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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F
管理番号 1282763
審判番号 不服2013-6929  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-15 
確定日 2014-01-07 
事件の表示 特願2008- 55449「水質浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月17日出願公開、特開2009-208024、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成20年3月5日の出願であって、平成23年4月8日付けで拒絶理由が通知され、同年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年3月8日付けで拒絶理由が通知され、同年5月11日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年1月31日付けで拒絶査定がなされ、同年4月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、これに対して、同年9月26日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月27日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1-3に係る発明は、平成25年11月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載される事項によって特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」?「本願発明3」と記載し、それらを総称して「本願発明」と記載する。)

「 【請求項1】
粒径5μm?200μmのガラス粉粒体のみか、粒径5μm?200μmのガラス粉粒体に粒径0.5mm?5.0mmの磁器粉粒体、川砂、海砂あるいは石粉のいずれか一つ以上を組み合わせたものと、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物または炭素化合物の少なくとも一つの発泡剤を混合して得られた混合物を600℃?1000℃に加熱してガラス成分を溶融、発泡、焼成、粉砕および分級した見かけ比重0.3?1.8、吸水率150?30%、粒径30mm?100mm、気孔内部を考慮した比表面積が2,000?5,000m^(2)/m^(3)、弱アルカリの発泡ガラスであり、表面部分は溶存酸素が存在する好気状態であり、かつ中心部分は溶存酸素が存在しない無酸素状態である連続間隙構造の発泡ガラスを接触材とする槽を備え、前記発泡ガラス表面の好気状態部分では好気的微生物による硝化工程が行われ、この硝化工程においては前記発泡ガラス自身が弱アルカリであることによりアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときに起こる急激なpH低下を防ぎ、前記発泡ガラスの中心の無酸素状態部分では嫌気的微生物による脱窒工程が行われ、一つの槽で硝化と脱窒の両方が行われる水質浄化装置。
【請求項2】
前記発泡ガラスは、メッシュサイズ2mm?30mmのネット状の袋に、1?20kg袋詰めされたものが、前記槽内に複数個投入されていることを特徴とする請求項1記載の水質浄化装置。
【請求項3】
前記発泡ガラスは、メッシュサイズ2mm?30mmで、一辺50?500mmあるいは直径50?500mmで、高さ300?1000mmからなるカートリッジ式の筒状篭に、1?20kg充填されたものが、前記槽内に複数個投入されていることを特徴とする請求項1記載の水質浄化装置。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、請求項1-3に係る発明(それぞれ本願発明1-3に対応)は下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3-8に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。
引用文献1:特開2004-267916号公報
引用文献2:特開2004-067400号公報
引用文献3:特開平10-314782号公報
引用文献4:特開2003-001284号公報
引用文献5:特開2003-145188号公報
引用文献6:特開2000-246282号公報
引用文献7:特開平09-299988号公報
引用文献8:特開平05-130867号公報

2.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、請求項1-3に係る発明(それぞれ本願発明1-3に対応)は下記の刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術的事項、及び周知例1-9に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。
刊行物1:特開2000-246282号公報(上記引用文献6)
刊行物2:松尾保成、田中健太,発泡廃ガラスを用いた水質浄化システム, 環境浄化技術,日本工業出版,2007年4月,6巻,4号,
62-66頁
周知例1:特開昭63-4899号公報
周知例2:特開平01-148395号公報
周知例3:特開平05-068991号公報
周知例4:実願平05-024843号(実開平06-081698号)の のCD-ROM
周知例5:特開平08-117776号公報
周知例6:特開平05-169079号公報
周知例7:特開2000-051879号公報
周知例8:特開平04-121183号公報
周知例9:登録実用新案第3092084号公報

