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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1282503
審判番号 不服2012-25252  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-20 
確定日 2013-12-05 
事件の表示 特願2008-540411「高性能リグノセルロース繊維複合材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月24日国際公開、WO2007/056839、平成21年 4月16日国内公表、特表2009-516032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯


本願は、平成18年9月11日(パリ条約による優先権主張 2005年11月18日 カナダ(CA))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年12月14日付けで拒絶理由が通知され、平成24年6月19日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年8月3日付けで拒絶査定がなされ、同年12月20日に拒絶査定不服審判が請求され、平成25年2月12日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。


第2.本願発明


本願の請求項1?24に係る発明は、平成24年6月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「リグノセルロース繊維/熱可塑性物質複合体の製造方法であって、以下の工程
(a)リグノセルロース繊維の分解温度より低い温度での攪拌機内におけるリグノセルロース繊維の脱繊維工程であって、
(i)リグノセルロース繊維間に存在する水素結合の分離及び
(ii)リグノセルロース繊維上への微小繊維の生成
を達成するために操作可能な時間行う前記工程、
(b)融解熱可塑性物質へのリグノセルロース繊維をくまなく分散させる工程、
それにより熱可塑性物質中に分散されたリグノセルロース繊維及び微小繊維が熱可塑性物質との界面付着を実現する工程、
を含むことを特徴とする前記方法。」


第3.原査定の拒絶の理由の概要


原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その優先日前に外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許出願公開第2005/225009号明細書」

というものを含むものである。

なお、以下、引用文献1を「刊行物A」という。


第4.刊行物Aの記載事項


本願の優先日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。なお、摘示箇所の後に当審訳文を付した。

A1「〔0015〕 However, poor dispersion of fibres in the plastic matrix, lack of interfacial interaction between the fibres and the plastic matrix are still pertaining as the challenges in the development of plant fibre reinforced composite product with improved properties. Poor dispersion, being resulted from the strong hydrogen bonds between the cellulosic fibres and lack of compatibility arises from the very different nature of the hydrophilic surfaces of plant fibres and the hydrophobic nature of the polymeric surfaces.」

「〔0015〕しかしながら、プラスチックマトリックス中への繊維の分散不良及び繊維とプラスチックマトリックス間での界面相互作用の欠如のためであり、今なお、植物繊維強化複合材料の特性改良における開発課題として残っている。セルロース繊維間に強固な水素結合と相溶性の欠如による結果おこる分散不良とは、植物繊維の親水性表面とポリマー表面の親油性という全く異なる性質に起因する。」

A2「〔0023〕 The lignocellulosic/cellulosic reinforcement in the composite product manufactured by the process of invention consists of either wood pulp fibres, preferably, thermomechnical pulp (TMP), chemical pulp such as kraft pulp or bleached kraft pulp (BKP)・・・ 」

「〔0023〕本発明の方法によって製造される複合材料中のリグノセルロース/セルロース強化材は木材パルプ繊維、好ましくは、熱機械パルプ(TMP)、クラフトパルプ、漂白クラフトパルプ等の化学パルプと植物皮繊維、好ましくは麻や亜麻とからなっており」

A3「〔0029〕 defiberization and melt blending of the discontinuous cellulosic fibres with thermoplastic material and surface active agents at high temperature and shear using a high shear thermo kinetic mixer with an r.p.m of not less than 3200. 」

「〔0029〕脱繊維化し、不連続セルロース繊維を高温において熱可塑性材料及び界面活性剤と溶融混合し、少なくとも3200r.p.m.の熱運動的高剪断攪拌器を使用することにより剪断作用させる」

A4「〔0032〕・・・
〔0035〕 Better performance of the composite through better interfacial interaction of the lignocellulosic fibres and inorganic fillers with the thermoplastics by the selected surface active agents. 」

「〔0032〕・・・
〔0035〕選択された界面活性剤により熱可塑性プラスチックとリグノセルロース繊維及び無機繊維との界面相互作用が改善され複合体の特性が改良される。」

A5「〔0038〕・・・Preferably, surface active agents (compatibilzers) are used to improve the interaction between the cellulosic and inorganic fibres with the matrix and to substantially disperse the cellulosic and inorganic fibres throughout the matrix. 」

