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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1282126
審判番号 不服2012-19995  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-11 
確定日 2013-11-26 
事件の表示 特願2007-541755「自動車用の段階的可変変速機」拒絶査定不服審判事件〔2006年6月1日国際公開、WO2006/056325、平成20年6月19日国内公表、特表2008-520922〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯、本願発明

本願は、2005年11月11日(パリ条約による優先権主張 2004年11月23日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、 平成24年6月1日付け(発送日:平成24年6月11日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年10月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年7月11日付け、平成24年4月11日付け、及び平成24年10月11日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面からみて、以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
自動車用の段階的可変変速機(10)であって、前記段階的可変変速機は、複数個の前進歯車段(1,2,3,4・・・)及び少なくとも1つの後退歯車段(R)を有し、前記段階的可変変速機は、
駆動入力シャフト構造体(12,14;38)と、
出力シャフト構造体(16,18;40)であって、前記出力シャフト構造体(16,18)は、前記駆動入力シャフト構造体(12,14;38)と一緒になって、3シャフト構造体を形成する2本の出力シャフト(16,18)を有する出力シャフト構造体(16,18;40)と、
遊び歯車及び固定歯車を含む複数個の歯車列とを有し、前記遊び歯車は、シャフト構造体に回転自在に取り付けられると共にそれぞれのシフトクラッチ(SK)によって関連の前記シャフト構造体に回転的に固定された状態で連結でき、
或る特定の前進歯車段(2)は、前記出力シャフト(16,18)のうちの一方の出力シャフト(16)に割り当てられ、前記後退歯車段(R)は、他方の出力シャフト(18)に割り当てられており、
前記後退歯車段(R)は、前記或る特定の前進歯車段(2)に割り当てられた歯車列の遊び歯車に回転的に固定された状態で連結された歯車(28)を介して駆動され、
駐車ロック(30)が、前記出力シャフト(16,18)のうちの他方(18)に割り当てられ、
前記駐車ロック(30)は、一方の出力シャフト(16)の前記或る特定の前進歯車段(2)に軸方向に整列する、
ことを特徴とする段階的可変変速機。」

なお、平成24年10月11日付けの手続補正書の請求項1には、
「駐車ロック(30)が、前記出力シャフト(16,18)のうちの一方(18)に割り当てられ、
前記駐車ロック(30)は、他方の出力シャフト(16)の前記或る特定の前進歯車段(2)に軸方向に整列する」
とあるが、これは誤記であり、明細書及び図面からみれば、正しくは、
「駐車ロック(30)が、前記出力シャフト(16,18)のうちの他方(18)に割り当てられ、
前記駐車ロック(30)は、一方の出力シャフト(16)の前記或る特定の前進歯車段(2)に軸方向に整列する」
であることが明らかであり、請求人も平成平成25年6月6日付け回答書において誤記である旨認めているので、上記のとおり本願発明を認定した。

そして、審判の請求と同日付けでなされた平成24年10月11日付けの手続補正は、審判請求書に係る平成24年12月5日付け手続補正書において、請求人が「補正前の請求項1における誤記であった『前記入力駆動シャフト構造体(12,14;38)』との文言を、『前記駆動入力シャフト構造体(12,14;38)』に変更した。」として、誤記があった旨を認めていることからみて、誤記の訂正を目的とするものである。


第2 刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された米国特許4790418号明細書(以下、「刊行物1」という。)及び特開2002-89594号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与。)

(1)刊行物1

(a)「1. Field of the Invention
This invention relates to a control for changing the gear ratios of an automatic transmission. More particularly, it pertains to a control of the hydraulic pressure supplied to the clutches and brakes of an automatic transmission whose engagement and disengagement selectively produce the various speed ratios of the transmission.」(第1欄第6?13行)
(産業上の利用分野
本発明は、自動トランスミッションの歯車比を変化させるための制御技術に係る。とりわけ本発明は、選択的に行なわれる係合操作と解放操作により様々な速度比の得られる自動トランスミッションにおいて、このトランスミッションのクラッチとブレーキに供給される液圧を制御する技術に係る。)(訳は、刊行物1のパテントファミリである特開昭63-297849号公報を参照しつつ当審で作成した仮訳。以下、同様。)

