• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1282745
審判番号 不服2012-21528  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-31 
確定日 2013-12-18 
事件の表示 特願2001-565303号「ポリマー層でコーティングされた透明基体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年9月13日国際公開、WO01/66481、平成15年10月7日国内公表、特表2003-529462号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年3月7日(パリ条約による優先権主張 2000年3月8日 (FR)フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月4日付けの拒絶理由に対して、同年9月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年6月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月31日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年9月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 減圧下で堆積させたポリマー層が、減圧下で堆積させた有機又は有機無機質の付着性予備層を有し、前記ポリマー層の厚さが、前記付着性予備層の厚さの少なくとも5倍の厚さであり、前記付着性予備層の厚さが、0.5?2nmであることを特徴とする、減圧下で堆積させたポリマー層によって表面の少なくとも一部がコーティングされている透明基体。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用した国際公開第97/45209号(以下、「引用例」という。)には、以下の記載及び表示がある。
(a)請求項1
「CLAIMS 1. A method of depositing a layer of surface coating material, the method comprising the steps of: depositing, within a vacuum chamber, a layer of surface adhesion promotion material on a surface of a substrate; and depositing, within the vacuum chamber, a layer of a surface coating material on a surface of the layer of the surface adhesion promotion material so that the layer of surface coating material has an adhesion of greater than about 3.75 pounds per inch according to a hesiometry test.」
[1.表面被覆材料の層を蒸着する方法であって、真空室内で、表面付着促進材料の層を下地の表面に蒸着する段階と;真空室内で、表面被覆材料の層を表面付着促進材料の層の表面に蒸着する結果、該表面被覆材料の層が、付着測定試験によれば1cmあたり約0.66kg(1インチあたり約3.75ポンド)より大きい付着力を有する段階とを含む方法。]([]内の訳文は、パテントファミリーである特表2000-511971号公報の該当記載を援用する。以下、同じ。)

(b)明細書第1頁第6?10行
「1. Field of the Invention
The present invention relates generally to chambers for promoting surface adhesion under vacuum as well as methods of using same, and more particularly to such chambers and methods which may be used with surface adhesion promotion materials as well as surface coating materials.」
[1.発明の分野
本発明は、一般的には、減圧下で表面付着を促進するための室、およびそれを用いる方法に関し、より詳しくは、表面付着促進材料や表面被覆材料とともに用い得るそのような室および方法に関する。]

(c)明細書第2頁第7?9行
「Canadian Patent No. 1,119,056 discloses a method of applying a surface adhesion promotion material,such as gamma-methacryloxypropyltrimethoxysilane (hereinafter "A 174"), under vacuum conditions. 」
[カナダ国特許第1,119,056号明細書は、減圧条件下での表面付着促進材料、例えばγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(以後「A174」)を塗布する方法を開示している。]

(d)明細書第8頁第18行?同第9頁第5行
「According to the present invention, substrate 28 may be any object or body having surface 30 onto which a surface adhesion promotion material may be deposited by at least one of the methods of the present invention. Substrate 28 may be formed from organic materials or inorganic materials including, for example, polymeric materials, semiconductor materials, metallic materials, oxides of metallic materials and the like. Such organic materials and inorganic materials include, but are not limited to, aluminum, iron, steel, molybdenum, aluminum oxide, titanium oxide, lead oxide, copper oxide, iron oxide, beryllium oxide, manganese oxide, tungsten oxide, tantalum oxide, vanadium oxide, silicones, natural rubbers, plastic composites, cellulosic materials, epoxy-containing compounds, thermosetting compounds, thermoplastic compounds, silicon oxide (e.g., sand, fly ash, hydrated silica, silica, quartz, aerogel, xerogel, fumed silica) and the like. Substrate 28 may also be formed from a vacuum compatible liquid. By "vacuum compatible" it is herein meant to refer to a material that has a vapor pressure at room temperature such that the minimum pressure to which a vacuum chamber can be pumped is independent of the presence of the vacuum compatible material. One example of such a vacuum compatible liquid is A174. Other such vacuum compatible materials will be apparent to those skilled in the art and are intended to be within the scope of the present invention.
In certain embodiments, substrate 28 may be a printed circuit board, a silicon wafer, paper,a key pad, a catheter, a pacemaker cover, a subcutaneous probe, a bird feather, a silicone O-ring or the like.」
[本発明によれば、下地28は、本発明の方法の少なくとも一つによって表面付着促進材料を蒸着してよい表面30を有する、いかなる物体または本体であってもよい。下地28は、例えば、重合体材料、半導体材料、金属材料、金属材料の酸化物などを包含する有機材料もしくは無機材料から形成してよい。そのような有機材料および無機材料は、アルミニウム、鉄、鋼、モリブデン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉛、酸化銅、酸化鉄、酸化ベリリウム、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化バナジウム、シリコーン、天然ゴム、プラスチック複合材、セルロース性材料、エポキシ含有化合物、熱硬化性化合物、熱可塑性化合物、酸化ケイ素(例えば、砂、フライアッシュ、水和シリカ、シリカ、石英、エーロゾル、キセロゲル、燻蒸シリカ)などを包含するが、これらに限定されない。下地28は、真空に適合する液体から形成してもよい。『真空に適合する』によって、本明細書では、真空室を吸引できる最低圧力が該真空適合材料の存在と無関係であるような、蒸気圧を室温で有する材料を指すことを意味する。そのような真空適合材料の一例は、A174である。その他のそのような真空で記号材料は、当業者には明白であると思われ、本発明の範囲内にあるものとする。
一定の実施態様では、下地28は、プリント配線板、シリコンウェーハ、紙、キーパッド、カテーテル、ペースメーカーカバー、皮下探針、羽毛、シリコーンOリングなどであってよい。]

