• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1282616
審判番号 不服2012-15393  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-08 
確定日 2013-12-19 
事件の表示 特願2005-373779「表示装置及び表示方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年7月12日出願公開、特開2007-178481〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本件出願」という。)は、平成17年12月27日にされた特許出願である。そして、平成23年10月3日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた。さらに、平成24年3月5日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされたが、この補正は、同年4月27日付けの決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定がされた。査定の謄本は、同年5月8日に送達された。
これに対して、同年8月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。その後、当審の平成25年5月10日付け審尋に対し、同年7月16日付け回答書が提出された。

第2 本件補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成23年10月3日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含む。なお、下線は、請求人が付したものであり、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】
各画素が自発光素子によって構成された表示手段と、
前記各画素の発光履歴を記憶する履歴記憶手段と、
前記発光履歴に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段と
を備えることを特徴とする表示装置。」

(本件補正後)
「【請求項1】
各画素が有機EL(electro-luminescence)の自発光素子によって構成された表示手段と、
前記各画素の発光履歴を記憶する履歴記憶手段と、
前記発光履歴から有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段と、
を備えることを特徴とする表示装置。」

本件補正のうち、請求項1についての補正は、「自発光素子」を「有機EL(electro-luminescence)の自発光素子」に限定し、「発光履歴に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段」を、「発光履歴から有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段」に限定するものである。
したがって、本件補正は、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.刊行物に記載された事項
以下に掲げる刊行物1及び2は、いずれも本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である。

刊行物1:特開2002-91373号公報
刊行物2:特開2003-280577号公報

(1)刊行物1
ア.刊行物1の記載
刊行物1には、以下の記載がある。

(ア)段落0001から0003まで
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は表示器の焼付防止装置に係り、より詳細には、主にPDP(プラズマディスプレイパネル)を対象にしたものであって、かつ、一定時間経過した後のPDP焼付防止の措置に関する。
【0002】
【従来の技術】表示器の画面焼き付きを防止する方法として、スクリーンセーバー又は全白表示等がある。…(略)…また、後者の全白表示はある程度長時間使用した後の焼付防止策であり、各蛍光体を均一の明るさである時間表示することにより、各蛍光体相互間の蛍光体消耗の進行の度合いを圧縮し、焼き付きを目立ちにくくするものである。ここで、後者の全白表示による方法を採用したPDP搭載の映像表示機器においては、その全白表示がPDPの蛍光体寿命を短縮化するという欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記欠点に鑑み、同欠点の改善を図った前記全白表示の変形ともいうべき表示器の焼付防止装置を提供することを目的とする。」

(イ)段落0011及び0012
「【0011】
【発明の実施の形態】以下、発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を参照して説明する。図1は本発明による表示器の焼付防止装置の一実施例を示す要部ブロック図、図2は抽出画素の説明図、図3は本発明の概念説明図、図4は図1を説明するための信号レベル設定の例を示す図である。以下、本発明の動作につき説明する。通常時、入力映像信号S1は映像信号処理部1において所定の処理が行われ、表示部(PDP等の表示器含む)2で表示される。また、映像信号処理部1からは、表示部2に対し供給する映像信号と同等の映像信号S2が出力される。同信号S2をもとに画像抽出部3において、表示時間の積算対象にする所定数の画素データを抽出する。この抽出画素の画面中の位置及び数については予め定めておく。
【0012】上記画素の抽出法として、例えば映像圧縮の間引き処理のようにディジタル化した映像データにつき、水平方向については(2n+1)画素当たり先頭の1画素を抽出し、垂直方向については(2n+1)ライン当たり1ライン抽出する。なお、nは1以上の整数である。図2はこの画素抽出を示したものである。同図は上記n=1としたものであり、水平方向については3画素当たり1画素を抽出し、垂直方向については3ライン当たり1ライン抽出したものである。上記抽出した画素データそれぞれごとに、同画素それぞれに対応する上記映像信号S2の持続時間(即ち表示時間)を表示時間検出部4により検出する。同検出した表示時間を抽出画素それぞれと対応させて積算メモリ部5に記憶する。以降、抽出画素それぞれの表示時間を検出し、同表示時間を積算メモリ部5において積算し、記憶する。なお、上記画像抽出部3、表示時間検出部4及び積算メモリ部5とを積算表示時間記憶手段とした。」

