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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1282591
審判番号 不服2013-17381  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-09 
確定日 2013-12-25 
事件の表示 特願2009- 24871「SOI基板の表面処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日出願公開、特開2009-218579、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年2月5日(優先権主張平成20年2月14日)の出願であって、平成25年1月24日付けの拒絶理由通知に対して、同年3月29日に手続補正書及び意見書が提出され、同年6月3日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月9日に審判請求がなされるとともに、同日に手続補正書が提出されたものである。

2.平成25年9月9日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
本件補正は、補正前の明細書の段落【0007】を、補正後の明細書の段落【0007】に補正するものであって、平成25年3月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の内容と整合性をとるためのものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしていることは明らかである。
したがって、本件補正は、適法になされたものである。

1.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下それぞれ「本願第1発明」?「本願第6発明」という。)は、平成25年9月9日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
SOI基板の表面処理方法であって、少なくとも、
イオン注入層を形成したシリコンウェーハをドナーウェーハとし、その後前記ドナーウェーハとハンドルウェーハの少なくとも一方の貼り合わせ面にプラズマ活性化処理を行ってから貼り合わせ、しかる後に、350℃以下の熱処理で結合強度を増したものとし、その後、機械的衝撃を前記イオン注入層に加えて前記イオン注入層で剥離することにより前記SOI基板を準備する工程と、
前記SOI基板の表面をプラズマを用いたPACE法、又は、ガスクラスターイオンビームを用いたGCIB法によって処理する工程と、
前記処理を施したSOI基板を、アルゴン雰囲気中、又は、水素を4体積%以下含む不活性ガス雰囲気中で熱処理してアニールする工程とを有し、
前記アニール工程において、前記基板の表面の粗さをRMSで0.3nm(10μm×10μm範囲)以下となるようにし、
前記SOI基板のハンドルウェーハを、石英、ガラス、サファイア、SiC、アルミナ、窒化アルミのいずれかとすることを特徴とするSOI基板の表面処理方法。
【請求項2】
前記アニール工程において、前記熱処理を900℃以上1250℃以下の温度で施すことを特徴とする請求項1に記載のSOI基板の表面処理方法。
【請求項3】
前記アニール工程において、前記不活性ガスを、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSOI基板の表面処理方法。
【請求項4】
イオン注入層を形成したシリコンウェーハをドナーウェーハとし、その後前記ドナーウェーハとハンドルウェーハの少なくとも一方の貼り合わせ面にプラズマ活性化処理を行ってから貼り合わせ、しかる後に、350℃以下の熱処理で結合強度を増したものとし、その後、機械的衝撃を前記イオン注入層に加えて前記イオン注入層で剥離することにより半導体薄膜層を準備する工程と、
前記半導体薄膜層の表面をプラズマを用いたPACE法、又は、ガスクラスターイオンビームを用いたGCIB法によって処理する工程と、
アルゴン雰囲気中、又は、水素を4体積%以下含む不活性ガス雰囲気中で熱処理してアニールする工程とを含み、
前記アニール工程において、前記半導体薄膜層の表面の粗さをRMSで0.3nm(10μm×10μm範囲)以下となるようにし、
前記ハンドルウェーハを、石英、ガラス、サファイア、SiC、アルミナ、窒化アルミのいずれかとする貼り合わせウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記アニール工程において、前記熱処理を900℃以上1250℃以下の温度で施すことを特徴とする請求項4に記載の貼り合わせウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記アニール工程において、前記不活性ガスを、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかとすることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の貼り合わせウェーハの製造方法。」

