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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03B
管理番号 1282207
審判番号 不服2012-17792  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-12 
確定日 2013-11-27 
事件の表示 特願2008-545954「オーバーフローダウンドローガラス成形方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月21日国際公開、WO2007/070825、平成21年5月21日国内公表、特表2009-519884〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年12月15日 米国、2006年10月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年12月26日付けの拒絶理由が通知され、平成24年4月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月11日付けで拒絶査定されたので、同年9月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成24年4月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。
「ウェッジ形状の板成形構造に取り付けられた側面を有する溶融ガラスを受けるための樋を有する、板ガラスを成形するための装置であって、前記ウェッジ形状の板成形構造が、前記ウェッジの底で収束する、下方向に傾斜している側面を有し、よって溶融ガラスが、前記樋の側面からオーバーフローして前記ウェッジ形状の板成形構造の下方向に傾斜している側面を流下し、前記ウェッジの底で融合する際に、ガラス板が成形されるように構成された装置において、
a)前記成形構造の流入口端に位置する少なくとも1つの流入口端圧縮ブロックであって、前記成形構造の底端に配置される流入口端圧縮ブロックと、
b)前記成形構造の流入口端圧縮ブロックとは反対側の端に位置する少なくとも1つの遠端圧縮ブロックであって、前記成形構造の底端に配置される遠端圧縮ブロックと、
c)前記流入口端圧縮ブロックに力を印加することによって、前記成形構造の流入口端の底を熱クリープによって長手方向に変形する流入口端力印加装置と、
d)前記遠端圧縮ブロックに力を印加することによって、前記成形構造の遠端の底を熱クリープによって長手方向に変形する第1の遠端力印加装置と、を備え、
前記力印加装置が、前記それぞれの圧縮ブロックに対して対向する長手方向に力を印加することによって、前記成形構造の底を前記成形構造の頂部よりも実質的に大きく圧縮し、前記成形構造の頂部よりも熱クリープに対する耐性の高い前記成形構造の底を熱クリープによって前記成形構造の頂部と同じ大きさだけ長手方向に変形し、
よって熱クリープに起因する前記成形構造の変形が、前記ガラス板の厚さのばらつきに対して及ぼす影響が最小限であるようなものであることを特徴とする装置。」

3 刊行物に記載された発明
(1)引用例1の記載事項
これに対し、本願優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-284843号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
上部が開口した樋形状の溶融ガラス供給溝を頂部に有し、ガラス供給溝の両側壁頂部をオーバーフローの堰とし、両側壁の外面部を断面が略楔形となるように下方へ向けて接近させた溶融ガラスの流量調節構造体を備え、溶融ガラスをガラス供給溝の一端から連続的に供給して両側壁頂部よりオーバーフローさせ、両側壁外面に沿って流下させて略楔形下端で合流した1枚のガラス板を成形する耐火性の板ガラス製造装置において、
前記流量調節構造体の長手方向の両端にある側面は、少なくともその下部が下方へ向けて接近させた対向する傾斜面になっており、対向する該傾斜面を側方から各支持体により中央に向けてそれぞれ押圧支持してなることを特徴とする板ガラス成形装置。」
(イ)「【0001】
本発明は、オーバーフローダウンドロー方式の板ガラス製造装置とその装置による板ガラス成形方法に関する。」
(ウ)「【0008】
