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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1282511
審判番号 不服2013-3634  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-26 
確定日 2013-12-05 
事件の表示 特願2001-282922「プラスチック複合体及びそれを用いた機器の回収方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月28日出願公開、特開2003- 89750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の主な経緯
本願は,平成13年9月18日の特許出願であって,平成23年11月29日付けで拒絶理由が通知され,平成24年2月2日に意見書が提出されるとともに明細書が補正されたが,同年11月27日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成25年2月26日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に明細書が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年5月30日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,同年7月1日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年8月6日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
1 本願の請求項1及び2に係る発明(以下,順に「本願発明1」,「本願発明2」という。また,これらを併せて単に「本願発明」という場合がある。)は,平成25年2月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面(以下,当該明細書と図面を併せ,「本願明細書」という。)の記載からみて,明細書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
プラスチック材料の強化材として,回収時の燃焼温度で溶融しない,融点が1000℃以上のセラミック繊維を混練して構成されていることを特徴とするプラスチック複合体。
【請求項2】
プラスチック材料に,強化材として融点が1000℃以上のセラミック繊維が混練して構成されているプラスチック複合体を用いた機器を焼却炉で650℃?900℃で燃焼する第1のステップと,
前記焼却炉による焼却完了後に該焼却炉内に残留している前記セラミック繊維を回収する第2のステップと
を含むことを特徴とするプラスチック複合体を用いた機器の回収方法。」

2 なお,平成25年2月26日にされた補正については,いわゆる補正要件の適否が検討されることとなるが(特許法53条1項,159条1項),当該補正が実質的に本願発明の内容を変更するものではないと判断されること,またいわゆる新規事項を追加するものでもないと判断されることなどの事情を総合考慮し,補正要件の適否を検討することなしに,以下認定・判断をすすめる。(すなわち,本願発明については,上記1のとおり要旨認定がされることで,請求人に有利に解釈されることとなる。)

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明1は,本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができず,または,下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,さらには,本願発明2は,下記引用文献9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。
引用文献1: 特開平11-60941号公報
引用文献9: 特開平5-139715号公報

第4 合議体の認定,判断(本願発明1について)
1 引用発明1
(1) 査定の理由で引用された引用文献1には,次の記載がある。(下線は審決で付記。以下同じ。)
「【請求項1】(A)ナイロン樹脂100重量部に対して,(B)平均粒子径0.05?10μmの非繊維状無機充填剤,および/またはガラス繊維を除く繊維径0.05?10μmの繊維状無機充填剤5?150重量部および(C)カルボン酸無水物基を分子内に有するオレフィン化合物または該オレフィン化合物の重合体を溶融混練してなることを特徴とする携帯機器筐体用樹脂組成物。…
【請求項9】携帯機器筐体用樹脂組成物をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し無機充填剤を回収した際に無機充填剤に付着したヘキサフルオロイソプロパノール不溶分がBET法で測定した無機充填剤の単位表面積当たり4g/m^(2)以上であることを特徴とする請求項1?8いずれかに記載の携帯機器筐体用樹脂組成物。…」(【特許請求の範囲】)
「【発明の属する技術分野】本発明は,優れた剛性,耐熱性,耐衝撃性,および靱性を合わせ持ち,かつ成形品表面外観,寸法安定性が均衡して優れた電気・電子機器およびOA機器用などの携帯機器筐体用樹脂組成物…に関するものである。」(【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】そこで,本発明は上述の問題を解消すること即ち,衝撃強度,破断伸びと耐熱性,剛性という相反する特性を同時に改良し,その結果,落下時の破壊を抑制すると同時に高い剛性を有するため薄肉化,軽量化が可能であり,その上,機械的特性の異方性の小さい,寸法安定性に優れた携帯機器筐体用樹脂組成物を得ることを課題とする。」(【0005】)
「また(B)成分として用いられるガラス繊維を除く繊維径0.05?10μmの繊維状無機充填剤の具体例としては,チタン酸カリウィスカ,酸化亜鉛ウィスカ,硼酸アルミウィスカ,アルミナ繊維,炭化珪素繊維,セラミック繊維,アスベスト繊維,石コウ繊維,金属繊維,繊維状炭酸カルシウム,繊維状ワラステナイトなどの繊維状充填剤であり,これら充填剤を2種類以上併用することも可能である。これらの内特に好ましい充填剤は,繊維状ワラステナイト,および繊維状炭酸カルシウムである。なお,ガラス繊維を用いた場合には理由は明らかではないが,ガラス繊維へのヘキサフルオロイソプロパノール不溶分の付着量が十分高くならず,効果が発現しない。」(【0014】)
「このようにして得られた本発明の携帯機器筐体用樹脂組成物は射出成形,押出成形など通常の方法で成形することが可能であり,こうして得られた携帯機器用筐体は,高い耐衝撃特性と剛性,優れた耐熱性を併せ持つうえ,異方性が小さく,反りが小さいという特徴を有し,ノート型パソコン,電子手帳等の携帯用コンピューター,ポケットベル,携帯電話,PHS,無線機,ファクシミリ等の携帯用通信機器,携帯用のラジオ,カセットプレーヤー,CDプレーヤーなどのオーディオ機器など,懐中電灯,電池の容器の筐体として極めて有効である。」(【0030】)

