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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1282624
審判番号 不服2012-23478  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-28 
確定日 2013-12-19 
事件の表示 特願2010-172581「モデル構成装置およびモデル構成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日出願公開、特開2012- 33030〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年7月30日の出願であって、平成24年6月13日付(起案日)で拒絶の理由が通知され、平成24年8月3日付で意見書が提出されたものの、平成24年8月23日付(起案日)で拒絶査定がなされたものである。
本件は、上記拒絶査定を不服として平成24年11月28日付で請求された拒絶査定不服審判である。

2.本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は請求項1に記載された次のとおりである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
複数のモデル化対象を含むプラントのモデルをプラントモデルとして構成するモデル構成装置であって、グラフィカルユーザーインターフェースを有するモデル構成装置において、モデル化対象のモデルをモデル化対象毎に対象モデルとして構成する機能と、各対象モデルから出力される保存量を関連する対象モデル間で交換することができるように対象モデルを結線によって互いに接続することによってプラントモデルを構成する機能と、前記グラフィカルユーザーインターフェース上に各対象モデルに対応する要素をモデル化対象要素として構成する機能と、これらモデル化対象要素を介してそれぞれ対応する対象モデルを呼び出すことができるように対象モデルをそれぞれ対応するモデル化対象要素に関連付けて保存する機能とを有するモデル構成装置。」

3.引用例
3.1.引用例の記載事項
原査定で引用された『大畠明「制御システム開発における保存則と制約記述に基づく混合物理モデリング」,計測と制御,計測自動制御学会,2010年7月10日,第49巻,第7号,pp.415?420』(以下「引用例」という。)には、図面と共に以下の記載がある。

『1.まえがき
素早く制御対象のモデリング(プラントモデリング)を行うことは制御システム開発における重要な課題の1つである.制御対象モデル(プラントモデル)は数多くのパラメータスタディーや多様な条件でのシミュレーション検証に用いられるので,実行が速い比較的簡単なモデルであることが多い.しかしながら,単純な力学系や電気回路などの制御対象を相手にしている研究者には信じられないかもしれないが,化学反応,伝熱流体系などが絡むシステムや弾性体や潤滑部を含む複雑なシステムでは,開発されたプラントモデルの精度が不十分で,変更を何度も繰り返し,結果として制御システム開発に間に合わないことが頻繁に起こる.これは,本来は分布定数系で記述されるべき制御対象を集中定数系で記述すること,複雑に絡み合った現象を記述し尽すことはできないことなどに起因している.』(第415頁左欄第1?15行)


図1はここでの物理モデル(Physical Model)^(2))と実験モデル(Empirical Model)の定義を示している.物理モデルを質量,エネルギー,運動量,分子数など関連する保存量を対象として,「保存則を満たすモデル」と定義し,実験モデルを「実験によって調整するパラメータをもつモデル」と定義する.物理モデルと実験モデルは背反するものではなく,共通部分をもつ.
保存則は非常に強い拘束であり,しばしば,実用的ではない.もし,厳密に保存則を満たそうとすると,あらゆる現象を記述しなければならず,非常に複雑なモデルとなってしまう.そこで,物理モデルの周辺に近似物理モデルを定義する.たとえば,実験データとの一致を狙って,エンジンの慣性モーメントをエンジン速度の関数とする場合がある.慣性モーメントはクランク角の関数であり,エンジン速度の関数とするのは理論的にはおかしい.しかし,実験データと一致するように補正をするには便利なときがある.このようなモデルは保存則を満たさないので,物理モデルではないが,物理モデルに近いという意味で近似物理モデルとする.
実験モデルは実験条件が適切であれば,素早くプラントモデルを作ることができる^(3)).しかしたとえば,自動車エンジンの排気ガス浄化に用いられる3元触媒には酸素の吸脱着による複雑な非線形性があり,線形システム同定やHammerstein-Wiener Modelを用いた非線形システム同定では精度よく記述することは難しい.一般に,可能性のある運転状態をすべてカバーするように非線形な実験モデル構造を決定することは大変難しい.
目標とするモデルは,近似物理モデルと実験モデルの共通部分にあり,要求精度を満たすモデルの中で最も簡易なモデルである.ここで,簡易の意を定義が必要であるが,簡易の指標として,モデル次数,調整パラメータの数,演算の数,プログラムコードサイズなどを候補として上げることができる.調整パラメータ数は必要な実験数と直接関連し,パラメータ同定の難易度にも影響を与える.演算の数はモデルの実行時間に影響する.プログラムコードサイズも実用において良い指標かもしれない.共通な簡易の指標はまだないが,図1ではモデル次数とパラメータ数最小として記載している.いずれにせよ,目標とするモデルは,物理モデルと実験モデルが統合されたものである.この観点に立った望ましいプラントモデリング環境を図2に示す.