しかしながら、・・・予想困難な種々の要因が重なることで長期間に亘る高温状態ではその構造的な対応、すなわち耐クリープ変形に対する強度等が不充分となって、流量調節構造体の断面が略楔形である長手方向の下端中央部付近が湾曲するなどの問題が発生した。・・・」
(エ)「【0014】
さらに、この傾斜面は、その傾斜角が両側面について同じ傾斜角であってもよく、また必要に応じて異なる傾斜角であっても差し支えない。・・・
【0015】
そしてこの傾斜角の大きさについては垂直に対して、0°より大きく、60°以下の角度であることが好ましい。そしてさらに好ましくは45°以下とすることである。・・・この角度は、0°より大きくかつ35°以下である方が、いっそう好ましい。ただし、角度0°に近づくにつれて長手方向から加える加圧値をいっそう大きくする必要性が生じるため、流量調節構造体を構成する材料の構造的な強度や寿命、そして耐熱性等も含めて最適な形状を選定する必要性がある。」
(オ)「【0031】
以上のように本発明の板ガラス成形装置は、・・・前記流量調節構造体の長手方向の両端にある側面は、少なくともその下部が下方へ向けて接近させた対向する傾斜面になっており、対向する該傾斜面を側方から各支持体により中央に向けてそれぞれ押圧支持してなるため、流量調節構造体の最下端の中央が変形したり割れたりすることなく、高温状態で長期間安定した寸法品位を有する薄板ガラスの生産を行うことができるものである。」
(カ)「【0036】
(実施例1)図1に本発明の板ガラスの成形装置である流量調節構造体10の平面図を示す。ガラス溶融炉のフィーダー等で均質化された溶融ガラスは、溶融ガラス供給管11から流量調節構造体10のガラス供給溝12に流れ込む。そしてそのガラス供給溝12の両側の頂部よりオーバーフローした溶融ガラスは、流量調節構造体10の両側面13に沿って流下し、流量調節構造体10の下端18で合流することによって1枚の板ガラスに成形される。そして、本発明の流量調節構造体10は、その長手方向の両端にある傾斜面10a、10bから台形部材14によって支持されており、台形部材14は耐熱性板部材15を介して、長手方向の一方側を歯止め部材16で保持され、長手方向の他方側をエアシリンダー等の加圧装置17によって押圧されて支保されている。」
(キ)「【0037】
そして加圧装置17は、流量調節構造体10そのものの自重と溶融ガラスによって生じる負荷に耐え、しかも流量調節構造体10の微細なクリープによる変位や温度条件による膨張によって生じる変動を計測に基づいて補正できるように設計されており、・・・。」
(ク)「【0045】
さらに、板ガラス製造後の流量調節構造体10について、装置下端部の性状、寸法の調査を行うと、装置下端部18の中央位置は、製造当初の寸法から0.1mm下方にクリープ変形した状態であり、クラック等の異常も認められなかった。これに対して従来形状の板ガラス成形装置を使用すると、同条件で生産された場合には、装置下端部中央位置は15?20mmの変形量であって、製造終期には、板ガラスの表面うねりが大きくなるという問題が認められ、しかも下端の先端部にクラックも発生した。この様に、本発明の板ガラス製造装置を採用し、成形を行うことによって、板ガラス成形品位が向上し、長期に亘って安定した寸法精度を有する板ガラスの製造が可能となることが判明した。」
(ケ)引用例1の図1は次のとおりものであり、記載事項(カ)に記載されたとおりの流量調整構造体を確認することができる。
「図1



(2)引用例1に記載された発明
記載事項(イ)によれば、引用例1に記載された発明は、「オーバーフローダウンドロー方式の板ガラス製造装置」に関するものであり、同(ア)によれば、この装置は「上部が開口した樋形状の溶融ガラス供給溝を頂部に有し、ガラス供給溝の両側壁頂部をオーバーフローの堰とし、両側壁の外面部を断面が略楔形となるように下方へ向けて接近させた溶融ガラスの流量調節構造体を備え、溶融ガラスをガラス供給溝の一端から連続的に供給して両側壁頂部よりオーバーフローさせ、両側壁外面に沿って流下させて略楔形下端で合流した1枚のガラス板を成形する耐火性の板ガラス製造装置」と表現できる。
そして、引用例1に記載された発明で解決しようとする課題は、同(ウ)によれば、「耐クリープ変形に対する強度等が不充分となって、流量調節構造体の断面が略楔形である長手方向の下端中央部付近が湾曲するなどの問題」であり、同(ア)によれば、「流量調節構造体の長手方向の両端にある側面は、少なくともその下部が下方へ向けて接近させた対向する傾斜面になっており、対向する該傾斜面を側方から各支持体により中央に向けてそれぞれ押圧支持」することを課題解決手段とするものである。