第4 刊行物の記載
4-1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2004-267916号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
(1-ア)「【請求項1】
連続空隙を有する粒状乃至塊状の発泡ガラスを、通水性を有する容器内に集合的に充填して形成したことを特徴とする水質浄化材。
【請求項2】
前記発泡ガラスの外径が2.0mm?50.0mmである請求項1記載の水質浄化材。
【請求項3】
前記発泡ガラスのかさ比重が0.3?1.5である請求項1または2に記載の水質浄化材。」(【特許請求の範囲】)
(1-イ)「【課題を解決するための手段】
本発明の水質浄化材は、連続空隙を有する粒状乃至塊状の発泡ガラスを通水性を有する容器内に集合的に充填して形成したことを特徴とする。連続間隙を有する発泡ガラスは、その多孔質構造に基づき高い吸水性を備えているだけでなく、連続間隙中に吸収した水分中に含まれる懸濁物質などを吸着する機能も備えている。このため、粒状乃至塊状の発泡ガラスを充填して形成した水質浄化材に水が触れると、水中の懸濁物質のみならず溶解性物質までも除去することができ、優れた水質浄化機能を発揮する。
特に、発泡ガラスは、構成成分がガラス成分のみであるため、重金属類などが溶出するおそれがなく、生物親和性にも優れている。したがって、水中では、発泡ガラスの表面および気孔内において、バクテリア、プランクトンなどの原生動物、藻などの棲息、増殖が促進され、微生物膜形成性も高まるため、これらの生物類による水質浄化作用も得ることができる。」(【0008】、【0009】)
(1-ウ)「【発明の実施の形態】
図1は本発明の第1実施形態である水質浄化材を利用した生け簀を示す一部切欠側面図であり、図2は図1に示す生け簀の一部省略平面図である。
図1,図2に示すように、直方体箱形状の生け簀1の底板1aの上面に塩化ビニル製の吸水管2が略コ字状に配置され、吸水管2の基端部2bは、生け簀1の内部に垂直に立設された導水管3の下端部3b付近に連結されている。導水管3の下端部3bは生け簀1の底板1aを貫通し、送水管11を介してフィルタFに連結されている。フィルタFは送水管12を介してポンプPの吸水口に連通され、ポンプPの出水口は送水管13を介して、生け簀1の上部に配置された給水器具14に連結されている。
吸水管2には、生け簀1内の水Wを吸い込むための多数の吸水孔2aがほぼ全周にわたって開設され、導水管3の先端部分にはラッパ形状の導水口3aが設けられている。吸水管2の上部には、透水素材で形成され全体が通水性を有する容器8内に多数の塊状発泡ガラス9を集合的に充填することによって形成した水質浄化材10が平面的に4個配置されている。」(【0019】?【0021】)

4-2.刊行物1
当審拒絶理由で刊行物1として引用された特開2000-246282号公報には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「【請求項1】 導入した汚水を処理するための処理槽と、同処理槽内に繁殖した好気性微生物及び/又は嫌気性微生物により汚水中の有機物を生物酸化及び/又は生物還元して分解処理するろ材層とを具備し、ろ材層を形成するろ材として、廃ガラスびんを加熱・発泡させて再生した発泡ガラスを使用したことを特徴とする汚水処理装置。」(【特許請求の範囲】)
(刊1-イ)「そして、特徴的構造としては、ろ材層を形成するろ材として、廃ガラスびんを加熱・発泡させて再生した発泡ガラスを使用している。 このように、ろ材としてガラス質多孔体である発泡ガラスを使用することにより、同発泡ガラスの空隙内に、好気性微生物又は嫌気性微生物を繁殖させて、汚水中の有機物を好気性分解処理又は嫌気性分解処理させることができるのはもとより、空隙の表層部に好気性微生物を繁殖させると共に、空隙用(当審注:「空隙」の誤記と認める。以下「空隙」という。)の深層部(有利な酸素が存在しない条件下において)に嫌気性微生物を生育させて、好気性分解処理と嫌気性分解処理とを併用して行わせることができて、有機物の分解処理効率を向上させることができる。」(【0013】【0014】)
(刊1-ウ)「ろ材層2は、ろ材を充填して形成しており、同ろ材としては、廃棄ガラスびんに活性剤を混合して、これらを加熱することによって、発泡させて再生した発泡ガラス(例えば、日本フネン株式会社製の商品名「スーパーソル」)を使用している。
そして、発泡ガラスは、礫分(外径2mm?75mm)が90%以上の粒度からなる不定形塊状のガラス質多孔体であり、比重が例えば、0.3?1.2の範囲で異なるものを複数種類用意しておくことにより、用途別に使い分けることができる。」(【0028】【0029】)
(刊1-エ)「請求項1記載の本発明では、導入した汚水を処理するための処理槽と、同処理槽内に繁殖した好気性微生物及び/又は嫌気性微生物により汚水中の有機物を生物酸化及び/又は生物還元して分解処理するろ材層とを具備し、ろ材層を形成するろ材として、廃ガラスびんを加熱・発泡させて再生した発泡ガラスを使用している。
このように、ろ材としてガラス質多孔体である発泡ガラスを使用することにより、同発泡ガラスの空隙内に、好気性微生物又は嫌気性微生物を繁殖させて、汚水中の有機物を好気性分解処理又は嫌気性分解処理させることができるのはもとより、空隙の表層部に好気性微生物を繁殖させると共に、空隙用の深層部(有利な酸素が存在しない条件下において)に嫌気性微生物を生育させて、好気性分解処理と嫌気性分解処理とを併用して行わせることができて、有機物の分解処理効率を向上させることができる。」(【0059】【0060】)

