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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12C
管理番号 1282653
審判番号 不服2011-10425  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-18 
確定日 2013-12-18 
事件の表示 特願2007-517484「1以上のタンパク質複合化剤を使用することによる、後続の分離のためのタンパク質含有液を調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 1日国際公開、WO2005/113738、平成19年12月27日国内公表、特表2007-537748〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2005年5月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年5月18日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成21年10月5日付けの拒絶理由通知に対して,平成22年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され,その後,平成23年1月7日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年5月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成24年9月28日付けの審尋に対し,平成25年4月2日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年5月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論
平成23年5月18日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
平成23年5月18日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1である,
「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体を,濾過助剤として合成ポリマーまたはシリカまたはそれらの混合物を使用する分離工程に提供する工程を含む0.7EBC未満の25°ヘイズを有するビールを調製する方法であって,さらに,分離工程の前に,タンパク質複合化剤,特にタンパク質凝集剤の,該ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体への添加,ヘイズ感受性タンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成を含み,該分離工程において該フロックまたは複合体を該液体からさらに分離することを特徴とする該方法。」を,
「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体を濾過する方法であって,
(a)濾過支持体上に合成濾過助剤を提供し;
(b)濾過すべき液体を提供し,ここに該液体はヘイズ感受性タンパク質を含有し;
(c)タンパク質複合化剤を,濾過すべき該液体に添加し;
(d)該液体中に複合体が得られるように,タンパク質複合化剤およびヘイズ感受性タンパク質を反応させ;
(e)0.7EBC未満の25°ヘイズを有する濾過した液体が得られるように,該複合体を含有する該液体を該濾過支持体上の合成濾過助剤上で濾過し,
それによって,濾過助剤粒子が0.4-0.8の範囲の形状因子および0.4-0.65の真球率(SC)を有することを特徴とする該方法。」に補正することを含むものである。

(2)補正の適否
ア 補正後の「(a)」の工程について
補正後の「(a)濾過支持体上に合成濾過助剤を提供し」という事項は,補正前の請求項1に係る発明特定事項を限定したものではない。すなわち,補正前の請求項1には,「(a)濾過支持体上に合成濾過助剤を提供し」という事項が,下位概念として限定されるべき発明特定事項は存在しない。
そうすると,補正後の請求項1は,対応する補正前の請求項はないということになる。

イ 補正後の「方法」について
補正前の請求項1に係る末尾の「該方法」は,「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体を,濾過助剤として合成ポリマーまたはシリカまたはそれらの混合物を使用する分離工程に提供する工程を含む0.7EBC未満の25°ヘイズを有するビールを調製する方法」である。
さらに,補正前の該方法である「ビールを調製する方法」は「分離工程に提供する工程」を含むものであるが,分離工程に提供する工程であって,「分離工程」を実施することを含むものではないし,液体の種類はビールに限定されている。

これに対して,補正後の請求項1に係る末尾の「該方法」は,「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体を濾過する方法」である。
しかも,補正後の該方法は,「液体を濾過する方法」であるから,補正前の「濾過(分離)」工程を含まない方法とは,全く別異のものであるし,液体の種類は何等限定されていない。
そうすると,補正後の請求項1は,対応する補正前の請求項はないということになる。

ウ 判断
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成18年法改正前」という)の特許法第17条の2第4項第2号は「特許請求の範囲の減縮」について,括弧書きで「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る」と規定しているから,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は,補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって,かつ,補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるというべきであり,補正前の請求項と補正後の請求項とは,一対一又はこれに準じるような対応関係に立つものでなければならないと解すべきものである。(知財高裁平成17年10月11日判決(平成17年(行ケ)第10156号),知財高裁平成17年4月25日判決(平成17年(行ケ)第10192号)及び東京高裁平成16年4月14日判決(平成15年(行ケ)第230号)参照。)

以上のとおり,補正前の特許請求の範囲には,本件補正によって補正された請求項1と一対一又はこれに準じるような対応関係に立つ請求項は存在しないことが明らかであり,請求項1に係る補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということはできない。
そして,請求項1に係る補正は,誤記の訂正,又は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
してみると,請求項1に係る補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項に掲げる事項である,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明を目的の何れにも該当しないというべきであるから,特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1?21に係る発明は,平成22年4月13日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。その内,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,下記のとおりである。

「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体を,濾過助剤として合成ポリマーまたはシリカまたはそれらの混合物を使用する分離工程に提供する工程を含む0.7EBC未満の25°ヘイズを有するビールを調製する方法であって,さらに,分離工程の前に,タンパク質複合化剤,特にタンパク質凝集剤の,該ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体への添加,ヘイズ感受性タンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成を含み,該分離工程において該フロックまたは複合体を該液体からさらに分離することを特徴とする該方法。」