(2) 上記(1)の摘記,特に【請求項1】及び【0030】の記載から,引用文献1には,次の発明(引用発明1)が記載されていると認める。
「ナイロン樹脂100重量部に対して,ガラス繊維を除く繊維径0.05?10μmの繊維状無機充填剤5?150重量部およびカルボン酸無水物基を分子内に有するオレフィン化合物または該オレフィン化合物の重合体を溶融混練してなる携帯機器筐体用樹脂組成物を成形して得られた携帯機器用筐体」

2 対比
(1) 本願発明1と引用発明1を対比すると,引用発明1の携帯機器筐体用樹脂組成物を構成する「ナイロン樹脂」及び「カルボン酸無水物基を分子内に有するオレフィン化合物または該オレフィン化合物の重合体」は,本願発明1の「プラスチック材料」に相当する。
また,引用発明1の「ガラス繊維を除く繊維径0.05?10μmの繊維状無機充填剤」は,引用文献1の記載(例えば,【0005】)からみて,樹脂組成物ないしは筐体の強化材として配合されたものと認められることから,本願発明1の「強化材」に対応するものであるといえる。
さらに,引用発明1の「携帯機器筐体用樹脂組成物を成形して得られた携帯機器用筐体」が,本願発明1の「プラスチック複合体」に相当するのは明らかである。

(2) そうすると,本願発明1と引用発明1との一致点,相違点(相違点1)はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
プラスチック材料に強化材を混練して構成されていることを特徴とするプラスチック複合体
・ 相違点1
プラスチック材料に混練される強化材について,本願発明1は「回収時の燃焼温度で溶融しない,融点が1000℃以上のセラミック繊維」であるのに対し,引用発明1は「ガラス繊維を除く繊維径0.05?10μmの繊維状無機充填剤」である点

