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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04J
管理番号 1282147
審判番号 不服2013-4878  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-13 
確定日 2013-12-17 
事件の表示 特願2011- 15491「選択的チャンネル送信を使用する多重チャンネル通信システムにおける送信のためのデータを処理するための方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日出願公開、特開2011-139485、請求項の数(25)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯と本願発明
本願は、2002年 6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年 6月26日、(US)米国)を国際出願日とする特願2003-507980号の一部を平成23年 1月27日に新たに出願したものであって、平成24年11月 9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年月 3月13日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正の適否
1.新規事項の有無、補正の目的要件
平成25年 3月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成24年 6月 5日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?28のうち、同請求項22、23を削除するとともに、同請求項24に記載された
「 【請求項24】
多重チャンネル通信システムにおける送信機ユニット、該送信機ユニットは下記を具備する:
データ送信に使用するために利用可能な複数の送信チャンネルに関するチャンネル状態情報を受信するように、利用可能な送信チャンネルを1のグループに含める、或いは、2つ以上のグループに分離するように、且つ受信されたチャンネル状態情報に基づいてデータ送信に使用するために各グループにおける1つ以上の利用可能な送信チャンネルであって、各グループにおける全てより少ない送信チャンネルを選択するように、動作するコントローラー、ここにおいて、各グループにおける該送信チャンネルは各グループに関する閾値に基づいて更に選択され、該閾値は、最適化されたスループットを、該グループ中の選択された送信チャンネルに与えられるために選択される;並びに
コントローラーに結合され、及び変調シンボルを与えるための特定の符号化及び変調方式に基づいて各グループに関するデータを受信し、符号化し、変調するように動作し、規定された配分方式に従ってグループにおける1つ以上の選択された送信チャンネルに利用可能な送信パワー全体を分配するように動作し、且つ配分された送信パワーに基づいて決定される符号化及び変調方式で、各選択された送信チャンネルに関する変調シンボルを送信するように動作する、送信データプロセッサ。」
という発明を(以下、「本願発明」という。)を
「 【請求項22】
多重チャンネル通信システムにおける送信機ユニット、該送信機ユニットは、多重送信チャンネル上での送信以前に送信するデータを処理する下記送信データプロセッサ及びコントローラーを具備する、
データ送信に使用するために利用可能な複数の送信チャンネルに関するチャンネル状態情報を受信するように、利用可能な送信チャンネルを1のグループに含める、或いは、2つ以上のグループに分離するように、且つ受信されたチャンネル状態情報に基づいてデータ送信に使用するために各グループにおける1つ以上の利用可能な送信チャンネルであって、各グループにおける全てより少ない送信チャンネルを選択するように、動作するコントローラー、ここにおいて、各グループにおける該送信チャンネルは各グループに関する閾値に基づいて更に選択され、該閾値は、最適化されたスループットを、該グループ中の選択された送信チャンネルに与えられるために選択される;並びに
コントローラーに結合され、及び変調シンボルを与えるための特定の符号化及び変調方式に基づいて各グループに関するデータを受信し、符号化し、変調するように動作し、規定された配分方式に従ってグループにおける1つ以上の選択された送信チャンネルに利用可能な送信パワー全体を分配するように動作し、且つ配分された送信パワーに基づいて決定される符号化及び変調方式で、各選択された送信チャンネルに関する変調シンボルを送信するように動作する、送信データプロセッサ。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正するものである。(当審注:アンダーラインは補正箇所を示す。)
当該補正は、「送信機ユニット」が「具備する」「送信データプロセッサ」と「コントローラー」は、「多重送信チャンネル上での送信以前に送信するデータを処理する」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(補正の目的)の規定に適合している。

2.独立特許要件
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて、以下検討する。

[補正後の発明]
上記「1.新規事項の有無、補正の目的要件」の項で「補正後の発明」として認定したとおりのものである。

[引用発明]
(1)これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開平11-317723号公報(以下、「引用例1」という。)には、「離散マルチ・トーン通信システムにおいてデータおよびパワーを割り当てる方法」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般的に、通信システムに関し、更に特定すれば、離散マルチ・トーン・システム(discrete multi-tone communication system)を構成する方法に関するものである。」(2頁1欄)

