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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C08L
管理番号 1282148
審判番号 不服2013-1883  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-01 
確定日 2013-12-24 
事件の表示 特願2008-278557「樹脂組成物、プリプレグ、積層板、多層プリント配線板、及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月13日出願公開、特開2010-106125、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年10月29日を出願日とする特許出願であって、平成24年5月14日付けで拒絶理由が通知され、同年7月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年2月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月4日付けで前置報告がなされ、当審において、同年6月3日付けで審尋がなされ、同年7月30日に回答書が提出され、同年9月20日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日に意見書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成25年2月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「略立方体状のベーマイトを必須成分とする樹脂組成物であって、前記略立方体状のベーマイトの含有量が、前記樹脂組成物全体の10重量%以上70重量%以下であり、かつ、シアネート樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成24年5月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2の概要はそれぞれ、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(理由1)、あるいは、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由2)、というものである。



引用文献1:特開2005-162912号公報(以下、「引用文献A」という)

第4.原査定の拒絶の理由の妥当性について
1.理由1について
(1)引用文献の記載事項
引用文献Aには、以下の記載が認められる。

(摘示Aア)
「【請求項1】
ベース樹脂(A)と、組成式Al_(2)O_(3)・nH_(2)O(式中、0<n<3)で表されるアルミナ水和物(B)と、難燃助剤(C)とで構成された難燃性樹脂組成物。
・・・
【請求項3】
アルミナ水和物(B)がベーマイト又は水酸化アルミニウム複合化ベーマイトである請求項1記載の組成物。
・・・
【請求項9】
アルミナ水和物(B)の割合が、ベース樹脂(A)100重量部に対して1?50重量部であり、アルミナ水和物(B)と難燃助剤(C)との割合(重量比)が、アルミナ水和物(B)/難燃助剤(C)=98/2?2/98である請求項1記載の組成物。」(特許請求の範囲、請求項1、3、9)

(摘示Aイ)
「従って、本発明の目的は、非ハロゲン系難燃剤であっても、加工安定性を損なうことなく、高い難燃性を有する難燃性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、少量の難燃剤であっても、高いレベルで難燃化された難燃性樹脂組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、樹脂の特性を低下させることなく、難燃性が改善された成形体を提供することにある。」(段落【0006】?【0008】)

(摘示Aウ)
「ベース樹脂(A)としては、特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。」(段落【0013】)

(摘示Aエ)
「また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、熱硬化性ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。」(段落【0047】)

(摘示Aオ)
「アルミナ水和物の形状は、特に制限されず、粉粒状(球状、楕円球状、直方体や長方体などの四方体状、多角形の方体状、円柱状など)や針状、板状(円盤状、楕円盤状、四角板状や六角板状などの多角板状、鱗片状などの不定形板状など)などであってもよい。」(段落【0053】)

(摘示Aカ)
「また、ベーマイトの市販品としては、例えば、河合石灰工業(株)の商品名「セラシュール」シリーズ[例えば、BMB、BMT、BMB(33)、BMT(33)、BMM、BMF、BMIなど]・・・などが挙げられる。」(段落【0059】)

(摘示Aキ)
「形成された成形体は、難燃性および成形加工性に優れているため、種々の用途に使用できる。例えば、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品、包装材料やケースなどに好適に用いることができる。」(段落【0173】)

(2)引用文献に記載された発明
引用文献Aには、摘示Aアの記載からみて、「ベース樹脂と、ベーマイトと、難燃助剤とで構成された難燃性樹脂組成物であって、ベーマイトの割合が、ベース樹脂100重量部に対して1?50重量部であり、ベーマイトと難燃助剤との割合(重量比)が、ベーマイト/難燃助剤=98/2?2/98である、難燃性樹脂組成物」が記載されている。
そして、アルミナ水和物については、摘示Aカからみて、「ベーマイトの市販品としては、例えば、河合石灰工業(株)の商品名「セラシュール」シリーズBMBが挙げられる」ことが記載されている。また、ベース樹脂については、摘示Aウから、「熱硬化性樹脂」が使用できることが記載されている。

