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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1282212
審判番号 不服2012-19070  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-28 
確定日 2013-11-27 
事件の表示 特願2008-517378「モータ乗り物のための自動変速機の駆動制御装置、および、そのための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日国際公開、WO2006/136320、平成20年12月25日国内公表、特表2008-546962〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年6月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月22日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成23年11月16日付け手続補正、及び同日付け誤訳訂正により補正・訂正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
モータ乗り物の自動変速機の駆動制御装置において、
モータ乗り物は、燃焼エンジンで駆動可能な主オイルポンプと、電気的に駆動可能な補助オイルポンプと、を有する自動変速機を有し、
モータ乗り物は、
自動変速機のための液体圧制御装置と、
自動変速機内のオイル温度に基づいて、自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態において必要なオイル液体の所望体積流を決定するために用いられる体積流需要測定装置と、
自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態で、主オイルポンプおよび/または補助オイルポンプによって供給可能な実際体積流を決定するために用いられる供給体積流測定装置と、
実際に供給される実際体積流が実際の所望体積流に対する値よりも小さい値を有する場合に、所望体積流を少なくとも実際に供給される実際体積流まで小さくするために用いられる所望体積流影響装置と、
を備え、
所望体積流影響装置は、自動変速機に配置されたクラッチの液体アクチュエータの充填のためのクラッチ充填圧力を小さくする、ことを特徴とするモータ乗り物の自動変速機の駆動制御装置。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1は、上記2.に記載したとおりである。
(2)引用例
特開2004-108417号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用油圧ポンプの駆動制御装置に関し、特に車両の駆動源により駆動される油圧ポンプを小型化した構成において、エネルギ出力を抑制する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両において、たとえば自動変速機の油圧制御回路に油圧を供給するために、第1駆動源として機能するエンジンにより駆動される第1油圧ポンプと、電動モータにより駆動される第2油圧ポンプとを備えた車両が知られている(例えば、特許文献1を参照)。かかる車両は、例えば、エンジンにより駆動される機械式油圧ポンプと、モータジェネレータにより駆動される電動式油圧ポンプと、作動油の供給制御を行う制御手段を備えており、その制御手段は、上記エンジンが高速回転しているときには上記機械式油圧ポンプのみを駆動させ、そのエンジンが低速回転しているときには上記機械式油圧ポンプを駆動させると共に、その機械式油圧ポンプの流量不足分を補うように上記電動式油圧ポンプを駆動させる。また、エンジン停止時においては、必要に応じて上記電動式ポンプのみを駆動させる。そのような構成によれば、エンジン停止時において、バッテリの消費電力を可及的に抑えながら自動変速機へ作動油を供給することができ、また、上記エンジンにより駆動される機械式油圧ポンプの小型化が実現される。
【0003】
【特許文献1】
特開2000-46166号公報
【特許文献2】
特開平7-217733号公報
【特許文献3】
特開2000-186758号公報
【特許文献4】
特開2001-324009号公報
【特許文献5】