4.引用刊行物に記載された事項及び発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開2005-340622号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図1ないし3とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与したものである(以下、同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、水素イオン注入技術を用いて作製される酸化膜上に活性層を設けたSOI(Silicon On Insulator)基板とこの基板を製造する方法に関するものである。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、SOI基板11は、シリコン単結晶ウェーハからなる支持基板12と、支持基板12上に第1酸化膜21を介して貼合せられるシリコン単結晶ウェーハからなる活性層13とを備える。上記第1酸化膜21は電気絶縁性を有するシリコン酸化膜(SiO_(2)膜)であり、活性層13の表面のみならず裏面及び側面を含む全面に形成される。支持基板12には上記酸化膜は形成されない。また活性層13の表面は、後述するプラズマエッチング法で生成した反応性ラジカル28(図2)のみを選択的に用いてエッチングされる。活性層13の厚さは10?200nm、好ましくは10?70nmの範囲に形成されかつ活性層13全体における膜厚の差は1.5nm以下、好ましくは1.0nm以下に形成される。ここで、活性層13の厚さを10?200nmの範囲に限定したのは、10nm未満では凸凹の許容値が活性層13の厚さの約1/10と考えられており1nm以下にする必要があるけれども現在のプラズマエッチングでは対応できず、200nmを越えると逆に凸凹の許容値が大きくなり過ぎて活性層13の膜厚を均一化できないからである。また活性層13全体における膜厚の差を1.5nm以下に限定したのは、1.5nmを越えると完全欠乏型SOIデバイス構造においてはSOI基板11の面内の各チップでデバイス動作が安定しないからである。
【0009】
このように構成されたSOI基板11の製造方法を説明する。
先ずシリコン単結晶ウェーハからなる活性層用基板14の表面のみならず裏面及び側面を含む全面に熱酸化により電気絶縁性を有するシリコン酸化膜(SiO_(2)膜)からなる第1酸化膜21を形成する(図1(a))。この第1酸化膜21は100?300nm、好ましくは120?160nmの厚さになるように形成される。ここで、第1酸化膜21の厚さを100?300nmの範囲に限定したのは、100nm未満では貼合せ処理及び貼合せ強結合処理において高温時の酸化膜の流動性を使ったボイド消滅という効果が小さくなりその結果ボイドが発生し易くなり、300nmを越えると埋込み酸化膜の均一性がデバイス要求より劣化するからである。なお、上記第1酸化膜(SiO_(2)膜)を熱酸化ではなくCVD法により活性層用基板の表面にのみ形成してもよい。次いで上記活性層用基板14の表面から水素イオンを4×10^(16)/cm^(2)?10×10^(16)/cm^(2)のドーズ量及び20?200keVの加速エネルギでイオン注入する。これにより活性層用基板14内部にイオン注入領域16を形成する(図1(b))。ここで、水素イオンのドーズ量を4×10^(16)/cm^(2)?10×10^(16)/cm^(2)の範囲に限定したのは、4×10^(16)/cm^(2)未満では劈開できず、10×10^(16)/cm^(2)を越えると水素イオン注入時に活性層用基板14表面の自己剥離が発生しパーティクルが発生し易くなるからである。また加速エネルギを20?200keVの範囲に限定したのは、20keV未満ではプラズマエッチングのエッチング代を100nm以上とると活性層が薄くなり過ぎ、200keVを越えると特殊なイオン注入装置が必要になるからである。一方、上記活性層用基板14と同一表面積を有するシリコン単結晶ウエーハからなる支持基板12を用意する(図1(c))。この支持基板12には上記酸化膜を形成しない。上記活性層用基板14を第1酸化膜21を介して支持基板12に重ね合せて密着させる(図1(d))。この状態でこれらの基板12,14を窒素雰囲気中で400?800℃、好ましくは450?600℃に、1?30分間、好ましくは10?30分間保持して第1熱処理を行う。これにより活性層用基板14が水素イオンの注入ピーク位置に相当するイオン注入領域16のところで割れて、上部の厚肉部17と下部の薄い活性層13に分離する(図1(e))。下部の活性層13は第1酸化膜21を介して支持基板12に密着し貼合せ基板18となる(図1(f))。
【0010】
