• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1282796
審判番号 不服2012-12946  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-06 
確定日 2013-12-11 
事件の表示 特願2007-532341「染料系インク」拒絶査定不服審判事件〔平成18年4月6日国際公開、WO2006/036367、平成20年5月1日国内公表、特表2008-513571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年8月17日(パリ条約による優先権主張 2004年9月17日及び2005年3月3日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年7月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年2月28日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月6日付けで前置審査の結果が報告され、当審において同年10月24日付けで審尋され、平成25年4月23日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年7月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「染料系インク(12)であって、普通紙上で高い印刷品質を有し、
染料、溶媒としての水、共溶媒、高HLB界面活性剤、及び添加剤を含み、
前記共溶媒が、2-ピロリジノンと、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノンもしくは1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンの何れか一方とから成り、
ここで前記染料が0.1wt%?10wt%の量で含まれ、
前記共溶媒が5wt%?20wt%の量で含まれ、
前記高HLB界面活性剤が0.5wt%以下の量で含まれ、
前記添加剤が15wt%以下の量で含まれ、そして殺生物剤、pH制御剤、抗コゲーション剤、及びそれらの組合せから成る群から選択され、そして
水が残余量で含まれる、
染料系インク(12)。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「平成23年1月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」にあるところ、具体的には、「本願に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、併せて、次の刊行物が引用されている。
1.特開平4-81475号公報
2.特開2002-371207号公報

4.判断
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物である特開平4-81475号公報(以下、「引用例1」という)、特開2002-371207号公報(以下、「引用例2」という)、には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

[引用例1]
(1-i)「【請求項1】 (a) N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群より選ばれるピロリドン0ないし約15重量%
(b) アンモニウム、多官能アミン陽イオン及び揮発性アミン陽イオンからなる群より選ばれる陽イオンが結合されたDB-168染料約0.5?約10重量%、及び
(c) 残余の水
からなるインクジェットプリンター用のインク。」(【特許請求の範囲】参照)
(1-ii)「……。DB-168は水溶性陰イオン染料であり、商業的に入手可能なものは対イオンとしてナトリウム(Na^(+))を含んでいる。……」(段落【0005】参照)
(1-iii)「次にこの染料はビヒクルに溶解されてインクが造り上げられる。pHを維持するための緩衝剤、殺生剤、乾燥時間改良剤その他の化合物がこの技術分野でよく知られているようにインクに添加されてもよい。」(段落【0017】参照)
(1-iv)「ビヒクルは0?約15%のラクタム、好ましくは約5?15%のラクタムと残余の水を含有している。このラクタムは0?約10%の範囲のN-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(NHEP)、0?約5%の範囲のN-メチルピロリドンおよび0?約15%の範囲の2-ピロリドンのうち少なくとも一つを含有することが好ましい。特別に指摘しない限り、すべての量は重量%で示されている。すべての成分の純度は通常商業的に実施されるときに使用される純度である。」(段落【0018】参照)
(1-v)「本発明のインクは約5?9の範囲のpHを有しており、約6?8のpHが好ましい。広い範囲のpHを有するインクは圧電プリンターに使用することができるが、感熱インクジェットプリンターはプリントヘッドの材料とインクとの間の好ましくない相互作用の可能性があるためにpH範囲を狭く制御する必要がある。pH水準を維持するためには緩衝剤が使用される。有用な緩衝剤の中には酢酸アンモニウム、2-〔N-モルホリノ〕エタンスルホン酸または3-〔N-モルホリノ〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸があり、これらの緩衝剤のうちで2番目のもの(MOPSO)が最も好ましい。」(段落【0021】参照)
(1-vi)「本発明において有用な殺生剤は感熱ジェットプリンター用のインクとともに通常使用される少なくとも一つの殺生剤であればよいが、例えばProxelおよびNuoseptがある。」(段落【0022】参照)
(1-vii)「以上のように、ナトリウムイオンが置換されたDB-168染料を使用した改良インクが開示されてきた。このようなインクは事務用紙に対して耐水堅牢性の改良を立証した。……」(段落【0039】参照)

