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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B66B
管理番号 1282707
審判番号 不服2013-10114  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-03 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 特願2008-275035「乗客コンベア」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日出願公開、特開2010-100418、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年10月27日の出願であって、平成24年7月25日付けで拒絶理由が通知され、平成24年9月27日に意見書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成25年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年6月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明は、願書に最初に添付された明細書及び図面並びに平成24年9月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める(以下、「本願発明1」、「本願発明2」、「本願発明3」、「本願発明4」、「本願発明5」という。)。

「【請求項1】
建築構造物に設置された枠体と、この枠体に構成部材を設置した乗客コンベアにおいて、前記枠体を、間隔をあけて左右に対向する側板とこの側板の下部を連結する底板とを板材を折り曲げて形成した断面U字状部材と、この断面U字状部材の対向する側板に夫々固定されるレール支持部材と、前記左右の側板に固定されたレール支持部材の間隔を保持する横桁部材とで構成すると共に、前記断面U字状部材とレール支持部材と横桁部材とをねじ締結により連結し、かつ、前記左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、前記レール支持部材が前記強度部材、前記左右の側板、前記底板に対してねじ締結されたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記横桁部材は、複数設けられ、その一部は往路側レールと帰路側レールとの間において前記断面U字状部材に連結され、残りは帰路側レールよりも下方において前記断面U字状部材に連結されていることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記横桁部材は、複数設けられ、その一部は往路側レールと帰路側レールとの間において前記断面U字状部材に連結されると共に前記レール支持部材に連結され、残りは帰路側レールよりも下方において前記断面U字状部材に連結されていることを特徴とする請求項1又は2記載の乗客コンベア。
【請求項4】
建築構造物に設置された枠体と、この枠体に構成部材を設置した乗客コンベアにおいて、前記枠体を、間隔をあけて左右に対向する側板とこの側板の底部を連結する底板とを板材を折り曲げて形成し前記枠体の長手方向に複数に分割した断面U字状部材と、隣接する断面U字状部材を連結する連結部材と、前記断面U字状部材の対向する側板に夫々固定されるレール支持部材と、前記左右の側板に固定されたレール支持部材の間隔を保持する横桁部材とで構成すると共に、前記断面U字状部材と連結部材との間、前記断面U字状部材とレール支持部材との間及び前記断面U字状部材と横桁部材との間をねじ締結により連結し、かつ、前記左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、前記レール支持部材が前記強度部材、前記左右の側板、前記底板に対してねじ締結されたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項5】
建築構造物に設置された枠体と、この枠体に構成部材を設置した乗客コンベアにおいて、前記枠体を、長手方向両端に位置するトラス構造の枠体ユニットと、このトラス構造の枠体ユニットの間に位置する断面U字状部材ユニットと、これらトラス構造の枠体ユニットと断面U字状部材ユニットを連結する連結部材とで構成し、前記断面U字状部材ユニットを、間隔をあけて左右に対向する側板とこの側板の底部を連結する底板とを板材を折り曲げて形成した断面U字状部材と、この断面U字状部材の対向する側板に夫々固定されるレール支持部材と、前記左右の側板に固定されたレール支持部材の間隔を保持する横桁部材とで構成すると共に、前記断面U字状部材ユニットとトラス構造の枠体ユニットと連結部材との間、前記断面U字状部材ユニットとレール支持部材との間及び前記断面U字状部材ユニットと横桁部材との間をねじ締結により連結し、かつ、前記左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、前記レール支持部材が前記強度部材、前記左右の側板、前記底板に対してねじ締結されたことを特徴とする乗客コンベア。」

第3 原査定の理由の概要

この出願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開昭61-45880号公報
2.特開2003-137488号公報
3.実願平5-44519号(実開平7-13876号)のCD-ROM
4.実公昭58-42373号公報
5.特開昭61-18691号公報