(b)「Referring first to FIG. 1, the crankshaft 10 of an engine 12 or other power source is adapted for connection by first and second clutches 14, 16 to first and second driveshafts 18, 20, respectively. The clutches are engaged by directing pressurized hydraulic fluid to the associated clutch servo and are disengaged by venting the servo.
Input shaft 18 is a sleeve shaft through which input shaft 20 extends. Support for the shaft is provided by bearings retained in recesses formed in the transmission case.
Shaft 18 has a first forward speed ratio pinion 22 and a third-fifth forward speed ratio pinion 24 fixed to the shaft. Input shaft 20 has a fourth-sixth forward speed ratio pinion 26 and a second forward speed-reverse drive pinion 28 fixed to the shaft.
A first countershaft 30 rotatably supported on the transmission casing parallel to the axis of the input shafts supports first, third and fourth forward speed ratio gears 32, 34, 36 and reverse gear 38, all of which are journalled on the surface of the countershaft. Located between gears 32 and 34 is a coupler or synchronizer clutch 40, whose hub is fixed to the countershaft and is adapted to drivably connect gears 32 and 34 selectively to the countershaft by engagement of the synchronizer clutch sleeve with the dog teeth carried on gear wheels 32, 34. Located between gears 36 and 38 is a coupler or synchronizer clutch 42, whose hub is fixed to countershaft 30 and is adapted to selectively drivably connect gears 36 and 38 to the countershaft by sliding the synchronizer clutch sleeve into engagement with the dog teeth formed on gear wheels 36, 38.
A second countershaft 44 is rotatably supported on the transmission casing parallel to the axis of the input shafts. Journalled on the surface of countershaft 44 is a gear wheel 46 that includes reverse pinion 50 and a second speed gear 48. Also journalled on countershaft 44 are a fifth speed gear 52 and a sixth speed gear 54. Located between gears 50 and 54 is a third coupler or synchronizer clutch 56, whose hub is fixed to countershaft 44 and is adapted to selectively drivably connect gears 50 and 54 to the countershaft by sliding the clutch sleeve into engagement with dog teeth carried on the gear wheels. A fourth coupler or synchronizer clutch 58 has its hub fixed to countershaft 44 and is adapted to selectively drivably connect gear 52 to the countershaft by engaging dog teeth formed on the gear wheel. Reverse gear means 59 are in continuous meshing engagement with reverse pinion 50 and reverse gear 38.
Formed integrally with countershaft 30 is an output gear 60, and formed integrally with countershaft 44 is an output gear 62. The output gears are held in continuous meshing engagement with the differential input gear 64, which carries bevel pinions 66, 68 that are continuously engaged with side bevel gears 70, 72. Output gear 64 turns the carrier on which the bevel gears are supported, and axle shafts 74, 76, which are fixed to the side bevel gears, are driven rotatably about their axes through operation of the differential mechanism.