第5 審判合議体の判断
5-1.原査定の理由について
5-1-1.本願発明1について
(1)引用文献1に記載された発明の認定
i)引用文献1の摘示事項(1-ア)(以下、単に「(1-ア)」のように記す。)に記載の請求項1、2を順に引用する請求項3を独立形式で記載すると、引用文献1には、
「外径が2.0mm?50.0mmで、かさ比重が0.3?1.5である連続空隙を有する粒状乃至塊状の発泡ガラスを、通水性を有する容器内に集合的に充填して形成したことを特徴とする水質浄化材。」について記載されている。
ii)(1-イ)には「連続間隙を有する発泡ガラスは、その多孔質構造に基づき高い吸水性を備えている」と記載され、上記「発泡ガラス」は「高い吸水性」を備えるものといえる。
iii)(1-イ)には「発泡ガラス」が「発泡ガラスの表面および気孔内において、バクテリア、プランクトンなどの原生動物、藻などの棲息、増殖が促進され、微生物膜形成性も高まるため、これらの生物類による水質浄化作用も得ることができる。」ものであると記載され、「発泡ガラス」は、「水質浄化作用」をなす「バクテリア」等すなわち「微生物」の棲息する担体として機能し、それらの「微生物」によって「水質浄化作用」がなされているといえる。
iv)(1-ウ)には「直方体箱形状の生け簀1」の中に「透水素材で形成され全体が通水性を有する容器8内に多数の塊状発泡ガラス9を集合的に充填することによって形成した水質浄化材10」が配置されることが記載されており、これは、「生け簀」の中に「発泡ガラス」を充填して「水質浄化」を行う装置の構造が示されているものといえる。
v)以上で検討したことを本願発明1の記載に沿って整理すると、引用文献1には、
「外径が2.0mm?50.0mmで、かさ比重が0.3?1.5である連続空隙を有する粒状乃至塊状の高い吸水性を備え、微生物の棲息する発泡ガラスを、通水性を有する容器内に集合的に充填して形成した水質浄化材を、生け簀の中に配置した水質浄化装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本願発明1と引用発明との対比
i)本願発明1の「発泡ガラス」は「発泡ガラス表面の好気状態部分では好気的微生物による硝化工程が行」われ、「発泡ガラスの中心の無酸素状態部分では嫌気的微生物による脱窒工程が行」われるものであるのに対して、引用発明の「発泡ガラス」は「微生物の棲息する」ものであるから、本願発明1の「発泡ガラス」と引用発明の「発泡ガラス」は「微生物の棲息する」ものである点で共通する。
ii)引用発明の「発泡ガラス」が「外径が2.0mm?50.0mm」、「かさ比重が0.3?1.5」であることは、本願発明1の「発泡ガラス」が「粒径30mm?100mm」、「見かけ比重0.3?1.8」であることと、「粒径30mm?50mm」、「見かけ比重0.3?1.5」である点で共通する。
iii引用発明の「発泡ガラス」が「連続空隙を有する」ことは、本願発明1の「発泡ガラス」が「連続間隙構造」であることに相当するといえる。
iv)引用発明の「発泡ガラス」は「高い吸水性を備える」ものであり、
本願発明1の「発泡ガラス」は「吸水率150?30%」であるから、両者は「高い吸水性を備える」点で共通する。
v)本願発明1の「発泡ガラス」でなる「接触材」は、被処理水と接触して浄化するものだから、引用発明の「発泡ガラス」でなる「水質浄化材」に相当し、本願発明2にあるように「発泡ガラスは、メッシュサイズ2mm?30mmのネット状の袋に、1?20kg袋詰めされ」得るものであるから、本願発明1の「発泡ガラス」でなる「接触材」は、引用発明の「発泡ガラスを、通水性を有する容器内に集合的に充填して形成した水質浄化材」を含むものといえる。
vi)引用発明の「発泡ガラス」は「粒状乃至塊状」であるが、本願発明1の「発泡ガラス」も「粉砕および分級」するものだから、それらの処理の結果としてできた本願発明1の「発泡ガラス」も「粒状乃至塊状」といえる。
vii)引用発明の「水質浄化材」を配置する「生け簀」は、本願発明1の「接触材」を入れる「槽」に相当するといえる。
viii)以上のことを整理すれば、本願発明1と引用発明とは、
「見かけ比重0.3?1.5で、高い吸水性を備え、粒径30mm?50mmの連続間隙構造で、微生物の棲息する発泡ガラスを接触材とする槽を備える水質浄化装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>発泡ガラスの製造について、本願発明1では「粒径5μm?200μmのガラス粉粒体のみか、粒径5μm?200μmのガラス粉粒体に粒径0.5mm?5.0mmの磁器粉粒体、川砂、海砂あるいは石粉のいずれか一つ以上を組み合わせたものと、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物または炭素化合物の少なくとも一つの発泡剤を混合して得られた混合物を600℃?1000℃に加熱してガラス成分を溶融、発泡、焼成、粉砕および分級」するのに対して、引用発明では特定されていない点。

