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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 1項2号公然実施  B65D
管理番号 1282525
審判番号 無効2012-800155  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-09-19 
確定日 2013-12-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3332899号発明「保冷容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3332899号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯等

平成 4年11月12日 原原出願(特願平4-327372号)
平成10年 1月30日 原出願を分割出願(特願平10-18938号 )
平成12年 1月17日 本件出願を分割出願(特願2000-7883 号)
平成14年 7月26日 特許権の設定登録
平成14年10月 7日 特許公報発行(特許第3332899号)
平成24年 3月 8日 訂正審判請求(訂正2012-390035号 )
平成24年 5月16日 訂正認容審決(確定済み)
平成24年 9月19日 請求人株式会社シマノによる本件無効審判請求 (無効2012-800155号)
平成24年10月11日 通知書
平成24年10月26日 請求人による上申書提出
平成24年12月27日 被請求人グローブライド株式会社による答弁書 提出
平成25年 1月31日 通知書
平成25年 3月 4日 請求人による上申書並びに検証申出書及び検証 指示説明書提出
平成25年 3月12日 口頭審尋
平成25年 3月29日 請求人による上申書、証人尋問申出書及び尋問 事項書、検証申出書及び検証指示説明書提出
平成25年 4月 4日 被請求人による上申書提出(検証事項の追加)
平成25年 4月 8日 審理事項通知書
平成25年 5月 9日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成25年 5月10日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成25年 5月14日 通知書
平成25年 5月17日 請求人による上申書提出
平成25年 5月21日 請求人による口頭審理陳述要領書(2)提出
平成25年 5月21日 口頭審理並びに証拠調べ(証人尋問及び検証)
平成25年 6月11日 被請求人による上申書提出
平成25年 6月25日 請求人による上申書提出
平成25年 7月19日 審決の予告

なお、被請求人の平成25年4月4日付け上申書は、「平成24年4月4日」付けと記載されていたものが、「平成25年4月4日付け」と訂正されたものである(口頭審理調書の「被請求人」欄1)。

第2 本件発明
本件特許に係る発明は、平成24年3月8日の訂正審判請求書に添付された同日付け訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載されたとおりのものであり、次のとおりである。(以下「本件発明1」等ということがある。また、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある。)
「【請求項1】周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋体であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした保冷容器において、
前記容器本体の上方開口部は、容器本体にヒンジ部で取り付けられた内蓋を有し、該内蓋は、容器本体部の周囲と前記内蓋の周囲に取り付けられたチャックを操作することで上方開口部を開閉可能であることを特徴とする保冷容器。
【請求項2】前記内蓋は、表側シートと裏側シートを有しており、これらのシートの間に断熱材を介在させていることを特徴とする請求項1に記載の保冷容器。
【請求項3】前記蓋体は、天板部分が上方に湾曲形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の保冷容器。」

第3 請求人が主張する無効理由の概要及び提出した証拠方法
1 要点
請求人は、本件特許の請求項1ないし請求項3に記載された発明についての特許を無効とするとの審決を求めている。
その理由の要点は以下のとおりである(審判請求書第3ページ第2行?第4ページ下から3行等)。
なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、特許法の条文を指摘する際に「特許法」という表記を省略することがある。

(1)本件発明1は、甲第1号証-1(NEXUS ‘90-‘91 Autumn-Winter Collection カタログ)等により本件出願前に公然譲渡の申出及び公然譲渡がされていたことが明らかな保冷容器「磯クール BA-1239」によって公然実施されていた発明(以下、請求人は「引用発明1」と称する。)に、甲第3号証に記載された発明を適用することで、当業者が容易に想到できたものである。
また、引用発明1に、甲第2号証ないし甲第5号証に示されるような周知慣用技術を適用することで、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、よって、本件発明1に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきである。(以下、「無効理由1-1」という。)

(2)本件発明1は、甲第2号証に開示された発明に、引用発明1、甲第5号証ないし甲第9号証のような周知慣用技術を適用することで、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、よって、本件発明1に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきである。(以下、「無効理由1-2」という。)

(3)本件発明2は、本件発明1の従属項であるが、該推考容易発明に、甲第8号証、第9号証のような周知慣用技術を適用したにすぎないものであるから、当業者が容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、よって、本件発明2に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきである。(以下、「無効理由2」という。)

(4)本件発明3は、本件発明1の従属項であるが、該推考容易発明に、甲第10号証ないし甲第13号証のような周知慣用技術を適用したにすぎないものであるから、当業者が容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、よって、本件発明3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきである。(以下、「無効理由3」という。)

上記無効理由1-1の「本件出願前に公然譲渡の申出及び公然譲渡がされていたことが明らかな」の箇所に関し、審判請求書においては、単に「本件出願前に公然譲渡の申出がされていたことが明らかな」となっているが(請求書第3ページ第6?7行)、この点については、3「無効理由1-1について」にて後述する。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
[書証]
甲第1号証-1 NEXUS ‘90-‘91 Autumn-Winter Collectionカタログ
の写し
甲第1号証-2 写真撮影報告書(作成者・請求人代理人弁護士速見禎祥)
甲第1号証-3 佐々木雅也の陳述書
甲第1号証-3には、以下の資料1ないし4が添付されている。
資料1 NEXUS‘89-‘90 Autumn-Winter Collectionカタログ
の写し(抄)
資料2 甲第1号証-1の抄
資料3 NEXUS‘91-‘92 Autumn-Winter Collectionカタログ
の写し(抄)
資料4 請求人株式会社シマノ社内報「S-wing」2012年10月 号の写し
甲第2号証 実願昭46-6459号(実開昭47-5993号)のマ イクロフィルム
甲第3号証 特開昭56-56576号公報
甲第4号証 実願昭50-152637号(実開昭52-66695号 )のマイクロフィルム
甲第5号証-1 実願昭46-109931号(実開昭48-64393号 )のマイクロフィルム
甲第5号証-2 実開昭48-64393号公報
甲第6号証 実願昭46-95694号(実開昭48-52964号) のマイクロフィルム
甲第7号証 ASICS FISHING WEAR ‘90 SPRING-SUMMER カタログ
の写し(抄)
甲第8号証 実願昭56-100542号(実開昭58-9384号) のマイクロフィルム
甲第9号証 実願昭50-133012号(実開昭52-46355号 )のマイクロフィルム
甲第10号証 実願昭47-27685号(実開昭48-102188号 )のマイクロフィルム
甲第11号証 実願昭50-89697号(実開昭52-5990号)の マイクロフィルム
甲第12号証 実願平2-51655号(実開平4-11373号)のマ イクロフィルム
甲第13号証 COLEMAN OUTDOOR PRODUCTS 1992 カタログの写し
(抄)
甲第14号証 大辞林背革装版第三刷 2080?2081ページ、奥付け
甲第15号証 山根卓朗の陳述書
甲第16号証 写真撮影報告書(作成者・請求人代理人弁護士速見禎祥)
甲第17号証 NEXUS’93-’94 Autumn-Winter Collectionカタログ
の写し
甲第18号証 ‘89シマノ・NFTフィッシング総合カタログの写し
(抄)
甲第19号証 NEXUS‘89-‘90 Autumn-Winter Collectionカタログ
の写し(甲第1号証-3添付の資料1の全ページ)
甲第20号証 NEXUS‘91-‘92 Autumn-Winter Collectionカタログ
の写し(甲第1号証-3添付の資料3の全ページ)

以上の証拠方法のうち、甲第1号証?1、甲第1号証?2、甲第2号証?甲第14号証は、審判請求書(以下、単に「請求書」ということがある。)に添付され、それ以外は、その後提出されたものである。
そして、甲第1号証-1については、請求書添付のものが平成24年10月26日付け上申書添付のものに差し替えられ(口頭審尋調書の「請求人欄」1)、甲第15号証については、平成25年3月4日付け上申書添付のものが平成25年3月29日付け上申書添付のものに差し替えられた。
また、これらの証拠方法について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「被請求人」欄2)。

[人証]
証人 佐々木雅也(以下、「佐々木証人」という、)