プラントモデリング環境は,物理モデリング環境,実験モデリング環境,モデル簡易化,物理・実験モデル統合,システムモデリング環境,データ・プロセス管理,および,最適化と物理モデル法則ライブラリーからなる.プラントモデリング環境では,モデル簡易化は特に重要な役割を演じる.たとえば,物理モデルを簡易化して実行速度を向上させること,実験モデルの式を求めることなどに用いられる.システムモデルはモデル部品を組み合わせて開発されるが,そうしてできたシステムモデルが十分な精度をもつとは限らず,やはり実験データを用いた補正が必要になるかもしれない.その際の実験モデルを求めるためにモデル簡易化が使われる.作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる.物理モデリング環境中3D SimはFEMやCFDなどの3次元シミュレーションとの連携を示している.HLMT(High Level Modeling Tool)は後で詳細を説明する.

2.HLMD
HLMD(High Level Model Description)は集中定数系だけに適用されるわけではないが,ここではおもに集中定数系モデルを対象として保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述,すなわち,HLMDについて説明する.High Levelは「抽象度が高い」という意味であるが,さらに,プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行う.ただし,モデルを理解しやすくするための階層化表現などは許容する.
図3に示すように,プラントモデリングの最初のステップはシステムの要素分解である.システムの構城要素は,さらにその構成要素に分けられるかもしれないし,その構成要素はさらにその構成要素に分けられるかもしれない.つぎのステップは,要素間の相互作用を記述することである.システムの変化は,外部の構成要素,および,システム内部での構成要素間の相互作用によって生じる.したがって,相互作用を記述し,それらを集約すればシステムの変化を記述するはずである.HLMDはその相互作用を保存則の交換と拘束に分類する.』(第415頁右欄第1行?第416頁右欄第4行)



『保存則は力学系,電気回路,流体,化学反応,伝熱などの物理領域に関わらず成立する基本的な物理法則である.つまり,HLMDは混合物理領域のモデルを拘束と保存則を用いて同一形式で扱うことができる.

(1)式で,保存量は質量,エネルギー,運動量,熱量,分子数などである.図7に保存則のGUI表現を示す.保存則を用いれば,同一形式での混合物理領域モデリングが可能になると思われる.しかしながら,(1)式は非線形な微分方程式であり,拘束条件の記述を合わせると数値計算が難しい非線形微分代数方程式になる.

このアイデアは「システムの状態量として保存量を選んだ.」ということができる.しかしながら,電気回路では電流と電圧でシステムの挙動を表わすが,電流は保存則の電荷の流れとしても,電圧は保存量ではない.したがって,保存量から通常のシステム記述に用いられる変数への変換を定義する必要がある.また,形状を表現することも必要であり,保存則流量を定義することも必要である.したがって,物理モデルの一般表現として(2)式が与えられる.

