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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1282514
審判番号 不服2013-6773  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-12 
確定日 2013-12-05 
事件の表示 特願2008- 16346「間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開、特開2009-176660〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年1月28日の出願であって,平成24年8月27日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年10月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成25年1月24日付けで特許法第36条第6項第1号及び第2号並びに同法第29条第2項の規定に基いて拒絶査定がなされ,それに対して,平成25年4月12日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成25年4月12日付け手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年4月12日付け手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のように補正された。
(1)本件補正前
「【請求項1】
炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する,改質触媒層を有する改質器と,
前記改質ガスを用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池と,
前記固体酸化物燃料電池から排出されるアノードオフガスを燃焼させる燃焼領域と,
前記改質器,固体酸化物形燃料電池および燃焼領域を収容する筐体と,を有する間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法であって,
次の条件iからiv,
i)前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が定常であり,
ii)前記アノード温度が酸化劣化点未満であり,
iii)前記改質器において,炭化水素系燃料が改質され,アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが生成しており,
iv)前記改質ガスの生成量が,前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が酸化劣化点以上の温度にある場合においてアノードの酸化劣化を防止するために必要最小限な流量以上である,
が全て満たされる状態において前記改質器に供給される炭化水素系燃料の流量をFEと表し,
前記停止方法開始時点で前記改質器に供給していた炭化水素系燃料の流量をFSと表したとき,
a)前記改質器に供給する炭化水素系燃料の流量をFSからFEにする工程,および
b)アノード温度が酸化劣化点を下回ったら,前記改質器への炭化水素系燃料の供給を停止する工程
を有し,
前記炭化水素系燃料が,炭素数が2以上の炭化水素系燃料を含み,
前記アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが,炭素数2以上の化合物の濃度が質量基準で50ppb以下である改質ガスである
間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法。」
(平成24年10月29日付け手続補正書参照。)

(2)本件補正後
「【請求項1】
炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する,改質触媒層を有する改質器と,
前記改質ガスを用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池と,
前記固体酸化物燃料電池から排出されるアノードオフガスを燃焼させる燃焼領域と,
前記改質器,固体酸化物形燃料電池および燃焼領域を収容する筐体と,を有する間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法であって,
次の条件iからiv,
i)前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が定常であり,
ii)前記アノード温度が酸化劣化点未満であり,
iii)前記改質器において,炭化水素系燃料が改質され,アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが生成しており,