(ウ)段落0013
「【0013】一方、表示器2が焼き付き現象を発生する表示時間については事前に求めることが可能である。尤も、ここでの表示時間は信号のレベル(明るさ)により異なる性質のものであるので、信号のレベルを予め設定し、これを基準レベルとし、この基準レベルのもとで焼き付きを生じる通算表示時間を事前の実験等で目視確認等し、同通算表示時間にある安全係数を乗じた時間を上記表示時間とする。更に、上記基準レベルと他のレベルとの間の表示時間の換算についても事前に求めておく。これにより、上記焼き付き現象に対する信号レベルと表示時間との関連付けが可能となる。上記のようにして求めた表示時間を基準表示時間として基準表示時間メモリ部6に予め記憶させておく。」

(エ)段落0014及び0015
「【0014】前記積算メモリ部5に記憶された各画素ごとの積算表示時間と基準表示時間メモリ部6に記憶されている基準表示時間とを判別部7において監視し、いずれかの画素の積算表示時間が基準表示時間に至ったと判別されたときには、報知部8により報知し、ユーザに対し表示部2の焼き付き発生が間近であることを知らせる。…(略)…上記報知部8による報知があった場合、ユーザは設定部9により焼付防止機能を作動させる設定をする。同設定があった場合、制御部12は信号発生部10より以下説明の信号を発生させる。
【0015】前記報知部8による報知は、複数の画素の中で積算表示時間が基準表示時間に至った画素が発生したことを示すものであり、他の画素については基準表示時間以下である。この状態例を図3(A)に示す。同図において、横軸のD1、D2、D3…は画素を示し、縦軸は積算表示時間である。同図は、画素D2が基準表示時間に至り、その他の画素は基準表示時間以下であることを表している。従って、同図(B)の斜線部分で示すように、D1、D3及びD4等の積算表示時間をD2と実質的に同じ時間に揃えれば各画素の蛍光体消耗の進行度合いが同等となり、焼付現象を目立ちにくくすることとなる。そこで、信号発生手段10はある所要時間内で(B)図の斜線部分の表示時間となるようなレベルの信号を各画素(D2除く)ごとに発生する。このため、信号発生手段10については、基準表示時間に至った画素に対するその他の各画素の積算表示時間との差(積算表示時間差)を各画素ごとに演算する第1の演算部10aと、同積算表示時間差、信号レベル及び所要表示時間との関係を予めデータとして格納してなるデータベース10bと、前記第1の演算部10aによる演算データとデータベースのデータとから各画素の表示に要する信号レベルとその表示所要時間とを演算する第2の演算部10cと、同第2の演算部10cによる演算にもとづいたレベルの信号を発生する信号発生部10dとで構成する。なお、信号発生手段10における信号レベルと表示時間との関係は、前述の焼き付き現象に対する信号レベルと表示時間との関係に従う。」

(オ)段落0017
「【0017】上記に従い発生された信号発生部10dからの信号は映像信号処理部1を介し表示部2で表示される。この表示の所要時間は前記第2の演算部10cで演算された時間である。また、制御部12はこの所要表示時間のデータをもとにオンスクリーン処理部1aを介し表示部2にオンスクリーン表示させる。また、タイマ部11を設け、前記表示終了までの残時間を計時し表示するようにしてもよい。上記所要時間の表示終了により、各蛍光体消耗の進行度合いが略揃うことになり、焼付現象を目立ちにくくすることとなる。…(略)…」

イ.刊行物1に記載された発明(引用発明1)
(ア)刊行物1には、プラズマディスプレイパネルを搭載した映像表示機器をある程度長い時間にわたって使用した後のプラズマディスプレイパネルの焼き付きを防止する焼付防止装置が記載されている(上記ア.(ア))。

(イ)焼付防止装置は、プラズマディスプレイパネルを含む表示部2と画像抽出部3と表示時間検出部4と積算メモリ部5とを含む。画像抽出部3は、表示時間の積算対象にする所定数の抽出画素のそれぞれに供給される画素データを、映像信号S2から抽出する。表示時間検出部4は、各抽出画素について、画素データの表示時間を検出する。積算メモリ部5は、各抽出画素について、検出された表示時間を積算し、積算表示時間として記憶する。そして、画像抽出部3、表示時間検出部4及び積算メモリ部5は、積算表示時間記憶手段を構成する(上記ア.(イ))。