ロ.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】典型的なDMTシステムでは、その消費パワーの概ね半分以上が、回線ドライバによって消費される。パワー増大に伴う熱の問題に加えて、隣接する電話回線からのクロストークが回線ノイズ・レベルを40dBにも高める可能性があるという、更に別の問題がある。したがって、DMTシステムのパワー消費を最適化し、隣接するツイストペアワイヤ間のクロストークを減少させることができれば有利であろう。」(3頁3欄)

ハ.「【0007】
【発明の実施の形態】図1は、ADSLシステム10を示す。ADSLシステム10は、遠隔端末20,およびツイストペア伝送媒体によって接続されている電話局(central office)30を備える。遠隔端末20および電話局30は、各々、システム・コントローラ22,34をそれぞれ備えている。加えて、遠隔端末20および電話局30は、それぞれ、送受信機24,32を備えている。ADSLシステム10は、本発明を実施することができる。動作の間、電話局30は、伝送媒体15を通じて、下流データを遠隔端末20に送信する。データは、遠隔端末20の送受信機24によって受信され、送受信機24は受信データをシステム・コントローラ22に供給し、更に処理を進める。同様に、上流信号も遠隔端末20から伝送媒体15を通じて送信され、電話局の送受信機32によって受信され、送受信機32はシステム・コントローラ34にデータを供給する。」(3頁3欄)

ニ.「【0022】チャネル分析ステップからのSNR値に基づいて、ステップ602において、当該チャネルに関連するどのビンが良好なビンかについて判定を行う。良好なビンとは、最少量のデータを送信可能な、予め規定されたSNRを満足するビンと定義する。例えば、表2のSNR基準(SNRref)値は、ビンに2ビットのデータを割り当て、かつ特定のBERを維持するためには、ビンは少なくとも14のSNRを有する必要があることを示す。SNRが14未満のチャネルがある場合、最小数のビットを送信するものの、表のBERを維持することができないチャネルであることを示す。通常、ビンが予め規定されたBERを満たしつつ、最少量のデータを送信可能であれば、良好なビンとして定義される。
【0023】次に、ステップ603において、チャネル内の劣悪なビンを全て識別する。劣悪なビンとは、予め規定された性能基準を満たすことができないビンのことである。一実施例では、特定のキャリアについて、予め規定されたBERの範囲内でデータを送信できないと判定された場合、劣悪なビンとして識別される。通常、この識別を得るには、特定のチャネルのSNRを、最少値の送信量のSNRrefと比較し、指定された基準が満たされるか否かについて判定を行う。例えば、SNRからSNRrefを減じて-5以下となるキャリアを全て、劣悪なビンとするという基準が考えられる。したがって、図2の表を用いる場合、SNRが9以下である全てのチャネルが、劣悪なビンとして分類されることになる。通常、劣悪なビンには、データを全く割り当てることができない。
【0024】次に、ステップ604において、マージナル・ビン(marginal bin)のセットを識別する。マージナル・ビンのサブセットとは、以前に良好なビンとも劣悪なビンとも判定されていないビンと定義する。前述の例では、マージナル・ビンは、9ないし14のSNR値を有する。その理由は、SNRが14以上のキャリアは良好なキャリアであり、SNRが9以下のキャリアは劣悪なビンとするからである。マージナル・ビンには、他の定義も同様に使用可能である。例えば、5ビットを搬送できないビンを全てマージナル・ビンとして定義したり、あるいはSNRref値間の間隔に基づいて定義することが望ましい場合もある。
【0025】次に、ステップ605において、劣悪なビンに割り当てた送信パワーを削減する。固定量だけパワーを削減したり、あるいは倍率に基づいてパワーを削減することができる。劣悪なビンの送信パワーを固定量だけ削減させる一例としては、フィルタ応答を変化させ、劣悪なビンを減衰させることであう。倍率によって劣悪なビンのパワーを削減させる一例は、その周波数領域におけるキャリアに0.10を乗算することであろう。劣悪なビンに関連する送信パワーを削減することにより、データが送信される可能性がない場合、使用パワーが減少する。これは、全てのビン上で送信パワーを維持することを指定する、またはマージナル・ビン上では少量のデータを送信することを提案する従来技術の方法に対する利点である。
【0026】次に、ステップ606において、マージナル・ビン上のパワーを増大させる。通常、劣悪なビンのパワーを削減することによって得られる量だけ、マージナル・ビンのパワーを増大させることにより、システム全体のパワーには変化を生じさせない。一実施例では、得られるパワーは、全てのマージナル・ビンに均等に与えるように使用する。他の例では、得られるパワーは、各ビンのSNRに基づいて、いずれかのマージナル・ビンに割り当てることも可能である。更に別の実施例では、割り当てられるパワーに対して最大のビット容量増加を得ることができるマージナル・ビンに、得られたパワーを追加する。」(4頁6欄?5頁8欄)

