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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1282104
審判番号 不服2013-11508  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-18 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2007-286613「窒化物半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開、特開2009-117485〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年11月2日を出願日とする出願であって、平成24年6月7日付けの拒絶理由通知に対して、同年8月8日に手続補正書及び意見書が提出されたが、平成25年3月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月18日に審判請求がされたものである。

第2 本願発明に対する判断
1 本願の請求項1に係る発明は、平成24年8月8日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

【請求項1】
「窒化物半導体からなる層と、前記窒化物半導体よりもバンドギャップが大きい窒化物半導体からなる層とが積層されたヘテロ接合体を少なくとも二つ有する積層構造体と、
前記積層構造体の第一の端部に形成され、前記ヘテロ接合体とショットキー接続されるショットキー電極と、
前記積層構造体の第二の端部に形成され、前記ヘテロ接合体とオーミック接続されるオーミック電極と
を備え、
前記第一の端部には、前記積層構造体の表面から、前記積層構造体を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層に達する第一の凹部が設けられ、
前記第二の端部には、前記積層構造体の表面から、前記積層構造体を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層に達する第二の凹部が設けられ、
前記ショットキー電極は、前記第一の凹部の側壁に接触するように形成され、
前記オーミック電極は、前記第二の凹部の側壁に接触するように形成されており、
前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通しており、
前記ショットキー電極は前記全てのヘテロ接合体とショットキー接続されている
ことを特徴とする半導体装置。」

2 引用例の表示
引用例1:国際公開第2006/038390号
引用例2:特開2007-184382号公報
引用例3:特開2006-108676号公報

3 引用例1の記載、引用発明と、引用例2、引用例3の記載
(1)原査定の根拠となった平成24年6月7日付けの拒絶の理由において第1引用例として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である国際公開第2006/038390号(以下「引用例1」という。)には、「半導体装置」(発明の名称)に関して、図1、図3、図9とともに、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同様。)。

(技術背景)
ア 「[0002] GaNに代表されるIII族窒化物半導体は、絶縁破壊電界強度が従来のSiの約10倍と大きく、飽和ドリフト速度が従来のSiの約3倍であり、移動度の点からも優れているため、高周波・高出力デバイス用半導体材料として注目されている。図9は、窒化物半導体を利用した従来の半導体装置2の断面構造を示している。基板21上には、窒化物半導体材料からなるバッファ層22が形成され、バッファ層22上には、GaN等の窒化物半導体材料からなる半導体層23が形成されている。
[0003] 半導体層23上には、Al_(X)Ga_(1-X)N(0<X≦1)等の窒化物半導体材料からなる半導体層24が形成されている。半導体層24の主面200上には、電極25および26が形成されている。半導体層23と半導体層24との境界における界面201には、窒化物半導体の自発分極によって分極電荷が発生する。更に半導体層23における窒化物半導体の格子定数と半導体層24における窒化物半導体の格子定数との違いによって生じる歪みによって、界面201の近傍にピエゾ電気分極(ピエゾ電界分極ともいう)が生じる。これにより、半導体層23と半導体層24との界面近傍にこれら分極電荷に基づく2次元キャリア(2次元電子ガス層又は2次元ホールガス層ともいう)202が発生する。
[0004] この歪みは、半導体層23の格子と半導体層24の格子との大きさが異なることにより半導体層24に生じる機械的な引っ張り応力によって生じる歪みであり、それがピエゾ電気分極に寄与している。半導体層23と半導体層24のバンドギャップエネルギーが大きいので、界面201の近傍には高濃度の2次元キャリアが発生する。なお、特許文献1には上記の構造に類似した半導体装置が記載されている。
特許文献1:特開2003-100778号公報」

(発明が解決しようとする課題)
イ 「[0005] しかし、窒化物半導体材料を利用した従来の半導体装置においては、半導体層の上に設けられた電極と2次元キャリアとの間の半導体層内の内部抵抗が比較的大きく、順方向電圧を十分低くできないという問題があった。また、電極と2次元キャリアとの間に寄生容量が発生し、半導体装置の高周波特性に影響を与えるという問題もあった。」

(発明の効果)
ウ 「[0015] 本発明によれば、2次元キャリアが形成される2つの半導体層の界面に到達する凹部に電極が形成されているので、電極と2次元キャリアとの間の半導体層内の内部抵抗を小さくすることができ、順方向電圧を低くすることができると共に、寄生容量を低減し、高周波特性を向上することができるという効果が得られる。」