(ウ)焼付防止装置は、さらに基準表示時間メモリ部6を含む。基準表示時間メモリ部6は、表示部2に焼き付きが発生するまでの表示時間を、基準表示時間として記憶している(上記ア.(ウ))。

(エ)焼付防止装置は、さらに判別部7と報知部8とを含む。判別部7は、積算メモリ部5に記憶された各抽出画素の積算表示時間を監視し、いずれかの抽出画素の積算表示時間が、基準表示時間メモリ部6に記憶された基準表示時間に達すると、報知部8により、表示部2の焼き付き発生が間近であることをユーザに報知する(上記ア.(エ))。
以下では、便宜上、積算表示時間が基準表示時間に達した抽出画素を「焼き付き抽出画素」といい、焼き付き抽出画素以外の抽出画素を「非焼き付き抽出画素」という。

(オ)報知部8による報知があった場合、ユーザは、焼付防止機能を作動させる設定をする。この設定がされると、信号発生部10が発生させた信号が表示部2に供給される(上記ア.(エ)及び(オ))。この信号の信号レベル及び表示時間は、非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするようなものになっている(上記ア.(エ))。そして、この信号は、表示部2で表示され、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いが略揃うことにより、焼き付きが目立ちにくくなる(上記ア.(オ))。

(カ)以上のことを踏まえて、上記ア.(ア)から(オ)までの記載と、図1から3までに示された事項とを総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「プラズマディスプレイパネルを含む表示部2と、
表示時間の積算対象にする所定数の抽出画素のそれぞれに供給される画素データを映像信号S2から抽出する画像抽出部3と、各抽出画素について画素データの表示時間を検出する表示時間検出部4と、各抽出画素について検出された表示時間を積算し、積算表示時間として記憶する積算メモリ部5とで構成される積算表示時間記憶手段と、
積算メモリ部5に記憶された各抽出画素の積算表示時間を監視し、いずれかの抽出画素の積算表示時間が基準表示時間メモリ部6に記憶された基準表示時間に達すると、報知部8により表示部2の焼き付き発生が間近であることをユーザに報知する判別部7と、
を含む焼付防止装置であって、
報知部8による報知があった場合に、ユーザが焼付防止機能を作動させる設定をすると、非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするような信号レベル及び表示時間を有する信号が表示部2に供給されて表示される焼付防止装置。」

(2)刊行物2
ア.刊行物2の記載
刊行物2には、以下の記載がある。

(ア)段落0002から0004まで
「【0002】
【従来の技術】自己発光型の表示パネルとして、例えば、有機ELディスプレイがある。…(略)…有機ELディスプレイは、カラー画像を表示するために、それぞれ異なる有機材料を使って「R」、「G」、「B」の3原色を発光する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】有機ELディスプレイは、発光時間に応じてその有機材料に劣化が生じる。一般に、有機材料の劣化が進むと輝度が下がる。したがって、例えば、有機ELディスプレイに長期間にわたり同一の画像を表示すると、その画像中の輝度の高い部分の有機材料の劣化が、他の部分の劣化に比べて進行してしまう。特定の場所の劣化が著しく進むと、その場所の輝度が低下して画像に斑が生じてしまう(以下、こうした現象を「焼き付き」と表現する)。また、その劣化の進み方は、「R」、「G」、「B」のそれぞれの有機材料によっても異なる。
【0004】本発明者はそうした点に着目して本発明をなしたものであり、その目的は、焼き付きを防止する技術を提供することにある。…(略)…」

(イ)段落0005
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のある態様は、表示パネル管理装置である。この装置は、画像を格納する格納部と、前記画像を前記格納部から読み込む読込部と、表示パネルに前記画像を表示させる表示制御部と、前記表示パネルにおける画素毎の累積輝度値に基づいて前記格納部から読み込むべき画像を選択する選択部とを備える。「パネル」は、例えば、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイなどの自己発光型の表示ユニットである。「累積輝度値」は、画素の輝度を累積した値である。また、累積輝度値は、画素毎の発光時間や、画素毎の劣化状態を示す値であってもよい。要は、有機材料、無機材料などの発光材料の経時変化に伴う、画素毎の輝度の変化を把握するための値であればよい。前記選択部は、それぞれの画素における前記累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像を選択してもよい。」