次にこの貼合せ基板18の活性層13全体における膜厚のばらつきを膜厚測定器により測定する。この膜厚測定器は、ハロゲンランプを光源とし0.4?0.9μm領域の狭帯域フィルタを使用して貼合せ基板に照射するフィルタ部と、1024×1024ピクセルのCCDカメラにより貼合せ基板全体を一括処理するセンサ部と、予め作成された反射スペクトラムカーブのライブラリと、このライブラリと取込まれた各波長の反射スペクトラムを比較するメリット関数を有する演算部とにより構成される。ハロゲンランプよりフィルタホイールを通過した各波長の光は、集光ミラーにより拡大され貼合せ基板の表面上に照射される。垂直入射により、照射光は偏光並びに貼合せ基板上での結像を避けることができる。反射光集光部は貼合せ基板の周縁のエッジ部まで明確に捉えるために貼合せ基板の直径より僅かに大きくなっている。
上記膜厚測定器を用いて活性層13の膜厚を測定することにより、活性層13の膜厚のばらつきを測定できる。上記活性層13の膜厚を測定するときに、活性層13全体における膜厚のばらつきを、活性層13の中心から活性層13周縁まで測定する、即ち活性層13の半径をRとし、膜厚を測定しない周縁のリング幅をtとするとき、活性層13の半径(R-t)の範囲内で膜厚を測定する。このリング幅tは1?3mm、好ましくは1?2mmである。
【0011】
活性層13の膜厚を測定した後、プラズマエッチング法により上記膜厚データから膜厚の大きい部分を多くエッチングし膜厚の小さい部分を少なくエッチングして活性層13を上記所定の厚さまでエッチングする(図1(h))。このプラズマエッチング法は、図2及び図3に示すように、SF_(6)、Ar/H_(2)、N_(2)、O_(2)等のエッチングガスを放射筒23に導入するとともに、マイクロ波発生装置24により発生した周波数2.45GHzのマイクロ波を導波管26を通って上記放射筒23に導き、上記エッチングガスをマイクロ波によりプラズマ化して、反応性イオン27及び反応性ラジカル28を生成し、これらのうち反応性ラジカル28のみをエッチャントとして噴射ノズル29から噴射することにより活性層13表面の局部的なエッチングを行うDCP(Dry Chemical Planarization)法である。」
「【0014】
次に上記表面が平坦化された貼合せ基板18を酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス雰囲気中で900?1200℃、好ましくは1000?1150℃に、30?180分間、好ましくは60?120分間保持する第2熱処理を行って、活性層13と支持基板12との第1酸化膜21を介する貼合せを強固にする(図1(j))。ここで、第2熱処理温度を900?1200℃の範囲に限定したのは、900℃未満では十分な貼合せ強度が得られず、1200℃を越えるとスリップが発生し易いからである。また第2熱処理時間を30?180分間の範囲に限定したのは、30分間未満では十分な貼合せ強度が得られず、180分間を越えると十分な貼合せ強度が既に得られており徒らに生産効率を低下させるだけだからである。
【0015】
更に第2熱処理により活性層13表面を含む貼合せ基板18の裏面及び側面に第2酸化膜22が形成されており、この貼合せ基板18を洗浄液に浸漬することにより上記第2酸化膜22をエッチングして除去するとともに貼合せ基板18を洗浄する。上記洗浄液としては、0.1重量%を越えかつ50重量%以下、好ましくは0.2重量%?10重量%の有機酸と、0.005?0.25重量%、好ましくは0.005?0.10重量%のフッ酸を含む洗浄液を用いることが好ましい。また有機酸としては、クエン酸、コハク酸、エチレンジアミン四酢酸、酒石酸、サリチル酸、シュウ酸、酢酸又はギ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機酸が挙げられる。ここで、有機酸の濃度を0.1重量%を越えかつ50重量%以下に限定したのは、0.1重量%以下では有機酸が少な過ぎて洗浄液中に遊離した金属不純物が有機酸の分子と錯体を形成できず、第2酸化膜22上の金属不純物が活性層13表面に再付着してしまい、50重量%を越えると第2酸化膜22上の微粒子の活性層13表面への再付着量が増加してしまうからである。またフッ酸の濃度を0.005?0.25重量%の範囲に限定したのは、0.005重量%未満では活性層13表面の第2酸化膜22の剥離作用に乏しく、0.25重量%を越えると洗浄液がpHが2未満の強酸となり洗浄液中の有機酸の解離が抑制され、その錯化作用が低下するとともに、微粒子の表面電位がプラスになり、微粒子が活性層13表面に再付着してしまうからである。第2熱処理を行った貼合せ基板18を上記洗浄液に浸漬すると、フッ酸(HF)により第2酸化膜22が除去され、この第2酸化膜22上の微粒子及び金属不純物、並びに第2酸化膜22中に含まれた金属不純物が洗浄液中に移行する。洗浄液が0.005?0.25重量%のフッ酸と0.1重量%を越えかつ50重量%以下の有機酸を含んだpH4以下の酸性溶液であるため、微粒子の表面は活性層13表面と同じマイナスに荷電される。また液中に遊離した金属不純物は有機酸の分子と錯体を形成し、金属錯塩になる。この金属錯塩の錯イオンはマイナスイオンである。この結果、微粒子も金属不純物もそれぞれの表面電位が活性層13の表面電位と同じマイナスになるため、活性層13への付着又は再付着が防止される。洗浄液から活性層13を引上げると、清浄化されたSOI基板11が得られる(図1(k))。」