<相違点2>発泡ガラスの物性について、本願発明1では「吸水率150?30%」で「気孔内部を考慮した比表面積が2,000?5,000m^(2)/m^(3)」で「弱アルカリ」性であるのに対して、引用発明では単に「高い吸水性」であるとされている点。

<相違点3>発泡ガラスで行われる水質浄化作用について、本願発明1では「発泡ガラス」の「表面部分は溶存酸素が存在する好気状態であり、かつ中心部分は溶存酸素が存在しない無酸素状態である」ことで、「発泡ガラス表面の好気状態部分では好気的微生物による硝化工程が行」われ、「発泡ガラスの中心の無酸素状態部分では嫌気的微生物による脱窒工程が行われ」ていて、「一つの槽で硝化と脱窒の両方が行われる」ものであるのに対して、引用発明では単に「微生物」による「水質浄化」が行われるものとされている点。

<相違点4>硝化工程において起こり得るアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときの急激なpH低下について、本願発明1は「弱アルカリの発泡ガラス」を用いることによって「防ぎ」得るのに対して、引用発明ではpH低下を防ぐことができるのか明らかでない点。

(3)相違点4の検討
拒絶査定で副引例として引用された上記引用文献2には、「発泡ガラス」について、以下a)?c)のことが記載されている。
a)「【請求項1】粒径5μm?200μmのガラス粉粒体に炭酸カルシウム、ドロマイト、炭化珪素、ホウ砂の少なくとも一つを混合して得られた混合物を600℃?1000℃に加熱してガラス成分を溶融、発泡、焼成する焼成工程と、前記焼成工程で形成された400℃?800℃の焼成物に常温以下の冷却液体を霧状にして噴射または常温以下の冷却気体を噴射する急冷工程とを備えたことを特徴とする発泡ガラス製造方法。」(【特許請求の範囲】)
b)「【発明の属する技術分野】
本発明は、廃板ガラスや廃ガラスびんなどの各種ガラス廃材を原料とし、土木資材、建築用骨材、コンクリート二次製品の骨材、軽量盛土材などに好適な非吸水性素材、あるいは斜面緑化、擁壁緑化、屋上緑化などに好適な吸水材素材、保水性素材その他水質浄化材などとして、様々な用途に使用可能な発泡ガラスを製造する技術に関する。」(【0001】)
c)「ここで、前記混合物中の炭酸カルシウム、ドロマイト、炭化珪素、ホウ砂の合計含有率を0.1重量%?5.0重量%とすることが望ましい。炭酸カルシウムなどの合計含有率が0.1重量%未満であると発泡不足となり、気泡も小さくなって比重が大となり、5.0重量%を超えると気泡が大きくなって、いわゆる巣が増加するので素材としての価値が無くなるため、前記範囲が適正範囲である。なお、炭酸カルシウムなどの合計含有率が・・・0.1重量%?5.0重量%とすれば連続間隙構造が形成される傾向が生じる。」(【0011】)
そうすると、引用文献2には、粒径5μm?200μmのガラス粉粒体に発泡材として炭酸カルシウム、ドロマイト、炭化珪素、ホウ砂の少なくとも一つを混合して得られた混合物を600℃?1000℃に加熱してガラス成分を溶融、発泡、焼成する焼成工程と、前記焼成工程で形成された400℃?800℃の焼成物に常温以下の冷却液体を霧状にして噴射または常温以下の冷却気体を噴射する急冷工程と」によって生成された「発泡ガラス」について示されているといえる。
しかしながら、引用文献2に示される「発泡ガラス」は、「水質浄化材」として使用されること以外に、いかなる作用機序によって「水質浄化」がなされるものであるのか記載も示唆も無く、「水質浄化」の際に「硝化工程」が存在するかも不明である。
そこで、引用文献3?8の記載をみると、いずれの文献にも、担体の外側の好気部分で好気処理を行い、担体の中心部の嫌気部分で嫌気性処理を行うことが示されており、特に引用文献3,4,5,7,8には、硝化脱窒処理を行う点も明記され(引用文献3:特許請求の範囲等参照,引用文献4:特許請求の範囲,【0008】,第1,2図等参照,引用文献5:【0010】,【0014】,第2図等参照,引用文献7:第2図等参照,引用文献8:特許請求の範囲,【0006】等参照)、さらに、引用文献6には、発泡性ガラスからなるろ材において、空隙の表層部に好気性微生物を繁殖させると共に空隙の深層部に嫌気性微生物を生育させて好気性分解処理と嫌気性分解処理とを併用して行わせ得ることも示されている(引用文献6:【0014】、【0059】-【0060】等参照。)といえる。
しかしながら、硝化工程において起こり得るアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときの急激なpH低下について、「弱アルカリの発泡ガラス」を用いることによって「防ぎ」得るということについては、引用文献2-8のいずれにも見出すことはできない。
そうすると、引用発明に引用文献2に記載された「発泡ガラス」を適用したとしても、本願発明1を導くことはできない。

(4)小括
以上から、相違点1?3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術手段及び引用文献3-8に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
よって、本願発明1は拒絶理由を有しない。

5-1-2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、いずれも請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1が上記のように拒絶理由を有するものではないから、本願発明2、3も拒絶理由を有するものでない。