(ウ)段落0011から0013まで
「【0011】
【発明の実施の形態】図1は、焼き付を防止するための画像(以下、単に画像、または画像データと表現する)を配信する画像配信システム10の構成図である。携帯端末20は、有機ELディスプレイである表示部28を有する。…(略)…携帯端末20は基地局14を介してネットワーク12に接続する。配信装置200は、ネットワーク12を介して、携帯端末20に画像を出力する。その画像は、表示部28におけるそれぞれの画素の累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像である。配信装置200は、少なくとも2種類以上の画像を携帯端末20に配信し、例えば、第1の画像の輝度に応じて、第1の画像の次に配信する第2の画像を選択してもよく、輝度の分布が異なる複数枚の画像を表示部28に表示することで、表示部28における画素の累積輝度値の偏りを防止できる。これにより、画素の劣化の程度を一様に平滑化できるので焼き付きを防止できる。
【0012】図2は、携帯端末20の内部構成図である。…(略)…
【0013】パネル管理部100は、通信部22を介して配信装置200から取得した画像を、例えば、所定の間隔で表示制御部26に供給する。これにより、表示部28には所定の時間間隔で、輝度の分布が異なる画像が表示される。例えば、パネル管理部100は、まず中心付近に輝度の高い図形が含まれる画像を表示部28に表示させ、次に、中心付近の輝度は低く、中心周辺部の輝度は高い図形が含まれる画像を表示部28に表示させる。これにより、表示部28のそれぞれの画素における累積輝度値に偏りを無くすことができる。」

(エ)段落0019から0021まで
「【0019】図5は、図2のパネル管理部100の内部構成図である。…(略)…
【0020】格納処理部102は、配信装置200から画像を受信して画像格納部104に格納するとともに、その画像の表示時間を表示時間格納部108に格納する。読込部106は画像格納部104から画像を読み込み、表示制御部26に出力する。これにより、画像格納部104に保持されている画像が表示部28に表示される。
【0021】読込部106は、画像を出力したことを指示部112に通知する。指示部112は、その通知を契機として、表示時間格納部108に保持されている表示時間が経過した後、それを通知部114に通知する。通知部114は、画像を変更することを要求するメッセージを表示させる。これにより、ユーザは焼き付きを防止するために画像を変更する必要があることを認識できる。…(略)…」

(オ)段落0024から0027まで
「【0024】図8は、第3の実施形態における配信装置200の内部構成図である。この配信装置200は、携帯端末20から表示パネルの各々の画素の累積輝度値を示すデータ(以下、累積データと表現する)を取得して、そのデータに基づいて画像を選択する構成を有する。累積データ受付部250は、携帯端末20から累積データを取得する。選択部252は、累積データに基づいて画像格納部202に保持されている画像から、携帯端末20の表示パネルにおける画素毎の累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像を選択する。送信部210は、その画像を携帯端末20に送信する。
【0025】図9は、第4の実施形態におけるパネル管理部100の内部構成図である。このパネル管理部100は、図8で説明した配信装置200に累積データを出力し、それに応じた画像を取得する構成を有する。輝度検出部136は、表示制御部26が表示部28に出力する表示制御信号に基づいて、表示部28の各画素における累積輝度値を検出する。その検出は例えば、画素毎の輝度値を累積することで行われてもよいし、閾値を定め、輝度がその閾値以上の場合に累積してもよい。輝度検出部136は、その検出結果を累積データとして累積データ格納部138に格納する。
【0026】指示部132は、所定の時間が経過すると画像を取得することを格納処理部130に指示する。その指示を受けて、格納処理部130は、画像の配信を配信装置200に要求する。このとき、格納処理部130は、累積データ格納部138から累積データを取得し、配信装置200に送信する。…(略)…
【0027】累積データは、表示制御信号に基づいて生成されるので、図2の処理部24が表示部28に表示させた内容による画素の劣化も考慮して焼き付きを防止する画像を配信装置200から取得できる。」