そうすると、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「シリコン単結晶ウェーハからなる活性層用基板14の全面にシリコン酸化膜からなる第1酸化膜21を形成し、前記活性層用基板14の表面から水素イオンをイオン注入することにより前記活性層用基板14内部にイオン注入領域16を形成し、シリコン単結晶ウエーハからなる支持基板12を用意し、前記活性層用基板14を前記第1酸化膜21を介して前記支持基板12に重ね合せて密着させ、前記支持基板12及び前記活性層用基板14を窒素雰囲気中で400?800℃に、1?30分間保持して第1熱処理を行うことにより、前記活性層用基板14が前記イオン注入領域16のところで割れて、上部の厚肉部17と下部の薄い活性層13に分離することにより、前記活性層13が前記第1酸化膜21を介して前記支持基板12に密着した貼合せ基板18を作成し、
前記貼合せ基板18の前記活性層13全体における膜厚のばらつきを測定し、その後、プラズマエッチング法により前記膜厚のばらつきのデータから前記膜厚の大きい部分を多くエッチングし前記膜厚の小さい部分を少なくエッチングして前記活性層13を所定の厚さまでエッチングし、
表面が平坦化された前記貼合せ基板18を酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス雰囲気中で900?1200℃に、30?180分間保持する第2熱処理を行って、前記活性層13と前記支持基板12との前記第1酸化膜21を介する貼合せを強固にし、
前記貼合せ基板18を洗浄液に浸漬することにより、前記第2熱処理により前記活性層13表面を含む前記貼合せ基板18の裏面及び側面に形成された第2酸化膜22をエッチングして除去するとともに前記貼合せ基板18を洗浄することにより、清浄化されたSOI基板11を得る、
SOI基板11の製造方法。」