第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
原査定で引用文献2として引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開平10-304865号公報」(以下,「刊行物1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(刊1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加することを特徴とする液状物に含まれる蛋白質の除去方法。
【請求項2】 蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾル及び負電荷シリカゾルを添加することを特徴とする液状物に含まれる蛋白質の除去方法。」

(刊1-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,液状物に含まれる蛋白質を除去する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】これまで,清酒,味醂,ワイン,ビール,食酢,醤油,果汁等の蛋白質を含有する液状物から蛋白質を分離する方法として,種々の方法が知られており,例えば,清酒のオリ下げ工程においては,シリカゾルを用いる方法が知られている(特公昭59-33351号公報)。また,シリカゾルとともに,ゼラチンまたはゼラチンを酵素分解し水に溶けやすくした分子量5000?20000程度のペプタイド(ポリペプチド)を用いる方法も知られている。」

(刊1-3)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,シリカゾルとして正電荷のシリカゾルを用いることにより,濾過工程におけるフロックの破壊が防止され,極めて効率的に蛋白質を分離し得ることを見い出し,本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち,本発明は,蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加することを特徴とする蛋白質の除去方法である。また,本発明においては,正電荷シリカゾルとともに負電荷シリカゾルを併用し添加してもよい。」

(刊1-4)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明において用いる正電荷のシリカゾルは,粒子表面が正電荷を帯びているコロイダルシリカのゾルである。一般に,コロイダルシリカは酸性酸化物であるため,その粒子表面は負の電荷を帯びているが,この負電荷のコロイダルシリカの粒子表面を,例えば,正電荷を有する微細な金属化合物で被覆することによりコロイダルシリカに正電荷を付与することができる。このような正電荷を有する金属化合物としては,アルミナ(酸化アルミニウム),酸化鉄,ジルコニア(酸化ジルコニウム),酸化チタンなどの塩基性金属酸化物が挙げられる。実用上及び経済的な面からは,アルミナが最も好ましい。」

(刊1-5)「【0013】本発明においては,正電荷シリカゾルに加えて,本発明の効果を損なわない範囲で,さらにゼラチン,水溶性高分子ゼラチン,ペプタイド,小麦蛋白等の蛋白質,アルギン酸,カラーギナン,寒天,キトサン等の多糖類,ポリアクリル酸ソーダ等のゲル化剤,柿渋,タンニン酸,PVPP(ポリビニルポリピロリドン),シリカゲル,ベントナイト,酸性白土,タルク,ミョウバン,ゼオライト,活性炭等の吸着剤,セルロース,ケイソウ土等のろ過助剤の一種または二種以上を併用してもよい。」

(刊1-6)「【0014】正電荷シリカゾル,場合により負電荷シリカゾル及びその他の成分が添加された蛋白質を含有する液状物は,数分から数日の間に蛋白質が凝集沈降する。この凝集物は,1回または2回以上の濾過工程により濾過することができる。濾過に際しては,加圧濾過を採用してもよい。
【0015】本発明の方法は,清酒,味醂,ワイン,ビール,食酢,醤油,魚醤,果汁等の蛋白質を含有する液状物の製造工程の原料調整,精製,廃液処理に至るまで様々な場面で適用することができる。」

(刊1-7)「【0016】
【実施例】以下,本発明に従う具体的な実施例を示し本発明をさらに詳細に説明するが,本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】実施例1?3及び比較例1
清酒に,活性炭(武田薬品工業株式会社製,商品名「特選白鷺」)を500g/klの割合となるように添加・攪拌した後,100mlのメスシリンダーに移し,正電荷シリカゾルとしてのコポロック25P(商品名,大塚化学株式会社製,シリカ含有量25重量%,アルミナ被覆量0.9重量%(シリカに対して3.6重量%))及び負電荷シリカゾルとしてのコポロック306(商品名,大塚化学株式会社製,シリカ含有量30重量%)を,表1に示す割合となるように添加した後攪拌し,さらに低分子ゼラチンとしての精製ゼラチン(商品名,株式会社トミヤマ製)を添加・攪拌し,24時間後の上澄液の濁度を測定した。なお,濁度は,日本電色工業株式会社製,NDH-20D型濁度計で測定した。
【0018】さらに,上澄液を吸引濾過し,上澄液濾過後の濁度を測定した。濾紙は,アドバンテック東洋株式会社製のNo.6の濾紙を使用し,この濾紙に予め米国セライト社製のケイソウ土(商品名「スタンダートスーパーセル」)を酸洗したものを1gプリコートしてから濾過を行った。
【0019】次に,上澄液の濾過後,メスシリンダーに沈降したオリ部分に100mlの水を加え,引き続き1.0kgf/m^(2 )の加圧下で濾過(水押し)し,濾液の濁度を測定した。上記それぞれの濁度の測定結果を表1に示す。
【0020】
【表1】(略)
【0021】表1から明らかなように,本発明に従い正電荷シリカゾルを添加した実施例1?3では,正電荷シリカゾルを添加していない比較例1に比べ,水押し時における濁度が著しく低くなっている。従って,本発明に従い正電荷シリカゾルを添加することにより,凝集・沈降したフロックのフロック強度が高められ,濾過工程におけるフロックの破壊が防止され,極めて効率的に蛋白質を分離し得ることがわかる。」