特開2001-330145号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の車両用油圧ポンプの駆動制御装置は、前記第1(機械式)油圧ポンプによる作動油の供給量が不足する際に、単純にその不足量を補うように前記第2(電動式)油圧ポンプを駆動するものであり、それら第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプを駆動するために要されるエネルギ出力については特に考慮されていなかった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の駆動源により駆動される第1油圧ポンプを小型化した構成において、エネルギ出力を可及的に抑制できる車両用油圧ポンプの駆動制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、車両の第1駆動源により駆動される第1油圧ポンプと、第2駆動源により駆動される第2油圧ポンプとを備え、前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプの作動を制御するための車両用油圧ポンプの駆動制御装置であって、前記車両の駆動状態に応じて必要とされる作動油の総吐出量を演算する総吐出量演算手段と、前記第1油圧ポンプの吐出量と第2油圧ポンプの吐出量との和が前記総吐出量となり、且つその第1油圧ポンプを駆動するために前記第1駆動源に要される第1エネルギ出力とその第2油圧ポンプを駆動するために前記第2駆動源に要される第2エネルギ出力との和が最小となる割合で前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプの駆動を制御する油圧ポンプ駆動制御手段とを含むことにある。
【0007】
【発明の効果】
このようにすれば、前記車両の駆動状態に応じて必要とされる作動油の総吐出量を演算する総吐出量演算手段と、前記第1油圧ポンプの吐出量と第2油圧ポンプの吐出量との和が前記総吐出量となるように、且つその第1油圧ポンプを駆動するために前記第1駆動源に要される第1エネルギ出力とその第2油圧ポンプを駆動するために前記第2駆動源に要される第2エネルギ出力との和が最小となる割合で前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプの駆動を制御する油圧ポンプ駆動制御手段とを含むことから、前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプがその駆動エネルギ上で最適の割合となるように駆動制御されることで、エネルギ出力を可及的に抑制でき、車両の燃費をよくする車両用油圧ポンプ駆動制御装置を提供することができる。
【0008】
【発明の他の態様】
ここで、好適には、前記総吐出量演算手段により算出された総吐出量に対する作動油の過不足量を演算する過不足量演算手段と、前記第1油圧ポンプが前記過不足量の作動油を供給するために前記第1駆動源に要される第1エネルギ出力増加量を演算する第1出力演算手段と、前記第2油圧ポンプが前記過不足量の作動油を供給するために前記第2駆動源に要される第2エネルギ出力増加量を演算する第2出力演算手段とを備え、前記油圧ポンプ駆動制御手段は、上記第1エネルギ出力増加量と第2エネルギ出力増加量とのうちの何れか小さい方にて前記過不足量の作動油を供給するように前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプの駆動を制御するものである。このようにすれば、可及的に小さなエネルギ出力増加により、前記総吐出量演算手段により算出された総吐出量に対する過不足量の作動油を供給できるという利点がある。
【0009】
また、好適には、前記第1駆動源および第2駆動源の少なくとも一方は、前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプとは異なる補機に駆動力を与えるものであり、前記油圧ポンプ駆動制御手段は、前記補機を駆動するために要するエネルギ出力を加味して前記第1エネルギ出力と第2エネルギ出力との和が最小となるように前記第1油圧ポンプおよび第2油圧ポンプの駆動を制御するものである。このようにすれば、前記第1エネルギ出力または第2エネルギ出力が、エアコン等の補機を駆動するためのエネルギ出力に付随して考えられる場合などにおいては、エネルギ出力を更に抑制できるという利点がある。
【0010】
また、好適には、前記第2油圧ポンプを正常駆動可能な状態であるか否かを判定する第2油圧ポンプ駆動可能判定手段を含み、前記油圧ポンプ駆動制御手段は、その第2油圧ポンプ駆動可能判定手段によって前記第2油圧ポンプが正常駆動可能な状態でないと判定された場合には、前記第1油圧ポンプによって前記過不足を補うように前記第1駆動源を制御するものである。このようにすれば、第2油圧ポンプを正常駆動可能な状態でない場合には、その第2油圧ポンプの吐出量が第1油圧ポンプによって補われて専らその第1油圧ポンプによって過不足が補われる。