iv)前記改質ガスの生成量が,前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が酸化劣化点以上の温度にある場合においてアノードの酸化劣化を防止するために必要最小限な流量以上である,
が全て満たされる任意の状態において定常的に前記改質器に供給される炭化水素系燃料の流量をFEとして予め定め,
前記停止方法開始時点で前記改質器に供給していた炭化水素系燃料の流量をFSと表したとき,
a)前記改質器に供給する炭化水素系燃料の流量をFSからFEにする工程,および
b)アノード温度が酸化劣化点を下回ったら,前記改質器への炭化水素系燃料の供給を停止する工程
を有し,
前記炭化水素系燃料が,炭素数が2以上の炭化水素系燃料を含み,
前記アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが,炭素数2以上の化合物の濃度が質量基準で50ppb以下である改質ガスである
間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法。」
(下線は,当審が補正箇所に付したものである。)

上記補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である流量の「FE」について,条件iからivが「全て満たされる任意の状態において定常的に改質器に供給される炭化水素系燃料の流量として予め定め」た点を限定事項とするものであって,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定される要件について
「次の条件iからiv,i)前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が定常であり,ii)前記アノード温度が酸化劣化点未満であり,iii)前記改質器において,炭化水素系燃料が改質され,アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが生成しており,iv)前記改質ガスの生成量が,前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が酸化劣化点以上の温度にある場合においてアノードの酸化劣化を防止するために必要最小限な流量以上である,が全て満たされる」「状態」とは,その技術的内容を明確に特定できず,したがって,そのような状態において定常的に改質器に供給される炭化水素系燃料の流量「FE」なるものを明確に特定できない。
しかも,本願明細書の段落【0032】?【0040】の記載を参酌しても,FEは実験若しくはシミュレーションによって求めることができると記載されているにとどまり,FEの算出手法についての具体的な記載はないし,具体的な流量の値が開示されているものではない。
以上のことから,本願補正発明は,条件i)からiv)により,FEがどのような範囲の炭化水素系燃料の流量なのか明確であるとはいえない。また,発明の詳細な説明を参酌しても,その条件によるFEの流量の範囲が具体的に特定できず,流量の範囲が発明の詳細な説明に十分に記載されているとはいえない。
したがって,本願補正発明は,特許請求の範囲の記載が明確でなく,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定される要件については,上記のとおりであるが,仮に,条件i)からiv)が満足されればよいものと解するとして,本願補正発明が特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるないものであるかについても検討を行う。

3.特許法第29条第2項に規定される要件について
3-1 刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2007-128717号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は,改質器を備えた燃料電池の運転方法に関し,特に,起動時や停止時のパージ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,酸化物イオン導電体から成る固体電解質を両側から空気極(カソード)と燃料極(アノード)で挟み込んだ構造を有する燃料電池は,燃料の有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する高効率,且つクリーンな発電装置として注目されている。
【0003】
この種の燃料電池は,都市ガス,LPガス等の炭化水素燃料ガス(原燃料)を水素に改質する改質器を備え,改質器からの改質ガス(水素)を空気と共に発電セルに供給することにより発電運転を行う。
【0004】
ところで,係る燃料電池では,運転開始時および運転停止時における,昇温/降温過程において,微量水素を含む不活性ガス(例えば,窒素ガス)を発電セルに供給することで燃料極雰囲気を還元状態に維持する,所謂,パージを行っていた(例えば,特許文献1参照)。