イ.刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)
刊行物2には、同一の画像を長時間にわたって有機ELディスプレイに表示すると、その画像中の輝度の高い部分の有機材料がそれ以外の部分の有機材料よりも劣化して輝度が低下するため、有機ELディスプレイに焼き付きが生じることが記載されている(上記ア.(ア))。
そして、この焼き付きを防止するため、有機ELディスプレイの各画素の累積輝度値に基づいて、各画素の累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像を選択し、その画像を有機ELディスプレイに表示させることが記載されている(上記ア.(イ))。
ここで、各画素の累積輝度値とは、有機材料の径時変化に伴う画素の輝度の変化を画素ごとに把握するための値であり、例えば有機ELディスプレイの各画素の輝度値を、画素ごとに累積したものである(上記ア.(イ)及び(オ))。
一方、各画素の累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像とは、例えば中心付近に輝度の高い図形が含まれる画像を表示していたのであれば、その画像とは反対に、中心付近の輝度が低く、中心周辺部の輝度が高い図形が含まれる画像のことである(上記ア.(ウ))。
刊行物2には、焼き付きを防止するために画像を変更する必要があることをユーザに認識させるために、画像の変更を要求するメッセージを有機ELディスプレイに表示することも記載されている(上記ア.(エ))。
以上のことをまとめると、刊行物2には、以下の技術事項(以下、「技術事項2」という。)が記載されている。

「有機ELディスプレイの焼き付きを防止するため、有機ELディスプレイの各画素の輝度値を画素ごとに累積して各画素の累積輝度値を求め、各画素の累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像を選択し、その画像を表示する必要があることを、その旨のメッセージを有機ELディスプレイに表示することにより、ユーザに認識させる。」

3.対比
本件補正発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりである。

(1)引用発明1の「プラズマディスプレイパネルを含む表示部2」と、本件補正発明の「各画素が有機EL(electro-luminescence)の自発光素子によって構成された表示手段」とは、「各画素が自発光画素である表示手段」である点で共通する。

(2)引用発明1の「焼付防止装置」は、「プラズマディスプレイパネルを含む表示部2」を含むから、本件補正発明の「表示装置」に相当する。

(3)引用発明1の「表示時間の積算対象にする所定数の抽出画素のそれぞれに供給される画素データを映像信号S2から抽出する画像抽出部3と、各抽出画素について画素データの表示時間を検出する表示時間検出部4と、各抽出画素について検出された表示時間を積算し、積算表示時間として記憶する積算メモリ部5とで構成される積算表示時間記憶手段」は、各抽出画素について「積算表示時間」を記憶する。
この「積算表示時間」は、「映像信号S2から抽出」した「画像データの表示時間」を「積算した」ものであるから、各抽出画素の発光の履歴そのものである。したがって、引用発明1の「積算表示時間」は、本件補正発明の「発光履歴」に相当する。
そうすると、引用発明1の「表示時間の積算対象にする所定数の抽出画素のそれぞれに供給される画素データを映像信号S2から抽出する画像抽出部3と、各抽出画素について画素データの表示時間を検出する表示時間検出部4と、各抽出画素について検出された表示時間を積算し、積算表示時間として記憶する積算メモリ部5とで構成される積算表示時間記憶手段」と、本件補正発明の「前記各画素の発光履歴を記憶する履歴記憶手段」とは、「画素の発光履歴を記憶する履歴記憶手段」である点で共通する。

(4)引用発明1において、「いずれかの抽出画素の積算表示時間が基準表示時間メモリ部6に記憶された基準表示時間に達すると、…表示部2の焼き付き発生が間近である」とされるのは、本件補正発明において、「前記発光履歴から…画素の劣化」が生じたとされることに相当する。
したがって、引用発明1において、「判別部7」が「積算メモリ部5に記憶された各抽出画素の積算表示時間を監視し、いずれかの抽出画素の積算表示時間が基準表示時間メモリ部6に記憶された基準表示時間に達すると、報知部8により表示部2の焼き付き発生が間近であることをユーザに報知する」ことは、本件補正発明において、「通知手段」が「前記発光履歴から…画素の劣化に基づいて…ユーザに通知する」ことに相当する。