【0011】
また、好適には、前記第1油圧ポンプの吐出量によっても前記総吐出量が充足されない作動油不足状態では、前記作動油を消費する自動変速機の変速制御を抑制する変速制御抑制手段を備えたものである。このようにすれば、作動油不足状態では、作動油を消費する自動変速機の変速制御が抑制されるすなわち作動油の消費量の少なくても作動する変速制御に切り換えられるので、異常な変速が防止される。
【0012】
また、好適には、前記総吐出量演算手段は、車両の自動変速機の入力トルクと入力軸回転速度、変速状態、車速、車速と自動変速機の入力トルク、自動変速機の作動油温度、自動変速機の変速用油圧制御回路のライン圧のいずれかに基づいて、前記総吐出量を算出するものである。このようにすれば、容易且つ正確に総吐出量が得られる。」
(い)「【0020】
以上のように構成された自動変速機16は、車両の前後方向に位置するPポジション、Rポジション、Nポジション、Dおよび4ポジション、3ポジション、2およびLポジションへ択一的に操作されるようにその支持機構が構成されているシフトレバー78により、例えば図3に示す係合作動表に示された油圧式摩擦係合装置(クラッチ、ブレーキ)の係合作動の組み合わせに従って後進1段および変速比が順次異なる前進5段の変速段のいずれかに切り換えられる。図3において「○」は係合状態を表し、空欄は解放状態を表し、「◎」はエンジンブレーキのときの係合状態を表し、「△」は動力伝達に関与しない係合を表している。この図3に示すように、上記シフトレバー78が駆動ポジションすなわち走行位置(R、D、4、3、2、L)に操作されると、クラッチC2またはC1が係合させられて前記エンジン10の動力が図示しない駆動輪へ伝達され、車両が後進走行あるいは前進走行させられる。なお、前述のクラッチC0?C2およびブレーキB0?B4は何れも油圧アクチュエータによって係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0021】
また、図2に示すように、前記自動変速機16のハウジング44内には、前記ポンプ翼車26と共に回転させられる機械式の第1油圧ポンプ56が設けられている。その第1油圧ポンプ56は、例えばベーン型ポンプであって、前記入力クラッチ12が係合させられているときには、前記エンジン10により回転駆動されてそのエンジン10に負荷を与え、前記入力クラッチ12が解放されているときには、前記第1モータジェネレータ18により回転駆動されてその第1モータジェネレータ18に負荷を与える。かかる第1油圧ポンプ56は、前記ハウジング44の底を構成する図示しないオイルパン内に還流した作動油を圧送するものである。
【0022】
また、図1に示すように、前記自動変速機16には、電気エネルギによって作動する電動モータ60により回転させられる電動式の第2油圧ポンプ58と、前記自動変速機16の駆動を制御するための油圧制御回路62および電子制御装置64とが備えられている。かかる第2油圧ポンプ58は、一般的なバッテリまたはキャパシタなどを電源として含むものであり、上記第1油圧ポンプ56と同様に、前記ハウジング44の底を構成するオイルパン内に還流した作動油を圧送するものである。
【0023】
図4は、前記油圧制御回路62の一部を説明する図である。この図に示すように、オイルパン内のオイルタンク66に還流させられた作動油は、前記第1油圧ポンプ56と必要に応じて前記第2油圧ポンプ58とにより圧送され、それら第1油圧ポンプ56および第2油圧ポンプ58から圧送された作動油はライン圧制御用電磁弁68からの指令に従って調圧を行うプライマリレギュレータバルブ70によって自動変速機16の油圧式摩擦係合装置の係合圧の元圧であるライン圧となるように調圧される。このライン圧は、通常、スロットル開度及び車速Vに基づいて算出される自動変速機16の入力トルクに応じた値に調圧される。ここで、前記第2油圧ポンプ58は、スプリング74を備えた第1切換弁72を介して接続されており、前記第2油圧ポンプ58の駆動時においては、上記スプリング74の付勢力によりその第2油圧ポンプ58から圧送された作動油がライン圧となるように調圧される一方、前記第2油圧ポンプ58の停止時においては、上記第1切換弁72が切り換えられることにより、前記第1油圧ポンプ56により圧送された作動油の逆流が防止される。また、前記第1油圧ポンプ56と第2油圧ポンプ58との間には、流量制御のためのチェック弁76が設けられている。上記プライマリレギュレータバルブ70によって調圧された作動油は、シフトレバー78に対して機械的に連結されることによりそのシフトレバー78の操作に連動させられるマニュアルバルブ80、および電磁弁82により制御される第2切換弁84を通して前記クラッチC0?C2、ブレーキB0?B4などの摩擦係合装置86に供給される。また、上記プライマリレギュレータバルブ70から排出された作動油は、セカンダリレギュレータバルブ88によって調圧された後、前記トルクコンバータ14および潤滑油路90などに供給される。