これは,起動/停止時の高温状態において,燃料電池の内部に残留する酸素によって燃料極が酸化するのを防止するためである。燃料極が酸化されることにより,発電性能は極端に低下してしまう。
【0005】
特に,固体酸化物形燃料電池では,作動温度が600?1000℃と極めて高いため,急速起動や急速停止は困難であって,起動/停止のために長い時間を要することから燃燃料極が酸化され易く,また,発電セルの外周部にガス漏れ防止シールを設けないシールレス構造では,外部の酸素含有ガスが電池内部に侵入し易くなっており,このため,起動/停止時には大量のパージが必要であり,また,燃料電池の大型化に伴い,使用する窒素ガスの量も比例的に増加する。
・・・
【0007】
本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,別途パージ用ガスの供給系を設けずに起動・停止時の昇温動作および降温動作を可能とする燃料電池の運転方法を提供することを目的としている。
・・・
【0014】
以下,図1?図3に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
図1は本発明が適用された固体酸化物形燃料電池の内部概略構成を示し,図2は内部配置を示し,図3は燃料電池スタックの要部構成を示している。
【0015】
図1,図2に示すように,本実施形態の固体酸化物形燃料電池は,内壁に断熱材(図示せず)を付装したハウジング20(缶体)を有し,この断熱ハウジング20内の中央に発電反応を生じさせる燃料電池スタック1が配設されている。
【0016】
この燃料電池スタック1は,図3に示すように,固体電解質2の両面に燃料極3および空気極4を配した発電セル5と,燃料極3の外側の燃料極集電体6と,空気極4の外側の空気極集電体7と,各集電体6,7の外側のセパレータ8を順番に縦方向に多数積層した構造を有する。
【0017】
固体電解質2はイットリアを添加した安定化ジルコニア(YSZ)等で構成され,燃料極3はNi等の金属あるいはNi-YSZ等のサーメットで構成され,空気極4はLaMnO_(3) ,LaCoO_(3) 等で構成され,燃料極集電体6はNi等のスポンジ状の多孔質焼結金属板で構成され,空気極集電体7はAg等のスポンジ状の多孔質焼結金属板で構成され,セパレータ8はステンレス等で構成されている。
【0018】
セパレータ8は,発電セル5間を電気的に接続すると共に,発電セル5に反応用ガスを供給する機能を有し,燃料ガスマニホールド13より供給される燃料ガスをセパレータ8の外周面から導入してセパレータ8の燃料極集電体6に対向するほぼ中央部から吐出する燃料ガス通路11と,酸化剤ガスマニホールド14より供給される酸化剤ガスをセパレータ8の外周面から導入してセパレータ8の空気極集電体7に対向する面のほぼ中央部から吐出する酸化剤ガス通路12を備える。
【0019】
また,燃料電池スタック1は,発電セル5の外周部にガス漏れ防止シールを設けないシールレス構造とされており,運転時には,図3に示すように,燃料ガス通路11および酸化剤ガス通路12を通してセパレータ8の略中心部から発電セル5に向けて吐出される燃料ガスおよび酸化剤ガス(空気)を,発電セル5の外周方向に拡散させながら燃料極3および空気極4の全面に良好な分布で行き渡らせて発電反応を生じさせると共に,発電反応で消費されなかった未燃のガスを発電セル5の外周部から外(ハウジング20内)に自由に放出するようになっている。尚,放出未燃ガスは燃料電池スタック1の周辺で燃焼させる。
【0020】
また,ハウジング20内には,燃料電池スタック1の他,その周辺の適所に,改質器21を初めとして水蒸気発生器22,燃焼触媒23,補助用電気ヒータ24,昇温用バーナ26等が配設されている。図2に示すように,昇温用バーナ26を除くこれらの部材は,中央の燃料電池スタック1を挟んでそれぞれ2基づつ対向配置されている。
【0021】
改質器21内には炭化水素触媒が充填されており,外部から導入される炭化水素系燃料(原燃料)を水素主体の燃料ガスに改質する。また,この改質器21には,後述する部分酸化起動用のヒータ25(或いは,イグナイタ)が内蔵されている。
上記改質器21の入口側には外部からの燃料ガス供給管15,および空気供給管17が接続されていると共に,出口側は配管9を介して燃料電池スタック1内の燃料ガスマニホールド13に接続されている。また,燃料電池スタック1内の酸化剤ガスマニホールド14には外部からの酸化剤ガス供給管16が接続されている。
そして,起動時には,燃料ガス供給管15に都市ガスやLPG等の炭化水素燃料が導入されると共に,空気供給管17および酸化剤ガス供給管16に空気が導入されるようになっている。
・・・
【0024】
次ぎに,本発明による固体酸化物形燃料電池の運転方法の一実施形態を説明する。
【0025】