5-2.当審拒絶理由について
5-2-1.本願発明1について
(1)刊行物1に記載された発明の認定
i)刊行物1の(刊1-ア)には、「導入した汚水を処理するための処理槽と、同処理槽内に繁殖した好気性微生物及び/又は嫌気性微生物により汚水中の有機物を生物酸化及び/又は生物還元して分解処理するろ材層とを具備し、ろ材層を形成するろ材として、廃ガラスびんを加熱・発泡させて再生した発泡ガラスを使用したことを特徴とする汚水処理装置。」について記載されている。
ii)(刊1-ウ)から、「発泡ガラス」は、「廃棄ガラスびん」を「加熱することによって、発泡させて再生」した「礫分(外径2mm?75mm)が90%以上の粒度からなる不定形塊状のガラス質多孔体」であり、「比重が例えば、0.3?1.2」であるものということができる。
iii)(刊1-イ)には「ろ材としてガラス質多孔体である発泡ガラスを使用することにより、同発泡ガラスの空隙内に、好気性微生物又は嫌気性微生物を繁殖させて、汚水中の有機物を好気性分解処理又は嫌気性分解処理させることができるのはもとより、空隙の表層部に好気性微生物を繁殖させると共に、空隙の深層部(有利な酸素が存在しない条件下において)に嫌気性微生物を生育させて、好気性分解処理と嫌気性分解処理とを併用して行わせることができて、有機物の分解処理効率を向上させることができる」と記載され、(刊1-エ)にも同様の記載があることから、「好気性微生物」が「繁殖」できるのは「好気状態」であり、「嫌気性微生物」が「繁殖」できるのは「嫌気状態」であることを勘案すれば、「発泡ガラス」では、「空隙の表層部」が「好気状態」で「好気性微生物」が「繁殖」して「好気性分解処理」を行われ、「空隙の深層部(有利な酸素が存在しない条件下において)」が「嫌気状態」で「嫌気性微生物」が「繁殖」して「嫌気性分解処理」を行われるものであり、「好気性分解処理」と「嫌気性分解処理」は「併用」して行われるものといえる。
iv)(刊1-ア)には「ろ材層」を構成する「ろ材」である「発泡ガラス」は「好気性微生物及び/又は嫌気性微生物により汚水中の有機物を生物酸化及び/又は生物還元して分解処理する」ものであることが記載され、処理されるべき「汚水」中の窒素分の処理についてみれば、「好気性微生物」による「好気性分解処理」は「生物酸化」だから「硝化」(NH^(4+)→NO^(2-)→NO^(3-))を含み、「嫌気性微生物」による「嫌気性分解処理」は「生物還元」だから「脱窒」(NO^(3-)→NO^(2-)→NO→N_(2)O→N_(2))を含むことは明らかである。
そして、「硝化」において「NH^(4+)→NO^(2-)」(「アンモニア性窒素」→「硝酸性窒素」)と変化するに際してpHが低下する現象は技術常識(必要なら特開平7-68286号公報【0002】?【0005】、特開平8-192187号公報【0002】、【0005】、【0006】)で有り、上記「汚水処理装置」においても当該現象は起きているといえる。
v)また、(刊1-ア)には、「導入した汚水を処理するための処理槽と、同処理槽内に繁殖した好気性微生物及び/又は嫌気性微生物により汚水中の有機物を生物酸化及び/又は生物還元して分解処理するろ材層」とあるが、上記iii)の検討から「好気性微生物及び嫌気性微生物」が「ろ材層」を構成する「ろ材」である「発泡ガラス」中に「繁殖」して「生物酸化及び生物還元」していることが明らかだから、「導入した汚水を処理するための処理槽と、同処理槽内で、繁殖した好気性微生物及び嫌気性微生物により汚水中の有機物を生物酸化及び生物還元して分解処理するろ材層」ということができる。
vi)以上の検討を踏まえ、文言の重複のないように記載を整理すると、刊行物1には、
「導入した汚水を処理するための処理槽と、同処理槽内で、汚水中の有機物を分解処理するろ材層とを具備し、ろ材層を形成するろ材として、廃ガラスびんを加熱・発泡させて再生した礫分(外径2mm?75mm)が90%以上の粒度からなり、比重が例えば、0.3?1.2である不定形塊状のガラス質多孔体であって、空隙の表層部が好気状態で好気性微生物が繁殖して硝化を含む生物酸化が、空隙の深層部(有利な酸素が存在しない条件下において)が嫌気状態で嫌気性微生物が繁殖して脱窒を含む生物還元が、併用して行われ、硝化においてアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときにpHが低下する、発泡ガラスを使用した汚水処理装置。」(以下、「当審引用発明」という。)の発明が記載されていると認められる。