上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野の技術常識を考慮すると、上記イ.及びハ.【0022】の記載から、引用例1において、1つの搬送波(キャリア又はトーン)を指す「ビン」は、通信「チャネル」といえるので、引用例1には、多重チャネル通信システムに関して、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「多重チャネル通信システムにおける送受信機及びシステムコントローラであって、
SNR基準に基づいて、予め規定された性能基準を満たすことのできない通信チャネルを選択し、
当該選択された通信チャネルに割り当てた送信パワーを削減し、
所定の性能基準内の通信チャネルが、最大のビット容量増加が得られるように前記削減したパワーを割り当て、
データを送信する。」

(2)同じく、原査定の拒絶理由に引用された特開平11-55210号公報(以下、「引用例2」という。)には、「マルチキャリア信号伝送方法および装置」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のサブキャリアを用い、狭帯域化した信号に変換して伝送するものであり、特に複数のサブキャリアの中から伝送状態の良好な複数のサブキャリアを選択して用いるサブキャリア信号伝送方法および装置に関する。なお、本発明のサブキャリア信号伝送方法および装置は、特に大容量の多値変調方式に対して有効である。」(2頁2欄)

ロ.「【0015】ここで、図2に示すように、全サブキャリア数をN、各グループ内のサブキャリア数をMとする。また、各グループのサブキャリア間の周波数間隔が最大になるようにグループ化する。その目的は、移動通信伝搬環境における遅延波(反射波)の遅延量とサブキャリアの周波数間隔との間に図4に示すような相関関係があるので、サブキャリア間の相関が小さくなるようにサブキャリア間の周波数間隔を大きくし、サブキャリアの選択送信による効果を高めるためである。
【0016】受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51は、グループ毎使用サブキャリア指定手段91から送信側に送出したグループ毎指定サブキャリア情報信号K1に基づき、サブキャリア信号E1からN/M個のグループごとにL波ずつ受信するサブキャリア信号を選択する。
【0017】グループ毎使用サブキャリア指定手段91は、サブキャリア信号品質測定手段80の測定結果情報J1に基づいて、M波のサブキャリアからなる各グループごとにL波のサブキャリアを信号伝送用として指定し、そのグループ毎指定サブキャリア情報信号K1を送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21および受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51に送出する。
【0018】図3は、グループ毎使用サブキャリア指定手段91および送信側グループ毎サブキャリア選択手段21の動作例を示す。ここでは、全サブキャリア数Nが12、各グループ内のサブキャリア数Mが4、グループ数N/Mが3、グループごとに選択するサブキャリア数Lが2の場合を示す。図中、カッコ内の表記は(グループ番号,グループ内サブキャリア番号)であり、(1,1)?(3,4)の12のサブキャリアがあり、サブキャリア信号品質測定手段80でそれぞれの受信電力が測定される。
【0019】グループ毎使用サブキャリア指定手段91は、各グループごとにサブキャリアの受信電力の大きい方から2つのサブキャリアを指定する。ここでは、(1,1)、(1,2)、(2,2)、(2,3)、(3,1)、(3,3)のサブキャリアが指定される。送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21では、この指定されたサブキャリアを選択してパラレル信号B1の送信に用いる。受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51でも同様に、サブキャリア信号E1から指定されたサブキャリア信号を選択する。」(3頁4欄?4頁5欄)

(3)同じく、原査定の拒絶理由に引用された特開2000-358008号公報(以下、「引用例3」という。)には、「通信装置および通信方法」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のトーンにデータを割り当ててデータ通信を行うDMT(Discrete MultiTone)変復調方式等のマルチキャリア変復調方式によりデータ通信を行うようにした通信装置および通信方法に関するものである。」(2頁1欄)