上記構成の固体酸化物形燃料電池では,起動時(運転開始時),昇温用バーナ26を着火して燃料電池スタック1の昇温が開始される。この時,改質器21においては,内蔵の部分酸化起動用ヒータ25を作動すると共に,燃料ガス供給管15から炭化水素燃料が,また,空気供給管17から空気がそれぞれ改質器21に導入される。これら,炭化水素燃料と空気の混合ガスが部分酸化起動用ヒータ25によって着火され,改質器21内において部分酸化反応を生じさせる。
【0026】
この部分酸化反応では,炭化水素燃料の一部が燃焼して窒素と水(水蒸気)が生成されると共に,この際の燃焼熱と,燃焼の際の水蒸気と,燃焼(すなわち,部分酸化反応)に与らない残りの炭化水素燃料とで改質反応が生じ,水素と窒素による還元ガスが生成される(部分酸化改質反応)。改質器21内の還元ガスは,配管9,燃料ガスマニホールド13等を介して発電セル5内に供給され,よって,起動直後より燃料極雰囲気を還元状態に維持することができる。
他方,これと併行してシールレス構造で成る燃料電池スタック1の外周部から放出される未燃ガスが燃焼触媒の作用によってスタック周辺で燃焼し(必要であれば,補助用電気ヒータ24を作動しておく),その輻射熱により燃料電池スタック1を外周部より加熱・昇温する。
【0027】
そして,スタック温度が上昇するに連れて改質器21への空気供給量を徐々に減少していくと共に,水蒸気発生器22から水蒸気を供給し,スタック温度が作動温度の500℃程度まで上昇した時,炭化水素燃料と水蒸気による水蒸気改質に移行する(オートサーマル改質反応)。この間も,改質器21にて水素含有の還元ガスが生成され,発電セル5に供給されるため,燃料極雰囲気の還元状態は連続的に維持されている。
【0028】
昇温後の発電運転時は,水蒸気発生器22からの水蒸気と燃料ガス供給管15からの炭化水素燃料の混合ガスが改質器21に供給され,改質器21内において水蒸気改質反応により水素豊富な改質ガスが生成されると共に,この改質ガスが各発電セル5に供給されることにより,燃料電池スタック1において発電反応が生じる。尚,発電運転時は,空気供給管17による改質器21への空気の供給は停止されている。
【0029】
運転停止の際の降温時は,燃料電池スタック1への改質ガスの供給は停止するが,降温過程においても,炭化水素燃料の供給を徐々に減少していき,改質器21において上述の部分酸化改質反応またはオートサーマル改質反応を生じさせると共に,スタック温度が少なくとも300℃以下に低下するまで,これらの反応が継続されて水素を含む還元ガスが発電セル5に供給されることにより,燃料極雰囲気は還元状態に維持される。
これは,運転停止後の高温雰囲気下(300℃以上)において,燃料極が還元状態でなくなると,燃料極3が酸化されるためである。従って,降温時はスタック温度が300℃以下に低下するまで燃料極を還元状態に維持する必要がある。
【0030】
以上のように,本発明の運転方法によれば,運転開始の際の昇温時,および運転停止の際の降温時に,部分酸化反応やオートサーマル反応に伴う発熱により改質器において改質反応を生じさせ,これらの反応により生成された水素を含む還元ガスを燃料極に供給することにより,発電セル5の燃料極3を還元状態に維持するパージを可能とし,これにより,昇降温サイクルにおける発電セル5の酸化やそれに伴う発電セル5の性能劣化が防止でき,高寿命化が図れるようになる。
加えて,従来のような大量の窒素ガスを用いたパージが不要であるから,例えば,窒素ボンベ等を含むパージ用ガス供給系を設ける必要が無くなり,メンテナンス作業を簡略化できると共に,装置自体もシンプルになり小型化できる。
また,燃料電池スタック1より放出された未燃ガスを燃焼触媒等の燃焼手段にて燃焼すると,燃焼の熱により改質器21を含む燃料電池スタック1の昇温が促進され,これにより,起動時間の短縮が図れるようになる。」

以上の記載を整理し,本願補正発明にならって表現すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」と言う。)。
「炭化水素系燃料を改質して燃料ガスを製造する,炭化水素触媒を有する改質器21と,
前記燃料ガスを用いて発電を行う燃料電池スタック1と,
前記燃料電池スタック1から排出される未燃ガスを燃焼させる燃料電池スタック1の周辺と,
前記改質器21,燃料電池スタック1および燃料電池スタック1の周辺を収容するハウジング20と,を有する改質器21と燃料電池スタック1がハウジング20内に配設された固体酸化物形燃料電池の停止方法であって,
a)前記改質器21に供給する炭化水素系燃料の流量を,燃料極雰囲気が還元状態に維持されるように,運転停止時の流量から徐々に減少する流量にする工程,および
b)スタック温度が少なくとも300℃以下に低下するまで,改質器21から還元ガスを発電セルに供給する工程
を有し,
前記炭化水素系燃料が,LPガスを含む,