(2)式中のEは保存量ベクトル,eは保存量流量ベクトル,Vはモデル要素の質量や体積などの属性ベクトル,Xは中間変数ベクトルである.Vの要素は定数,または,関数である.変数上の?は変数が冗長であることを示す.もし,強力な数式処理システムがあり,数式の冗長性を取り除くことができ,微分代数方程式が数値計算で解けるならば,(2)式は実行可能となる.(2)式によるモデル表現をHLMDという.』(第416頁右欄下から2行?第417頁左欄最下行)
『3.HLMT
HLMT(High Level Modeling Tool)はGUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うツールである.HLMDから生成される数式は微分方程式と代数方程式からなる非線形な微分代数方程式となり,数値的に解くことは難しい.HLMTは数式処理によって,汎用ソルバーが提供されている微分指数1の微分代数方程式に変換する.
HLMD記述のGUI要素は非常に少なく,図13に示す要素ブロック,ストレージ,ポート,拘束ブロックと2種類のラインである.実践の矢印付ラインは保存量流速を示すベクトルである.保存量は矢印の方向を正とする.破線は拘束をもつ要素を示し,要素ブロックと拘束ブロックが破線で結ばれる.要素ブロックは保存:量のストレージをもち,ストレージは図14のように要素境界に置かれるポートと結ばれる.
ポートは自由に要素の境界上に配置することができる.図14ではストレージがEとPが定義されている.保存量流量として,e_in, e_out, p_in, p_outが定義されている.この要素によって,つぎの保存則が定義される.

原則的には,ストレージは同種の保存量流量と結線される.しかし,物理的に変換が可能な保存流量を結線することは可能である.これは,機械エネルギーが熱エネルギーに変換されたこと,水素と酸素が反応して水が生成されることなどを表わす.化学反応以外では,水素,酸素,水分子は保存されており,保存則を用いる合理性はある.質量とエネルギーも同様であり,相対性理論の適用範囲になると質量とエネルギーは変換し,質量保存則は成り立たなくなる.異種の保存量流速を結線することは,背後により根源的な保存則が存在するためである.化学反応を伴わない領域では,化学エネルギーを考慮する必要はない.しかし,化学反応によって生じる反応熱は突然生成されたように見える.図15は化学反応の例である.
要素ブロックには中間変数が定義される.中間変数はなんらかの形で保存量か保存量流量に対応が付けられる.ポートは位置,電圧や温度などを設定することができる.直接結線されたポートの変数は要素間で等しい値となる.これは拘束記述の特別な場合である.
ポートの結線において,各ポートは複数のポート変数と保存量流量が定義されている.ポート変数は定義されたポート変数の順番に従い対応付けられる.たとえば,位置と温度がポート変数としてポートAとBに定義されている場合,ポートAでは[位置,温度]で,ポートBでは[温度,位置]だとすると,物理量に関係なく,ポートAの位置とポートBの温度が等しいとみなされる.これは,ポート変数は中間変数を許容するので種類が多く,物理的意味で結線することは管理が難しいためである.一方,保存量流量は物理量の定義に従い,同種の物理量が対応付けられる.ポートAでは[エネルギー流量,運動量流量],ポートBでは[運動量流量,エネルギー流量]の順で結線されていても,エネルギー流量はエネルギー流量同士,運動量流量は運動量流量同士が関係付けられる.

これは同時に,1つの保存量流量は1度しか同じポートに結線できないことを示している.これまでの物理モデリングツールは,力学系,電気回路系,流体系など物理領域(物理ドメイン)ごとにモデリングされていて,1つの物理領域内では要素の結線が保証されている.しかし,物理領域の異なる要素を結線する場合は,電気回路系と力学系を繋ぐモータなどに見られる物理領域間を橋渡しするブリッジ要素が必要である.HLMDとHLMTはこうした考え方ではなく,要素間の結線は,上述したように保存量流量の種類で管理するので,ユーザは必要に応じて自由に物理領域を設定できる.
保存量を中間変数で定義する場合は,その中間変数を用いて保存量を定義する式を入力する必要がある.たとえば,(3)式において,質点M_(1)のエネルギーEは(23)式で定義される.

力学系と電気回路系の場合は,保存量流量は保存量の定義と要素の結合の定義から自動的に計算されるので,定義する必要はない.しかし,伝熱系や流体系では定義する必要がある.たとえば,エンジンの筒内ガスからシリンダ壁への伝熱は,(24)式のような実験モデルが用いられる.

