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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A01N
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A01N
管理番号 1282463
審判番号 無効2009-800083  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-04-20 
確定日 2013-10-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4237247号「遺体の処置装置」の特許無効審判事件についてされた平成24年7月6日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10296号平成25年3月19日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯
1 本件特許
本件特許第4237247号の請求項1に係る発明についての出願(以下「本件出願」という。)は、2005年1月18日になされた国際出願PCT/JP2005/512号が国内移行した特願2006-519003号の一部を新たな特許出願とした特願2008-8940号の一部につき新たな特許出願とした特願2008-137926号の一部をさらに新たな特許出願とした特願2008-268908号として、本件審判被請求人(以下「被請求人」という。)により平成20年10月17日になされ、平成20年12月26日に特許権の設定登録がなされたものである。

2 本件請求の趣旨及びその理由の概要
(1)本件審判請求書における趣旨及び無効理由の概要
審判請求人(以下「請求人」という。)は、本件特許第4237247号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての特許が、概略、下記【無効理由1】ないし【無効理由5】の各理由により特許法第123条第1項第2号又は同条同項第4号の規定に該当し、無効とする、との審決を求め、下記証拠方法を提示し、本件審判を請求した。
【無効理由1】
本件出願は分割要件を満たしていないものであるから出願日遡及効は得られず、本件出願の出願日は現実の出願日である。
そして、本件発明は、その現実の出願日の前に頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
【無効理由2】
本件出願は分割要件を満たしていないものであるから出願日遡及効は得られず、本件出願の出願日は、現実の出願日である。
そして、本件発明は、その現実の出願日の前に頒布された刊行物(甲第3号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
【無効理由3】
本件出願は分割要件を満たしていないものであるから出願日遡及効は得られず、本件出願の出願日は、現実の出願日である。
そして、本件発明は、その現実の出願日の前に頒布された刊行物(甲第3号証)に記載された発明及び甲4?8号証記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
【無効理由4】
本件発明は、その出願日の前に頒布された刊行物(甲第5号証)に記載された発明及び甲第6?9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
【無効理由5】
a.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
b.本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<請求人提示の証拠方法(請求時)>
甲第1号証:特開2008-231118号公報
甲第2号証:国際公開2006/077617号
甲第3号証:特開2005-329161号公報
甲第4号証:実用新案登録第3106399号公報
甲第5号証:実用新案登録第3056825号公報
甲第6号証:特開2001-288001号公報
甲第7号証:特開平10-298001号公報
甲第8号証:特開平7-265367号公報
甲第9号証:実願平1-46652号(実開平2-136648号)のマイクロフィルム
甲第10号証:特願2000-100955号の出願事項及び登録事項の特許庁電子図書館出力データシート

(2)平成22年1月8日付け審決(以下「第1次審決」という。)時までの無効理由の追加及び撤回
請求人は、平成21年10月8日付け上申書において、下記証拠方法(甲第11号証)を提示した上で、下記無効理由(【理由その4の2】)を追加する審判請求書の補正をしたが、平成21年12月18日付けの補正の許否の決定において、当該補正を許可しない旨決定された。
また、請求人は、平成21年11月12日に行われた第1回口頭審理において、上記【無効理由5】のうちa.の理由を取り下げた。

【理由その4の2】
本件発明は、その出願前に頒布された刊行物(甲第7号証)に記載された発明及び甲第4ないし6、8、9、11号証記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

<第1次審決までに追加された証拠方法>
甲第11号証:特開2002-172165号公報
参考資料1:岩波 理化学辞典 第5版(2004年12月20日 株式会社岩波書店発行)第1371頁
参考資料2:株式会社三商「研究実験用ガラス製品・機器総合カタログ2002」(2002年6月発行)第950頁
参考資料3:岩波 広辞苑 第4版机上版(1993年2月25日 株式会社岩波書店発行)第586頁
参考資料4:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第III部、第1節、第1?3頁
(以下、「甲第1号証」などを「甲1」などと略し、「参考資料1」などを「参1」などと略していう。)

(3)答弁の趣旨
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、とし、以降、下記の証拠方法を提示の上、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をした。

<被請求人提示の証拠方法(第1次審決まで)>
乙第1号証:大阪地裁平成18年(ヨ)第20021号事件の仮処分決定
乙第2号証:大阪地裁平成18年(ワ)第10158号事件・同平成19年(ワ)第4022号事件の和解調書
乙第3号証の1:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第V部、第1章、第1?14頁
乙第3号証の2:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第II部、第2章、第13?22頁
乙第3号証の3:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第I部、第1章、第4?12頁
乙第4号証:実用新案登録第3056826号
乙第5号証:特開2000-128701号公報
乙第6号証:実用新案登録第3064506号
乙第7号証:特開2001-89301号公報
乙第8号証:特開2002-315792号公報
乙第9号証:実用新案登録第3042138号
乙第10号証:特開2002-275001号公報
乙第11号証:特許第4152430号公報
乙第12号証:特開2008-100116号公報
乙第13号証:松下讓兒著「国試看護シリーズ・イラストで見る診る看る 人体の構造と機能 第1版」(2004年5月21日 TECOM発行)第375?377頁
乙第14号証:竹尾惠子監修「看護技術プラクティス(第2版)」(2009年10月15日)第58?63頁
(以下「乙第1号証」などを「乙1」などと略していう。)

3 以降の手続の経緯
本件審判は、上記2(1)の請求の趣旨及び理由により、平成21年4月20日に請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下の(1)?(8)のとおりである。

(1)第1次審決までの経緯
第1次審決までの本件に係る手続の経緯は以下のとおりである。
平成21年 4月20日 審判請求書・甲1?10提出
平成21年 6月10日 請求書の手続補正書提出(請求人)
平成21年 8月 8日 答弁書・乙1?10提出(被請求人)
平成21年10月 7日 上申書・乙11、乙12提出(被請求人)
平成21年10月 8日 上申書・甲11提出(請求人)
平成21年10月29日 口頭審理陳述書・参1提出(請求人)
平成21年10月29日 口頭審理陳述書提出(被請求人)
平成21年11月12日 口頭審理(第1回)
平成21年11月26日 上申書・乙13、乙14提出(被請求人)
平成21年12月10日 上申書・参2?4提出(請求人)
平成21年12月18日付け 補正許否の決定
平成21年12月18日付け 審理終結通知
平成22年 1月 8日付け 第1次審決

(2)第1次審決の結論・審決取消訴訟
ア 第1次審決の結論
第1次審決では、上記【無効理由1】ないし【無効理由4】、【無効理由5】のうちのb.につきいずれも理由がないとして、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。

イ 審決取消訴訟
請求人は、同人を原告とし被請求人を被告とする、第1次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、当該訴訟は、平成22年(行ケ)第10060号事件として審理され、【無効理由4】に係る判断の誤りをもって、第1次審決を取り消す旨の判決が平成22年11月29日に言い渡された。
そして、本件については、再度審理をすべく当審に差し戻された。

(3)差戻し以降平成23年10月18日付け審決までの手続の経緯
本件が当審に差し戻された以降平成23年10月18日付け審決(以下「第2次審決」という。)までの手続の経緯については、以下のとおりである。
平成22年12月20日 訂正請求申立書提出(被請求人)
平成23年 1月14日付け 訂正請求のための期間指定通知
平成23年 1月20日 訂正請求書提出(被請求人)
平成23年 2月 4日付け 弁駁指令・訂正請求書副本送付
平成23年 3月10日 弁駁書(審判請求書の補正を含む)、
甲12の1?甲15、参5提出(請求人)
平成23年 4月12日付け 補正許否の決定
同日付け 書面審理通知・答弁指令
平成23年 5月16日 答弁書、乙15?18、資料1?15提出
(被請求人)
同日 訂正請求書提出(被請求人)
平成23年 6月 1日付け 弁駁指令・答弁書副本及び訂正請求書副本
の送付
平成23年 7月 4日 弁駁書(その2)、甲16?甲31の2、
参1、参2、参6提出(請求人)
平成23年 7月19日付け 弁駁書副本送付
平成23年 7月22日付け 審理事項通知書(両当事者あて)
平成23年 8月13日 上申書、乙19提出(被請求人)
平成23年 8月16日付け 上申書副本送付(請求人あて)
平成23年 9月 2日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成23年 9月16日 口頭審理(第2回)
同日 審理終結通知(口頭)
平成23年10月18日付け 第2次審決

(4)差戻し以降第2次審決までの無効理由の追加及び撤回並びに証拠方法の追加
(なお、以下の追加された証拠方法についても、「甲12の1」、「乙19」「参6」のように略していう。)

ア 無効理由の追加及び撤回
(ア)無効理由の追加
請求人は、平成23年1月20日付け訂正請求を受け、平成23年3月10日付け弁駁書において、以下の新たな無効理由を追加する審判請求書の補正を行い、当審は、当該審判請求書の補正を、平成23年4月12日付けで許可する旨決定した。

【新たな無効理由1】(以下【無効理由6】という。)
訂正後の本件発明は、本件出願前に公然知られた又は公然実施された甲12の1に係る発明であるから、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し、特許を受けることができない。
よって、訂正後の本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
【新たな無効理由2】(以下【無効理由7】という。)
訂正後の本件発明は、本件出願前に公然知られた又は公然実施された甲12の1に係る発明及び甲4ないし甲9並びに甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、訂正後の本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
【新たな無効理由3】(以下【無効理由8】という。)
本件発明は、本件出願前に頒布された甲7に記載された発明及び甲第4ないし6、8、9、11記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、訂正後の本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

(イ)無効理由の撤回(第2回口頭審理調書参照)
請求人は、平成23年9月16日に行われた第2回口頭審理において、同人が主張する無効理由の一部(【無効理由1】ないし【無効理由3】、【無効理由5】のうちのb.及び【無効理由6】)につき撤回した。
被請求人は、この口頭審理において、これらの無効理由の撤回に同意した。

イ 差戻し以降第2次審決までの証拠方法の追加
差戻し以降に両当事者が追加・提出した証拠方法は、以下のとおりである。

<請求人提示の証拠方法>
甲第12号証の1:商品名「Safety Set」カタログ、
株式会社アキシス発行
甲第12号証の2:「Safety Set」包装箱裏面複写物
甲第13号証:証明書(株式会社エムエムシーピー佐藤忠則作成)
(仕入れ台帳・売掛台帳の複写物、カタログ添付)
甲第14号証:特開2003-111830号公報
甲第15号証:実験報告書(請求人会社中村祥一作成)
甲第16号証:平成22年(行ケ)10060号被告第3準備書面
甲第17号証:平成22年(行ケ)10060号被告第4準備書面
甲第18号証:特許第3586207号公報
甲第19号証の1:陳述書(株式会社エムエムシーピー佐藤忠則作成)
甲第19号証の2:発注書(ダイワ薬品(株)高松支店作成)
甲第19号証の3:注文書(株式会社エムエムシーピー広島営業所作成)
甲第19号証の4:請求書(株式会社アキシス作成)
甲第19号証の5:請求書・納品書・物品受領書
(株式会社エムエムシーピー作成)
甲第20号証:売上日報(株式会社アキシス作成)
甲第21号証:警告書(被請求人作成)
甲第22号証:甲21警告書に対する回答書(請求人作成)
甲第23号証:返答書(被請求人作成、登録情報添付)
甲第24号証:回答書(請求人作成)
甲第25号証:通知書(被請求人作成、請求人あて)
甲第26号証:通知書(請求人作成、被請求人あて)
甲第27号証:通知書(被請求人作成)
甲第28号証:通知書(被請求人作成)
甲第29号証:訴状(請求人原告、被請求人被告)
甲第30号証:東京地裁平成20年(ワ)第1336号
第7回弁論準備手続調書(和解)
甲第31号証の1:「仕様変更のお知らせ」なる顧客配布用書簡
(請求人作成)
甲第31号証の2:「エンゼルウエイ(Angel Way)安全シート」
(請求人作成)
参考資料5:「遺体の体内物漏出防止技術」と題する請求人作成の書面
参考資料6:「本件分割出願の経緯」と題する請求人作成の書面