(2)本願発明1と当審引用発明との対比
i)当審引用発明の「汚水処理装置」が本願発明1の「水質浄化装置」に相当することは明らかである。
また、当審引用発明の「発泡ガラス」である「ろ材層を形成するろ材」は、「汚水」と接触することで「硝化を含む生物酸化」も行うから、本願発明の「接触材」に相当するといえる。
ii)当審引用発明では「硝化を含む生物酸化」と「脱窒を含む生物還元」は「発泡ガラス」中で行われるものであり、「発泡ガラス」は「導入した汚水を処理するための処理槽」内に「ろ材層を形成するろ材」として存在するから、「硝化を含む生物酸化」と「脱窒を含む生物還元」は「導入した汚水を処理するための処理槽」内で行われるものといえるので、当審引用発明において、「導入した汚水を処理するための処理槽」内で「硝化を含む生物酸化」と「脱窒を含む生物還元」が「併用して行われる」ことは、本願発明1の「一つの槽で硝化と脱窒の両方が行われる」ことに相当するといえる。
iii)当審引用発明の「発泡ガラス」においては「空隙の表層部が好気状態で好気性微生物が繁殖して硝化を含む生物酸化が、空隙の深層部(有利な酸素が存在しない条件下において)が嫌気状態で嫌気性微生物が繁殖して脱窒を含む生物還元」が行われるものである。
これに対して、本願発明1の「発泡ガラス」においては「表面部分は溶存酸素が存在する好気状態であり、かつ中心部分は溶存酸素が存在しない無酸素状態である連続間隙構造の発泡ガラスを接触材とする槽を備え、前記発泡ガラス表面の好気状態部分では好気的微生物による硝化工程が行われ、前記発泡ガラスの中心の無酸素状態部分では嫌気的微生物による脱窒工程が行われ」るものである。
すると、本願発明1の「発泡ガラス」と、当審引用発明の「発泡ガラス」は、共に「表面部分は溶存酸素が存在する好気状態であり、かつ中心部分は溶存酸素が存在しない無酸素状態である発泡ガラスを接触材とする槽を備え、前記発泡ガラス表面の好気状態部分では好気的微生物による硝化工程が行われ、前記発泡ガラスの中心の無酸素状態部分では嫌気的微生物による脱窒工程が行われ」る点で共通するといえる。
iv)本願発明1では、「硝化工程」において「発泡ガラス自身が弱アルカリ」であることにより「アンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときに起こる急激なpH低下を防」ぐものであるのに対し、当審引用発明では、「硝化においてアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときにpHが低下する」ものであるから、両者は、「アンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときに起こる急激なpH低下」が起こり得る点で共通する。
v)当審引用発明において「硝化を含む生物酸化」と「脱窒を含む生物還元」とが「併用」される「ろ材層を形成するろ材」である「発泡ガラス」は、「廃ガラスびんを加熱・発泡させて再生した礫分(外径2mm?75mm)が90%以上の粒度からなり、比重が例えば、0.3?1.2である不定形塊状のガラス質多孔体」であり、「礫分(外径2mm?75mm)が90%以上の粒度からな」る「不定形塊状のガラス質多孔体」ということは、「発泡ガラス」は「不定形塊状のガラス質多孔体」でその粒径が略「2mm?75mm」であるものといえ、比重は「多孔体」の比重であり真比重ではないから「見かけ比重」であるといえる。