(24)式において,、Λは伝熱面積,rpmはエンジン速度,pは筒内圧力,T_(c)は筒内ガス温度,T_(w)はシリンダ壁温度であり,その他は実験で求まる定数である.
図16は,HLMTのFirst Prototypeの画面である.左上の画面はモデルの構成をTree構造図で示す.要素の組み合わせをサブシステムとして保存・再利用することができる.HLMTでは左中および下の画面では必要に応じて登録・再利用するモデル要素を示す.右上はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面である.

Canvas中のモデルは,モデル式の集成と数式処理による簡易化,および,初期値を入力してシミュレーションを実行することができる.図17は,抵抗とキャパシターを直列に配置した図16のCanvasにある直流電気回路モデルのシミュレーション実行例である.左はキャパシター電圧,右図は抵抗の温度変化である.抵抗で発熱した熱は抵抗の温度を上昇させ,層大気に伝達される.


4.まとめ
望ましいプラントモデリング環境を構成する重要な一要素として保存則と拘束記述に基づく混合物理領域モデリングについて説明した.システムを構成するモデル要素間の保存量の交換と拘束記述によりシステム挙動がシミュレートできることは,HLMTのFirst Prototypeで実証することができた.Prototypeは使い勝手や外部ツールとの連携にまだ難があるが,今後多くの研究者との連携により充実をさせ,効率的なプラントモデリング環境構築の一助としたい.』(第419頁左欄第18行?第420頁右欄15行)