(刊1-8)「【0022】
【発明の効果】本発明では,正電荷シリカゾルを単独で,あるいは負電荷シリカゾルと併用することにより,凝集・沈降するフロックのフロック強度を高め,加圧や水との接触を伴う工程でのフロックの破壊を有効に防止することができる。従って,本発明によれば,液状物から蛋白質を簡単でより効率的に除去することができる。」

(刊1-9)「【要約】
【課題】 十分なフロック強度で蛋白質を凝集させることができ,かつ簡易な工程で効率的に液状物から蛋白質を除去することができる方法を得る。
【解決手段】 蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを単独で,あるいは負電荷シリカゾルと併用して添加し,蛋白質を凝集させ除去することを特徴としている。」

2 刊行物2に記載された事項
原査定で引用文献3として引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特表平11-505169号公報」(以下,「刊行物2」という。)には,以下の事項が記載されている。

(刊2-1)「【特許請求の範囲】
1.再生可能であり,液体,特にビ-ルの二次発酵貯蔵工程の最後の段階における濾過操作において用いられる濾過補助剤であって,非圧縮性の合成か又は天然の重合物質か,又は非圧縮性の天然物質からなり,真球度係数が約0.6乃至約0.9の間にある粒形状を有する濾過補助剤。
・・・(略)・・・
5.非圧縮性の合成か又は天然の重合体からなる粒子か,又は非圧縮性の天然物質からなる粒子からなる濾過補助剤であって,該粒子は,例えば,ポリアミドや,ポリ塩化ビニルや,フッ素化製品や,ポリプロピレンや,ポリスチレンや,ポリエチレンや,例えばリオライト(ryolites)或はガラスのようなシリカの誘導体や,それらの混合物から作られる請求項1,2,3又は4記載の濾過補助剤。」(2頁1?19行)

(刊2-2)「 濾過補助剤が使用される工業分野の一つに醸造分野がある。
大多数の商業的に生産されるビ-ルは,明るい色を有すると共に,微生物を有さないことを,その必要条件としている。一般に,これらの必要条件が満たされるのは,ビ-ルが0.5EBC以下のE.B.C.(ヨ-ロッパ醸造条約: European Brewing Convention)透明度を有すると共に,その微生物の含有量がリッタ-当たり5イ-スト(yeasts:酵母)以下の時である。
E.B.C.透明度とその評価法は共に,下記刊行物において定義されている: Analytica-E.B.C.,4th Ed.,1987,Revue de la Brasserie et des Boissons Ed., Zurich。」(6頁24行?7頁6行)

第6 刊行物1に記載された発明
刊行物1には,摘示(刊1-1)の「請求項1」のとおり,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加することを特徴とする液状物に含まれる蛋白質の除去方法。」

第7 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 ヘイズ感受性タンパク質について
引用発明に係る「蛋白質を含有する液状物」に含まれる「蛋白質」は,引用発明が「液状物に含まれる蛋白質の除去方法」であるから,液状物から除去されるべき蛋白質である。

他方,本願発明の特定事項は,「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体を,・・・(略)・・・ヘイズ感受性タンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成を含み,該分離工程において該フロックまたは複合体を該液体からさらに分離することを特徴とする該方法。」(下線は,当審にて付記したものである。)であるから,本願発明における「ヘイズ感受性タンパク質」は,液体から除去されるべきタンパク質であるといえる。

したがって,引用発明の「蛋白質を含有する液状物」と,本願発明の「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体」とは,除去されるべきタンパク質を含有する液体という点で共通する。

2 濾過助剤について
本願発明の「濾過助剤として合成ポリマーまたはシリカまたはそれらの混合物を使用する分離工程」は,引用発明に具備されていない。

3 ビールについて
刊行物1には「【0015】本発明の方法は,清酒,味醂,ワイン,ビール,食酢,醤油,魚醤,果汁等の蛋白質を含有する液状物の製造工程の原料調整,精製,廃液処理に至るまで様々な場面で適用することができる。」と記載があるから,引用発明の「液状物」には,ビール等の飲料が包含されているが,本願発明のように「ビール」のみに特定はされていない。
よって,引用発明の「液状物」と,本願発明の「ビール」とは,「飲料」という点で共通する。