(5)引用発明1では、「判別部7」が「積算メモリ部5に記憶された各抽出画素の積算表示時間を監視し、いずれかの抽出画素の積算表示時間が基準表示時間メモリ部6に記憶された基準表示時間に達すると、報知部8により表示部2の焼き付き発生が間近であることをユーザに報知する」ことを受けて、「ユーザが焼付防止機能を作動させる設定をする」ことになる。
その結果、「非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするような信号レベル及び表示時間を有する信号が表示部2に供給されて表示される」ということは、「非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするような信号レベル及び表示時間を有する信号」に対応する画像が「表示部2」に表示されることにほかならない。
そうすると、「判別部7」が「報知部8により」「ユーザに報知する」内容、すなわち「表示部2の焼き付き発生が間近であること」とは、要するに、「表示部2」に表示する画像を、「非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするような信号レベル及び表示時間を有する信号」に対応する画像に変更する時期が到来したということである。
したがって、引用発明1において、「判別部7」が「報知部8により表示部2の焼き付き発生が間近であることをユーザに報知する」ことは、「報知部8による報知があった場合に、ユーザが焼付防止機能を作動させる設定をすると、非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするような信号レベル及び表示時間を有する信号が表示部2に供給されて表示される」ことを踏まえると、本件補正発明において、「通知手段」が「前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する」ことに相当する。

(6)以上のことをまとめると、本件補正発明と引用発明1とは、

「各画素が自発光画素である表示手段と、
前記画素の発光履歴を記憶する履歴記憶手段と、
前記発光履歴から画素の劣化に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段と、
を備える表示装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「各画素が自発光画素である表示手段」が、本件補正発明では「有機EL(electro-luminescence)の自発光素子によって構成された表示手段」であるのに対し、引用発明1では「プラズマディスプレイパネル」である点。

(相違点2)
本件補正発明の「履歴記憶手段」は、「各画素」の「発光履歴を記憶する」から、全画素の発光履歴を記憶するのに対し、引用発明1の「積算表示時間記憶手段」(本件補正発明の「履歴記憶手段」に相当する。)は、「表示装置の積算対象にする所定数の抽出画素」の「積算表示時間」(本件補正発明の「発光履歴」に相当する。)を記憶するから、全画素ではなく、所定数の抽出画素の発光履歴を記憶する点。

4.相違点についての判断
引用発明1と技術事項2とを対比すると、両者は、第一に、各画素が自発光画素である表示手段(引用発明1の「プラズマディスプレイパネルを含む表示部2」、技術事項2の「有機ELディスプレイ」)の焼き付きを防止することを課題にしている点で共通している。
第二に、複数の画素のそれぞれについて発光履歴(引用発明1の「各抽出画素」の「積算表示時間」、技術事項2の「各画素の累積輝度値」)を求めた上で、表示する画像を、複数の画素のそれぞれの発光履歴を揃えることができる画像に変更する必要があることを、ユーザに知らせる点で共通している。すなわち、引用発明1の「非焼き付き抽出画素のそれぞれの積算表示時間と焼き付き抽出画素の積算表示時間とを実質的に同じに揃えて、各抽出画素の蛍光体消耗の進行度合いを同等にするような信号レベル及び表示時間を有する信号」に対応する画像も、技術事項2の「各画素の累積輝度値を平滑化する方向に作用する画像」も、複数の画素のそれぞれの発光履歴を揃えることができる画像である。また、引用発明1は、その画像に変更する時期が到来したことをユーザに報知しており(上記3.(5))、技術事項2は、その画像を表示する必要があることをユーザに認識させているから、いずれも、表示する画像を変更する必要があることをユーザに知らせている。
以上に述べたとおり、引用発明1と技術事項2とは、解決しようとする課題(第一の点)及び課題を解決するための手段(第二の点)が共通しているから、引用発明1に技術事項2を適用することは、当業者にとって容易である。すなわち、引用発明1において、プラズマディスプレイパネルを有機ELディスプレイに変更するとともに、発光履歴を記憶する画素を所定数の抽出画素から全画素に変更することは、技術事項2に基づき、当業者が容易に思い付くことである。
その結果、相違点1及び2に係る構成が得られることは、明らかである。

5.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の(5)(b)において次のように主張する。

「本願発明は、「有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化に基づいて表示手段(表示部)の画像の変更時期をユーザに通知する」ことに特徴があります。
これに対して、引用発明1は、プラズマディスプレイの焼き付き発生が間近であることを知らせるものであって、有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化を知らせるものではなく、上述した本願発明の構成に対応する直接的な記載やこれを示唆する記載ではありません。
また、引用発明2,3にも、上述した本願発明の構成に対応する直接的な記載やこれを示唆する記載はありません。」