<被請求人提示の証拠方法>
乙第15号証:実験報告書(被請求人代理人作成)
乙第16号証:販売報告書(株式会社アキシス作成)
乙第17号証の1:東京地裁平成20年(ワ)第1336号被告準備書面5
(被請求人作成)
乙第17号証の2:東京地裁平成20年(ワ)第1336号被告準備書面6
(被請求人作成)
乙第17号証の3:東京地裁平成20年(ワ)第1336号被告準備書面7
(被請求人作成)
乙第17号証の4:東京地裁平成20年(ワ)第1336号被告準備書面8
(被請求人作成)
乙第17号証の5:東京地裁平成20年(ワ)第1336号被告準備書面9
(被請求人作成)
乙第18号証:被請求人の陳述書
乙第19号証:販売報告書(株式会社アキシス作成)
(ファクシミリ送信されたもの)
資料1:佐藤忠則の名刺複写物
資料2:特開2008-143833号公報
資料3:特開2008-143834号公報
資料4:株式会社アキシスの会社登記事項証明書
資料5:株式会社アキシスインターナショナルの会社登記履歴事項証明書
資料6:被請求人が代表者である株式会社ヒュー・メックスの従業員の
城戸和美の陳述書
資料7:会社ケイアンドケイの預金通帳の写し
資料8:会社ケイアンドケイの預金通帳の写し
資料9:販売報告書(株式会社アキシス作成)
資料10:商品名「Safety Set」カタログ、
株式会社アキシス発行
資料11:商品名「PMG(PostMortem Gel)」カタログ、
株式会社アキシスインターナショナル発行
資料12:「仕様変更に関するお知らせ」なる顧客配布用書簡
資料13:被請求人が代表者である株式会社ヒュー・メックスの従業員の
川野義美の陳述書
資料14:被請求人の陳述書
資料15:被請求人が代表者である株式会社ヒュー・メックスの従業員の
宮崎敬一の陳述書

(5)第2次審決の結論・審決取消訴訟
ア 第2次審決の結論
第2次審決では、上記【無効理由4】、【無効理由7】及び【無効理由8】につきいずれも理由があるとして、「訂正を認める。特許第4237247号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。

イ 審決取消訴訟
被請求人は、同人を原告とし請求人を被告とする、第2次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、当該訴訟は、平成23年(行ケ)第10393号事件として係属したが、被請求人は、当該訴訟提起後の平成24年1月23日に、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする本件特許に係る訂正審判(訂正2012-390004号)を請求した。
同裁判所は、両当事者に意見を聴いた上、本件特許を無効にすることについて特許無効審判において更に審理させることが相当であると認め、事件を審判官に差し戻すため、特許法第181条第2項の規定により第2次審決を取り消す旨の決定を平成24年1月30日に行った。
そして、本件については、再度審理をすべく当審に差し戻された。
(以下、この差戻しを「第2次差戻し」という。)

(6)第2次差戻し以降平成24年7月6日付け審決までの手続の経緯
本件が当審に差し戻された以降平成24年7月6日付け審決(以下「第3次審決」という。)までの手続の経緯については、以下のとおりである。
平成24年 2月22日付け 訂正請求のための期間指定通知
平成24年 3月21日付け 弁駁指令
訂正請求書(訂正2012-390004号
請求書)副本送付
平成24年 4月23日 弁駁書(審判請求書の補正を含む)、
甲32?34提出(請求人)
平成24年 5月 7日付け 補正許否の決定
同日付け 書面審理通知・答弁指令
平成24年 6月 8日 答弁書
平成24年 6月21日付け 審理終結通知
平成24年 7月 6日付け 第3次審決

(7)第2次差戻し以降の無効理由の追加並びに証拠方法の追加
(なお、以下の追加された証拠方法についても、「甲12の1」、「乙19」「参6」のように略していう。)

ア 無効理由の補正及びその一部不許可
請求人は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18号の規定によりなお従前の例によるとされる改正前(以下「平成23年改正前」という。)の特許法第134条の3第5項の規定により本件における訂正請求とみなされた訂正2012-390004号の内容を受け、平成24年4月23日付け弁駁書において、以下の新たな無効理由を追加することを含む審判請求書の補正を行った。
当審は、以下の新たな無効理由4を追加することを含む審判請求書の補正につき、平成24年5月7日付けで許可しない旨決定した。

【新たな無効理由4】(以下【無効理由9】という。)
訂正後の本件発明は、その現実の出願日前に出願された甲34の出願に係る発明であるから、特許法第39条第1項の規定により、特許を受けることができるものではない。
よって、訂正後の本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

また、請求人は上記の訂正請求を受けて、【無効理由4】、【無効理由7】、【無効理由8】について、新たな証拠として甲32を追加したが、これについては審判請求書の補正を許可する旨の決定をした。

イ 第2次差戻し以降の証拠方法の追加
第2次差戻し以降に請求人が追加・提出した証拠方法は、以下のとおりである。

<請求人提示の証拠方法>
甲第32号証:特開2002-315792号公報
甲第33号証:特開2008-143834号公報
甲第34号証:特許第4005624号公報

(8)第3次審決の結論・審決取消訴訟
ア 第3次審決の結論
第3次審決では、上記【無効理由4】、【無効理由7】及び【無効理由8】につきいずれも理由があるとして、「訂正を認める。特許第4237247号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。

イ 審決取消訴訟
被請求人は、同人を原告とし請求人を被告とする、第3次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、当該訴訟は、平成24年(行ケ)第10296号事件として審理され、【無効理由4】、【無効理由7】及び【無効理由8】に係る判断の誤りをもって、第3次審決を取り消す旨の判決が平成25年3月19日に言い渡された。
そして、本件については、再度審理をすべく当審に差し戻された。

第2 訂正の適否についての当審の判断
被請求人の平成23年1月20日付け訂正請求及び平成23年5月16日付け訂正請求は、訂正2012-390004号の請求が平成23年改正前特許法第134条の3第5項の規定により本件における訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)とみなされたことに基づき、平成23年改正前特許法第134条の3第4項の規定により、いずれも取り下げられたものとみなされた。
よって、本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき以下検討する。

1 訂正の内容
本件訂正請求は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(設定登録時のもの。以下「本件特許明細書等」という。)を、同請求の請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲(以下「本件訂正明細書等」という。)のとおりに訂正するものであって、下記訂正事項aないしpからなるものである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1中の「筒状の案内部材と、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「両端が開口した円筒状の案内部材と、」と訂正する。

(2)訂正事項b
訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0007】の「筒状の案内部材」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「円筒状の案内部材」と訂正する。

(3)訂正事項c
訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0008】の「筒状の案内部材と、」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「両端が開口した円筒状の案内部材と、」と訂正する。

(4)訂正事項d
訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0015】の「筒状の案内部材」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「円筒状の案内部材」と訂正する。

(5)訂正事項e
特許請求の範囲の請求項1中の「上記案内部材に収容される吸水剤と、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、」と訂正する。

(6)訂正事項f
訂正事項eに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0008】の「上記案内部材に収容される吸水剤と、」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、」と訂正する。

(7)訂正事項g
特許請求の範囲の請求項1中の「上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出部材とを備え、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「上記案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、」と訂正する。

(8)訂正事項h
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0007】の「押出部材」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「押出棒」と訂正する。

(9)訂正事項i
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0008】の「上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出部材とを備え、」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「上記案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、」と訂正する。

(10)訂正事項j
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0011】の「押出部材」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「押出棒」と訂正する。

(11)訂正事項k
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0014】の「押出部材」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「押出棒」と訂正する。

(12)訂正事項l
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0015】の「押出部材」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「押出棒」と訂正する。

(13)訂正事項m
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0017】の「押出部材としての」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、削除する。

(14)訂正事項n
訂正事項gに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0052】の「(押出部材)」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、削除する。

(15)訂正事項o
特許請求の範囲の請求項1中の「上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されている」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え、肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている」と訂正する。

(16)訂正事項p
訂正事項oに伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書における段落番号【0008】の「上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されている」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え、肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている」と訂正する。

2 訂正の適否に係る判断
(1)平成23年改正前の特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするか否かについて
ア 訂正事項a、e、g及びoについて
上記訂正事項a、e、g及びoに係る各訂正は、いずれも特許請求の範囲を訂正するものである。
そして、訂正事項aに係る訂正は、「筒状の案内部材」につき両端が開口していること及び円筒状であることを本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0018】)に基づき付加して案内部材の形状を限定したものといえる。
また、訂正事項eに係る訂正は、「吸水剤」につき粉末状であることを本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0027】)に基づき付加して吸水剤を限定したものといえる。
さらに、訂正事項gに係る訂正は、訂正前の「押出部材」につき本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0017】など)に基づいて「押出棒」であると限定した上で、その「押出棒」につき本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0021】など)に基づいて「案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され」る部材の配置に係る事項を付加して押出部材を限定したものといえる。
そして、訂正事項oに係る訂正は、訂正前の「肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されている」ことにつき本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0010】、【0011】など)に基づいて、その対象を「閉塞部材」と限定した上で、その「閉塞部材」につき本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0011】など)に基づいて「押出棒の押し出し操作により」「上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる」こととともに「上記吸水剤を直腸内に押し出す」とし、使用時の閉塞部材の動作状況に係る事項を付加して閉塞部材及び閉塞部材と押出棒との動作関係を限定したものといえる。
してみると、本件訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1につき、発明特定事項が限定されており、さらに訂正の前後において発明の属する技術分野を一にするものであることが明らかである。
したがって、上記訂正事項a、e、g及びoに係る各訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、平成23年改正前の特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 訂正事項bないしd、f、hないしn及びpについて
上記訂正事項bないしd、f、hないしn及びpに係る各訂正は、いずれも上記訂正事項a、e、g又はoに係る特許請求の範囲の訂正に伴い、不整合となった発明の詳細な説明の記載を単に整合させたものであり、明瞭でない記載の釈明をするものといえる。
したがって、上記訂正事項bないしd、f、hないしn及びpに係る訂正は、いずれも明瞭でない記載の釈明をするものであり、平成23年改正前の特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。

