ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
---|---|
管理番号 | 1282716 |
審判番号 | 不服2013-10928 |
総通号数 | 170 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-11 |
確定日 | 2013-12-20 |
事件の表示 | 特願2010-515951「光学情報記録媒体用基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日国際公開、WO2009/148174〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年6月1日(優先権主張 平成20年6月4日)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年9月5日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月22日付けで手続補正がなされたが、平成25年3月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月11日付けで拒絶査定不服審判請求及び手続補正がなされた。 その後、平成25年7月31日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、同年9月26日付けで回答書が提出されたものである。 2.補正の適否・本願発明 平成25年6月11日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、 本件補正前には、 「【請求項1】 (i)粘度平均分子量16,000?18,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および(ii)ベヘン酸モノグリセライドを0.005?0.05重量部を含有する樹脂組成物を射出成形することからなる折曲げ性に優れた光学情報記録媒体用基板の製造方法。 【請求項2】 ベヘン酸モノグリセライドのナトリウム金属塩の含有量が、1ppm未満である請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 樹脂組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.002?0.01重量部含有する請求項1または2に記載の製造方法。 【請求項4】 芳香族ポリカーボネート樹脂が、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンより誘導される繰り返し単位からなる請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項5】 芳香族ポリカーボネート樹脂が、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重合法で反応させて得られるものである請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項6】 (i)粘度平均分子量16,000?18,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および(ii)ベヘン酸モノグリセライドを0.005?0.05重量部を含有する樹脂組成物を基板の成形材料とすることを特徴とする光学情報記録媒体用基板の折曲げ性を向上させる方法。」 とあったものが、 「【請求項1】 (i)粘度平均分子量16,000?18,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および(ii)ベヘン酸モノグリセライドを0.005?0.05重量部を含有する樹脂組成物を射出成形することからなる折曲げ性に優れた光学情報記録媒体用基板の製造方法。 【請求項2】 ベヘン酸モノグリセライドのナトリウム金属塩の含有量が、1ppm未満である請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 樹脂組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.002?0.01重量部含有する請求項1または2に記載の製造方法。 【請求項4】 芳香族ポリカーボネート樹脂が、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンより誘導される繰り返し単位からなる請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。 【請求項5】 芳香族ポリカーボネート樹脂が、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重合法で反応させて得られるものである請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法。」 と補正された。 上記補正は、本件補正前の請求項6を削除したものであり、請求項1ないし5については本件補正前後で変更はない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年6月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 (i)粘度平均分子量16,000?18,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および(ii)ベヘン酸モノグリセライドを0.005?0.05重量部を含有する樹脂組成物を射出成形することからなる折曲げ性に優れた光学情報記録媒体用基板の製造方法。」 3.引用列 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2006/025587号(以下、「引用例」という。)には、「光ディスクの基板の製造方法」として、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。 (1)「6. トラックピッチが0.74μm以下の光ディスクの基板の製造方法であって、 該方法は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対しベヘン酸モノグリセリドを0.005?0.2重量部添加された樹脂組成物を準備する工程(1)、並びに該樹脂組成物を射出成形し、半径方向にトラックピッチと同一の間隔で配置された、ピットトラック、グルーブトラック、ランドトラックまたはランド・グルーブトラックを有する基板を得る工程(2)からなり、 該芳香族ポリカーボネート樹脂はナトリウム金属の含有量が0.0005?0.05ppmで、粘度平均分子量が10,000?20,000であり、 該ベヘン酸モノグリセリドはナトリウム金属の含有量が1ppm未満であることを特徴とする基板の製造方法。」(24頁3?14行) (2)「樹脂組成物の製造 本発明の樹脂組成物の製造方法は、PC100重量部に対しGMBを0.005?0.2重量部添加された樹脂組成物を得る工程(1)からなる。ここで該PCはナトリウム金属の含有量が0.0005?0.05ppmで、粘度平均分子量が10,000?20,000であり、該GMBはナトリウム金属の含有量が1ppm未満である。 GMBは、PC100重量部に対し、好ましくは0.03?0.09重量部、より好ましくは0.04?0.05重量部添加する。GMBの添加量が、PC100重量部に対し、0.005重量部未満ではクラウド軽減効果が期待できず、逆に0.2重量部を超えると色相や光線透過率の悪化、さらには付着物の増加が看過できないレベルまで達する場合がある。工程(1)を自ら実施するか、工程(1)で得られた樹脂組成物を購入し、工程(2)に用いる樹脂組成物を準備することができる。 ベヘン酸モノグリセリド:GMB GMBは、長鎖脂肪酸であるベヘン酸とグリセリンのモノエステルである。」(6頁8?22行) (3)「該PCの粘度平均分子量(M)は、10,000?20,000、好ましくは12,000?20,000、より好ましくは14,000?18,000である。かかる粘度平均分子量を有するPCは、光学用材料として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。 本発明でいう粘度平均分子量は、塩化メチレン100mlにPC0.7gを20℃で溶解した溶液を用いて測定された比粘度(ηSP)を次式に挿入して求めるMを意味する。 η_(SP/c)=[η]+0.45×[η]^(2)c(但し[η]は極限粘度) [η]=1.23×10^(-4)M^(0.83) c=0.7」 (8頁21行?9頁3行) (4)「基板の製造方法 本発明の基板の製造方法は、工程(1)および工程(2)からなる。工程(1)は前述の通りである。工程(2)は、工程(1)で得られた樹脂組成物を射出成形し、半径方向にトラックピッチと同一の間隔で配置された、ピットトラック、グルーブトラック、ランドトラックまたはランド・グルーブトラックを有する基板を得る工程である。本工程では、工程(1)を自ら実施するか、工程(1)で得られた樹脂組成物を購入し、樹脂組成物を準備することができる。 射出成形は、好ましくは、工程(1)で得られた樹脂組成物を熱溶融してスタンパーを設置した金型のキャビティー内に充填し、加圧した後、冷却し、離型する工程からなる。」(13頁19?28行) (5)「合成例1(芳香族ポリカーボネートパウダーの合成) 温度計、攪拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水219.4部、48%水酸化ナトリウム水溶液40.2部を仕込み、これに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン57.5部(0.252モル)およびハイドロサルファイト0.12部を溶解した後、塩化メチレン181部を加え、・・・・(中 略)・・・・、ニーダーにて塩化メチレンを蒸発させて、粘度平均分子量15,000のパウダーを得た。このパウダーにトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルホスファイトを0.01重量%を加え、芳香族ポリカーボネートパウダーを得た。 得られたポリカーボネートパウダーのナトリウム金属含有量は0.008ppmであった。 実施例1?2 (工程(1)) 上記の芳香族ポリカーボネートパウダー100重量部に対し、表1に示す離型剤を表1に示す量、添加混合し、ベント式二軸押出機(日本製鋼所(株)製TEX-30α)によりシリンダー温度220℃で脱気しながら溶融混練しペレットを得た。表1に示す離型剤は、理研ビタミン(株)に依頼して製造したものを用いた。樹脂組成物を用いて評価用の試験片を成形し、色相、光線透過率の評価を行った。結果を表1に示す。 (工程(2)) 工程(1)で得られたペレットを用いて、名機製作所(株)製の射出成形機M-35B-D-DMと、型システム製のDVD金型(スタンパー内径22mm、可動側スタンパー取付)によりDVD-ROM基板(トラックピッチ0.74μm)をシリンダ温度375℃、・・・・(中 略)・・・・、冷却時間3.7secの条件で成形し、DVD-ROM基板を得た。」(18頁22行?20頁1行) (6)表1(21頁)によれば、実施例としての離型剤である「グリセリン モノベヘネート」の添加量は、芳香族ポリカーボネートパウダー100重量部に対し、0.0420重量部である。 ・上記(1)(4)(5)の記載事項によれば、光ディスクの基板は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して離型剤であるベヘン酸モノグリセリド(GMB)を添加された樹脂組成物を射出成形することにより製造されるものである。 ・上記(3)(5)の記載事項によれば、上記芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、10,000?20,000、より好ましくは14,000?18,000であり、実施例では15,000である。かかる粘度平均分子量であれば、光学用材料として十分な強度が得られ、また、成形歪みが発生しない。 ・上記(1)(2)(6)の記載事項によれば、上記ベヘン酸モノグリセリド(GMB)の添加量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.005?0.2重量部、より好ましくは0.04?0.05重量部であり、実施例では0.042重量部である。 したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「粘度平均分子量がより好ましくは14,000?18,000(実施例では15,000)の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、離型剤であるベヘン酸モノグリセリド(GMB)をより好ましくは0.04?0.05重量部(実施例では0.042重量部)を添加された樹脂組成物を射出成形するようにした光学用材料として十分な強度を有する光ディスクの基板の製造方法。