4 0.7EBC未満の25°ヘイズについて
本願発明の「25°ヘイズ」について,本願明細書の段落【0007】?【0008】によると
「【0007】
ヘイズ強度は,EBC法(「Analytica-EBC,方法9.29,第5版」1997年)により規定される。その方法は,ホルマジン標準溶液で較正される,入射光線に対して90°の角度における光散乱の測定を含んでいる。線形であるEBCスケールにおいて,ビールのヘイズ強度は,以下のように分類される。
・透明 <0.5EBC
・ほとんど透明 0.5?1.0EBC
・非常にわずかな濁り 1.0?2.0EBC
・わずかな濁り 2.0?4.0EBC
・濁り 4.0?8.0EBC
・ひどい濁り >8.0EBC
【0008】ある研究では,ヘイズの中に含まれる粒子のサイズは,様々な散乱角の測定を用いることにより明らかにすることができたことを示している。 ・・・一方,25°散乱角は,同じ視覚的影響を受けず,0.5μmを超えるようなより大きい粒子に対して高感度である。いわゆる「25°ヘイズ」は,何人かの執筆者により「目に見えるヘイズ」とも呼ばれている。」(なお,本願明細書の下線は当審にて付記したものである。以下,同様である。)
と記載されている。
この記載事項からすると,ヘイズとは,EBC法(「Analytica-EBC,方法9.29,第5版」1997年)により規定される濁りを表す指標であって,本願発明の「25°ヘイズ」の値は,目に見える0.5μmを超えるような大きさの粒子による濁りを表す指標ということができる。
そして,本願発明の「0.7EBC未満の25°ヘイズ」は,「・ほとんど透明 0.5?1.0EBC」の範囲に入っているから,濁りがほとんど透明になり,濁度が所定の程度改善されたことを示しているといえる。

他方,引用発明の実施例においては「本発明に従い正電荷シリカゾルを添加した実施例1?3では,正電荷シリカゾルを添加していない比較例1に比べ,水押し時における濁度が著しく低くなっている。」(摘示(刊1-7))と記載されているから,濁度が所定の程度改善されたことが分かる。
そうすると,引用発明の「液状物に含まれる蛋白質の除去方法」により改善された濁度と,本願発明の「0.7EBC未満の25°ヘイズ」とは,「濁度が所定の程度改善された」という点で共通する。

5 タンパク質凝集剤について
本願明細書の段落【0071】には,タンパク質凝集剤について次のように記載されている。
「タンパク質の除去は,シリカゲル,シリカゾルもしくはベントナイトでの吸着により,ガロタンニンとの沈殿により,または酵素による加水分解により可能である。シリカゲルは,その表面の中にタンパク質を吸着する。・・・(略)・・・シリカは,液状でも存在する。それは,シリカゾルと呼ばれ,粉末であるシリカゾルとは異なっている。その大きい表面積に起因して,シリカゾルは,ヘイズ活性タンパク質に対する吸着剤として高い効果を示す。シリカゾルは,シリカゲルと同じように作用する。そして,その粒子は,ヘイズ活性タンパク質と架橋し,ヒドロゲルを形成する能力を有する。それに基づき,それらは,凝集し,最終的に沈殿を形成する。シリカゾルは,麦汁またはビールの中に取り込ませることができる」
との記載があり,本願発明の「タンパク質凝集剤」として,シリカゾルが用いられていることが分かる。

また,凝集の原理について本願明細書の段落【0108】には
「 ・・・(略)・・・
2.第二のメカニズムは,ケーキの組成に基づき,そして若干の静電気特性を示す少なくとも1つのポリマーの存在に関係する。このようなポリマーとそれより前に形成されているフロックとの間には,複合化剤とヘイズ感受性タンパク質との凝集の間ずっと静電相互作用が存在している。フロックの残余の静電電荷は,ポリフェノールの負電荷に起因しておそらく負電荷である。この仮説を考慮すれば,ポリマーの好ましい静電電荷は,フロックとポリマーとの間の静電気相互作用の説明がつく正電荷である。PVPPおよび陰イオン樹脂の技術(陰イオンの交換)において使用される他のポリマーのような種々のポリマーを使うことができる。」
と記載されているように,正電荷による静電気相互作用による凝集が例示されている。