ウ 小括
以上のとおり、上記aないしpの各訂正事項に係る訂正は、平成23年改正前の特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)平成23年改正前の特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するか否かについて
当審は、知財高裁特別部平成18年(行ケ)第10563号判決における見地に照らして、本件訂正が平成23年改正前の特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するか否かにつき検討すべきものと考える。
まず、上記訂正事項a、e及びgに係る事項は、いずれも上記(1)で説示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した事項である。
次に、訂正事項oに係る事項は、発明の詳細な説明に、「上記案内部材の一端開口部側に、該一端開口部を閉塞する閉塞部材を設けてもよい。」(【0010】)、「従って、案内部材の一端開口部が閉塞部材により閉塞されているので、案内部材に収容された吸水剤が、使用前に一端開口部から外部に出てしまうことはない。また、吸水剤を遺体の直腸に挿入する際には、処置者が案内部材の一端開口部を遺体の肛門に挿入してから押出部材を操作するだけで、閉塞部材が案内部材の一端開口部から離脱し、吸水剤が案内部材により案内されて直腸内の所定位置まで挿入される。」(【0011】)に記載されている事項から、「閉塞部材」が「案内部材の一端開口部側に」、「離脱可能に設けられ」ること、「閉塞部材」が案内部材の「肛門への挿入後に」、「押出部材(押出棒)の押し出し操作により上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水材を直腸内に押し出すように」構成していることが記載されているといえる。
発明の詳細な説明には、「この閉塞部材16の開放側は案内部材4の内面に密着している。また、閉塞部材16の羽状部7と対向する面は、該羽状部7の案内部材4内部側の面に沿うように形成されており、閉塞部材16が羽状部7により案内部材4の一端開口部4aから出ないようになっている。」(【0030】)と、閉塞部材が案内部材の内部に配置されたものが記載されているが、これは、上述の「案内部材の一端開口部側に、該一端開口部を閉塞する閉塞部材」の実施態様の一つと解され、「案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ」る「閉塞部材」は一つの技術思想として発明の詳細な説明に記載されているから、案内部材の内部に閉塞部材を配置したもののみが記載されていたということはできない。そして、案内部材の内部に閉塞部材を配置したものでなくても、「上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ」、「肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制する」とともに、「押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる」「閉塞部材」であれば、この実施態様の閉塞部材と同じ作用を奏することは明らかであって、そのような閉塞部材を含むことで本件発明に新たな作用が生じるわけでもない。
そうすると、訂正事項oにおいて、「上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え、肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている」との訂正事項は、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないもの」であるといえる。
また、上記訂正事項bないしd、f、hないしn及びpは、いずれも特許請求の範囲の訂正に伴い、単に発明の詳細な説明の記載を整合させるべく訂正する事項である。

してみると、本件のaないしpの各訂正事項に係る訂正は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができるから、平成23年改正前の特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するものである。

(3)平成23年改正前の特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否かについて
上記(1)アで説示したとおり、上記訂正事項a、e、g及びoは、いずれも訂正前の請求項1に記載されている事項により特定される発明の範囲をそれぞれ実質的に減縮するものであって、何ら新しい技術的事項を導入しないものといえるのであるから、請求項に係る特許請求の範囲をそれぞれ実質的に減縮するものであって、変更するものではないといえる。
そして、上記(1)イで説示したとおり、上記訂正事項bないしd、f、hないしn及びpは、いずれも上記訂正事項a、e、g及びoに係る特許請求の範囲の訂正に伴い、不整合となった発明の詳細な説明の記載を単に整合させたものであり、何ら新しい技術的事項を導入しないものであるから、実質的に特許請求の範囲を減縮し、拡張し又は変更するものではない。
してみると、上記訂正事項aないしpに係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるといえないから、平成23年改正前の特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 訂正の適否に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、平成23年改正前の特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の各規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 請求人主張の無効理由について
請求人が主張する無効理由の趣旨及び概略については、上記第1の2(1)及び3(4)及び(7)で示した【無効理由1】ないし【無効理由9】のとおりであるが、上記第1の3(4)及び(7)でも示したとおり、請求人は一部の無効理由を撤回し、また、【無効理由9】については補正を許可しなかったので、本件訂正を踏まえて整理すると、請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである。

【無効理由4】
訂正後の本件発明は、本件出願前に頒布された甲5に記載された発明及び甲6?9及び甲32に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由7】
訂正後の本件発明は、本件出願前に公然知られた又は公然実施された甲12の1に係る発明及び甲4ないし甲9、甲14並びに甲32に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由8】
訂正後の本件発明は、本件出願前に頒布された甲7に記載された発明及び甲4ないし6、8、9、11及び32に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

第4 当審の判断
当審は、
訂正後の請求項1に係る発明についての特許は、上記【無効理由4】、【無効理由7】及び【無効理由8】についていずれも理由がない、と判断する。
以下、【無効理由4】、【無効理由8】及び【無効理由7】の順で詳述する。

I.前提事項
本件審判における各無効理由につき判断を行うにあたり、前提となる事項につき整理・検討する。

1 本件訂正発明について
本件訂正発明は、訂正後の請求項1に記載された事項で特定される、以下のとおりのものである(以下、当審が付した下記文節記号を付して示す。(a)ないし(g)の発明特定事項を、「構成(a)」ないし「構成(g)」ということがある。)。

「(a)遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
(b)両端が開口した円筒状の案内部材と、
(c)上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、
(d)上記案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、
(e)上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、
(f)上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え、
(g)肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている
ことを特徴とする遺体の処置装置。」

2 甲12の1に係る製品の本件特許出願前の公然実施について
甲12の1は、「Safety Set」なる死後処置用品に関する「株式会社アキシス」の製品カタログ(の複写物)であり、その表頁中段左側には「直腸用アプリケータタイプ」なる製品が記載されている。これは、「株式会社アキシス」が顧客などの第三者に製品情報を開示するために配布される印刷物であるものと認められる。
一方、甲13証明書並びに甲19の1ないし5の陳述書及び添付資料(なお、これらの証拠はいずれも本件における非当事者が作成し請求人から提示された有印私文書であるから、特許法第151条で準用する民事訴訟法第228条第4項の規定により真正に成立したものと推定する。)を検討すると、甲13及び甲19の1の「佐藤忠則」の陳述内容並びに甲13の添付資料である仕入れ台帳であると認められる「(35)株式会社アキシス」と左肩部に記載された資料の「2004/12/10」との日付が左側にある部分及び、同じく甲13の添付資料である売掛台帳であると認められる「(120)四国アルフレッサ株式会社」と左肩部に記載された資料の「2004/12/13」との日付が左側にある部分には、「セーフティセット(アプリケータセット)」の商品名が「共済会高松HP分」、「共済会高松病院」ととも記載されている。
そして、これらの記載は、甲19の2ないし5の「発注書」、「注文書」、「請求書」、「納品書」及び「物品受領書」の記載内容との整合性からみて「セーフティセット(アップリケータタイプ)」なる製品が、「株式会社アキシス」から「株式会社エムエムシーピー」を介して「ダイワ薬品株式会社」なる小売業者に転売され、「共済会高松病院」に販売されていた、すなわち、「株式会社アキシス」から第三者を介して不特定の消費者(病院)に販売されていた事実が存在するものと認められる。
そして、この販売されていた「セーフティセット(アップリケータタイプ)」なる製品が、甲12の1の製品カタログに記載される「Safety Set」の「直腸用アプリケータタイプ」なる製品であることは、同一会社の同一の製品名であることから、明らかであるといえる。
なお、被請求人が提示した乙16ないし乙18(添付資料1ないし15を含む)を含む全証拠をもってしても、客観的に上記事実の存在を否定し得る論証はなされておらず、さらに、請求人が提示した上記各甲号証の成立を否認する具体的論証もなされていない。
また、「セーフティセット(アップリケータタイプ)」なる製品が販売された時期についても、甲19の1の「佐藤忠則」の陳述内容及び甲13の添付資料の上記記載内容と甲19の2ないし5の記載内容との整合性からみて、遅くとも2004年12月13日までになされたものと認められ、分割出願である本件特許に係る出願の原出願日(国際出願PCT/JP2005/512号の国際出願日である2005年1月18日)前であるものと認められる。
したがって、甲12の1に記載された「Safety Set」の「直腸用アプリケータタイプ」なる製品は、本件特許に係る出願の出願日前に公然実施されていた発明であるといえる。

3 各甲号証に記載された事項
各無効理由に係る検討において採用する各甲号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)甲5(実用新案登録第3056825号公報)
甲5には、以下の事項が記載されている。
(5a)
「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】粉末状の高吸水性ポリマからなる遺体用吸液剤を、両端部に開口を有する吸液剤収納容器に収容し、
該容器の一方の開口に空気導入管を介してエアポンプ連結し、
他方の開口に漏斗状部を介して吸液剤供給管を連結してなる遺体用吸液剤挿入器。」
(5b)
「【0004】
本考案は、このような問題点を解消し、口腔,鼻孔,耳孔から排出される体液により顔面が汚れるのを遺体用吸液剤により防ぐと共に、この遺体用吸液剤を口腔,鼻孔,耳孔,肛門内に容易に挿入できる機器を提供することを目的とする。」
(5c)
「【0006】
【考案の実施の形態】
本考案の実施形態を図面に示して説明する。
図1は遺体用吸液剤挿入器の側面図である。
1は遺体用吸液剤挿入器であり、遺体用吸液剤2を収容する吸液剤収納容器3の一端に空気導入管4、他端に漏斗状部6を介して遺体用吸液剤供給管5を連結したものである。
遺体用吸液剤2は、ポリアクリル酸塩系の高吸水性ポリマやデンプン系の高吸水性ポリマなどの高吸水性ポリマを粉体にしたものである。
容器3,空気導入管4、遺体用吸液剤供給管5、漏斗状部6は、いずれも空気のもれない材料で形成する。
また、遺体用吸液剤供給管5は、口腔,鼻孔,耳孔,肛門内に挿入しやすいよう、可撓性の材質で形成し、さらに遺体を傷付けないよう先端を丸くする。
容器3は、内容物である遺体用吸液剤2がどの程度口腔,鼻孔,耳孔,肛門内に入ったか分かるよう、目盛りを付けた透明な容器にする。」
(5d)
「【0007】
次に、このようにして成る遺体用吸液剤挿入器1の使用方法を説明する。
空気導入管4をエアポンプ7の排気側に連結し、遺体用吸液剤供給管5を遺体の口腔,鼻孔,耳孔,肛門に挿入する。
そして、エアポンプ7から送出される空気により、容器3内の遺体用吸液剤2を、漏斗状部6及び遺体用吸液剤供給管5を介し遺体の口腔,鼻孔,耳孔,肛門に充填する。」
(5e)
「【0008】
このようにして、口腔,鼻孔,耳孔,肛門内に遺体用吸液剤2を充填したのち、二酸化塩素の水溶液または気体状の二酸化塩素を粒子状の徐放材に吸着させ、これを袋に収容したものを棺に入れる。
二酸化塩素により遺体の腐敗防止と殺菌消臭が行われ、また遺体用吸液剤2より体液がゼリー状になり保持されて口腔,鼻孔,耳孔,肛門より流失しないので、遺体を美麗な状態で保持できる。」
(5f)
「【0009】
なお、体液が遺体用吸液剤供給管5内に入ると、遺体用吸液剤2が膨脹し遺体用吸液剤供給管5の出口を塞ぎ、以後遺体用吸液剤挿入器1を使用不能にするので、エアポンプ6は空気導入管4に向け空気を送り続けるものがよく、このようなものであればどのような形態であってもよい。
但し、図1に示すような、携帯可能なものにすると場所を選ばず使用できてよい。
また、遺体用吸液剤の粒形はどのようなものでもよいが、図2のように球形にすると、漏斗状部6及び吸液剤供給管5を素早く通過し、口腔,鼻孔,耳孔,肛門内に充填できる。」
(5g)【図1】(第2頁)