[検証]
検甲第1号証 磯クールBA-1239(25リットルサイズ、グレー)
検甲第2号証 磯クールBA-1239(36リットルサイズ、グレー)

3 無効理由1-1について
請求書においては、無効理由1-1について、以下のように記載されている。
「7-1-1-1 無効理由1-1(引用発明1を主引例とする進歩性欠如)
特許第3332899号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という)は、甲第1号証-1(NEXUS ‘90-‘91 Autumn-Winter Collection カタログ)により本件出願前に公然譲渡の申出がされていたことが明らかな保冷容器「磯クール BA-1239」(以下「公用物件」という)によって公然実施されていた発明(以下「引用発明1」という)に、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開昭56-56576号公報)に記載された発明を適用することで、出願時当業者が容易に想到できたものである。」(請求書第3ページ第3?10行)
すなわち、請求書においては、公然譲渡の申出による公然実施(のみ)を主張している。
その後、平成25年3月4日付けの請求人上申書にて、
「5-1-2 譲渡による公然実施
また、カタログに掲載されている以上、甲第1号証-1に記載された公用物件が平成2(1990)年8月頃から公然と譲渡されていたことは、常識的な商習慣に照らして優に認められるものですが、念のため、販売にかかる帳票(販売データ)を陳述書(甲第15号証)に添付して提出いたします。
これによれば、甲第1号証-1(甲第1号証-3添付資料2)に記載された公用物件が、平成2(1990)年8月頃より、遅くとも次のモデルのカタログ(甲第1号証-3添付資料3)が発行された平成3(1991)年7月頃までの間に、各取引先に販売されたことが分かります。
したがって、甲第1号証-1に記載された公用物件が本件出願日より前に公然譲渡された事実は、甲第1号証-1及び甲第15号証によって認められます。」(上申書第2ページ下から7行?第3ページ第4行)と記載され、公然譲渡による公然実施を主張に加えている。
さらに、平成25年6月25日付けの請求人上申書においても、
「また、カタログを製作し、小売点等に頒布している以上、譲渡の申し出を行うだけではなく、実際に譲渡(販売)を行っていたことも容易に認められる(甲15、佐々木証人の証言045?046)。
以上のことから、甲第1号証-1記載の「磯クールBA-1239」(公用物件)は、本件特許出願前に、公然と譲渡の申出及び譲渡がされたものである。」(上申書第2ページ第12?16行)と記載され、改めて公然譲渡による公然実施を主張している。

これら請求人の主張を全体としてみれば、請求人は、公然譲渡の申出及び公然譲渡による公然実施を主張していると考えられるので、請求人が主張する無効理由1-1を上記第3の1(1)のように扱うこととする。

第4 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の理由、証拠方法に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
[書証]
乙第1号証 特開昭58- 29633号公報
乙第2号証 特開昭61-108548号公報
乙第3号証 岩波 理化学事典 第5版(株式会社岩波書店)第10? 11ページの写し
乙第4号証 実開昭47- 5993号公報(甲第2号証の出願の公開 公報)
乙第5号証 実開昭48-52964号公報(甲第6号証の出願の公開 公報)
これらの証拠方法について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「請求人」欄3)。

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1-1に対する反論
ア 請求人は、写真撮影報告書(甲第1号証-2)に示されているバッグが「磯クール BA-1239」であると主張するが、否認する。甲第1号証-2の保冷容器には、当該保冷容器が「磯クール BA-1239」であることを示す表示は何らなされていない。甲第1号証-2の保冷容器に付された「ISO COOL 25 リットル」というタグのみでは、当該保冷容器が「磯クール BA-1239」であることを示す根拠とならないことは、平成24年10月16日付通知書における審判長の指摘のとおり。(答弁書第6ページ下から3行?第7ページ第4行)

イ 甲第1号証-2の写真3に示されているように、引用発明1においては、蓋体を構成するスカートの本体正面側の2隅に、蓋体の高さ方向全体に亘る切れ目が存在し、その切れ目が縫い合わされている。よって、引用発明1においては、保冷容器内部の冷気が、この切れ目及び縫い跡を通って外部へ漏れ出してしまう。このように冷気が通過して保冷性の低下要因となる切れ目が「僅かな」ものと評価することは妥当ではない。したがって、引用発明1の蓋体は、スカートの本体正面側の2隅に蓋体の高さ方向全体に亘る切れ目が存在する点で、本件発明1と相違する。(答弁書第8ページ第7?19行)

ウ 保冷容器においては、容器本体と蓋体とは同素材で構成されることが自然であるから、特段の動機付けがなければ、甲第1号証-1に係る発明のようなナイロン繊維から成る容器本体に、これとは異素材の硬質のABS樹脂から成る甲第3号証の蓋体Bを適用することには想到し得ない。特に、甲第1号証-1には、「〈素材〉ナイロン100%+アクリルコーティング加工」、「プラスチックタイプに比べて1/4(当社比)と軽量ながら優れた保冷力を誇っています。」と記載されており、素材にナイロン100%を使用して軽量化と優れた保冷力を実現することが、引用発明1の本質的な特徴である。したがって、プラスチックの一種であるABS樹脂から成る甲第3号証の蓋体Bを引用発明1に適用すると、ナイロン100%の素材を用いて軽量化を実現するという引用発明1の技術的意義が本質的に損なわれることになるので、甲第3号証の蓋体Bは引用発明1の蓋体として採用し得ない。(答弁書第11ページ下から12行?末行)

エ そもそも、甲第3号証には、蓋体Bの「形状」が保冷性を維持するためのものであることは一切開示されておらず、むしろ、甲第3号証における保冷性の維持は、「内缶と外缶との間に空間が形成してあってこの空間にポリウレタンフォームの如き断熱材が注入充満している」ことで実現されている。したがって、当業者は、甲第3号証の記載から、「保冷性の維持」のための構成として、甲第3号証の蓋体が「一体形成」されているという点ではなく、甲第3号証の容器本体及び蓋体がいずれも内缶と外缶との間に断熱材が充満している点に注目するはずである。したがって、甲第3号証を甲第1号証-1に適用して相違点にかかる構成に想到することの動機付けにはなりえない。(被請求人口頭審理陳述要領書第3ページ第3?28行)

オ 甲第2号証においては、本体1と蓋2の素材や加工方法を特に区別せずに説明されており、蓋2も本体1と同様に、天板部分を構成するシートと、これとは別体のスカート部分を構成するシートとを継ぎ合わせて構成されていると解される。
また、蓋2を金型一体成形や真空一体成形により継目無く一体成形するには、特別な製造設備や製造技術が必要となるから、蓋2は、金型一体成形や真空一体成形による一体成形ではなく、単にシートを縫い合わせることにより作製されると考えるのが自然である。
したがって、甲第2号証には、引用発明1と本件発明1の相違点、すなわち天板部とスカートが継目なく一体成形され、またスカート自体も継目なく形成された蓋体、は開示されていない。(答弁書第14ページ第2?13行)

カ 甲第4号証の釣用生エサ保存箱の上蓋1は、「強堅な合成樹脂製」である。したがって、甲第3号証に関して述べたのと同様の理由により、軽量性という引用発明1の重要な特徴を著しく損なうことになる。すなわち、甲第4号証の上蓋1は、硬質の合成樹脂(すなわち、プラスチック)から成るので、引用発明1の容器本体とは異素材となり、また、ナイロン100%の素材を用いて軽量化を実現するという引用発明1の技術的意義が本質的に損なわれることになるので、甲第4号証の上蓋1を引用発明1の蓋体として採用することは、本件特許の出願当時、極めて困難であった。(答弁書第14ページ下から2行?第15ページ第6行)

キ 請求人は、甲第5号証の釣魚用クーラーに関して、「蓋22は『腰の強い材料』で作成され『保形可能』であるというのだから継目がないと解するのが自然であ」ると主張するが、誤りである。
そもそも、蓋22が「腰の強い材料」から「保形可能」に構成されているからといって、蓋22に継目がないと解する合理的な根拠が何ら示されていない。「腰の強い材料」という記載は、蓋22を素材の面から説明したものに過ぎず、この素材を如何に加工して蓋22を得るかという点については甲第5号証では何ら説明がなされていない。「腰の強い材料」から成る複数のシート状部材を縫い合わせても蓋22を作製することはできるのであり、「腰が強い材料」を用いているからといって、完成した蓋22に継目がないとはいえない。(答弁書第15ページ第8?18行)