改質器21と燃料電池スタック1がハウジング20内に配設された固体酸化物形燃料電池の停止方法。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として示された特開2005-293951号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は,発電に高効率な水蒸気改質ガスを使用し,しかも窒素ガスや水素ガスを使用せず,燃料ガスの使用によって経済的に電池セルの酸化を防止し,合わせて改質器を電池セルと熱的に組み合わせてその構造を簡略化できる,高効率で且つ経済性に優れた燃料電池及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために,固体酸化物形燃料電池における発電温度の高さに着目した。この発電温度は650℃以上,好ましくは700℃以上であり,これは燃料ガスの製造プロセスにおける水蒸気改質温度と一致する。従って,固体酸化物形燃料電池における発熱は水蒸気改質における改質触媒の加熱に利用でき,これにより改質器の簡略化を図ることができる。しかし,このままでは運転開始期及び運転停止期におけるセル酸化期間に改質ができず,その発電セルの酸化防止に窒素ガスや水素ガスが必要になることは前述したおりである。
【0019】
そこで本発明者は,今一つの燃料ガスである部分酸化による改質ガスに着目した。部分酸化による改質は,都市ガスなどのメタン(CH_(4))を主体とする炭化水素系の燃料用原料ガスを空気と触媒で水素リッチにする反応であり,水蒸気発生器を必要としない上に,発熱反応であり,何よりも触媒加熱温度が300℃以上と,水蒸気改質と比べて相当に低い。つまり,部分酸化改質によると,水蒸気改質では改質できない低温域で改質が可能であり,更に言えば,固体酸化物形燃料電池における発熱を改質触媒の加熱に利用しようとしたとき,運転開始期及び運転停止期におけるセル酸化温度領域で改質が可能となるのである。
・・・
【発明の効果】
【0028】
本発明の燃料電池は,固体酸化物形の燃料電池本体に対して,燃料用原料ガスを水蒸気により改質して水素リッチの燃料ガスとなす第1の改質手段と,燃料用原料ガスを部分酸化により改質して水素リッチの燃料ガスとなす第2の改質手段とを組み合わせ,水蒸気改質による燃料ガスと部分酸化改質による燃料ガスとを切り換え,且つ流量制御して前記電池本体のアノード側へ供給することにより,発電に高効率な水蒸気改質ガスを使用し,しかも窒素ガスや水素ガスを使用せず,燃料ガスの使用によって経済的に電池セルの酸化を防止し,合わせて改質器を電池セルと熱的に組み合わせてその構造を簡略化することができる。
【0029】
また,本発明の燃料電池の運転方法は,固体酸化物形燃料電池の発電時に,水蒸気改質による水素リッチの燃料ガスを発電に必要な大流量で電池本体のアノード側へ供給し,発電開始期及び/又は発電停止期に電池本体がセル酸化温度領域を通過するとき,部分酸化改質による水素リッチの燃料ガスを酸化防止に必要な小流量で電池本体のアノード側へ供給することにより,発電に高効率な水蒸気改質ガスを使用し,しかも窒素ガスや水素ガスを使用せず,燃料ガスの使用によって経済的に電池セルの酸化を防止し,合わせて改質器を電池セルと熱的に組み合わせてその構造を簡略化することができる。
・・・
【0039】
次に本実施形態の燃料電池の運転方法について説明する。
【0040】
原料ガスである都市ガス及び酸化ガスであるカソード空気の定格流量,即ち発電時における都市ガス流量及びカソード空気流量はそれぞれ15L/min及び150L/minとする。
【0041】
運転開始と共に,燃料電池本体10では電池セル11がバーナ12により加熱され始める。このとき,第1の燃料ガス供給系20aおける電磁弁22a,27aは閉,第2の燃料ガス供給系20bにおける電磁弁22b,27bのうち22bは閉,27bは開とされる。これにより,電池セル11のアノード側には例えば9L/minの空気がパージされる。電池セル11のカソード側には,当初より150L/minの空気が供給される。
【0042】
電池セル11のアノード側の酸化温度は400℃以上である。電池セル11の加熱温度がこの400℃に達すると,第2の燃料ガス供給系20bにおける電磁弁22bが開とされる。即ち,第1の燃料ガス供給系20aおける電磁弁22a,27aは閉,第2の燃料ガス供給系20bにおける電磁弁22b,27bが開となる。これにより,例えば3L/minの都市ガスと,これの部分酸化に必要な例えば9L/minの改質用空気が混合されて改質器14bへ送られる。
【0043】
ここで,改質器14bはバーナ12により電池セル11と同程度(400℃程度)に加熱されている。部分酸化による改質は300℃以上で可能である。このため,専用の加熱源を使用することなく,部分酸化による改質原料ガスが生成され,電池セル11のカソード側にパージされる。その結果,電池セル11のカソード側の酸化が防止される。この酸化防止用の部分酸化改質ガスの流量は例えば12L/minである。この過程でも,電池セル11のカソード側には,150L/minの空気が供給され続ける。
【0044】
