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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1282199
審判番号 不服2013-14642  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-31 
確定日 2013-11-29 
事件の表示 特願2009- 3461「インクジェット記録媒体用バインダー組成物、インクジェット記録媒体用塗工組成物、インクジェット記録媒体及びインクジェット記録媒体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月22日出願公開、特開2010-158858〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年1月9日の出願であって、平成25年4月11日付けで手続補正がなされ、同年7月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月31日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年4月11日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年4月11日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して得られるインクジェット記録媒体用バインダー組成物であって、前記重合開始剤として過硫酸塩及びアゾ化合物を併用することを特徴とするインクジェット記録媒体用バインダー組成物。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-213368号公報(以下「引用例」という。)」には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体用ラテックス及びその製造方法、並びにインクジェット記録媒体用塗工組成物及びインクジェット記録媒体に関する。更に詳しくは、単量体の重合を少なくとも二段階で実施し、それぞれの段階において、それぞれ特定の化合物を存在させることにより、インクジェット記録媒体用ラテックスを製造する方法、これによって得られるインクジェット記録媒体用ラテックス、このラテックスを含有してなるインクジェット記録媒体用塗工組成物及びこれを塗工してなるインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、種々の作動原理によりノズルからインクの微小液滴を飛翔させ、これを記録媒体に付着させて文字や画像等の記録を行なうものである。この記録方式は高速化や多色化が容易であり、現像や定着等の処理が不要であるという特長を有し、プリンターやプロッター等の記録装置において急速に普及している。
このような記録方式に用いられる記録媒体は、通常、紙等の支持体上に水性樹脂組成物を塗布し、乾燥させて形成される塗膜をインク受理層とするものである。
【0003】
インクジェット記録方式においては、印字品質の向上、印刷画像の高解像度化に対する要求が強く、このため、一般的に低濃度のインクを用い、且つインク使用量を増やす記録法が採用されている。
しかしながら、このとき、記録媒体上に多量に供給されたインクが受理層に吸収されないまま流れ出して、印字等の記録部が不鮮明になったり、インク受理層そのものの強度が低下したりするという問題が生じる。更に、インクジェット記録前後の記録媒体上に水滴などが付着すると、インク受理層が変形して強度が低下したり、記録部が溶出してにじみが生じたりするため、記録品質が著しく低下するという問題も発生する。
【0004】
このような問題への対策として、水に溶解したときに解離してカチオン性を呈する1級?3級アミン又は4級アンモニウム塩のモノマーからなるオリゴマー又はポリマーからなるカチオン性物質、具体的には、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合物、ポリビニルアミン共重合物、ジシアンジアミド・ジメチル・ジアリル・アンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン等をインク受理層に添加することが知られている。
例えば、特許文献1には、架橋性基を有するカチオン性重合体と親水性高分子とで構成されたインク受理層が基材の少なくとも一方の面に形成されている記録用シートが記載されている。また、特許文献2には、カチオン性重合体、無機充填剤及びスルホコハク酸エステル系界面活性剤からなるバインダー組成物を使用して、支持体の少なくとも一方の表面に直接又は間接にインクジェット記録シートの受理層を形成することが記載されている。
【0005】
これらの公報に記載されているインクジェット記録媒体のインク受理層は、相反する特性であるインク吸収性と耐水性とを両立させようとする要求に応えるものであるが、その改良度合いは十分とは言えず、インクジェット記録をより高品位にするために、記録媒体、とりわけインク受理層を形成する塗工組成物について一層の改良が求められている。
【0006】
ところで、インク受理層の吸収量を確保するには空隙量の大きな塗層を設けることが必要であり、このため、インク受理層に多量の無機粒子を含有させることが行なわれる。しかしながら、その結果、塗層表面は非常に剛性が高く、硬いものとなる。このような塗層表面は塗工液の乾燥工程での内部応力の発生や乾燥後の記録シートに加わる外部からの弱い力により容易にひび割れを発生しやすく、平滑性や光沢が損なわれるといった問題点がある。
また、これら多量の無機粒子を結着するため、バインダーとしてポリビニルアルコールに代表される親水性ポリマーが用いられる。親水性ポリマーをバインダーとして使用すると塗工液として水を使用できるため有機溶剤を使用する必要がないことから、塗工作業中の作業環境の問題や、製品に残存する溶剤の問題は生じないが、他方、記録媒体の表面を指で触ると、指紋が残るといった問題や、水溶性インクで印刷した場合の耐水性や耐湿性に問題がある。
【0007】
このため、ポリビニルアルコール等をはじめとする親水性ポリマーを含有するインクジェット記録媒体用バインダーにおいて、種々の検討がなされている。
特許文献3には、分子末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体を分散安定剤とし、エチレン性不飽和単量体及びジエン系不飽和単量体から選ばれる1種又は2種以上の単量体を構成単位とする重合体を分散質とする水性エマルションからなるバインダーが開示されている。
この文献によれば、高光沢で、インク吸収性に優れ、且つ耐水性、印字濃度及び耐ひび割れ性に優れるインクジェット記録シートが得られるとされているが、本発明者の検討によれば、その効果は十分とはいい難い。
【0008】
特許文献4には、分子末端に疎水基を有するポリビニルアルコールを分散安定剤とし、不飽和二重結合を有する単量体から選ばれる1種又は2種以上の単量体を構成単位とする重合体を分散質とする水性エマルション、又はこれにカチオン性重合開始剤の使用若しくはカチオン性の界面活性剤やカチオン性の単量体の併用によりカチオン性を付与した水性エマルションからなるインクジェット記録シート用樹脂組成物が記載されていて、実際には、カチオン性開始剤を用いた重合によりラテックスを得ている。
しかしながら、この方法では、シリカ微粒子等のアニオン性表面を有する化合物と併用すると、イオン的に反応が起こって粗大粒子が形成し、その結果、著しい光沢性の低下をもたらすという問題がある。
【0009】
また、特許文献5には、同様の水性エマルションにおいて、アニオン性重合開始剤の使用又はアニオン性の界面活性剤やアニオン性の単量体の併用によりアニオン性を付与した水性エマルションであるインクジェット記録シート用水性エマルションが開示されている。実施例では、過硫酸塩を用いて重合が行なわれているが、本発明者の検討によれば、この方法では、やはり、重合安定性及び得られるラテックスの安定性が十分ではない。この水性エマルションにアニオン性界面活性剤を添加するとにじみ耐湿性が低下するとされており、アニオン性界面活性剤を用いて重合したものは、更にこれが悪化する。更に、アニオン性を付与することにより、カチオン安定性が低下するという問題もある。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、光沢、インク吸収性(印字濃度)及び耐水性に優れたインクジェット記録媒体、これを得るためのインクジェット記録媒体用塗工組成物及びカチオン安定性に優れたインクジェット記録媒体用ラテックス並びにこのインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記目的の達成のために鋭意研究を進めた結果、重合を二段階に分けて、第一段階の重合を、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組合せの存在下で実施し、次いで、第二段階で特定の親水性ポリマーを追加添加して重合を行なうことにより、カチオン安定性に優れたラテックスを得ることができ、これを用いて上記各特性に優れたインクジェット記録媒体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かくして本発明によれば、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で第一の単量体の重合を行ない、次いで、得られたラテックスに、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び第二の単量体を添加して、更に重合を継続することを特徴とするインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法が提供される。
本発明のインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法において、前記疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物がその分子末端に疎水基を有するものであることが好ましい。
上記本発明のインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法において、第二の単量体の重合時に、更にノニオン性界面活性剤を追加添加してもよい。
【0013】
また、本発明によれば、上記インクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法によって得られるインクジェット記録媒体用ラテックスが提供される。
また、本発明によれば、上記本発明のインクジェット記録媒体用ラテックスを含有してなるインクジェット記録媒体用塗工組成物が提供される。
更に、本発明によれば、上記本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法によれば、粒径が小さくカチオン安定性に優れたインクジェット記録媒体用ラテックスを得ることができる。このインクジェット記録媒体用ラテックスを用いて得られるインクジェット記録媒体用塗工組成物を支持体に塗工して得られるインクジェット記録媒体は、光沢、インク吸収性、耐水性等に優れている。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で第一の単量体の重合を行ない、次いで、得られたラテックスに、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び第二の単量体を添加して、更に重合を継続することからなる。
なお、本発明において、「単量体」は、「単量体混合物」をも包含する概念である。
【0016】
本発明で用いる単量体は、特に限定されず、インクジェット記録媒体用ラテックスに従来用いられているものを使用することができる。
このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、p-スチレンスルホン酸及びそのナトリウム塩やカリウム塩、等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸、及びそのエステル、アミド等の誘導体;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸、及びそのエステル、無水物、アミド等の誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン等の共役ジエン;メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン等のビニル複素環化合物;等を挙げることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び/又は「メタクリル酸」を意味する。同様に、「(メタ)アクリロニトリル」は、「アクリロニトリル」及び/又は「メタクリロニトリル」を意味する。
【0017】
これらの単量体の中でも、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和多価カルボン酸及びその誘導体、並びにエチレン性不飽和ニトリル単量体が好ましく、とりわけ、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体が好ましい。
【0018】
エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸及びクロトン酸を挙げることができる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体の好適な具体例としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸と炭素数1?12のアルコールとのエステルが挙げられ、その具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