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、 (1)引用発明における「粘度平均分子量」、「芳香族ポリカーボネート樹脂」、「ベヘン酸モノグリセリド(GMB)」、「樹脂組成物」は、それぞれ本願発明における「粘度平均分子量」、「芳香族ポリカーボネート樹脂」、「ベヘン酸モノグリセライド」、「樹脂組成物」に相当し、 引用発明における「粘度平均分子量がより好ましくは14,000?18,000(実施例では15,000)の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、離型剤であるベヘン酸モノグリセリド(GMB)をより好ましくは0.04?0.05重量部(実施例では0.042重量部)を添加された樹脂組成物・・」によれば、ベヘン酸モノグリセリド(GMB)の添加量については、より好ましくは0.04?0.05重量部であり、実施例でも0.042重量部であって、本願発明の「0.005?0.05重量部」であるとする範囲内の値と一致することから、 本願発明と引用発明とは、「(i)所定の粘度平均分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および(ii)ベヘン酸モノグリセライドを0.042重量部(0.005?0.05重量部の範囲内の値)を含有する樹脂組成物・・」の点で共通するといえる。 (2)引用発明における「光ディスクの基板」は、引用発明における「光学情報記録媒体用基板」に相当し、 引用発明における「・・樹脂組成物を射出成形するようにした光学用材料として十分な強度を有する光ディスクの基板の製造方法」によれば、本願発明と引用発明とは、「・・樹脂組成物を射出成形することからなる光学情報記録媒体用基板の製造方法」である点で共通する。 よって、本願発明と引用発明とは、 「(i)所定の粘度平均分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および(ii)ベヘン酸モノグリセライドを0.042重量部(0.005?0.05重量部の範囲内の値)を含有する樹脂組成物を射出成形することからなる光学情報記録媒体用基板の製造方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量について、本願発明では、「16,000?18,000」であり、射出成形された基板は「折曲げ性に優れた」ものであると特定するのに対し、引用発明では、より好ましくは14,000?18,000であるものの、実施例では15,000であり、射出形成された基板の折曲げ性についての特定はない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 光ディスク用基板に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量について、その値を高くすると、複屈折などの光学特性や成形性が低下するものの強度(機械特性)が高まり、例えば、反りが生じにくい、耐衝撃性が増すといったことは、例えば原査定の拒絶の理由に引用された下記文献1(段落【0016】、【0025】を参照)、同じく原査定の拒絶の理由に引用された下記文献2(段落【0029】を参照)、さらには下記文献3(段落【0036】を参照)、下記文献4(8頁左上欄18行?同頁右上欄4行を参照)、下記文献5(段落【0035】を参照)、下記文献6(段落【0024】を参照)に記載のように周知といえる技術事項であり、引用発明においても、例えば文献1の段落【0025】に記載のように、光学特性が多少悪化しても機械特性を優先させるようにし、芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量をより好ましいとする14,000?18,000の範囲内において、実施例として示された15,000よりも高い値を選択するようにすることは当業者にとって容易になし得ることである。 ここで、選択する15,000よりも高い値に関して、例えば文献1(表-1を参照)には実施例として17,500や18,000が示され、文献4(10頁右上欄11行?同頁左下欄17行を参照)には実施列として16,400、16,500、17,000が示され、文献5(表1を参照)には実施例として16,700や16,800が示され、文献6(表1を参照)には実施例として17,100、17,300、17,500が示されているところであり、本願発明の「16,000?18,000」の範囲を満たす値とすることは適宜なし得ることである。 そして、本願発明の奏する効果、とりわけ「折曲げ性に優れた」という効果についてみても、どの程度をもって折曲げ性に「優れた」というのか明確でないが、上述のとおり、芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の値を高くすると、強度(機械特性)が高まり、例えば耐衝撃性が増すことは周知といえる技術事項であることからすれば、折曲げ性の向上という効果は引用発明及び周知の技術事項から当業者であれば予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。 文献1:特開平11-273146号公報 文献2:特開2007-238959号公報 文献3:特開2000-268404号公報 文献4:特開平3-238630号公報 文献5:特開2005-325230号公報 文献6:特開2006-131788号公報 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-11 |
結審通知日 | 2013-10-16 |
審決日 | 2013-10-29 |
出願番号 | 特願2010-515951(P2010-515951) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 原田 貴志 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
酒井 伸芳 井上 信一 |
発明の名称 | 光学情報記録媒体用基板の製造方法 |
代理人 | 白石 泰三 |
代理人 | 大島 正孝 |