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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1282548
審判番号 不服2011-6582  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-29 
確定日 2013-12-04 
事件の表示 特願2006-525001「改良放射性金属錯体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年8月19日国際公開,WO2004/069285,平成18年12月14日国内公表,特表2006-528205〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,2004年2月9日(パリ条約による優先権主張 2003年2月7日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成22年4月2日付けの拒絶理由通知に対して,その指定期間内である同年10月19日付けで手続補正されたが,同年11月15日付けで拒絶査定され,これに対して平成23年3月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願請求項1?11に係る発明は,平成22年10月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明は,次のとおりである。

「 【請求項1】
(i)コンジュゲートにキレート化したテクネチウム又はレニウムの放射性同位体の金属錯体であって、上記コンジュゲートがトロパンに結合した四座キレート剤を含み、上記四座キレート剤が上記テクネチウム又はレニウムの放射性同位体と中性金属錯体を形成している金属錯体と、
(ii)アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸又はゲンチシン酸或いはそれらの生体適合性陽イオンとの塩を含む1種以上の放射線防護剤と
を含む安定化組成物であって、
前記四座キレート剤が、以下の(i)?(iv)
(i)N_(2)S_(2)、
(ii)N_(3)S、
(iii)ジアミンジオキシム、又は
(iv)アミドトリアミン
から選択されるドナーセットを有する、安定化組成物。」(以下,「本願発明」という。)

3.引用刊行物

原査定の拒絶の理由で引用された,本件優先日前に頒布された刊行物である「Nuclear Medicine Biology, 1999, Vol.26, p.461-466」(原査定における引用文献2。以下,「刊行物A」という。),及び,「国際公開第2002/053192号」(原査定における引用文献8。以下,「刊行物B」という。)には,それぞれ,以下の事項が記載されている。なお,いずれの刊行物も英文のため,訳文で記す。

(1)刊行物A(Nuclear Medicine & Biology, 1999, Vol.26, p.461-466)

ア.(標題欄)
「ドーパミン輸送体造影剤:[Tc-99m]TRODAT-1の改良キット製剤」

イ.(要約欄)
「要約:最近,[Tc-99m]TRODAT-1,すなわち,ヒトにおけるCNSドーパミン輸送体を造影する最初のTc-99m標識トレーサーが,報告された。このトレーサーは,脳の大脳基底核領域におけるドーパミン輸送体に対して,優れた特異的結合を示し,それゆえ,パーキンソン病のような神経変性疾患におけるドーパミン輸送体欠損の診断に有用である可能性がある。[Tc-99m]TRODAT-1の製剤は,以前に多段階式キット製剤により実現された。日常的な臨床使用のためには,簡素化された1バイアル製剤であってTRODAT-1配位子が減量されたものを開発することによって,さらに製剤を改善することは,非常に望ましいことである。この目的を達成するため,要因(遊離配位子の量,反応試薬,及び反応pH)の組合せを変化させることによって,標識化効率を最適化する一連の研究を実施した。ラットにおける脳取り込みと標的(線条体)対非標的(小脳)比率を決定することにより,この新しいキット製剤で調製した[Tc-99m]TRODAT-1を評価した。1バイアルキット製剤が≧90%の放射標識化収率をもたらすような様々な成分の適切な量を特定した。最も一貫してかつ信頼できる製剤は,10 μgのTRODAT-1(200 μgから10 μgへの遊離配位子の減少),32 μgのSnCl_(2),10 mgのグルコヘプトン酸ナトリウム及び840 μgのEDTA二ナトリウムが,凍結乾燥キットとして1バイアルに含まれるものであった。このバイアルは,[Tc-99m]過テクネチウム酸(0.5?2 mL,≦1110 MBq,30 mCi)と再構成することも実行可能であり,4.5?5.0のpH値の最終溶液をもたらす。この新しいキットで調製された[Tc-99m]TRODAT-1は,室温で6時間安定であった。新製剤によるラットにおけるこの薬剤の生体内分布の調査は,従前の製剤により得られたものと比較して,類似の局所脳分布を示した(小脳に対する高い線条体の比率)。結論として,この凍結乾燥1バイアルキット製剤を用いると,[Tc-99m]TRODAT-1が,90%より大きい放射化学的純度で調製できる。この簡素化キットは,日常的臨床使用におけるこの薬剤の調製の信頼性を大いに改善するであろう。」

ウ.(第461頁左下略語欄最下行)
「RCP,放射化学的純度」

エ.(第462頁図1)