したがって、引用文献Aには、
「熱硬化性樹脂と、ベーマイトBMBと、難燃助剤とで構成された難燃性樹脂組成物であって、ベーマイトの割合が、熱硬化性樹脂100重量部に対して1?50重量部であり、ベーマイトと難燃助剤との割合(重量比)が、ベーマイト/難燃助剤=98/2?2/98である、難燃性樹脂組成物」
なる発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
本願発明と引用発明Aとを対比すると引用発明Aにおける「ベーマイトの割合が、熱硬化性樹脂100重量部に対して1?50重量部であり、ベーマイトと難燃助剤との割合(重量比)が、ベーマイト/難燃助剤=98/2?2/98」である配合割合は、本願発明における「略立方体状のベーマイトの含有量が、前記樹脂組成物全体の10重量%以上70重量%以下」である配合割合と重複一致している。

したがって、両発明は、
「ベーマイトを必須成分とする樹脂組成物であって、前記ベーマイトの含有量が、前記樹脂組成物全体の10重量%以上70重量%以下であり、かつ、熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点(1)
ベーマイトについて、本願発明においては、「略立方体状のベーマイト」であるのに対し、引用発明Aにおいては、「ベーマイトBMB」である点

相違点(2)
熱硬化性樹脂について、本願発明においては、「シアネート樹脂」であるのに対し、引用発明Aにおいては、熱硬化性樹脂について格別特定していない点

(4)相違点についての検討
上記相違点(1)について検討するに、引用文献Aには、ベーマイトBMBの形状について特段記載されていない。しかしながら、当該ベーマイトBMBの入手先である河合石灰工業株式会社のHP(http://www.kawai-lime.co.jp/products/filler.html)には、ベーマイトBMBに相当する「セラシュールBMB」はアスペクト比1.5?2、0の粒状ベーマイトであることが開示されていることから、当該ベーマイトBMBは少なくとも一面が正方形ではない粒状体であるといえる。
これに対し、本願発明の「略立方体状」について、本願明細書等には、「前記略立方体状とは、立方体状のもの、及びそれらの近似形状をいう。前記略立方体状は、例えば、各辺の長さがほぼ等しい「さいころ状」のものなどが相当する」(段落【0012】)旨記載されている。これに関して、請求人は平成25年7月30日提出の回答書において、「本発明における「略立方体状」について、以下の通りご説明いたします。立方体とは、『さいころのように、六つの合同な正方形で囲まれる立体。正六面体。』(大辞泉より)を指します。・・・河合石灰工業製のBMBは、アスペクト比が1.5?2であると記載されています。・・・当業者であれば、アスペクト比が1.5?2である場合、一面を正方形とは認識せず、このため略立方体とは認識しないと思料いたします。」(第5頁第13?22行)旨主張している。
してみれば、引用発明Aの「ベーマイトBMB」は、本願発明における「略立方体状」と解することはできず、上記相違点(1)は実質的なものといわざるをえない。

次に、相違点(2)について検討するに、引用文献Aには、摘示Aエから、「熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、熱硬化性ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる」旨記載されており、「シアネート樹脂」について明示されておらず、本願明細書等の他の記載を参酌しても、「シアネート樹脂」が記載されているに等しいものとはいえない。してみれば、引用発明Aの「熱硬化性樹脂」は、本願発明における「シアネート樹脂」と解することはできず、上記相違点(2)は実質的なものとはいわざるをえない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献Aに記載された発明であるということはできない。