3.2.引用発明
上記記載を検討する。

第一に、引用例の『3.HLMT HLMT(High Level Modeling Tool)はGUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うツールである.」(第419頁左欄下から21?18行)の記載からみて、引用例記載の発明は「GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」に関するものである。
第二に、引用例の『2.HLMD HLMD(High Level Model Description)は集中定数系だけに適用されるわけではないが,ここではおもに集中定数系モデルを対象として保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述,すなわち,HLMDについて説明する.High Levelは「抽象度が高い」という意味であるが,さらに,プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行う.ただし,モデルを理解しやすくするための階層化表現などは許容する.』(第416頁左欄下から15?7行)の記載からみて、引用例記載の発明の「GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」の「HLMD」とは、「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述」であり「プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行う」もののことである。
第三に、引用例の『図3に示すように,プラントモデリングの最初のステップはシステムの要素分解である.システムの構城要素は,さらにその構成要素に分けられるかもしれないし,その構成要素はさらにその構成要素に分けられるかもしれない.』(第416頁左欄下から6?3行)、および、図3の記載からみて、引用例記載の発明の「GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」の「HLMD」の扱う「プラントモデル」の対象となる「システム」は「複数の構成要素を含」み、「システムの構城要素は、さらにその構成要素に分けられるかもしれないし、その構成要素はさらにその構成要素に分けられるかもしれない」ものである。
第四に、引用例の『つぎのステップは,要素間の相互作用を記述することである.システムの変化は,外部の構成要素,および,システム内部での構成要素間の相互作用によって生じる.したがって,相互作用を記述し,それらを集約すればシステムの変化を記述するはずである.HLMDはその相互作用を保存則の交換と拘束に分類する.』(第416頁左欄下から3行?右欄第4行)の記載からみて、引用例記載の発明の「GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」の「HLMD」の扱う「プラントモデル」は「システム内部での構成要素間の相互作用を記述する」ものであって、その「相互作用」は「保存則の交換と拘束に分類」されるものである。
第五に、引用例の『HLMD記述のGUI要素は非常に少なく,図13に示す要素ブロック,ストレージ,ポート,拘束ブロックと2種類のラインである.実践の矢印付ラインは保存量流速を示すベクトルである.保存量は矢印の方向を正とする.破線は拘束をもつ要素を示し,要素ブロックと拘束ブロックが破線で結ばれる.要素ブロックは保存:量のストレージをもち,ストレージは図14のように要素境界に置かれるポートと結ばれる.ポートは自由に要素の境界上に配置することができる.図14ではストレージがEとPが定義されている.保存量流量として,e_in, e_out, p_in, p_outが定義されている.この要素によって,つぎの保存則が定義される.原則的には,ストレージは同種の保存量流量と結線される.しかし,物理的に変換が可能な保存流量を結線することは可能である.これは,機械エネルギーが熱エネルギーに変換されたこと,水素と酸素が反応して水が生成されることなどを表わす.化学反応以外では,水素,酸素,水分子は保存されており,保存則を用いる合理性はある.質量とエネルギーも同様であり,相対性理論の適用範囲になると質量とエネルギーは変換し,質量保存則は成り立たなくなる.異種の保存量流速を結線することは,背後により根源的な保存則が存在するためである.化学反応を伴わない領域では,化学エネルギーを考慮する必要はない.しかし,化学反応によって生じる反応熱は突然生成されたように見える.図15は化学反応の例である.要素ブロックには中間変数が定義される.中間変数はなんらかの形で保存量か保存量流量に対応が付けられる.ポートは位置,電圧や温度などを設定することができる.直接結線されたポートの変数は要素間で等しい値となる.これは拘束記述の特別な場合である.』(第419頁左欄下から13行?右欄第18行)、および、図13?15の記載からみて、引用例記載の発明の「要素」は「保存量のストレージ」を有し、この「保存量のストレージ」は「要素境界に置かれるポートと結ばれる」ものであり、更に、この「要素」は「中間変数」を有し、この「中間変数」は「保存量か保存流量に対応が付けられる」ものである。
第六に、引用例の『HLMD記述のGUI要素は非常に少なく,図13に示す要素ブロック,ストレージ,ポート,拘束ブロックと2種類のラインである.実践の矢印付ラインは保存量流速を示すベクトルである.保存量は矢印の方向を正とする.破線は拘束をもつ要素を示し,要素ブロックと拘束ブロックが破線で結ばれる.ポートは自由に要素の境界上に配置することができる.』(第419頁左欄下から13?6行)、『ポートの結線において,各ポートは複数のポート変数と保存量流量が定義されている.ポート変数は定義されたポート変数の順番に従い対応付けられる.』(第419頁右欄第19?20行)、『HLMDとHLMTはこうした考え方ではなく,要素間の結線は,上述したように保存量流量の種類で管理するので,ユーザは必要に応じて自由に物理領域を設定できる.』(第420頁左欄第8?10行)および、図13の記載からみて、引用例記載の発明は「要素境界に置かれるポート」を「保存量流速を示すベクトルである実線の矢印付ライン」で「結線」するものである。
第七に、引用例の『図16は,HLMTのFirst Prototypeの画面である.左上の画面はモデルの構成をTree構造図で示す.要素の組み合わせをサブシステムとして保存・再利用することができる.HLMTでは左中および下の画面では必要に応じて登録・再利用するモデル要素を示す.右上はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面である.Canvas中のモデルは,モデル式の集成と数式処理による簡易化,および,初期値を入力してシミュレーションを実行することができる.』(第420頁左欄下から8行?右欄第1行)、および、図16の記載からみて、「HLMTの画面」は「左上の画面においてモデルの構成をTree構造図で示し、要素の組み合わせをサブシステムとして保存・再利用することができ、左中および下の画面において登録・再利用するモデル要素を示し、右上の画面はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面」を有するものである。また、図16からは「右上の画面」に「複数の要素が実線の矢印で結線されているもの」が表示されていることがみてとれる。
第八に、引用例の『プラントモデリング環境は,物理モデリング環境,実験モデリング環境,モデル簡易化,物理・実験モデル統合,システムモデリング環境,データ.プロセス管理,および,最適化と物理モデル法則ライブラリーからなる.プラントモデリング環境では,モデル簡易化は特に重要な役割を演じる.たとえば,物理モデルを簡易化して実行速度を向上させること,実験モデルの式を求めることなどに用いられる.システムモデルはモデル部品を組み合わせて開発されるが,そうしてできたシステムモデルが十分な精度をもつとは限らず,やはり実験データを用いた補正が必要になるかもしれない.その際の実験モデルを求めるためにモデル簡易化が使われる.作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる.物理モデリング環境中3D SimはFEMやCFDなどの3次元シミュレーションとの連携を示している.HLMT(High Level Modeling Tool)は後で詳細を説明する.』(第416頁左欄第5?20行)との記載からみて、引用例記載の発明は「作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる」ものである。