図中の記載の訳文は次のとおり。標題:「[Tc-99m]TRODAT-1の調製」,反応を示す矢印の上の記載:「[Tc-99m] TcO_(4)^(-) SnCl_(2)/Na-グルコヘプトン酸」。

オ.(第463頁右欄下から10行目?第464頁左欄第2行)
「6時間の半減期でTc-99に壊変するという,Tc-99mの物理的特性のため,この方法は様々な量のTc-99化学担体を産生する。担体無添加のTc-99m過テクネチウム酸は,標準化された方法で得た:特定の銘柄のTc-99m/Mo-99ジェネレータ(Mallinkcrodt Medical Inc.)及び固定した溶出時間(前回のジェネレータ溶出から24時間後)。これらの条件下で,10 μg(23.4 nmol)のTRODAT-1の標識化に用いるTc-99mの最大放射活性は,30 mCi(1110 MBq)であることが見出され,これは,約0.22 nmolのTc-99担体を意味する。30 mCiより大きい担体無添加[Tc-99m]過テクネチウム酸により標識化が行われた場合は,RCPは<90%を下回るほどに減少した(表1)。」

カ.(第464頁左欄下から3行目?同頁右欄第4行)
「[Tc-99m]TRODAT-1標識化への反応体積の影響をさらに調査するために,凍結乾燥されたキットを,様々な体積([Tc-99m]過テクネチウム酸を含む0.5?2.0 mL生理食塩水)で再構成した。興味深いことに,反応体積について0.5 mLから2.0 mLまで有意な違いは観察されなかった。これは,各成分の濃度における4倍の差違を意味する(表3)。」

キ.(第466頁左欄第14?28行)
「[Tc-99m]TRODAT-1のRCP測定のための品質管理手順を簡素化するため,我々は,HPLC法を簡易分離法に置き換えることにより,RCPの評価方法を修正した。本研究で示されたように(図5),結果の密接な相関(r = 0.98)は,明らかに,[Tc-99m]TRODAT-1についてこの分離法で純度評価が実施可能であることを示している。核医学において使用される他のTc-99m薬剤のための他の市販キットと同様に,もし,この改良キットにおける標識化収率が一貫していることが示されれば,最終的には,RCP測定の最後の品質管理段階はもはや必要でなくなるだろう。この面の放射性医薬品製剤の進歩は,日常の臨床手順として使用される新薬剤に対して利便性及び使いやすさを提供することから,非常に重要である。」

(2)刊行物B(国際公開第2002/053192号)

ア.(請求の範囲,請求項1)
「安定化放射性医薬組成物であって:
(i)^(99m)Tc金属錯体;
(ii)アスコルビン酸,パラ-アミノ安息香酸もしくはゲンチシン酸または生体適合性陽イオンとのそれらの塩を含む放射線防護剤;
(iii)式(I)
……の抗菌性保存剤の一つもしくはそれ以上
を含む、組成物。」

イ.(第2頁第4?14行)
「放射性医薬組成物は,特に溶媒(典型的には水)の放射線分解を受けて,結果的に高度に反応性のフリーラジカルを生成し,それが組成物の一つもしくはそれ以上の成分を分解し得る。放射線防護剤もしくはフリーラジカル捕捉剤を使用して,そのような分解を抑止するのに役立てることが公知である。典型的には,フリーラジカル捕捉剤は公知のクラスの抗酸化化合物から選ばれる。アスコルビン酸およびアスコルビン酸塩は,^(99m)Tc放射性医薬品の製剤用の第一錫含有非放射性キットのための安定化剤として機能すると,US 4364920に開示されており,その後^(99m)Tc放射性医薬製剤に広く使用されている。^(99m)Tc放射性医薬品用のゲンチシン酸安定化剤がUS 4233284に開示されている。^(99m)Tc放射性医薬製剤用のパラアミノ安息香酸(PABA)および類縁安定化剤がUS 4451451に開示されている。」

ウ.(第4頁第1?14行)
「本発明
本発明は,少なくとも24時間の再構成後の使用期限を有するところの,改良された^(99m)Tc放射性医薬組成物を提供する。好ましい^(99m)Tc放射性医薬品は緊急の状況で特別な利点を有するものであり,心臓,脳,肺および血栓造影剤が挙げられる。
^(99m)Tc放射性医薬剤の延長された再構成後の利用可能性の問題を解決することは,再構成において^(99m)Tcの放射能の初期レベルが高くなければならないことを意味する。これは,^(99m)Tcの6時間の半減期が,診断画像を与えるために使用されるであろう放射能の半分は6時間毎に放射性崩壊で失われ,したがって元の放射能の1/16しか24時間までに残存しない,ということを意味するからである。長期間のそのような高レベルの放射能は^(99m)Tc放射性医薬組成物について顕著な潜在的放射線分解の問題を呈する。それ故に,本発明は組成物中に放射線防護剤を含有する。」