ロ.「【0009】この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、複数のキャリア(トーン)にデータを割り当ててデータ通信を行うマルチキャリア変復調方式により通信を行う場合に、各キャリアに対して送信電力を効率良く使用して送信電力当りの伝送効率を向上させることのできる通信装置及び通信方法を提供することを目的とする。」(3頁3欄)

ハ.「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明に係る通信装置は、複数のトーンにデータを割り当ててデータ通信を行う通信装置において、各トーンにおいて所定の整数値のビット数を送信するのに必要な送信電力を算出する送信電力算出手段と、この送信電力算出手段により算出された算出結果に基づいて各トーンに配分する送信電力の平均送信電力が一定となるように送信電力を各トーンに再配分する送信電力再配分手段とを備えるものである。
【0011】また、前記送信電力再配分手段は、各トーンに配分する送信電力の平均送信電力が一定となるように所定の制限範囲内の送信電力値で送信電力を各トーンに再配分するものである。
【0012】また、前記送信電力算出手段は、割当てビット数が制限されている場合、この制限範囲内の整数値のビット数を送信するのに必要な送信電力を算出するものである。
【0013】また、前記送信電力算出手段は、各トーンにおいて前記所定のビット数に1ビット加算するのに必要な追加送信電力を算出するとともに、前記送信電力再配分手段は、前記追加送信電力の昇順に送信電力を各トーンに再配分するものである。」(3頁3?4欄)

ニ.「【0014】本発明に係る通信方法は、複数のトーンにデータを割り当ててデータ通信を行う通信方法において、割当てビット数が制限されている場合、各トーンにおいてこの制限範囲内の整数値のビット数を送信するのに必要な送信電力を算出し、この算出された算出結果に基づいて各トーンに配分する送信電力の平均送信電力が一定となるように所定の制限範囲内の送信電力値で送信電力を各トーンに再配分するものである。
【0015】また、必要な送信電力を算出し、送信電力を各トーンに再配分する際に、送信電力を所定の制限範囲の下限値にした場合に割り当てビット数を制限範囲内の上限の整数値以上割り当て可能なトーンは、そのトーンの送信電力を所定の制限範囲の下限値にするとともに、送信電力を下限値にしたことによって平均送信電力に対して余った余剰送信電力を他のトーンに再配分するものである。
【0016】また、必要な送信電力を算出し、送信電力を各トーンに再配分する際に、送信電力を所定の制限範囲の上限値にした場合に割り当てビット数が制限範囲内の下限の整数値未満となるトーンは、そのトーンの送信電力を所定の制限範囲の下限値にするとともに、送信電力を下限値にしたことによって平均送信電力に対して余った余剰送信電力を他のトーンに再配分するものである。
【0017】また、必要な送信電力を算出し、送信電力を各トーンに再配分する際に、送信電力を所定の制限範囲の上限値にした場合に割り当てビット数が0ビットとなるトーンは、そのトーンの送信電力を所定の制限範囲の下限値にするとともに、送信電力を下限値にしたことによって平均送信電力に対して余った余剰送信電力を他のトーンに再配分するものである。
【0018】また、必要な送信電力を算出し、送信電力を各トーンに再配分する際に、ビット数の割り当てに使用されていないトーンがある場合、そのトーンの送信電力を所定の制限範囲の下限値にするとともに、送信電力を下限値にしたことによって平均送信電力に対して余った余剰送信電力を他のトーンに再配分するものである。
【0019】また、必要な送信電力を算出し、送信電力を各トーンに再配分する際に、送信電力が所定の制限範囲内の上限値を超えない限り、各トーンにおいて前記所定のビット数に1ビットずつ加算するのに必要な追加送信電力を算出するとともに、1ビット加算する前記追加送信電力の昇順に余剰送信電力を各トーンに再配分し、次に1ビット加算する追加送信電力の昇順に余剰送信電力を各トーンに再配分し、これを繰返すものである。」(3頁4欄?4頁5欄)