The first forward speed ratio is produced when clutch 14 is engaged, clutch 16 is disengaged, synchronizer clutch 58 is in its neutral position, the sleeve of synchronizer clutch 40 is moved rightward to the first speed ratio position, and the clutches of synchronizer clutches 42 and 56 are moved leftward to preselect the reverse and second speed ratios, respectively. With the transmission disposed in this way, crankshaft 10 is clutched to the first input shaft 18, pinion 22 drives gear 32, countershaft 30 is driven through synchronizer clutch 40 and output gear 60 drives the differential ring gear 64.
A speed ratio change to the second gear ratio results after friction clutch 14 is disengaged and clutch 16 is engaged. Thereafter, synchronizer 40 is shifted to the left thereby preselecting the third speed ratio, the sleeves of synchronizer clutches 42 and 58 are moved to their neutral positions and synchronizer clutch 56 is kept at its leftward position. The torque path for the second speed ratio therefore includes clutch 16, the second input shaft 20, input pinion 28, gears 48 and 50, synchronizer clutch 56, countershaft 44, output gear 62, differential ring gear 64, the differential mechanism, and axle shafts 74, 76.」(第2欄第62行?第4欄第8行)
(第1図を参照する。エンジン12または他の動力供給源のクランクシャフト10は、第1と第2のクラッチ14、16を通じてそれぞれ第1と第2の駆動シャフト18、20に連結されるようになっている。クラッチは加圧状態の液圧流体を付属のクラッチサーボに供給することにより係合され、またクラッチサーボを排圧することにより解放される。
入力シャフト18は、入力シャフト20の通り抜けるスリーブシャフトである。シャフトはベアリングにより支持され、これらベアリングは、トランスミッションケースに形成された凹所内に嵌められている。
シャフト18は、当該シャフトに固定された第1の前進速度比ピニオン22と第3・第5の前進速度比ピニオン24とを備えている。入力シャフト20は、当該シャフトに固定された第4・第6の前進速度比ピニオン26と第2の前進速度比・逆転駆動ピニオン28とを備えている。
入力シャフトの軸線に平行してトランスミッションケースに回転可能に支持されている第1のカウンタシャフト30は、第1、第3および第4の前進速度比歯車32、34、36と逆転歯車38を支持している。これら歯車のすべてはカウンタシャフトの表面で支承されている。歯車32と34の間にはカプラーすなわち同期クラッチ40が配置されて、この同期クラッチ40のハブはカウンタシャフトに固定され、同期クラッチスリーブと歯車32、34上の犬歯状部材に係合することにより各々の歯車ホイール32、34をカウンタシャフトに選択的に駆動連結するようになっている。歯車36と38の間にはカプラーすなわち同期クラッチ42が配置され、この同期クラッチ42のハブはカウンタシャフト30に固定され、同期クラッチスリーブをスライドさせ、歯車ホイール36、38に形成された犬歯状部材に係合させることにより、歯車36、38をカウンタシャフト30に選択的に駆動連結するようになっている。
第2のカウンタシャフト44が、入力シャフトの軸線に平行してトランスミッションケースに回転可能に支持されている。歯車ホイール46がカウンタシャフト44の表面で支承されており、この歯車ホイール46は、逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48とを備えている。また、カウンタシャフト44は第5の前進速度比歯車52と第6の前進速度比歯車54を支承している。歯車50と54の間には第3のカプラーすなわち同期クラッチ56が配置されており、この同期クラッチ56のハブはクランクシャフト44に固定され、クラッチスリーブをスライドさせ歯車ホイールに支持された犬歯状部材に係合させることにより、歯車50と54をカウンタシャフトに選択的に駆動連結することができる。第4のカプラーまたは同期クラッチ58はカウンタシャフト44に固定されたハブを備え、また歯車ホイールに形成された犬歯状部材に係合させることにより、歯車52をカウンタシャフトに選択的に駆動連結するようになっている。逆転歯車手段59は、逆転ピニオン50と逆転歯車38とが継続的に噛合い係合した状態にある。
出力歯車60がカウンタシャフト30と一体的に形成され、また出力歯車62がカウンタシャフト44と一体的に形成されている。これら出力歯車は、ディファレンシャル入力歯車64と継続的に噛合い係合した状態に保たれている。このディファレンシャル入力歯車64は、かさ歯車70、72に係合したかさピニオン66、68を支持している。歯車64の出力はかさ歯車を支持しているキャリアを回転し、かさ歯車に固定されている軸シャフト74、76をディファレンシャル機構の働きにより軸線の廻りで回転駆動させる。
クラッチ14が係合され、クラッチ16が解放され、同期クラッチ58が中立位置にあって、しかも、それぞれ、同期クラッチ40のスリーブが第1の速度比位置に向けて右方向に移動され、また同期クラッチ42と56が左方向に移動されて、逆転及び第2の速度比を予備選択する場合に、第1の前進速度比が得られる。このようにトランスミッションを配列すれば、クランクシャフト10は第1の入力シャフト18に連結され、ピニオン22が歯車32を駆動し、カウンタシャフト30が同期クラッチ40を介して駆動され、出力歯車60がディファレンシャルリング歯車64を駆動するようになる。
摩擦クラッチ14が解放され、またクラッチ16が係合されると、速度比は第2の歯車比に変化する。これに後続して、同期クラッチ40が左にシフトされ第3の速度比が予備選択される。同期クラッチ42と58のスリーブは中立位置に移動され、また同期クラッチ56は左方向の位置に保持される。従って、第2の速度比のためのトルク経路には、クラッチ16、第2の入力シャフト20、入力ピニオン28、歯車48と50、同期クラッチ56、カウンタシャフト44、出力歯車62、ディファレンシャルリング歯車64、ディファレンシャル機構および軸シャフト74、76が含まれる。)