この課題解決手段に関して実施例1には、「本発明の流量調節構造体10は、その長手方向の両端にある傾斜面10a、10bから台形部材14によって支持されており、台形部材14は耐熱性板部材15を介して、長手方向の一方側を歯止め部材16で保持され、長手方向の他方側をエアシリンダー等の加圧装置17によって押圧されて支保されている。」(同(カ))と記載されている。
これらの記載事項を、本願発明の記載ぶりにそって整理すると、引用例1の実施例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認める。
「上部が開口した樋形状の溶融ガラス供給溝を頂部に有し、ガラス供給溝の両側壁頂部をオーバーフローの堰とし、両側壁の外面部を断面が略楔形となるように下方へ向けて接近させた溶融ガラスの流量調節構造体を備え、溶融ガラスをガラス供給溝の一端から連続的に供給して両側壁頂部よりオーバーフローさせ、両側壁外面に沿って流下させて略楔形下端で合流した1枚のガラス板を成形する耐火性の板ガラス製造装置において、
前記流量調節構造体の長手方向の両端にある側面は、少なくともその下部が下方へ向けて接近させた対向する傾斜面になっており、対向する該傾斜面を側方から各台形部材により中央に向けてそれぞれ押圧支持するにあたり、流量調整構造体の長手方向に一方側を歯止め部材で保持し、長手方向の他方側を加圧装置で押圧・保持してなる板ガラス成形装置。」

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1発明とは、ガラス成形方法がオーバーフローダウンドロー方式である点で共通し、引用例1発明の「流量調節構造体」、「両側壁の外面部を断面が略楔形となるように下方へ向けて接近させた」、「上部が開口した樋形状の溶融ガラス供給溝」、「両側壁頂部」は、本願発明の「板成形構造」あるいは「成形構造」、「ウエッジ形状の板成形構造がウエッジの底で収束する、下方向に傾斜している側面」、「溶融ガラスを受けるための樋」、「樋の側面」に相当する。
このため、引用例1発明におけるオーバーフローダウンドロー方式を示す前提部分である「・・・板ガラス製造装置において」は、本願発明における前提部分である「・・・ガラス板が成形されるように構成された装置において」に相当する。
また、引用例1発明における「台形部材」、「加圧装置」は、本願発明の「圧縮ブロック」、「力印加装置」にすることは明らかであるが、引用例1の図1を参照すれば、引用例1における「長手方向の一方側」及び「長手方向の他方側」は、それぞれ、本願発明における「成形構造の流入口端圧縮ブロックとは反対側の端」あるいは「遠端」及び「成形構造の流入口端」あるいは「流入口端」に相当し、引用例1発明における台形部材は、いずれも、流入口端と遠端の底端に配置され、流入口端と遠端の底の部分に力を印加していることを確認することができる。
さらに、引用例1発明では、台形部材により対向する傾斜面を側方から押圧することにより、従来技術では装置下端部の中央位置は製造当初の寸法から15?20mm下方にクリープ変形したところを、0.1mmの変形にとどめている(同(ク))。このため、引用例1発明においても、各台形部材は、「成型構造の流入口端の底」及び「遠端の底」を「熱クリープによって長手方向に変形」しているといえる。
また、同(キ)によれば、引用例1発明で使用する加圧装置は、「流量調節構造体10の微細なクリープによる変位や温度条件による膨張によって生じる変動を計測に基づいて補正できるように設計されて」いるので、本願発明における「力印加装置」と同様に、「成形構造の底を前記成形構造の頂部よりも実質的に大きく圧縮し、前記成形構造の頂部よりも熱クリープに対する耐性の高い前記成形構造の底を熱クリープによって前記成形構造の頂部と同じ大きさだけ長手方向に変形し、よって熱クリープに起因する前記成形構造の変形が、前記ガラス板の厚さのばらつきに対して及ぼす影響が最小限」となるように加圧していると認める。
とすると、本願発明と引用例1発明とは、
「ウェッジ形状の板成形構造に取り付けられた側面を有する溶融ガラスを受けるための樋を有する、板ガラスを成形するための装置であって、前記ウェッジ形状の板成形構造が、前記ウェッジの底で収束する、下方向に傾斜している側面を有し、よって溶融ガラスが、前記樋の側面からオーバーフローして前記ウェッジ形状の板成形構造の下方向に傾斜している側面を流下し、前記ウェッジの底で融合する際に、ガラス板が成形されるように構成された装置において、
a)前記成形構造の流入口端に位置する少なくとも1つの流入口端圧縮ブロックであって、前記成形構造の底端に配置される流入口端圧縮ブロックと、