(2)甲6(特開2001-288001号公報)
甲6には、以下の事項が記載されている。
(6a)
「【特許請求の範囲】
・・(中略)・・
【請求項17】上記容器の出口部には体液漏出防止剤の漏出防止用の保護キャップが取り外し可能に取付けられており、
上記供給管の一端部に、上記容器の出口部に外挿可能な中空段部が設けられ、
上記段部に上記段部と上記容器の出口部との間でシールするシール部材が配置されていることを特徴とする請求項1ないし16のいずれかに記載の体液漏出防止装置。」
(6b)
「【0005】また、特開平10-298001号公報のように、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填することが知られている。」
(6c)
「【0008】特開平10-298001号公報では、出来るだけ流動性を確保するために、高吸水ポリマの微粉末を使用することを述べている。しかし、鼻孔や耳孔の入口部分に入れるのであれば、この公報のように微粉末を注射器のようなシリンダで投入しても充填できるが、奥までは充填できない。特に、奥まで充填するために、急速にシリンダを動かすと、先端から出る微粉末が飛び散るだけで、かえって遺体周辺を汚すだけである。」
(6d)
「【0009】即ち、特開平7-265367号公報や特開平10-298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では、粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで、充填器内をスムーズに流れないので、シリンダを使用しても充填することが困難である。また、飛び出る粉末が拡散するので、粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり、場合によっては、遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。」
(6e)
「【0034】使用時には、容器8の出口部12の保護キャップ15をはずし、挿入管16の外挿管部19に出口部12をその先端がパッキン20に当たるまで差し込む。これにより、容器8と挿入管16が接続される。保護キャップ15が外されるので、容器8の出口部12を下に向けた時に、容器12内の体液漏出防止粉末9が挿入管16内に流れ込むが、中間部分16aが1回転しているので、挿入管16から外部に体液漏出防止粉末9が流れ出ることはない。」
(6f)
「【0049】鼻孔から導入し、咽喉部を封止する実施例で本発明を説明したが、遺体の口腔、鼻孔そのもの、耳孔、尿道、肛門、女性の膣に適用しても良い。また、事故や手術後の遺体の傷口や開口部分にも適用しても良い。」

(3)甲7(特開平10-298001号公報)
甲7には、以下の事項が記載されている。
(7a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 自重の50倍以上の水を吸収して保持できる高吸水性ポリマーを、人間の遺体の口、耳、鼻などの中に少量詰めて、遺体からの体液の漏出防止を行なう遺体の処置法。
・・(中略)・・
【請求項3】 150メッシュの篩を通過するような微粉末の高吸水性ポリマーを針を付けない注射器に充填し、中筒を押すことにより遺体の口、耳、鼻などの中に高吸水性ポリマーを均一に注入することを特徴とする請求項1に記載の遺体の処置法。」
(7b)
「【0007】すなわち、高吸水性ポリマーを遺体の口、耳、鼻に少量入れて置くと、体液が分泌してきた場合、高吸水性ポリマーが体液を吸収して保持するので、外部への漏出が防げるのではないかと考え、使い捨てのおむつに高吸水性ポリマーとして使用されているポリアクリル酸ナトリウム架橋物の顆粒を、粉体用ロートを用いて遺体の口、耳、鼻に少量入れたところ、体液を吸収して漏出を防止する効果があることが認められた。しかし、粉体用ロートを用いて高吸水性樹脂の顆粒を口、耳、鼻に入れることは、脱脂綿を詰める手法よりは簡単であるが、それでも、多少の手間を必要とした。
【0008】そこで、液体のような方式で注入できないかと考えて、使用する高吸水性ポリマーの粒径を小さくし、微粉末状の高吸水性ポリマーを針をつけない注射器に充填し、先端を遺体の口、耳、鼻に挿し入れたのち、注射器の中筒(ピストン)を押したところ、高吸水性ポリマーの微粉末が、一定量、先端から飛び出し、口、耳、鼻のいずれにも、極めて容易に注入できることが判明した。」
(7c)
「【0010】これに対し・・(中略)・・微粉末状の高吸水性ポリマーを注射器を用いて注入した場合には、高吸水性ポリマーの微粉末は霧のように拡散し、口腔部の内壁の組織にすき間なく均一に付着するためと判断される。」
(7d)
「【0018】
【実施例13?27】・・(中略)・・ただし、高吸水性ポリマーの微粉末は、ポリプロピレン製の注射器(容量10ml)に入れ、針を付けずに、注射器の先端を遺体の口、鼻、耳に挿し入れてピストンを押すことによって一定量を注入した。」
(7e)
「【0020】
【表1】


(7f)
「【0021】
【実施例26?28】・・(中略)・・実施例13?27と同様にポリプロピレン製の注射器に入れ、先端を、予め空気で膨らませておいた15cm×10cmの透明なポリエチレン袋の開口部に挿入し、ピストンを押して各高吸水性ポリマー3グラムづつをポリエチレン袋の内部に押し出し、ポリエチレン袋の内壁部に高吸水性ポリマーの粉末が付着する様子を肉眼で観察した。
【0022】その結果を表2に示す。200メッシュ通過品は、霧のように拡散してポリエチレン袋の内壁に均一に付着した。・・(中略)・・
【0023】これらのモデル実験により、高吸水性ポリマーが微粉末であれば、注射器を用いてスプレーのように注入したときに、口、鼻、耳の中で霧のように拡散して口蓋などの内壁部の隅々まで付着し、体液と確実に接触して吸収するということが示唆される。」

(4)甲8(特開平7-265367号公報)
甲8には、以下の事項が記載されている。
(8a)
「【0002】
【従来の技術】人体は死亡後、胃液、肺水、腹水などの体液を漏出させることがある。このため、例えば病院では死亡確認後、遺体の口、鼻などにガーゼなどを装填し、漏出体液を封じる応急処置を行っている。」
(8b)
「【0007】
【作用】乾燥粉末状の吸水性樹脂は、体液を吸収することによって水溶性から水不溶の膨潤性に変化し、さらに体液を吸収するとゲル状へと変化する。このため体液吸収によってゲルとなって膨潤し、人体孔部を塞いで漏出する体液を確実に封止する。一方、この乾燥粉末は安定化二酸化塩素を含むため、胃液、肺水などの逆流体液に含まれる悪臭成分を分解し、体液に残留する病原細菌を、感染の危険が薄れる程度に低下させる。」
(8c)
「【0018】尚、この高吸水性粉末を遺体に装填する際には、できるだけ遺体に手を触れない状態で装填可能とすることが望ましい。感染を防止するためである。・・(中略)・・また注射類似のケース(例えば灌注シリンジ)に入れ、ピストン押圧によって先端ガイド部(例えば太針類似の注出口)から粉粒を射出出来るようにしても良い。また鼻孔や耳孔に装填する粉体は、予め可溶シートで被覆しておき、適当な器具(例えばピンセット)を用いて所定位置に配置させることも出来る。」

(5)甲12の1(商品名「Safety Set」カタログ)



(表面)

(6)甲32(特開2002-315792号公報)
(9a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 可撓性チューブの中間部に通気性の塊を押し込み、該可撓性チューブの先端部から高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を充填した用具を使用し、上記可撓性チューブの先端部を遺体の孔に挿入して、上記通気性の塊を経て圧縮気体を吹き込んで、高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を遺体の孔に注入することを特徴とする遺体の体液漏出防止方法。
【請求項2】 可撓性チューブと、該可撓性チューブの中間部に押し込まれた通気性の塊と、該可撓性チューブの先端部から通気性の塊までの空間に充填された高吸水性ポリマーの粉末または顆粒とを具備することを特徴とする遺体の体液漏出防止処置用具。
【請求項3】 可撓性チューブの両端に防湿用キャップを被せたことを特徴とする請求項2に記載の遺体の体液漏出防止処置用具。
【請求項4】 可撓性チューブの先端に通気性のないスポンジの小片で封じ、後端に防湿用キャップを被せたことを特徴とする請求項2に記載の遺体の体液漏出防止処置用具。」
(9b)
「【0012】(第1の実施形態)この発明の遺体の体液漏出防止方法において使用する処置用具は、図1(a)に示すように、ビニルチューブなどの軟質材料の可撓性チューブ1であって、このチューブ1の後端部より脱脂綿、スポンジなどの通気性の塊2を押し込み、このチューブ1の先端部からポリアクリル酸ナトリウム架橋物などの高吸水性ポリマーの粉末または顆粒3を入れたのち、図1(b)に示すように、チューブ1の両端に防湿用キャップ5を被せたものである。
【0013】チューブ1の先端部から高吸水性ポリマーの粉末または顆粒3を充填する際には、通気性の塊2に近いチューブ1の後端部を真空ポンプに接続し、チューブ1の先端部を高吸水性ポリマーの粉末または顆粒の容器に挿し込んで、真空ポンプを作動させると、チューブ1の先端開口部から通気性の塊2までの空間31に高吸水性ポリマーの粉末または顆粒3を吸い込ませて充填することができる。
【0014】この高吸水性ポリマーの粉末または顆粒の充填量(1回の使用量)は、チューブ1における通気性の塊2の押込位置を変化させて空間31の容積を調整することにより任意に設定することができる。そして、充填が完了すると、チューブ1の両端に防湿用キャップ5を被せる。」
(9c)
「【0017】このように構成された処置用具を使用するときには、可撓性チューブ1の両端のキャップ5を外し、チューブ1の後端部にエアゾール容器などの圧縮気体源を接続し、先端部を遺体の口、耳、鼻などの孔に深く挿入して圧縮気体源を作動させると、先端部を軽く封じているスポンジの小片4を押し出したのち、高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を注入することができる。」
(9d)
「【0020】(第2の実施形態)この発明の第2の実施形態の処置用具は、図2に示すように、可撓性チューブ1の後端部より脱脂綿、スポンジなどの通気性の塊2を押し込み、このチューブ1の先端部からポリアクリル酸ナトリウム架橋物などの高吸水性ポリマーの粉末または顆粒3を入れたのち、先端部を通気性のないスポンジの小片4で封じ、チューブ1の後端に防湿用キャップ5を被せたものである。
【0021】このように構成された処置用具を使用するときには、可撓性チューブ1の先端部から通気性のないスポンジの小片4を抜き取り、可撓性チューブ1の後端のキャップ5を外し、チューブ1の後端部にエアゾール容器などの圧縮気体源を接続し、先端部を遺体の口、耳、鼻などの孔に深く挿入して圧縮気体源を作動させると、高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を注入することができる。」
(9e)【図1】及び【図2】(第3頁)