ク 本件特許は、「外観上良好であり、冷気が漏れ難い保冷容器を提供する」ものである。ここで、「外観上良好」とは、「硬質プラスチックで形成しているが、これらの保冷容器は重く、嵩張ることに加え、外観上ほぼどの保冷容器も同じような変化のないものとなっている。」という記載に照らせば、硬質プラスチックのような変化のない素材を除外することを意味している。したがって、本件特許の「蓋体」は、「硬質プラスチックを除く素材からなる蓋体」と解される。(平成25年6月11日付け被請求人上申書第5ページ下から2行?第6ページ第6行)

(2)無効理由1-2に対する反論
甲第2号証記載の容器について、請求人は、外蓋については気温変化に伴うチャックの噛み合わせ不良を避けるためにチャック以外の構成を採用する積極的な動機が存在すると主張する一方で、内蓋に関してはチャック式を採用することは容易に想到し得たとしており、チャック採用の可否に関する主張が首尾一貫していない。(答弁書第23ページ第7?10行)

(3)無効理由2及び3に対する反論
本件発明2及び3は、上記のとおり進歩性を有する本件発明1に係る請求項1に従属しており、少なくともこの従属関係により、本件発明1と同様に進歩性を有するものである。(答弁書第24ページ第1?10行)

第5 当審の判断
1 本件発明
本件発明1ないし本件発明3は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2のとおりと認める。

2 請求人提出の証拠の記載内容等
(1)書証
請求人の提出に係る書証のうち、甲第1号証-1、甲第1号証-3、甲第1号証-3添付の資料1、資料3及び資料4、甲第3号証及び甲第4号証、甲第8号証ないし甲第15号証、甲第17号証ないし甲第20号証には、以下の事項が記載されている。
なお、原文の容量単位を表すアルファベットLの小文字筆記体のような記号は、「リットル」と表記した。

(1-1)甲第1号証-1
ア 甲第1号証-1の頒布時期
甲第1号証-1(NEXUS‘90-‘91 Autumn-Winter Collection)には、そのカタログの表紙に「NEXUS‘90-‘91 Autumn-Winter Collection」と記載され、最終頁(表紙見開き裏)に「1990年8月作成」と記載されていることから、甲第1号証-1に係るカタログは、平成2年の秋頃に頒布されたものと認められ、この点については、両当事者間で争いはない(口頭審尋調書の「当事者双方」欄の1)。

イ 甲第1号証-1に記載された内容
甲第1号証-1には、その第19ページ上方に、容器に関して以下の説明文及び図が記載されている。

(ア)説明文
「■超軽量で磯への携帯に便利
磯クール
BA-1239
<サイズ>25(内容量25リットル、外寸23×44×28cm)¥10 ,800
48(内容量48リットル、外寸32×50×35cm)¥14 ,800
<カラー>グレー、ブラウン
<素 材>ナイロン100%+アクリルコーティング加工

プラスチックタイプに較べて1/4(当社比)と軽量ながら優れた保冷力を誇っています。磯への持ち運びに大変便利です。ブロー成型の内缶入りですから鋭利なものの収納にも安心です。」

(イ)図



ウ 甲第1号証-1記載事項の認定
上記説明文(ア)及び図の記載内容から、上記甲第1号証-1に示される容器については、以下の事項(ア)ないし(エ)を認定することができる。(以下、「甲第1号証-1事項(ア)」等という。)

(ア)容器のサイズは「25」型で外寸23×44×28cmで、色はグレーまたはブラウンである。
(イ)容器は、容器本体に、上部に蓋体が、前面部にポケット部が設けられている。さらに、容器本体の前面部と背面部から容器本体上部に向けて各1本の手提げベルトが付属している。そして、容器本体の両側面部に掛け渡すように一本のショルダーベルトが付属している。手提げベルト、ショルダーベルトは黒である。
(ウ)容器の前面部ポケットには白字で中央付近に大きく「NEXUS」と書かれており、その左上部に白字で何らかの字が書かれている。また、前面部ポケットの中央下部に白地で小さく「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とともに「SHIMANO」と書かれている。
(エ)容器は、ブロー成形の内缶入りである。

上記「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とは、下記に示す登録商標1594603号の一部をなすテニスボールのようなマークである。(以下、同様。)


なお、請求人は、上記甲第1号証-1記載の容器に対応するものと主張して、上記検甲第1号証を提出している。

(1-2)甲第1号証-3
佐々木証人による陳述書には、概略以下の事項が記載されている。
ア 甲第1号証-1に係るカタログの1年前の平成元年(1989年)9月当時は、「NEXUS‘89-‘90 Autumn-Winter Collection」カタログ(甲第1号証-3添付の資料1)に記載されているように、「磯クールBA-1239」のデザインは、前面部ポケットの「NEXUS」の文字の下に「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とともに「SHIMANO」からなるコーポレートロゴが記載され、全体を楕円で囲んだロゴがプリントされている。
イ 請求人は、平成2年(1990年)の秋冬シーズンからデザイン変更を行い、楕円の囲みをなくし、「NEXUS‘90-‘91 Autumn-Winter Collection」カタログ(甲第1号証-1)に示されるような、「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とともに「SHIMANO」からなるコーポレートロゴを含むロゴとした(甲第1号証-3添付の資料2)。
ウ 請求人は、平成3年(1991年)の秋冬シーズンからさらにデザイン変更を行い、「NEXUS’91-’92 Autumn-Winter Collection」カタログ(甲第1号証-3添付の資料3)に記載されているように、楕円の囲みをなくしたまま、平成2年(1990年)以前のコーポレートロゴから「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」もなくした。

(1-3)甲第1号証-3添付の資料1及び甲第19号証
ア 甲第1号証-3添付の資料1及び甲第19号証のカタログの頒布時期
甲第1号証-3添付の資料1(NEXUS‘89-‘90 Autumn-Winter Collection)、またはその全ページの写しである甲第19号証(以後、これらをまとめて、単に「甲第1号証-3添付の資料1等」ということがある。)には、その表紙に「NEXUS‘89-‘90 Autumn-Winter Collection」と記載され、最終頁(表紙見開き裏)に「1989年9月作成」と記載されていることから、甲第1号証-3添付の資料1等に係るカタログは、平成元年の秋頃に頒布されたものと認められる。

イ 甲第1号証-3添付の資料1等に記載された内容
甲第1号証-3添付の資料1等には、その第11ページ左側中程に、容器に関して以下の説明文及び図が記載されている。

(ア)説明文
「超軽量で磯への携帯に便利
磯クール
BA-1239 ¥10,800
<サイズ>25(25.0リットル=22.5×44×27.5cm)
<カラー>グレー、ブラウン
・・・(後略)」

(イ)図


(1-4)甲第1号証-3添付の資料3及び甲第20号証
ア 甲第1号証-3添付の資料3及び甲第20号証のカタログの頒布時期
甲第1号証-3添付の資料3(NEXUS‘91-‘92 Autumn-Winter Collection)、またはその全ページの写しである甲第20号証のカタログ(以後、これらをまとめて、単に「甲第1号証-3添付の資料3等」ということがある。)には、その表紙に「NEXUS‘91-‘92 Autumn-Winter Collection」と記載され、最終頁(表紙見開き裏)に「1991年7月作成」と記載されていることから、甲第1号証-3添付の資料3等に係るカタログは、平成3年の夏頃に頒布されたものと認められる。

イ 甲第1号証-3添付の資料3等に記載された内容
甲第1号証-3添付の資料3等には、その第20ページ左側に、容器に関して以下の説明文及び図が記載されている。

(ア)説明文
「■超軽量で磯への携帯に便利
磯クール
BA-1239
<サイズ>25リットル¥10,800、36リットル¥13,800、・・・(中略)・・・
<カラー>グレー、ダークグリーン・・・(中略)・・・
・36リットルサイズが新登場・・(後略)」