第4 当審の判断

1.刊行物に記載された発明

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭61-45880号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「〔発明の利用分野〕
本発明は、エスカレータ-などのマンコンベアに係り、特にこのようなマンコンベアの本体フレームの構成に関する。」(第1ページ左下欄第16ないし19行)

b)「以下、本発明によるマンコンベアについて、図示の実施例により詳細に説明する。
第1図及び第5図は本発明の一実施例で、これらの図において、20?24は本体フレーム2を構成する部材で、20は左右一対になつた側面板、21は底面板、22は上弦材、23は縦材、24は底部補強材である。
1対の側面材20(当審注:「側面材20」は、「側面板20」の明らかな誤記と認める。)と底面板21とは所定の長さの平板材を折り曲げ形成し、本体フレーム2に必要な長さにするため、複数個にわたつて継合わされている。そして、このとき、第1図から明らかなように、その上縁部の側面形状は欄干1の下縁部Dの形状に合わせて曲線部を含む形状となるようにしてある。
上弦材22は側面板20の上端にマンコンベアの長さ方向に沿ってほぼ連続的に、かつそれに一体に固定された形鋼材であり、これにより強度上の梁としての役割りを担わせると共に、その上面は欄干lの取付面としての役割りが与えられるようになつている。
縦材23,底面補強材24はそれぞれ所定の間隔を保って側面板20と底面板21に沿って配置され、これらと一体に固定された形鋼材であり、これにより側面板20や底面板21の製造時に発生する歪や、応力による歪を抑える働きをする。
さらに、上弦材22,縦材23,底面補強材24は、それぞれ相互に溶接固定されて枠組体となっており、これに側面板20と底面板21が溶接歪の発生の少ないスポツト溶接などによつて固定されている。」(第2ページ右上欄第9行ないし左下欄第18行)

c)「そして、このパネル支え30と上弦材22の上面は外デツキ31や外モールデイング32の取付面としての役割りももち、ボルト33によつてこれらが取付けられるようになつている。なお、25は左右の縦材23を結んで取付けられ、この縦材23を含む側面板21の倒れを防止する働きをすると共に、ステツプ走行用のレール(図示せず)を取付けるための部材としての働きもする横桁材であり、34は外装板を表わす。」(第3ページ左上欄第1ないし9行)

d)「この第8図の実施例は、側面板20や底面板21(図示してない)を上弦材22,縦材23,それに底部補強材24(図示してない)の外側に設けたもので、その他は第7図の実施例と同じである。」(第3ページ右上欄第1ないし5行)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)a)及びb)並びに第1図の記載によれば、マンコンベアは、建築構造物に設置された本体フレーム2を備えていることが分かり、本体フレームには、マンコンベアの構成部材が設置されていることは自明である。

ロ)上記(1)b)ないしd)並びに第5ないし8図の記載によれば、本体フレーム2は、間隔をあけて左右に対向する側面板20とこの側面板20の下部を連結する底面板21とを平板材を折り曲げて形成した断面U字状部材と、横桁材25とを含んで構成されていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物1に記載された発明>

「建築構造物に設置された本体フレーム2と、この本体フレーム2に構成部材を設置したマンコンベアにおいて、本体フレーム2を、間隔をあけて左右に対向する側面板20とこの側面板20の下部を連結する底面板21とを平板材を折り曲げて形成した断面U字状部材と、横桁材25とで構成すると共に、断面U字状部材と横桁材25とを連結したマンコンベア。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2003-137488号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、乗客コンベアの主枠構造に関わり、特に軽量で量産性に優れた乗客コンベア本体の主枠構造に関する。」(段落【0001】)