II.各無効理由についての判断
1 甲号証に記載された発明及び甲12の1に係る発明
各無効理由につき検討するにあたり、各無効理由における主たる引用発明につき認定を行う。

(1)甲5に記載された発明
甲5は、図1(摘示(5g))に示されるような「粉末状の高吸水性ポリマからなる遺体用吸液剤を、両端部に開口を有する吸液剤収納容器に収容し、該容器の一方の開口に空気導入管を介してエアポンプ連結し、他方の開口に漏斗状部を介して吸液剤供給管を連結してなる遺体用吸液剤挿入器」(摘示(5a))について記載するものであって、この遺体用吸液剤挿入器は、「体液がゼリー状になり保持されて口腔,鼻孔,耳孔,肛門より流失しない」(摘示(5e))との記載からみて、遺体の体液を肛門等から流失させないようにするための装置であって、容器内の「粉末状の高吸水性ポリマからなる遺体用吸液剤」を、「エアポンプ7から送出される空気により、・・漏斗状部6及び遺体用吸液剤供給管5を介し遺体の口腔,鼻孔,耳孔,肛門に充填」(摘示(5d))、あるいは、「口腔,鼻孔,耳孔,肛門内に容易に挿入」(摘示(5b))するためのものである。
また、吸収剤収納容器の形状について、明記はないものの、筒である空気導入管及び漏斗状部と連結していることからみて、円筒状であると解するのが自然である。
してみると、甲5には、本件訂正発明の表現に倣い記載すると、
「遺体の体液を肛門から流失させないようにする遺体用吸液剤挿入器であって、
両端部に開口を有する円筒状の吸液剤収納容器と、
上記容器に収納される粉末状の高吸水性ポリマからなる吸液剤と、
上記吸液剤を遺体の肛門に充填或いは肛門内に挿入するための、他端の開口に空気導入管を介したエアポンプを備え、
上記容器の一端の開口は漏斗状部を介して吸液剤供給管を連結してなる、
吸液剤をエアポンプから送出される空気により、漏斗状部及び吸液剤供給管を介し遺体の肛門に充填することができるように構成されている
遺体用吸液剤挿入器」
の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲7に記載された発明
甲7は、「針を付けない注射器」を用い、この注射器に吸水剤である微粉末状の高吸水性ポリマーを収納してなる遺体からの体液の漏出防止を行なう遺体の処理装置が記載され(摘示(7a)及び(7b))、当該遺体の処理装置を使用することにより、「先端を遺体の口、耳、鼻に挿し入れたのち、注射器の中筒(ピストン)を押し・・微粉末が、一定量、先端から飛び出」(摘示(7b))すように、遺体に「スプレーのように注入」(摘示(7f))され「霧のように拡散」(摘示(7f))するよう注入されることが記載されている。
そして、「針を付けない注射器」は、両端が開口し一端開口部に狭窄部を形成している円筒状の外筒と当該外筒の内部を軸方向に摺動するように挿入された中筒とからなることが、当業者に自明である。
なお、「針を付けない注射器」に吸水剤である微粉末状の高吸水性ポリマーを収納した場合、狭窄部が存することにより、狭窄部が存しない場合に比して、微粉末状の高吸水性ポリマーの外部への流出が抑制されることも、当業者に自明である。
してみると、甲7には、本件訂正発明の表現に倣い記載すると、
「遺体の体内物が口、耳、鼻などから漏出するのを抑制する遺体の処理装置であって、
一端に狭窄部を有する両端が開口した円筒状の外筒と、
上記外筒に収容される微粉末状の高吸水性ポリマーからなる吸水剤と、
上記外筒にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記外筒の一端開口部から押し出す中筒とを備え、
上記外筒の一端開口部側は、遺体の口、耳、鼻などの中へ挿入されるように形成されるとともに、遺体の口、耳、鼻などの中への挿入前に上記吸水剤が上記外筒の外部に出るのを抑制するように構成されていることを特徴とする遺体の処理装置」
に係る発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲12の1に係る発明
甲12の1には、「アプリケータセット」なる死後処置用品セットが開示され、当該セットに「直腸用アプリケータタイプ」なる装置が含まれている(中段左欄)。
そして、当該「直腸用アプリケータタイプ」につき観察すると、一端開口部に羽状狭窄部を有し両端が開口した円筒状の外筒及び当該外筒の他端開口部に挿入された押出棒状の内筒が具備されていることが見て取ることができ、外筒と内筒により形成された内部空間に白色収容物が存在することも見て取ることができる。
また、甲12の1には、「直腸用座薬タイプの特長」及び「直腸用アプリケータタイプの特長」が開示され(下段右欄)、当該開示内容によると以下のa.ないしd.の各事項が開示されているものと認められる。
a.「直腸用座薬タイプ」が、「直腸に挿入するだけで体液・排泄物の漏出を防止」するもので、「吸液膨張することで体液漏出を防止」するものであり、円柱状である(図参照)であるから、「直腸用座薬タイプ」が円柱状の吸液膨張体で遺体の直腸部に肛門から挿入され吸液膨張することにより体液の漏出を防止できること
b.「直腸用アプリケータタイプ」の白色収容物が、外筒内に収容された形状を保持した状態で、すなわち「直腸用座薬タイプ」と同様の形状を保持した状態で羽状狭窄部を通過して直腸内に挿入されるのである(図参照)から、当該白色収容物が「直腸用座薬タイプ」と同様の円柱状の吸液膨張体であること
c.「直腸用アプリケータタイプ」が羽状狭窄部から「外筒を1/2程度挿入する」ものである(図参照)から、「直腸用アプリケータタイプ」が、遺体の肛門部から直腸部に羽状狭窄部を先にして挿入することができること
d.「直腸用アプリケータタイプ」の内筒が軸方向に摺動し当該装置の使用時に収容物を外筒から押し出すこと(図参照)
なお、「直腸用アプリケータタイプ」の羽状狭窄部が、使用前に収容物が外筒から出ることを抑制していることは、当業者に自明である。
してみると、甲12の1に係る「直腸用アプリケータタイプ」なる装置は、本件訂正発明に倣い表現すると、
「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
両端が開口した円筒状の外筒と、
上記外筒に収容される円柱状の吸液膨張体と、
上記外筒にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸液膨張体を上記外筒の一端開口部から押し出す内筒とを備え、
上記外筒の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、肛門への挿入前に上記吸液膨張体が上記外筒の外部に出るのを抑制するように構成されており、
肛門への挿入後に内筒の押し出し操作により上記吸液膨張体を直腸内に押し出すように構成されていることを特徴とする遺体の処置装置」
に係る発明(以下「甲12発明」という。)であるといえる。

2 【無効理由4】について
(1)対比
本件訂正発明と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「遺体の体液を肛門から流失させないようにする遺体用吸液剤挿入器」及び末尾の「遺体用吸液剤挿入器」は、本件訂正発明の「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置」及び末尾の「遺体の処置装置」に、甲5発明の「粉末状の高吸水性ポリマからなる吸液剤」は、本件訂正発明の「粉末状の吸水剤」に、それぞれ相当する。
そして、甲5発明の「両端部に開口を有する円筒状の吸液剤収納容器」は、本件訂正発明の「両端が開口した円筒状の案内部材」に相当する。
また、甲5発明の「容器の一端の開口は漏斗状部を介して吸液剤供給管を連結してなる」は、吸液剤収納容器の一端開口部側に「漏斗状部」及び「吸液剤供給管」なる部材を設け、当該「吸液剤供給管」は、「肛門内に挿入しやすいよう、可撓性の材質で形成し、さらに遺体を傷付けないよう先端を丸くする」(摘示(5c)参照)ものであるから、本件訂正発明における「案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成される」に相当するといえる。
さらに、甲5発明における「エアポンプ」は、吸液剤を容器から外部へ押し出す「押出部材」である点で、本件訂正発明における「押出棒」と共通するものであり、また、甲5発明の「吸液剤をエアポンプから送出される空気により、漏斗状部及び吸液剤供給管を介し遺体の肛門に充填することができるように構成されている」は、「押出部材」である「エアポンプ」の操作により「吸液剤」を「肛門から直腸へ挿入され」ている「漏斗状部及び吸液剤供給管を介し遺体の肛門に充填することができるように構成されている」のであるから、本件訂正発明における「肛門への挿入後に上記押出部材(押出棒)の押し出し操作により・・上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている」に相当するといえる。
してみると、本件訂正発明と甲5発明とは、
「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
両端が開口した円筒状の案内部材と、
上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、
上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出部材とを備え、
上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成され、
肛門への挿入後に上記押出部材の押し出し操作により上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている
ことを特徴とする遺体の処置装置」
の点で一致し、下記の3点で相違しているといえる。

相違点1:「押出部材」につき、本件訂正発明では「上記案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え」るのに対して、甲5発明では、「吸液剤を遺体の肛門に充填或いは肛門内に挿入するための、他端の開口に空気導入管を介したエアポンプとを備え」る点
相違点2:本件訂正発明では、「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え」るのに対して、甲5発明では、「容器の一端の開口は、漏斗状部を介して吸液剤供給管が形成されている」点
相違点3:本件訂正発明では、「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる・・ように構成されている」のに対して、甲5発明では、そのような特定がなされていない点

(2)検討
ア 相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲7にも記載されているとおり、遺体の処理装置において、注射器状の外筒と外筒内を摺動するように挿入された中筒とからなる容器内に粉末状吸水剤を収容し、中筒を押圧することにより一端開口部から噴出させる簡便な機構は、少なくとも公知の技術である。
してみると、甲5発明において、吸液剤を吸液剤供給管側の一端開口部から押し出すためのより簡便な機構とするために、上記公知の技術に基づき、「エアポンプ」に代えて、注射器状の外筒と中筒からなる容器、すなわち「(円筒状の案内部材と)案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え」る機構とすることは、当業者が適宜なし得ることというべきである。
したがって、上記相違点1については当業者が適宜なし得ることである。