(発明を実施するための最良の形態)
エ 「[0018] 以下、図面を参照し、本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による半導体装置1aの断面構造を示している。以下、図中の各構造について説明する。例えばSi、SiC、あるいはサファイア等からなる基板11上に、窒化物半導体からなるバッファ層12が形成されている。バッファ層12上には、例えばGaN等の窒化物半導体材料からなる半導体層13(第1の半導体層)が形成されている。
[0019] 半導体層13上には、半導体層13よりもバンドギャップエネルギーが大きく、例えばAl_(X)Ga_(1-X)N(0<X≦1)等の窒化物半導体からなる半導体層14(第2の半導体層)が形成されている。半導体層13と半導体層14との境界面を構成する界面101は、半導体層13および半導体層14により形成されたヘテロ界面となっている。また、半導体層13と半導体層14の界面101近傍の半導体層13の領域内には、自発分極とピエゾ電気分極の効果によって、高濃度の2次元キャリア102が発生している。
[0020] 界面101と対向する半導体層14の主面100には、凹部31(第1の凹部)および凹部32(第2の凹部)が形成されている。凹部31の底面31aおよび凹部32の底面32aは、主面100から少なくとも界面101まで到達するように形成されており、本実施形態においては、界面101の位置よりも下(基板11側)に形成されている。
[0021] 凹部31の底面31aおよび側面31b上には、半導体層13および14とショットキー接合を形成する金属からなる電極15(第1の電極)が形成されている。凹部32の底面32aおよび側面32b上には、半導体層13および14と低抵抗性接触を形成すると共に低抵抗接触する金属からなる電極16(第2の電極)が形成されている。電極15の一部は、主面100上において、凹部31を囲むように形成されている。また、電極16の一部は、主面100上において、凹部32を囲むように形成されている。電極15と電極16は互いに接触していない。電極15および16は、それぞれ凹部31および32に対して金属を蒸着し、その後、エッチングにより所望の形状にパターニングすることによって形成される。
[0022] 凹部31の底面31aおよび凹部32の底面32aは、主面100から界面101の深さ以上まで到達するように形成されている。底面31aおよび底面32aは、主面100から2次元キャリア102まで到達するように形成されていることがさらに望ましい。これにより、後述するように電極15と電極16とが2次元キャリア102に接した形で2次元キャリア102を介して電気的に直接接触し、順方向電圧を低減することができる。ただし、凹部31および32を深く形成する場合には、長いエッチング時間を必要とするので、適度な深さとする必要がある。
[0023] なお、底面31aおよび底面32aが2次元キャリア102まで到達するように形成されていなくても、界面101まで到達するように形成されていれば、底面31aおよび32aと2次元キャリア102との間でトンネル効果による電流が流れるため、順方向電圧を低減することができる。この場合、凹部31の底面31aと2次元キャリアとの垂直方向(底面31aに垂直な方向)の距離は100オングストローム以下であることが望ましく、60オングストローム以下であることがより望ましい。凹部31および32の深さは同じでなくてもよいが、一般的に、凹部形成を同時に行うことにより製造工程を少なくすることができるため、これらの凹部の深さは同じであることが望ましい。
[0024] 凹部31の側面31bが界面101に対してなす角度αは、10度以上90度以下であることが望ましい。角度αが10度以下となり、角度が小さいと、後述するように2次元キャリアのキャリア濃度が低くなり、順方向電圧低減効果が十分発揮されなくなる。また、角度αが90度以上となると、凹部31の側面31bに電極を良好に形成することが困難となる。角度αを変化させることにより、図2に示されるように順方向特性を変えることができる。上記は凹部32の側面32bが界面101に対してなす角度に関しても成り立つ。凹部31の側面31bが界面101に対してなす角度と、凹部32の側面32bが界面101にたいしてなす角度は一様でなくてもよいが、一様であることが製造上望ましい。」

オ 「[0026] 図3は、本実施形態による半導体装置1aを、主面100に垂直な方向から見た概略平面図である。半導体層14上に電極15および16が隣り合うように形成されている。線分A-A’に沿った断面が図1である。電極15および16の形状は、図3に示されるような四角形に限定されず、例えば円形であってもよい。」

カ 「[0027] 次に、本実施形態による半導体装置1aの動作について説明する。順方向に電圧を印加した場合(例えば電極15に+、電極16に-を印加した場合)、図1に矢印で示されるように、電極15→2次元キャリア102→電極16のように電流が流れる。2次元キャリア102はキャリア密度が高く、ほぼ金属層と同じとみなすことができ、電極15と2次元キャリア102とが直接接触しているので、事実上、順方向電流の通路は金属による接続とみなすことができ、半導体装置1aの順方向電圧を低く抑えることができる。
[0028] 半導体装置1aに逆方向の電圧を印加した場合(例えば電極15に-、電極16に+を印加した場合)、電極15と半導体層13および14との界面に空乏層が広がる。更に、一般的に逆方向電圧を高くした場合、リーク電流は増加するが、図4に示されるように、主面100上に形成された電極15の一部分(電極15a)において、この電極15aが凹部31からある程度の距離まで離れて形成されていると、主面100上に配置された、ショットキー障壁を有する電極15によって広がる空乏層が前記空乏層とつながって、より大きい空乏層104が形成される。
以上の事柄によって、逆方向の電圧を印加した場合、2次元キャリア102と電極15との電気的接触が遮断され、2次元キャリア102と電極15との間で電流が流れづらくなる。従って、本実施形態による半導体装置1aによれば、低い順方向電圧を維持しながら高い耐圧特性を確保することができる。」

キ 「[0030] なお、凹部31の下端(底面31a)の位置は、バッファ層12と半導体層13との界面よりも半導体層14側であることが望ましい。一例として、半導体層13の厚さが500nmである場合に、凹部31の下端とバッファ層12および半導体層13の界面との距離は50nm以上であることが望ましい。
[0031] 上述したように本実施形態においては、電極15および16は、半導体層14の主面100から半導体層13と半導体層14との界面101に到達する深さまで形成されている。これにより、界面101の近傍に発生するキャリア濃度の高い2次元キャリア102と電極15および16との接続を低抵抗接続とする(すなわち、電極15および16と半導体層13および14との接触抵抗を低減する)ことができ、半導体装置1aの順方向電圧を低下させることができる。」

ク 摘記した上記[0018]?[0019]の記載を参照すると、図1から、窒化物半導体材料からなる第1の半導体層13と窒化物半導体材料からなる第2の半導体層14が積層された構造(以下「窒化物積層体」という。)が形成されていることが見て取れる。

ケ 摘記した上記[0020]?[0021]と[0026]の記載を参照すると、図1及び図3から、窒化物積層体の左側端部(図3のA側の端部)の近傍に第1の凹部31、並びに当該第1の凹部31の底面31a及び側面31bを覆う第1の電極15が形成され、窒化物積層体の右側端部(図3のA’側の端部)の近傍に第2の凹部32、並びに当該第2の凹部32の底面32a及び側面32bを覆う第2の電極16が形成されていることが見て取れる。

コ 摘記した上記[0022]の記載を参照すると、図1から、第1の凹部31及び第2の凹部32は、第2の半導体層14の主面100から、第1の半導体層13内の2次元キャリア102を貫通する深さにまで形成されており、前記第1の凹部31の底面31a及び前記第2の凹部32の底面32aは第1の半導体層13の下面の近傍にまで到達していることが見て取れる。