(4)同じく、原査定の拒絶理由に引用されたMotorola、「Details of high downlink packet access」、RP-000126、2000年 3月13-15日(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「In cellular communication systems, the quality of a signal received by a subscriber device depends on distance from the desired and interfering base stations, path loss, log-normal shadowing, short term Rayleigh fading etc. In order to improve system capacity, peak data rate and coverage reliability, the signal transmitted to and by a particular user should be modified to account for the signal quality variation. The process of modifying the transmitted signal to compensate for signal variations is known as link adaptation. Two known link adaptation techniques are fast power control and adaptive modulation and coding (AMCS).・・・(中略)・・・」(1頁)
(当審仮訳(以下同様。):セルラー通信システムでは、加入者装置で受信される信号の質は、目標とする、及び、干渉する基地局との距離、経路損失、対数正規シャドウイング、短時間レイリーフェージング等による。システムの容量、ピークデータ率、及び、カバレッジの信頼度を改善するために、特定のユーザーへ、及び、特定のユーザーによって送信される信号は、信号品質の変動のために変更されるべきである。信号の変動を補償するために送信される信号を変更する方法は、リンクアダプテーションとして知られている。2つのリンクアダプテーションは、瞬時パワー制御と適応変調及び符号化(AMCS)である。・・・(中略)・・・)

ロ.「

The AMCS will be applied to a special mode of DSCH. It will select the MCS based on channel conditions (C/I measurements) reported by the UE or computed at the Node-B. The DSCH will be modified so that it can use up to sixteen multicodes per user with a fixed spreading factor of 32. The power control for DSCH needs to be disabled in this special mode since AMCS is used to increase the modulation and coding level to match available power.」(2頁)
( 表1.MCSレベル(表の中身の訳は省略。)
AMCSはDSCHの特別なモードに適用される。それは、UEによって報告された、又は、ノードBで計算されたチャネル状態に基づいて、MCSを選択する。DSCHは、32の固定された拡散要素で、ユーザ当たり16マルチコードまで利用できるように変更される。利用可能な電力にマッチするよう変調及び符号化レベルを上げるために、AMCSが利用されるので、DSCHに対する電力制御は、この特別なモードにおいて、利用できなくする必要がある。)

[対比]
補正後の発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「送受信機及びシステムコントローラ」は、補正後の発明の「送信機ユニット」に相当し、引用発明の「通信チャネル」、「SNR基準」は、補正後の発明の「送信チャネル」、「閾値」に相当する。
また、引用発明の「当該選択された通信チャネルに割り当てた送信パワーを削減し、所定の性能基準内の通信チャネルが、最大のビット容量増加が得られるように前記削減したパワーを割り当て」と補正後の発明の「規定された配分方式に従ってグループにおける1つ以上の選択された送信チャンネルに利用可能な送信パワー全体を分配する」とは、いずれも「規定された配分方式に従って選択された送信チャンネルに送信パワーを分配する」という点で一致する。
さらに、引用発明の「データを送信する」は、補正後の発明の「各選択された送信チャンネルに関する変調シンボルを送信するように動作する」と実質的な差異はない。
したがって、補正後の発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
<一致点>
「多重チャネル通信システムにおける送信機ユニット、該送信機ユニットは、
閾値に基づいて通信チャネルを選択し、
規定された配分方式に従って選択された送信チャンネルに送信パワーを分配するよう動作し、
各選択された送信チャンネルに関する変調シンボルを送信するように動作する。」

<相違点>
(1)補正後の発明は、「データ送信に使用するために利用可能な複数の送信チャンネルに関するチャンネル状態情報を受信するように、利用可能な送信チャンネルを1のグループに含める、或いは、2つ以上のグループに分離するように、且つ受信されたチャンネル状態情報に基づいてデータ送信に使用するために各グループにおける1つ以上の利用可能な送信チャンネルであって、各グループにおける全てより少ない送信チャンネルを選択するように、動作する」のに対し、引用発明は、当該構成を有していない点。
(2)上記「閾値に基づいて通信チャネルを選択し」に関し、補正後の発明は、「各グループにおける該送信チャンネルは各グループに関する閾値に基づいて更に選択され、該閾値は、最適化されたスループットを、該グループ中の選択された送信チャンネルに与えられるために選択される」のに対し、引用発明は、「SNR基準に基づいて、予め規定された性能基準を満たすことのできない通信チャネルを選択」する点。
(3)上記「規定された配分方式に従って選択された送信チャンネルに送信パワーを分配するよう動作」に関し、補正後の発明は、「規定された配分方式に従ってグループにおける1つ以上の選択された送信チャンネルに利用可能な送信パワー全体を分配するように動作」するのに対し、引用発明は、「所定の性能基準内の通信チャネルが、最大のビット容量増加が得られるように前記削減したパワーを割り当て」る点。
(4)上記「各選択された送信チャンネルに関する変調シンボルを送信するように動作する」に関し、補正後の発明は、「変調シンボルを与えるための特定の符号化及び変調方式に基づいて各グループに関するデータを受信し、符号化し、変調するように動作し」、「配分された送信パワーに基づいて決定される符号化及び変調方式で、各選択された送信チャンネルに関する変調シンボルを送信するように動作する」のに対し、引用発明は、当該構成を有するのか否か不明である点。
(5)上記「送信機ユニット」に関し、補正後の発明は、「送信データプロセッサ及びコントローラー」を具備し、当該「コントローラー」が上記(1)(2)に係る動作を行い、同「送信データプロセッサ」が上記(3)(4)に係る動作を行うのに対し、引用発明は、当該構成を有していない点。