イ 相違点2及び3について
上記相違点2及び3につき併せて検討する。
甲32には、遺体の体液漏出防止処置用具(摘示(9a)参照)であって、その第1の実施形態の処置用具として、可撓性チューブ1の後端部より通気性の塊2を押し込み、このチューブの先端から高吸水性ポリマーの粉末又は顆粒3を入れたのち、チューブ1の両端に防湿用のキャップ5を被せた請求項3の構成に対応するもの(摘示(9a)、(9b)参照)と、その第2の実施形態の処置用具として、可撓性チューブ1の後端部より通気性の塊2を押し込み、このチューブの先端から高吸水性ポリマーの粉末又は顆粒3を入れたのち、先端部を通気性のないスポンジの小片4で封じ、チューブ1の後端に防湿用のキャップ5を被せた請求項4の構成に対応するもの(摘示(9a)、(9d)参照)がそれぞれ記載されているといえる。
そして、甲32には、「このように構成された処置用具を使用するときには、可撓性チューブ1の両端のキャップ5を外し、チューブ1の後端部にエアゾール容器などの圧縮気体源を接続し、先端部を遺体の口、耳、鼻などの孔に深く挿入して圧縮気体源を作動させると、先端部を軽く封じているスポンジの小片4を押し出したのち、高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を注入することができる。」と記載されている(摘示(9c)参照)ものの、この記載におけるスポンジの小片4に関する記載は、甲32の他の記載(摘示(9b)、(9d)、(9e))と整合しないものであるから、第1の実施形態の処置用具は、スポンジの小片4を有してないと解するのが自然である。
そうすると、甲32には、「可撓性チューブの一端開口部に(防湿キャップ5に加えて)スポンジの小片4を有する第1の実施形態の処置用具であって、一端開口部を遺体の孔部に挿入した後にスポンジ小片4を押し出す」という構成が開示されていたとは認めることができない。
また、甲32の第2の実施形態の処置用具は、可撓性チューブの一端開口部にスポンジの小片4を有するが、「可撓性チューブ1の先端部から通気性のないスポンジの小片4を抜き取り、可撓性チューブ1の後端のキャップ5を外し、チューブ1の後端部にエアゾール容器などの圧縮気体源を接続し、先端部を遺体の口、耳、鼻などの孔に深く挿入して圧縮気体源を作動させると、高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を注入することができる」(摘示(9d)参照)ものであって、スポンジ小片4を圧縮気体源で押し出すものではない。
さらに、甲6には、遺体の肛門等から体液が漏出するのを防止するため、肛門等から直腸等の体腔部に粉末状の体液漏出防止剤を充填する体液漏出防止装置(摘示(6a)?(6e)参照)であって、粉末の体液漏出防止剤を内蔵する「容器の出口部には体液漏出防止剤の漏出防止用の保護キャップが取り外し可能に取付けられ」ることが記載されてはいる(摘示(6a)参照))ものの、「使用時には、容器8の出口部12の保護キャップ15をはずし、挿入管16の外挿管部19に出口部12をその先端がパッキン20に当たるまで差し込む。これにより、容器8と挿入管16が接続される。」と記載される(摘示(6e)参照)ように、保護キャップは肛門への挿入前にはずすものであって、肛門への挿入後に噴出ガスによってはずすものではない。
そうすると、甲6、甲32には、相違点2に対応する「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え」る構成は開示されているとはいえるものの、相違点3に対応する「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる・・ように構成されている」点について開示されているとはいえない。
その他、請求人が提示する甲7、甲8は、いずれも粉末状の吸水剤を遺体の孔部に挿入して体液漏出防止をする装置を開示してはいるものの、相違点3に対応する構成は開示されてはいないし、甲9は、固形の座剤を肛門に挿入する座剤挿入具であるが、これも相違点3に対応する構成は開示されていない。
したがって、甲5発明において、甲5ないし9及び甲32の記載に基づいて、当業者が相違点3の構成を容易に想到し得たとは認めることができない。

(3)まとめ
よって、本件訂正発明は、甲5発明及び甲6ないし甲9並びに甲32に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできない。

3 【無効理由8】について
(1)対比
本件訂正発明と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「遺体の・・口、耳、鼻など」と本件訂正発明における「遺体の・・肛門」は、遺体の体内物が漏出する「孔部」である点で共通するものと認められる。
してみると、甲7発明における「遺体の体内物が孔部(口、耳、鼻など)から漏出するのを抑制する遺体の処理装置」及び末尾の「遺体の処理装置」は、本件訂正発明における「遺体の体内物が孔部(肛門)から漏出するのを抑制する遺体の処置装置」及び末尾の「遺体の処置装置」に相当する。
そして、甲7発明における「両端が開口した円筒状の外筒」、「外筒に収容される微粉末状の高吸水性ポリマーからなる吸水剤」及び「外筒にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記外筒部材の一端開口部から押し出す中筒」は、それぞれ、本件訂正発明における「両端が開口した円筒状の案内部材」、「案内部材に収容される粉末状の吸水剤」及び「案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒」に相当するものといえる。
また、甲7発明における「外筒の一端開口部側は、遺体の孔部(口、耳、鼻など)の中へ挿入されるように形成されるとともに、遺体の孔部(口、耳、鼻など)の中への挿入前に上記吸水剤が上記外筒の外部に出るのを抑制するように構成されている」は、本件訂正発明における「案内部材の一端開口部側は、孔部(肛門)から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、孔部(肛門)への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されている」に相当するといえる。
してみると、本件訂正発明と甲7発明とは、
「遺体の体内物が孔部から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
両端が開口した円筒状の案内部材と、
上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、
上記案内部材にその軸方向に移動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、
上記案内部材の一端開口部側は、孔部へ挿入されるように形成されるとともに、孔部への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されている
ことを特徴とする遺体の処置装置」
の点で一致し、下記の3点で相違しているといえる。

相違点4:本件訂正発明では「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する」装置であるのに対して、甲7発明では「遺体の体内物が口、耳、鼻などから漏出するのを抑制する」装置であり、体内物の漏出孔部が肛門であることが特定されていない点
相違点5:本件訂正発明では、「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え」るのに対して、甲7発明では、「外筒の一端開口部側は、遺体の口、耳、鼻などの中へ挿入されるように形成されるとともに、遺体の口、耳、鼻などの中への挿入前に上記吸水剤が上記外筒の外部に出るのを抑制するように構成されている」点
相違点6:本件訂正発明では、「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる・・ように構成されている」のに対して、甲7発明では、そのような特定がなされていない点

(2)検討
ア 相違点4について
上記相違点4につき検討すると、甲6にも記載されている(摘示(6f)参照)とおり、遺体の体内物が漏出する部分として、口、耳、鼻に加えて尿道、肛門及び膣が存することは、当業者の技術常識であるといえるとともに、甲7発明の装置を肛門に適用することを阻害する要因が存するとはいえないから、甲7発明の装置につき肛門に適用することは、上記技術常識に照らし、当業者が適宜なし得る事項である。
したがって、上記相違点4については、当業者が適宜なし得ることである。

イ 相違点5及び6について
上記相違点5及び6につき併せて検討する。
上記2(2)イで述べたように、甲6、甲32には、相違点5に対応する「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え」る構成は開示されているとはいえるものの、相違点6に対応する「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる・・ように構成されている」点について開示されているとはいえない。
その他、請求人が提示する甲4、甲8は、いずれも粉末状の吸水剤を遺体の孔部に挿入して体液漏出防止をする装置を開示してはいるものの、相違点6に対応する構成は開示されてはいないし、甲9は、固形の座剤を肛門に挿入する座剤挿入具であるが、これも相違点6に対応する構成は開示されていない。また甲11は、注射器に関するものであって、相違点6に対応する構成は開示されてはいない。
したがって、甲7発明において、甲4、甲6ないし9、甲11及び甲32の記載に基づいて、当業者が相違点6の構成を容易に想到し得たとは認めることができない。

(3)まとめ
よって、本件訂正発明は、甲5発明及び甲6ないし甲9並びに甲32に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできない。

4 【無効理由7】について
(1)対比
本件訂正発明と甲12発明とを対比すると、甲12発明の「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置」及び末尾の「遺体の処置装置」は、本件訂正発明の「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置」及び末尾の「遺体の処置装置」に相当する。
そして、甲12発明の「吸液膨張体」と本件訂正発明における「粉末状の吸水剤」とは、いずれも「吸水剤」である点で共通するものである。
また、甲12発明の「両端が開口した円筒状の外筒」及び「上記外筒にその軸方向に摺動するように挿入され、吸水剤(吸液膨張体)を上記外筒の一端開口部から押し出す内筒」は、本件訂正発明の「両端が開口した円筒状の案内部材」及び「上記案内部材にその軸方向に移動するように挿入され、吸水剤(粉末状の吸水剤)を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒」に、それぞれ相当することが明らかである。
そして、甲12発明の「上記外筒の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、肛門への挿入前に上記吸液膨張体が上記外筒の外部に出るのを抑制するように構成されており」は、本件訂正発明の「上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように・・構成されている」に相当する。
さらに、甲12発明の「肛門への挿入後に内筒の押し出し操作により上記吸水剤(吸液膨張体)を直腸内に押し出すように構成されている」は、本件訂正発明における「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により・・上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている」に相当する。
してみると、本件訂正発明と甲12発明とは、
「遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
両端が開口した円筒状の案内部材と、
上記案内部材に収容される吸水剤と、
上記案内部材にその軸方向に移動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、
上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されており、
肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている
ことを特徴とする遺体の処置装置」
の点で一致し、下記の3点で相違しているといえる。

相違点7:吸水剤につき、本件訂正発明では、「粉末状の吸水剤」であるのに対して、甲12発明では、「吸液膨張体」である点
相違点8:本件訂正発明では、「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え」るのに対して、甲12発明では、「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されて」いる点
相違点9:本件訂正発明では、「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる・・ように構成されている」のに対して、甲12発明では、そのような特定がなされていない点

(2)検討
ア 相違点7について
上記相違点7につき検討すると、甲5ないし8にもそれぞれ記載されているとおり、遺体の体内液を吸収する吸水剤を遺体の孔部に注入する遺体の処理装置において、粉末状の吸水剤を使用することは当業者の周知慣用の技術である(摘示(5c)、摘示(6b)ないし(6d)、摘示(7a)及び摘示(8c)など参照)。
また、特に甲7に記載されている(摘示(7c)参照)とおり、微粉末状の高吸水性ポリマーを使用することにより、遺体の孔部に注入した場合、当該ポリマーの微粉末が孔部内部に拡散し内壁の組織にすき間なく均一に付着することも、少なくとも公知の技術である。
してみると、甲12発明において、吸水剤を遺体内部(直腸部)に十分に拡散させ、体液の漏出防止を確実に行うために、「吸液膨張体」に代えて、遺体の処理技術に係る上記当業者の周知慣用の技術に基づき、「粉末状の吸水剤」を使用することは、当業者が適宜なし得る事項である。

イ 相違点8及び9について
上記相違点8及び9につき併せて検討する。
上記2(2)イで述べたように、甲6、甲32には、相違点8に対応する「案内部材の一端開口部側は、・・肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え」る構成は開示されているとはいえるものの、相違点9に対応する「肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させる・・ように構成されている」点について開示されているとはいえない。
その他、請求人が提示する甲4?甲8は、いずれも粉末状の吸水剤を遺体の孔部に挿入して体液漏出防止をする装置を開示してはいるものの、相違点9に対応する構成は開示されてはいないし、甲9は、固形の座剤を肛門に挿入する座剤挿入具であるが、これも相違点9に対応する構成は開示されていない。また甲14は、吸水性繊維からなる筒状成形体と水溶性シール材と潤滑層からなる体腔封止装置を開示するものの、相違点9に対応する構成は開示されてはいない。
したがって、甲12発明において、甲4ないし項9、甲14及び甲32の記載に基づいて、当業者が相違点9の構成を容易に想到し得たとは認めることができない。