(イ)図


なお、請求人は、上記甲第1号証-3添付の資料3等記載の容器に対応するものと主張して、上記検甲第2号証を提出している。

(1-5)甲第1号証-3添付の資料4
甲第1号証-3添付の資料4は、請求人株式会社シマノの社内報「S-wing」2012年10月号であり、株式会社シマノのコーポレートロゴの変遷について記載されており、特に、第4ページ下欄には、1991年にコーポレートロゴから「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」を除いた旨記載されている。

(1-6)甲第3号証
甲第3号証には、「断熱ボックスの製造方法」(発明の名称)に関し、以下の事項が記載されている。

ア 特許請求の範囲
「ABS樹脂などの合成樹脂成型品よりなるボツクス本体の内缶並に外缶、及び蓋の内缶並に外缶の対向内壁面前面に予め離型剤層を形成した後、内缶並に外缶を結合して、・・・」

イ 明細書第1ページ左下欄13行?右下欄3行)
「この発明は、ABS樹脂などの合成樹脂成型内缶と外缶を結合して両缶間に形成される空間にポリウレタンフオームなどの発泡性樹脂を注入し発泡させて前記空間に完全に充満硬化させた断熱ボツクスの改良に関するものである。
この種のボツクスは前記するように内缶と外缶間に空間が形成してあつてこの空間にポリウレタンフオームの如き断熱材が注入充満しているので、ボツクス内に氷を入れて低温としておくことによつて、魚釣りなどに携行し釣つた魚などを収納し長時間低温保存することができる。」

ウ 明細書第2ページ左上欄第11?16行)
「第1図においてAはボツクス本体、Bは蓋である。
これらのボツクス本体並に蓋はABS樹脂の如き合成樹脂成型品とする内缶1と外缶2からなり両缶を結合することによつて両缶間に均等な間隙(空間)が形成できるようになつている。」(2頁左上欄11?16行)

エ 第1図
下記の第1図の記載から、蓋Bは、天板部分の周縁にスカート部を具備しており、そのスカート部でボックス本体Aの上方開口部を覆っていることが看取できる。



上記摘記事項アに、「ABS樹脂などの合成樹脂成型品よりなるボツクス本体の・・・蓋の内缶並に外缶の対向内壁面前面に予め離型剤層を形成した後、内缶並に外缶を結合して」とあることから、上記認定事項エに関し、天板部分は周縁にスカートを一体形成しており、またスカート部自体も継目なしに一体に形成されているものと認められる。
そこで、上記摘記事項アないしウ及び認定事項エを、技術常識を踏まえて整理すると、甲第3号証には以下の技術的事項が記載されていると認める(以下、「甲3事項」という。)。
「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋Bであって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、蓋Bを有し、前記スカートでボックス本体Aの上方開口部の周囲を覆うようにした断熱ボックス。」

(1-7)甲第4号証
甲第4号証には、「釣用生エサ保存箱」(考案の名称)に関し、以下の事項が記載されている。

ア 明細書第1頁第14行?第2頁13行
「この考案は魚釣り場において生エサを小分けにできる携帯用生エサ保存箱に関する。
従来は釣行の際、・・・(中略)・・・エサは生きたままの保存が大切なためエサ箱は通常魚入クーラーの中に入れて持ち歩き釣場に来てもエサ箱を外気に出せば死滅を早めるため釣る毎にエサ箱を出し入れしなければならない・・・(中略)・・・
この考案は、このような欠点を除去するようなされたもので・・・(中略)・・・冷気を保ち・・・(中略)・・・一日中生エサ保存を得ることを目的としている。」

イ 明細書第2ページ第14?末行
「以下この考案の実施例について図面によって説明すると、第一図は、エサ箱外部の全影で本体は強堅な合成樹脂で上蓋、横壁、底壁の厚みには断熱材が納蔵されている、上蓋(1)はチョーバン金物又は、厚布、ゴム板等によって自由に開閉ができる本箱は内側より外側方向に開けエサが取りやすくなっている、」

ウ 第1図及び第2図
下記の第2図の記載から、上蓋(1)は、天板部分の周縁にスカート部を具備しており、そのスカート部で本箱の上方開口部を覆っていることが看取できる。


上記摘記事項イに、「本体は強堅な合成樹脂で上蓋、横壁、底壁の厚みには断熱材が納蔵されている、」とあるところ、(本体の一部たる)上蓋(1)は強堅な合成樹脂で形成されているのであるから、上記認定事項ウについては、天板部分は周縁にスカートを一体形成しており、またスカート部自体も継目なしに一体に成形されているものと認められる。
そこで、上記摘記事項ア及びイ並びに認定事項ウを、技術常識を踏まえて整理すると、甲第4号証には以下の技術的事項が記載されていると認める(以下、「甲4事項」という。)。
「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する上蓋(1)であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、上蓋(1)を有し、前記スカートで釣用生エサ保存箱本体Aの上方開口部の周囲を覆うようにした釣用生エサ保存箱。」

(1-8)甲第8号証
甲第8号証には、「保冷バツグ」(考案の名称)に関し、以下の事項が記載されている。

ア 明細書第1頁第13?14行
「保冷バツグは釣りとかピクニツクとかの一般レジヤー用によくつかわれている・・・(後略)」

イ 明細書第2頁第9?13行
「本考案の目的は、上記従来の保冷バツグの欠点を克服し、バツグとして形態保持性を向上させるとともに、最も重要な断熱性能を満足させ得る、改良された保冷バツグを提供することにある。」

ウ 明細書第3ページ第5行?第4ページ第5行
「第2図は保冷バツグの横断面図である。同図に示すように、外箱のカバー1A(軟質ポリ塩化ビニールシート、布地等からなる。外側と内側とが異質素材でもよい)内に断熱材としての低発泡独立気泡ポリオレフインフオーム6が充填されており、・・・(中略)・・・
また、外箱のカバー1Aに連続して設けられたふたのカバー3A(カバー1Aと同様の構成よりなる)内に、低発泡独立気泡ポリオレフインフオーム6’が充填されている。ふた3の断熱材としては、高発泡独立気泡ポリオレフインフオームを用いてもよい。」

エ 第2図
ふた3は、外側のふたのカバー3Aと内側のふたのカバー3Aとを有しており、これらのカバー3Aの間に、低発泡独立気泡ポリオレフインフオーム6’が充填されていることが看取できる。

上記摘記事項アないしウ及び認定事項エを、技術常識を踏まえて整理すると、甲第8号証には以下の事項が記載されているものと認められる(以下、「甲8事項」という。)
「保冷バツグにおいて、ふた3は、外側のカバー3Aと内側のカバー3Aとを有しており、これらのカバー3Aの間に、断熱材を充填させていること。」

(1-9)甲第9号証
甲第9号証には、「アイスバツク」(考案の名称)に関し、以下の事項が記載されている。

ア 明細書第1頁第14?18行
「本考案は内部に氷塊を収納して、飲物、罐詰、果物等を冷やしながら持ち運んだり、魚釣において、釣り上げた魚を冷やして鮮度を保つたまま持ち帰つたりするのに使用するアイスバツクに関するものである。」

イ 明細書第4頁第1?12行
「このアイスバツク本体1は不通気性の合成繊維からなる外皮2と内皮3と有しており、その外皮2と内皮3との間に弾性断熱材4が挟み包まれており、かつ、外皮2と内皮3とが縁部で縫着されて形成されているものである。 このアイスバツク本体1は、ボツクス部5と蓋部6とより構成されている。
このボツクス部5は上部開口7を有しており、その上部開口7の周縁8の一辺8aに蓋部6を一体的に備えているもので、この蓋部6はフアスナー9をもつてボツクス部5の上部開口7を覆い外し自在としているものである。」

ウ 第3図
蓋部6は、外皮2と内皮3を有しており、これらの間に、弾性断熱材4が挟み包まれていることが看取できる。

上記摘記事項ア及びイ並びに認定事項ウを、技術常識を踏まえて整理すると、甲第9号証には以下の事項が記載されているものと認められる(以下、「甲9事項」という。)
「アイスバツクにおいて、蓋部6は、外皮2と内皮3を有しており、これらの皮の間に、弾性断熱材4を充填させていること。」