エ.(第5頁第13?17行)
「かくして,先行技術の教示と反対に,式(I)のパラベン抗菌性保存剤を^(99m)Tc放射性医薬製剤中に放射線防護剤と一緒に使用することが,^(99m)Tc薬剤の放射化学的純度(RCP)(すなわち,顕著なレベルの^(99m)Tcベースの不純物)や,したがって画像品質に対して悪影響を伴うことなく,可能となることが驚くべきことに見出されている。」

オ.(第5頁第19?20行)
「用語“^(99m)Tc金属錯体”は、テクネチウムの一つもしくはそれ以上の配位子との配位錯体を意味する。」

カ.(第5頁第30行?第6頁第4行)
「トランスキレート化に抵抗性である^(99m)Tc錯体を形成するところの本発明における使用に適当な配位子には,キレート化剤であって,……であるもの;または,……が含まれる。」

キ.(第6頁第18行?第7頁第23行)
「トランスキレート化に抵抗性である^(99m)Tc錯体を形成する,テクネチウムに対する適当なキレート化剤の例としては,以下のものが含まれるが,これらに限定されない:
(i)……;
(ii)……;
(iii)BATもしくは……のようなジアミンジチオール供与体セット,または……を有するN2S2配位子;
(iv)……;
(v)……。」

ク.(第8頁第1?3行)
「本発明の^(99m)Tc配位子は,任意に生物学的標的分子とコンジュゲートして,特定の器官,受容体または疾患部位のような,哺乳動物の体内の興味ある部位に^(99m)Tc放射性医薬品を標的化してもよい。」

ケ.(第9頁第17?25行)
「用語“放射線防護剤”は,水の放射線分解に起因する酸素含有フリーラジカルのような高反応性のフリーラジカルを捕捉することにより,酸化還元プロセスのような分解反応を阻害する化合物を意味する。本発明の放射線防護剤は:アスコルビン酸,パラアミノ安息香酸(即ち,4-アミノ安息香酸),ゲンチシン酸(即ち,2,5-ジヒドロキシ安息香酸)および上述の生体適合性陽イオンとのそれらの塩,から適当に選ばれる。好ましい放射線防護剤はアスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウムである。本発明の放射線防護剤は市販で入手可能であり,例えばUSPのアスコルビン酸注射液は,Abbott Laboratoriesを含む数多くの供給業者から市販で入手可能である。」

4.対比

刊行物Aは,「[Tc-99m]TRODAT-1」の「製剤」に関するものであり(摘記ア),同刊行物Aには,これを調製するためのキット製剤について,「≧90%の放射標識化収率をもたらすような様々な成分の適切な量を特定した」ところ,「最も一貫してかつ信頼できる製剤は,10 μgのTRODAT-1,32 μgのSnCl_(2),10 mgのグルコヘプトン酸ナトリウム及び840 μgのEDTA二ナトリウムが含まれるものであった」ことが記載される(摘記イ)とともに,[Tc-99m]TRODAT-1の化学構造が図示されている(摘記エ)。
これらの記載から,刊行物Aには,「[Tc-99m]TRODAT-1を含む組成物の製剤」の発明が記載されているといえる(以下,「引用発明」という。)。
そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,刊行物Aに記載された[Tc-99m]TRODAT-1の化学構造(摘記エ)からみて,引用発明における[Tc-99m]TRODAT-1は,テクネチウムの放射性同位体^(99m)Tcの金属錯体であって,その配位子は,トロパン構造にN_(2)S_(2)の四座キレート剤が結合されたコンジュゲートであり,また,テクネチウムと四座キレート剤とは中性金属錯体を形成しているものと認められる。
そうすると,本願発明と引用発明は,いずれも,

「(i)コンジュゲートにキレート化したテクネチウムの放射性同位体の金属錯体であって、上記コンジュゲートがトロパンに結合した四座キレート剤を含み、上記四座キレート剤が上記テクネチウムの放射性同位体と中性金属錯体を形成している金属錯体
を含む組成物であって、
前記四座キレート剤が、(i)N_(2)S_(2)であるドナーセットを有する、組成物。」

であることで一致し,以下の点で相違している。

[相違点]本願発明では,組成物が,「(ii)アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸又はゲンチシン酸或いはそれらの生体適合性陽イオンとの塩を含む1種以上の放射線防護剤」も含む「安定化組成物」であることが特定されているのに対し,引用発明では,それらが特定されていない点。