他方,引用発明に係る「正電荷シリカゾル」は,
「正電荷シリカゾル,場合により負電荷シリカゾル及びその他の成分が添加された蛋白質を含有する液状物は,数分から数日の間に蛋白質が凝集沈降する。この凝集物は,1回または2回以上の濾過工程により濾過することができる。」(摘示(刊1-6))
との記載を踏まえれば,蛋白質を凝集させるタンパク質凝集剤であるといえる。

以上のことを総合すると,本願発明のタンパク質凝集剤に「シリカゾル」が含まれ,その凝集の原理として正電荷も含まれていることからすると,引用発明の「正電荷シリカゾル」は,その機能からみて,本願発明の「タンパク質複合化剤,特にタンパク質凝集剤」に相当するといえる。

6 ヘイズ感受性タンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成について
引用発明の「正電荷シリカゾルを添加」した結果,「十分なフロック強度で蛋白質を凝集させることができ」(摘記(刊1-9),「本発明に従い正電荷シリカゾルを添加することにより,凝集・沈降したフロックのフロック強度が高められ」(摘記(刊1-7))る状態となることから,引用発明の「蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加」することで,蛋白質との強度の高いフロックが形成されていることは明らかである。

そうすると,引用発明の「蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加すること」により生ずるフロックと,本願発明の「ヘイズ感受性タンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成」するものとは,上記「1 ヘイズ感受性タンパク質について」で言及したタンパク質の違いを除けば,両発明共にフロックを形成するタンパク質であり一致することは明らかである。

7 該フロックまたは複合体を該液体からさらに分離することについて
引用発明に係る「液状物に含まれる蛋白質の除去方法」の「除去方法」は,刊行物1の摘示(刊1-6)の,
「正電荷シリカゾル,場合により負電荷シリカゾル及びその他の成分が添加された蛋白質を含有する液状物は,数分から数日の間に蛋白質が凝集沈降する。この凝集物は,1回または2回以上の濾過工程により濾過することができる。濾過に際しては,加圧濾過を採用してもよい。」
との記載を踏まえると,実質的に濾過工程により蛋白質を分離除去することであると解される。

そうすると,引用発明の「液状物に含まれる蛋白質の除去方法」は,実質的に濾過工程により蛋白質を分離除去することであるから,本願発明の「該フロックまたは複合体を該液体からさらに分離すること」に相当することは明白である。

8 タンパク質凝集剤の添加時期について
刊行物1に
【0014】正電荷シリカゾル,場合により負電荷シリカゾル及びその他の成分が添加された蛋白質を含有する液状物は,数分から数日の間に蛋白質が凝集沈降する。この凝集物は,1回または2回以上の濾過工程により濾過することができる。」(摘示(刊1-6))
と記載されているから,引用発明の「蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加する」タイミングは,濾過の前,すなわち,蛋白質を分離除去する前である。

そうすると,引用発明の「蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを添加する」タイミングは,本願発明の「タンパク質を含有する液体を,分離工程に提供する」「さらに,分離工程の前に,タンパク質凝集剤のタンパク質を含有する液体への添加」するというタイミングと一致する。

9 小括
したがって,両発明は,次の(一致点)及び(相違点1)?(相違点4)を有する。
(一致点)
「除去されるべきタンパク質を含有する液体を,分離工程に提供する工程を含む濁度が所定の程度改善された飲料を調製する方法であって,さらに,分離工程の前に,タンパク質複合化剤,特にタンパク質凝集剤の,該除去されるべきタンパク質を含有する液体への添加,除去されるべきタンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成を含み,該分離工程において該フロックまたは複合体を該液体からさらに分離することを特徴とする該方法。」

相違点1
飲料が,本願発明では「ビール」であるのに対して,引用発明では「液状物」である点。

相違点2
濁度の指標及びその値が,本願発明では「0.7EBC未満の25°ヘイズ」であるのに対して,引用発明では「液状物に含まれる蛋白質の除去方法」により達成された濁度の低減の程度は,濁度が著しく低くなっている(摘示(刊1-7))としか分からない点。

相違点3
液体に含有される除去されるべき「タンパク質」及びフロック又は複合体を形成する除去されるべき「タンパク質」が,本願発明では「ヘイズ感受性タンパク質」であるのに対し,引用発明では,蛋白質であるもののヘイズ感受性タンパク質とはされていない点。

相違点4
本願発明では,「濾過助剤として合成ポリマーまたはシリカまたはそれらの混合物を使用」するのに対し,引用発明では,濾過助剤について規定がない点。

第8 判断
1 相違点1について
刊行物1には,
「【0015】本発明の方法は,清酒,味醂,ワイン,ビール,食酢,醤油,魚醤,果汁等の蛋白質を含有する液状物の製造工程の原料調整,精製,廃液処理に至るまで様々な場面で適用することができる。」(摘示(刊1-6))
と記載のように,引用発明の「液状物」にビールが含まれることが記載されている。
引用発明において,「液状物」をビールとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