b)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明においては、縦材と斜材は、主枠自重や機器重量による負担荷重が主弦材に比べて小さいため、主枠全体を軽量化するために、これらを一つの部材に統合する。統合化する手段としては、例えば、く字形状にプレス成形した部材を対向接合してX字形状の一つの連結部材を構成し、この連結部材を複数個、主弦材の長手方向に併設して、上弦材と下弦材の平坦面に対してそれぞれリベットやボルトを用いて突合わせ接合する。また、別の手段としては、連結部材の両端を折り曲げて、主弦材に突合わせ接合可能な平坦部を形成し、これらを互いに主枠の長手方向に対向させて主弦材をV字形状に連結する。このような構造においては、上記の連結部材を主弦材に突合わせ接合が可能とするために、主弦材は、例えばコ字やJ字形状などに加工され、主枠高さ方向に対して平坦面を有するような形状とする。さらに、連結部材に主枠の幅方向に突出した部分を一体成形する、もしくはあらかじめ製作した突起と同じ形状の部品を前記の連結部材に接合して、これにレールもしくは、左右連結部材を取り付ける。」(段落【0009】)

c)「【0011】連結部材5と主弦材3の接合においては、連結部材5の端面g、hをそれぞれ上弦材1の主枠高さ方向(Z方向)の内側平坦面(a面)、下弦材2の主枠高さ方向(Z方向)の内側平坦面(b面)に突合わせ接合する。主弦材3と連結部材5の接合においては、例えば、リベット10やボルトなどにより締結する。このような締結によれば、溶接による歪は全く発生しないため、主枠を高精度に組み立てることができる。また、連結部材5と主弦材3は突合わせ接合されているため、リベット10やボルトに大きなせん断力は働かない。さらに、主枠を溶接で構成した場合に比べて、主枠全体が低剛性化されているため、組立後の歪修正作業などが容易である。溶接接合では、雇内において仮付け点溶接を行なった後に、雇外で隅肉溶接を主体とした本溶接を行なっている。この場合、上向き溶接を避けるために、大型で立体的な主枠を反転させながら溶接を行なっているが、リベット10やボルトなどの締結によれば、主枠の反転作業も削減することができる。また、従来、主弦材3は入熱による溶接歪を小さくするために、形鋼の板厚を厚めにしていたが、熱影響が全くないために、主弦材3を薄板化することが可能となる。
【0012】主枠を構成する左右一対の枠体は、主枠高さ方向(Z方向)の中間部と最下部において左右連結部材8、13によって連結される。本発明では、中間部の左右連結部材8に主枠幅方向の平坦面を形成し、連結部材5においても中央部平坦面eに主枠幅方向(X方向)の突出部15を設け、これを折り曲げて主枠幅方向(X方向)の平坦面を形成する。このように形成した平坦面を互いに対抗させることによって、左右連結部材8、13を高精度に接合することが可能となる。
【0013】左右連結部材8をL型の軽量形鋼などにより構成する場合においては、前記のような主枠幅方向(X方向)の平坦面を形成することが困難なため、連結部材5の主枠長手方向(Y方向)の突出部15を折り曲げずに前記左右連結部材8を主枠長手方向(Y方向)の平坦面に連結してもよい。また、このような左右連結部材8、13を前記連結部材5と同様にX字形状により構成し、左右の枠体を連結することも可能である。この連結手段は、X字状に限定されず、V字状やN字状であってもよい。
【0014】連結部材5は主枠の幅方向(X方向)に複数の突起部7を有しているため、この突起部7にレール(27:図3参照)を設置することが可能である。なお、この突起部7を鋼板のプレス成形品等であらかじめ別部材として製作しておき、連結部材5にボルトなどで後付けしてもよい。このような構成により、レール(27:図3参照)を取り付ける支持台を縦材(45:図9参照)に溶接する必要がなくなり、部品点数を削減できる。」(段落【0011】ないし【0014】)

(5)上記(4)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)a)及びb)並びに図1、3及び9の記載によれば、乗客コンベアは建築構造物に設置された主枠を備え、この主枠に構成部材を設置していることが分かる。

