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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J
管理番号 1282664
審判番号 不服2013-7774  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-26 
確定日 2014-01-08 
事件の表示 特願2008-135430「インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月 3日出願公開、特開2009-279865、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年5月23日の出願であって、平成24年12月3日付けで手続補正書が提出され、平成25年1月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正書が提出されたものである。
そして、当審において、同年10月9日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日付けで手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年11月8日付の手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「インクを吐出する開口を有するノズルに連通する圧力室が複数隣接し、駆動信号の印加により前記圧力室の容積を変化させる電気・機械変換手段を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
前記圧力室の容積を拡大するためのDrawパルスと、該Drawパルスの後に前記圧力室の容積を元に戻して前記ノズルからインクを吐出させるReleaseパルスとを有する駆動信号を20kHz以上の駆動周波数で前記記録ヘッドに印加して吐出を行う際、前記Drawパルスを印加する時点での前記ノズルのメニスカス位置の押し出し量が0より大きく、前記開口の直径の30%以下であり、
前記Drawパルスを印加する時点でのノズルの外側に押し出された量に相当する液滴量をVaとし、吐出された1滴の液滴量をVtとしたときに、以下の式を満足することを特徴とするインクジェット記録装置。
0<Va≦Vt/4」


第3 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2002-264333号公報、特開2006-76260号公報及び特開2007-196554号公報に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 当審の判断
1 刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2002-264333号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「【請求項1】インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録方法において、該インクが、色材、水及び水溶性有機溶剤を含み、25℃における粘度が5mPa・s以上であり、該ノズルの口径が30μm以下であり、吐出させるための記録ヘッドにかける電圧の駆動周波数が15kHz以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。