5.本願第1発明と刊行物発明との対比・判断
(5-1)刊行物発明の「前記活性層13が前記第1酸化膜21を介して前記支持基板12に密着した貼合せ基板18を作成」することは、本願第1発明の「SOI基板を準備する工程」に相当する。

(5-2)刊行物発明の「前記貼合せ基板18の前記活性層13全体における膜厚のばらつきを測定し、その後、プラズマエッチング法により前記膜厚のばらつきのデータから前記膜厚の大きい部分を多くエッチングし前記膜厚の小さい部分を少なくエッチングして前記活性層13を所定の厚さまでエッチング」することと、本願第1発明の「前記SOI基板の表面をプラズマを用いたPACE法、又は、ガスクラスターイオンビームを用いたGCIB法によって処理する工程」は、「前記SOI基板の表面をプラズマを用いたPACE法によって処理する工程」という点で共通する。

(5-3)刊行物発明の「表面が平坦化された前記貼合せ基板18を酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス雰囲気中で900?1200℃に、30?180分間保持する第2熱処理を行って、前記活性層13と前記支持基板12との前記第1酸化膜21を介する貼合せを強固に」することと、本願第1発明の「前記処理を施したSOI基板を、アルゴン雰囲気中、又は、水素を4体積%以下含む不活性ガス雰囲気中で熱処理してアニールする工程」とは、「前記処理を施したSOI基板を、アルゴン雰囲気中で熱処理してアニールする工程」という点で共通する。

(5-4)刊行物発明において、「前記貼合せ基板18の前記活性層13全体における膜厚のばらつきを測定し、その後、プラズマエッチング法により前記膜厚のばらつきのデータから前記膜厚の大きい部分を多くエッチングし前記膜厚の小さい部分を少なくエッチングして前記活性層13を所定の厚さまでエッチング」することは、「貼合せ基板18」の「活性層13」の表面を処理することであるから、刊行物発明の「SOI基板11の製造方法」は、本願第1発明の「SOI基板の表面処理方法」に相当する。

(5-5)そうすると、本願第1発明と刊行物発明とは、
「SOI基板の表面処理方法であって、
SOI基板を準備する工程と、
前記SOI基板の表面をプラズマを用いたPACE法によって処理する工程と、
前記処理を施したSOI基板を、アルゴン雰囲気中で熱処理してアニールする工程とを有するSOI基板の表面処理方法。」
である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点1)本願第1発明では、「イオン注入層を形成したシリコンウェーハをドナーウェーハとし、その後前記ドナーウェーハとハンドルウェーハの少なくとも一方の貼り合わせ面にプラズマ活性化処理を行ってから貼り合わせ、しかる後に、350℃以下の熱処理で結合強度を増したものとし、その後、機械的衝撃を前記イオン注入層に加えて前記イオン注入層で剥離することにより」、「SOI基板を準備する」のに対して、刊行物発明では、「前記活性層13が前記第1酸化膜21を介して前記支持基板12に密着した貼合せ基板18を作成」する具体的工程について、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)本願第1発明では、「前記アニール工程において、前記基板の表面の粗さをRMSで0.3nm(10μm×10μm範囲)以下となるように」するのに対し、刊行物発明では、「活性層13」の表面の粗さについて、特定がなされていない点。

(相違点3)本願第1発明では、「前記SOI基板のハンドルウェーハを、石英、ガラス、サファイア、SiC、アルミナ、窒化アルミのいずれかとする」のに対し、刊行物発明では、「支持基板12」が「シリコン単結晶ウエーハ」からなる点。

(5-6)判断
上記相違点のうち、相違点2について検討する。
刊行物発明では、「前記第2熱処理により前記活性層13表面を含む前記貼合せ基板18の裏面及び側面に」「第2酸化膜22」が「形成され」ていることから、「第2の熱処理」は、「前記活性層13と前記支持基板12との前記第1酸化膜21を介する貼合せを強固に」するという目的でなされるものであって、それ以上に、「活性層13」の表面の粗さ(PMS)を改善することまでも意図してなされるものではないものと認められる。すなわち、「第2の熱処理」により、「活性層13」の表面には「第2酸化膜22」が形成され、その後、洗浄液に浸漬することより「第2酸化膜22」をエッチング除去していることから、「第2の熱処理」後の「酸化膜22」が形成された状態での「活性層13」、あるいは、「第2酸化膜22」がエッチング除去された状態での「活性層13」において、その表面の粗さが改善されているかどうかは明らかでないものと認められる。
そうすると、刊行物発明において、「第2の熱処理」の条件を適宜設定することにより、本願第1発明のように、「前記基板の表面の粗さをRMSで0.3nm(10μm×10μm範囲)以下となるように」することは、当業者といえども想到し得ず、容易になし得たこととは言えない。