[引用例2]
(2-i)「【請求項1】 色材、該色剤を溶解又は分散する有機溶媒及び水からなる記録液であって、下記式(1)で表される化合物を含有させたことを特徴とする記録液。
≪式(1)省略≫
【請求項2】 該色材がアニオン性基を有し、そのカウンターイオンの一部又は全部が下記式(2)で表されるカチオンである請求項1に記載の記録液。
≪式(2)省略≫
……
【請求項8】 該色材が少なくとも1つのカルボン酸基及び/又はスルホン酸基を有する染料である請求項2に記載の記録液。
……
【請求項11】 アニオン性基を有する界面活性剤を含有し、該界面活性剤のカウンターイオンの一部又は全部が上記式(2)で表されるカチオンである請求項1?10のいずれかに記載の記録液。
……
【請求項15】 該有機溶媒がグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンから選ばれた少なくとも1種以上の水溶性有機溶剤を含有するものである請求項1?14のいずれかに記載の記録液。
【請求項16】 該記録液がさらに、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレン-ポリプロピレン共重合体及びフッ素系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を含有したものである請求項1?15のいずれかに記載の記録液。」(特許請求の範囲【請求項1】【請求項2】【請求項8】【請求項11】【請求項15】【請求項16】参照)
(2-ii)「……。本発明では、界面活性剤を使用することにより、記録紙への濡れ性を改善することができる。好ましい界面活性剤としては、界面ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。より具体的には、アニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩〔下記式(31)〕、及び/又は炭素鎖が5?7の分岐したアルキル鎖を有するジアルキルスルホ琥珀酸〔下記式(32)〕を用いることにより、普通紙特性も改善されさらに着色剤の溶解、分散安定性が図られる。
≪式(31)及び式(32)省略≫
……」(段落【0083】?【0085】参照)
(2-iii)「好ましい非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである下記式(33)、アセチレングリコール系界面活性剤である下記式(34)の界面活性剤が挙げられる。これらを併用することによりさらに相乗効果として浸透性があげられ、これにより色境界にじみが低減され、また、文字にじみも少ないインクが得られる。
≪式(33)及び式(34)省略≫
」(段落【0086】?【0088】参照)
(2-iv)「本発明に用いることができる上記式(31)、(32)、(33)、(34)の添加量は、0.05?10重量%の間でプリンターシステムにより要求されるインク特性に対し、所望の浸透性を与えることが可能である。ここで0.05%未満ではいずれの場合も2色重ね部の境界でのにじみが発生し、10重量%を越える場合は、化合物自体が低温で析出しやすくなることがあり、信頼性が悪くなる。」(段落【0090】参照)
(2-v)「本発明のインクは水を液媒体として使用するものであるが、インクを所望の物性にするため、インクの乾燥を防止するために、また、本発明の化合物の溶解安定性を向上させるため等の目的で、……;N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ε-カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;……等の水溶性有機溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、水と共に単独又は複数混合して用いられる。」(段落【0093】参照)
(2-vi)「これらの中で、特に好ましいものは、……、N-メチル-2-ピロリドン,N-ヒドロキシエチルピロリドン、2-ピロリドン、1,3ジメチルイミダゾリジノンであり、これらを用いることにより、本化合物の高い溶解性と水分蒸発による噴射特性不良の防止に対して優れた効果が得られる。特に本発明において着色剤の分散安定性を得るのに好ましい溶剤として、N-ヒドロキシエチル2-ピロリドン等のピロリドン誘導体が挙げられる。」(段落【0094】参照)
(2-vii)「また、本発明の界面活性剤(31)?(34)以外で表面張力を調整する目的で添加される浸透剤としては、……、フッ素系界面活性剤、……が挙げられるが、……」(段落【0095】参照)
(2-viii)「その添加量は種類や所望の物性にもよるが、0.1?20重量%、好ましくは0.5?10重量%で範囲で添加される。下限未満では浸透性が不十分であり上限を越えると粒子化特性に悪影響を及ぼす。また、これらの添加にうよりインクジェットヘッド部材や記録器具への濡れ性も改善され、充填性が向上し、気泡による記録不良が発生しにくくなる。」(段落【0096】参照)

(2)引用刊行物に記載された発明
引用例1には、
「(a) N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群より選ばれるピロリドン0ないし約15重量%
(b) アンモニウム、多官能アミン陽イオン及び揮発性アミン陽イオンからなる群より選ばれる陽イオンが結合されたDB-168染料約0.5?約10重量%、及び
(c) 残余の水
からなるインクジェットプリンター用のインク」
の発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されている(摘示(1-i)参照)。