【0024】
前記電子制御装置64は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、たとえば、予め記憶された変速線図から車速Vおよびスロットル開度に基づいて前記自動変速機16のギヤ段を自動的に切り換える変速制御、前記ロックアップクラッチ32の係合、解放、あるいはスリップを実行する制御、前記第1油圧ポンプ56、第2油圧ポンプ58の駆動制御、およびハイブリッド原動機切換制御などを実行するものである。
【0025】
図5は、前記電子制御装置64に入力される信号およびその電子制御装置64から出力される信号を例示している。この図5に示すように、かかる電子制御装置64には、例えば前記エンジン10の回転速度であるエンジン回転速度N_(E) を表す信号、そのエンジン10の冷却水温度であるエンジン水温T_(E) を表すエンジン水温信号、前記電動モータ60に備えられたバッテリの電気エネルギ残量であるバッテリSOC(充電レベル)R_(batt)を表すバッテリSOC信号、そのバッテリの電圧E_(batt)を示すバッテリ電圧信号、入力軸回転速度センサ92により検出された前記自動変速機16の入力軸回転速度N_(IN)を表す信号、出力軸回転速度センサ94により検出された前記自動変速機16の出力軸回転速度N_(OUT) に対応する車速Vを表す信号、前記自動変速機16内を循環する作動油の温度を示すAT油温T_(AT)を表す信号、前記シフトレバー78の操作位置P_(SH)を表すシフトポジション信号、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度θ_(A) を表すアクセル開度信号などが供給されている。また、かかる電子制御装置64からは、前記第2油圧ポンプ58の駆動を制御する信号、燃料噴射弁から前記エンジン10の気筒内へ噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、前記ロックアップクラッチ32を開閉制御するために前記油圧制御回路62内のロックアップコントロールソレノイドを制御する信号、スロットル開度θ_(TH)を制御するために電子スロットル弁の開度を制御するスロットル制御信号、前記自動変速機16のギヤ段を切り換えるために前記油圧制御回路62内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号などが出力される。
【0026】
図6は、前記電子制御装置64の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図6において、総吐出量演算手段96は、車両の駆動状態に応じて必要とされる作動油の総吐出量Q_(ALL) を、スロットル開度θ_(TH)、車速V、変速係数、AT油温T_(AT)、ギヤ段またはギヤ比、自動変速機16の入力トルク、入力軸回転速度N_(IN)、およびライン圧などに基づいて逐次演算する。ここで、かかる演算において自動変速機16の変速すなわち変速係数が考慮に入れられているのは、変速中およびその前後では作動油の流量が比較的多く必要とされるためであり、その変速係数は、例えば変速の種類で区別され、係合作動させられる油圧式摩擦係合装置の数および種類に応じて、非変速中の1.0に比べて変速中およびその前後ではそれぞれ1.4乃至1.5などとされる。図7は、車両の走行状態に応じて必要とされる油圧ポンプの吐出量を示すグラフである。この図7に示すように、上記総吐出量Q_(ALL) は、スロットル開度θ_(TH)、車速V、変速係数、AT油温T_(AT)などに応じて定まる一方、負荷が高くなるほど多量とされる。上記総吐出量演算手段96は、例えば、前記電子制御装置64に予め記憶された図7のマップに基づいて上記総吐出量Q_(ALL) を導出する。なお、前記自動変速機16に設けられた前記摩擦係合装置86の係合に必要とされる作動油量はその態様によって異なり、油路が長いほど、あるいはクラッチパックが大きいほど多くの流量が必要とされる。
【0027】
