は%。評価したパッケージの数は10個。また,半導体素子とエポキシ樹脂組成物の硬化物との界面の密着状態を超音波探傷装置により観察した。評価したパッケージの数は10個。耐半田クラック性判断基準は,クラック発生率が0%で,かつ剥離なし:○,クラックもしくは剥離が発生したものは×とした。
実施例2?13,比較例1?3
第1表,第2表及び第3表の配合に従い,実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得て,実施例1と同様にして評価した。結果を第1表,第2表及び第3表に示す。
実施例1以外で用いた原材料を以下に示す。
E-2:式(5)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)製,YX-4000,エポキシ当量185g/eq,融点105℃]
(化学構造式は省略)
H-2:式(6)で表されるパラキシリレン変性ノボラック型フェノール樹脂[三井化学[株]製,XLC-4L,水酸基当量168g/eq,軟化点62℃]
(化学構造式は省略)
溶融反応物A:ビスフェノールA型エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン製,YL-6810,エポキシ当量170g/eq,融点47℃]66.1重量部を140℃で加温溶融し,ブタジエン・アクリロニトリル共重合体1[宇部興産(株)製,HYCAR CTBN 1008-SP]33.1重量部及びトリフェニルホスフィン0.8重量部を添加して,30分間溶融混合して溶融反応物Aを得た。
ブタジエン・アクリロニトリル共重合体2:一般式(1)のブタジエン・アクリロニトリル共重合体[一般式(1)においてx=0.82,y=0.18,zの平均値は62,数平均分子量3550,カルボキシル基当量2200g/eq,ナトリウムイオン量5ppm,塩素イオン量200ppm,酸化防止剤としてAGIRITE製Geltrol(有機リン系酸化防止剤)含有]
ブタジエン・アクリロニトリル共重合体3:一般式(1)のブタジエン・アクリロニトリル共重合体[一般式(1)においてx=0.82,y=0.18,zの平均値は62,数平均分子量3550,カルボキシル基当量2200g/eq,ナトリウムイオン量500ppm,塩素イオン量1500ppm,酸化防止剤として4,6-ジ-tert-ブチルフェノール(非リン系酸化防止剤)含有]
ブタジエン・アクリロニトリル共重合体4:一般式(1)のブタジエン・アクリロニトリル共重合体[一般式(1)においてx=0.82.y=0.18,zの平均値は62,数平均分子量3550,カルボキシル基当量2200g/eq,ナトリウムイオン量5ppm,塩素イオン量200ppm,酸化防止剤無し]
オルガノポリシロキサン1:式(7)で示されるオルガノポリシロキサン
(化学構造式は省略)
オルガノポリシロキサン2:式(8)で示されるオルガノポリシロキサン
(化学構造式は省略)
オルガノポリシロキサン3:式(9)で示されるオルガノポリシロキサン
(化学構造式は省略)
オルガノポリシロキサン4:式(10)で示されるオルガノポリシロキサン
(化学構造式は省略)
溶融反応物B:ビスフェノールA型エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン製,YL-6810,エポキシ当量170g/eq,融点47℃]66.1重量部を140℃で加温溶融し,オルガノポリシロキサン3[式(9)で示されるオルガノポリシロキサン]33.1重量部及びトリフェニルホスフィン0.8重量部を添加して,30分間溶融混合して溶融反応物Bを得た。



(第11頁20行?第17頁末行)

(2-2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には,
「(A)エポキシ樹脂,(B)フェノール樹脂,(C)硬化促進剤,(D)無機質充填材,並びに(E)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)及び/又はカルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)とエポキシ樹脂との反応生成物(e2)を必須成分として含み,前記(e1)成分として全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合で含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」(摘示事項アの請求項1)に係る発明が記載されている。
そして,(A)のエポキシ樹脂として「ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(a2)」(摘示事項アの請求項2,摘示事項エ及びク)が記載され,「(E)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)」として「ナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下である」(摘示事項アの請求項5)ものが記載されて,さらに,離型剤を含有すること(摘示事項キ及びク)も記載されている。
したがって,引用文献1には,
「(A)ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂,(B)フェノール樹脂,(C)硬化促進剤,(D)無機質充填材,並びに(E)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)及び/又はカルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(e1)とエポキシ樹脂との反応生成物(e2),離型剤を含み,前記(e1)成分として全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合で含み,且つ前記(e1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」に係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2-3)対比
本願補正発明と引用発明とは,
「(A)エポキシ樹脂と,
(B)フェノール樹脂系硬化剤と,
(C)硬化促進剤と,
(D)無機質充填材と,
(F)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1),及び/又は,カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)と,
離型剤と,を含み,
前記(A)エポキシ樹脂がビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂,又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂を含み,
前記(f1)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合であり,且つ前記(f1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下であることを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。」の点で一致し,下記の相違点で相違する。

<相違点>
本願補正発明は,さらに「(E)下記一般式(1)で表されるシリコーンオイル
【化1】

(ただし,上記一般式(1)において,R1は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は炭素数1ないし9のアルキレン基を示す。R3は水素原子又は炭素数1ないし9のアルキル基である。Aは,エポキシ基から構成される基である。R4は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基,又は炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。また,平均値であるl,m,n,a,及びbについては以下の関係にある。
l≧0,m≧0,n≧1,l+m+n≧5,
0.02≦n/(l+m+n)≦0.8,
a≧0,b≧0,a+b≧1)」(以下,「本願シリコーンオイル」という。)を全エポキシ樹脂組成物中に0.05重量%以上,2重量%以下の割合(以下,「本願特定量」という。)で含むのに対し,引用発明ではかかる特定はなされていない点。