(e)第9頁第20?23行
「Although layer 32 of surface adhesion promotion material may be formed from any material having the properties discussed above, layer 32 is preferably formed from an organosilane, more preferably from an alkoxysilane, and most preferably from A174 (i.e., gamma-methacryloxypropyltrimethoxysilane).」
[表面付着促進材料の層32は、上記に考察した特性を有するいかなる材料から形成してもよいが、層32は、好ましくは有機シラン、より好ましくはアルコキシシラン、最も好ましくはA174(すなわちγ-メタクリルオキシプロトリメトキシシラン)から形成する。]

(f)明細書第9頁第30行?同第10頁第2行
「For embodiments in which layer 32 is formed from a multi-layer of molecules of surface adhesion promotion material, layer 32 should have a thickness of at least about 20 Å as measured using a quartz crystal thickness monitor or an equivalent device. It is to be noted that if layer 32 is less than about 20 Å thick, layer 34 may not have sufficient adhesion.」
[層32が表面付着促進材料の多層の分子から形成される実施態様のためには、層32は、水晶結晶厚さモニタ、または同等の装置を用いて測定した限りで、厚さが少なくとも約20Åでなければならない。層32が約20Å未満であるならば、層34は、充分な付着力を保有しない可能性があることに留意しなければならない。]

(g)第10頁第15?24行
「Layer 34 of surface coating material may be formed from any material that is capable of bonding to layer 32 and which is capable of forming a layer of material that is chemically inert relative to surface 30. Such materials are known to those skilled in the art and include, for example, poly-p-xylylene materials. An illustrative and nonlimiting list of such poly-p-xylylenes includes parylene D, parylene N, parylene C and octafluoro-[2,2] paracyclophane such as disclosed in commonly assigned U.S. Patent Application Serial No. 08/544,831 which is hereby incorporated by reference.
In certain embodiments, layer 34 may have different physical properties than surface 30.For example, layer 34 may have a different roughness, electrical conductivity and/or thermal conductivity than surface 30.」
[表面被覆材料の層34は、層32に結合することと、表面30に対して化学的不活性である材料の層を形成することとができる、いかなる材料から形成してもよい。そのような材料は、当業者には公知であり、例えば、ポリ-p-キシリレンなる材料を包含する。そのようなポリ-p-キシリレン類の例示的かつ非限定的リストは、パリレンD、パリレンN、パリレンC、および引用によってここに組み込まれる、一般に譲渡された米国特許願第08/544,831号明細書に開示されたようなオクタフルオロー[2,2]パラシクロファンを包含する。
一定の実施態様では、層34は、表面30とは異なる物理的特性を有してよい。例えば、層34は、表面30とは異なる粗さ、導電率および/または熱伝導率を有してよい。]

(h)明細書第12頁第25?26行
「the layer of A174 was about 227Å and the layer of parylene C was from about 4000Å to about 5000Å.」
[A174の層は、約227Åであり、パリレンCの層は、約4,000?約5,000Åであった。]

(i)Fig.2には、「表面被覆材料の層34の厚さが、表面付着促進材料の層32の厚さよりも厚い」ことの図示がある。

上記(a)ないし(h)及び(i)の記載事項及び図示内容より、引用例には、
「減圧下で蒸着させた表面被覆材料としてのパリレンCの層34が、減圧下で蒸着させた表面付着促進材料としてのγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(A174)の層32を有し、前記層34の厚さが、前記層32の厚さよりも厚く、前記層32の厚さが、少なくとも約20Åである、減圧下で蒸着させた層34によって表面30が被覆されている下地28。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

3.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「蒸着」、「表面被覆材料としてのパリレンCの層34」、「被覆」、「表面30」、「下地28」は、本願発明の「堆積」、「ポリマー層」、「コーティング」、「表面」、「基体」それぞれに相当する。