「〔0038〕・・・好ましいことに、界面活性剤がマトリックスとセルロース及び無機繊維間の相互作用を改良するために、そして、セルロースと無機繊維をマトリックス中にくまなく分散させるために使用される。」

A6「〔0057〕 ・・・ Example 1 ・・・
〔0058〕 ・・・ Pulp fibres are defiberized in a high shear internal thermo-kinetic mixer for not more than 1 minute, and blended subsequently with the thermoplastic and maleated polypropylene and half of the silane functional polymer for not more than 3 minutes. The blend thereafter further consolidated using a low shear mixer for not less than five minutes at a temperature of not more than 210 degree centigrade and at an r.p.m. of not less than 60. Synthetic fibres and half of the silane functional polymer were blended with the said composition at a later stage for not more than 3 minutes.」

「〔0057〕 ・・・ 実施例1・・・
〔0058〕・・・パルプ繊維が1分間を超えない範囲で熱運動的高剪断攪拌器で脱繊維化され、続いて、熱可塑性樹脂、マレイン化ポリプロピレン及びシラン官能性ポリマーの半量を加え3分間を超えない範囲で混合する。その後さらに、混合物を少なくとも60r.p.m.でかつ210℃を超えない温度で少なくとも5分間低剪断混合することで均質化する。合成繊維とシラン官能性ポリマーの残り半量が後段階において当該組成物に3分間を超えない範囲で混合される。」

A7「〔0072〕 Case 1
〔0073〕 Bast fibres, preferably flax, were blended with molten polypropylene and maleated polypropylene in a low shear mixer at a temperature not more than 210 degree centigrade and at an r.p.m. not less than 60 for not less than 5 minutes. Glass fibres and silane functional polymer were blended with the said composition at a later stage and preferably not more than 3 minutes. 」

「〔0072〕 ケース1
〔0073〕靱皮繊維、好ましくは、亜麻が、少なくとも5分間、少なくとも60r.p.m.かつ210℃を超えない温度で低剪断混合されることで、溶融ポリプロピレンとマレイン化ポリプロピレンに混合される。ガラス繊維やシラン官能性ポリマーは後段階において当該組成物に混合され、好ましくは3分間を超えない範囲で混合される。」

A8「1 . A process for preparing a moldable short or discontinuous cellulosic fibre filled thermoplastic materials for automotive, aerospace, furniture and other structural applications, where in the process comprises the steps of at least defiberizing and dispersing the fibres in the thermoplastic matrix, preferably using a two-stage compounding technique, where in the cellulosic fibres, surface active agent and thermoplastics melt blend in a high shear mixing equipment and where after blend in a low shear mixer and preferably blend with other inorganic fillers at the later stage of blending, where the mixed compounds containing a combination of inorganic and organic fibres, were subjected to heat and pressure by compression and injection without degrading the compound to obtain complex shaped molded articles from.」(特許請求の範囲 請求項1)

「1.自動車、航空宇宙、家具その他の構造物への応用に適した成形加工可能な短又は不連続セルロース繊維含有熱可塑性材料である、無機繊維と有機繊維とを組み合わせて含んでいる混合複合体であって、圧縮や注入における温度や圧力にさらされても劣化することがなく、複雑な形態に加工される物品を得る複合体の製造方法において、少なくとも脱繊維工程及び熱可塑性材料に繊維を分散する工程からなり、好ましくは、二段階複合化技術を用い、当該セルロース繊維、界面活性剤及び熱可塑性樹脂が高剪断攪拌機で溶融混合され、その後、低剪断で混合され、好ましくはその後、他の無機繊維を混合される製造方法。」


第5.刊行物Aに記載された発明


摘示A8からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。

「自動車、航空宇宙、家具その他の構造物への応用に適した成形加工可能な短又は不連続セルロース繊維含有熱可塑性材料である、無機繊維と有機繊維とを組み合わせて含んでいる混合複合体であって、圧縮や注入における温度や圧力にさらされても劣化することがなく、複雑な形態に加工される物品を得る複合体の製造方法において、少なくとも脱繊維工程及び熱可塑性材料に繊維を分散する工程からなり、好ましくは、二段階複合化技術を用い、当該セルロース繊維、界面活性剤及び熱可塑性樹脂が高剪断攪拌機で溶融混合され、その後、低剪断で混合され、好ましくはその後、他の無機繊維を混合される製造方法。」