(2-4)相違点についての判断
引用発明は,「流動性,離型性,連続成形性,ハンダ特性に優れた特性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供すること」を目的とするものであって(摘示事項イ及びウ),それを用いた成形品の外観の向上及び金型汚れ性の向上をも目的とするものである(摘示事項オ,カ及びク)。
半導体封止用エポキシ樹脂組成物の分野において,ボイドの発生の低減,パッケージ表面外観の向上等を目的として,本願シリコーンオイルを本願特定量で配合することは周知の技術である(特開2001-310930号公報:特許請求の範囲,段落0006,0030,0031,0037?0046,特開2000-273277号公報:段落0005,0015?0023,特開平11-116774号公報:特許請求の範囲,段落0021?0036及び特開2000-327883号公報:特許請求の範囲,段落0007,0022,0024?0034 参照)。
そして,引用文献1には,シリコーンオイルを配合し得ることが記載されているから(摘示事項カ及びク),本願シリコーンオイルを配合することに何ら阻害要因は認められない。
そうであれば,引用発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に,さらなる成形品の外観の向上等を図るために,本願シリコーンオイルを本願特定量配合することは,当業者が適宜試みる事項にすぎない。
そして,金型汚れの発生あるいは離型性の低下は,パッケージ表面外観の劣化と相関するものであり,パッケージ表面外観の向上を図るということは,金型汚れ性の向上及び離型性の向上,ひいては連続性形成性の向上にも繋がることは容易に予測し得る事項である。
したがって,引用発明に本願シリコーンオイルを本願特定量配合することにより,ボイドの発生低減とともにこれらの特性が向上することは予測の範囲内の効果である。
さらに,本願補正発明の連続成形性、成形品外観及び金型汚れに関する評価方法(成形条件 金型温度175℃,注入圧力9.6MPa,硬化時間90秒)は、本願出願時にすでに行われている方法であって(例えば,特開2006-182803号公報),700ショットまで金型汚れがないとの効果は,すでに達成されている効果であって,格別顕著な効果とまではいえない。

よって,本願補正発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.原査定の妥当性についての判断
1.本願発明について
平成25年2月26日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1乃至3に係る発明は,平成24年2月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下,まとめて「本願明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,次のとおりのものである。
「(A)エポキシ樹脂と,
(B)フェノール樹脂系硬化剤と,
(C)硬化促進剤と,
(D)無機質充填材と,
(E)下記一般式(1)で表されるシリコーンオイルと,
(F)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1),及び/又は,カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1)とエポキシ樹脂との反応生成物(f2)と,
離型剤と,を含み,
前記(E)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.05重量%以上,2重量%以下の割合であり,
前記(f1)成分の配合量が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上,1重量%以下の割合であり,且つ前記(f1)成分に含まれるナトリウムイオン量が10ppm以下,塩素イオン量が450ppm以下であることを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(ただし,上記一般式(1)において,R1は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は炭素数1ないし9のアルキレン基を示す。R3は水素原子又は炭素数1ないし9のアルキル基である。Aは,炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基である。R4は炭素数1ないし12のアルキル基,アリール基,アラルキル基から選択される有機基,又は炭素,窒素,酸素,硫黄,水素から選択される原子から構成される基であり,互いに同一であっても異なっていてもよい。また,平均値であるl,m,n,a,及びbについては以下の関係にある。
l≧0,m≧0,n≧1,l+m+n≧5,
0.02≦n/(l+m+n)≦0.8,
a≧0,b≧0,a+b≧1)」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,次の理由を含むものである。
理由:本願発明1乃至3は,引用文献1(国際公開第2006/098425号公報)に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1の記載事項及び引用発明は,前記「第2.3.(2)(2-1)及び(2-2)」に記載したとおりである。

4.本願発明1について
本願補正発明は,前記第2.1.及び2.に記載したように,本願発明1の「エポキシ樹脂」及び「一般式(1)で表されるシリコーンオイル」を限定したものであるから,本願発明1は,本願補正発明を包含するものである。
そして,本願補正発明が,前記第2.3.(2)に記載したとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様の理由により,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書及び平成25年7月31日付けの回答書において,追加実験例を提示して,本願発明の効果は,本願特定の(E)一般式(1)で表されるシリコーンオイル成分及び(F)カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合体(f1)成分の両者の相乗効果であって,引用文献1と引用文献2-4とを組合せることが可能であったとしても,本願発明の,カルボキシル基を有するブタジエン・アクリロニトリル共重合とポリエーテル基及びエポキシ基を有するシリコーンオイルとの相乗効果である連続成形時のパッケージ外観及び金型汚れ性の顕著な向上を予想することは困難である旨の主張をしている。
しかしながら,上記のように,パッケージ表面外観の向上を図るということは,金型汚れ性の向上及び離型性の向上,ひいては連続性形成性の向上にも繋がるものであるから,引用発明に,本願シリコーンオイルを配合することにより,これらの特性がさらに向上することは予測し得る事項であって,相乗効果といえるほどの格別顕著な効果とは認められない。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-27 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-17 
出願番号 特願2007-325370(P2007-325370)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司橋本 憲一郎  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 大島 祥吾
塩見 篤史
発明の名称 封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置  

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