ロ)上記(4)b)及びc)並びに図1及び3の記載によれば、突起部7は、左右に対向する連結部材5に夫々固定されており、かつ、左右連結材8は、左右の連結部材5に固定されていることから、実質的に、左右連結材8は、左右の連結部材5に固定された突起部7の間隔を保持する機能を備えていることが分かる。

ハ)上記(4)a)ないしc)並びに図1及び3の記載によれば、主枠は、間隔をあけて左右に対向する連結部材5と対向する連結部材5に夫々固定される突起部7と、左右の連結部材5に固定された突起部7の間隔を保持する左右連結材8とを含んで構成されていることが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物2に記載された発明>

「建築構造物に設置された主枠と、この主枠に構成部材を設置した乗客コンベアにおいて、主枠を、間隔をあけて左右に対向する連結部材5と対向する連結部材5に夫々固定される突起部7と、左右の連結部材5に固定された突起部7の間隔を保持する左右連結材8とを含んで構成すると共に、連結部材5と突起部7及び連結部材5と左右連結材8とをボルトにより連結し、突起部7が左右の側板に対してボルトにより連結された乗客コンベア。」

(7)刊行物3の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である実願平5-44519号(実開平7-13876号)のCD-ROM(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0009】
同図において、トラス1は、エスカレーターのステップ2の両側に垂直方向に配設されてC型鋼からなる一対の柱材3,4を有している。一対の柱材3,4のそれぞれの上下両端には角パイプからなる外枠材5,6および7,8が溶接され、またこの柱材3,4にはこの略中間位置にC型鋼からなる梁材9が架設されている。梁材9と柱材3,4とには一般構造用圧延鋼材の支持板材10,11がボルトによって取り付けられ、この支持板10,11にはレール12,13および14,15が設けられている。」(段落【0009】)

(8)上記(7)及び図面の記載より分かること

イ)上記(7)a)及び図1の記載によれば、エスカレーターは建築構造物に設置されたトラス1を備え、このトラス1に構成部材を設置していることが分かる。

ロ)上記(7)a)及び図1の記載によれば、支持部材10,11は、左右に対向する柱材3,4に夫々固定されており、かつ、梁材9は、左右の柱材3,4に固定されていることから、実質的に、梁材9は、左右の柱材3,4に固定された支持部材10,11の間隔を保持する機能を備えていることが分かる。

(9)刊行物3に記載された発明

したがって、上記(7)及び(8)を総合すると、刊行物3には次の発明(以下、「刊行物3に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物3に記載された発明>

「建築構造物に設置されたトラス1と、このトラス1に構成部材を設置したエスカレーターにおいて、トラス1を、間隔をあけて左右に対向する柱材3,4と対向する柱材3,4に夫々固定される支持部材10,11と、左右の柱材3,4に固定された支持部材10,11の間隔を保持する梁材9とを含んで構成すると共に、柱材3,4と支持部材10,11とをボルトにより連結し、支持部材10,11が左右の柱材3,4に対してボルトにより連結されたエスカレーター。」

(10)刊行物4の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である実公昭58-42373号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「この考案はエスカレータの踏段装置及び欄干等を支えるフレーム構造に関するものである。」(第1ページ左欄第27及び28行)

b)「以下、この考案フレーム構造の一実施例を第3図及び第4図、第5図の図面に従い説明すると、図中1は傾斜部1aの上下に水平部1b,1cを有する左右一組の側枠フレームを示し、この両側枠フレーム1は例えば、下段、中段、上段の3個の分割フレームユニツト11,12,13を長手方向に一体に接続して構成されるもので、各分割フレームユニツト11?13は上下に内向き補強縁を上梁2a及び下梁3aとして折曲形成した外装板兼用の・・・・・中略・・・・・成形鋼板Aと、この成形鋼板Aの内面部に上下梁2a,3a間を結合するようにスポツト溶接して取付けられた補強部材Bとからなり、・・・・・中略・・・・・15,16は上記側枠フレーム1,1をエレベータ(審決注:「エレベータ」は「エスカレータ」の明らかな誤記と認める。)全幅に相当する間隔を保つて連結する中横梁と底部フレームを示し、この底部フレーム16は・・・・・中略・・・・・両側枠フレーム1,1の各ユニツト下梁3aにスポツト溶接等の手段により第5図の如く取付けられる。なお上記中横梁15は両側枠フレーム1,1の各ユニツト補強部材B,B間に横架して溶接により取付けられる。」(第1ページ右欄第19行ないし第2ページ左欄7行)

