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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1282109
審判番号 不服2013-19620  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-09 
確定日 2013-12-17 
事件の表示 特願2007-331986「安定化電源装置及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月16日出願公開、特開2009-159661、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年12月25日の出願であって、平成24年4月17日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年4月24日)、これに対し、平成24年6月25日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成24年10月25日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年10月30日)、これに対し、平成25年1月4日付で意見書が提出されたが、平成25年7月3日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年7月9日)、これに対し、平成25年10月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1-2に係る発明(以下、請求項1記載の発明を「本願発明」という。)は、平成24年6月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】出力電圧における基準値からの差分をフォトカプラを介して帰還し、差分に応じて入力電圧を電圧変換して安定した出力電圧を得る安定化電源装置において、
複数のフォトカプラと、
前記複数のフォトカプラから一つを選択する切替回路と、
前記切替回路によって選択したフォトカプラに前記差分を供給する駆動回路と、
前記選択されたフォトカプラの駆動状態を監視し、駆動状態が所定の状態外であることを検出した場合には、フォトカプラの選択を変更するように前記切替回路を制御するフォトカプラ監視手段と、
を備え、
前記フォトカプラ監視手段は、前記出力電圧を監視する電圧監視回路であって、
前記電圧監視回路は、前記出力電圧が所定の範囲外であることを検出した場合には、フォトカプラの選択を変更するように前記切替回路を制御することを特徴とする安定化電源装置。
【請求項2】出力電圧における基準値からの差分をフォトカプラを介して帰還し、差分に応じて入力電圧を電圧変換して安定した出力電圧を得る安定化電源装置の制御方法であって、
複数のフォトカプラから一つを選択するステップと、
前記選択したフォトカプラに前記差分を供給するステップと、
前記選択されたフォトカプラの駆動状態を監視するステップと、
前記駆動状態が所定の状態外であることを検出した場合に、フォトカプラの選択を変更するステップと、
を含み、
前記監視するステップは、前記出力電圧を監視するステップであって、
前記変更するステップは、前記出力電圧が所定の範囲外であることを検出した場合には、フォトカプラの選択を変更するステップであることを特徴とする安定化電源装置の制御方法。」


3.原査定の理由の概要
平成24年10月25日付の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」として、請求項1?2に対して引用例1?3を挙げている(引用例1は特開平6-217534号公報、引用例2は特開2004-248390号公報、引用例3は特開2000-217348号公報)。


4.当審の判断
(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用した特開平6-217534号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

1-a「出力電圧の誤差情報をホトカップラーを用いて電圧調整回路に帰還する安定化電源回路において、帰還用ホトカプラー(11)の入力部と直列に該入力部入力電流を検出する入力検出手段(12)と、該入力検出手段で検出した入力電流が一定値以上になったときに警報を発生する警報発生手段(13)を備えたことを特徴とする安定化電源回路。」(【請求項1】)

1-b「一次側電源の電圧V_(in)の変動又は負荷2の変動によって、現実の出力電圧が、目標値より高くなるとPC11の一次電流を増大させることにより、PWM5の駆動電圧を増大させる。その結果、変成器3の一次電流のパルス幅が減少して変成器3の二次側出力が減少、整流出力が目標値V_(REF) に近づく。現実の出力電圧が、目標値より低くなった場合は、上記と逆の方向の調整が行われる。
上述の調整は、PCの電流伝達率が一定範囲に保持されている場合に保証されているが、PCの電流伝達率が一定範囲より逸脱して劣化した場合には、出力電圧が上昇してもPWM5の二次側に電流が流せなくなり、電圧を抑えきれなくなる。その結果、負荷2に供給される出力電圧が過電圧に到る。このため、過電圧保護回路を設けることが行われている。
しかし、過電圧保護回路による電圧制限はあくまで臨時的措置であり、安定動作とは本質的に異なり、負荷への安定な電圧の供給という本来の目的を達成することはできない。
本発明は、ホトカップラーの電流伝達率の劣化を検出して、出力電圧が上昇する前に制御限界に達したことを表示し電源回路の保安時機を知らせることを目的とする。
図1は、本発明の原理説明図である。図中、1は一次側電源で、電気的エネルギー(電圧V_(in)) を供給するもの、2は負荷で、安定化された電圧の供給を要求するもの、3は変成器で、一次側電源電圧を二次側負荷が要求する電圧に変換するもの、4はスイッチング回路(SW)で、一次側直流入力を断続して変成器による電圧変換が可能なパルス電力に変換するもの、5はパルス幅変調器(PWM)で、スイッチング回路4によって変換されたパルス電力のパルス幅を変更することにより変成器3の出力電圧を変化させるもの、6は整流器で、交流を直流に変換するもの、7は平滑コンデンサで、整流器出力の交流分を除去するもの、8は誤差増幅器(AMP1)で、二次側出力直流電圧の現実の値と二次側出力直流電圧の目標値(V_(REF) ) との差電圧の符号によって出力電流を一定値から増減するもの、11はホトカップラー(PC)で、制御電流を光学的手段によって結合するもの、12はPC入力電流レベル検出回路で、PC入力電流の値に応じて警報表示回路を駆動するもの、13は警報表示回路で、PCの劣化を表示するためのもの、200は安定化電源の全体の回路構成である。」(【0003】-【0007】)