第6.対比・判断


1.本願発明について
本願発明と刊行物A発明とを比較する。

刊行物A発明における「セルロース繊維」は、摘示A2の記載から「リグノセルロース(lignocellulosic)」を含んでいることが明らかであることから、本願発明における「リグノセルロース繊維」に相当する。
さらに、刊行物A発明における「成形加工可能な短又は不連続セルロース繊維含有熱可塑性材料」は、セルロース繊維を熱可塑性材料に配合した成形加工用材料であることからすると、本願発明における「リグノセルロース繊維/熱可塑性物質複合体」に相当する。

刊行物A発明における「脱繊維工程」は、本願発明における「脱繊維工程」に相当する。

刊行物A発明における「熱可塑性材料に繊維を分散する」は、摘示A5に、「 セルロース繊維と無機繊維をマトリックス中にくまなく分散させる」との記載があること、摘示A6において、マトリックス樹脂としてマレイン化ポリプロピレンを用い210℃を超えない温度で混練していること、摘示A7には、210℃を超えない温度においてポリプロピレンは溶融しているとの記載があることから、本願発明における「(b)融解熱可塑性物質へのリグノセルロース繊維をくまなく分散させる工程」に相当する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
リグノセルロース繊維/熱可塑性物質複合体の製造方法であって、以下の工程
(a)リグノセルロース繊維脱繊維工程、
(b)融解熱可塑性物質へのリグノセルロース繊維をくまなく分散させる工程、
を含む前記方法。

〔相違点1〕
本願発明において、脱繊維工程が「リグノセルロース繊維の分解温度より低い温度での攪拌機内における」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定が明記されていない点。

〔相違点2〕
本願発明において、脱繊維工程が「(i)リグノセルロース繊維間に存在する水素結合の分離」及び「(ii)リグノセルロース繊維上への微小繊維の生成」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定が明記されていない点。

〔相違点3〕
本願発明において、「それにより熱可塑性物質中に分散されたリグノセルロース繊維及び微小繊維が熱可塑性物質との界面付着を実現する工程」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定が明記されていない点。