3 相違点1についての判断
(1) 引用発明1の繊維状無機充填剤について,引用文献1(【0014】)にはセラミック繊維が例示されている。また,セラミック繊維の融点が1000℃以上であることは技術常識である。
ところで,本願発明1は,セラミック繊維について,「回収時の燃焼温度で溶融しない」との特定を有しているが,回収時の燃焼温度は通常1000℃未満に設定されるものであるから(本願明細書の【0003】,【0018】にもその旨の記載がある。),上記特定に係る性状は,当該セラミック繊維が「融点が1000℃以上」との性質を有することで発現するものであるといえる。あるいは,本願発明1は「プラスチック複合体」という物の発明であるところ,「回収時の燃焼温度で溶融しない」との特定は,本願発明1の廃棄・焼却・回収時における事項に関するものであって,そもそもプラスチック複合体という物の発明を特定するために必要と認める事項でないともいえる。
そうすると,引用発明1の「ガラス繊維を除く繊維径0.05?10μmの繊維状無機充填剤」は融点が1000℃以上のセラミック繊維を包含するものであるから,上記相違点1はそもそも実質的な相違点であるとはいえない。
(2) 仮に,上記相違点1が実質的に相違するものであるとしても,本願発明1の上記相違点1に係る構成は,当業者であれば想到容易である。
すなわち,引用発明1の繊維状無機充填剤について,引用文献1の【0014】には,繊維状無機充填剤の例として「チタン酸カリウィスカ,酸化亜鉛ウィスカ,硼酸アルミウィスカ,アルミナ繊維,炭化珪素繊維,セラミック繊維,アスベスト繊維,石コウ繊維,金属繊維,繊維状炭酸カルシウム,繊維状ワラステナイト」などが例示されているのであるから,これら例示の一つを選択すること,例えばセラミック繊維を選択する程度のことは,当業者であれば何ら困難でない。
しかも,これら例示は,そのほとんどが1000℃以上の融点を呈するものであるといえるところ,引用発明1において,繊維状無機充填剤として「セラミック繊維」を採用したものが,他の例示のものを採用した場合に比し,本願発明1の解決課題と同様の観点,すなわち焼却炉への強化材の付着を防止することや,強化材の回収を容易とすることなどからみて,格別顕著なものであると認めることができない。

4 小活
以上のとおり,本願発明1は,引用発明1と実質的に同一であるので引用文献1に記載された発明であるか,あるいは引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第5 合議体の認定,判断(本願発明2について)
1 引用発明9
(1) 査定の理由で引用された引用文献9には,次の記載がある。
「【請求項1】 シリカ配合樹脂成形材の製造工程および/もしくは成形工程からの成形材廃棄品を粉砕し,シリカ結晶の転移温度以下において焼成した後に分級することを特徴とするシリカの再生回収方法。
【請求項2】 約800?900℃において焼成する請求項1のシリカの再生回収方法。…」(【特許請求の範囲】)
「【産業上の利用分野】この発明は,シリカの再生回収方法に関するものである。さらに詳しくは,この発明は,半導体封止成形材等のシリカ配合樹脂成形材から,環境汚染を生じさせることなく有価物としてのシリカを効率的に再生回収し,これら成形材への再利用を図ることのできる新しいシリカ回収方法に関するものである。」(【0001】)
「【従来の技術】従来より,電気・電子機器,機械,建材,日用品等の各種の分野において用いられている樹脂成形品には,充填材,耐熱性添加材,その他の機能の付与のためのシリカが配合されている場合が多い。…一般の樹脂成形材の場合と同様に,このようなシリカ配合の成形材においても,その製造工程からは,品種の切替時に,あるいは不良品等として成形材廃棄物が発生し,また,その成形工程からは,スプル,カル,ランナー等の成形バリとしての廃棄物が発生する。
通常,これらの成形材廃棄物は,粉砕および焼成後に所定の場所に埋立てたり,あるいは廃棄物を直接埋立て,もしくは,工程中の履歴の明確なものは再利用するなどの手段によって廃棄物による環境汚染の抑制と,有価資源のリサイクルに努めてきている。」(【0002】?【0003】)
「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,これまでのシリカ配合樹脂成形材の場合には,実際上,有価物として配合されているシリカの再利用は,再生混入することのできるシリカとしての制約条件が厳しく,活用できる範囲は極めて限定されており,ほとんどその再利用は困難であった。…この発明は,以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり,従来のシリカ配合樹脂成形材の廃棄物処理の欠点を解消し,環境汚染を抜本的に改善し,かつ有価物シリカの高効率での再生回収を可能とする新しい方法を提供することを目的としている。」(【0004】?【0005】)
「…この発明は,半導体封止材,電気・電子の各種の成形品,機械,その他各種の分野において用いられるシリカ配合の樹脂成形材の製造工程から発生する成形材廃棄品…から発生する成形バリ等としての廃棄品から,貴重な有価物としてのシリカ配合材を高効率,低コストで回収し,これの再利用を可能とするものである。
そのための方法として,…この発明では,まず,成形材の製造工程において,品種切替,不良品等として発生する廃棄品(A)や,スプル,カル,ランナー等として発生する成形バリ廃棄品(B)を集め,これを粗砕(C)して,その低嵩化を図る。次いで粗砕した廃棄品は,シリカの転移温度以下,たとえば成形材が半導体封止用エポキシ樹脂成形材等の場合には約800?900℃程度の温度において焼成(D)する。この時,樹脂分からの炭素か残らないように,空気等を供給し,接触燃焼させるのが有利である。
その後,分級(E)して,粒度調整を行い,成形材の配合材として再利用するためのシリカ(F)を回収する。…」(【0007】?【0009】)
「【作用】この発明においては,シリカ配合成形材の廃棄品をシリカの転移温度以下の高温条件下において焼成(D)処理することを必須としているため,シリカ配合材を原型のまま,直ちに再利用できる状態で回収することができる。…」(【0010】)