2.理由2について
本願発明と引用発明Aは、上記1.(3)で検討したとおり、相違点(1)、(2)で相違するものと認められるところ、これら相違点について検討する。

相違点(1)について検討するに、本願発明は、「略立方体状」のベーマイトを必須成分として含むことにより、「樹脂組成物中への高充填化が可能となり、また積層板の寸法安定性も向上する」(段落【0012】)ことから、「多層プリント配線板の絶縁層に使用した場合に、・・・成形性を備えた信頼性の高い多層プリント配線板を製造することができる樹脂組成物・・・を提供する」(段落【0007】)という本願発明の課題を解決するものである。そして、「略立方体状」のベーマイトを採用することによって得られる効果として、本願明細書等の実施例において、略立方体状のベーマイト(実施例1)とシアネート樹脂を含有する樹脂組成物から得られた多層プリント配線板が、板状のベーマイト(比較例1)又は針状のベーマイト(比較例2)を含有する樹脂組成物から得られたものと比較して、回路埋め込み性について良好な結果が得られたことが記載されている。これに関して、請求人が平成25年11月8日に提出した意見書に添付された実験成績証明書において、ベーマイトBMBとシアネート樹脂を含有する樹脂組成物から得られた多層プリント配線板についても、回路埋め込み性が「埋め込み不良有り」という結果が示されている。
これに対し、引用文献Aには、「アルミナ水和物の形状は、特に制限されず、粉粒状(球状、楕円球状、直方体や長方体などの四方体状、多角形の方体状、円柱状など)や針状、板状(円盤状、楕円盤状、四角板状や六角板状などの多角板状、鱗片状などの不定形板状など)などであってもよい」(摘示Aオ)ことが記載されており、ベーマイトとして略立方体状のものを採用する動機付けについて記載も示唆もない。また、引用文献Aに記載された発明は、アルミナ水和物と難燃助剤とを添加することにより、「非ハロゲン系難燃剤であっても、加工安定性を損なうことなく高い難燃性を有する難燃性樹脂組成物を提供する」(摘示Aイ)という課題を解決するものであって、この点からもベーマイトとして「略立方体状」のものを採用する動機付けがあるとはいえない。さらに、本願発明の課題とその解決手段との関係が本願出願時における当業者の技術常識であると認めるに足りる証拠は見当たらない。
してみれば、引用発明Aにおける「ベーマイトBMB」に代えて「略立方体状のベーマイト」を採用することは想到容易であるということはできない。

また、相違点(2)について検討するに、本願明細書等の記載からみて、シアネート樹脂は、プリント配線板材料に使用される熱硬化性樹脂の具体例の一つとして実施例3?5において用いられている(段落【0068】)。これに対し、引用文献Aには、「熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、熱硬化性ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる」(摘示Aエ)ことが記載されており、熱硬化性樹脂としてシアネート樹脂を採用する動機付けについて何ら記載も示唆もない。また、引用文献Aに記載された発明は、「難燃性および成形加工性に優れているため、種々の用途に使用できる。例えば、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品、包装材料やケースなどに好適に用いることができる。」(摘示Aキ)とその用途は広範なものであり、プリント配線板材料の用途に使用すること、そして、当該用途に好適な熱硬化性樹脂の一つであるシアネート樹脂を採用することの動機付けがあるとはいえない。
してみれば、引用発明Aにおける「熱硬化性樹脂」として「シアネート樹脂」を採用することは想到容易であるということはできない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献Aに記載された発明を主たる引用発明として、当該引用発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

第5.当審における拒絶の理由について
1.当審における拒絶の理由の概要
当審における平成25年9月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



引用文献1:特開2007-277334号公報
引用文献2:特開2008-63832号公報

2.当審における拒絶の理由の妥当性について
(1)引用文献の記載事項
引用文献1には、以下の記載が認められる。

(摘示1ア)
「【請求項1】
無機充填剤としてベーマイトを含有し、かつベーマイト以外の金属水酸化物と含ハロゲン化物を含有しない熱硬化性樹脂組成物を、基材に含浸または塗布し乾燥してなるプリプレグ。
・・・
【請求項3】
熱硬化性樹脂が、シアン酸エステル樹脂(a)またはエポキシ樹脂(b)を含有する請求項1または2記載のプリプレグ。
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のプリプレグと金属箔を組み合わせ、硬化して得られる金属箔張積層板。
【請求項7】
請求項6記載の金属箔張積層板を使用し、炭酸ガスレーザーによる微細穴加工工程を経て、回路を形成して得られるプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のプリント配線板の製造方法から得られるプリント配線板。」(特許請求の範囲、請求項1、3、6?8)

(摘示1イ)
「本発明のプリプレグから得られる金属箔張積層板は、ハロゲン化物を含有することなく、耐燃性に優れる上、炭酸ガスレーザー加工穴形状が良好であり、これから得られるプリント配線板は、環境に配慮した材料であり、かつ電子機器の高密度化や高集積化に寄与するプリント配線板として好適に使用されるものである。」(段落【0007】)