また、エチレン性不飽和モノカルボン酸のアミド誘導体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等を挙げることができる。
【0019】
本発明のインクジェット記録媒体用ラテックスの製造方法においては、先ず、全単量体のうち、一部の重合を、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で行なう(この重合を「第一段階の重合」ということがある。)。
第一段階の重合に用いる単量体の比率は、特に限定されないが、全単量体のうち、20?80重量%、好ましくは30?70重量%である。
第一段階の重合に用いる単量体(以下、「第一の単量体」ということがある。)の組成は、特に限定されないが、第一段階の重合で得られる重合体のガラス転移温度が-85?+60℃となるようなものであることが好ましい。
【0020】
第一段階の重合は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で行なうことが必須である。
第一段階の重合で使用するノニオン性界面活性剤は、特に限定されない。
その具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル界面活性剤、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、含フッ素界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルを挙げることができる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを挙げることができる。
ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステルを挙げることができる。
ソルビタン脂肪酸エステル界面活性剤の具体例としては、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等を挙げることができる。
【0022】
シリコーン系界面活性剤の具体例としては、ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。
アセチレンアルコール系界面活性剤の具体例としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3オール等を挙げることができる。
含フッ素系界面活性剤の具体例としては、フッ素アルキルエステル等を挙げることができる。
【0023】
第一段階の重合におけるノニオン性界面活性剤の使用量は、第一段階の重合における単量体混合物100重量部に対して、0.3?6.0重量部であることが好ましく、0.5?4.0重量部であることがより好ましく、1.0?2.5重量部であることが更に好ましい。この使用量が上記下限を下回ると、得られるラテックスがカチオン安定性に劣る恐れがある。一方、使用量が上記上限を上回る場合には、ラテックスを用いて得られるインクジェット記録媒体のにじみ耐湿性が低下する恐れがある。
【0024】
第一段階の重合で使用するアニオン性界面活性剤は、特に限定されず、その具体例として、カルボン酸塩界面活性剤、スルホン酸塩界面活性剤、硫酸エステル界面活性剤及び燐酸エステル界面活性剤を挙げることができる。
カルボン酸塩界面活性剤の具体例としては、脂肪酸塩、N-アシルアミノ酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等を挙げることができる。
スルホン酸塩界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルアルキルスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0025】
硫酸エステル塩界面活性剤の具体例としては、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノ脂肪酸グリセリル硫酸塩、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩等を挙げることができる。
燐酸エステル塩界面活性剤の具体例としては、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩等を挙げることができる。
【0026】
第一段階の重合で使用するアニオン性界面活性剤の使用量は、第一段階の重合で使用する単量体100重量部に対して、0.1?5.0重量部であることが好ましく、0.5?4.0重量部であることがより好ましく、0.5?3.0重量部であることが更に好ましい。この使用量が上記下限を下回ると、粒子径が大きくなったり、ラテックスを用いて得られるインクジェット記録媒体の光沢性が低下したりする恐れがあり、また、上記上限を上回る場合には、得られるラテックスがカチオン安定性に劣る恐れがある。
【0027】
第一段階の重合に使用するノニオン性界面活性剤の量とアニオン性界面活性剤の量との比率は、特に限定されないが、通常、ノニオン性界面活性剤の量/アニオン性界面活性剤の量の比率が、4/1?1/3の範囲となるようにする。
更に、第一段階の重合で使用するノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との合計量が、重合で使用する全単量体100重量部に対して、0.4?5.0重量部であることが好ましく、1.0?4.0重量部であることがより好ましく、1.5?3.0重量部であることが更に好ましい。
アニオン性界面活性剤の使用量が多すぎると、得られるラテックスのカチオン安定性が低下する恐れがあり、ノニオン性界面活性剤が多すぎると粒径が大きくなりすぎて、最終的に得られるインクジェット記録媒体のインク吸収性及び光沢性が低下する恐れがある。
本発明においては、第一段階の重合においてノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併用することが肝要であり、これによって、得られるインクジェット記録媒体用ラテックスのカチオン安定性を確保しながら、最終的に得られるインクジェット記録媒体の各特性を優れたものとすることが可能となる。
【0028】
第一段階の重合は、水性媒体中における乳化重合法によるのが好ましい。
水性媒体としては、水又は水とこれと混和可能な有機溶媒との混合物を使用することができる。
第一段階の重合において、単量体と水性媒体との比率は、特に限定されないが、通常、水性媒体100重量部に対して、単量体が5?100重量部、好ましくは10?70重量部、より好ましくは10?55重量部である。
【0029】
重合開始剤は、特に限定されず、無機過酸化物、有機過酸化物、アゾ化合物等を使用することができる。
無機過酸化物重合開始剤の具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過リン酸カリウム等の過リン酸塩;過酸化水素;等を挙げることができる。
有機過酸化物重合開始剤の具体例としては、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジ-t-ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド;等を挙げることができる。
アゾ化合物重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等を挙げることができる。
上記開始剤の中でも、水溶性ラジカル重合開始剤が好ましく、中でも過硫酸塩が好ましく、とりわけ、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが好ましい。
これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
重合開始剤の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、通常0.05?3重量部、好ましくは0.1?2重量部である。
また、これらの重合開始剤は還元剤との組合せで、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤は特に限定されず、その具体例としては、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
還元剤の使用量は、還元剤によって異なるが、重合開始剤1重量部に対して0.03?10重量部であることが好ましい。
【0031】
重合反応系には、重合体の分子量を調節するために、公知の連鎖移動剤を適宜加えてもよい。特に、1,3-ブタジエン等の共役ジエン単量体を含む単量体を重合する場合は、連鎖移動剤を使用することが好ましい。その場合の連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して0.2?5重量部である。
【0032】
連鎖移動剤の具体例としては、α-メチルスチレンダイマー、メルカプタン化合物、スルフィド化合物、ニトリル化合物、チオグリコール酸エステル、β-メルカプトプロピオン酸エステル等が挙げられる。
メルカプタン化合物の具体例としては、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等を挙げることができる。
スルフィド化合物の具体例としては、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等を挙げることができる。
ニトリル化合物の具体例としては、2-メチル-3-ブテンニトリル、3-ペンテンニトリル等を挙げることができる。
チオグリコール酸エステルの具体例としては、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸オクチル等を挙げることができる。
β-メルカプトプロピオン酸エステルの具体例としては、β-メルカプトプロピオン酸メチル、β-メルカプトプロピオン酸オクチル等を挙げることができる。
これらの中でもチオグリコール酸エステルが好ましく、チオグリコール酸オクチルがより好ましい。
これらの連鎖移動剤は1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
重合温度は、特に限定されないが、通常、0?100℃、好ましくは5?95℃である。
また、単量体の添加方法も、特に限定されず、第一段階の重合に用いる単量体について、全量を一括添加しても、全量を逐次添加しても、一部を添加した後、残部を一括添加又
は逐次添加してもよい。
なお、重合を安定化させ、得られるラテックスの安定性を向上させる観点からは、単量体は、水性媒体及び界面活性剤を用いたエマルションとして添加するのが好ましい。
更に、重合時の攪拌条件も特に限定されない。
【0034】
第一段階の重合においては、重合転化率を85?98.5重量%とするのが好ましい。この転化率が低すぎると得られるラテックスのカチオン安定性が低下するという問題が生じる恐れがあり、上記上限より高い高転化率となるまで重合を継続するのは、経済的ではない。
【0035】
第一段階の重合において、重合転化率が一定水準に達した後、第二段階の重合を行なう。
第二段階の重合は、第一段階の重合で得られたラテックスに、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び全単量体のうち第一段階の重合で使用した残部(以下、「第二の単量体」ということがある。)を添加して、更に重合を継続することによって行なう。
第一段階で用いる単量体と第二段階で用いる単量体とは、同一の組成であっても異なる組成であってもよい。第二の単量体の組成は、特に限定されないが、第二の単量体のみを重合したときに得られる重合体のガラス転移温度が-20?+100℃の範囲となるようなものであることが好ましい。また、第二段階のガラス転移温度が第一段階のガラス転移温度よりも高いほうが好ましい。
第二段階の重合において、必要に応じて、重合触媒を追加添加してもよい。用いる重合触媒は、第一段階に用いるものと同じでも異なっていてもよい。
なお、第二段階の重合を、2段以上に分割しても実施してもよい。即ち、第二の単量体の一部を重合した後、残部を更に何回かに分けて重合してもよい。
【0036】
本発明において、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とは、水溶性高分子化合物であって、分子量1,000当り、アルコール性水酸基を5?25個含有しているものをいう。
その具体例としては、ポリビニルアルコール及びその各種変性物等のビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉等の澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール等を挙げることができる。中でも、工業的に品質が安定したものを入手しやすい点から、ビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0037】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、1,000?500,000、好ましくは2,000?300,000である。分子量が1,000より小さいと、重合時の分散安定効果が低くなり、逆に500,000より大きいとこれの存在下で重合するときの粘度が高くなり、重合が困難になる恐れがある。
【0038】
また、本発明において、疎水基とは、炭素数が5以上の炭化水素基をいう。炭化水素基は、脂肪族基であっても、脂環基であっても、芳香族基であってもよい。
疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物において、疎水基の位置は、特に限定されず、水溶性高分子化合物の分子末端に存在していても、分子鎖の中間位置に存在していてもよいが、分子末端に存在しているものが好ましい。
本発明においては、この疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の使用により、ラテックスの安定性が向上し、得られるインクジェット記録媒体のインク吸収性が優れたものとなる。」