【請求項4】前記駆動周波数が20kHz以上であることを特徴とする請求項1乃至3記載のインクジェット記録方法。」(【特許請求の範囲】)
イ 「本発明においては記録ヘッドにかける電圧の周波数(以下駆動周波数ともいう)は15kHzであり、20kHz以上が好ましい。特に、20?50kHzの範囲が好ましく、特に20?35kHzの範囲が好ましい。」(【0031】)
ウ 「<ヘッドの作製>図1、2に示す本発明に用いられる記録ヘッドについて説明する。圧電材であるチタン酸ジルコン酸鉛による下部基板1bと上部基板1cを接着材6により接着して形成する。下部基板下部基板と上部基板は図2の矢印のように逆方向に分極している。上部基板と下部基板にまたがって複数の細長い溝を形成する。これにより複数の平行な隔壁と溝が形成される。
複数溝の内面にはメッキにより電極3を設ける。溝2に電極3を取りつけてから基板1の上面の一部を段加工して段部35を形成する。電極膜3の表面にパリレン等の絶縁膜17をコーティングし、絶縁膜17の表面を酸素プラズマ処理により親水化処理する。
接着剤6により隔壁4の上面に蓋8を接着し、隔壁4の端面に接着剤により封孔片25を取りつける。溝2の開口する端面にノズル孔11(ノズルの口径は下記実施例に示したものを用いた)を有するノズル板10を同じ接着剤6により接着して溝2の1つおきにインク室9を形成する。ノズル孔は各インク室に対応して設けられ、すなわち溝2に対応して1つおきに設けられている。蓋8の上部には共通溝5が彫られ、各インク室に連通するための孔12が設けられる。溝2は1つおきにノズル孔11と連通孔12をともに有する。蓋8の上部にはインク供給孔15を有する上板14が共通溝5の上部を覆うように接着剤6により接着される。
電極膜はそれぞれ蓋8の段部35に露出している引出し配線7につながっている。隔壁の上部に蓋板を接着剤で接着する。
インク供給孔15よりインクを供給し、図1、2の並列する溝2の1つおきに形成されたインク室2aにインクを満たす。両隣のダミー溝9′にはインクは供給されない。
引き出し線7に電気信号を送り、インク室2aの電極膜とその両側のダミー溝の電極膜の間にインク室の電極膜の電位が高電位となるように駆動電圧をかけるとインク室2aの両側の隔壁が内側に向けて変形し、インク室が収縮してインクを吐出し、続いてインク室電極膜を接地すると、変形がなくなりインクがインク室に再度満たされる。接着剤はエポキシ樹脂と硬化剤を組み合わせて用いた。」(【0034」?【0039】)
エ 【図1】及び【図2】から、インクを吐出するノズル孔に連通するインク室が複数隣接し、駆動電圧の印加により前記インク室の容積を変化させる圧電材を備える記録ヘッドが看取できる。
そうすると、刊行物1には、「インクを吐出するノズル孔を有するノズル板に連通するインク室が複数隣接し、駆動電圧の印加により前記インク室の容積を変化させる圧電材を備える記録ヘッドであって、駆動周波数が20kHzの駆動電圧をかけるとインク室の両側の隔壁が内側に向けて変形し、インク室が収縮してインクを吐出し、続いてインク室電極膜を接地すると、変形がなくなりインクがインク室に再度満たされる記録ヘッド。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-76260号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「本発明は、隣接ノズル駆動時の圧力変動を利用して吐出体積を変動させることができるインクジェットヘッドの駆動方法及びインクジェットヘッド記録装置に関する。」(【0001】)
イ 「図において、インクジェットヘッド1は、PZT等の圧電材料により形成された圧電材料2,3を図2に示すように2層積層した積層圧電部材4を有する。ここで、圧電部材2,3の分極方向は、矢印に示すように積層圧電部材4の板厚方向に沿って互いに反対方向である。
積層圧電部材4には、上側及び前面側が開放された複数の溝5が互いに平行となるように形成されている。これらの溝5は、ダイソーイングのダイヤモンドホイール等により研削加工される。この結果、各溝5は、側壁6により仕切られている。
溝5の内面及び積層圧電部材4の上面には、無電解ニッケルメッキ法により形成された複数の電極7が設けられている。ここで、電極7は特にニッケルに限るものではなく、例えば金や銅であってもよい。
溝5において、積層圧電部材4の前面側で開口している前面開口部8は、複数のノズル9が形成されたノズルプレート10により閉塞されている。
また、溝5の積層圧電部材4の上側に向けて開口している上側開口部11は、蓋部材12により閉塞されている。この蓋部材12には、図示しないインクタンク等に連通される後述する各インク13にインクを供給するインク供給管14が連通されるインク流路としてのインク供給路15が形成されている。
蓋部材12及びノズルプレート10によってヘッド基板の溝5の前面開口部8及び上側開口部11が閉塞されていることによりインク室13が形成される。各インク室13は、インク供給路15を介してそれぞれ連通されている。」(【0020】?【0025】)
ウ 「例えば、インク室13Bからインクを吐出させる場合について説明する。この場合には、インク室13Bの電極7Bとこのインク室13Bに隣接するインク室13A,13Cの電極7A,7Cとの間に図4に示すような波形を有する駆動パルスを印加する。