電池セル11の加熱が更に進み,発電温度である700℃に達すると,第1の燃料ガス供給系20aおける電磁弁22a,27aが開,第2の燃料ガス供給系20bにおける電磁弁22b,27bが閉とされる。これにより,発電に必要な流量(15L/min)の都市ガスと,これの改質に必要な例えば15L/minの水蒸気が混合されて改質器14aへ送られる。
【0045】
ここで,改質器14aはバーナ12により電池セル11と同程度(700℃程度)に加熱されている。原料ガスの水蒸気改質は650℃以上,好ましくは700℃以上で可能である。このため,専用の加熱源を使用することなく,水蒸気改質による原料ガスが生成され,電池セル11のアノード側に供給される。この過程でも,電池セル11のカソード側には,150L/minの空気が供給され続けられている。これにより,発電が開始される。発電用の水蒸気改質ガスの流量は例えば30L/minである。
【0046】
発電中はバーナ12による加熱を停止するが,発電に伴う発熱により改質器12aが改質に適した700℃程度に保持される。従って,発電中も専用の加熱源を使用することなく,水蒸気改質による原料ガスが生成され続け,電池セル11のカソード側に供給される。
【0047】
発電を停止する際は,電池セル11のカソード側に150L/minの空気を供給し続けた状態で,第1の燃料ガス供給系20aおける電磁弁22a,27aが閉,第2の燃料ガス供給系20bにおける電磁弁22b,27bが開とされる。これにより,電池セル11のカソード側への発電用の水蒸気改質ガスの供給が停止される。代わって,酸化防止用の部分酸化改質ガスが電池セル11のアノード側にパージされる。これにより,電池セル11のカソード側の酸化が防止される。
【0048】
この状態は,発電セル11が酸化温度領域にあるあいだ続く。発電セル11が酸化温度未満まで冷却されると,第1の燃料ガス供給系20aおける電磁弁22a,27aを閉,第2の燃料ガス供給系20bにおける電磁弁22bを開のまま,電磁弁27bを閉にする。これにより,アノード側への通気パージが始まる。これは発電セル11が常温に冷却されるまで続く。全期間を通してカソード側には,150L/minの空気が供給され続けられる。
【0049】
かくして,発電セル11は高効率な燃料ガスである水蒸気改質ガスにより発電を行なう。その発電セル11が酸化温度領域にある間は,触媒加熱温度が低い部分酸化改質による燃料ガスの小流量パージによりアノード側の酸化を防止する。それぞれの改質器14a,14bは燃料電池本体10内の熱で適正温度に加熱されるため,加熱源を保有しない構造であるにもかかわらず適正な改質反応を行い,構造が簡単である。燃料ガスにより酸化防止を行なうため,窒素ガス,水素ガスといった原料に関係しない酸化防止ガスが不要となり,この点からも経済的である。
【0050】
ちなみに,酸化防止用の部分酸化による改質ガスの流量は,発電用の燃料ガスである水蒸気改質ガスの流量の1/100?1/2が好ましく,1/10?1/5が特に好ましい。酸化防止用ガスの流量が少なすぎると酸化防止効果が不十分となり,逆に多すぎる場合は無用な経済性の悪化を招く。」

3-2 対比・判断
(1)本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比する。
後者の「燃料ガス」は前者の「改質ガス」に相当し,以下同様に「炭化水素触媒」は,「改質触媒」に,「改質器21」は「改質器」に,「燃料電池スタック1」は,「固体酸化物形燃料電池」に,「未燃ガス」は「アノードオフガス」に,「燃料電池スタック1の周辺」は,「燃焼領域」に,「ハウジング20」は「筐体」に,「改質器21と燃料電池スタック1がハウジング20内に配設された固体酸化物形燃料電池」は,「間接内部改質型固体酸化物形燃料電池」に,「LPガス」は,「炭素数が2以上の炭化水素系燃料」に,それぞれ,相当する。
後者の「a)改質器21に供給する炭化水素系燃料の流量を,燃料極雰囲気が還元状態に維持されるように,運転停止時の流量から徐々に減少させた流量にする工程」は,運転開始時である停止方法開始時点で前記改質器に供給していた炭化水素系燃料の流量をFSと表したときには,「a)改質器21に供給する炭化水素系燃料の流量を,燃料極雰囲気が還元状態に維持されるように,FSから徐々に減少させた流量にする工程」と表現できる。よって,後者の「a)改質器21に供給する炭化水素系燃料の流量を,燃料極雰囲気が還元状態に維持されるように,運転停止時の流量から徐々に減少させた流量にする工程」と,前者の「前記停止方法開始時点で前記改質器に供給していた炭化水素系燃料の流量をFSと表したとき,a)改質器に供給する炭化水素系燃料の流量をFSからFEにする工程」とは,「停止方法開始時点で前記改質器に供給していた炭化水素系燃料の流量をFSと表したとき,a)前記改質器に供給する炭化水素系燃料の流量をFSからFSと異なる流量にする工程」という概念で共通する。