(2)引用発明
上記摘記事項を総合すれば、引用例1には、第1の実施形態として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「基板11上のバッファ層12上に、GaN等の窒化物半導体材料からなる第1の半導体層13と、前記第1の半導体層13よりもバンドギャップエネルギーが大きいAl_(X)Ga_(1-X)N(0<X≦1)等の窒化物半導体からなる第2の半導体層14とが積層された窒化物積層体が形成され、前記第1の半導体層13及び前記第2の半導体層14の界面101はヘテロ界面となっており、前記界面101近傍の第1の半導体層13の領域内には2次元キャリア102が発生しており、
前記窒化物積層体の一方側端部の近傍には、第1及び第2の半導体層13,14とショットキー接合を形成する金属からなる第1の電極15が形成され、
前記窒化物積層体の反対側端部の近傍には、第1及び第2の半導体層13,14と低抵抗接触する金属からなる第2の電極16が形成され、
前記一方側端部の近傍には、前記第2の半導体層14の主面100から前記第1の半導体層13に到達する第1の凹部31が形成され、
前記反対側端部の近傍には、前記第2の半導体層14の前記主面100から前記第1の半導体層13に到達する第2の凹部32が形成され、
前記第1の電極15は、前記第1の凹部31の底面31aおよび側面31b上に形成され、
前記第2の電極16は、前記第2の凹部32の底面32aおよび側面32b上に形成され、
前記第1の凹部と前記第2の凹部は、共に、前記2次元キャリア102を貫通する深さにまで形成されており、
前記第1の電極15は前記窒化物積層体とショットキー接続されている
ことを特徴とする半導体装置。」

(3)原査定の根拠となった平成24年6月7日付けの拒絶の理由において第2引用例として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2007-184382号公報(以下「引用例2」という。)には、「整流ダイオード」(発明の名称)に関して、図1?図4とともに、次の記載がある。

(技術分野)
ア 「【0001】
本発明は、整流ダイオードに関し、特に半導体の分極接合を有する整流ダイオードに関するものである。」

(背景技術)
イ 「【0002】
全エネルギー消費に占める電気エネルギーの比率(電力化率)は年々大きくなっている。現在、日本における電力化率は4割に達しており、今後さらに増加していくと見込まれる。限りある資源を有効に利用するためには、電気エネルギーの変換・制御技術をより高い効率で行う技術の開発が必要である。
この電力の変換・制御を扱う半導体の分野は、パワーエレクトロニクスと呼ばれる。中でも半導体を用いた整流ダイオードは、その中心的な役割を担っている。整流ダイオードの逆方向耐圧、及び順方向のオン抵抗は、変換・制御の効率に大きな影響を与える。そのため、より高い耐圧をもち、かつ、より低いオン抵抗をもつ整流ダイオードが必要とされている。これらの特性を向上させることで、電力の変換・制御における損失を低減することができる。ただし、耐圧とオン抵抗の間には、一般にトレードオフの関係が存在するため、一つの特性を向上させると、他方の特性が劣化してしまう傾向にある。
【0003】
(・・・省略・・・)
【0008】
一方で、半導体の分極を用いて、導電型を制御することも可能であることが知られている。分極とは、ヘテロ接合の界面において固定電荷が発生する現象であり、結晶が無歪でも発生する自発分極と、歪により発生するピエゾ分極がある。この固定電荷に引き寄せられ、ヘテロ接合界面の近傍に電子又は正孔が生じる。
【0009】
ドーピングによって形成されたキャリアに比べ、この分極によるキャリアは、様々な異なった特長を持つ。まず、第一に、半導体中に分布する固定電荷の総量を、制御することが容易であるという特長がある。例えば2種類の半導体のヘテロ接合を考えた場合、そこに発生する固定電荷の総量は、接合する半導体の種類で決定される。つまり、接合の急峻性を変化させたり、界面に別の半導体層を挿入しても、固定電荷の総量には影響を与えない。また、2種類の半導体を交互に積層した場合、大きさが等しく符号が逆の分極電荷が、各へテロ界面に交互に現れる。
第二に、ドーピング技術では不可能な高濃度の固定電荷を空間的に集中させて発生させることができる。例えばIII族窒化物半導体のヘテロ接合では、10^(13)cm^(-2)程度の面密度で分極電荷が得られる。このとき、界面の急峻性を1nmと仮定すると、固定電荷密度は約10^(20)cm^(-3)となり、非常に高密度になる。これによりドーピング技術のみでは困難なキャリアの空間的な分布を実現することができる。
【0010】
(・・・省略・・・)
【0011】
第四に、このとき発生するキャリアは、上述のように空間的に集中しており、また、イオン化不純物散乱の影響も低いので、高い移動度を持つことができる。ドーピングによりキャリアを発生させた場合、例えば、バルクGaNの電子移動度は200cm^(2)/Vs程度であるが、分極による2次元電子ガスにすることにより1000cm^(2)/Vs以上の移動度が容易に得られる。
【0012】
以上のように、分極により発生するキャリアは、様々な特長を持っている。そのため、ドーピングによるp型又はn型の制御技術及びヘテロ接合によるバンドラインナップの制御に加えて、上述の分極現象を積極的に利用すれば、これまでにない半導体素子を実現できる。」

(発明が解決しようとする課題)
ウ 「【0015】
本発明の解決しようとする課題は、分極による正及び負の両方の固定電荷を積極的に利用し、それにより形成される分極接合を利用した整流ダイオードを提供することである。」