(3)対比、判断
そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、
(ア)引用例1発明におけるインクも、普通の事務用紙に対して耐水堅牢性等の高い印刷品質を有しているから(摘示(1-vii)参照)、本願補正発明の「普通紙上で高い印刷品質を有」するものに相当する。
(イ)引用例1発明における「(a) N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群より選ばれるピロリドン」は、本願発明における「共溶媒」に相当し(摘示(1-iv)参照)、その含有量「0ないし約15重量%」も、本願発明の「前記共溶媒が5wt%?20wt%の量で含まれ」と重複している。
(ウ)引用例1発明における「(b) アンモニウム、多官能アミン陽イオン及び揮発性アミン陽イオンからなる群より選ばれる陽イオンが結合されたDB-168染料」は、本願発明における「染料」に相当し(摘示(1-ii)参照)、その含有量「 約0.5?約10重量%」も、本願補正発明の「前記染料が0.1wt%?10wt%の量で含まれ」と重複している。
(エ)引用例1発明における「(c) 残余の水」は、本願発明における「溶媒としての水」が「残余量で含まれる」ことに相当する。
となり、引用例1発明も「染料系インク」であることは明らかであるから、両発明は、本願発明の表現を借りて表すと、

「染料系インクであって、普通紙上で高い印刷品質を有し、
染料、溶媒としての水、共溶媒、を含み、
ここで前記染料が0.1wt%?10wt%の量で含まれ、
前記共溶媒が5wt%?20wt%の量で含まれる、
染料系インク」

である点で一致し、次の相違点A?Cで相違している。

<相違点>
A.本願発明では、「高HLB界面活性剤」をさらに含み、かつ、「前記高HLB界面活性剤が0.5wt%以下の量で含まれ」ているのに対し、引用例1発明では、高HLB界面活性剤を含んでいるのかどうか不明である点。
B.本願発明では、共溶媒が「2-ピロリジノンと、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノンもしくは1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンの何れか一方とから成」るのに対して、引用例1発明では、「(a) N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群より選ばれるピロリドン」である点。
C.本願発明では、「添加剤」をさらに含み、かつ、「前記添加剤が15wt%以下の量で含まれ、そして殺生物剤、pH制御剤、抗コゲーション剤、及びそれらの組合せから成る群から選択され」るのに対し、引用例1発明では、添加剤を含んでいるのかどうか不明である点。

そこで、これらの相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
引用例1には、「pHを維持するための緩衝剤、殺生剤、乾燥時間改良剤その他の化合物がこの技術分野でよく知られているようにインクに添加されてもよい」(摘示(1-iii)参照)として、この技術分野でよく知られている添加剤等をインクに添加してもよいことが示唆されている。また、引用例2には、引用例1発明と同様な色材、有機溶媒及び水を含む染料系インクであって、さらに界面活性剤を含むものが記載されており(摘示(2-i)参照)、界面活性剤を使用することにより、記録紙への濡れ性が改善され、普通紙特性も改善され、着色剤の溶解、分散安定性が図られること(摘示(2-ii)参照)、色境界にじみが低減され、また、文字にじみも少ないインクが得られること(摘示(2-iii)参照)、そして、浸透剤として「フッ素系界面活性剤」が用いられることが記載され(摘示(2-vii)参照)、界面活性剤の添加量についても、0.05%から10重量%の範囲で適宜添加されることが記載されている(摘示(2-iv)(2-viii)参照)。
引用例1発明のインクも引用例2記載の染料系インクも、普通紙への印刷特性を改善するという点では共通するものであるから、引用例1発明において、インクの濡れ性や浸透性を改善することを目的として、通常の添加剤として知られている界面活性剤を配合することは、当業者が容易に想到できることであり、その際に含有量について検討して、0.5wt%以下という適当な範囲を見出すことも当業者であれば容易になし得ることである。
また、本願発明においては、界面活性剤が「高HLB界面活性剤」であることを特定しているが、そもそも本願発明においては「高HLB界面活性剤」の定義が明確ではなく、水系の組成物において、親水性の高い界面活性剤を用いることは当然のことであるから、「高HLB界面活性剤」を採用することに困難性を有するものとは認められない。
なお、請求人は、平成25年4月23日付け回答書において、高HLB界面活性剤を「水中において少なくとも20のHLB値を持つ高HLB界面活性剤」とする補正案を示し、この点において引用例1発明との差異を主張しているところ、本願発明においてHLB値をどのように測定したのかは明らかにされておらず、「少なくとも20のHLB値」の臨界的意義はもとより、そのような界面活性剤を使用したことによる効果も全く不明であることから、高HLB界面活性剤のHLB値を特定することも格別なものではなく、上記補正案によっても、上記した点は解消しない。