したがって、引用例記載の発明(以下「引用発明」という。)は以下のとおりのものである。

「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツールであって、
プラントモデルの対象となるシステムは複数の構成要素を含み、システムの構城要素は、さらにその構成要素に分けられるかもしれないし、その構成要素はさらにその構成要素に分けられるかもしれないものであって、
プラントモデルはシステム内部での構成要素間の相互作用を記述するものであり、
要素は保存量のストレージを有し、この保存量のストレージは要素境界に置かれるポートと結ばれるものであり、更に、要素は中間変数を有し、この中間変数は保存量か保存流量に対応が付けられるものであり、
要素境界に置かれるポートを保存量流速を示すベクトルである実線の矢印付ラインで結線するものであり、
HLMTの画面は、左上の画面においてモデルの構成をTree構造図で示し、要素の組み合わせをサブシステムとして保存・再利用することができ、左中および下の画面において登録・再利用するモデル要素を示し、右上の画面はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面を有し、右上の画面に、複数の要素が実線の矢印で結線されているものが表示されており、
作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる、
保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール。」

4.対比・一致点・相違点
ここで、本願発明と引用発明を対比する。

4.1.「複数のモデル化対象を含むプラントのモデルをプラントモデルとして構成するモデル構成装置において、・・・とを有するモデル構成装置」
引用発明は「要素は保存量のストレージを有し、この保存量のストレージは要素境界に置かれるポートと結ばれるものであり、更に、要素は中間変数を有し、この中間変数は保存量か保存流量に対応が付けられるもの」であって、引用発明の「構成要素」はモデル化の対象ということができるから、引用発明の「構成要素」と本願発明の「モデル化対象」が対応すると言える。更に、引用発明の「プラントモデルの対象となるシステムは複数の構成要素を含み、システムの構城要素は、さらにその構成要素に分けられるかもしれないし、その構成要素はさらにその構成要素に分けられるかもしれないものであ」るから、引用発明も本願発明と同様に「複数のモデル化対象を含むプラントのモデルをプラントモデルとして構成する」ものということができる。加えて、引用発明は「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」であって、「GUI」を有するこの「HLMTと呼ばれるツール」は計算機の上で実行されているということができ、計算機の上で実行されている「ツール」は全体として「装置」ということができるから、この「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」は本願発明と同様に「モデル構成装置」であるということができる。
すなわち、引用発明と本願発明は「複数のモデル化対象を含むプラントのモデルをプラントモデルとして構成するモデル構成装置において、・・・とを有するモデル構成装置」である点で一致している。

4.2.「モデル化対象のモデルをモデル化対象毎に対象モデルとして構成する機能」
引用発明は「要素は保存量のストレージを有し、この保存量のストレージは要素境界に置かれるポートと結ばれるものであり、更に、要素は中間変数を有し、この中間変数は保存量か保存流量に対応が付けられるもの」であって、引用発明の「要素」は「保存量のストレージ」「ポート」「中間変数」「保存量」「保存流量」でモデル化されているということができ、上記『4.1.「複数のモデル化対象を含むプラントのモデルをプラントモデルとして構成するモデル構成装置において、・・・とを有するモデル構成装置」』で述べたように、引用発明の「構成要素」と本願発明の「モデル化対象」が対応し、引用発明の「構成要素」はモデル化の対象ということができるから、引用発明と本願発明は「モデル化対象のモデルをモデル化対象毎に対象モデルとして構成する機能」を有する点で一致している。