(c)「Further, in the following development, it is assumed that engine torque is held constant while the load is transferred from the first clutch to the second clutch, and the vehicle speed is assumed to be constant during the load transfer from the first clutch to the second clutch.」(第4欄第24?30行)
(また以下の説明において、エンジントルクは一定に保たれており、また荷重は第1のクラッチから第2のクラッチに伝達されるものとする。さらに、荷重が第1のクラッチから第2のクラッチに伝達されている際、車両速度は一定であるものとする。)

(d)図1からみて、第2のカウンターシャフト44の図面左側の最も軸端寄りに第2の前進速度比歯車48が位置している点が見て取れるが、第1のカウンターシャフト30及び第2のカウンターシャフト44の図面右側の端部がデファレンシャル入力歯車64に接続されており、出力部に当たるから、第2のカウンターシャフト44の出力部とは反対側の最も軸端寄りに第2の前進速度比歯車48が位置しているということができる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「車両の自動トランスミッションであって、前記自動トランスミッションは、第1から第6の前進速度比及び一つの逆転駆動速度比を有し、前記自動トランスミッションは、
入力シャフト18、及び入力シャフト20と、
第1のカウンタシャフト30、及び第2のカウンタシャフト44と、
第1の前進速度比歯車32、第3の前進速度比歯車34、第4の前進速度比歯車36、逆転歯車38、逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48を備えた歯車ホイール46、第5の前進速度比歯車52、及び第6の前進速度比歯車54、並びに、これらの歯車と噛合い係合した状態にされ、前記入力シャフト18又は入力シャフト20に固定された、第1の前進速度比ピニオン22、第3・第5の前進速度比ピニオン24、第4・第6の前進速度比ピニオン26、及び第2の前進速度比・逆転駆動ピニオン28を有し、前記第1の前進速度比歯車32、第3の前進速度比歯車34、第4の前進速度比歯車36、逆転歯車38、逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48を備えた歯車ホイール46、第5の前進速度比歯車52、及び第6の前進速度比歯車54は、前記第1のカウンタシャフト30又は第2のカウンタシャフト44の表面で支承されるとともに、同期クラッチ40、42、56又は58によって前記第1のカウンタシャフト30又は第2のカウンタシャフトに駆動連結でき、
前記逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48を備えた歯車ホイール46は第2のカウンタシャフト44に支承され、前記逆転歯車38は第1のカウンタシャフト30に支承されており、
前記逆転歯車38が前記逆転ピニオン50と継続的に噛合い係合した状態にあり、
前記第2のカウンタシャフト44の出力部とは反対側の最も軸端寄りに前記第2の前進速度比歯車48が位置している、
自動トランスミッション。」

(2)刊行物2

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多数の軸、例えば第1と第2の伝動装置入力軸と1つの伝動装置出力軸並びに伝動装置出力軸と伝動装置入力軸との間の多数の歯車対とを有する伝動装置、特に自動車用の伝動装置であって、それぞれ軸の1つを中心として配置され、該軸と回動不能に結合されたそれぞれ1つのルーズ歯車と、該歯車と噛合う、このために協働する軸に回動不能に配置された固定歯車とから、伝動装置出力軸とそれぞれ1つの伝動装置入力軸との間に種々の伝動段が形成されている形式のものに関する。」