1-c「PC11の正常動作範囲の限界電流値(I_(PCMAX) ) により、PC入力電流検出回路12に内蔵した抵抗器121に生じた電圧が、PC入力電流検出回路12に内蔵したトランジスタQ1のベースエミッタ電圧(V_(be))を超えると、トランジスタQ1は導通状態となり、警報回路に電流が流れる。電流の調整は警報表示回路13に内蔵した抵抗器132の値を選定して、警報表示回路13に内蔵した発光素子132が適度の発光をするようにする。」(【0010】)

上記記載及び図面を参照すれば、安定化電源回路は、差電圧をホトカップラーを介して帰還し、差電圧に応じて一次側電源電圧を電圧変換して安定した出力電圧を得ている。
上記記載及び図面を参照すれば、誤差増幅器はホトカップラーに差電圧を供給している。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「出力電圧における目標値からの差電圧をホトカップラーを介して帰還し、差電圧に応じて一次側電源電圧を電圧変換して安定した出力電圧を得る安定化電源回路において、
ホトカップラーと、
前記ホトカップラーに前記差電圧を供給する誤差増幅器と、
前記ホトカップラーの入力電流を検出し、前記入力電流が一定値以上であることを検出した場合には、警報を発生する警報発生手段と、
を備える安定化電源回路。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由で引用した特開2004-248390号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

2-a「ところで、ヒューズの劣化に対処するため、従来、電動機などの制御回路に使用されているヒューズについては、ヒューズの自然劣化などによりヒューズが溶断した場合に、予備の第2のヒューズに切替えられるとともに警報回路を作動させるようにしたものがある」(【0003】)

同じく、原査定の拒絶の理由で引用した特開2000-217348号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

3-a「出力電圧変動幅検出部18は、出力電圧検出部10よりの出力電圧からその出力電圧の最大値MAXと最小値MINとを検出し、かつ、その最大値MAXと最小値MINとから出力電圧の変動幅を検出する。出力電圧変動幅検出部18の一つの具体例としては、出力電圧検出部10よりの検出入力から直流電圧成分をコンデンサで除去して出力整流平滑部8の不図示の平滑コンデンサの容量あるいはフォトカプラの性能に対応したリップル成分のみとし、そのリップル成分の振幅を検出することで出力電圧の変動幅を検出することができる。この場合、出力電圧変動幅検出部18は、一定時間T内で出力電圧の変動幅を検出する。」(【0010】)

3-b「出力電圧の変動原因としては、出力整流平滑部8の平滑コンデンサの容量抜けと、比較フィードバック部12のフォトカプラの性能劣化とについて説明する。」(【0012】)

拒絶査定時に、周知文献として挙げた実願平2-125809号(実開平4-85845号)のマイクロフィルム(以下、「周知文献」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

4-a「(1)互いに発光部が直列接続された現用フオトカプラを各段が有し、前段からの信号が自段の発光部に入力され、該信号を後段の発光部へ伝達してループ伝送路を形成し、これらフォトカプラの各受光部の出力を自段の受信信号とする伝送制御回路であつて、前記発光部に対して並列に接続された発光部を有する予備フォトカプラと、前記現用フォトカプラが故障したとき前記予備フォトカプラによりループ伝送路を形成し、その受光部の出力を受信信号とするよう制御する制御手段とを含むことを特徴とする伝送制御回路」(実用新案登録請求の範囲)


(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「目標値」、「差電圧」、「ホトカップラー」、「一次側電源電圧」、「安定化電源回路」、「誤差増幅器」は、それぞれ本願発明の「基準値」、「差分」、「フォトカプラ」、「入力電圧」、「安定化電源装置」、「駆動回路」に相当する。