[判断]
上記相違点について検討すると、上記相違点(2)に係る補正後の発明の構成は、上記[引用発明]の(2)?(4)に記載した引用例2?4にも記載されておらず、また、引用例2?4に記載された事項から想到し得るものともいえない。
したがって、他の相違点(1)、(3)?(5)を検討するまでもなく、補正後の発明は、引用発明及び引用例2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたとはいえない。
そして、補正後の発明が、当業者が容易に発明することができたとはいえない以上、補正後の発明である請求項22を引用する請求項23?25に係る発明も、同様に、当業者が容易に発明することができたとはいえない。

よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.むすび
本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項、及び平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項、並びに平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定に適合する。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記の通り、適法なものであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1?25に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのもである。
特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】
(a1) 多重チャンネル通信システムにおける多重送信チャンネル上で送信するデータを処理するための方法、該方法は下記を具備する:
(a2) データ送信に利用可能な複数の送信チャンネルの特性を推定する;
(a3) 複数の送信チャンネルを1のグループに含める、或いは、2以上のグループに分離する;並びに
(a4) 各グループの送信チャンネルについて、
(a4-1)推定されたチャンネル特性に基づいてデータ送信に使用する1つ
以上であって、全てより、少ない送信チャンネルを選択する、ここにおいて、各グループにおける該送信チャンネルは各グループに関する閾値に基づいて更に選択され、該閾値は、最適化されたスループットを、該グループ中の選択された送信チャンネルに与えられるために選択される、
(a4-2)規定された配分方式に従って1以上の選択された送信チャンネルに利用可能な送信パワー全体を配分し、
(a4-3)1以上の選択された送信チャンネルに関するデータを符号化し且
つ変調し、及び
(a4-4)配分された送信パワーに基づいて決定される符号化及び変調方式
で各選択された送信チャンネルに関する符号化され且つ変調された
データを送信する。」

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.2.独立特許要件」の項中の[引用発明]の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
上記請求項1に係る発明の「各グループにおける該送信チャンネルは各グループに関する閾値に基づいて更に選択され、該閾値は、最適化されたスループットを、該グループ中の選択された送信チャンネルに与えられるために選択される」は、上記相違点(2)に係る補正後の発明の構成と同一のものであるから、上記「第2.2.独立特許要件」の項で検討したのと同様に、上記請求項1に係る発明は、上記引用発明及び引用例2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたとはいえない。
そして、請求項1に係る発明が、当業者が容易に発明することができたとはいえない以上、請求項1を引用する請求項2?21に係る発明も、同様に、当業者が容易に発明することができたとはいえない。
また、請求項22?25に係る発明については、「第2.2.独立特許要件」の項で検討したとおりである。

したがって、本願の特許請求の範囲の請求項1?25に係る発明は、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-04 
出願番号 特願2011-15491(P2011-15491)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04J)
P 1 8・ 575- WY (H04J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 太田 龍一高野 洋  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 新川 圭二
山中 実
発明の名称 選択的チャンネル送信を使用する多重チャンネル通信システムにおける送信のためのデータを処理するための方法及びシステム  
代理人 砂川 克  
代理人 岡田 貴志  
代理人 白根 俊郎  
代理人 井関 守三  
代理人 井上 正  
代理人 佐藤 立志  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 直樹  
代理人 竹内 将訓  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 中村 誠  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  

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