(b)「【0094】図2aには図2のダブルクラッチ伝動装置1bに対する変化実施例であるダブルクラッチ伝動装置1b′であって、互いに平行な2つの伝動区分3a、3bから成る伝動装置出力軸と、その間にある平行な伝動装置入力軸2a、2bとを有している、自動車のフロント横方向組込みに特に適したものが示されている。この場合、伝動装置入力軸2bは中空軸として構成され、伝動装置入力軸2aの周囲に配置されている。両方の伝動区分3a、3bは例えば歯車結合を介してディファレンシャル前又はディファレンシャル内で再び合体させられる。この場合、伝動段I-VI、Rの配置は、伝動装置入力軸2aに対し短縮された中空軸2bの上に固定歯車18bと19bとが配置される形式で行われる。この場合、クラッチ5,6をダブルクラッチとして有しているツウマスはずみ車7cに隣り合って配置された固定歯車18bは伝動装置出力軸の伝動区分3aの上の伝動段1のルーズ歯車12bと噛合いかつ逆転歯車22bを間に接続して伝動区分3bの上のバック段Rのルーズ歯車21bと噛合う。固定歯車19bは一方では伝動区分3aの上の伝動段Vのルーズ歯車14bと噛合いかつ伝動区分3aの上に配置された伝動段IIIのルーズ歯車13bと噛合う。
【0095】伝動装置入力軸2aの上には伝動段II、IVとVIとのための固定歯車28bと29bとが配置されている。この場合、ルーズ歯車28b′と29bとは伝動区分3aの上のIVとVIを形成するためにかつルーズ歯車27bは伝動区分3bの上の伝動段IIを形成するためにルーズ歯車14bに隣り合って配置されている。伝動区分3bの出力部3cとは反対側には別の固定歯車3dがあり、この固定歯車3dの回転を阻止する手段で、パーキングロック30bを形成している。伝動段1とIII,IVとIV,RとVはそれぞれ1つのスライドスリーブ24b,25bもしくは29bによって伝動区分3aとルース歯車12b,13b,14b,21b,28b,29bとの間の回動不動な結合を形成するために接続される。・・・(略)・・・。」

上記記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物2には次の技術事項が記載されている。

「伝動装置入力軸2bが中空軸として構成されて伝動装置入力軸2aの周囲に配置された、2つの伝動装置入力軸2a、2bと、2つの伝動区分3a、3bからなる伝動装置出力軸とを有した、種々の伝動段が形成された自動車用の伝動装置において、
2つの伝動区分3a、3bからなる伝動装置出力軸のうちの一つの伝動区分3bの出力部3cとは反対側に固定歯車3dを設け、この固定歯車3dの回転を阻止する手段で、パーキングロック30bを形成する技術。」


第3 対比

本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの機能または作用等からみて、後者の「車両の」は前者の「自動車用の」に相当し、以下同様に、
「第1から第6の前進速度比及び一つの逆転駆動速度比」は「複数個の前進歯車段(1,2,3,4・・・)及び少なくとも1つの後退歯車段(R)」に、
「入力シャフト18、及び入力シャフト20」は「駆動入力シャフト構造(12,14;38)」に、
「第1のカウンタシャフト30、及び第2のカウンタシャフト44」は「出力シャフト構造体(16,18;40)」及び「2本の出力シャフト(16,18)を有する出力シャフト構造体(16,18;40)」に、
「同期クラッチ40、42、56又は58」は「シフトクラッチ(SK)」に、それぞれ相当する。

また、後者の「自動トランスミッション」の第1から第6の前進速度比は連続的に変化するものではなく、段階的に変化するものであるから、後者の「自動トランスミッション」は前者の「段階的可変変速機(10)」に相当する。

前者の「3シャフト構造体」に関し、それを明確に定義付ける記載は特許請求の範囲及び明細書中にはないが、「第2の駆動入力シャフト14は、中空シャフトとして具体化されていて、第1の駆動入力シャフト12に対して同心状に配置され」(段落【0059】)ることによって、全体として3つの軸心線上に駆動入力シャフト構造と出力シャフト構造体が配置される様子が図1等から見て取れる。これに対して、後者も、入力シャフト18はスリーブシャフトとして形成され、入力シャフト18の中を入力シャフト20の通り抜けるようにれており(刊行物1第3欄第1、2行の「Input shaft 18 is a sleeve shaft through which input shaft 20 extends.」との記載参照。)、刊行物1の図1を見ると、入力シャフト20は入力シャフト18と同心状に配置され、全体として3つの軸心線上に、入力シャフト18、入力シャフト20、第1のカウンタシャフト30、及び第2のカウンタシャフト44が配置される様子が見て取れることから、後者の第1のカウンタシャフト30、及び第2のカウンタシャフト44も、前者の前記出力シャフト構造体(16,18)と同様に、「前記出力シャフト構造体(16,18)は、前記駆動入力シャフト構造体(12,14;38)と一緒になって、3シャフト構造体を形成する」という構成を有しているといえる。