(4)「【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、重量基準である。
また、各特性の評価方法は以下のとおりである。
【0060】
〔重合体ラテックスの平均粒径〕
重合体ラテックスの電子顕微鏡写真に写る重合体ラテックス粒子を無作為に300個選び、その粒径の数平均を求める。
〔重合体ラテックスのpH〕
pH計(HORIBA社製、商品名「pH METER M-12」)を用いて、20℃の条件で測定する。
〔重合体ラテックスの粘度〕
B型粘度計により、30℃、60rpmの条件で、測定する。
【0061】
〔重合体のガラス転移温度〕
重合体ラテックス又は水溶液を、アルミ皿上に採取し、常温で乾燥後、更に40℃で真空乾燥して重合体試料を得る。この試料について、高感度示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、商品名「RDC220」)を用いて、昇温速度10℃/分で測定する。
〔重合体の重量平均分子量〕
ガラス転移温度測定用試料と同様にして、重合体試料を得る。この試料について、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーション(GPC)測定により、標準ポリスチレン換算分子量として求める。
【0062】
〔カチオン安定性〕
固形分を30重量%に調整したラテックス10重量部にカチオン樹脂(住友化学工業社製、商品名「スミレーズレジン1001」)を固形分換算で1重量部添加し、十分に分散させた後、混合状態を観察し、下記の基準に従って判定する。
○:凝集物がある。
△:僅かに凝集物がある。
×:多量の凝集物がある。
【0063】
〔光沢〕
JIS Z8741に基づき、変角光沢計(村上色彩技術研究所社製、商品名「GM-3D型」)を使用して、記録用シート表面の75°での光沢度を測定する。
【0064】
〔インク吸収性〕
市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、商品名「PM-G850」)を用いて、高詳細カラーディジタル標準画像データ(JIS X 9201-1995準拠)のポートレート(画像識別番号N1)を、「写真用紙モード きれい」で印刷し、画像のにじみ具合を目視で観察し、以下の基準に従って評価する。
○:画像のにじみが全くなく、インク吸収性に優れる。
△:画像のにじみが僅かにあるが、インク吸収性が実用レベルである。
×:画像のにじみが多く、インク吸収性が実用レベル以下である。
【0065】
〔耐水性〕
市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、商品名「PM-G850」)を用いて、ブラックインクで文字印刷を行ない、印字部分に30℃の水を滴下して一時間放置する。その後、残存する水滴が存在する場合はそれをウェスで吸い取り、表面状態やにじみ等の印字状態を目視で観察し、以下の基準に従って判定する。
○:にじみや発色濃度及び表面状態の変化が殆ど見られない。
△:にじみや発色濃度及び表面状態の低下があるが、実用レベルである。
×:にじみや発色濃度及び表面状態の低下があり、実用レベル以下である。
【0066】
〔皮膜透明性〕
ガラス板に、約0.2μmの厚さに塗工液を塗工し、室温で乾燥した後の状態を目視で観察し、以下の基準に従って判定する。
○:透明性が高い。
△:やや白濁している。
×:白濁している。
【0067】
〔実施例1〕
(ラテックス製造例1)
攪拌機付きの耐圧容器(第一段階の重合用エマルションの調製容器)に、脱イオン水50部、アクリル酸2-エチルヘキシル30部、メタクリル酸メチル10部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩(アニオン性界面活性剤)(花王社製、商品名「ラテムルE118B」)0.6部を添加し、撹拌して、単量体乳化物Iを得た。 別の攪拌機付きの耐圧容器(第二段階の重合用エマルションの調製容器)に、脱イオン水50部、アクリル酸2-エチルヘキシル10部、メタクリル酸メチル50部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ノニオン性界面活性剤)(花王社製、商品名「エマルゲン120」)0.3部及び片末端に疎水基を有するポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「PVA-MP102」)12部を添加し、撹拌して、単量体乳化物IIを得た。 別途、攪拌機付きの耐圧反応容器に、脱イオン水250部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ノニオン性界面活性剤)(花王社製、商品名「エマルゲン120」)0.8部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩(アニオン性界面活性剤)(花王社製、商品名「ラテムルE118B」)0.4部を入れ、温度を75℃に昇温し、75℃を維持した状態で、反応容器に前記単量体乳化物Iの連続添加を開始し、次いで、過硫酸カリウム0.2部を脱イオン水5.0部に溶解した重合開始剤溶液を添加した。 単量体乳化物Iの連続添加は120分間掛けて終了した。添加終了後、更に60分間後反応を行なった。この時の重合転化率は98.2%であった。引き続き、過硫酸カリウム0.2部を脱イオン水5.0部に溶解した重合開始剤溶液を添加するとともに、単量体乳化物IIを180分間掛けて反応容器に連続添加し、添加終了後、更に2時間後反応を行なった。その後、冷却して反応を終了させた。この時の重合転化率は98%であり、ラテックスのpHは2.93であった。
未反応単量体を除去した後、固形分濃度を調整して、固形分濃度24.1%の共重合体 ラテックスL1を得た。得られた共重合体ラテックスL1の粘度は95mPa・sであり、体積平均粒子径は96nmであり、ガラス転移温度として、-22℃と43℃の2点が観測された。この共重合体ラテックスL1のカチオン安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(インクジェット記録シートの作製)
分散機を用い、コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、商品名「スノーテックス」)100部に、共重合体ラテックスL1を固形分換算で20部添加して10分間分散させた。更に、カチオン樹脂(住友化学工業社製、商品名「スミレーズレジン1001」)を固形分換算で3部添加し、十分に分散させた後、固形分濃度を20%に調整してインクジェット記録媒体用塗工組成物を得た。
坪量が70g/m2の上質原紙に、乾燥後の重量が片面当たり7g/m2になるように両面に塗工した後、100℃で60秒間乾燥した。得られた塗工紙を、23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、一晩調湿した。その後、塗工紙を、実験用ミニカレンダーを用いて、80℃、線圧75Kg/cmの条件で、4回カレンダー処理して、インクジェット記録シートを得た。この記録シートの光沢、インク吸収性、耐水性及び皮膜透明性を評価した。その結果を表1に示す。
【0069】
〔実施例2及び3〕
(ラテックス製造例2及び3)
第一段階及び第二段階の重合における単量体の組成及び脱イオン水の量を表に示すように変更し、第一段階の重合におけるノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤並びに第二段階の重合における疎水基を有するポリビニルアルコールの量を表に示すように変更し、第二段階でノニオン性界面活性剤を使用しなかったほかは、製造例1と同様にして、それぞれ、ラテックスL2及びL3を得た。その性状を表1に示す。
【0070】
(インクジェット記録シートの作製)
ラテックスL1に代えてラテックスL2及びL3をそれぞれ使用したほかは実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体用塗工組成物を得、これを用いてインクジェット記録シートを得た。その特性を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。」