5.判断

(1)相違点について

刊行物Bには,「(i)^(99m)Tc金属錯体」及び「(ii)アスコルビン酸,パラ-アミノ安息香酸もしくはゲンチシン酸または生体適合性陽イオンとのそれらの塩を含む放射線防護剤」を含む「安定化放射性医薬組成物」に関する発明が記載されており(摘記ア),さらに,「^(99m)Tc金属錯体」としては,「BAT」のような「ジアミンジチオール供与体セット」を有する「N2S2配位子」等の「キレート化剤」との配位錯体が含まれ(摘記オ?キ),また,生物学的標的分子とコンジュゲートしてもよいこと(摘記ク)が記載されるとともに,「放射線防護剤」が「水の放射線分解に起因する酸素含有フリーラジカルのような高反応性のフリーラジカルを捕捉することにより,酸化還元プロセスのような分解反応を阻害する化合物」である(摘記イ及びケ)旨について記載されており,放射線分解の問題のために,放射線防護剤が含有されている旨(摘記ウ)についても記載されている。
ここで,刊行物Aと刊行物Bとは,いずれも,^(99m)Tc金属錯体を含む放射性医薬品に関するものであり,しかも,刊行物Bに記載の「^(99m)Tc金属錯体」は,引用発明の「[Tc-99m]TRODAT-1」を包含する概念のものとなっているから,両刊行物に記載の技術は,同一の技術分野に属するものである。また,刊行物Aには,「標識化効率の最適化する一連の研究を実施」して,「≧90%の放射標識化収率」をもたらすような条件を検討したところ,新製剤は「90%より大きい放射化学的純度で調製できる」ことが記載されており(摘記イ),刊行物Bには,「式(I)のパラベン抗菌性保存剤を^(99m)Tc放射性医薬製剤中に放射線防護剤と一緒に使用」することが,「^(99m)Tc薬剤の放射化学的純度(RCP)」に「悪影響を伴うことなく,可能となる」ということが記載されている(摘記エ)から,両刊行物に記載の技術は,いずれも,放射化学的純度は高いものとするという共通の課題を背景とするものであるといえる。
そうすると,刊行物Aに記載された「[Tc-99m]TRODAT-1を含む組成物の製剤」に係る引用発明おいても,刊行物Bに記載されるような,水の放射線分解に起因する酸素含有フリーラジカルのような高反応性のフリーラジカルを捕捉して分解反応を抑制するために,所定の放射線防護剤を配合するという技術を採用して「安定化組成物」とすることは,当業者が容易になし得たことである。

(2)効果について

刊行物Aには,「≧90%の放射標識化収率をもたらすような様々な成分の適切な量を特定した」結果,「最も一貫してかつ信頼できる製剤」について記載されている(摘記イ)。「最も一貫してかつ信頼できる」ということは,低い放射標識化収率となったり(これは低い放射化学的純度をもたらす),使用に不適となったりするようなことが最も少ないということを意味することが明らかであるが,この意味において,引用発明は,バラツキ又は変動が少なく,一定の「再現性」を有するものである。また,刊行物Aには,「この新しいキットで調製された[Tc-99m]TRODAT-1は,室温で6時間安定であった」との記載や,「この凍結乾燥1バイアルキット製剤を用いると,[Tc-99m]TRODAT-1が,90%より大きい放射化学的純度で調製できる」との記載がある(摘記キ)ことから,引用発明は,放射化学的純度に関しても一定の「安定性」を有するものであるといえる。
さらに,刊行物Bには,放射線分解の問題に対して,放射線防護剤を含有させることが記載され(摘記ウ),しかも,放射線分解が,放射化学的純度の悪化要因の一つであることは当業者に明らかであるから,刊行物Bに記載の技術も,放射化学的純度を良好にする効果を有するものである。
そうすると,本願明細書0013段落に記載されるような,「初期放射化学的純度(RCP)の再現性が向上し、しかも再構成後の安定性が向上しており、再構成して6時間後に85?90%のRCPが保持される。」等の効果は,刊行物A及び刊行物Bから,当業者が予測可能なものである。
請求人は,審判請求書において,本願明細書に記載される実施例3を参照しつつ,「本願発明の処方Pのキットでは、溶出条件によるRCPの変動が非常に小さく、再構成後のRCPの経時的低下も非常に小さい」という効果を主張しているので,検討する。
ジェネレータからの溶出条件と放射化学的純度との関係に関しては,放射化学的純度の不足は,ウェット・カラムのジェネレータの長い溶出間隔後の最初の溶出液の使用と関連していること,及び,ウェット・カラム内の水が長期間放射線にさらされることにより放射線分解されてできた過酸化水素やフリーラジカルによると考えられることが,本願優先日前における当業者の技術常識であった(本願明細書0012段落で引用される「Nuclear Medicine Biology, 1996, Vol.23, p.599-603」を参照。)。このような溶出条件とRCPとの関係に関する技術常識を考慮すれば,当業者にとって,放射線防護剤を含有させることによる放射化学的純度に対する効果は,異なる溶出条件であっても有効に作用することが明らかである。したがって,溶出間隔が長かったり,調製後使用までの時間が長かったり等,過酸化水素及びフリーラジカルの量やそれらとの接触時間の面で過酷な条件である程,放射化学的純度の低下が大きくなることが容易に想定される中では,放射線防護剤を含有させれば,その大きな低下が小さくなって変動幅も小さくなることも当業者に自明である。
よって,請求人が主張する上記効果も,当業者にとって予測可能な範囲内のものである。