(3)まとめ
よって、本件訂正発明は、甲12発明及び甲4ないし甲9、甲14並びに甲32に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできない。

5 各無効理由についての検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明についての特許は、請求人が主張する【無効理由4】、【無効理由7】及び【無効理由8】によっては、無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明についての特許は、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては、無効とすることはできない。
また、他に本件訂正発明についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
遺体の処置装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の処置装置に関し、特に、遺体の肛門から体内物が漏出するのを抑制する遺体の処置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人間が死亡した後には、各部の筋肉が弛緩してきて、例えば肛門からは直腸内に残留している便や体液等の体内物が漏出し、女性の場合には膣からも体内物が漏出することがある。このように遺体の各孔部から体内物が漏出すると、衛生的に好ましくなく、その後の遺体の搬送作業等に悪影響を与えることになるので、従来より、例えば特許文献1に開示されているような封止部材により遺体の孔部を封止して体内物の漏出を抑制することが行われている。
【0003】
特許文献1の封止部材は、水分を吸収して膨張する水膨潤性繊維により構成された柱状体を水溶性のシートで被覆し、さらに、このシートの表面に潤滑剤を塗布してなるものである。この封止部材を例えば肛門に使用する際には、処置者が柱状体の長手方向一端部を肛門に当てて他端部を指で挿入方向に押すことで、潤滑剤の作用により柱状体がシートと共に直腸内に挿入される。柱状体がシートと共に直腸内に挿入されると、体内物の水分によりシートが溶け、該水分が柱状体の繊維に吸収される。この水分を吸収した繊維が膨張することで柱状体の直径は拡大し、該柱状体が直腸内壁に密着して直腸が閉塞された状態となり、肛門からの体内物の漏出が抑制される。
【特許文献1】特開2003-111830号公報(第3頁、第4頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば人間が病死した場合には、その前に行われた治療の際の洗腸処置等によって体内物が多量に排出することがある。また、洗腸処置等を施さなくても個人差により体内物の水分量は多めの場合がある。このように洗腸処置等を施した場合や遺体の体内物の水分量が多い場合には、特許文献1のように封止部材を孔部に挿入しただけでは、体内物の水分を柱状体で吸水しきれずに、体内物が柱状体の繊維間を流動して孔部から漏出してしまうことがある。
【0005】
また、特許文献1の封止部材では、繊維で構成された柱状体を処置者が指で押して孔部内に挿入するようにしているので、挿入途中で柱状体の形が崩れて所定位置に挿入できずに、柱状体による孔部の封止作用が低下してしまうことが考えられる。従って、柱状体の挿入作業は該柱状体の形が崩れないように注意深く行う必要があり、処置者にとって煩雑な作業である。さらに、そのように柱状体を遺体の孔部に確実に挿入するには、処置者は該孔部に指を差し込まなければならないので、柱状体の挿入作業は処置現場において敬遠される作業である。
【0006】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、洗腸処置等を施した場合や、体内物の水分量が多い場合であっても、遺体の孔部から体内物が漏出するのを抑制できるようにし、しかも、その体内物の漏出を抑制する処置の作業性を良好にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、円筒状の案内部材に吸水剤を収容し、吸水剤を押出棒により遺体の孔部内に押し出すようにした。
【0008】
請求項1に係る発明は、遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
両端が開口した円筒状の案内部材と、
上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、
上記案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、
上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え、肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されている。
【0009】
従って、吸水剤を案内部材によって直腸に挿入するようにしたから、吸水剤を直腸に挿入するに際して、処置者は肛門に指を差し込む必要はない。そして、体内物の水分が吸水剤により吸収されるので、該体内物が肛門から漏出するのが抑制される。
【0010】
また、上記案内部材の一端開口部側に、該一端開口部を閉塞する閉塞部材を設けている。
【0011】
従って、案内部材の一端開口部が閉塞部材により閉塞されているので、案内部材に収容された吸水剤が、使用前に一端開口部から外部に出てしまうことはない。また、吸水剤を遺体の直腸に挿入する際には、処置者が案内部材の一端開口部を遺体の肛門に挿入してから押出棒を操作するだけで、閉塞部材が案内部材の一端開口部から離脱し、吸水剤が案内部材により案内されて直腸内の所定位置まで挿入される。
【0012】
また、上記案内部材の外周面に鍔部を設けておき、該案内部材を肛門に挿入してその鍔部を肛門の周辺に接触させることにより、該案内部材がそれ以上肛門に挿入されないようにしてもよい。
【0013】
従って、案内部材の鍔部が該案内部材の肛門からの挿入量の目安となる。
【0014】
また、上記案内部材の内面における他端部近傍には径方向内側へ突出し、上記押出棒に係合して該押出棒が当該案内部材から抜け落ちないようにする突起部が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
従って、本発明によれば、吸水剤が挿入された円筒状の案内部材を肛門から直腸へ挿入して、吸水剤を押出棒により直腸内に押し出すことができる。これにより、処置者は肛門に指を差し込むことなく、吸水剤を直腸に挿入することができ、吸水剤により体内物の水分を吸水させることができ、該体内物が肛門から漏出することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る遺体の処置装置1を示す。この処置装置1は、図5に示すように、遺体の直腸B内の体内物が肛門Aから漏出するのを抑制するものであり、水分を吸収して膨張する柱状体としての封止部材2と、吸水剤3と、これらを収容して遺体の直腸B内に案内する筒状の案内部材4と、上記封止部材2及び吸水剤3を案内部材4から押し出す押出棒5とを備えている。
【0018】
上記案内部材4は、樹脂材を円筒状に成形してなるものであり、両端が開口している。この案内部材4の大きさは、例えば大人の肛門の形状に対応しており、具体的には、軸方向の寸法は85mm以上100mm以下に設定され、また、内径は20mm以上23mm以下に設定されている。案内部材4の肉厚は、約0.5mmに設定されている。
【0019】
図2に示すように、案内部材4の一端開口部4aの周縁には、該一端開口部4aの径方向中心へ向けて湾曲して延びる複数の羽状部7が一体に設けられている。一端開口部4aの周方向に隣接する羽状部7の間には隙間が設けられており、各羽状部7は、該羽状部7の先端側が案内部材4の軸方向に変位するように撓み変形可能とされている。また、一端開口部4aの径方向に向かい合う羽状部7の先端間の寸法R2は、案内部材4の内径R1の0.3倍以上0.7倍以下の範囲で設定されている。
【0020】
図1に示すように、上記案内部材4の他端開口部4bの直径は、該案内部材4の内径R1と略同じに設定されている。この案内部材4の内面における他端部近傍には、径方向内側へ突出する突起部8が一体に設けられている。
【0021】
上記押出棒5は、棒材10と、該棒材10の両端部に設けられた一対の円板部材11とで構成されている。これら一対の円板部材11は共通しており、外径は案内部材4の内径R1と略同じに設定され、各円板部材11の周縁部には、案内部材4の内面に摺接する周壁部12が設けられ、中心部には断面十字状の嵌合部13が棒材10側へ向けて突設されている。図3に示すように、各円板部材11の周壁部12と嵌合部13との間には、3つの開口部14が互いに周方向に離れて設けられている。この開口部14は、押出棒5を案内部材4の軸方向に移動させる際に、該案内部材4内の空気を円板部材11の両側に流通させるためのものである。この開口部14の大きさや数は自由に設定することが可能である。
【0022】
また、上記棒材10は、細長い円筒状に形成され、長さは、上記案内部材4の軸方向の寸法よりも長く設定されている。該棒材10の両端部に上記円板部材11の嵌合部13が嵌入して棒材10と円板部材11とが一体化されている。このように、押出棒5を棒材10と円板部材11とを組み合わせて構成したので、該棒材10と円板部材11とを適切な材料で構成することが可能になる。
【0023】
上記押出棒5は、一方の円板部材11側から案内部材4の他端開口部4bに挿入されるようになっており、この挿入された状態で、円板部材11の周壁部12と案内部材4の内面との間に摺動抵抗が生じるようになっている。また、押出棒5を案内部材4に挿入すると、円板部材11の周壁部12が案内部材4の突起部8に係合して押出棒5が案内部材4から抜け落ちないようになっている。また、上記のように押出棒5の両端の円板部材11を共通化しているので、どちらの円板部材11を案内部材4に挿入しても案内部材4との関係は同じになる。
【0024】
上記封止部材2は水膨潤性繊維を円柱状に成形してなるものである。この封止部材2の外径は、上記案内部材4の内径R1と略同じに設定され、軸方向の寸法は案内部材4の軸方向の寸法よりも短く設定されている。尚、封止部材2の大きさは、本処置装置1を使用する遺体に合わせて変更することが可能である。
【0025】
この実施形態では、上記水膨潤性繊維として、アクリル繊維の内層と吸水性樹脂からなる外層とで構成された東洋紡績株式会社製のランシール(登録商標)F又はランシール(登録商標)Kを用いている。この水膨潤繊維の吸水速さは、水に接触すると約10秒で平衡吸水量の約50%以上に達する速さである。また、この水膨潤繊維は、吸水した後は、多少の圧力を加えても離水せず、また、水には殆ど溶けない性質を持っている。さらに、この水膨潤繊維は、吸水後の繊維径が吸水前の繊維径の約5倍以上に拡大する一方、繊維の長さ方向の寸法は、アクリル繊維で維持されて殆ど変化しない。また、水膨潤繊維の繊維物性はアクリル繊維で維持されているので、外層の吸水性樹脂が吸水しても殆ど低下しないようになっている。
【0026】
また、上記水膨潤性繊維にはカルボキシル基があり、このカルボキシル基により体内物のアンモニアが選択的に吸着されるようになっている。これにより、臭気の軽減が可能となる。
【0027】
上記吸水剤3は吸水性樹脂の粉末で構成されていて、該粉末の粒子の大きさは、40メッシュ以上150メッシュ以下とされている。この実施形態では、吸水性樹脂として、アクリル系高分子架橋体を用いている。このアクリル系高分子架橋体は、水を吸収するとゲル状に変化し、ゲル状に変化した後には水に溶けない性質を持っている。吸水性樹脂としては、上記アクリル系高分子架橋体以外にも、吸収した水を離水させない樹脂、例えば、デンプン/アクリル酸塩グラフト共重合体、デンプン/アクリロニトリルグラフト共重合体、ポリエチレンオキシド架橋体物等を用いることも可能である。
【0028】
上記吸水剤3には安定化二酸化塩素を混合してもよい。この安定化二酸化塩素を混合することで、消臭及び病原菌の減衰を図ることが可能となる。また、吸水剤3には、安定化二酸化塩素の他に、消臭剤、殺菌剤や防腐剤等を混合してもよい。