(5) 上記(1)ないし(4)の記載からみて、引用例には、
「光沢、印字濃度に関連するインク吸収性及び耐水性に優れたインクジェット記録媒体を得るためのカチオン安定性に優れたインクジェット記録媒体用ラテックスを提供することを目的として、
ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で第一の単量体を重合する第一段階の重合を行ない、
次いで、得られたラテックスに、疎水基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び第二の単量体を添加して、更に重合を継続して第二段階の重合を行うことにより、
粒径が小さくカチオン安定性に優れ、光沢、インク吸収性、耐水性等に優れるものとした、
インクジェット記録媒体用ラテックスであって、
先ず、第一段階の重合として、全単量体のうち、一部の重合を、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で、過硫酸塩である無機過酸化物、有機過酸化物又はアゾ化合物である重合開始剤の1種類を単独で使用するか又は2種類以上を組み合わせて使用して行なうのであるが、
第一段階の重合における単量体混合物100重量部に対する第一段階の重合におけるノニオン性界面活性剤の使用量が、0.3重量部を下回ると、得られるラテックスがカチオン安定性に劣る恐れがあり、この使用量が、6.0重量部を上回る場合には、ラテックスを用いて得られるインクジェット記録媒体のにじみ耐湿性が低下する恐れがあるので、この使用量は、0.3?6.0重量部とし、
第一段階の重合で使用する単量体100重量部に対する第一段階の重合で使用するアニオン性界面活性剤の使用量が、0.1重量部を下回ると、粒子径が大きくなったり、ラテックスを用いて得られるインクジェット記録媒体の光沢性が低下したりする恐れがあり、また、この使用量が、5.0重量部を上回る場合には、得られるラテックスがカチオン安定性に劣る恐れがあるので、この使用量は、0.1?5.0重量部とし、
前記単量体すなわち第一及び第二の単量体として、オレフィン、ハロゲン化ビニル単量体、カルボン酸ビニルエステル、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、アミド等の誘導体、エチレン性不飽和多価カルボン酸及びそのエステル、無水物、アミド等の誘導体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン、ビニルエーテル単量体、アリル化合物、ビニルシラン化合物、又は、ビニル複素環化合物を用い、
次に、第一段階の重合において、重合転化率が一定水準に達した後、第一段階の重合で得られたラテックスに、炭素数が5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び全単量体のうち第一段階の重合で使用した残部としての第二の単量体を添加し、必要に応じて、第一段階に用いるものと同じか又は異なっている重合触媒を追加添加して、更に重合を継続することによって、第二段階の重合を行なって製造する、インクジェット記録媒体用ラテックスにおいて、
例えば、
第一段階の重合用エマルションの調製容器としての攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水50部、アクリル酸2-エチルヘキシル30部、メタクリル酸メチル10部及びアニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩0.6部を添加し、撹拌して、単量体乳化物Iを得て、
第二段階の重合用エマルションの調製容器としての別の攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水50部、アクリル酸2-エチルヘキシル10部、メタクリル酸メチル50部、ノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル0.3部及び片末端に疎水基を有するポリビニルアルコール12部を添加し、撹拌して、単量体乳化物IIを得て、
別途、攪拌機付きの耐圧反応容器に、脱イオン水250部、ノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル0.8部及びアニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩0.4部を入れ、温度を75℃に昇温し、75℃を維持した状態で、反応容器に前記単量体乳化物Iの連続添加を開始し、
次いで、過硫酸カリウム0.2部を脱イオン水5.0部に溶解した重合開始剤溶液を添加し、単量体乳化物Iの連続添加は120分間掛けて終了し、更に60分間後反応を行ない、この時の重合転化率は98.2%であり、引き続き、過硫酸カリウム0.2部を脱イオン水5.0部に溶解した重合開始剤溶液を添加するとともに、単量体乳化物IIを180分間掛けて反応容器に連続添加し、添加終了後、更に2時間後反応を行ない、冷却して反応を終了させることにより製造した、
インクジェット記録媒体用ラテックス。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「オレフィン、ハロゲン化ビニル単量体、カルボン酸ビニルエステル、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、アミド等の誘導体、エチレン性不飽和多価カルボン酸及びそのエステル、無水物、アミド等の誘導体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン、ビニルエーテル単量体、アリル化合物、ビニルシラン化合物、又は、ビニル複素環化合物を用いた、第一の単量体」、「炭素数が5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物」、「オレフィン、ハロゲン化ビニル単量体、カルボン酸ビニルエステル、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、アミド等の誘導体、エチレン性不飽和多価カルボン酸及びそのエステル、無水物、アミド等の誘導体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン、ビニルエーテル単量体、アリル化合物、ビニルシラン化合物、又は、ビニル複素環化合物を用いた、第二の単量体」、「『重合開始剤』、『重合触媒』」、「インクジェット記録媒体用ラテックス」、「『過硫酸塩である無機過酸化物』、『過硫酸カリウム』」及び「アゾ化合物」は、それぞれ、本願発明の「第1のビニル系不飽和単量体」、「炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物」、「第2のビニル系不飽和単量体」、「重合開始剤」、「インクジェット記録媒体用バインダー組成物」、「過硫酸塩」及び「アゾ化合物」に相当する。