(課題を解決するための手段)
エ 「【0016】
本発明は、分極により形成される超接合に利用した整流ダイオードに関するものであり、次のような整流ダイオードを提供することにより課題は解決される。
(1)2種類以上の半導体を、少なくとも2個以上の半導体のヘテロ接合を形成するように3層以上積層した積層構造を有し、上記ヘテロ接合の界面に分極により発生する正及び負の固定電荷により、第一の導電型のキャリア及び第二の導電型のキャリアを同時に発生させるようにした分極接合を有する整流ダイオードにおいて、
該積層構造の一方の側端に上記第一の導電型のキャリアに対してショットキー特性を有する第一の電極と、
他方の側端に上記第一の導電型のキャリアに対してオーミック特性を有する第二の電極とを備えた整流ダイオード。(・・・以下省略・・・)」

(発明を実施するための最良の形態)
オ 「【0019】
図1は、GaN層1及びAl_(y)Ga_(1-y)N層2をc軸方向に積層した場合のバンドラインナップの模式図である。このように、Al_(y)Ga_(1-y)N(000-1)/GaN(0001)及びAl_(y)Ga_(1-y)N(0001)/GaN(000-1)界面に、正及び負の分極による固定電荷により、電子及び正孔を、それぞれ発生させることができる。このように分極を用いて、電子及び正孔を交互に発生させた半導体のpn接合を、本明細書では「分極接合」と定義する。
【0020】
(・・・省略・・・)
【0022】
図3は、本発明を適用した整流ダイオードの構造の概略図である。分極接合領域7は、Al組成9%のn^(-)Al_(0.09)Ga_(0.91)N層及びn^(-)GaN層の積層構造により形成した。各層の厚さは100nmとした。各へテロ界面の分極電荷の大きさρ_(p)は、理論値より5×10^(12)cm^(-2)とした。アノード電極9は電子に対してショットキー特性をもち、カソード電極10は正孔に対してオーミック特性をもつ。また、カソード電極10付近の分極接合領域にはドナー不純物をドーピングすることにより、分極による負電荷を打ち消したn型化分極接合領域8を形成した。このn型化分極接合領域は、カソード電極におけるコンタクト抵抗を低減するとともに、逆バイアス時におけるパンチスルーを防ぐ役目も担っている。分極接合領域7の分極電荷以外の固定電荷濃度ρ_(back)及び、その長さd_(drift)を変化させてその特性の変化を調べた。
【0023】
図2及び図3の整流ダイオードにおける逆方向耐圧とオン抵抗の関係を調べた。図4は、そのシミュレーション結果である。耐圧は、アバランシェ電流、及びカソード電極におけるトンネル電流の増加により求めた。まず、本発明を適用していない整流ダイオードについてみると、ρ_(back)の大きさにより、実現できる耐圧の限界があることが分かる。この耐圧の限界は、ρ_(back)が小さいほど増加する傾向にある。本発明を適用した整流ダイオードにおいても同様の傾向が見られており、各ρ_(back)における耐圧の限界は、本発明を適用していない整流ダイオードと同程度の値が得られている。これは、正及び負の分極電荷がお互いに補償しあい、その結果残ったρ_(back)が耐圧を決定していることを表している。
【0024】
一方で、オン抵抗については本発明の適用により大きく低減されることが図4よりわかる。つまり、本発明により、耐圧を犠牲にせずに、分極により発生したキャリアの分だけオン抵抗を低減することができ、これによりオン抵抗と耐圧のトレードオフを大きく改善できる。また、本発明の効果は、高耐圧にいくほど向上することが分かる。例えば、10kV以上の高耐圧領域において、本発明を適用することで1/100以下にオン抵抗が改善されることが期待できる。」

カ 摘記した上記段落【0016】と【0022】の記載を参照すると、図3から、4つのヘテロ接合を形成する、n^(-)Al_(0.09)Ga_(0.91)N層とn^(-)GaN層を5層積層した積層構造を有する整流ダイオードにおいて、ショットキー特性を有するアノード電極9を前記積層構造の一方の側端に配置し、オーミック特性を有するカソード電極10を他方の側端に配置していることが、見て取れる。

(4)原査定の根拠となった平成24年6月7日付けの拒絶の理由において第3引用例として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-108676号公報(以下「引用例3」という。)には、「III族窒化物マルチチャンネルヘテロ接合インターデジタル整流器」(発明の名称)に関して、図3?図4Dとともに、次の記載がある。

(技術分野)
ア 「【0001】
本発明は、電力半導体装置に関し、さらに詳細には、ヘテロ接合電力半導体装置に関する。」

(背景技術)
イ 「【0002】
III族窒化物ヘテロ接合電力半導体装置は、降伏耐力や低いオン抵抗のために、パワーアプリケーションにおいて期待されている。米国特許出願11/004,212には、III族窒化物電力半導体装置の例が図示されている。
【0003】
この出願の図2を参照すると、米国特許出願11/004,212に示されたIII族窒化物を有する電力半導体装置は、基板28と、基板28上に配置されたバッファ層30と、バッファ層30上に配置されたヘテロ接合32と、ヘテロ接合32上に配置された保護層34と、ヘテロ接合32とショットキーコンタクトしたショットキー電極20と、ヘテロ接合32に接続されたオームコンタクト22とを有する。好ましくは、ショットキーコンタクト20とオームコンタクト22は共にフィールドプレート36を有する。
【0004】
ヘテロ接合32は、共にInAlGaNの合金で形成された抵抗性のあるIII族窒化物半導体(抵抗体)38とIII族窒化物半導体障壁体(障壁体)40を有する。従来周知のように、抵抗体38と障壁体40は、2つの構造体の間に自発分極と圧電効果による高い導電性の二次元ガス(2DEG)42からなる接合を形成するものから選択される。
【0005】
抵抗体38を形成するための公知の材料は、ドーピングされていないGaNであり、障壁体40を形成するための公知の材料は、AlGaNである。」