(摘示1ウ)
「本発明で使用される熱硬化性樹脂組成物は、無機充填剤としてベーマイトを含有し、かつベーマイト以外の金属水酸化物と含ハロゲン化物を含有しない熱硬化性樹脂組成物である。ここで使用されるベーマイトとは、酸化アルミニウムの1水和物であり、工業的に製造され、無機充填剤として使用されるものであれば、特に限定されない。具体的にはオートクレーブ中で、水酸化アルミニウムを、通常150℃以上300℃以下で、水熱処理させ、酸化アルミニウムの1水和物として再結晶させたものなどが例示される。ベーマイト粒子の形状としては、針状、板状、直方体状など種々の形状のものから選択でき、2種以上の形状のものを組み合わせることも可能である。ベーマイトの平均粒子径としては、0.1?10μmのものが好ましく、0.5?5μmのものがより好適であり、粒度分布や平均粒子径を変化させたものを適宜組み合わせて使用することも可能である。ベーマイトの含有量は、樹脂組成物中の無機充填剤に対して25重量%以上であり、好ましくは40?95重量%、より好ましくは55?90重量%である。また樹脂組成物中の固形分に対しては20?70重量%が好適である。ベーマイトの含有量が上記範囲よりも少ない場合には、耐燃性が低下する問題が生じる。」(段落【0008】)

(摘示1エ)
「(実施例1)
2, 2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン20部を150℃で溶融し、撹拌しながら6時間反応させ、プレポリマー(重量平均分子量2,100)を得た。これをメチルエチルケトンに溶解した後、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミジフェニル)メタン(BMI-70、ケイ・アイ化成製)40部とビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC-3000-H、日本化薬製)40部をメチルエチルケトンで溶解・混合し、更に、ベーマイト(BMB、平均粒子径2μm、河合石灰工業製)90部、焼成タルク(BST、平均粒子径4μm、日本タルク製)20部、オクチル酸亜鉛(ニッカオクチックス、日本合成化学製)0.01部を混合し、ワニスを得た。このワニスを厚さ0.05mmのEガラスクロス(1084、旭シュエーベル製)に含浸させ、170℃で8分間乾燥させて、樹脂含有量50wt%のプリプレグを得た。このプリプレグを4枚重ね、その上下に厚さ12μmの電解銅箔を配し、圧力3MPa、温度220℃で120分間加圧成形し、絶縁層厚み0.2mmの銅張積層板を得た。この銅張積層板上に炭酸ガスレーザー穴明け用補助シート(LSE30:ポリエチレングリコールに酸化銅粉を混合した厚さ70μmのPETフィルム複合樹脂シート、三菱ガス化学製)を貼り付け、その上から炭酸ガスレーザー穴明け機(松下電器製HCS-03)を用いて、スポット径100μm、エネルギー合計116mJの炭酸ガスレーザーを照射することにより、微細スルーホール加工を行い、穴明け銅張積層板を得た。この穴明け銅張積層板を使用し、公知のサブトラクティブ法で、回路パターン形成を行い、プリント配線板とした。
(実施例2)
2, 2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン30部を150℃で溶融し、撹拌しながら6時間反応させ、プレポリマー(重量平均分子量2,100)を得た。これをメチルエチルケトンに溶解した後、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN770、大日本インキ化学製)50部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エピコート4004P、ジャパンエポキシレジン製)20部をメチルエチルケトンで溶解・混合し、更に、ベーマイト(BMB)100部、溶融シリカ(アドマファインSC2050、平均粒子径0.5μm、アドマテックス製)30部、オクチル酸亜鉛0.01部を混合し、ワニスを得た。このワニスを使用し、実施例1と同様に行い、銅張積層板とし、炭酸ガスレーザーで、微細スルーホール加工を行った後、回路パターン形成を行い、プリント配線板とした。
(実施例3)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN770)60部、フェノールノボラック樹脂(TD-2093、大日本インキ化学製)40部をメチルエチルケトンで溶解・混合し、更に、ベーマイト(BMB)100部、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ、四国化成製)0.02部を混合し、ワニスを得た。このワニスを使用し、実施例1と同様に行い、銅張積層板とし、炭酸ガスレーザーで、微細スルーホール加工を行った後、回路パターン形成を行い、プリント配線板とした。」(段落【0021】?【0023】)

(4)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載が認められる。

(摘示2ア)
「【請求項1】
基材の表面にインク受理層を形成し、インク受理層の表面にインクジェット印刷層を形成した化粧建築板において、インク受理層にアスペクト比の高いフィラーを配合し、そのアスペクト比が3?70であることを特徴とする化粧建築板。」(特許請求の範囲、請求項1)