2.相違点について
〔相違点1〕について
刊行物Aには、プラスチックマトリックス中への繊維の分散不良が、セルロース繊維間に強固な水素結合がある結果起こる旨の記載(摘示A1)があり、そのため、プラスチックマトリックス中に分散する前に、セルロース繊維を脱繊維する工程を設ける旨の記載(摘示A3、A6)があるところ、脱繊維を行うための手段として、熱運動的高剪断攪拌器内で行う旨の記載(摘示A6)があるのみで、加熱するとの記載はないものの、熱運動的高剪断攪拌器を用いたセルロース繊維の脱繊維は、剪断による発熱を伴う工程であると認められる。ここで、本願明細書段落【0025】には、リグノセルロース繊維の脱繊維を熱運動的高剪断攪拌機の中で、2500?3500rpm程度に対応する先端速度で30秒程度行うことにより、加熱をしなくとも、剪断による発熱により100?140℃となることからこの程度の温度で脱繊維を行うことが好ましい旨の記載がある。そうすると、刊行物A発明においても、脱繊維を加熱をすることがなく、3200r.p.m.程度で熱運動的高剪断攪拌器攪拌器で行う旨の記載(摘示A3)があり、脱繊維工程が1分未満であることからすると、刊行物A発明における「脱繊維工程」における温度は、上記140℃程度の温度の場合を含んでおり、それはセルロース繊維が分解しない温度、すなわち、リグノセルロース繊維の分解温度より低い温度であることから、この点は実質的な相違点とはいえない。
〔相違点2〕について
刊行物Aには、プラスチックマトリックス中への繊維の分散不良が、セルロース繊維間に強固な水素結合がある結果起こる旨の記載(摘示A1)があり、セルロース繊維を脱繊維化することで、セルロース繊維を樹脂マトリックス中にくまなく分散させる旨の記載(摘示A5)がある。そして、刊行物Aには、セルロース繊維の脱繊維工程を熱運動的高剪断攪拌器内で1分を超えない範囲で行う旨の記載(摘示A6)とともに、高剪断工程は3200r.p.m.程度で熱運動的高剪断攪拌器攪拌器を用いる旨の記載(摘示A3)がある。そして、本願明細書段落【0025】には、「水素結合している繊維を分離し及び微小繊維を生産する」ことは、リグノセルロース繊維の脱繊維を熱運動的高剪断攪拌機の中で、2500?3500rpm程度に対応する先端速度で30秒程度で達成されることが記載されている。そうすると、刊行物A発明における「脱繊維工程」は、熱運動的高剪断攪拌機の中で、3200r.p.m.程度の高剪断を施し、その作用時間が1分程度と記載され、脱繊維を達成していることに加えて、刊行物Aには、セルロース繊維間の水素結合が分散不良の原因の一つとして挙げており、それに対する手法として、本発明がセルロース繊維間の水素結合を分離するために用いている手法と同様の、熱運動的高剪断攪拌器を用い、セルロース繊維に本願発明と同程度の高剪断作用を同程度の時間作用させていることからすると、刊行物A発明における「脱繊維工程」においても、「リグノセルロース繊維間に存在する水素結合の分離」が達成されていると認められる。
また、 本願発明が規定している「微小繊維」は、繊維上にある微小繊維であることから、個々の繊維が水素結合により接着した結果得られる繊維束が剪断を受けることにより、繊維束の一部の繊維がめくりあがる、つまり、めくりあがった部分における繊維間の水素結合が分離したことで、繊維束上に生ずる繊維(微小繊維)をも含むものと認められるところ、上記繊維束中の繊維の一部がめくりあがることで生ずる微小繊維は、剪断により水素結合を分離する工程があることにより同時に生ずるといえる。そうすると、刊行物Aには、上記のとおり、セルロース繊維を脱繊維し、脱繊維工程を施したセルロース繊維をプラスチックマトリックス中に分散していることから、水素結合を分離していることは明らかであるし、かかる分離の工程があれば、上述したとおり、同時に繊維上に微小繊維を生成させているのであるから、刊行物A発明において「リグノセルロース繊維上への微小繊維の生成」は達成されており、この点は実質的な相違点ではない。

〔相違点3〕について
刊行物Aには、リグノセルロース繊維と熱可塑性プラスチックとの表面相互作用が改善させる旨の記載(摘示A4,A5)があり、それによって、セルロース繊維が熱可塑性プラスチックにくまなく分散する旨の記載(摘示A5)があることからすると、刊行物A発明は、「それにより熱可塑性物質中に分散されたリグノセルロース繊維及び微小繊維が熱可塑性物質との界面付着を実現する工程」を備えているといえ、この点は実質的な相違点ではない。

よって、本願発明と刊行物A発明との間に差異はない。


第7.請求人の主張について


請求人は、審判請求書において、
1.本願発明の脱繊維は刊行物Aに開示された脱繊維とは異なる点、
2.刊行物Aの開示に基づいて、本願発明を完成するために必要とされる、繊維体積、混合チャンバ体積、混合温度、剪断力の強さ及び時間等の条件により決定される剪断機構の効果を理解することは出来ない点、
から、本願発明は刊行物Aに記載された発明に対して新規性進歩性を有する旨の主張をしている。

そして、より詳細には下記のとおりである。
1.脱繊維について
A.本願発明は、リグノセルロース繊維のみを含む単一の工程によりリグノセルロース繊維/熱可塑性物質複合体を製造する方法である点、
B.刊行物Aには、微小繊維を生成する時間の記述がない点、
C.本願発明の複合体はin-situの混合技術で単一の工程により、繊維を微小繊維に脱繊維化し、かつ、これらの微小繊維を熱可塑性マトリックス中に分散させる点、
D.本願発明における脱繊維は、適切な滞留時間、分解温度よりも低い十分な温度、剪断機速度、繊維のタイプ等様々な条件により達成されているところ、刊行物Aには、脱繊維の時間は1分未満との記載があるに過ぎないことから、この時間が十分な微小繊維の生成(脱繊維)又は水素結合の分離に十分な時間であることを明確に理解することはできない点、