この駆動パルスは、インク室13に変化を与えない待機電圧Vresからインク室の容積を拡大させる第1電圧V1に変化した後に、インク室13を収縮させる第2電圧V2に変化する。
さらに詳細に説明すると、駆動パルスは、時刻t1において待機電圧Vresから第1電圧V1に立ち上がる。この電圧V1は一定時間(Tc/2)だけ保持される。なお、Tcは、インクのヘルムホルツ周期、すなわちインクのメニスカス共振周期である。そして、時刻t3において第1電圧V1から待機電圧Vresを経由して第2電圧V2まで急激に立ち下がる。この第2電圧V2は時刻t3からt5までの一定時間Tcだけ保持される。そして、時刻t5において第2電圧V2から待機電圧Vresまで急激に立ち上げ、この待機電圧Vresを一定時間保持させて後、時刻t8において急激に待機電圧Vresまで急激に立ち下げられる。
上記した時刻t1からt3までのパルスをプリパルスP1、時刻t4からt5までのパルスを吐出パルスP2、時刻t6からt8までのパルスをダンピングパルスP3と呼ぶことにする。
ここで、ダンピングパルスP3のパルス幅は、インク室13のインク圧力の残留振動を効果的にキャンセルできる値に設定される。例えば、このパルス幅は、インクやインクの供給形態等のようなヘッド構造により決定される。例えば、ダンピングパルスP3のパルス幅の中間点と時刻t5との間がTc/4に設定される。
次に、図4の駆動パルスによりメニスカス位置がどのように変化するかを図5を参照して説明する。例えば、インク室13Bに図4の駆動パルスが印加されると、プリパルスP1の立ち上がりで両側壁6がインク室13Bの容積を拡大するように外側に変形する。これにより、インク室13Bのインク圧力は低下する。プリパルスP1の第1電圧V1をそのまま保持し続けると、時刻t1からt2までの間は、インク室13Bのインク圧力は負となるため、メニスカス位置はAに示すように後退する。次に、時刻t2でインク室13Bのインク圧力は負圧から正圧に反転するため、時刻t2を過ぎると、メニスカス位置はBに示すように前進する。
そして、時刻t4の直前の時刻t3で吐出パルスP2を印加すると、メニスカスの前進速度にインク室13B内のインク圧力の上昇が重なって、ノズル9からインクが吐出される。
さらに、時刻t4では、プリパルスP1で発生したメニスカス位置は前進から後退に変化する。そして、このまま吐出パルスP2を保持し続けると、メニスカス位置はCに示すように時刻t4からt4´まで後退し続ける。そして、時刻t4´を過ぎると、メニスカス位置はDで示すように前進する。
その後、時刻t5で待機電圧Vresに戻し、時刻t6でダンピングパルスP3を印加することにより、インク室13B内のメニスカス振動が相殺されてEに示すように収束する。
このようにして、次のインク室13Bからのインクの吐出タイミングまでは、メイスカス振動が安定する。これにより、連続して高い駆動周波数でインクを吐出させることができる。」(【0032】?【0041】)
エ 「前述したように、本実施の形態では各組ではインク室13B→13A→13Cの順にインクを吐出させる動作が行なわれる。つまり、インク室13B→13A→13Cの順に駆動パルスが図9(B)?(D)に示すように供給される。インク室13Bはインク室13Aと13Cに側壁6を隔てて隣接しているため、側壁が変形するとその影響をインク室13Bが受ける。つまり、インク室13Aあるいはインク室13Cの容積が拡大する場合には、インク室13Bの容積は縮小し、インク室13Aあるいはインク室13Cの容積が縮小する場合には、インク室13Bの容積は拡大するように動作する。つまり、隣接するインク室13Aあるいは13Bに駆動パルスが印加されることによりインク室13Bのメニスカス位置は、図5の波形を反転した波形に相似する波形となる。
図9(C)の時刻t8でインク室13Aに対して図4に示す駆動パルスが印加されると、図9(A)の時刻t8からαに示すようにインク室13Bのメニスカス位置が変動する。
さらに、図9(D)の時刻t9でインク室13Cに対して図4に示す駆動パルスが印加されると、図9(A)の時刻t9からβに示すようにインク室13Bのメニスカス位置が変動する。
そして、図9(A)のインク室13Bのメニスカス位置は斜線で示すように前進した位置にくる。この斜線中でγで示した位置が最もメニスカス位置が前進した位置である。」(【0044】?【0047】)
オ 【図1】及び【図2】から、インクを吐出するノズルを有するノズルプレートに連通する圧力室が複数隣接し、駆動信号の印加により圧力室の容積を変化させる圧電材料を備える記録ヘッドが看取できる。さらに、【図9】から、インク室のメニスカス位置が前進した位置γのときにプリパルスP1を印加していることが看取できる。
そうすると、刊行物2には、「インクを吐出するノズルを有するノズルプレートに連通する圧力室が複数隣接し、駆動信号の印加により圧力室の容積を変化させる圧電材料を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置において、インク室のメニスカス位置が前進した位置のときに、インク室に駆動パルスを印加し、プリパルスの立ち上がりでインク室の容積を拡大するように外側に変形させ、次に、吐出パルスを印加し、ノズルからインクを吐出するインクジェット記録装置。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