後者の「b)スタック温度が少なくとも300℃以下に低下するまで,改質器21から還元ガスを発電セルに供給する工程」に関して,後者の「スタック温度」,「300℃」は,前者の「アノード温度」と「酸化劣化点」に相当し(段落【0029】参照),改質器21から還元ガスを発電セルに供給又は停止するためには,炭化水素燃料を改質器21に供給又は停止する必要があることは自明な事項である。
よって,後者の「b)スタック温度が少なくとも300℃以下に低下するまで,改質器21から還元ガスを発電セルに供給する工程」は,前者の「b)アノード温度が酸化劣化点を下回ったら,前記改質器への炭化水素系燃料の供給を停止する工程」を含むものである。

そうすると,両者の一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
「炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する,改質触媒層を有する改質器と,
前記改質ガスを用いて発電を行う固体酸化物形燃料電池と,
前記固体酸化物燃料電池から排出されるアノードオフガスを燃焼させる燃焼領域と,
前記改質器,固体酸化物形燃料電池および燃焼領域を収容する筐体と,を有する間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法であって,
前記停止方法開始時点で前記改質器に供給していた炭化水素系燃料の流量をFSと表したとき,
a)前記改質器に供給する炭化水素系燃料の流量をFSからFSと異なる流量にする工程,および
b)アノード温度が酸化劣化点を下回ったら,前記改質器への炭化水素系燃料の供給を停止する工程を有し,
前記炭化水素系燃料が,炭素数が2以上の炭化水素系燃料を含む,間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法。」

[相違点1]
工程a)における「FSと異なる流量」について,本願補正発明では,次の条件iからiv,i)前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が定常であり,ii)前記アノード温度が酸化劣化点未満であり,iii)前記改質器において,炭化水素系燃料が改質され,アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが生成しており,iv)前記改質ガスの生成量が,前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が酸化劣化点以上の温度にある場合においてアノードの酸化劣化を防止するために必要最小限な流量以上である,が全て満たされる任意の状態において定常的に前記改質器に供給される炭化水素系燃料の流量をFEとして予め定めているのに対し,刊行物1記載の発明では,燃料極雰囲気が還元状態に維持されるように,運転停止時の流量から徐々に減少する流量である点。
[相違点2]
本願補正発明では,アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが,炭素数2以上の化合物の濃度が質量基準で50ppb以下である改質ガスであるのに対して,刊行物1記載の発明では,そのような改質ガスかどうか明らかではない点。

(2)相違点について検討する。
[相違点1]について
刊行物1記載の発明における,運転停止時の流量から徐々に減少する炭化水素の流量については,燃料極雰囲気が還元状態に維持されるもの,すなわち,燃料極(アノード)の酸化劣化を防止するものなのであって,それに必要な流量は,当業者が適宜設定し得るものである。
そして,流量を設定する際には,アノード温度が酸化劣化に大きな影響を与えることは当業者にとって自明な事項であり,一般的に温度状態を定常状態とした方が,反応は予測し易いものであるから,「i)前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が定常であり,ii)前記アノード温度が酸化劣化点未満であり」といった,アノード温度の状態や温度範囲を設定して流量を設定することは,当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
刊行物1記載の発明においても,燃料極雰囲気を還元状態に維持するためには,改質器において,「iii)炭化水素系燃料が改質され,アノードに供給するのに適した組成の改質ガスが生成」する必要があるとともに,還元ガスが不足しないようにするためには,「iv)前記改質ガスの生成量が,前記固体酸化物燃料電池のアノード温度が酸化劣化点以上の温度にある場合においてアノードの酸化劣化を防止するために必要最小限な流量以上である」必要があるから,これらに合うように流量を設定しているはずである。また,流量を予め設定しておくことも,燃料電池の運転においては通常採用されていることである。
よって,条件i?ivを満たすような流量を予め定めることは,当業者が容易に着想し得たことである。