(1-10)甲第10号証?第13号証
甲第10号証?甲第13号証は、いずれも、保冷容器において、保冷容器の蓋体の天板部分が上方に湾曲形性されていることが記載されている。(甲第10号証の第2図、甲第11号証の第1図、甲第12号証の第2図、甲第13号証の赤線で囲まれた写真等を参照。)

(1-11)甲第14号証
甲第14号証は「大辞林背革装第三刷」2080頁であり、「ヒンジ」なる用語の意味として、「上下左右には動かないが、回転は自由であるような材と材の接点または支点の状態。また、そのための機構。ちょうつがい。」であると記載さている。

(1-12)甲第15号証
甲第15号証は、山根卓朗の陳述書であり、請求人製品の平成2年1月頃から平成4年5月頃までの販売データが添付されているが、甲第15号証においては黒塗りの「消費税」の欄の記載を口頭審理にて合議体が確認したところ、消費税率が(当時の3%ではなく)5%となっていた。

(1-13)甲第17号証
甲第17号証(NEXUS’93-’94 Autumn-Winter Collection)に係るカタログには、その第24ページ下程に、容器に関して以下の説明文及び図が記載されている。
(ア)説明文
「■超軽量で磯への携帯に便利
磯クール
BA-1239
<サイズ>25リットル・・・(後略)」

(イ)図
上記(1-4)(イ)で指摘した甲第1号証-3添付の資料3等に示されたのと同様の図が記載されている。

(1-14)甲第18号証
甲第18号証(‘89シマノ・NFTフィッシング総合カタログ)に係るカタログには、その第63ページ下程に、容器に関して以下の説明文及び図が記載されている。
(ア)説明文
「磯クール
軽く、保冷力バツグン。磯へ持ち運び便利。・・・(後略)」

(イ)図



(2)人証
佐々木証人
ア 主尋問
(前略)・・・
「026 つづきまして、BA-1239の構造についてお伺いをします。今日は、検証品と言うことで、持ってきているんですけれども、BA-1239というのは、今日、持ってきている検証品で、・・・・・で間違いないですか。
はい。」
「027 まず、外蓋なんですけどもカタログに記載されているとおり、まあ多少ちょっとくたっている部分もありますけれども周囲を覆うスカート部があると言うことで間違いないですか。
はい。」
「028 外蓋を開けると中に内蓋があるという構造も間違いないですか。
はい。」
「029 内蓋はチャックで開閉するという形だということも間違いないですか。
はい。」
・・・
「甲第1号証の3資料1の11頁を示す。
037 こちら磯クールのロゴがですね、ネクサスに丸がついていますけれどもの横の陸クールという商品には大きなネクサスというロゴがついていますね、この陸クールのロゴのデザインに磯クールの方が合わせたと言うことですね。
はい合わせました。」
・・・
「043 この36リットルの後に出てる物なんですけれども、少し後になると品番を付るようにしたということで。では、最後にカタログのどういうふうに頒布するかとかカタログの掲載商品をどういうふうに販売するかを伺います。
はい。」
「044 まずですね、お手元にあるカタログなんですけれども、このカタログオータムウインター秋冬物のカタログですが、だいたいこのカタログは小売店にどのくらいの時期に置かれる物ですか。
8月の末から9月にかけて小売店様の方に配布いたします。」
「045 このカタログに掲載されている商品というのは、だいたいどれくらいの時期から販売開始されますか。
だいたい8月の末から9月にむけての販売になります。」
「046 ということは御社から各小売店の方には、8月位から納品が入るというようになるのでしょうか。
そうです。」
・・・(後略)

イ 反対尋問
(前略)・・・
「060 ・・・この磯クールBA-1239の開発の経緯なんですけれども、このできあがったカタログを見ますとね、超軽量で、磯への携帯に便利だとこういうふうに書いてあり、そしてまた、プラスチックタイプに比べて4分の1当社比とありますけども軽量だとこういうことをうたっておりますけども、開発のねらいというのは、軽量化にあったということなんですか。
そうです。」
・・・
「063 ・・・当時市場では、軽い物を求めていると、こういうふうに判断されたことなんですかね。
そういうふうに記憶してます。」
「064 ・・・検討の過程で他の素材を使うとか他の形状ですけどもこういったことを十分議論されたんですか。
したと思います。」
・・・(後略)

(3)検証
検甲第1号証及び検甲第2号証について、検証より明らかになった事項は、以下のとおりである。

(3-1)検甲第1号証「磯クールBA-1239(25リットルサイズ、グレー)」の容器について
(A) 基本構成
検甲第1号証の容器は、奥行約23cm、幅約44cm、高さ約30cm(いずれも外寸)の直方体状の容器本体に、上部に蓋体が、前面部にポケット部が設けられている。さらに、容器本体の前面部と背面部から容器本体上部に向けて各1本の手提げベルトが付属している。そして、容器本体の両側面部に掛け渡すように一本のショルダーベルトが付属している。容器本体と蓋体は、前部に差し込み式の止具が設けられており、止具を外すと蓋体を開くことができる。容器本体及び蓋体の色は緑がかったグレーであり、手提げベルト、ショルダーベルト、止具は黒である。

(B) 前面部ポケットのロゴ
検甲第1号証の前面部ポケットには白字で中央やや上部に大きく(縦約3.8cmの字体で)「NEXUS」と書かれており、その左上部に白字で小さく(縦約0.9cmの字体で)「HYPER FISHING GEAR」と書かれている。また、前面部ポケットの中央下部に白地で小さく(縦約1.3cmの字体で)「(登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマークとともに)SHIMANO」と書かれている。

(C) 蓋体
ア 蓋体は、容器本体の背面部に縫いつけられ、背面部の縫いつけ部を軸にして上下に回動して開閉する。
蓋体の天板部分の周縁には、容器本体の上部開口部の外周面を覆うように前面部、側面部にスカートが設けられており、スカートはいずれも天板部分と一枚の布で形成されている。蓋体の天板部分には内芯材が入っており、前面部のスカートにも内芯材が入っているが、側面部のスカートには内芯材は入っていない。
蓋体の前面部両端には、側面部のスカートと前面部のスカートを折り込み処理した縫い目が高さ方向に3.5cmにわたって存在する。
イ 蓋体の側面部は、背面方向に近づくにつれスカート部の高さ方向の幅が狭くなっている。蓋体のスカート部の高さ方向の幅は、前面部側で約4.5cm、背面部側で約1.8cmである。
蓋体の背面部の幅は、容器本体との縫い合わせ部分に向けて狭くなり、縫い合わせ部分では容器本体より左右各3cm程度短く、上部開口部より約3cm下に縫いつけられている。

(D) 内蓋
容器本体の上部開口部には、容器本体の背面側に一端が縫いつけられ、同縫いつけ部を軸にして上下に回動して開閉する内蓋が設けられている。容器本体の上部開口部周囲と内蓋の周囲に取り付けられたチャックで容器本体の上部開口部を開閉可能である。
内蓋は、上面がグレーの生地、下面が銀色の生地であり、生地間に内芯材が介在している。

(E) 容器本体の内部
容器本体の内部には、プラスチック製の内缶が挿入されている。

(F) 背面タグ
容器本体の背面部には、タグが縫いつけられている。タグは白地に黒色の文字で「ISO・COOL 25」と記載されている。

(G) 止具の型番
前面側の差し込み式の止具には、「Nifco SR-38」という文字が刻まれており、ショルダーベルトの差し込み式止具には、「Nifco SR-50」という文字が刻まれている。

(3-2)検甲第2号証「磯クールBA-1239(36リットルサイズ、グレー)」の容器について
(A) 基本構成
検甲第2号証の容器は、奥行約31cm、幅約48cm、高さ約33cm(いずれも外寸)の直方体状の容器本体に、上部に蓋体が、前面部にポケット部が設けられている。さらに、容器本体の前面部と背面部から容器本体上部に向けて各1本の手提げベルトが付属している。そして、容器本体の両側面部に掛け渡すように一本のショルダーベルトが付属している。容器本体と蓋体は、前部に差し込み式の止具が設けられており、止具を外すと蓋体を開くことができる。容器本体及び蓋体の色は薄い茶緑色であり、手提げベルト、ショルダーベルト、止具は黒である。
前面部のポケットのファスナーのレールは取り付けられているが、スライダーは破損している。