4.3.「各対象モデルから出力される保存量を関連する対象モデル間で交換することができるように対象モデルを結線によって互いに接続することによってプラントモデルを構成する機能」
引用発明は「プラントモデルはシステム内部での構成要素間の相互作用を記述するものであり」、「要素境界に置かれるポートを保存量流速を示すベクトルである実線の矢印付ラインで結線するものであ」って、しかも、「HLMTの画面は、左上の画面においてモデルの構成をTree構造図で示し、左中および下の画面において登録・再利用するモデル要素を示し、右上の画面はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面を有し、右上の画面に、複数の要素が実線の矢印で結線されているものが表示されている」ものであるから、引用発明と本願発明は「各対象モデルから出力される保存量を関連する対象モデル間で交換することができるように対象モデルを結線によって互いに接続することによってプラントモデルを構成する機能」を有する点で一致している。

4.4.「前記グラフィカルユーザーインターフェース上に各対象モデルに対応する要素をモデル化対象要素として構成する機能」
引用発明は「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」であって「HLMTの画面は、左上の画面においてモデルの構成をTree構造図で示し、左中および下の画面において登録・再利用するモデル要素を示し、右上の画面はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面を有し、右上の画面に、複数の要素が実線の矢印で結線されているものが表示されている」ものであるから、この「HLMTの画面」はグラフィカルユーザインターフェースであるということができ、その中の「右上の画面はモデリングのためのCanvasであり」、「右上の画面に、複数の要素が実線の矢印で結線されているものが表示され」るものであるから、引用発明と本願発明は「前記グラフィカルユーザーインターフェース上に各対象モデルに対応する要素をモデル化対象要素として構成する機能」を有する点で一致している。

4.5.「これらモデル化対象要素を介してそれぞれ対応する対象モデルを呼び出すことができるように対象モデルをそれぞれ対応するモデル化対象要素に関連付けて保存する機能」
引用発明の「プラントモデルの対象となるシステムは複数の構成要素を含み、システムの構城要素は、さらにその構成要素に分けられるかもしれないし、その構成要素はさらにその構成要素に分けられるかもしれないものであって」、「要素の組み合わせをサブシステムとして保存・再利用することができ、左中および下の画面において登録・再利用するモデル要素を示」すものであって「作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる」ものである。ここで、引用発明は更に「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」であるから、この「モデル要素」とは、「プラントモデルの対象となるシステム」に含まれる「構成要素」を「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述」で表したもの、すなわち、構成要素がモデル化されたものであると認めることができる。
そして、引用発明の「モデル要素」は「登録・再利用」できるものであって、この「登録・再利用」のために「モデル要素」は保存され、呼び出すことができるものといえ、また、上記したように、引用発明の「モデル要素」とは、構成要素がモデル化されたものであって、本願発明の「対象モデル」と対応するから、引用発明と本願発明は「対象モデルを呼び出すことができるように対象モデルを保存する機能」を有する点で一致しているが、本願発明の「対象モデル」は、「モデル化対象要素を介してそれぞれ対応する」対象モデルを呼び出すことができるように「対象モデルをそれぞれ対応するモデル化対象要素に関連付けて」保存されているのに対し、引用発明の「モデル要素」は「登録・再利用」できるものであって「作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる」ものの、引用発明の「モデル要素」は、「構成要素」を介してそれぞれに対応する「モデル要素」を呼び出すことができるようになっているのか否かが明らかではなく、更に、「モデル要素」をそれぞれ対応する「構成要素」に関連付けて保存されているのか否か明らかではない点で相違する。

4.6.一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明は以下の点で一致し、相違する。

[一致点]
「複数のモデル化対象を含むプラントのモデルをプラントモデルとして構成するモデル構成装置であって、グラフィカルユーザーインターフェースを有するモデル構成装置において、モデル化対象のモデルをモデル化対象毎に対象モデルとして構成する機能と、各対象モデルから出力される保存量を関連する対象モデル間で交換することができるように対象モデルを結線によって互いに接続することによってプラントモデルを構成する機能と、前記グラフィカルユーザーインターフェース上に各対象モデルに対応する要素をモデル化対象要素として構成する機能と、対象モデルを呼び出すことができるように対象モデルを保存する機能とを有するモデル構成装置。」