(摘示2イ)
「(実施例1)
表1の仕様に基づいて、以下のような化粧建築板を作製した。
・・・
[インク受理層の形成](仕様2-1参照)
インク受理層を形成するための塗料としては、樹脂成分としてアクリルエマルションを含むベース塗料(関西ペイント製のIMコート4100)に、繊維状のチタン酸カリウム(大塚化学製のティスモN)をフィラーとして配合することにより調製した。このフィラーは長径が10?20μm、短径が0.3?0.6μm、アスペクト比が17?67であった。また、フィラーはインク受理層を形成するための塗料に含まれている固形分に対して5質量%になるように配合した。また、インク受理層は、インク受理層を形成するための塗料をシーラー層の表面に塗布した後、130℃、2分の条件で焼き付けすることによって、乾燥膜厚30μmに形成した。
・・・
(比較例3)
インク受理層を形成するための塗料に配合するフィラーとして、キュービック状のアルミナ(大明化学工業株式会社ベーマイトC20)を用いた。このフィラーは1.9μmのキューブ形状であり、アスペクト比は1となる。また、フィラーはインク受理層を形成するための塗料に含まれている固形分に対して5質量%になるように配合した。また、インク受理層は、インク受理層を形成するための塗料をシーラー層の表面に塗布した後、130℃、2分の条件で焼き付けすることによって、乾燥膜厚30μmに形成した(仕様7-3参照)。その他の条件は実施例1と同様にして化粧建築板を作製した。」(段落【0044】?【0064】)

(摘示2ウ)



」(【表1】、仕様7-3)

(5)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘示1アの記載からみて、「無機充填剤としてベーマイトを含有し、かつベーマイト以外の金属水酸化物と含ハロゲン化物を含有しない熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂としてシアン酸エステル樹脂またはエポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物」が記載されている。
そして、ベーマイトについては、摘示1ウから、「ベーマイト粒子の形状としては、針状、板状、直方体状など種々の形状のものから選択でき、・・・樹脂組成物中の固形分に対しては20?70重量%が好適である」旨記載されており、実施例において「ベーマイト(BMB、平均粒子径2μm、河合石灰工業製)」(摘示1エ)が具体的に用いられている。また、実施例において熱硬化性樹脂として「2, 2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン」のシアン酸エステル樹脂が用いられている。
したがって、引用文献1には、
「無機充填剤としてベーマイトBMBを含有し、かつベーマイト以外の金属水酸化物と含ハロゲン化物を含有しない熱硬化性樹脂組成物であって、ベーマイトBMBの含有量が、樹脂組成物中の固形分に対して20?70重量%であり、熱硬化性樹脂としてシアン酸エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物」
なる発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

(6)対比
本願発明と引用発明Bとを対比する。

引用発明Bにおける「シアン酸エステル樹脂」は、本願発明における「シアネート樹脂」に相当する。
また、引用発明Bにおける「ベーマイトBMBの含有量が、樹脂組成物中の固形分に対して20?70重量%」なるベーマイトの含有量は、本願発明における「ベーマイトの含有量が、前記樹脂組成物全体の10重量%以上70重量%以下で」と重複一致している。

したがって、両発明は、
「ベーマイトを必須成分とする樹脂組成物であって、前記ベーマイトの含有量が、前記樹脂組成物全体の10重量%以上70重量%以下であり、かつ、シアネート樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点(3)
ベーマイトについて、本願発明においては、「略立方体状のベーマイト」であるのに対し、引用発明Bにおいては、「ベーマイトBMB」である点