(2)引用発明の「インクジェット記録媒体用バインダー組成物(インクジェット記録媒体用ラテックス)」は、先ず、「第1のビニル系不飽和単量体(第一の単量体)」を重合する第一段階の重合を、全単量体のうち、一部の重合を、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で、無機過酸化物、有機過酸化物、アゾ化合物等の「重合開始剤」を使用して行ない、次に、第一段階の重合において、重合転化率が一定水準に達した後、第一段階の重合で得られたラテックスに、「炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物(炭素数が5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物)」及び全単量体のうち第一段階の重合で使用した残部としての「第2のビニル系不飽和単量体(第二の単量体)」を添加し、必要に応じて、第一段階に用いるものと同じか又は異なっている「重合開始剤(重合触媒)」を追加添加して、更に重合を継続することによって、第二段階の重合を行なって製造するものであり、また、ラテックスは水中にポリマーの微粒子が安定に分散した系であることが当業者に自明であるから、引用発明の「インクジェット記録媒体用バインダー組成物」と本願発明の「インクジェット記録媒体用バインダー組成物」とは「第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して得られる」点で一致する。

(3)引用発明では、「重合開始剤」が過硫酸塩である過硫酸カリウムの1種類を単独で使用している例が示されているから、引用発明の「重合開始剤」と本願発明の「過硫酸塩及びアゾ化合物を併用する重合開始剤」とは「過硫酸塩を使用する」点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子、炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び重合開始剤の存在下で、第2のビニル系不飽和単量体を重合して得られるインクジェット記録媒体用バインダー組成物であって、前記重合開始剤として過硫酸塩を使用する、インクジェット記録媒体用バインダー組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記重合開始剤が、
本願発明では、過硫酸塩に加えて、アゾ化合物も併用したものであるのに対して、
引用発明では、過硫酸塩、有機過酸化物又はアゾ化合物の2種類以上を組み合わせて使用できるものではあるが、過硫酸塩及びアゾ化合物を併用した例は示されていない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用発明の「インクジェット記録媒体用バインダー組成物(インクジェット記録媒体用ラテックス)」は、
先ず、「第1のビニル系不飽和単量体(第一の単量体)」を重合する第一段階の重合として、全単量体のうち、一部の重合を、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下で、「過硫酸塩」、有機過酸化物又は「アゾ化合物」の1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて「重合開始剤」として使用して行ない、
次に、第一段階の重合において、重合転化率が一定水準に達した後、第一段階の重合で得られた「シード粒子(ラテックス)」に、「炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物(炭素数が5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物)」及び全単量体のうち第一段階の重合で使用した残部としての「第2のビニル系不飽和単量体(第二の単量体)」を添加し、必要に応じて、第一段階に用いるものと同じか又は異なっている「重合開始剤(重合触媒)」を追加添加して、更に重合を継続することによって、第二段階の重合を行なって製造するものであるから、
引用発明において、第一段階及び第二段階の重合に使用する前記「重合開始剤」として、前記「過硫酸塩」の1種類を単独で使用するのではなく、前記「過硫酸塩」と前記「アゾ化合物」とを含む2種類以上を組み合わせて使用するようになすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到することができた程度のことである。