(3)原査定の拒絶査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2007-196554号公報(以下「刊行物3」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 「図1は、インク滴吐出装置に用いられるインクジェットヘッド100の分解斜視図であり、複数枚のプレートを備えるキャビティユニット1にプレート型の圧電アクチュエータ2が接合され、このプレート型の圧電アクチュエータ2の上面に制御装置との接続のためのフレキシブルフラットケーブル3が接合されている。そして、キャビティユニット1の下面側に開口されたノズル4(図3参照)から、下向きにインクが吐出される。」(【0030】)
イ 「駆動パルス信号は、図5(a)に示すように、電圧値V1とV2との間で変化するパルスで構成されており、この実施形態では、V1は任意の正の電圧値(例えば約22V)、V2はゼロVに設定されている。インク吐出前は、全個別電極46に正の電圧V1が印加され、共通電極47が接地されているから、個別電極46と共通電極47との間の活性部54が伸長し、全圧力室36の容積が縮小された状態にある。インクを吐出しようとする圧力室36に対応する、積層方向の各個別電極46への電圧印加を停止する(V2に切り替える)と、活性部54が縮小状態に復帰して圧力室36の容積を拡大する。すると、圧力室36内のインクが負圧になり圧力波が発生する。この圧力波の圧力が反転して正圧になるタイミングで前記各個別電極46に再び電圧を印加すると、活性部54の伸長による圧力と、正圧に反転した圧力とが重畳され、インク滴がノズル4から吐出される。」(【0043】)
ウ 「図6において、駆動パルス信号は、3つのメインパルスを含む4つのパルスで構成され、これら4つのパルスが、第1メインパルスPm1、安定化パルスPs1、第2メインパルスPm2、第3メインパルスPm3の順に印加される。各パルスは、図5で説明したとおり、それぞれ圧力室の容積を拡大し、その後縮小するように圧電アクチュエータ2を駆動する。この構成の駆動パルス信号では、まず、第1メインパルスPm1によって圧力室内のインクに大きな圧力を与えてインク滴を吐出し、その後に安定化パルスPs1によって、圧力室内のインクの残留振動を抑え、続いて、第2メインパルスPm2と第3メインパルスPm3によって、再び、インク滴を連続して吐出する。第3メインパルスPm3は、吐出動作を行うとともにその吐出によって生じた圧力室内のインクの残留振動を抑える作用も有する。安定化パルスPs1は、インク滴を吐出することはない。
第1メインパルスPm1、安定化パルスPs1、第2メインパルスPm2、第3メインパルスPm3の各パルス幅を順(時系列)に、Tm1、Ts1、Tm2、Tm3とし、第1メインパルスPm1の終端と安定化パルスPs1の始端との間隔をW1、安定化パルスPs1の終端と第2メインパルスPm2の始端との間隔をW2、第2メインパルスPm2の終端と第3メインパルスPm3の始端との間隔をW3とし、これらの値(単位:μsec)を種々変えて発明者が実験を行った結果を図7に示す。このとき、図6の一連のパルスを一組として、これを26KHzの駆動周波数で、複数周期連続して駆動し、連続吐出したときの安定性を診た。
図7において、「安定性」は、吐出状態におけるしぶきやインクミストの発生の有無を観察して、連続吐出しても残留振動の影響がよく抑えられてしぶきやインクミストが無く最も安定性の高い状態を「○」、それに比較して多少安定性は劣るが実用的には問題ないものを「△」、安定性が劣り実用にはならないものを「×」とした。」(【0047】?【0049】)
そうすると、刊行物3には、「複数枚のプレートを備えるキャビティユニット1にプレート型の圧電アクチュエータ2が接合され、このプレート型の圧電アクチュエータ2の上面に制御装置との接続のためのフレキシブルフラットケーブル3が接合され、キャビティユニット1の下面側に開口されたノズル4から、下向きにインクが吐出される、インク滴吐出装置に用いられるインクジェットヘッドにおいて、第1メインパルスPm1、安定化パルスPs1、第2メインパルスPm2、第3メインパルスPm3の順に印加される駆動パルス信号を、連続吐出しても残留振動の影響がよく抑えられてしぶきやインクミストが無く最も安定性の高い状態となるようパルスの間隔W1W2W3を変えてなるインクジェットヘッド。」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。