また、請求人は、回答書の(3)においても次のように主張する。

「本願発明は、「有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化に基づいて表示手段(表示部)の画像の変更時期をユーザに通知する」ことに特徴があります。
これに対して、引用発明1は、プラズマディスプレイの焼き付き発生が間近であることを知らせるものであって、有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化を知らせるものではなく、上述した本願発明の構成に対応する直接的な記載やこれを示唆する記載ではありません。
また、審査官殿は、前置報告書において、『同一の画像を表示することにより画面に焼き付きが生じることは、有機ELを用いた表示手段に限られるものではなく、プラズマディスプレイや液晶ディスプレイ等、ディスプレイ一般に生じる課題であるところ、当該課題の解決方法として、プラズマディスプレイにおいて採用されている技術を、有機ELディスプレイに利用する等々、これらのディスプレイ間の技術を相互に転用することは、当業者であれば容易に想到し得た程度の事項に過ぎない。』と説示されておられます。
しかしながら、上述した通り、本願発明は、「有機EL素子自体の劣化」を知らせるものであって、同一の画像を長時間表示することによる「焼き付き」を知らせるものではありません。
また、引用発明2にも、上述した本願発明の構成に対応する直接的な記載やこれを示唆する記載はありません。」

しかし、上記4.で述べたとおり、引用発明1において、プラズマディスプレイパネルを有機ELディスプレイに変更することは、技術事項2に基づき、当業者が容易に思い付くことである。
その結果として得られるものは、有機ELディスプレイの焼き付き発生が間近であることを知らせることになる。ここで、刊行物2に記載されているとおり(上記2.(2)ア.(ア))、有機ELディスプレイの焼き付きの原因は、一つには、長時間にわたり同一の画像を表示することによる有機ELの画素の劣化である。そうすると、有機ELディスプレイの焼き付き発生が間近であることを知らせるとは、有機ELの画素の劣化を知らせることにほかならない。
請求人の主張は、採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)と刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明についての判断
1.本件出願に係る発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1から4までのそれぞれに係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1から4までのそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
各画素が自発光素子によって構成された表示手段と、
前記各画素の発光履歴を記憶する履歴記憶手段と、
前記発光履歴に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段と
を備えることを特徴とする表示装置。」

2.原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由1は、概略以下のとおりである。

「本願発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1及び2のそれぞれに記載された発明に基づいて、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2002-91373号公報(前掲)
刊行物2:特開2003-280577号公報(前掲)」

3.刊行物に記載された事項
刊行物1及び2のそれぞれに記載された事項は、上記「第2」2.(1)及び(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、「自発光素子」を「有機EL(electro-luminescence)の自発光素子」とする限定と「発光履歴に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段」を「発光履歴から有機EL(electro-luminescence)の画素の劣化に基づいて前記表示手段の画像の変更時期をユーザに通知する通知手段」とする限定とを省いたものである。
このことを踏まえて、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、上記「第2」3.(6)で述べた点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1’)
「各画素が自発光画素である表示手段」が、本件補正発明では「自発光素子によって構成された表示手段」であるのに対し、引用発明1では「プラズマディスプレイパネル」であるから、「自発光素子によって構成された」とはいえない点。

(相違点2)(前掲)
本件補正発明の「履歴記憶手段」は、「各画素」の「発光履歴を記憶する」から、全画素の発光履歴を記憶するのに対し、引用発明1の「積算表示時間記憶手段」(本件補正発明の「履歴記憶手段」に相当する。)は、「表示装置の積算対象にする所定数の抽出画素」の「積算表示時間」(本件補正発明の「発光履歴」に相当する。)を記憶するから、全画素ではなく、所定数の抽出画素の発光履歴を記憶する点。

上記「第2」4.で述べたとおり、引用発明1において、プラズマディスプレイパネルを有機ELディスプレイに変更するとともに、発光履歴を記憶する画素を所定数の抽出画素から全画素に変更することは、技術事項2に基づき、当業者が容易に思い付くことである。
その結果、相違点1’及び2に係る構成が得られることは、明らかである。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)と刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)と刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-16 
結審通知日 2013-10-22 
審決日 2013-11-05 
出願番号 特願2005-373779(P2005-373779)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 仁之  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中塚 直樹
飯野 茂
発明の名称 表示装置及び表示方法  
代理人 志賀 正武  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