(2)本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
ア 「上記第1及び第2のビニル系不飽和単量体の具体例は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、p-スチレンスルホン酸、これらのナトリウム塩又はカリウム塩等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸、そのエステル、アミド等の誘導体;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸、そのエステル、無水物、アミド等の誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン等の共役ジエン;メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン等のビニル複素環化合物;等である。これらの単量体の1種又は2種以上が使用される。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び/又は「メタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリロニトリル」は、「アクリロニトリル」及び/又は「メタクリロニトリル」を意味する。
エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸である。エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステル誘導体の好適な具体例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の、エチレン性不飽和モノカルボン酸と炭素数1?12のアルコールとのエステルである。エチレン性不飽和モノカルボン酸のアミド誘導体の具体例は、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等である。」(【0010】?【0011】)

イ 「(9)バインダー組成物の製膜性
固形分濃度を24質量%に調整したバインダー組成物をNo.24のワイヤーバーを用いてガラス板に塗布し、20℃で72時間乾燥し、得られた塗膜の状態を目視で観察し、下記基準で評価した。
A;滑らかな連続塗膜を観察できる。
B;僅かな亀裂、穴等がある不連続な塗膜を観察できる。
C;多くの亀裂、穴等がある不連続な塗膜を観察できる。」(【0048】)

ウ 「実施例1
インクジェット記録媒体用バインダー組成物の製造
イオン交換水115.0部、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム1.6部、重炭酸ナトリウム0.06部、エチレンジアミン四酢酸ナトリム0.02部を耐圧反応容器に添加し、これらを攪拌しながら、2,4-ジニトロクロロベンゼン0.06部、t-ドデシルメルカプタン0.06部、スチレン15.2部及びメタクリル酸0.8部を反応系に添加した。次いで、上記反応容器内部を窒素で置換し、1,3-ブタジエン24.0部を添加して乳化させた。その後、反応系を攪拌しながら、52℃に昇温し、過硫酸カリウム0.12部を添加して第1段階の乳化重合を開始させた。重合転化率が85%に達した時点から更に3時間反応を継続し、重合転化率が98%に達した時点で反応を終了した。その後、減圧下で未反応単量体を除去し、重合体ラテックスシードを得た。当該ラテックスシードの固形分濃度は25.6%であり、当該ラテックスシード中の粒子の体積平均粒子径は54.5nmであった。…略…。」(【0059】)