(7)相違点についての検討
上記相違点(3)について検討するに、引用文献1には、ベーマイトBMBの形状について特段記載されていない。しかしながら、上記第4.1.(4)での検討のとおり、当該ベーマイトBMBに相当する「セラシュールBMB」はアスペクト比1.5?2、0の粒状ベーマイトであることから、当該ベーマイトBMBは少なくとも一面が正方形ではない粒状体であるといえる。これに対し、上記第4.1.(4)での検討と同様、本願明細書等の記載、並びに、回答書における請求人の主張を参酌すると、引用発明Bの「ベーマイトBMB」は、本願発明における「略立方体状」と解することはできない。
ここで、引用文献1には、摘示1ウからみて、「ベーマイトの粒子の形状としては、・・・種々の形状のものから選択できる」旨記載されている。そして、引用文献2には、摘示2イからみて、樹脂組成物に配合するフィラーとして、アスペクト比が1であるキューブ状のベーマイト(大明化学工業株式会社ベーマイトC20)が記載されている。そして、当該大明化学工業株式会社ベーマイトC20は本願明細書等の実施例において用いられている略立方体状ベーマイトBと同一のベーマイトであることからも、当該アスペクト比が1であるキューブ状のベーマイトが略立方体状のベーマイトであることは明らかである。
そこで、引用発明Bにおいて、樹脂組成物に含有させるベーマイトとして、ベーマイトBMBに代えて、引用文献2に記載された技術的事項である略立方体状のベーマイトを採用する動機付けの有無について検討するに、引用発明Bと引用文献2記載の発明は、ベーマイトを含有する樹脂組成物の技術分野で共通している。この点に関して、本願発明は「ベーマイトを必須成分とする・・・樹脂組成物」の発明であって、用途は限定されておらず、前記技術分野と一見関連性があるといえる。
しかしながら、本願発明は、上記第4.2.での検討のとおり、「略立方体状」のベーマイトを必須成分として含むことにより、樹脂組成物中への高充填化が可能となり、また積層板の寸法安定性も向上することから、多層プリント配線板の絶縁層に使用した場合に、成形性を備えた信頼性の高い多層プリント配線板を製造することができる樹脂組成物を提供するという本願発明の課題を解決するものであり、「略立方体状」のベーマイトとシアネート樹脂を含有する樹脂組成物は、ベーマイトBMBとシアネート樹脂を含有する樹脂組成物に比べて良好な回路埋め込み性の結果が得られることが示されている。してみれば、本願は、「多層プリント配線板の絶縁層に使用した場合に、良好な回路埋め込み性という成形性を備えた信頼性の高い多層プリント配線板を製造することができる樹脂組成物を提供する」という本願発明の課題に対して、「略立方体状のベーマイトを必須成分とする・・・シアネート樹脂を含有する・・・樹脂組成物」という解決手段の関係が示されているといえる。
これに対し、引用文献1には、ベーマイトとシアネート樹脂を含有する樹脂組成物をプリント配線板に使用すること(摘示1ア)は記載されているものの、その解決課題は、「プリプレグから得られる金属箔張積層板は、ハロゲン化物を含有することなく、耐燃性に優れる上、炭酸ガスレーザー加工穴形状が良好であり、これから得られるプリント配線板は、環境に配慮した材料であり、かつ電子機器の高密度化や高集積化に寄与するプリント配線板として好適に使用されるもの」(摘示1イ)を提供することであって、回路埋め込み性という成形性に関する課題は記載されていない。一方、引用文献2には、ベーマイトと熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物は記載されているものの、その用途は化粧建築板に設けられるインク受理層であり(摘示2ア)、略立方体状のベーマイトであるベーマイトC20を含有する樹脂組成物が記載されている比較例3についても使用される樹脂はアクリルエマルジョンである(摘示2ウ)。そして、当該比較例3は引用文献2に記載された課題を解決するものではなく、さらには、回路埋め込み性という成形性に関する課題についても引用文献2には記載も示唆もない。
してみると、引用発明Bと引用文献2に記載された技術的事項とは、異なる樹脂を含有する樹脂組成物であり、その用途、解決課題を異にするものである。そして、引用文献1、2のいずれにも、本願発明の課題とその解決手段の関係について記載も示唆もされておらず、当該課題とその解決手段との関係が本願出願時における当業者の技術常識であると認めるに足りる証拠は見当たらない。さらに、引用文献1、2のいずれにも、本願発明の効果である多層プリント板における良好な回路埋め込み性について記載も示唆もなく、当該効果は予測しうるものとはいえない。
したがって、引用発明Bにおける「ベーマイトBMB」に代えて「略立方体状のベーマイト」を採用することは想到容易であるということはできない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明を主たる引用発明として、当該引用発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

第6.むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由及び当審における平成25年9月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-10 
出願番号 特願2008-278557(P2008-278557)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C08L)
P 1 8・ 121- WY (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北澤 健一  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 塩見 篤史
大島 祥吾
発明の名称 樹脂組成物、プリプレグ、積層板、多層プリント配線板、及び半導体装置  

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