(11)上記(10)及び図面の記載より分かること

イ)上記(10)a)及びb)並びに第3ないし5図の記載によれば、エスカレータは建築構造物に設置されたフレーム構造を備え、このフレーム構造に構成部材を設置していることが分かる。

ロ)上記(10)b)及び第5図の記載によれば、フレーム構造は、間隔をあけて左右に対向する成形鋼板Aとこの成形鋼板Aの下部を連結する底部フレーム16とで形成した断面U字状部材と、中横梁15とを含んで構成されていることが分かる。

(12)刊行物4に記載された発明

したがって、上記(10)及び(11)を総合すると、刊行物4には次の発明(以下、「刊行物4に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物4に記載された発明>

「建築構造物に設置されたフレーム構造と、このフレーム構造に構成部材を設置したエスカレータにおいて、フレーム構造を、間隔をあけて左右に対向する成形鋼板Aとこの成形鋼板Aの下部を連結する底部フレーム16とで形成した断面U字状部材と、中横梁15とを含んで構成すると共に、断面U字状部材と中横梁15とを連結し、かつ、左右の成形鋼板Aの上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて上梁2aとしたエスカレータ。」

(13)刊行物5の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭61-18691号公報(以下、「刊行物5」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「〔発明の利用分野〕
本発明はエスカレータに使用されるフレームの構造の改良に関するものである。」(第2ページ左上欄下から3行ないし末行)

b)「第20図は本発明に係わるフレームの第3実施例を示したもので、この実施例の側部フレーム5Iは平板20の内側面に上・下部主弦部材12,13を、外側面に縦部材19を取付け、前記両主弦部材12,13と縦部材19との間の力の伝達を平板20を介して行うように構成したものである。」(第7ページ右下欄第3ないし9行)

c)「第25図は側部フレームの第8実施例を示したもので、この実施例の側部フレーム5Nは、外表面に、かつ幅方向(上下方向)に突起部46aを複数個並設した平板46と、この平板46の上,下部に接合した主弦部材12,13と、この両主弦部材12,13間に長手方向に金具48を介して取付けた踏板用走行レール47とからなり、前記金具48は平板46の突起部46aにスポツト溶接されている。」(第8ページ右下欄第6ないし14行)

(14)上記(13)及び図面の記載より分かること

イ)上記(13)a)ないしc)並びに第20及び25図の記載によれば、エスカレータは建築構造物に設置されたフレームを備え、このフレームに構成部材を設置していることが分かる。

ロ)上記(13)a)ないしc)並びに第20及び25図の記載によれば、フレームは、間隔をあけて左右に対向する平板46を含んで構成されていることが分かる。

(15)刊行物5に記載された発明

したがって、上記(13)及び(14)を総合すると、刊行物5には次の発明(以下、「刊行物5に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物5に記載された発明>

「建築構造物に設置されたフレームと、このフレームに構成部材を設置したエスカレータにおいて、フレームを、間隔をあけて左右に対向する平板46を含んで構成し、金具48が左右の平板46に対してスポット溶接されたエスカレータ。」