エ 「…略…。
イオン交換水203.0部、片末端に疎水基(炭素数12の炭化水素基)を有するポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA-MP102)(以下、「疎水基を有するPVA」という。)10.0部、メタクリル酸メチル27部及びアクリル酸ブチル27部を別の反応容器に添加し、攪拌して、単量体乳化物を得た。
イオン交換水10.3部を上記ラテックスシードに添加して攪拌しながら80℃に昇温し、更にイタコン酸5.0部を添加して溶解させた後、重合開始剤として過硫酸カリウム0.38部をイオン交換水14.0部に溶解した水溶液と、α、α’-アゾビスイソブチロニトリル0.2部をメタクリル酸メチル0.5部及びアクリル酸ブチル0.5部に溶解した溶液とを添加し、さらに上記単量体乳化物を連続添加し、第2段階の乳化重合を開始させた。上記単量体乳化物の連続添加は150分間かけて終了した。上記単量体乳化物の添加終了後、さらに乳化重合を120分間行い、冷却により反応を終了させた。得られた組成物の重合転化率は98%であった。未反応単量体を当該組成物から減圧下で除去し、固形分濃度を24%に調整して、インクジェット記録媒体用バインダー組成物を得た。その物性を表1に示す。」(【0059】?【0060】)

オ 「インクジェット記録媒体用塗工組成物の製造
固形分換算で0.1質量部のカチオン樹脂(住友化学工業(株)製スミレーズレジン1001)を、カチオン性コロイダルシリカ(日産化学工業(株)性スノーテックAK-YL、固形分濃度31%、粒子径80nm、PH4.0、粘度9.5mPa・s)100部(固形分換算)に添加し、分散機で十分に混合した。その後、固形分が15部となる量の上記インクジェット記録媒体用バインダー組成物を得られた分散物に添加して10分間分散し、固形分濃度が29%となるようにイオン交換水を添加し、インクジェット記録媒体用塗工組成物を製造した。」(【0061】)

カ 「インクジェット記録シートの製造
上記インクジェット記録媒体用塗工組成物を、坪量80g/m^(2)の三菱製紙(株)製IJフォーム紙に乾燥後の質量が16?17g/m^(2)程度となるように塗工し、100℃で60秒間乾燥し、塗工紙を得た。当該塗工紙を23℃、相対湿度65%の条件下で一晩調湿し、ミニカレンダーを用いて、80℃、線圧75kg/cmの条件2回カレンダー処理し、インクジェット記録シートを得た。当該インクジェット記録シートの性能が表2に示されている。」(【0062】)

キ 「実施例2及び3、比較例1及び2
第2段階の乳化重合で使用する単量体の種類とその使用量、重合開始剤の種類と量、及びアゾ化合物を溶解する単量体の種類と量を表1に示すように変更し、インクジェット記録媒体用塗工組成物の塗工量を表2に示すように変更する以外は、実施例1と同じ操作を行った。
なお、実施例2のインクジェット記録媒体用バインダー組成物については、バインダー組成物中の粒子を構成する共重合体の表面酸基量及び水相酸基量の測定は行わなかった。」(【0063】)

ク 「【表1】

」(【0064】)

ケ 「【表2】

」(【0065】)

コ 「実施例1?3のインクジェット記録媒体用バインダー組成物の製膜性は高く、これらを使用して得たインクジェット記録シートは、優れた光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度を有していた。一方、第2段階の乳化重合時に過硫酸カリウムを使用しなかった比較例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物のカチオン安定性は低く、当該バインダー組成物を使用してインクジェット記録媒体用塗工組成物を製造できなかった。第2段階の乳化重合時にα、α’-アゾビスイソブチロニトリルを使用しなかった比較例2のインクジェット記録媒体用バインダー組成物の製膜性は低く、当該バインダー組成物を使用して得たインクジェット記録シートの印字部耐傷性及びドライピック強度は低かった。」(【0066】)

(3)上記(2)のアないしコの記載から、次のことがいえる。
ア 本願発明の「第1のビニル系不飽和単量体」及び「重合開始剤としての過硫酸塩」としては、実施例1ないし3及び比較例1及び2のいずれにおいても、「スチレン、メタクリル酸及び1,3-ブタジエン」及び「過硫酸カリウム」がそれぞれ使用されており、
本願発明の「シード粒子」に相当する「重合体ラテックスシード」は、実施例1ないし3及び比較例1及び2のいずれにおいても、「イオン交換水115.0部、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム1.6部、重炭酸ナトリウム0.06部、エチレンジアミン四酢酸ナトリム0.02部」を耐圧反応容器に添加し、これらを攪拌しながら、「2,4-ジニトロクロロベンゼン0.06部、t-ドデシルメルカプタン0.06部、スチレン15.2部及びメタクリル酸0.8部」を反応系に添加し、次いで、上記反応容器内部を窒素で置換し、「1,3-ブタジエン24.0部」を添加して乳化させ、その後、反応系を攪拌しながら、52℃に昇温し、「過硫酸カリウム0.12部」を添加して第1段階の乳化重合を開始させ、重合転化率が85%に達した時点から更に3時間反応を継続し、重合転化率が98%に達した時点で反応を終了し、その後、減圧下で未反応単量体を除去して得ていること。

イ 本願発明の「第2のビニル系不飽和単量体」である第2段階の乳化重合で使用する単量体の種類とその使用量は、それぞれ、次のとおりであること。
実施例1:
メタクリル酸メチル 27.0部
アクリル酸ブチル 27.0部
イタコン酸 5.0部
実施例2:
メタクリル酸メチル 36.0部
アクリル酸2-エチルヘキシル 22.5部
実施例3:
メタクリル酸メチル 26.7部
アクリル酸ブチル 26.7部
イタコン酸 5.0部
比較例1:
メタクリル酸メチル 26.5部
アクリル酸ブチル 26.5部
イタコン酸 5.0部
比較例2:
メタクリル酸メチル 27.5部
アクリル酸ブチル 27.5部
メタクリル酸 5.0部