[相違点]
本願発明の「対象モデル」は、「モデル化対象要素を介してそれぞれ対応する」対象モデルを呼び出すことができるように「対象モデルをそれぞれ対応するモデル化対象要素に関連付けて」保存されているのに対し、引用発明の「モデル要素」は「登録・再利用」できるものであって「作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる」ものの、引用発明の「モデル要素」は、「構成要素」を介してそれぞれに対応する「モデル要素」を呼び出すことができるようになっているのか否かが明らかではなく、更に、「モデル要素」をそれぞれ対応する「構成要素」に関連付けて保存されているのか否か明らかではない点。

5.当審の判断
上記相違点について以下検討する。

引用発明は「保存量の交換と拘束の記述に基づく物理モデル記述であり、プラントモデルの実行に関する記述は可能な限り排除して物理現象の記述のみを行うHLMDに対して、GUIでのHLMDをサポート,定義された物理モデルの数式を生成,数値計算可能な数式に変換,シミュレーションを行うHLMTと呼ばれるツール」であって「HLMTの画面は、左上の画面においてモデルの構成をTree構造図で示し、要素の組み合わせをサブシステムとして保存・再利用することができ、左中および下の画面において登録・再利用するモデル要素を示し、右上の画面はモデリングのためのCanvasであり,右下の画面は数式を入力する画面を有し、右上の画面に、複数の要素が実線の矢印で結線されているものが表示されており、作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる」ものである。
そして、引用発明が「作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用され,バリエーションの管理が行われる」ことからみて、引用発明は、同じ部品や同じシステムに対するバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルが存在することを許容するものであるが、同じ部品や同じシステムに対するバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルが存在するときに、そのモデル部品がいずれの部品に対応するものなのか、ないしは、そのシステムモデルがいずれのシステムに対応するものなのかという関連を明示し、これらバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルが、同じ部品や同じシステムについてのバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルであることを示すことは「バリエーションの管理」として当業者が自然に考えつくことである。次に、このように、同じ部品や同じシステムについてのバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルが存在し、そのモデル部品がいずれの部品に対応するものなのか、ないしは、そのシステムモデルがいずれのシステムに対応するものなのかという関連が明示されている場合において、「作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用」しようとするときには、モデルの対象となる部品やシステムを指定し、そのモデル部品がいずれの部品に対応するものなのか、ないしは、そのシステムモデルがいずれのシステムに対応するものなのかという関連を利用して、これらバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルを一括して呼び出し、それらバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルから適切なものを容易に選択できるようにすることも、当業者が自然に考えつくことである。
このように、引用発明において、作成されたモデル部品やシステムモデルは再利用しようとするときに、モデルの対象となる部品やシステムを指定し、そのモデル部品がいずれの部品に対応するものなのか、ないしは、そのシステムモデルがいずれのシステムに対応するものなのかという関連を利用して、これらバリエーションが異なるモデル部品やシステムモデルを一括して呼び出せるようにすることは、結局、本願発明のように「これらモデル化対象要素を介してそれぞれ対応する対象モデルを呼び出すことができるように対象モデルをそれぞれ対応するモデル化対象要素に関連付けて保存する」ことであるといえるから、この点は、当業者が自然に考えつくことにすぎない。

また、本願発明は、格別の作用効果を奏するものとも認められない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づき当業者が容易に発明できたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項2?8に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-22 
結審通知日 2013-10-23 
審決日 2013-11-06 
出願番号 特願2010-172581(P2010-172581)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 学  
特許庁審判長 松尾 淳一
特許庁審判官 奥村 元宏
千葉 輝久
発明の名称 モデル構成装置およびモデル構成方法  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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