(課題を解決するための手段)
ウ 「【0006】
本発明による電力半導体装置は、少なくとも、第1のIII族窒化物ヘテロ接合と、その第1のIII族窒化物ヘテロ接合上に配置された第2のIII族窒化物ヘテロ接合とを有する。結果として、本発明による装置は、高密度及び高移動度を有する多くの2DEGチャンネルを有する。
【0007】
具体的には、それぞれのヘテロ接合は、好ましくは、InAlGaN合金からなる第1の薄いIII族窒化物半導体と、異なるInAlGaN合金からなる第2の薄い半導体で形成される。例えば、それぞれの層は10Å?1000Åであり、好ましくは150Å?300Åである。薄いが高い導電性を有するヘテロ接合体であるその多層は、比較的高い降伏電圧を有する高い導電性の電力半導体装置をもたらす。
【0008】
(・・・省略・・・)
【0009】
上述の例においては、順方向バイアス下では、AlGaN/GaNの界面に形成されたチャンネルは、厚いドープ領域を用いずに大電流を流すことができる。逆バイアス下では、そのチャンネルは電荷が除去されるので、そのチャンネルには電流が流れず、下層のGaNの性質である高い抵抗性によって、電荷が流れるのを防止する。さらに、そのAlGaNとGaNが内在的にドーピングされていると、順方向抵抗における相当する悪影響なしに、非常に高いスタンドオフ電圧を許容する弱い電界が逆バイアス下で発生する。所望の装置特性に依存して、移動度と降伏性能との間における所望のトレードオフを得るためにその層はドープされることができることに留意されたい。
【0010】
さらに、有利には、高い導電性の2DEGを有するドープされた電子輸送層の置換は、得られる降伏電圧のために、RA製品を劇的に改善する。さらに、AlGaN/GaNからなる多層の使用は、増加した伝導性をもたらし、抵抗性のあるGaN層は、例えば、その装置を囲うAlGaN-GaN積層体の一部をエッチングすることによってその装置を分離させる。結果として、1つのシングルチップ上に多数の装置を集積することを可能にするであろうし、それによって、本発明による装置を有するICの製造を可能にするであろう。」

(発明を実施するための最良の形態)
エ 「【0013】
本発明による装置は、2つ又はそれ以上のIII族窒化物ヘテロ接合を有する。例えば、図3を参照すると、本発明による電力装置は、ヘテロ接合32とバッファ層30との間にもう一つのヘテロ接合33を有する。ヘテロ接合33は、好ましくは、III族窒化物半導体抵抗体(抵抗体)39とIII族窒化物半導体障壁体(障壁体)41とを有する。抵抗体39と障壁体41は、2つの構造体の間に、高い導電性の二次元ガス(2DEG)42からなる接合を形成するものから選択される。好ましい実施形態においては、抵抗体39はドーピングされていないGaNから構成することができ、一方、障壁体41は、好ましくは、AlGaNから構成することができる。本願の精神や目的から逸脱せずに、InAlGaNの他の合金が抵抗体39と障壁体41を形成するために用いることができることに留意されたい。
【0014】
好ましい実施形態においては、基板28はシリコンから形成される。基板28は、SiC、サファイア、または他の適切な基板で形成することができることに留意されたい。さらに、バルクなGaNのように互換性のある(コンパチブル)III族窒化物半導体のバルク材料は、基板28として用いることができるが、ここで、抵抗体38がドーピングされていないGaNからなる場合には、バッファ層30は省略することができる。
【0015】
図4Aを参照すると、本発明による装置を作製するために、基板28と、バッファ層30と、ヘテロ接合32と、ヘテロ接合33と、保護層34とを有する積層体は、図4Bに模式的に示した保護層34の開口44を得るためにマスクされ、エッチングされる。開口44は、少なくてもヘテロ接合32の障壁体40まで達する。
【0016】
次に、オーミック電極22は、少なくとも障壁体40まで達する開口に形成され、障壁体40とオーミックコンタクトを形成し、結果として、図4Cに模式的に示された構造が得られる。オーミック電極22は、オーミック金属を堆積し、その後アニール工程を実施することによって形成される。その後、図4Dに模式的に示されているように、少なくとも障壁体40まで達するもう1つの開口46が保護層34に形成される。次に、ショットキー電極20は、ショットキー金属を積層させることによって、少なくとも障壁体40まで達する開口に形成され、障壁体40と接触するショットキーコンタクトを形成する。それから、フィールドプレート36は、ショットキー電極20の頂上に形成され、結果として、図3に示された形態による装置が得られる。」

4 対比
(1)次に、引用発明と本願発明とを対比する。
ア 引用発明の「GaN等の窒化物半導体材料からなる第1の半導体層13」は、本願発明の「窒化物半導体からなる層」に相当する。

イ 引用発明の「前記第1の半導体層13よりもバンドギャップエネルギーが大きいAl_(X)Ga_(1-X)N(0<X≦1)等の窒化物半導体からなる第2の半導体層14」は、本願発明の「前記窒化物半導体よりもバンドギャップが大きい窒化物半導体からなる層」に相当する。

ウ 上記ア及びイを踏まえれば、引用発明の「前記第1の半導体層13及び前記第2の半導体層14の界面はヘテロ界面となって」いる「第1の半導体層13と」「第2の半導体層14とが積層された窒化物積層体」は、本願発明の「窒化物半導体からなる層と、前記窒化物半導体よりもバンドギャップが大きい窒化物半導体からなる層とが積層されたヘテロ接合体」に相当している。また、引用発明の前記「窒化物積層体」は、本願発明の「ヘテロ接合体を少なくとも」「有する積層構造体」にも相当している。

エ 上記ウで述べたとおり、引用発明の「第1の半導体層13と」「第2の半導体層14とが積層された窒化物積層体」は本願発明の「ヘテロ接合体」に相当しているから、引用発明の「第1及び第2の半導体層13,14とショットキー接合を形成する金属からなる第1の電極15」及び「第1及び第2の半導体層13,14と低抵抗接触する金属からなる第2の電極16」は、それぞれ、本願発明の「前記ヘテロ接合体とショットキー接続されるショットキー電極」及び「前記ヘテロ接合体とオーミック接続されるオーミック電極」に相当する。