(5-7)まとめ
以上の通りであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本願第1発明は、刊行物発明に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6.本願第4発明と刊行物発明との対比・判断
(6-1)刊行物発明の「活性層13」は、本願第4発明の「半導体薄膜層」に相当するから、刊行物発明の「前記活性層13が前記第1酸化膜21を介して前記支持基板12に密着した貼合せ基板18を作成」することは、本願第4発明の「半導体薄膜層を準備する工程」に相当する。

(6-2)刊行物発明の「前記貼合せ基板18の前記活性層13全体における膜厚のばらつきを測定し、その後、プラズマエッチング法により前記膜厚のばらつきのデータから前記膜厚の大きい部分を多くエッチングし前記膜厚の小さい部分を少なくエッチングして前記活性層13を所定の厚さまでエッチング」することと、本願第4発明の「前記半導体薄膜層の表面をプラズマを用いたPACE法、又は、ガスクラスターイオンビームを用いたGCIB法によって処理する工程」は、「前記半導体薄膜層の表面をプラズマを用いたPACE法によって処理する工程」という点で共通する。

(6-3)刊行物発明の「表面が平坦化された前記貼合せ基板18を酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス雰囲気中で900?1200℃に、30?180分間保持する第2熱処理を行って、前記活性層13と前記支持基板12との前記第1酸化膜21を介する貼合せを強固に」することと、本願第4発明の「アルゴン雰囲気中、又は、水素を4体積%以下含む不活性ガス雰囲気中で熱処理してアニールする工程」とは、「アルゴン雰囲気中で熱処理してアニールする工程」という点で共通する。

(6-4)刊行物発明の「SOI基板11の製造方法」は、本願第4発明の「貼り合わせウェーハの製造方法」に相当する。

(6-5)そうすると、本願第4発明と刊行物発明とは、
「半導体薄膜層を準備する工程と、
前記半導体薄膜層の表面をプラズマを用いたPACE法によって処理する工程と、
アルゴン雰囲気中で熱処理してアニールする工程とを含む貼り合わせウェーハの製造方法。」
である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点4)本願第4発明では、「イオン注入層を形成したシリコンウェーハをドナーウェーハとし、その後前記ドナーウェーハとハンドルウェーハの少なくとも一方の貼り合わせ面にプラズマ活性化処理を行ってから貼り合わせ、しかる後に、350℃以下の熱処理で結合強度を増したものとし、その後、機械的衝撃を前記イオン注入層に加えて前記イオン注入層で剥離することにより半導体薄膜層を準備する」のに対して、刊行物発明では、「前記活性層13が前記第1酸化膜21を介して前記支持基板12に密着した貼合せ基板18を作成」する具体的工程について、そのような特定がなされていない点。

(相違点5)本願第4発明では、「前記アニール工程において、前記半導体薄膜層の表面の粗さをRMSで0.3nm(10μm×10μm範囲)以下となるように」するのに対し、刊行物発明では、「活性層13」の表面の粗さについて、特定がなされていない点。

(相違点6)本願第4発明では、「前記ハンドルウェーハを、石英、ガラス、サファイア、SiC、アルミナ、窒化アルミのいずれかとする」のに対し、刊行物発明では、「支持基板12」が「シリコン単結晶ウエーハ」からなる点。

(6-6)判断
上記相違点のうち、相違点5について検討する。
相違点5は、本願第1発明と刊行物発明の相違点2と同じであるから、上記(5-6)で述べたのと同様、刊行物発明において、「第2の熱処理」の条件を適宜設定することにより、本願第4発明のように、「前記アニール工程において、前記半導体薄膜層の表面の粗さをRMSで0.3nm(10μm×10μm範囲)以下となるように」することは、当業者が容易になし得たこととは言えない。

(6-7)まとめ
以上の通りであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本願第4発明は、刊行物発明に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

7.むすび
以上のとおり、本願第1発明及びそれを引用する本願第2、3発明並びに本願第4発明及びそれを引用する本願第5、6発明は、刊行物発明に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、原査定の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-11 
出願番号 特願2009-24871(P2009-24871)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 俊哉  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小野田 誠
加藤 浩一
発明の名称 SOI基板の表面処理方法  
代理人 有原 幸一  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  

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