(3)請求人の主張について

ア.請求人は審判請求書等において,医薬品では,副作用等を避けるためにも添加剤は必要最小限に止め,不必要な添加剤はできるだけ添加しないことが求められているから,安定であると従前認識されていたものについてまで安定化のための安定剤を添加することの具体的動機もしくは妥当性を認めることはできない旨を主張する。
しかしながら,患者に不必要な影響を及ぼすことなく良好な画像を得るためには,放射化学的純度の安定性は,高ければ高いほど望ましいものであることは,当業者に明らかである。その上で,安定性を高めるために添加することとなる放射線防護剤は,刊行物Bに記載されるように「USPのアスコルビン酸注射液」等の所定の安全性が確認された市販のものである(摘記ケ)から,そのような放射線防護剤が加えられると,放射化学的純度の安定性が高まるというのであれば,当業者は,安定剤の添加を合理的で妥当なものとして,添加をしようと動機付けられるのが自然というべきである。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

イ.また,請求人は審判請求書等において,刊行物A及びBのいずれにも,本願発明の課題が示唆されていない旨を主張する。
しかしながら,刊行物Aにおいては,「10 μg(23.4 nmol)のTRODAT-1の標識化に用いるTc-99mの最大放射活性は,30 mCi(1110 MBq)であり,……。30 mCiより大きい担体無添加[Tc-99m]過テクネチウム酸により標識化が行われた場合は,RCPは<90%を下回るほどに減少した」と記載され(摘記オ),どのような放射能レベル又は放射能濃度が,RCP(すなわち,放射化学的純度(摘記ウ))をより良いものとするかについて言及しているとともに,この記載からは30 mCi(すなわち約1.11 GBq)より大きい担体無添加[Tc-99m]過テクネチウム酸を用いる場合は放射化学的純度をさらに高める必要があったと解される。また,刊行物Aには,「[Tc-99m]TRODAT-1標識化への反応体積の影響をさらに調査するために,凍結乾燥されたキットを,様々な体積([Tc-99m]過テクネチウム酸を含む0.5?2.0 mL生理食塩水)で再構成した。」と記載され(摘記カ),再構成体積と放射化学的純度との関係についても検討したことが示されている。
これらの記載からみて,本願明細書0013段落において,「従来技術では認識されていない」としている「ある条件下の放射能レベル、放射能濃度又は再構成体積で放射性金属トロパンコンジュゲートのRCPが不十分なものとなるという問題」は,刊行物Aに記載されているといえる。
さらに,刊行物Aには,「もし,この改良キットにおける標識化収率が一貫していることが示されれば,最終的には,RCP測定の最後の品質管理段階はもはや必要でなくなるだろう。」(摘記キ)と記載されるように,放射化学的純度(RCP)の品質管理の面から,それに密接に関連する標識化収率に,一貫性,すなわち,変動又はバラツキの無さが求められていることが示されているし,しかも,上記(2)の項目で述べたとおり,溶出条件がRCPに影響を及ぼすことが技術常識であったことも考慮すれば,ジェネレータ溶出条件によるRCPの変動の課題についても,刊行物Aに示唆されていたというべきである。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

(5)小括

よって,本願請求項1に係る発明は,刊行物A及び刊行物Bに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の点について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-03 
結審通知日 2013-07-09 
審決日 2013-07-22 
出願番号 特願2006-525001(P2006-525001)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
中村 浩
発明の名称 改良放射性金属錯体組成物  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
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