ウ 第2段階の乳化重合で使用する重合開始剤の種類と量、及びアゾ化合物を溶解する単量体の種類と量は、それぞれ、次のとおりであること。
実施例1:
○過硫酸カリウム0.38部をイオン交換水14.0部に溶解した水溶液
○α、α’-アゾビスイソブチロニトリル0.2部をメタクリル酸メチル0.5部及びアクリル酸ブチル0.5部に溶解した溶液
実施例2:
○過硫酸カリウム0.35部をイオン交換水14.0部に溶解した水溶液
○α、α’-アゾビスイソブチロニトリル0.35部をメタクリル酸メチル1.0部及びアクリル酸2-エチルヘキシル0.5部に溶解した溶液
実施例3:
○過硫酸カリウム0.25部をイオン交換水14.0部に溶解した水溶液
○α、α’-アゾビスイソブチロニトリル0.45部をメタクリル酸メチル0.8部及びアクリル酸ブチル0.8部に溶解した溶液
比較例1:
○α、α’-アゾビスイソブチロニトリル0.7部をメタクリル酸メチル1.0部及びアクリル酸ブチル1.0部に溶解した溶液
比較例2:
○過硫酸カリウム0.7部をイオン交換水14.0部に溶解した水溶液

エ 本願発明の「第1のビニル系不飽和単量体を重合して得るシード粒子」及び「炭素数5以上の炭化水素基を有するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物」の量は、実施例1ないし3及び比較例1及び2のいずれにおいても、40部及び10部であること。

オ 表2の光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度の評価は、次のインクジェット記録シートについて行ったものであり、実施例1ないし3及び比較例1及び2のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を用いて製造した様々なインクジェット記録シートについて行ったものではないこと。

実施例1ないし3及び比較例1及び2のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を、「固形分換算で0.1質量部のカチオン樹脂(住友化学工業(株)製スミレーズレジン1001)を、カチオン性コロイダルシリカ(日産化学工業(株)性スノーテックAK-YL、固形分濃度31%、粒子径80nm、PH4.0、粘度9.5mPa・s)100部(固形分換算)に添加し、分散機で十分に混合して得られた分散物」に、固形分が15部となる量添加して10分間分散し、固形分濃度が29%となるようにイオン交換水を添加して製造したインクジェット記録媒体用塗工組成物を、「坪量80g/m^(2)の三菱製紙(株)製IJフォーム紙」に乾燥後の質量が16?17g/m^(2)程度となるように塗工し、100℃で60秒間乾燥して得た塗工紙を23℃、相対湿度65%の条件下で一晩調湿し、ミニカレンダーを用いて、80℃、線圧75kg/cmの条件2回カレンダー処理をして得たインクジェット記録シート

カ 比較例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を使用して、上記オのように、表2の光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度の評価をしようとしても、「固形分換算で0.1質量部のカチオン樹脂(住友化学工業(株)製スミレーズレジン1001)を、カチオン性コロイダルシリカ(日産化学工業(株)性スノーテックAK-YL、固形分濃度31%、粒子径80nm、PH4.0、粘度9.5mPa・s)100部(固形分換算)に添加し、分散機で十分に混合して得られた分散物」に、固形分が15部となる量添加して10分間分散し、固形分濃度が29%となるようにイオン交換水を添加してインクジェット記録媒体用塗工組成物を製造することができなかったこと。

キ 比較例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を、固形分濃度を24質量%に調整して、No.24のワイヤーバーを用いてガラス板に塗布し、20℃で72時間乾燥し、得られた塗膜の状態を目視で観察したところ、滑らかな連続塗膜を観察できた(製膜性評価A)こと。

ク 実施例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を、固形分濃度を24質量%に調整して、No.24のワイヤーバーを用いてガラス板に塗布し、20℃で72時間乾燥し、得られた塗膜の状態を目視で観察したところ、僅かな亀裂、穴等がある不連続な塗膜を観察できた(製膜性評価B)こと。

(4)上記(3)からみて、次のことがいえる。
表2の光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度の評価は、
特定の分散物に添加して製造したインクジェット記録媒体用塗工組成物を特定の紙に塗工して特定条件でカレンダー処理をして得たインクジェット記録シートについて行ったものであり、
様々な分散物に添加して製造した様々なインクジェット記録媒体用塗工組成物を様々な支持体に塗工して様々な条件の仕上げ処理をして得た様々なインクジェット記録シートについて行った評価ではないので、
表2において、実施例1?3のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を使用して得たインクジェット記録シートの光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度がいずれも優れていても、
それらの評価は、実施例1?3のインクジェット記録媒体用バインダー組成物を特定の分散物に添加して製造したインクジェット記録媒体用塗工組成物を特定の紙に塗工して特定条件でカレンダー処理をして得たインクジェット記録シートについてものであり、本願発明のインクジェット記録媒体用バインダー組成物全般について優れているといえるものではない。
第2段階の乳化重合時に過硫酸カリウムを使用しなかった比較例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物は、上記(3)のカではインクジェット記録媒体用塗工組成物を製造することができなかったが、上記(3)のキでは滑らかな連続塗膜を観察できており、製膜性評価がAであり、第2段階の乳化重合時に過硫酸カリウム及びα、α’-アゾビスイソブチロニトリルを使用した本願発明に該当する実施例1のインクジェット記録媒体用バインダー組成物が、上記(3)のクでは僅かな亀裂、穴等がある不連続な塗膜を観察しており、製膜性評価はBであったことに比較して、優れているともいえる。
したがって、本願の発明の詳細な説明で開示された事項では、本願発明の構成により、光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度の評価が優れるという効果が奏されるとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に比較して、光沢性、インク吸収性、耐水性、印字濃度、印刷画像の鮮明性、インクにじみ耐性及びドライピック強度の点で優れているとはいえないので、本願発明の奏する効果は引用発明の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(5)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-30 
結審通知日 2013-10-02 
審決日 2013-10-16 
出願番号 特願2009-3461(P2009-3461)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 インクジェット記録媒体用バインダー組成物、インクジェット記録媒体用塗工組成物、インクジェット記録媒体及びインクジェット記録媒体の製造方法  
代理人 森川 聡  

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