2 相違点2について
上記「第7 4 0.7EBC未満の25°ヘイズについて」で述べたように,本願発明でいうヘイズとは,EBC法(「Analytica-EBC,方法9.29,第5版」1997年)により規定される濁りを表す指標であって,本願発明の「25°ヘイズ」の値は,目に見える0.5μmを超えるような大きさの粒子による濁りを表す指標ということができる。

しかしながら,「ヘイズ」とは,ビールにおける濁度を表す指標として,例えば下記刊行物A?Cに記載のように一般的に用いられているものである。
しかも,刊行物2に
「大多数の商業的に生産されるビ-ルは,明るい色を有すると共に,微生物を有さないことを,その必要条件としている。一般に,これらの必要条件が満たされるのは,ビ-ルが0.5EBC以下のE.B.C.(ヨ-ロッパ醸造条約: European Brewing Convention)透明度を有すると共に,その微生物の含有量がリッタ-当たり5イ-スト(yeasts:酵母)以下の時である。」(摘示(刊2-2))
と記載されているように,0.5EBC以下のE.B.C透明度とすることが,条約上求められているものでもある。

他方,引用発明において「液状物に含まれる蛋白質」は,濁りを発生させる原因となるものであって,摘示(刊1-7)に記載のように濁度も測定し,濁りに注目しているところである。
上記「第8 1 相違点1について」で言及したように,引用発明において「液状物」として「ビール」を選択した場合,ビールで慣用されている濁度の指標であるヘイズ値を採用することはごく自然なことといえる。

そして,下記刊行物Dに記載のように食品を含めた粒子の測定の分野においては,「粒子径が大きいと相対的に前方への散乱光の割合が大きくなり,粒子径が小さくなるほど相対的に側方や後方への散乱光の割合が大きくなる」(摘示(刊D-1))ことが技術常識として知られており,ヘイズ値を測定するのに際して,目に見える0.5μmを超えるような大きさの粒子に注目して,25°という散乱角を選ぶことは適宜なし得た単なる設計的事項ともいえるし,ビールにおいて25°ヘイズを測定することは,下記刊行物Cに記載のように普通に行われているところでもある。

濁度の少ない飲料を作成しようとすることは,飲料一般の周知の課題であるし,引用発明においても濁度に影響する蛋白質を除去しようとしているのであるから,濁度の少ないビールを作成すべく,本願発明のごとく「0.7EBCの25°ヘイズ」とビールの濁度を規定する程度のことは,当業者が容易になし得たことといえる。

刊行物A:特開昭62-207712号
(刊A-1)「(1)当日濁度:
処理後瓶詰した当日のビールを20℃の温度で濁度をヘイズメーターにより測定した。
(2)50℃2週間保存後濁度:
処理後瓶詰したビールを50℃の恒温槽に入れ,2週間保存して劣化を促進させた後,温度を20℃としてビールの濁度をヘイズメーターにより測定した。尚,50℃で2週間保存した場合の劣化度は概ね20℃で6ケ月保存した場合に相当する。
(3)50℃2週間保存後寒冷混濁:
上記50℃保存後ビールを,更に0℃の恒温水槽に入れ,24時間寒冷混濁を析出させた後,0℃で濁度をヘイズメーターにより測定した。
[注](1)-(3)の濁度単位(EBCf.u.)と肉眼で見た濁りの状態は次の関係にある。
0?1 EBCf.u.清澄
1?2 〃 ごく僅かにぼやっとした濁りがわかる。
2?4 〃 軽く濁りがある。
4?8 〃 濁っている。
8以上 〃 濁りが著しい」(8頁左下欄1行?同頁右下欄4行)(当審注:「(1)」,「(2)」及び「(3)」は,何れも○の中に数字が入った文字を表す。)

刊行物B:特開平4-79876号公報
(刊B-1)「III.ビールの安定化処理評価
ビールの安定化処理による混濁前駆体の除去状態をつぎの方法で評価した。製品として市販されているビールを対象にして,下記条件で安定化処理をした後,下記に示す劣化促進条件に付し,ついで冷却して汚濁を発生させ,この発生混濁をヘイズメーター(濁度計)で測定し,一方安定化処理をせずに劣化促進条件に付した場合と比較し,この値から除去率(R)を求めて評価した。」(9頁左下欄1?9行)