オ 引用発明の「前記第2の半導体層14の主面100」は、第1の半導体層13と第2の半導体層14からなる窒化物積層体の表面であるといえるから、本願発明の「積層構造体の表面」に相当する。

カ 引用発明の「第1の半導体層13」は、第1の半導体層13と第2の半導体層14からなる窒化物積層体の最下層であるから、引用発明において、「前記第2の半導体層14の主面100から前記第1の半導体層13に到達する第1の凹部31」及び「前記第2の半導体層14の主面100から前記第1の半導体層13に到達する第2の凹部32」は、それぞれ、本願発明の「前記積層構造体の表面から、前記積層構造体を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層に達する第一の凹部」及び「前記積層構造体の表面から、前記積層構造体を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層に達する第二の凹部」に相当する。

キ 引用発明において、「前記第1の電極15は、前記第1の凹部31の」「側面31b上に形成され」ること及び「前記第2の電極16は、前記第2の凹部32の」「側面32b上に形成され」ることは、それぞれ、本願発明の「前記ショットキー電極は、前記第一の凹部の側壁に接触するように形成され」ること及び「前記オーミック電極は、前記第二の凹部の側壁に接触するように形成され」ることに相当する。

ク 引用発明において、「2次元キャリア102を貫通する深さ」が、2次元キャリア102よりも浅い位置にある「ヘテロ界面」を貫通する深さであることは明らかであり、本願発明において、「ヘテロ接合体を貫通」するような深さが、ヘテロ接合体に含まれるヘテロ接合を貫通する深さであることは明らかであり、また、引用発明の「ヘテロ界面」は本願発明の「ヘテロ接合体」に含まれるヘテロ接合に相当するから、引用発明の「前記第1の凹部と前記第2の凹部は、共に、前記2次元キャリア102を貫通する深さにまで形成され」ていることと、本願発明の「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通して」いることとは、「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成されたヘテロ接合を貫通して」いる点で共通している。

ケ 引用発明の「前記第1の電極15は前記窒化物積層体とショットキー接続されている」ことと、本願発明の「前記ショットキー電極は前記全てのヘテロ接合体とショットキー接続されている」こととは、「前記ショットキー電極は前記ヘテロ接合体とショットキー接続されている」点で共通している。

(2)そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「窒化物半導体からなる層と、前記窒化物半導体よりもバンドギャップが大きい窒化物半導体からなる層とが積層されたヘテロ接合体を有する積層構造体と、
前記ヘテロ接合体とショットキー接続されるショットキー電極と、
前記ヘテロ接合体とオーミック接続されるオーミック電極と
を備え、
前記積層構造体の表面から、前記積層構造体を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層に達する第一の凹部が設けられ、
前記積層構造体の表面から、前記積層構造体を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層に達する第二の凹部が設けられ、
前記ショットキー電極は、前記第一の凹部の側壁に接触するように形成され、
前記オーミック電極は、前記第二の凹部の側壁に接触するように形成され、
前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成されたヘテロ接合を貫通しており、
前記ショットキー電極は前記ヘテロ接合体とショットキー接続されている
ことを特徴とする半導体装置。」

《相違点》
《相違点1》
本願発明と引用発明は、いずれも、「ヘテロ接合体を有する積層構造体」を備えているものであるが、本願発明の「積層構造体」は、「ヘテロ接合体を少なくとも二つ有」しているのに対して、引用発明の「積層構造体」は、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」を1つのみ有している点。

《相違点2》
本願発明においては、「ショットキー電極」が「前記積層構造体の第一の端部に形成され」るのに対して、引用発明においては、本願発明の「ショットキー電極」に相当する「第1の電極15」が「前記窒化物積層体の一方側端部の近傍に」「形成され」ており、また、本願発明においては、「オーミック電極」が「前記積層構造体の第二の端部に形成され」るのに対して、引用発明においては、本願発明の「オーミック電極」に相当する「第2の電極16」が「前記窒化物積層体の反対側端部の近傍に」「形成され」ている点。

《相違点3》
本願発明においては、「第一の凹部」が「前記第一の端部に」「設けられ」、「第二の凹部」が「前記第二の端部に」「設けられ」るのに対して、引用発明においては、本願発明の「第一の凹部」に相当する「第1の凹部31」が「前記一方側端部の近傍に」「形成され」、本願発明の「第二の凹部」に相当する「第2の凹部32」が「前記反対側端部の近傍に」「形成され」る点。

《相違点4》
本願発明と引用発明は、いずれも、「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成されたヘテロ接合を貫通している」ものであるが、本願発明は、第一及び第二の凹部が「少なくとも二つ」有る「全てのヘテロ接合体を貫通して」いるのに対して、引用発明は、第1及び第2の凹部が「2次元キャリア102を貫通する深さにまで形成されて」いるのみであって、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」を貫通するような深さまで到達することが特定されておらず、また、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」が一つしかないため、「少なくとも二つ」有る「全てのヘテロ接合体を貫通」することが特定されていない点。

《相違点5》
本願発明と引用発明は、いずれも、「前記ショットキー電極は前記ヘテロ接合体とショットキー接続されている」ものであるが、本願発明は、ショットキー電極が、少なくとも二つのヘテロ接合体の「全て」とショットキー接続されているのに対して、引用発明は、本願発明の「ショットキー電極」に相当する「第1の電極15」が、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」の一つとショットキー接続されているのみであって、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」が一つしかないため、「少なくとも二つ」有る「全てのヘテロ接合体とショットキー接続」することが特定されていない点。