過不足量演算手段98は、上記総吐出量演算手段96により算出された総吐出量Q_(ALL) に対する作動油の過不足量Q_(LA)を逐次演算する。図8は、第1油圧ポンプのポンプ回転数とその吐出量との関係を、図9は、第2油圧ポンプのポンプ回転数とその吐出量との関係を示すグラフである。これら図8および図9に示すように、油圧ポンプから吐き出される作動油の量とポンプ回転数との関係はその態様によって異なり、その吐出量は、それぞれのポンプ回転数と比例関係にある。上記過不足量演算手段98は、例えば、予め記憶された図8および図9のマップに基づいて、前記エンジン回転速度N_(E) および電動モータ回転速度N_(M)に応じてその時点での前記第1油圧ポンプ56の吐出量Q_(P1)および第2油圧ポンプ58の吐出量Q_(P2)を算出し、以下に示す式1から総吐出量Q_(ALL)、第1油圧ポンプ56の吐出量Q_(P1)、および第2油圧ポンプ58の吐出量Q_(P2)に基づいて作動油の過不足量Q_(LA)を導出する。なお、かかる過不足量Q_(LA)としては負の値も考えられ、以下の説明においても同様とする。
【0028】
[式1]
Q_(LA)=Q_(ALL) -(Q_(P1)+Q_(P2))」
(う)「【0036】
作動油不足判定手段108は、前記総吐出量Q_(ALL)が充足されない作動油不足状態、たとえば上記第2油圧ポンプ58を正常作動させることができず第1油圧ポンプ56の吐出量によっては、総吐出量Q_(ALL)が得られない作動油不足状態であるか否かを判定する。変速制御抑制手段110は、その作動油不足判定手段108により総吐出量Q_(ALL)が充足されない作動油不足状態であると判定された場合には、作動油を消費する自動変速機16の変速を一時的に遅らせたり或いはロックアップクラッチ32の切換を遅らせたりして変速制御を抑制する。たとえば、自動変速機16の連続的な変速を避け、所定の時間間隔を設けて変速させる。自動変速機16が無段変速機である場合には変速速度を低下させる。」
(え)「【0045】
また、本実施例によれば、第1油圧ポンプ56の吐出量によっても総吐出量Q_(ALL)が充足されない作動油不足状態では、作動油を消費する自動変速機16の変速制御を抑制する変速制御抑制手段110(S11)を備えたものであることから、作動油不足状態では、作動油を消費する自動変速機16の変速制御が抑制されるすなわち作動油の消費量の少なくても作動する変速制御に切り換えられるので、異常な変速が防止される。」
以上の事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両用油圧ポンプの駆動制御装置において、
車両は、エンジンで駆動される機械式の第1油圧ポンプと、電動式の第2油圧ポンプと、を有する自動変速機を有し、
車両は、
自動変速機の駆動を制御するための油圧制御回路および電子制御装置と、
変速係数、AT油温などに基づいて、車両の駆動状態に応じて必要とされる作動油の総吐出量を逐次演算する総吐出量演算手段と、
エンジン回転速度および電動モータ回転速度に応じてその時点での第1油圧ポンプの吐出量および第2油圧ポンプの吐出量を算出し、総吐出量、第1油圧ポンプの吐出量、および第2油圧ポンプの吐出量に基づいて作動油の過不足量を導出する過不足量演算手段と、
作動油不足判定手段において、総吐出量が充足されない作動油不足状態であると判定された場合には、作動油を消費する自動変速機の変速制御を抑制する変速制御抑制手段と、
を備え、
変速制御抑制手段は、作動油を消費する自動変速機の変速を一時的に遅らせたり或いはロックアップクラッチの切換を遅らせたりして変速制御を抑制し、また、自動変速機が無段変速機である場合には変速速度を低下させる、車両用油圧ポンプの駆動制御装置。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、後者の「車両」は前者の「モータ乗り物」に相当し、同様に、「エンジンで駆動される」は「燃焼エンジンで駆動可能な」に、「機械式の第1油圧ポンプ」は「主オイルポンプ」に、「電動式の第2油圧ポンプ」は「電気的に駆動可能な補助オイルポンプ」に、「自動変速機の駆動を制御するための油圧制御回路および電子制御装置」は「自動変速機のための液体圧制御装置」に、それぞれ相当する。
後者の「油圧ポンプ」は自動変速機に係るものであるから、後者の「車両用油圧ポンプの駆動制御装置」における「駆動制御装置」は前者の「駆動制御装置」に相当する。
後者の「AT油温」は前者の「オイル温度」に相当し、同様に、「変速係数」及び「車両の駆動状態」は「自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態」に相当するから、後者の「変速係数、AT油温などに基づいて、車両の駆動状態に応じて必要とされる作動油の総吐出量を逐次演算する総吐出量演算手段」は前者の「自動変速機内のオイル温度に基づいて、自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態において必要なオイル液体の所望体積流を決定するために用いられる体積流需要測定装置」に相当する。