後者において、「第1の前進速度比歯車32、第3の前進速度比歯車34、第4の前進速度比歯車36、逆転歯車38、逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48を備えた歯車ホイール46、第5の前進速度比歯車52、及び第6の前進速度比歯車54」は、「前記第1のカウンタシャフト30又は第2のカウンタシャフト44の表面で支承される」ものであり、かつ、「同期クラッチ40、42、56又は58によって前記第1のカウンタシャフト30又は第2のカウンタシャフトに駆動連結でき」るものであるが、同期クラッチによって第1のカウンタシャフト30又は第2のカウンタシャフトに駆動連結されていないときには、第1のカウンタシャフト30又は第2のカウンタシャフトに対して回転自在に支承されることから、後者におけるこれらの歯車等は、前者における「遊び歯車」に相当し、前者における「遊び歯車」と同様、前者の「シャフト構造体に回転自在に取り付けられると共にそれぞれのシフトクラッチ(SK)によって関連の前記シャフト構造体に回転的に固定された状態で連結でき」るという構成を有しているといえる。
また、後者の「第1の前進速度比ピニオン22、第3・第5の前進速度比ピニオン24、第4・第6の前進速度比ピニオン26、及び第2の前進速度比・逆転駆動ピニオン28」は、「入力シャフト18、又は入力シャフト20に固定された」ものであるから、前者の「固定歯車」に相当する。
さらに、後者の「第1の前進速度比歯車32、第3の前進速度比歯車34、第4の前進速度比歯車36、逆転歯車38、逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48を備えた歯車ホイール46、第5の前進速度比歯車52、及び第6の前進速度比歯車54」と「第1の前進速度比ピニオン22、第3・第5の前進速度比ピニオン24、第4・第6の前進速度比ピニオン26、及び第2の前進速度比・逆転駆動ピニオン28」とは「噛合い係合した状態にされ」ることによって、複数個の歯車の組を形成することから、後者も、前者と同じく、「遊び歯車及び固定歯車を含む複数個の歯車列」を有しているといえる。

そして、後者の「前記逆転ピニオン50と第2の前進速度比歯車48を備えた歯車ホイール46は第2のカウンタシャフト44に支承され」るという構成は、前者の「或る特定の前進歯車段(2)は、前記出力シャフト(16,18)のうちの一方の出力シャフト(16)に割り当てられ」るという構成を充足し、後者の「前記逆転歯車38は第1のカウンタシャフト30に支承され」るという構成は、前者の「前記後退歯車段(R)は、他方の出力シャフト(18)に割り当てられ」るという構成を充足する。
また、後者の逆転歯車38は「前記逆転ピニオン50と継続的に噛合い係合した状態にある」が、「逆転ピニオン50」は第2の前進速度比を提供する「第2の前進速度比歯車48」に対して回転的に固定・連結されており、この「第2の前進速度比歯車48」は前者の「遊び車」に相当する歯車ホイール46の一部を構成するのであるから、後者の「逆転歯車38」も、前者の「後退歯車段(R)」と同じく、「前記或る特定の前進歯車段(2)に割り当てられた歯車列の遊び歯車に回転的に固定された状態で連結された歯車(28)を介して駆動され」るという構成を有しているといえる。

そうすると、両者は、
「自動車用の段階的可変変速機であって、前記段階的可変変速機は、複数個の前進歯車段及び少なくとも1つの後退歯車段を有し、前記段階的可変変速機は、
駆動入力シャフト構造体と、
出力シャフト構造体であって、前記出力シャフト構造体は、前記駆動入力シャフト構造体と一緒になって、3シャフト構造体を形成する2本の出力シャフトを有する出力シャフト構造体と、
遊び歯車及び固定歯車を含む複数個の歯車列とを有し、前記遊び歯車は、シャフト構造体に回転自在に取り付けられると共にそれぞれのシフトクラッチによって関連の前記シャフト構造体に回転的に固定された状態で連結でき、
或る特定の前進歯車段は、前記出力シャフトのうちの一方の出力シャフトに割り当てられ、前記後退歯車段は、他方の出力シャフトに割り当てられており、
前記後退歯車段は、前記或る特定の前進歯車段に割り当てられた歯車列の遊び歯車に回転的に固定された状態で連結された歯車を介して駆動された、
段階的可変変速機。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「駐車ロック」を有し、この駐車ロックが、後進歯車段が割り当てられた「前記記出力シャフトのうちの他方」に割り当てられ、かつ、「一方の出力シャフトの前記或る特定の前進歯車段に軸方向に整列する」のに対して、引用発明は、かかる駐車ロックを有するか否か明らかでない点。