2.対比

本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「本体フレーム2」、「側面板20」、「底面板21」、「平板材」、「横桁材25」及び「マンコンベア」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本願発明1における「枠体」、「側板」、「底板」、「板材」、「横桁部材」及び「乗客コンベア」に相当する。
してみると、本願発明1と刊行物1に記載された発明とは、
「建築構造物に設置された枠体と、この枠体に構成部材を設置した乗客コンベアにおいて、枠体を、間隔をあけて左右に対向する側板とこの側板の下部を連結する底板とを板材を折り曲げて形成した断面U字状部材と、横桁部材とで構成すると共に、断面U字状部材と横桁部材とを連結した乗客コンベア。」の点で一致し、次の2点で相違する。

<相違点1>

「枠体」の「構成」及び「横桁部材」並びに「連結」に関して、
本願発明1においては、「枠体」の「構成」として、「断面U字状部材の対向する側板に夫々固定されるレール支持部材」を含んでおり、「横桁部材」が「レール支持部材の間隔を保持する」ものであり、「断面U字状部材とレール支持部材と横桁部材とをねじ締結により連結し」ているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「本体フレーム2(本願発明1における「枠体」に相当する。)」の「構成」として、「断面U字状部材の対向する側板に夫々固定されるレール支持部材」を含んでいるか否か不明であり、「横桁材25(本願発明1における「横桁部材」に相当する。」が「レール支持部材の間隔を保持する」ものでるか否か不明であり、「断面U字状部材と横桁材25とを連結し」ているものの、「断面U字状部材とレール支持部材と横桁部材とをねじ締結により連結し」ているか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本願発明1においては、「左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、レール支持部材が強度部材、左右の側板、底板に対してねじ締結され」ているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、そのようになっているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

3.判断

(1)本願発明1について

事案に鑑み、まず相違点2について検討する。

相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の「左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、レール支持部材が強度部材、左右の側板、底板に対してねじ締結され」は、これにより、「レール支持部材が、断面U字状部材の強度部材(上面)、左右の側板(側面)及び底板(底面)の3方向でねじ締結されるため、レール支持部材が断面U字状部材の強度部材を兼ねる(レール支持部材が断面U字状部材の強度を補強する)ことができる。したがって本願発明の乗客コンベアは、溶接を用いずとも十分な強度を得ることができる。」(審判請求書【請求の理由】3.(1)の(発明の作用効果)参照。)との効果を奏する。
そして、この効果は、願書に最初に添付した明細書若しくは図面又は平成24年9月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載から自明な事項である。
一方、「左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、レール支持部材が強度部材、左右の側板、底板に対してねじ締結され」る点について、上記刊行物1ないし5には、記載も示唆も無く、また、技術常識であるとも認められない。
そうすると、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項については、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
なお、本願発明1と刊行物2ないし5に記載された発明のうちの何れの発明とを対比しても、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の「左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、レール支持部材が強度部材、左右の側板、底板に対してねじ締結され」る点は、相違点として存するものである。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2及び3について

本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項に新たな発明特定事項を付加して限定を付したものであり、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と同一の発明特定事項を備えるものであるから、上記(1)と同様の理由により、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明4について

本願発明4は、実質的に、本願発明1の発明特定事項に新たな発明特定事項を付加して限定を付したものであり、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の「左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、レール支持部材が強度部材、左右の側板、底板に対してねじ締結され」と同一の発明特定事項を備えるものであるから、上記(1)と同様の理由により、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明5について

本願発明5は、実質的に、本願発明1の発明特定事項に新たな発明特定事項を付加して限定を付したものであり、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の「左右の側板の上端部を、互いに対向する方向に折り曲げて強度部材とし、レール支持部材が強度部材、左右の側板、底板に対してねじ締結され」と同一の発明特定事項を備えるものであるから、上記(1)と同様の理由により、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明1ないし5は、刊行物1ないし5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-25 
出願番号 特願2008-275035(P2008-275035)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 武井 健浩大塚 多佳子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 林 茂樹
久島 弘太郎
発明の名称 乗客コンベア  
代理人 ポレール特許業務法人  

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