(2) 上記(1)の摘記,特に特許請求の範囲の記載から,引用文献9には,次の発明(引用発明9)が記載されていると認める。
「シリカ配合樹脂成形材の製造工程からの成形材廃棄品を粉砕し,焼成室でシリカ結晶の転移温度以下である約800?900℃において焼成した後に分級するシリカの再生回収方法。」

2 対比
(1) 引用発明9の「樹脂」は本願発明2の「プラスチック材料」に,「成形材」は「プラスチック複合体」に,「成形材廃棄品」は当該プラスチック複合体を用いた「機器」にそれぞれ相当する。
また,引用発明9の「シリカ」は,引用文献9の記載を総合すると,成形材の強化材として配合されたものと認められることから,本願発明2の「強化材」に対応するものであるといえる。
さらに,引用発明9の「焼成室」は,本願発明2の「焼却炉」に相当するものである。

(2) そうすると,本願発明2と引用発明9との一致点,相違点(相違点2)はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
プラスチック材料に,強化材が混練して構成されているプラスチック複合体を用いた機器を焼却炉で約800℃?900℃で燃焼する第1のステップと,前記焼却炉による焼却完了後に該焼却炉内に残留している前記強化材を回収する第2のステップとを含むことを特徴とするプラスチック複合体を用いた機器の回収方法
・ 相違点2
プラスチック材料に混練される強化材について,本願発明2は「融点が1000℃以上のセラミック繊維」であるのに対し,引用発明1は「シリカ」である点

3 相違点2についての判断
引用文献9の記載によれば(例えば,【0010】),引用発明9は,粉砕した成形材廃棄品をシリカ結晶の転移温度以下である約800?900℃において焼成することで,シリカ配合材をほとんど原型のまま,直ちに再利用できる状態で回収することを解決課題とするものである。すなわち,引用文献9は,プラスチック材料(樹脂成形材)に配合された強化材(シリカ)を回収するに際し,強化材が溶融しない程度の温度でプラスチック材料を燃焼(焼成)して当該強化材を回収する技術を開示するものである。
ところで,プラスチック材料の強化材として融点が1000℃以上のセラミック繊維を混練してなるプラスチック複合体自体は周知のものであり,さらに,このようなプラスチック複合体に配合されたセラミック繊維を回収することは,本願の出願時において自明の課題である(例えば,上記引用文献1(【請求項1】,【請求項9】,【0014】など),特開平8-41241号公報(【請求項1】,【0014】など)を参照。なお,当該公報は,原査定の拒絶の理由において,引用文献5として提示されたものである。)。
とすると,成形材に配合された強化材の回収技術に係る引用発明9において,強化材として配合されたシリカに代えて,強化材として周知であるセラミック繊維を適用しようとすることは,当業者であれば想到容易であるといえる。

4 小活
以上のとおり,本願発明2は,引用発明9に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第6 むすび
したがって,本願発明1は,引用文献1に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができず,または,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,さらには,本願発明2は,引用文献9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-02 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2001-282922(P2001-282922)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 孝泰  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 塩見 篤史
須藤 康洋
発明の名称 プラスチック複合体及びそれを用いた機器の回収方法  
代理人 松浦 兼行  

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