刊行物C:WACKERBAUER K, EVERS H, KAUFMANN B ,Brauwelt ,”Die Truebungsmessung waehrend der Bierfiltration.” ,Vol.132 No.46 Page.2378,2380,2382-2386 (1992.11.12)
なお、翻訳は、当審によるものである。
(刊C-1)「ビール濾過中における混濁測定」(2378頁 標題)

(刊C-2)「比較的に大きい及び透明な粒子使用の際の測定(25度)は,有効である。例えば,この測定は水への珪藻土溶解の際に生じる。(図4) 測定装置(90度)が反応を示さずに混濁物質のこのような形態に反応することは認識される。微生物を用いた実験において,まずサッカロマイセス・ウバルムのような酵母が用いられる。用いられる酵母の中間の大きさは,約4-5マイクロメートルに達する。微生物は,通常,高い透明性を有している。また測定(25度)が優れた反応を示すことは疑う余地がない。同様に赤外線測定(90度)がこの感度に達することは驚くべきことである。(図5において認識できる。)珪藻土を用いた測定中に,この反応を認めることは出来ない。白色光(90度)を用いた測定は,強く遅滞しながら高い混濁に対して反応を示す。
短い棒による汚染された酵母浮遊液に関するさらなる実験は,非常に小さい粒子の検波の際に白色光測定(25度)の強さを示す。(図6) ここでバクテリア(その大きさは1マイクロメートル以下である)の存在に対して,測定(25度)が有効なものであるということが分かる。この実施例において差異が重要でないと示されているが,本質的に異なる反応は純正バクテリア浮遊液の使用において明確に示されている。ここでは,例としてセラチア・マルセセンスが示されている。(図7) 胚は,約0.5マイクロメートルから1マイクロメートルの大きさである。白色光測定(25度)の優位は,このような混濁において明確に認識される。醸造分析化学のために,このような特ならざる使用指示は存在しない。何故ならば,用いられる濃縮が偶発的な微量濃縮をはるかに上回り,またセラチア・マルセセンスが単に試験胚として濾過に用いられるからである。
この実験により,ことなる測定原理に関する測定反応傾向が認識される。赤外線測定(90度)は,同一の反応まで粒子(1マイクロメートル)測定時の白色光測定(25度)と類似している。この測定は,より小さい粒子の透明な粒子よりも感受性の強いものではない。
装置がビールにおける典型的な混濁形成に反応することは,実践濾過における観察の範囲で,及び様々な濾過精度を伴う濾過実験によって確かめられる。
実践濾過中の観察
珪藻土フィルターによる前段階濾過は,観察される。赤外線装置は,この時点ですぐに使用できるものではない。図8は,水を伴う前段階洗浄中の混濁経過を示している。確かに混濁曲線が定性経過を有しているが,測定(25度)が高められた要因2を求めることは認識される。測定(25度)が常に大きな粒子(例えば酵母または引き裂かれた珪藻土)の存在において測定(90度)より有効なのに対して,これは通常,実施される濾過とは反対である。(図9)実践濾過中に,濾過形成(珪藻土または酵母から生じない)が沈殿物を高い混濁(25度)において見出すことは明らかである。これによって測定(25度)は,不適切な濾過結果の指標として見なされる。
測定(25度)は,濾過可能な粒子の同定のために使用でき又は濾過可能な混濁の指標に適する。」(2383頁左欄46行?2385頁左欄12行)

刊行物D:特開2002-22503号公報
(刊D-1)「【0002】【従来の技術】粒度分布測定装置は,セラミックス,高分子化学,食品のような粉体を取扱う分野において,品質管理の用途に広く用いられている。たとえば,レーザ回折/散乱式の粒度分布測定装置では,粒子にレーザ光を照射した場合の散乱モードが,粒子の大きさに依存して変化することを利用して測定を行なう。すなわち,粒子径が大きいと相対的に前方への散乱光の割合が大きくなり,粒子径が小さくなるほど相対的に側方や後方への散乱光の割合が大きくなるので,散乱光データからMie散乱理論に基づいて粒度分布を計算する。」

3 相違点3について
ヘイズとは,ビールの分野において「濁り」を意味するものであって,ヘイズ感受性タンパク質とは,濁りの原因となるタンパク質であると理解されるところ,引用発明の実施例において「本発明に従い正電荷シリカゾルを添加した実施例1?3では,正電荷シリカゾルを添加していない比較例1に比べ,水押し時における濁度が著しく低くなっている。」(摘示(刊1-7))と記載され,結果として濁度が著しく低くなっていることに照らせば,引用発明の「蛋白質の除去方法」により除去される蛋白質には,濁りに影響する蛋白質,すなわち,本願発明のヘイズ感受性タンパク質に相当する蛋白質が含まれているといえる。