これに対して、本願発明1の「硝化と脱窒の両方」が行われる「発泡ガラス」は、「粒径5μm?200μmのガラス粉粒体のみか、粒径5μm?200μmのガラス粉粒体に粒径0.5mm?5.0mmの磁器粉粒体、川砂、海砂あるいは石粉のいずれか一つ以上を組み合わせたものと、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物または炭素化合物の少なくとも一つの発泡剤を混合して得られた混合物を600℃?1000℃に加熱してガラス成分を溶融、発泡、焼成、粉砕および分級した見かけ比重0.3?1.8、吸水率150?30%、粒径30mm?100mm、気孔内部を考慮した比表面積が2,000?5,000m2/m3」のものであり、「発泡ガラス」は、「粉砕」されていることを考慮すれば、「不定形塊状のガラス質多孔体」ということができる。
すると、本願発明1の「発泡ガラス」と、当審引用発明の「発泡ガラス」は、共に不定形塊状のガラス質多孔体であって「粒径30?75mm」で「見かけ比重」が「0.3?1.2」である点で共通するといえる。
vi)以上から、本願発明1と当審引用発明とは、
「見かけ比重0.3?1.2、粒径30mm?75mmの発泡ガラスであり、表面部分は溶存酸素が存在する好気状態であり、かつ中心部分は溶存酸素が存在しない無酸素状態である発泡ガラスを接触材とする槽を備え、前記発泡ガラス表面の好気状態部分では好気的微生物による硝化工程が行われ、この硝化工程においてはアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときに起こる急激なpH低下が起こり得るものであり、前記発泡ガラスの中心の無酸素状態部分では嫌気的微生物による脱窒工程が行われ、一つの槽で硝化と脱窒の両方が行われ、る水質浄化装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>「発泡ガラス」について、本願発明1は、「粒径5μm?200μmのガラス粉粒体のみか、粒径5μm?200μmのガラス粉粒体に粒径0.5mm?5.0mmの磁器粉粒体、川砂、海砂あるいは石粉のいずれか一つ以上を組み合わせたものと、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物または炭素化合物の少なくとも一つの発泡剤を混合して得られた混合物を600℃?1000℃に加熱してガラス成分を溶融、発泡、焼成、粉砕および分級」した「連続間隙構造」で「吸水率150?30%」で「気孔内部を考慮した比表面積が2,000?5,000m2/m3」の「弱アルカリの発泡ガラス」であるのに対して、当審引用発明1の「発泡ガラス」はそのような特定事項を有さない点。
<相違点2>硝化工程において起こり得るアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときの急激なpH低下について、本願発明1では「弱アルカリの発泡ガラス」を用いることによって「防ぎ」得るのに対して、当審引用発明ではpH低下を防ぐことができるのか明らかでない点