b)前記成形構造の流入口端圧縮ブロックとは反対側の端に位置する少なくとも1つの遠端圧縮ブロックであって、前記成形構造の底端に配置される遠端圧縮ブロックと、
c)前記流入口端圧縮ブロックに力を印加することによって、前記成形構造の流入口端の底を熱クリープによって長手方向に変形する流入口端力印加装置と、を備え、
前記力印加装置が、前記それぞれの圧縮ブロックに対して対向する長手方向に力を印加することによって、前記成形構造の底を前記成形構造の頂部よりも実質的に大きく圧縮し、前記成形構造の頂部よりも熱クリープに対する耐性の高い前記成形構造の底を熱クリープによって前記成形構造の頂部と同じ大きさだけ長手方向に変形し、
よって熱クリープに起因する前記成形構造の変形が、前記ガラス板の厚さのばらつきに対して及ぼす影響が最小限であるようなものであることを特徴とする装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
・相違点:本願発明も引用例1発明も、圧縮ブロックに対して対向する長手方向に力を印加する点では共通するものの、本願発明では「遠端圧縮ブロックに力を印加する・・・遠端力印加装置」を備えるものの、引用例1発明では、遠端圧縮ブロックに相当する台形部材を「歯止め部材で保持」している点。

(2)判断
記載事項(カ)によれば、「台形部材14は耐熱性板部材15を介して、長手方向の一方側を歯止め部材16で保持され、長手方向の他方側をエアシリンダー等の加圧装置17によって押圧されて支保されている」のであり、これは、同(ア)における「対向する該傾斜面を側方から各支持体により中央に向けてそれぞれ押圧支持」することの一実施態様である。
このため、引用例1発明では、遠端にあたる部分では台形部材を「歯止め部材で保持」しているが、これにより、流入口端に印加する力と同じ力が反作用により遠端に印加されていると理解することができる。
したがって、引用例1発明において、歯止め部材で保持することにより流入口端に印加した力を介して遠端に力を印加していたことを、遠端にも独立して印加装置を配置して流入端側と同じ力を印加することに変更することは、単なる設計変更にあたり技術的に格別のものとすることができない。

(3)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、引用例1には、本願発明の特徴が記載されていないと主張し、具体的には、(1)引用例1に記載された流量調節構造体は、単に押圧支持される対向傾斜面を有するものであり、(2)傾斜面が力を上方へ方向付けるものにすぎず、(3)成形構造の底を熱クリープによって成形構造の頂部と同じ大きさだけ長手方向に変形することについて記載も示唆もない旨を主張する(審判請求書第3頁下から7行?第4頁10行)。
しかし、(1)、(3)に関しては、上記したように、引用例1発明で使用する加圧装置は、流量調節構造体の微細な変位や変動を補正できるように設計されており(記載事項(キ))、この加圧装置の押圧により装置下端部の中央位置のクリープ変形を0.1mm以下に抑えることができた(同(ク))のであるから、引用例1発明の台形部材は、単に押圧するのみでなく熱クリープ変形を発生させているといえる(上記(1))し、成形構造の底は、熱クリープにより同頂部と同じ大きさに変形している(上記(3))といえる。
また、上記(2)に関しては、同(エ)によれば、引用例1発明では傾斜角度を0°?35°の範囲で任意に設定できるとしているので、力を上方のみではなく対向する長手方向に印加することを含むし、本願発明が圧縮ブロックにより力を印加する方向を特定していないので、引用例1発明が傾斜面に力を印加している点は、本願発明との相違点とすることができない。
したがって、請求人に主張は、いずれも採用することができない。

5 結論
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-26 
結審通知日 2013-07-02 
審決日 2013-07-17 
出願番号 特願2008-545954(P2008-545954)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 淳子  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官
松本 貢
中澤 登
発明の名称 オーバーフローダウンドローガラス成形方法および装置  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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