○引用例記載の発明の「表面付着促進材料としてのγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(A174)の層32」と、本願発明の「有機又は有機無機質の付着性予備層」とは、「有機質の付着性予備層」という点で共通する。

○引用例記載の発明の「層34(ポリマー層)の厚さが、層32(付着性予備層)の厚さよりも厚く」と、本願発明の「ポリマー層の厚さが、付着性予備層の厚さの少なくとも5倍の厚さであり」とは、「ポリマー層の厚さが、付着性予備層の厚さよりも厚く」という点で共通する。

○引用例記載の発明の「少なくとも約20Å」と、本願発明の「0.5?2nm」とは、「2nm」という点で共通する。

○引用例記載の発明の「表面が被覆(コーティング)されている下地28(基体)」と、本願発明の「表面の少なくとも一部がコーティングされている透明基体」とは、「表面がコーティングされている基体」という点で共通する。

上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「減圧下で堆積させたポリマー層が、減圧下で堆積させた有機質の付着性予備層を有し、前記ポリマー層の厚さが、前記付着性予備層の厚さよりも厚く、前記付着性予備層の厚さが、2nmである、減圧下で堆積させたポリマー層によって表面がコーティングされている基体。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、ポリマー層の厚さが、付着性予備層の厚さの少なくとも5倍の厚さであるのに対して、引用例記載の発明では、その点が不明である点。

<相違点2>
本願発明では、基体が「透明基体」であるのに対して、引用例記載の発明では、その点が不明である点。

上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
引用例には、「A174の層は、約227Åであり、パリレンCの層は、約4,000?約5,000Åであった。」(上記2.(h))との記載があり、これからして、「パリレンCの層34(ポリマー層)の厚さは、A174の層32(付着性予備層)の厚さの約18?約23倍である」との事項が示されている。
そうすると、引用例記載の発明の「パリレンCの層34(ポリマー層)の厚さが、A174の層32(付着性予備層)の厚さよりも厚く、A174の層32(付着性予備層)の厚さが、20Å(2nm)である」ことについて、引用例の上記事項を勘案すると、「パリレンCの層34(ポリマー層)の厚さが、A174の層32(付着性予備層)の厚さの少なくとも5倍の厚さであり、A174の層32(付着性予備層)の厚さが、20Å(2nm)である」ようにすることは、当業者であれば容易に想起し得ることである。
したがって、相違点1に係る技術的事項を採用することは、引用例記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点2>について
引用例には、「本発明によれば、下地28は、本発明の方法の少なくとも一つによって表面付着促進材料を蒸着してよい表面30を有する、いかなる物体または本体であってもよい。下地28は、例えば、重合体材料、半導体材料、金属材料、金属材料の酸化物などを包含する有機材料もしくは無機材料から形成してよい。そのような有機材料および無機材料は、アルミニウム、鉄、鋼、モリブデン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉛、酸化銅、酸化鉄、酸化ベリリウム、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化バナジウム、シリコーン、天然ゴム、プラスチック複合材、セルロース性材料、エポキシ含有化合物、熱硬化性化合物、熱可塑性化合物、酸化ケイ素(例えば、砂、フライアッシュ、水和シリカ、シリカ、石英、エーロゾル、キセロゲル、燻蒸シリカ)などを包含するが、これらに限定されない。・・・一定の実施態様では、下地28は、プリント配線板、シリコンウェーハ、紙、キーパッド、カテーテル、ペースメーカーカバー、皮下探針、羽毛、シリコーンOリングなどであってよい。」(上記2.(d))、「・・・一定の実施態様では、層34は、表面30とは異なる物理的特性を有してよい。例えば、層34は、表面30とは異なる粗さ、導電率および/または熱伝導率を有してよい。」(上記2.(g))との記載があり、これらからして、「下地28(基体)はいかなる材料からなるものでもよく、用途としてプリント配線板が挙げられる」との事項が示されている。
また、プリント配線板(基体)として、透明な基体を用いることは、例をあげるまでもなく従来周知(必要であれば、実願平4-67218号(実開平6-26270号)のCD-ROM(【請求項4】)、特開平7-296626号公報(【0013】)参照)である。
そうすると、引用例記載の発明において、下地28(基体)がプリント配線板である場合、これを「透明基体」にすることは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることであり、周知技術に基づいて容易に想起し得ることである。
したがって、相違点2に係る技術的事項を採用することは、引用例記載の発明及び周知技術に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願発明の「ポリマー層の剥離に対する抵抗を増加させる等」の作用効果は、引用例の記載(上記2.(a)(b)等)に基いて当業者であれば十分に予測できるものである。

よって、本願発明は、引用例記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2ないし24に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-17 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-05 
出願番号 特願2001-565303(P2001-565303)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義山本 晋也  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 石川 好文
井上 茂夫
発明の名称 ポリマー層でコーティングされた透明基体  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 三間 俊介  
代理人 出野 知  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