第4 判断

刊行物2には、「伝動装置入力軸2bが中空軸として構成されて伝動装置入力軸2aの周囲に配置された、2つの伝動装置入力軸2a、2bと、2つの伝動区分3a、3bからなる伝動装置出力軸とを有した、種々の伝動段が形成された自動車用の伝動装置」が記載されており、そのような伝動装置において、「2つの伝動区分3a、3bからなる伝動装置出力軸のうちの一つの伝動区分3bの出力部3cとは反対側に固定歯車3dを設け、この固定歯車3dの回転を阻止する手段で、パーキングロック30bを形成する技術」、すなわち、2つの出力軸のうちの一つに、その出力部とは反対側に固定歯車及びパーキングロックからなる制動手段を設ける技術が記載されている。

そして、引用発明が記載された刊行物1には、車両の駐車時に車両に制動をかける手段に関する記載はないが、通常、車両には何らかの駐車時の制動手段が設けられるものであり、車両用の変速機の技術分野において、車両の駐車時に車両に制動をかけるための制動手段を変速機に設けることは、ごく普通に行われており、刊行物2記載の「自動車用の伝動装置」と、引用発明である「車両の自動トランスミッション」とは、2つの入力軸と2つの出力軸を有し、その2つの入力軸のうち一方をスリーブ状あるいは中空状にして、他方の入力軸をそのスリーブ状あるいは中空状中空状の入力軸を通り抜けるように配置するという基本的な入出力軸の配置構成が共通するものであるから、当業者であれば、引用発明において、駐車時の制動手段を設けるために、刊行物2に記載された技術事項を適用することは、容易に着想し得たことである。
また、引用発明に刊行物2に記載された技術事項を適用するにあたって、出力軸にあたる第1のカウンタシャフト30と第2のカウンタシャフト44のうち、どちらの軸に制動手段を設けるかについては、歯車のみならず、軸受、センサ、クラッチのアクチュエータなど自動トランスミッションに配置される様々な構成要素の形状、寸法、配置などを加味しつつ、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるから、第1のカウンタシャフト30に制動手段を設けることに、格別な技術的困難性があるとは認められない。
さらに、引用発明に刊行物2に記載された技術事項を適用して、第1のカウンターシャフト30の「出力部とは反対側」に制動手段を設けると、その制動手段は、必然的に、「第2のカウンタシャフト44の出力部とは反対側の最も軸端寄り」に位置している「第2の前進速度比歯車48」と軸方向でみて近い位置に配置されることとなり、制動手段が「第2の前進速度比歯車48」と概ね「軸方向で整列」するようになるといえるし、駐車のための制動手段を他軸に設けた歯車と「軸方向に整列」するように設けることは様々なタイプの変速機における周知技術に過ぎない(例えば、刊行物2の図2aの固定歯車3dとルース歯車29b、特開2001-82561号公報における図1のパーキング用ギヤ31とピニオンギヤ21a、特開2002-227999号公報における図3のパーキングギヤ85とクラッチドラム68a外周上のギヤ、特開2004-217204号公報の段落【0039】の「図8に示した構成では、図面に示した下側の出力軸52の右側の端部に駐車ブレーキ歯車を配置することもできる。」との記載、及び図8の出力軸52の図面右側の端部とギヤ段5参照。)。
したがって、引用発明において、刊行物2に記載された技術事項、及び周知技術を適用して、上記相違点に係る本願発明の構成に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明による効果は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項、及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。


第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-26 
結審通知日 2013-07-01 
審決日 2013-07-17 
出願番号 特願2007-541755(P2007-541755)
審決分類 P 1 8・ 573- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 充  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 冨岡 和人
中屋 裕一郎
発明の名称 自動車用の段階的可変変速機  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松下 満  
代理人 井野 砂里  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  

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