引用発明の「前記ホトカップラーの入力電流を検出し、前記入力電流が一定値以上であることを検出した場合には、警報を発生する警報発生手段」と、本願発明の「前記選択されたフォトカプラの駆動状態を監視し、駆動状態が所定の状態外であることを検出した場合には、フォトカプラの選択を変更するように前記切替回路を制御するフォトカプラ監視手段」は、「前記フォトカプラの駆動状態を監視し、駆動状態が所定の状態外であることを検出した場合には、所定の手段を講じるフォトカプラ監視手段」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「出力電圧における基準値からの差分をフォトカプラを介して帰還し、差分に応じて入力電圧を電圧変換して安定した出力電圧を得る安定化電源装置において、
フォトカプラと、
前記フォトカプラに前記差分を供給する駆動回路と、
前記フォトカプラの駆動状態を監視し、駆動状態が所定の状態外であることを検出した場合には、所定の手段を講じるフォトカプラ監視手段とを備える安定化電源装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明は、複数のフォトカプラを有し、複数のフォトカプラから一つを選択する切替回路を有するのに対し、引用発明は、1つのフォトカプラを有する点。
〔相違点2〕
フォトカプラの駆動状態を監視し、駆動状態が所定の状態外であることを検出した場合には、所定の手段を講じるフォトカプラ監視手段に関し、本願発明は、フォトカプラ監視手段は、出力電圧を監視する電圧監視回路であって、前記電圧監視回路は、前記出力電圧が所定の範囲外であることを検出した場合には、フォトカプラの選択を変更するように切替回路を制御するのに対し、引用発明は、フォトカプラ監視手段は、フォトカプラの入力電流を検出し、前記入力電流が一定値以上であることを検出した場合には、警報を発生するものである点。


(3)判断
相違点1について
引用発明は、1つのフォトカプラを有し、1つのフォトカプラが劣化した場合、警報を発して保安時機を知らせることが前提であり、引用発明がフォトカプラを切り替えて用いれば、保安時機をユーザーに知らせることができなくなるから、複数のフォトカプラを切り替えて用いようとする動機付けが無い。
仮にフォトカプラを切り替えて用いることが周知の課題(引用例2、周知文献参照)であったとしても、本願発明は、フォトカプラを単に切り替えるだけではなく、現用しているフォトカプラの劣化が進んだ際に予備のフォトカプラに切り替えることにより、安定化電源が継続して動作を続けられるようにすると共に、切り替え時に不安定な動作にならないようにすることを目的とし、そのために複数のフォトカプラから一つを選択する切替回路を用いているが、フォトカプラの切り替え方法は様々なものが有り、如何なる切り替え方法でも所望の目的を達成できるわけではないから、引用発明は、安定化電源が継続して動作を続けられるようにすると共に、切り替え時に不安定な動作にならないようにするための「複数のフォトカプラから一つを選択する切替回路」を採用する動機付けが無い。
そうであれば、引用発明において、1つのフォトカプラを複数のフォトカプラに変更して、複数のフォトカプラから一つを選択する切替回路を設けることは、当業者が容易に考えられたものとすることはできない。

相違点2について
引用発明は、フォトカプラ監視手段はフォトカプラの入力電流を検出し、前記入力電流が一定値以上であることを検出した場合、即ち電流伝達率の劣化を検出した場合(1-b参照)には警報を発生してはいるが、安定化電源装置の出力電圧が所定の範囲外であること、即ちショート、オープンを出力電圧を用いて監視しておらず、フォトカプラの入力電流が一定値以上であることを検出する回路を、安定化電源装置の出力電圧が所定の範囲外であることを監視する回路に変更する動機付けが無い。しかも、フォトカプラの性能劣化を判定している引用例3は、フォトカプラの性能劣化に基づく出力電圧の変動幅を検出してはいるが、安定化電源装置の出力電圧が所定の範囲内か範囲外かを監視してはいないから、引用例1?3の何れにも、フォトカプラの性能劣化を電圧監視回路が出力電圧が所定の範囲外であることから検出することを示すものは無い。
そうであれば、引用発明において、フォトカプラ監視手段を、出力電圧を監視する電圧監視回路であって、前記電圧監視回路は、前記出力電圧が所定の範囲外であることを検出した場合には、フォトカプラの選択を変更するように切替回路を制御するものとすることは、当業者が容易に考えられたものとすることはできない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。また、本願発明が当業者が容易に発明することができたものではないので、本願発明と装置と方法のカテゴリーが異なるほかは実質的に同一である請求項2に係る発明についても、当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。


5.むすび
以上のとおり、本願については、原査定の特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-11-29 
出願番号 特願2007-331986(P2007-331986)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今井 貞雄  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 新海 岳
槙原 進
発明の名称 安定化電源装置及びその制御方法  
代理人 加藤 朝道  

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