(3)相違点2の判断
当審拒絶理由で副引例として引用された上記刊行物2には、「発泡ガラス」について、以下ア)?エ)のことが記載されている。
ア)「発泡廃ガラスの製造工程は、第2図に示すように、先ず、ワイン瓶などのビン類のラベルや金属部分を除去し、2mmアンダーまで破砕する。それをチューブミルでミクロンオーダーまで粉砕し、微粉砕した廃ガラスと発泡剤を混合したものを800?900℃の焼成炉に通す。その後、焼成し発泡した廃ガラスを、破砕し用途に応じて分級することで製造される。発泡剤の添加量や種類、焼成温度さらに焼成時間を変えることによって、0.3?1.5の比重および・・・吸水性の連続間隙構造を持った材料(写真2)の製造が可能である。」(62頁右欄下から15?4行)
イ)「吸水性のものは岩盤を含めた斜面緑化、屋上緑化工法などの保水材、また、水質浄化の接触材などに利用している。吸水性の発泡廃ガラスはミクロンオーダーの微細な気孔を有するため、比表面積も高いことから生物浄化に寄与する生物量も多く、SSの捕捉性が高いことが分かっている。」(63頁左欄下から7?1行)
ウ)「接触材には、吸水性の連続間隙構造の発泡廃ガラスを用いる。水質浄化用発泡廃ガラスの物性値を第1表に示す。接触材としての発泡廃ガラスの特徴は、ミクロンオーダーの気孔を有するため、比表面積が大きいことから浄化能力が高いことである。また軽いので取り扱いが容易なことである。」(63頁右欄最下行?64頁左欄6行)
エ)「水質浄化用発泡廃ガラスの仕様」と題された「第1表」(64頁左欄)から、「水質浄化用発泡廃ガラス」の、「粒径」が「粒径10?50mm程度」であり、「見かけ比重G」が「0.4」、「かさ比重g」が「0.3」、「吸水率(質量百分率)w%」が「100以上」、「比表面積 S[m^(2)/m^(3)]」が「4600」であることがみてとれる。
そうすると、刊行物2には、「ミクロンオーダーまで粉砕」された「廃ガラス」と「発泡剤を混合」し、「800?900℃」で加熱して「焼成」「発泡」「破砕」「分級」した、「粒径」が「粒径10?50mm程度」、「見かけ比重G」が「0.4」、「吸水率(質量百分率)w%」が「100以上」で「比表面積 S[m^(2)/m^(3)]」が「4600」である「水質浄化の接触材」に利用できる「連続間隙構造」である「発泡廃ガラス」について示されているといえる。
しかしながら、上記刊行物2には、「発泡剤」として「アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物または炭素化合物の少なくとも一つの発泡剤」を用いることによって「弱アルカリの発泡ガラス」となし、当該「弱アルカリの発泡ガラス」であれば、硝化工程において起こり得るアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときの急激なpH低下を防ぎ得るということは、記載も示唆も無い。
そこで周知例1?9をみても、水質浄化に用いる「発泡ガラス」の発泡剤として「CaCO_(3)」(炭酸カルシウム)を用いることは周知例1(3頁右下欄1?9行)に記載されるように知られている技術であるといえても、当該発泡剤により生成された「弱アルカリの発泡ガラス」であれば、硝化工程において起こり得るアンモニア性窒素が硝酸性窒素に変化するときの急激なpH低下を防ぎ得るという点は、周知例1?9にも見出すことはできない。
そうすると、当審引用発明に刊行物2に記載された「発泡廃ガラス」を適用したとしても、本願発明1を導くことはできない。

(4)小括
以上から、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術手段及び周知例1-9に記載された周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
よって、本願発明1は拒絶理由を有しない。

5-1-2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、いずれも請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1が上記のように拒絶理由を有するものではないから、本願発明2、3も拒絶理由を有するものでない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-17 
出願番号 特願2008-55449(P2008-55449)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 紀史  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 真々田 忠博
中澤 登
発明の名称 水質浄化装置  
代理人 久保山 隆  
代理人 加藤 久  

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