(B) 前面部ポケットのロゴ
検甲第2号証の前面部ポケットには白字で中央に大きく(縦約3.8cmの字体で)「NEXUS」と書かれており、その左上部に白字で小さく(縦約0.8cmの字体で)「HYPER FISHING GEAR」と書かれている。また、前面部ポケットの中央下部に白地で(縦約1.4cmの字体で)「SHIMANO」と書かれている。

3 無効理由1-1及び無効理由1-2について
まず、無効理由1-1について検討する。

(1)公然譲渡の申出及び公然譲渡
ア 請求人は、無効理由1-1として、公然譲渡の申出及び公然譲渡による公然実施を主張しているところ(上記第3の1(1)及び上記第3の3)、本件特許の出願日(平成4年11月12日)において適用される特許法は、平成6年法律第116号(特許法等の一部を改正する法律)による改正前のものであって、その関連条文は以下のとおりである。
「第二十9条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 ・・・(中略)・・・
二 特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明
・・・(中略)・・・
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」

第2条
・・・(中略)・・・
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物の発明にあつては、その物を生産し使用し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡のために展示し又は輸入する行為」

イ その後、以下に示す平成6年の「平成6年法律第116号 特許法等の一部を改正する法律」により、特許法第2条第3項第1号が改正された。
第1条 特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)の一部を次のように政正する。・・・(中略)・・・
第2条第3項第1号中「使用し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡のために展示し又は輸入する」を「、 使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする」に改め、・・・(後略)」(下線は当審で付与)

したがって、平成4年11月12日出願である本件特許の無効理由としては,譲渡による公然実施は無効理由となり得るものの、譲渡の申出による公然実施は、特許権者の不利益遡及防止の観点からも、発明の「実施」には該当しないと解される。

よって、請求人の主張する無効理由1-1のうち、公然譲渡の申出による公然実施発明からの想到容易性は理由がなく、公然譲渡による公然実施発明からの想到容易性を以下検討することとする。

(2)本件発明の出願前に公然譲渡された発明
次に、請求人の主張するように、甲第1号証-1に記載されたような保冷容器「磯クール BA-1239」が、公然譲渡されたといえるか、そうであれば、具体的にいかなる発明が公然譲渡されたかを検討する。

(2-1)公然譲渡について
甲第1号証-1の同カタログに記載された容器のような汎用品は広く一般消費者を対象とするものであること、及び、上記2(2)アで摘記した佐々木証人の証言の044?046を踏まえれば、平成2年の秋頃、遅くとも冬頃までにカタログ掲載の商品の公然譲渡(公然販売)がなされたものと推認できる。
そして、甲第1号証-1のカタログの第19ページ上方に「磯クール BA-1239」と標記された容器が記載されているところ、該「磯クール BA-1239」と標記された容器も、本件特許出願以前である平成2年の秋頃、遅くとも冬頃までに公然譲渡されたものと推認される。

(2-2)甲第1号証-1に記載の「磯クール BA-1239」と検甲第1号証に係る容器との同一性について
上記(2-1)の検討により、甲第1号証-1のカタログ掲載の「磯クール BA-1239」が平成2年の秋冬頃に公然譲渡されたものと推認されたが、次に、甲第1号証-1のカタログ掲載の容器(以下、「甲第1号証-1容器」という)は、その内部構造等にカタログからでは不明な点があるところ、請求人が甲第1号証-1容器と同一であると主張する検甲第1号証に係る容器との同一性について、以下検討する。

ア 「磯クールBA-1239」のロゴのデザインの変遷
上記2(1)(1-2)にて指摘した甲第1号証-3の佐々木証人の陳述を、2(1)(1-14)の甲第18号証の図に示された容器のロゴ、2(1)(1-3)の甲第1号証-3添付の資料1等の図に示された容器のロゴ、2(1)(1-1)の甲第1号証-1の図に示された容器のロゴ、2(1)(1-4)の甲第1号証-3添付の資料3等の図に示された容器のロゴ、2(1)(1-13)の甲第17号証の図に示された容器のロゴ、及び2(1)(1-5)の甲第1号証-3添付の資料4の記載を照らし併せつつまとめると、「磯クールBA-1239」等のロゴのデザインについては、時系列的に以下の事実を認めることができる。

(ア)平成元年(1989年)の秋冬シーズンの前は、「BA-1239」シリーズではなく、ロゴは、甲18号証に示されるような魚の絵のロゴであった。
(イ)平成元年(1989年)の秋冬シーズンのロゴは、「NEXUS」の文字の下に「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とともに「SHIMANO」からなるコーポレートロゴが記載され、全体を楕円で囲んだロゴであった(甲第1号証-3添付の資料1等)。
(ウ)(甲第1号証-1の頒布時期である)平成2年(1990年)の秋冬シーズンのロゴは、「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とともに「SHIMANO」からなるコーポレートロゴを含み、全体の楕円の囲みをないロゴとなった(甲第1号証-1)。
(エ)平成3年(1991年)の秋冬シーズンからさらにデザイン変更を行い、楕円の囲みをなくしたまま、コーポレートロゴから「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」もなくし、「NEXUS」の文字のみとした(甲第1号証-3添付の資料3等)。
(オ)それ以降、少なくとも(甲第17号証の頒布時期頃の)平成5年(1993年)までは、ロゴのデザイン変更は行われていない(甲第17号証)。
また、以上の時系列的な事実は、佐々木証人の証言と矛盾することなく整合する。
そうすると、甲第1号証-1の図に示された容器のロゴは、上記(ウ)の平成2年(1990年)の秋冬シーズンのみのロゴであると推認できる。

イ 甲第1号証の記載内容と検甲第1号証の検証結果との整合について
甲第1号証の記載内容は、上記2(1-1)ウに示した下記甲第1号証-1事項(ア)ないし(エ)である。
(ア)容器のサイズは「25」型で外寸23×44×28cmで、色はグレーまたはブラウンである。
(イ)容器は、容器本体に、上部に蓋体が、前面部にポケット部が設けられている。さらに、容器本体の前面部と背面部から容器本体上部に向けて各1本の手提げベルトが付属している。そして、容器本体の両側面部に掛け渡すように一本のショルダーベルトが付属している。手提げベルト、ショルダーベルトは黒である。
(ウ)容器の前面部ポケットには白字で中央付近に大きく「NEXUS」と書かれており、その左上部に白字で何らかの字が書かれている。また、前面部ポケットの中央下部に白地で小さく「登録商標1594603号にあるテニスボールのようなマーク」とともに「SHIMANO」と書かれている。
(エ)容器は、ブロー成形の内缶入りである。

他方、検甲第1号証の検証結果は、上記2(3)(3-1)のとおりであるところ、このうち特に「(A)基本構成」は、甲第1号証-1事項(ア)及び(イ)と(高さに測定の誤差の範囲内の差異があるものの)整合し、「(B)前面部ポケットのロゴ」は、甲第1号証-1事項(ウ)と整合し、「(E)容器本体の内部」に係る容器本体内部のプラスチック製の内缶は、甲第1号証-1事項(エ)と整合し、他に検甲第1号証に係る容器と甲第1号証記載の容器に整合していない点は見当たらない。
そして、上記アのロゴの変遷を併せ考えれば、検甲第1号証に係る容器は、甲第1号証-1に対応するところの、平成2年(1990年)の秋冬シーズンのみのロゴを有していることとなる。

ウ 佐々木証人の証言等
さらに、上記2(2)アで指摘した証人佐々木証人の証言によれば、「BA-1239」が検甲第1号証で間違いない旨証言が得られているところ(026)、かかる証言は上記同一性を裏付ける一つの要素と考えられる。
また、上記同一性については、請求人から証拠に裏付けられた反論がなされていない。