そうであるなら,引用発明の「蛋白質を含有する液状物」は,本願発明の「ヘイズ感受性タンパク質を含有する液体」に実質的に相当する。

また,刊行物1には,
「【課題】 十分なフロック強度で蛋白質を凝集させることができ,かつ簡易な工程で効率的に液状物から蛋白質を除去することができる方法を得る。
【解決手段】 蛋白質を含有する液状物に,正電荷シリカゾルを単独で,あるいは負電荷シリカゾルと併用して添加し,蛋白質を凝集させ除去することを特徴としている。」(摘示(刊1-9))
「本発明に従い正電荷シリカゾルを添加した実施例1?3では,正電荷シリカゾルを添加していない比較例1に比べ,水押し時における濁度が著しく低くなっている。従って,本発明に従い正電荷シリカゾルを添加することにより,凝集・沈降したフロックのフロック強度が高められ,濾過工程におけるフロックの破壊が防止され,極めて効率的に蛋白質を分離し得ることがわかる。」(摘示(刊1-7))
と記載されており,引用発明の「正電荷シリカゾル」(本願発明の「タンパク質凝集剤」に相当。)の添加によって,蛋白質の凝集により十分な強度のフロックが形成されていることが分かる。そして,フロックを形成する蛋白質は,上記したように濁度に影響する蛋白質でもある。
そうすると,引用発明の「正電荷シリカゾル」添加で,濁度に影響する蛋白質とのフロックが形成されることとなるから,かかるフロックの形成は,本願発明の「ヘイズ感受性タンパク質とのフロックまたは複合体のいずれかの形成」することに実質的に相当することは明白である。

以上のことから,相違点3は,表現上の差違に過ぎない。

4 相違点4について
刊行物1の摘示(刊1-5)には,
「本発明においては,正電荷シリカゾルに加えて,本発明の効果を損なわない範囲で,・・・柿渋,タンニン酸,PVPP(ポリビニルポリピロリドン),シリカゲル,ベントナイト,酸性白土,タルク,ミョウバン,ゼオライト,活性炭等の吸着剤,セルロース,ケイソウ土等のろ過助剤の一種または二種以上を併用してもよい。」との記載がある。

ところで,ビールのろ過助剤として,シリカや合成ポリマーを使用することは,例えば,刊行物2,下記刊行物E及び刊行物Fに記載のように本願優先権主張日前から周知である。

以上を踏まえれば,引用発明において,刊行物1の摘示(刊1-5)の教示に従って,ろ過助剤を併用することは,適宜なし得ることといえ,その際に,そのろ過助剤の材質を,上記周知の合成ポリマーやシリカ系のものとすることは,単なる設計的事項といえる。

刊行物E:国際公開第2003/084639号
なお翻訳は,対応する日本出願の公表特許公報である特表2005-527349号公報によるものである。
(刊E-1)「本発明は水性液をろ過および/または安定化するための,熱可塑性ポリマーを含むポリマーのろ過助剤および/または安定化剤としての使用に関する。」(1頁要約の欄)
(刊E-2)「1. 水性液をろ過および/または安定化するためのろ過助剤および/または安定化剤としての,以下を含むポリマーの使用:
(a) 1種以上の熱可塑性ポリマー 20?95重量%,および
(b) ケイ酸塩,炭酸塩,酸化物,シリカゲル,多孔質珪藻土,珪藻土,他のポリマーまたはこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の更なる物質 80?5重量%,
ただし,(a)に示す熱可塑性ポリマーはポリスチレン以外のものである。
・・・(略)・・・
10. 水性液がビールである,請求項6?9のいずれか1項に記載の方法。」(明細書11?12頁 特許請求の範囲の欄の請求項1及び請求項10)

刊行物F:特開2002-331211号公報
(刊F-1)「【発明の名称】濾過助剤としての粒状ポリマー 」

(刊F-2)「【0054】本発明に従って用いられるポリマー粉末は,化学的に不活性であることから,特に食品産業で使用するのに適しており,例えば,果汁飲料や発酵飲料を濾過するのに有用である。とりわけ,その良好な濾過効率のために,本発明に従って用いられるポリマー粉末はビールの濾過に適している。

5 本願発明の効果について
本願発明の効果は,刊行物1,刊行物2に記載された事項及び上記周知の技術的事項から予測されるところを越えて優れているとはいえない。

第9 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないので,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-22 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-06 
出願番号 特願2007-517484(P2007-517484)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (C12C)
P 1 8・ 121- Z (C12C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子今村 玲英子冨士 良宏  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
安藤 倫世
発明の名称 1以上のタンパク質複合化剤を使用することによる、後続の分離のためのタンパク質含有液を調製する方法  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 佐藤 剛  

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