2.本願発明を完成するために必要とされる、繊維体積、混合チャンバ体積、混合温度、剪断力の大きさ及び時間等の条件により決定される剪断の機構(以下、「本願剪断機構」という。)の効果について
A.刊行物Aに記載の事項により、本願剪断機構の効果を理解することは不可能である点、
B.例1として、開始温度が低すぎる場合は脱繊維が出来ず、開始温度が高すぎる場合は繊維が崩壊してしまうことを示し、刊行物Aに記載の手法では本願発明に送達し得ない点、
C.例2として、充填される繊維の体積が小さすぎる場合、剪断がかからず脱繊維が不十分なものとなり、充填される繊維の体積が大きすぎる場合、温度の急激な上昇により火災の危険があるためことを示し、刊行物Aに記載の手法では本願発明に送達し得ない点、
D.例3として、温度、混合チャンバーにおける繊維の体積画分及び剪断時間の相互依存が本願発明の効果を得るためには重要であることを示し、刊行物Aに記載の手法では水素結合の崩壊の程度を予測することが出来ない点
1.A.について
刊行物Aにおける脱繊維工程及び熱可塑性樹脂への分散工程は、まず熱運動的高剪断攪拌機内で脱繊維を行い、脱繊維した後の繊維を同じ熱運動的高剪断攪拌機内で機械的混合している旨の記載(摘示A6)があることから、セルロース繊維の脱繊維工程自体単一の工程といえ、この点において本願発明と刊行物A発明との間に差異はなく、この点に関する主張を採用することはできない。
また、「リグノセルロース繊維のみを含む」ことは、本願発明において規定されていない事項であることからすると、特許請求の範囲の記載に基づかないこの点に関する主張を採用することはできない。

1.B.について
上記〔相違点2〕についてで記載したとおり、繊維束上に生ずる微小繊維は、水素結合を分離する工程があることにより同時に生ずるといえることからすると、刊行物A発明は、水素結合を分離していることは明らかであるし、それは、同時に繊維上に微小繊維を生成させていることを意味していると解することが出来ることからすると、この点に関する主張を採用することはできない。

1.C.について
刊行物A発明において、セルロース繊維を脱繊維し、微小繊維を生成させ、その繊維を熱可塑性マトリックス中に分散させていることは、上記「1.A.」、「1.B.」に記載のとおりであることからすると、この点に関する主張を採用することはできない。

1.D.について
上記「第6.対比・判断」における「2.相違点について」で述べたとおり、刊行物Aには、適切な滞留時間(1分程度)、分解温度よりも低い十分な温度(「〔相違点1〕について」記載のとおり)、剪断機速度(「〔相違点2及び3〕について」記載のとおり)、繊維のタイプ(リグノセルロース繊維)がそれぞれ記載されていることからすると、この点に関する主張を採用することはできない。

2.A.について
本願発明は、水素結合を分離すること、微小繊維を生成することを規定するのみであり、いかなる機構により水素結合を分離するか、いかなる機構により微小繊維を生成するかまでは規定していないことからすると、この主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することは出来ない。
なお、上記「1.D.について」に記載のとおり、本願発明の脱繊維工程と刊行物A発明の脱繊維工程とは、熱運動的高剪断攪拌機内における滞留時間、温度、剪断速度、繊維のタイプにおいて差異はないことから、本願発明の水素結合を分離機構、微小繊維を生成する機構と刊行物A発明の水素結合を分離する機構、微小繊維を生成する機構も同じである蓋然性が高い。

2.B.及びC.について
刊行物Aには、脱繊維ができている旨の記載がある以上、特定の場合に脱繊維ができない旨の主張は刊行物Aに記載の事項とは関係のない主張であり、この点に関する主張を採用することはできない。

2.D.について
本願発明は、水素結合を分離することを規定するのみであり、どの程度水素結合を分離するかまでは規定していないことからすると、この主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することは出来ない。


第8.まとめ


以上のとおり、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-09 
結審通知日 2013-07-10 
審決日 2013-07-23 
出願番号 特願2008-540411(P2008-540411)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
加賀 直人
発明の名称 高性能リグノセルロース繊維複合材料の製造方法  
代理人 浅井 賢治  
代理人 辻居 幸一  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  
代理人 秋澤 慈  
代理人 箱田 篤  
代理人 市川 さつき  
代理人 秋澤 慈  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  
代理人 秋澤 慈  
代理人 辻居 幸一  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 辻居 幸一  

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