5 当審の判断
(1)相違点1についての検討
引用例2には、2種類以上の半導体を、少なくとも2個以上の半導体のヘテロ接合を形成するように3層以上積層した積層構造を有する整流ダイオードであって、該積層構造の一方の側端に上記第一の導電型のキャリアに対してショットキー特性を有する第一の電極と、他方の側端に上記第一の導電型のキャリアに対してオーミック特性を有する第二の電極とを備えた整流ダイオードとすることにより、耐圧を犠牲にせずに、分極により発生したキャリアの分だけオン抵抗を低減することが記載されている。
引用例3には、整流器の機能を有するIII族窒化物ヘテロ接合電力半導体装置において、増加した伝導性をもたらすために、AlGaN/GaNからなるIII族窒化物ヘテロ接合を、2つ又はそれ以上積層することが記載されている。
したがって、上記引例2,3に記載されているように、2種類の半導体の界面であるヘテロ接合を利用した整流素子において、オン抵抗を低減させるため、或いは、増加した伝導性をもたらすために、複数のヘテロ接合を有するように上記2種類の半導体を複数層積層することは、周知の技術である。
そして、引用発明は、ヘテロ界面を有する窒化物積層体を一つのみ含む半導体装置であるところ、摘記した上記3.(1)イ.の段落[0005]に記載されているように、引用発明の課題の一つは順方向電圧を低くすることであり、順方向電圧を低くすることは、引用例2や引用例3おける、オン抵抗を低減させること、或いは、増加した伝導性をもたらすことに相当するから、引用発明において、順方向電圧を低減するために、上記の周知の技術に基づいて、2次元キャリア102がその近傍に発生するヘテロ界面を有する窒化物積層体を2つまたはそれ以上積層したものとすること、つまり、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点1は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(2)相違点2、3についての検討
相違点2と相違点3は相互に関連するものであるから、まとめて検討する。
引用発明においては、第1の電極15及び第1の凹部31が、第1の半導体層13と第2の半導体層14が積層された窒化物積層体の一方側端部の近傍に形成され、第2の電極16及び第2の凹部32が、同窒化物積層体の反対側端部の近傍に形成されている。
しかしながら、引用発明において、整流素子として機能する領域は第1及び第2の電極に挟まれた領域であることは明らかであり、整流素子として機能しない無駄な領域を省こうとすることは、製造工程にかかるコストを削減する観点から当業者が当然に考慮することであるから、整流素子として機能しない上記無駄な領域をなくすために、上記第1及び第2の電極15,16をそれぞれ窒化物積層体の対向する端部に形成するとともに、上記第1及び第2の電極15,16のそれぞれの形成位置に合わせて上記第1及び第2の凹部31,32を形成すること、即ち、相違点2及び相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
なお、この点に関連して、引用例2には、上記3(3)のカで示したように、2種類の半導体を5層積層した積層構造を有する整流ダイオードにおいて、アノード電極9を前記積層構造の一方の側端に配置し、カソード電極10を他方の側端に配置することが記載されており、整流ダイオードの端部に電極を配置することは当業者によって普通に行われていることである。
よって、相違点2及び相違点3は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(3)相違点4についての検討
(3-1)相違点4のうち、第一及び第二の凹部が「ヘテロ接合体を貫通する」点について
引用発明は、「前記第1の凹部と前記第2の凹部は、共に、前記2次元キャリア102を貫通する深さにまで形成され」るものであり、上記「2次元キャリア102を貫通する」深さの具体例としては、上記3(1)コで検討したように、第1の半導体層13の下面の近傍にまで到達する深さとすることが示されているものであるが、これは、2次元キャリア102が電極と電気的に接続することにより、上記3(1)イで摘記した段落[0005]に記載されている、電極と2次元キャリアとの間の半導体層の内部抵抗が比較的大きくなり、電極と2次元キャリアとの間に寄生容量が発生するという課題(以下「引用発明の課題」という。)を解決しようとするものである。
一方、引用例1には、上記3(1)ウで摘記した段落[0022]に記載されているように、凹部の深さについて、「凹部31および32を深く形成する場合には、長いエッチング時間を必要とするので、適度な深さとする必要がある。」とも記載されており、凹部を深く形成する場合にはエッチング時間を考慮して適度な深さとすることが必要であることも述べられている。
したがって、引用例1には、電極と2次元キャリアとの電気的な接続が確実になされるように、凹部形成のためのエッチング時間も考慮して、凹部の底面の深さを適宜設定し得ることが示されているものと認められる。
よって、引用発明において、第一及び第二の凹部の深さである「2次元キャリア102を貫通する深さ」として、電極と2次元キャリアとの電気的な接続を確実にするように、2次元キャリアが発生する第1の半導体層13を貫通する深さであるが、2次元キャリアが存在しないバッファ層12や基板11を貫通することでエッチング時間が長くなりすぎないような深さとすること、即ち、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」を貫通する程度の深さとすることは当業者が適宜なし得た設計事項である。

(3-2)相違点4のうち、第一及び第二の凹部が「全てのヘテロ接合体を貫通する」点について
引用発明において、順方向電圧を低減するために、ヘテロ界面を有する窒化物積層体を2つまたはそれ以上積層したものとすることが、当業者が容易になし得たことであることは、上記(1)で示したとおりである。
そして、引用発明において、仮に、第1及び第2の凹部の深さを変えることなく、1つ以上の窒化物積層体を単に追加して積層した場合には、最上層の窒化物積層体の下層側に新たに積層された窒化物積層体に含まれる新たな2次元キャリアと上記第1及び第2の凹部に形成される電極が電気的に接続されないので、上記新たな2次元キャリアと上記電極の間の内部抵抗が大きくなり、また、上記新たな2次元キャリアと上記電極の間に寄生容量が発生することとなり、引用発明の課題と全く同様の課題が生じることは、当業者には明らかである。
したがって、引用発明において、上記(1)で検討したように、窒化物積層体を2つまたはそれ以上積層するにあたり、第1及び第2の凹部に形成される電極が、最上層の窒化物積層体に含まれる2次元キャリアのみでなく、その下層側に新たに積層される全ての窒化物積層体に含まれる2次元キャリアとも電気的に接続されるような深さに、第1及び第2の凹部を形成すること、即ち、本願発明の「ヘテロ接合体」に相当する「窒化物積層体」の「全て」を貫通する深さの凹部を形成することは、引用発明の課題を解決する観点から当然考慮されるべき事項にすぎない。