また,刊行物2には,改質器へ送られる都市ガスの流量を発電時の15L/minに対して,アノードの酸化防止のための部分酸化改質ガスを生成する部分酸化に必要な量として3L/minとした点が開示されており,アノードの酸化防止のために改質器に供給する炭化水素の流量を定常的なものとすることが示唆されている。
そうしてみると,刊行物2記載の技術的事項を勘案すれば,刊行物1記載の発明において,運転停止時に改質器に供給する炭化水素系燃料の流量として,定常的な流量に設定し,上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは,当業者にとっての格別な創意工夫ということはできない。

[相違点2]について
部分酸化ガスを生成するプレリフォーマから燃料電池に供給される燃料ガスに炭素数2以上の炭化水素が供給されないようにすることは,例えば,特開2004-87377号公報の段落【0116】に記載されているとおり,周知の技術である。
そして,上記公報にも記載されているとおり,化学反応からみても部分酸化ガスの反応が完全に行われれば,炭素数2以上の炭化水素は生成されないものであるから,この炭化水素の化合物の濃度を質量基準で50ppb以下とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことである。
よって,上記周知の技術を勘案すれば,刊行物1記載の発明において,上記相違点2係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは,当業者が格別の創作能力を要することなくなし得たことである。

また,本願補正発明の効果についてみても,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術からみて格別顕著な効果が奏されるということもできない。

(3)以上を踏まえると,本願補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明し得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)まとめ
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.特許法第29条第2項に規定する要件について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の各請求項に係る発明は,原審において提出された平成24年10月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ,その請求項1は「第2 1.(1)」に記載したとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

(2)刊行物
刊行物1の記載事項並びに刊行物1記載の発明は,「第2 3.3-1」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,「第2」で検討した本願補正発明の流量である「FE」における,条件iからivが「全て満たされる任意の状態において定常的に改質器に供給される炭化水素系燃料の流量として予め定め」ることに関して,「任意の」,「定常的に」,「して予め定め」という限定事項を省いたものに相当し,流量FEは定常的に供給するものではなく,可変の流量も含まれると解される。
そうすると,「第2 3.」における検討結果をふまえれば,本願発明は,刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.特許法第36条第6項第1号及び第2号について
本願は,「第2 2.」と同様に,特許請求の範囲の記載が明確でなく,発明の詳細な説明に記載したものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また,本願は,同法第36条第6項第1号及び第2項に規定する要件を満たしていない。
したがって,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-03 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2008-16346(P2008-16346)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 537- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 賢一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 平城 俊雅
槙原 進
発明の名称 間接内部改質型固体酸化物形燃料電池の停止方法  
代理人 緒方 雅昭  
復代理人 太田 顕学  
代理人 石橋 政幸  
代理人 宮崎 昭夫  

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