後者の「エンジン回転速度および電動モータ回転速度に応じてその時点での第1油圧ポンプの吐出量および第2油圧ポンプの吐出量を算出し」は前者の「自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態で、主オイルポンプおよび/または補助オイルポンプによって供給可能な実際体積流を決定する」に相当する。また後者はそのような算出のために用いられる手段を備えており、このような手段は前者の「供給体積流測定装置」に相当する。
後者の「総吐出量、第1油圧ポンプの吐出量、および第2油圧ポンプの吐出量に基づいて作動油の過不足量を導出」し、「総吐出量が充足されない作動油不足状態であると判定された場合」は、前者の「実際に供給される実際体積流が実際の所望体積流に対する値よりも小さい値を有する場合」に相当する。
後者の「作動油を消費する自動変速機の変速制御を抑制する変速制御抑制手段」を「備え」、「変速制御抑制手段は、作動油を消費する自動変速機の変速を一時的に遅らせたり或いはロックアップクラッチの切換を遅らせたりして変速制御を抑制し、また、自動変速機が無段変速機である場合には変速速度を低下させる」と、前者の「所望体積流を少なくとも実際に供給される実際体積流まで小さくするために用いられる所望体積流影響装置」を備え、「所望体積流影響装置は、自動変速機に配置されたクラッチの液体アクチュエータの充填のためのクラッチ充填圧力を小さくする」は、「変速態様を制御する」点で一致する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「モータ乗り物の自動変速機の駆動制御装置において、
モータ乗り物は、燃焼エンジンで駆動可能な主オイルポンプと、電気的に駆動可能な補助オイルポンプと、を有する自動変速機を有し、
モータ乗り物は、
自動変速機のための液体圧制御装置と、
自動変速機内のオイル温度に基づいて、自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態において必要なオイル液体の所望体積流を決定するために用いられる体積流需要測定装置と、
自動変速機とモータ乗り物の実際の操作状態で、主オイルポンプおよび/または補助オイルポンプによって供給可能な実際体積流を決定するために用いられる供給体積流測定装置と、
実際に供給される実際体積流が実際の所望体積流に対する値よりも小さい値を有する場合に、変速態様を制御する、モータ乗り物の自動変速機の駆動制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明1は、
「実際に供給される実際体積流が実際の所望体積流に対する値よりも小さい値を有する場合に、所望体積流を少なくとも実際に供給される実際体積流まで小さくするために用いられる所望体積流影響装置」を備え、
「所望体積流影響装置は、自動変速機に配置されたクラッチの液体アクチュエータの充填のためのクラッチ充填圧力を小さくする」のに対し、
引用例1発明は、
「作動油不足判定手段において、総吐出量が充足されない作動油不足状態であると判定された場合には、作動油を消費する自動変速機の変速制御を抑制する変速制御抑制手段」を備え、
「変速制御抑制手段は、作動油を消費する自動変速機の変速を一時的に遅らせたり或いはロックアップクラッチの切換を遅らせたりして変速制御を抑制し、また、自動変速機が無段変速機である場合には変速速度を低下させる」点。
(4)判断
無段変速機の可変プーリの油圧シリンダに供給・排出される作動油流量を電磁弁等により増減することによって、無段変速機の変速速度が増減することは当業者に自明ないし技術常識であり、引用例1発明の「自動変速機が無段変速機である場合には変速速度を低下させる」という作用・機能が、そのような作動油流量の低減により実現されることは明らかである。そして、引用例1発明は、「作動油不足判定手段において、総吐出量が充足されない作動油不足状態であると判定された場合には、作動油を消費する自動変速機の変速制御を抑制する」ものであり、「このようにすれば、作動油不足状態では、作動油を消費する自動変速機の変速制御が抑制されるすなわち作動油の消費量の少なくても作動する変速制御に切り換えられるので、異常な変速が防止される。」(引用例1の特に【0011】)のであるから、これは、実質的に、本願発明1の「実際に供給される実際体積流が実際の所望体積流に対する値よりも小さい値を有する場合に、所望体積流を少なくとも実際に供給される実際体積流まで小さくする」ものであるといえる。