【0029】
上記吸水剤3は、図1及び図4に示すように、案内部材4内において封止部材2よりも一端開口部4a側で閉塞部材16と封止部材2との間に収容されている。この実施形態では、吸水剤3の収容量は、0.10g以上3.00g以下の範囲内で例えば0.50gに設定している。吸水剤3の収容量は、0.05g以上5.00g以下の範囲で設定すれば体内物の水分を十分に吸収することが可能である。
【0030】
上記閉塞部材16は、生分解樹脂を案内部材4の他端側に開放するハット状に形成してなるものであり、この閉塞部材16も処置装置1の構成部材である。閉塞部材16は、案内部材4内の一端開口部4a近傍に収容されている。この閉塞部材16の開放側は案内部材4の内面に密着している。また、閉塞部材16の羽状部7と対向する面は、該羽状部7の案内部材4内部側の面に沿うように形成されており、閉塞部材16が羽状部7により案内部材4の一端開口部4aから出ないようになっている。
【0031】
上記閉塞部材16は、上記押出棒5により封止部材2を一端開口部4a側へ押した際に、その押圧力により羽状部7が撓むことで案内部材4の一端開口部4aから外部に出て該案内部材4から離脱するようになっている。尚、この閉塞部材16は、例えば、紙、布や脱脂綿等を成形してなるものとしてもよい。
【0032】
次に、上記のように構成された遺体の処置装置1を製造する要領について説明する。まず、閉塞部材16を案内部材4に他端開口部4bから挿入する。この際、閉塞部材16の開放側を他端開口部4b側に向けておく。この閉塞部材16は樹脂製であるため、案内部材4の突起部8を乗り越える際に弾性変形し、これにより、閉塞部材16を案内部材4に挿入する際の力が小さくなる。
【0033】
そして、上記閉塞部材16の内部に吸水剤3を入れた後、案内部材4の他端開口部4bから封止部材2を挿入する。この封止部材2により閉塞部材16の開放側が覆われる。また、封止部材2は繊維で構成されているため、案内部材4の突起部8を乗り越える際に変形し、これにより、封止部材2を案内部材4に挿入する際の力が小さくなる。
【0034】
その後、押出棒5の一方の円板部材11を封止部材2の閉塞部材16と反対側の端面に押し当て、該押出棒5により封止部材2を閉塞部材16と共に案内部材4の一端開口部4a側へ押し込んでいく。この押し込み動作は、閉塞部材16が羽状部7に当接したら終了する。
【0035】
上記案内部材4に挿入された閉塞部材16及び封止部材2は、羽状部7により一端開口部4aから出るのが阻止されるとともに、押出棒5により他端開口部4bから出るのが阻止される。この際、向かい合う羽状部7の先端間の寸法R2が案内部材4の内径R1の0.7倍以下とされているので、例えば処置装置1を搬送する際等に、閉塞部材16及び封止部材2が一端開口部4aから出るのを確実に阻止することが可能となっている。
【0036】
次に、図5に基づいて、上記のように構成された遺体の処置装置1を使用する要領について説明する。まず、図5(a)に示すように、案内部材4の外面に潤滑剤を塗布した後、該案内部材4の一端開口部4a側を肛門Aに数十mm挿入する。その後、押出棒5を押すと、押圧力が封止部材2、吸水剤3及び閉塞部材16に伝わる。この押圧力により閉塞部材16が羽状部7を案内部材4の外部へ撓ませて一端開口部4aから直腸B内に出て、案内部材4から離脱する。この際、向かい合う羽状部7の先端間の寸法R2が案内部材4の内径R1の0.3倍以上確保されているので、閉塞部材16を押し出す際の押圧力は小さくて済み、押出棒5の操作が簡単に行える。
【0037】
そして、図5(b)に示すように、上記閉塞部材16に続いて封止部材2も直腸B内に出て、このとき、閉塞部材16と封止部材2とが離れて吸水剤3が封止部材2よりも直腸Bの奥側で散らばる。このように、上記封止部材2は案内部材4により所期の形状を保ったまま、直腸Bの所定位置まで確実に挿入され、また、吸水剤3も同様に案内部材4により挿入される。これにより、封止部材2及び吸水剤3を直腸Bに挿入するに際して、従来のように肛門Aに指を差し込む必要はない。
【0038】
上記吸水剤3及び封止部材2を直腸Bに挿入した後、案内部材4を肛門Aから抜いて処置が完了する。
【0039】
その後、上記直腸Bに挿入された封止部材2の水膨潤性繊維が、該直腸Bの体内物の水分を吸収して膨潤すると、封止部材2が膨張して直径が5倍以上に拡大する。この封止部材2が膨張することにより、該封止部材2の外周面が直腸Bの内壁に密着して該直腸Bが封止される。このとき、封止部材2を構成する繊維が膨潤しているので、繊維同士が密着して該繊維間の隙間は殆ど無くなっている。また、この水膨潤性繊維は吸水後に繊維物性が変化しないので、封止部材2の形が膨張した後においても崩れ難くなっている。
【0040】
また、図5(c)に示すように、吸水剤3は直腸Bの奥側で体内物の水分を吸収してゲル化する。このゲル化した吸水剤を符号30で示す。このとき、吸水剤3の量が0.10g以上とされているので、体内物の水分が吸水剤3により確実に吸収される。このように体内物の水分が吸収されることにより、該体内物が肛門Aから漏出するのが抑制される。
【0041】
したがって、この実施形態に係る遺体の処置装置1によれば、案内部材4に収容した吸水剤3及び封止部材2を押出棒5により遺体の肛門Aを介して直腸Bに挿入するようにしたので、体内物が肛門Aから漏出するのを抑制する処置の作業性を良好にすることができる。また、吸水剤3が直腸Bの体内物の水分を吸収するので、洗腸処置等を施した場合や、体内物の水分量が多い場合でも該体内物が肛門Aから漏出するのを抑制することができる。
【0042】
また、吸水剤3を案内部材4内の封止部材2よりも一端開口部4a側に収容したので、吸水剤3を直腸Bの奥側に挿入することができる。これにより、体内物の水分を直腸Bの奥側で吸水剤3に効果的に吸水させることができる。
【0043】
また、封止部材2を水膨潤性繊維で構成したので、体内物の水分を吸収した繊維間の隙間が殆ど無くなり、封止部材2による直腸Bの封止作用を十分に得ることができる。
【0044】
また、吸水剤3を吸水性樹脂の粉末で構成したので、吸水剤3が直腸B内で拡散し易い。このため、直腸Bの広い範囲で体内物の水分を吸水剤3に吸収させることができる。
【0045】
また、吸水剤3は吸水後にゲル化して流動に難くなるので、該吸水剤3が肛門Aから漏出するのを抑制することができる。
【0046】
尚、上記案内部材4には、図6に示す変形例1のように、肛門Aへの挿入量の目安となる目印部40を設けてもよい。この目印部40は、案内部材4の外周面の軸方向中間部に該案内部材4を構成する樹脂材と異なる色を塗布して形成されている。この目印部40の位置は自由に設定することが可能である。そして、案内部材4を肛門Aに挿入する際には、該案内部材4を目印部40が肛門Aの近傍に位置するまで挿入する。これにより、案内部材4の挿入量不足や挿入し過ぎを防ぐことができて、吸水剤3及び封止部材2を直腸B内の所定位置に確実に配置することができる。上記目印部40は、例えばシールを貼り付けたり、シボや凹凸状の模様等で構成してもよい。
【0047】
また、図7に示す変形例2では、上記案内部材4の一端側の肉厚t2を他端側の肉厚t1よりも薄くすることにより、一端側の外径を他端側の外径よりも小さくして段差部41を形成している。これにより、案内部材4を肛門Aに挿入する際、段差部41が肛門Aに達すると挿入力が大きくなり、このことで、処置者は案内部材4の挿入量が分かるようになる。つまり、この変形例2では段差部41が案内部材4の挿入量の目安となる。
【0048】
また、図8に示す変形例3では、案内部材4の外周面に鍔部42を設けている。従って、案内部材4を肛門Aに挿入していくと、鍔部42が肛門Aの周辺に接触することにより案内部材4がそれ以上肛門に挿入されなくなる。つまり、変形例3では鍔部42が案内部材4の挿入量の目安となる。
【0049】
また、この実施形態では、封止部材2が水膨潤性繊維のみで構成されている場合について説明したが、封止部材2は、図示しないが、例えば、綿等の繊維と上述した吸水性樹脂の粉末との混合物で構成してもよい。この混合物で構成された封止部材は、体内物の水分に触れると吸水性樹脂が膨張することにより、封止部材が直腸Bを封止するまで膨張する。このとき、吸水性樹脂は、ゲル化して繊維に保持されて該吸水性樹脂と繊維とが一体化するので、封止部材2による直腸Bの封止作用を十分に得ることができる。
【0050】
また、この実施形態では、遺体の処置装置1を肛門Aに使用する場合について説明したが、例えば膣に使用することも可能であり、この場合には、案内部材4や封止部材2を膣の形状に対応する形状とすればよい。また、案内部材4や封止部材2の形状は体格や性別により変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る遺体の処置装置の部分断面図である。
【図2】案内部材を一端開口部側から見た正面図である。
【図3】図1におけるX-X線断面図である。
【図4】閉塞部材、吸水剤及び封止部材の断面図である。
【図5】遺体の処置装置の使用要領を示し、(a)は案内部材を肛門に挿入した状態を示す図であり、(b)は閉塞部材、吸水剤及び封止部材を案内部材から直腸内に押し出した状態を示す図であり、(c)は吸水剤及び封止部材が体内物の水分を吸収した状態を示す図である。
【図6】実施形態の変形例1に係る案内部材の部分断面図である。
【図7】実施形態の変形例2に係る図6相当図である。
【図8】実施形態の変形例3に係る図6相当図である。
【符号の説明】
【0052】
1 遺体の処置装置
2 封止部材
3 吸水剤
4 案内部材
4a 一端開口部
4b 他端開口部
5 押出棒
16 閉塞部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって、
両端が開口した円筒状の案内部材と、
上記案内部材に収容される粉末状の吸水剤と、
上記案内部材にその軸方向に摺動するように挿入され、上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出棒とを備え、
上記案内部材の一端開口部側は、肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに、上記案内部材の一端開口部側に離脱可能に設けられ、肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように該一端開口部を閉塞する閉塞部材を備え、肛門への挿入後に上記押出棒の押し出し操作により上記閉塞部材を上記案内部材の一端開口部から直腸内に離脱させるとともに上記吸水剤を直腸内に押し出すように構成されていることを特徴とする遺体の処置装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-09 
審決日 2013-09-20 
出願番号 特願2008-268908(P2008-268908)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A01N)
P 1 113・ 841- YA (A01N)
P 1 113・ 854- YA (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之木村 敏康  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 村守 宏文
門前 浩一
登録日 2008-12-26 
登録番号 特許第4237247号(P4237247)
発明の名称 遺体の処置装置  
代理人 佐々木 猛也  
代理人 竹内 宏  
代理人 佐々木 猛也  
代理人 平田 かおり  
代理人 河部 大輔  
代理人 河部 大輔  
代理人 前田 弘  
代理人 嶋田 高久  
代理人 竹内 宏  
代理人 平田 かおり  
代理人 ▲吉▼田 繁喜  
代理人 前田 亮  
代理人 嶋田 高久  
代理人 前田 亮  
代理人 前田 弘  
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