イ.相違点Bについて
引用例1発明においては、共溶媒として「(a) N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群より選ばれるピロリドン」が用いられており、具体的には「0?約10%の範囲のN-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(NHEP)、0?約5%のN-メチルピロリドンおよび0?約15%の範囲の2-ピロリドンのうち少なくとも一つを含有する」(摘示(1-iv)参照)ものであるから、2-ピロリドンとN-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(NHEP)との組み合わせも当然選択可能であり、したがって、本願発明において特定されている「2-ピロリジノンと、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン」の組み合わせは、引用例1発明の共溶媒に包含されているものと認められる。(なお、引用例1発明における「2-ピロリドン」及び「N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン」が、それぞれ本願発明における「2-ピロリジノン」及び「1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン」と同一の化合物であることは当業者において自明である。)そして、本願発明において、「2-ピロリジノン」と「1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン」を組み合わせたことに特に意味があるわけではなく、これ以外の組み合わせのものと比較した効果も確認されていないから、引用例1発明において、選択可能な共溶媒の組合せの中から任意のものを選択し、単にこれを特定することは当業者が実施にあたり適宜なし得ることである。
なお、請求人は、上記回答書において、「しかし本願発明による、2-ピロリジノンと、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノンもしくは1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノンのいずれかとを含む組み合わせについては一切開示されません。また、本願実施例のインクG、HおよびIによって証明されるような、本願発明による組み合わせによって高い印刷品質をもたらすことについても一切開示されません。」として、引用例1発明との差異を主張しているが、ピロリドン誘導体を含有する溶剤が高い印刷品質をもたらすことはもともと広く知られており(摘示(2-v)(2-vi)参照)、加えて、本願実施例において効果が確認されているインクG、HおよびIは、すべて2-ピロリジノンと、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノンの組合せのみに係るものであって、この組合せと、2-ピロリジノンまたは1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノンの単独溶媒、あるいは上記以外の組合せとの比較がなされているわけではないから、2-ピロリジノンと1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノンを組合せたことより顕著な効果が得られたものとは認められない。

ウ.相違点Cについて
引用例1には、「pHを維持するための緩衝剤、殺生剤、乾燥時間改良剤その他の化合物がこの技術分野でよく知られているようにインクに添加されてもよい」(摘示(1-iii)参照)として、この技術分野でよく知られている添加剤等をインクに添加してもよいことが示唆されているのは、上記(a)で述べたとおりであり、また、好ましい緩衝剤や殺生剤についても例示があること(摘示(1-v)(1-vi)参照)からみて、引用例1発明において、pHを維持するための緩衝剤すなわちpH制御剤や殺生物剤等を適宜選択して添加することは、上記示唆や例示に基づき当業者が容易になし得ることである。また、15wt%以下という添加量は添加剤としての常識的な添加量の範囲であり、当業者が実施にあたり適宜定め得るものにすぎない。

エ.まとめ
そして、上記相違点AないしCに係る本願発明の発明特定事項を併せ採用することも当業者が容易になし得たことであり、それによって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
そうすると、本願発明は、引用例1及び2の記載、並びにこの出願の優先日前周知の技術的事項を勘案し引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当であるといえ、したがって、原査定を取り消す必要はない。

5.むすび
上記したとおり、本願請求項1に係る発明は特許を受けることができないものである。
それ故、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-11 
結審通知日 2013-07-16 
審決日 2013-07-30 
出願番号 特願2007-532341(P2007-532341)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂井 哲也  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
小石 真弓
発明の名称 染料系インク  
代理人 西山 清春  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