エ 小括
以上を併せ考えると、甲第1号証-1容器と検甲第1号証に係る容器の同一性は認められる。

(2-3)公然実施された発明の認定
上記(2-2)の検討のとおり、甲第1号証-1容器と検甲第1号証にかかる容器の同一性が認められたので、検甲第1号証の検証結果等に基づき、公然実施された発明を認定することとする。

公然実施発明1
検甲第1号証の容器の検証結果は、上記2(3)(3-1)に示した構成(A)ないし(G)のとおりである。
まず、検証結果の特に構成(C)に着目すれば、検甲第1号証の容器は、前面部、側面部にスカートを形成した天板部分を具備する蓋体であって、スカートはいずれも天板部分と一枚の布で形成され、蓋体の前面部両端には、側面部のスカートと前面部のスカートを折り込み処理した縫い目が高さ方向に3.5cmにわたって存在している、蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした容器、ということができる。
そして、検証結果の特に構成(D)に着目すれば、検甲第1号証の容器は、容器本体の上方開口部は、容器本体の背面側に一端が縫いつけられ、同縫いつけ部を軸にして上下に回動して開閉する内蓋を有し、該内蓋は、容器本体部の周囲と前記内蓋の周囲に取り付けられたチャックで上方開口部を開閉可能である、ということができる。
さらに、上記2(1)(1-1)にて摘記したように、甲第1号証-1のカタログに「優れた保冷力を誇っています」と記載されていることから、検甲第1号証の容器は保冷容器である、ということができる。

そこで、上記2(3)(3-1)にて指摘した検甲第1号証の容器の検証結果のうち、特に、構成(A)、(C)及び(D)に着目して、技術常識を踏まえ本件発明1に照らして整理すると、検甲第1号証の容器は以下の構成を備える発明であると認められる。
「前面部、側面部にスカートを形成した天板部分を具備する蓋体であって、スカートはいずれも天板部分と一枚の布で形成され、蓋体の前面部両端には、側面部のスカートと前面部のスカートを折り込み処理した縫い目が高さ方向に3.5cmにわたって存在している、蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした保冷容器において、
前記容器本体の上方開口部は、容器本体の背面側に一端が縫いつけられ、同縫いつけ部を軸にして上下に回動して開閉する内蓋を有し、該内蓋は、容器本体部の周囲と前記内蓋の周囲に取り付けられたチャックで上方開口部を開閉可能である、保冷容器。」(以下、「公然実施発明1」という。)

公然実施発明2
また、上記検証結果の特に構成(D)の第2段落に着目すると、検甲第1号証の容器は、さらに以下の構成を備える発明であると認めることができる。
公然実施発明1において、内蓋は、グレーの上面生地と銀色の下面生地を有しており、これらの生地の間に内芯材を介在させている保冷容器。」(以下、「公然実施発明2」という。)

(3)本件発明1の進歩性(第29条第2項)について
無効理由1-1である本件発明1の進歩性について検討する。
ア 対比
本件発明1と公然実施発明1とを対比すると以下のとおりである。
まず、公然実施発明1の「チャックで上方開口部を開閉可能である」は本件発明1の「チャックを操作することで上方開口部を開閉可能である」に相当することは、技術常識に照らして明らかである。
次に、公然実施発明1の「前面部、側面部にスカートを形成した天板部分を具備する蓋体であって、スカートはいずれも天板部分と一枚の布で形成され」ていることについて、「前面部、側面部」は周縁の主要部分をなすものであり、また「一枚の布で形成され」ていることは、「継目なしに一体形成され」ていることに相当する。そうすると、全体として当該部分は、本件発明1の「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋体であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され」に相当するということができる。
また、本件発明1において、「内蓋」が「容器本体にヒンジ部で取り付けられた」ものであることに関し、上記2(1)(1-11)で指摘したように、甲第14号証に、該「ヒンジ」とは、「上下左右には動かないが、回転は自由であるような材と材の接点または支点の状態。また、そのための機構。ちょうつがい。」であると記載さている。そうすると、公然実施発明1の「容器本体の背面側に一端が縫いつけられ、同縫いつけ部を軸にして上下に回動して開閉する内蓋」は、本件発明1の「容器本体にヒンジ部で取り付けられた内蓋」に相当するといえる。

したがって、本件発明1と公然実施発明1とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋体であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成されている蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした保冷容器において、
前記容器本体の上方開口部は、容器本体にヒンジ部で取り付けられた内蓋を有し、該内蓋は、容器本体部の周囲と前記内蓋の周囲に取り付けられたチャックを操作することで上方開口部を開閉可能である保冷容器。」
そして、本件発明1と公然実施発明1とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、スカート自体が継目なしに一体に形成されているのに対し、公然実施発明1は、蓋体の前面部両端には、側面部のスカートと前面部のスカートを折り込み処理した縫い目が高さ方向に3.5cmにわたって存在している点。

イ 相違点についての判断
(ア)甲3事項の適用による想到容易性
上記2(1)(1-6)にて指摘したように、甲3事項は、「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋Bであって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、蓋Bを有し、前記スカートでボックス本体Aの上方開口部の周囲を覆うようにした断熱ボックス。」というものであるところ、これを本件発明1の用語に倣って表現すれば、甲3事項の「蓋B」は「蓋体」と表現でき、以下同様に、「ボックス本体A」は「容器本体」と、「断熱ボックス」は「保冷容器」と、表現できる。
したがって、甲3事項は、
「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋体であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした保冷容器。」と言い換えることができる。

次に、(i)公然実施発明1と甲3事項は、いずれも保冷容器(断熱ボックス)である点で技術分野が共通しており、(ii)容器の蓋体において、これを一体に形成すなわち、樹脂等による一体成型とするか、布等の縫い合わせにするかは、容器の使用形態、商品として重視するセールスポイント(軽量性重視か、密封機能性重視か、等)を考慮して当業者が適宜選択し得る事項であると考えられることを併せ考慮すると、甲第3号証に接した当業者が、これを公然実施発明1に適用することを試みることに格段困難性はない、というべきである。

そうすると、公然実施発明1に甲3事項を適用し、折り込み処理した縫い目を有するスカートに換え、継目なしに一体に形成されたスカートとして、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たもの、と解するのが相当である。

上記(i)及び(ii)の甲3事項の公然実施発明1への適用容易性に関し、被請求人は、公然実施発明1は軽量化と優れた保冷力を実現することが本質的な特徴であるところ、プラスチックの一種であるABS樹脂から成る蓋を有する甲第3号証の蓋体Bを公然実施発明1に適用すると、軽量化を実現するという公然実施発明1の技術的意義が本質的に損なわれることになるので甲3事項は適用し得ない旨反論する(上記第4の2(1)ウ)。しかし、公然実施発明1の保冷容器が軽量化を実現することを特徴としているとしても、保冷容器における他の目的やセールスポイントを達成すべく、軽量化を多少犠牲にしてもよいと考えることは格段困難なこととはいえず、請求人のかかる反論には理由がない。

また、被請求人は、当業者は甲第3号証の記載から、「保冷性の維持」のための構成として、甲第3号証の蓋体が「一体形成」されているという点ではなく、甲第3号証の容器本体及び蓋体がいずれも内缶と外缶との間に断熱材が充満している点に注目するはずであり、甲第3号証を公然実施発明1に適用することの動機付けにはなり得ない、とも反論する(上記第4の2(1)エ)。しかしながら、保冷容器においては、保冷性を可能な限り高めようとするのが通常であるから、甲第3号証の内缶と外缶との間の断熱材に加え、(あるいはこれに換えて)甲第3号証の蓋体が「一体形成」されている点も適用しようとすることに何ら不自然なことはない。

さらに、被請求人は、本件特許は、「外観上良好」であるべきものであるから、硬質プラスチックのような変化のない素材を除外することを意味し、したがって、本件特許の「蓋体」は、「硬質プラスチックを除く素材からなる蓋体」と解されると反論する(上記第4の2(1)ク)。しかし本件特許の請求項1にはかかる特定は記載されておらず、また、被請求人の主張する理由が、また「硬質プラスチックを除く素材からなる蓋体」と解すべき特段の理由に該当するとは到底認めらない。