(3-3)本願発明の、第一及び第二の凹部が「全てのヘテロ接合体を貫通する」点について、当初明細書等の記載に基づく解釈をした場合についての検討
(3-3-1)第一及び第二の凹部が「全てのヘテロ接合体を貫通」する点に関連する本願の当初明細書等における記載
上記(3-2)の検討においては、本願発明における「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通しており」との文言については、記載どおりの意味で解釈して判断を行っているが、以下に示すように、出願当初の明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下「当初明細書等」という。)の全体を精査しても、「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通」することについて、明示的に記載された箇所は発見できない。

本願発明において「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通」することは、平成24年8月8日に提出された手続補正書による補正によって請求項1に導入されたものであり、この補正の根拠については、同日に提出された意見書では、本願明細書の段落【0027】?【0029】と図3であると説明されている。
しかしながら、上記補正の根拠とされた明細書において、第一及び第二の凹部の形成について記載されているのは、段落【0027】の「ここで、第一の端部には、積層構造体(203?206)の表面から、積層構造体(203?206)を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層(GaN層203)に達する第一の凹部207aが設けられ、第二の端部には、積層構造体(203?206)の表面から、積層構造体(203?206)を構成する窒化物半導体からなる層のうちの最下層(GaN層203)に達する第二の凹部207bが設けられ、ショットキー電極208は、第一の凹部207aの側壁に接触するように形成され、オーミック電極209は、第二の凹部207bの側壁に接触するように形成されている。」なる記載のみであり、この記載においては、上記の下線で示した箇所に、第一及び第二の凹部207a,bは、積層構造体の表面から同積層構造体の最下層であるGaN層203に達するように設けられることが記載されているのみであり、積層構造体の最下層であるGaN層203を貫通することまでは記載されていない。また、図3においても、第一及び第二の凹部205a,b(合議体注:207a,bの誤記と認められる。)は、下方のヘテロ接合体を構成するGaN層203に達するように設けられているものの、GaN層203を貫通するようには記載されていない。
また、補正の根拠とされてはいないが、本願明細書において第3の実施形態を説明した図面である図7を参照すると、第1の凹部307aが、GaN層303からAlGaN層306からなる積層構造体の全てを貫通することが記載されているものの、第2の凹部307bについては、積層構造体の全てを貫通していない。
そして、当初明細書等の全体を精査しても、「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通」することについて、明示的に記載された箇所は発見できない。

(3-3-2)「全てのヘテロ接合体を貫通」することについて当初明細書等の記載に基づく解釈をした場合の判断
したがって、本願発明を特定する「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通しており」という事項については、記載どおりの解釈(以下「解釈A」という。)をする以外に、上記(3-3-1)において引用した上記当初明細書等の記載に基づけば、次の解釈をすることができる。

・解釈B:「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体のうち最下層のヘテロ接合体を除く全てのヘテロ接合体を貫通するとともに、前記積層構造体の最下層の窒化物半導体からなる層に達しており」

そこで、本願発明の「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通しており」について、当初明細書等の記載に基づいて、解釈Bの意味で解釈した場合について検討する。
引用発明において、複数の窒化物積層体を積層するにあたり、積層される全ての窒化物積層体に含まれる2次元キャリアと電極が電気的に接続するような構成とする必要があることは、上記(3-2)において検討したとおりであるから、上記電極が形成される第1及び第2の凹部が、複数個積層された窒化物積層体のうち、最下層の窒化物積層体を除く他の全ての窒化物積層体を貫通する必要があることは明らかであり、また、最下層の窒化物積層体においても上記第1及び第2の凹部が第1の半導体層13の領域内に発生する2次元キャリアを貫通する深さに形成される必要があることは明らかであるから、上記第1及び第2の凹部が、複数の窒化物積層体の最下層にある第1の半導体層13に達するように形成することは、引用発明の課題を解決する観点から当然考慮されるべき事項にすぎない。
したがって、本願発明を上記解釈Bの意味で解釈した場合についても、引用発明において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるということができる。

(3-4)相違点4についての検討のまとめ
本願発明の「前記第一の凹部と前記第二の凹部は、共に、前記積層構造体内に形成された前記全てのヘテロ接合体を貫通しており」について、記載どおりに解釈した場合であっても、当初明細書等の記載に基づいて解釈した場合であっても、引用発明において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
よって、相違点4は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4)相違点5についての検討
引用発明において、順方向電圧を低減するために、ヘテロ界面を有する窒化物積層体を2つまたはそれ以上積層したものとすることが、当業者が容易になし得たことであることは、上記(1)で示したとおりである。
また、引用発明において、ヘテロ界面を有する窒化物積層体を2つまたはそれ以上積層した場合に、第1及び第2の凹部を、全ての窒化物積層体を貫通するような深さに形成することが当業者が容易になし得たことであることは、上記(3)で示したとおりである。
そして、引用発明において、第1の電極15は、「第1及び第2の半導体層13,14とショットキー接合を形成する金属からなる」のであるから、第1の電極15が、第1及び第2の半導体層13,14からなる窒化物積層体とショットキー接続されていることは自明である。
したがって、引用発明において、2つまたはそれ以上窒化物積層体を積層するとともに、全ての窒化物積層体を貫通する深さに第1の凹部が形成された場合には、前記第1の凹部に形成される第1の電極15は、当然に、全ての窒化物積層体とショットキー接続されることととなる。
よって、引用発明において、相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(5)したがって、上記(1)?(4)で検討したとおり、引用発明において、上記相違点1?5に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

第3 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明と、引用例2及び引用例3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-26 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-17 
出願番号 特願2007-286613(P2007-286613)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 勝則  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 藤原 敬士
西脇 博志
発明の名称 窒化物半導体装置  
代理人 新居 広守  

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