2 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「インクを吐出するノズル孔」、「ノズル板」、「インク室」、「駆動電圧」、「圧電材」及び「記録ヘッド」は、それぞれ本願発明の「インクを吐出する開口」、「ノズル」、「圧力室」、「駆動信号」、「電気・機械変換手段」及び「記録ヘッド」に相当する。
よって、本願発明と引用発明1は、
「インクを吐出する開口を有するノズルに連通する圧力室が複数隣接し、駆動信号の印加により前記圧力室の容積を変化させる電気・機械変換手段を備える記録ヘッドであって、駆動信号を20kHz以上の駆動周波数で記録ヘッドに印加して吐出を行う記録ヘッド。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

(1)本願発明は、記録ヘッドを有するインクジェット記録装置の発明であるのに対し、引用発明1は、記録ヘッドの発明である点。(以下「相違点1」という。)

(2)インクを吐出する際の記録ヘッドの駆動に関し、本願発明は、圧力室の容積を拡大するためのDrawパルスと、該Drawパルスの後に前記圧力室の容積を元に戻してノズルからインクを吐出させるReleaseパルスとを有する駆動信号を前記記録ヘッドに印加して吐出を行う際、前記Drawパルスを印加する時点での前記ノズルのメニスカス位置の押し出し量が0より大きく、前記開口の直径の30%以下であり、前記Drawパルスを印加する時点でのノズルの外側に押し出された量に相当する液滴量をVaとし、吐出された1滴の液滴量をVtとしたときに、0<Va≦Vt/4を満足するのに対し、引用発明1は、駆動電圧をかけるとインク室の両側の隔壁が内側に向けて変形し、インク室が収縮してインクを吐出し、続いてインク室電極膜を接地すると、変形がなくなりインクがインク室に再度満たされる点。(以下「相違点2」という。)

3 判断
相違点2について、以下検討する。
上記「1 刊行物の記載事項 (2)」によれば、引用発明2の「ノズル」、「ノズルプレート」、「圧力室」、「圧電材料」、「吐出パルス」及び「インクジェット記録装置」は、それぞれ本願発明の「開口」、「ノズル」、「圧力室」、「電気・機械変換手段」、「ノズルからインクを吐出させるReleaseパルス」及び「インクジェット記録装置」に相当する。
引用発明2の「プリパルス」は立ち上がりでインク室の容積を拡大するように外側に変形させるものであるから、本願発明の「圧力室の容積を拡大するためのDrawパルス」に相当するとともに、引用発明2の「インク室のメニスカス位置が前進した位置のときに、インク室に駆動パルスを印加し」は、本願発明の「Drawパルスを印加する時点での前記ノズルのメニスカス位置の押し出し量が0より大きく」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明2は、
「インクを吐出する開口を有するノズルに連通する圧力室が複数隣接し、駆動信号の印加により前記圧力室の容積を変化させる電気・機械変換手段を備える記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
前記圧力室の容積を拡大するためのDrawパルスと、該Drawパルスの後に前記圧力室の容積を元に戻して前記ノズルからインクを吐出させるReleaseパルスとを有する駆動信号を前記記録ヘッドに印加して吐出を行う際、前記Drawパルスを印加する時点での前記ノズルのメニスカス位置の押し出し量が0より大きい、
インクジェット記録装置。」
との事項を備えている。
しかしながら、引用発明2は、相違点2に係る本願発明の「Drawパルスを印加する時点でのノズルのメニスカス位置の押し出し量が、開口の直径の30%以下であるのとともに、Drawパルスを印加する時点でのノズルの外側に押し出された量に相当する液滴量をVaとし、吐出された1滴の液滴量をVtとしたときに、0<Va≦Vt/4を満足する」との発明特定事項を備えていない。
また、上記「1 刊行物の記載事項 (3)」のとおり、引用発明3も、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えていない。
そして、本願発明は、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えることにより、同一のノズルから連続して安定に吐出でき、かつ吐出速度も落とすことなく高速で吐出して、高精細な画像を高速で記録しつつ、かつ、滴適量も増加させることができ、その相乗効果によって生産性が高い、という相反する特徴を併せ持ったインクジェット記録装置及び記録方法を提供できるとともに、液滴量VaとVtが上記式を満足することによって、しぶきが起こらないきれいな吐出が可能となるという顕著な効果を得ることができるものである(【0034】、【0133】?【0138】)。

したがって、本願発明は、引用発明1?3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本願発明に対して、その新規性及び進歩性を否定すべき出願日前の頒布刊行物は見当たらない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-11 
出願番号 特願2008-135430(P2008-135430)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 藤本 義仁
黒瀬 雅一
発明の名称 インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法  
代理人 丸山 英一  

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