以上により、請求人の反論にはいずれも理由がなく。本件発明1は、公然実施発明1に甲3事項を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)従来周知の事項の適用による想到容易性
上記2(1)(1-6)及び(1-7)にて指摘したように、甲3事項及び甲4事項は以下のとおりである。
甲3事項:「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋Bであって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、蓋Bを有し、前記スカートでボックス本体Aの上方開口部の周囲を覆うようにした断熱ボックス。」
甲4事項:「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する上蓋(1)であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、上蓋(1)を有し、前記スカートで釣用生エサ保存箱本体Aの上方開口部の周囲を覆うようにした釣用生エサ保存箱。」

上記甲3事項及び甲4事項は、同様な技術的事項であるところ、これらの共通点として、本件発明1の用語を用いて、以下の事項を従来周知の事項ということができる。(以下「従来周知の事項A」という。)
従来周知の事項A:「周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋体であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成され、前記スカート自体が継目なしに一体に形成されている、蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした保冷容器。」

次に、(i)公然実施発明1と従来周知の事項Aは、いずれも保冷容器に関するものであり、(ii)容器の蓋体において、これを一体に形成すなわち、樹脂等による一体成型とするか、布等の縫い合わせにするかは、容器の使用形態、商品として重視するセールスポイント(軽量性重視か、密封機能性重視か、等)を考慮して当業者が適宜選択し得る事項であると考えられることを併せ考慮すると、公然実施発明1に従来周知の事項A適用することに格段困難性はない、というべきである。

そうすると、公然実施発明1に従来周知の事項Aを適用し、折り込み処理した縫い目を有するスカートに換え、継目なしに一体に形成されたスカートとして、相違点1に係る本件発明1の構成とすることも、当業者が容易に想到し得たもの、と解するのが相当である。

公然実施発明1に従来周知の事項Aを適用することに関連し、被請求人は、甲第4号証の釣用生エサ保存箱の上蓋1は、「強堅な合成樹脂製」であり、軽量性という引用発明1の重要な特徴を著しく損なうことになる。すなわち、甲第4号証の上蓋1は、硬質の合成樹脂から成るので、引用発明1の容器本体とは異素材となり、また、ナイロン100%の素材を用いて軽量化を実現するという引用発明1の技術的意義が本質的に損なわれることになるので、甲第4号証の上蓋1を引用発明1の蓋体として採用することは、極めて困難である旨反論する(上記第4の2(1)カ)。しかし、上記(ア)で検討したのと同様、公然実施発明1の保冷容器が軽量化を実現することを特徴としているとしても、保冷容器における他の目的やセールスポイントを達成すべく、軽量化を多少犠牲にしてもよいと考えることは格段困難なこととはいえず、請求人のかかる反論には理由がない。

よって、本件発明1は、公然実施発明1に従来周知の事項Aを適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、公然実施発明1及び甲3事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、公然実施発明1及び従来周知の事項Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、無効理由1-2について検討するまでもなく、本件発明1についての特許は、第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とされるべきものである。

4 無効理由2について
ア 対比
本件発明2の進歩性を検討するため、本件発明2と上記3(2)(2-3)イの公然実施発明2とを対比する。
本件発明2は、本件発明1の保冷容器において、さらに「内蓋は、表側シートと裏側シートを有しており、これらのシートの間に断熱材を介在させていること」という限定を付すものである。
一方、上記3(2)(2-3)イにて指摘したように、公然実施発明2は「公然実施発明1において、内蓋は、グレーの上面生地と銀色の下面生地を有しており、これらの生地の間に内芯材を介在させている保冷容器。」というものである。
本件発明2と公然実施発明2とを対比すると以下のとおりである。
公然実施発明2の「グレーの上面生地」は本件発明2の「表側シート」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、以下同様に「銀色の下面生地」は「裏側シート」に、「生地」は「シート」に相当することも明らかである。
また、公然実施発明2の「内芯材」と本件発明2の「断熱材」とは、内芯材である限りにおいて共通する。
したがって、本件発明2と公然実施発明2とは、上記3(3)アにおける本件発明1と公然実施発明1との対比の検討結果も踏まえ、以下の点で一致しているとういことができる。
<一致点>
「内蓋は、表側シートと裏側シートを有しており、これらのシートの間に内芯材を介在させている、
周縁にスカートを一体形成した天板部分を具備する蓋体であって、前記天板部分と前記スカートとが継目なしに一体に形成されている蓋体を有し、前記スカートで容器本体の上方開口部の周囲を覆うようにした保冷容器において、
前記容器本体の上方開口部は、容器本体にヒンジ部で取り付けられた内蓋を有し、該内蓋は、容器本体部の周囲と前記内蓋の周囲に取り付けられたチャックを操作することで上方開口部を開閉可能である保冷容器。」

そして、本件発明2と公然実施発明2とは、上記3(3)アの相違点1を有し、さらに、以下の点で相違する。
<相違点2>
内蓋のシートの間に内芯材として、本件発明2は断熱材を介在させているのに対し、公然実施発明2の内芯材は、それについて不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
相違点1については、上記3(3)イにおける検討と同様に、公然実施発明2、及び甲3事項または従来周知の事項Aに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(イ)相違点2について
上記2(1)(1-8)及び(1-9)にて指摘したように、甲8事項及び甲9事項は以下のとおりである。
甲8事項:「保冷バツグにおいて、ふた3は、外側のカバー3Aと内側のカバー3Aとを有しており、これらのカバー3Aの間に、断熱材を充填させていること。」
甲9事項:「アイスバツクにおいて、蓋部6は、外皮2と内皮3を有しており、これらの皮の間に、弾性断熱材4を充填させていること。」
上記甲8事項及び甲9事項は、同様な技術的事項であるところ、これらの共通点として、本件発明の用語を用いつつ、以下の事項を従来周知の事項ということができる。(以下「従来周知の事項B」という。)
従来周知の事項B:「保冷容器において、蓋は、表側シートと裏側シートを有しており、これらのシートの間に断熱材を介在させている保冷容器。」
そして、かかる従来周知の事項Bを、公然実施発明2の「表側シートと裏側シートを有しており、これらのシートの間に内芯材を介在させている内蓋」に適応し、内蓋の内芯材を断熱材として,相違点2係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、公然実施発明2、甲3事項及び従来周知の事項Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、または、公然実施発明2、従来周知の事項A及び従来周知の事項Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明2についての特許は、第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とされるべきものである。

5 無効理由3
ア 対比
本件発明3は、本件発明1の保冷容器において、さらに「蓋体は、天板部分が上方に湾曲形成されている」という限定を付すものである。
そこで、本件発明3と公然実施発明1とを対比すると、上記3(3)アの一致点、相違点1を有し、さらに、以下の点で相違する。
<相違点3>本件発明3は、「蓋体は、天板部分が上方に湾曲形成されている」のに対し、公然実施発明1は、そのようなものではない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
相違点1については、上記3(3)イにおける検討と同様に、公然実施発明1、及び甲3事項または従来周知の事項Aに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(イ)相違点3について
上記2(1)(1-10)で指摘したように、甲第10号証?第13号証は、いずれも、保冷容器において、保冷容器の蓋体の天板部分が上方に湾曲形性されていることが記載されており、かかる技術的事項は従来周知の事項といえる(以下、「従来周知の事項C」という。)
そして、かかる従来周知の事項Cを公然実施発明1に適用し、蓋体の天板部分を上方に湾曲形成させて、相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括
したがって、本件発明3は、公然実施発明1、甲3事項及び従来周知の事項Cに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、または、公然実施発明1、従来周知の事項A及び従来周知の事項Cに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明3についての特許は、第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とされるべきものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし3は、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-04 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2000-7883(P2000-7883)
審決分類 P 1 113・ 112- Z (B65D)
P 1 113・ 121- Z (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
登録日 2002-07-26 
登録番号 特許第3332899号(P3332899)
発明の名称 保冷容器  
代理人 並木 政一  
代理人 速見 禎祥  
代理人 岩坪 哲  
代理人 笹川 麻利恵  
代理人 村越 智史  
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