このように、(a)引用例1発明は、「総吐出量、第1油圧ポンプの吐出量、および第2油圧ポンプの吐出量に基づいて作動油の過不足量を導出」し、「総吐出量が充足されない作動油不足状態であると判定された場合」には、「作動油を消費する自動変速機の変速制御を抑制する」ものであること、(b)引用例1発明は「自動変速機が無段変速機である場合には変速速度を低下させる」ものであるが、自動変速機が無段変速機である場合は、例えば、無段変速機の可変プーリの油圧シリンダに供給・排出される作動油流量を低減することにより変速速度が低下すること、(c)本願の明細書に「【0035】 計算ブロック20が制御される場合、自動変速機の制御戦術において介入がなされる(eingegriffen)。ここで、特に、支配された操作条件の各々により、制御戦術における供給需要のための一つまたは多数の惹起(Verursacher)により、種々の介入がなされる。対策は、例えば、クラッチ充填圧力の減少による液体圧クラッチアクチュエータの充填における介入であり、充填時間を容易に延長して発生を変化させる。」と記載されているように、「クラッチ充填圧力の減少による液体圧クラッチアクチュエータの充填における介入」は「対策」の例示にすぎないこと、(d)自動変速機のブレーキ、クラッチ等の摩擦係合装置は油圧アクチュエータによって係合・離脱されるが、油圧ポンプから該油圧アクチュエータへ供給される作動油が不足する場合には、無段変速機における場合と同様に、作動油流量を低減し、それにより、「作動油不足状態では、作動油を消費する自動変速機の変速制御が抑制されるすなわち作動油の消費量の少なくても作動する変速制御に切り換えられるので、異常な変速が防止される」(引用例1の【0011】])ことが望ましい点で格別異なるところはないこと、以上を合わせ考えると、引用例1発明において、自動変速機の作動油が不足する場合に、自動変速機のクラッチ等の摩擦係合装置を係合・離脱する油圧アクチュエータへ供給される作動油流量を低減することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、実質的に、相違点に係る本願発明1の上記事項を具備している。
そして、本願発明1の効果は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が予測し得る程度のものである。
(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

以上に関連して、請求人は、平成23年11月26日付け意見書において、
「(b)引用文献1との対比
引用文献1に記載された発明(引用発明1)は、段落0036に記載の通り、「変速制御抑制手段110は、その作動油不足判定手段108により総吐出量QALLが充足されない作動油不足状態であると判定された場合には、作動油を消費する自動変速機16の変速を一時的に遅らせたり或いはロックアップクラッチ32の切換を遅らせたりして変速制御を抑制する」ものでありますが、具体的な変速の遅延方法については、「たとえば、自動変速機16の連続的な変速を避け、所定の時間間隔を設けて変速させる」ことしか示されておらず、…」(引用文献1は本審決の引用例1である。)と主張しているが、引用例1(【0036】)の「自動変速機16の連続的な変速を避け、所定の時間間隔を設けて変速させる」はその前に「たとえば、」と記載されているように、「変速制御を抑制する」ことの例示にすぎず、それに限定されるものではない。そして、引用例1には、それに続けて、「自動変速機16が無段変速機である場合には変速速度を低下させる。」と記載されており、「変速速度を低下させる」と明記されている。

4.結語
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-25 
結審通知日 2013-07-02 
審決日 2013-07-17 
出願番号 特願2008-517378(P2008-517378)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仲村 靖  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
中屋 裕一郎
発明の名称 モータ乗り物のための自動変速機の駆動制御装置、および、そのための方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 大倉 昭人  

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