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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1282815
審判番号 不服2012-18971  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-28 
確定日 2013-12-11 
事件の表示 特願2006-277396「磁気トンネル接合の封入方法、磁気デバイスの形成方法、および磁気トンネル接合構造」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月26日出願公開、特開2007-110121〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年10月11日(パリ条約による優先権主張2005年10月12日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成23年9月16日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年3月22日に手続補正がなされるとともに、同日に意見書が提出され、同年6月5日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされ、その後、平成25年1月21日付けで審尋がなされ、同年6月21日に回答書が提出されたものである。

2.補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成24年9月28日になされた手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成24年9月28日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし22を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし22に補正するとともに、明細書を補正するものであり、そのうちの補正前後の請求項は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
ピンド層と、フリー層と、これらの間に設けられた絶縁トンネル層とを含むと共に、側壁面を有する積層体を用意し、
無酸素雰囲気中において、前記側壁面に第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成し、
13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に第2の封入層を形成する
ことを特徴とする磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項2】
前記第1の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項3】
前記第2の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項4】
前記第1の封入層と同じ材料を用いて前記第2の封入層を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項5】
前記第1の封入層の材料として、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いる
ことを特徴とする請求項4に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項6】
基板上にシード層を形成する工程と、
前記シード層の上に反強磁性層を形成する工程と、
前記反強磁性層の上にピンド層を形成する工程と、
前記ピンド層の上に絶縁トンネル層を形成する工程と、
前記絶縁トンネル層の上にフリー層を形成する工程と、
前記フリー層の上にキャップ層を形成する工程と、
前記の一連の工程により形成された積層膜を基板に達するまで選択的にイオンミリングすることにより、側壁面を有する積層体を形成する工程と、
無酸素雰囲気中において、前記側壁面に第1の封入層を形成する工程と、
13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に第2の封入層を形成する工程と
を含み、その後に続く熱処理工程中の前記絶縁トンネル層の酸化を防止する
ことを特徴とする磁気デバイスの形成方法。
【請求項7】
前記第1の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項8】
前記第2の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項9】
前記第1の封入層と同じ材料を用いて前記第2の封入層を形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項10】
前記第1の封入層の材料として、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いる
ことを特徴とする請求項9に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項11】
前記積層体は、傾斜した3つの側壁面と1つの平坦なエアベアリング面とを有する再生ヘッドである
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項12】
前記積層体は、磁気メモリ素子である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項13】
前記絶縁トンネル層は0.4nm?1.0nmの膜厚を有し、その耐圧は2ボルト以下である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項14】
250°Cで300分にわたる熱処理を行ったときの前記絶縁トンネル層の抵抗値増加が1%未満である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項15】
基板上に順に、シード層、反強磁性層、ピンド層、絶縁トンネル層、フリー層およびキャップ層を含むと共に、側壁面を有する積層体と、
酸素を捕獲可能な材料を用いて前記側壁面に無酸素雰囲気中において形成された第1の封入層と、
前記第1の封入層の上に13.3mPa以上の酸素分圧下において形成され、酸素を含有する第2の封入層と
を含み、熱処理工程中の前記絶縁トンネル層の酸化が防止されている
ことを特徴とする磁気トンネル接合構造。
【請求項16】
前記積層体は、傾斜した3つの側壁面と1つの平坦なエアベアリング面とを有する再生ヘッドである
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項17】
前記積層体は、磁気メモリ素子である
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項18】
前記第1の封入層は、5nmないし40nmの厚さをもつ
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項19】
前記第2の封入層は、5nmないし40nmの厚さをもつ
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項20】
前記第1の封入層は、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料で構成されている
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項21】
前記絶縁トンネル層は0.4nm?1.0nmの膜厚を有し、その耐圧は2ボルト以下である
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項22】
250°Cで300分にわたる熱処理を行ったときの前記絶縁トンネル層の抵抗値増加が1%未満である
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。」

(補正後)
「【請求項1】
ピンド層と、フリー層と、これらの間に設けられた絶縁トンネル層とを含むと共に、側壁面を有する積層体を用意し、
無酸素雰囲気中において、前記側壁面に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X ))からなる群から選ばれる材料を用いて第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成し、
13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X ))および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する
ことを特徴とする磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項2】
前記第1の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項3】
前記第2の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項4】
前記第1の封入層と同じ材料を用いて前記第2の封入層を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項5】
前記第2の封入層を、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法。
【請求項6】
基板上にシード層を形成する工程と、
前記シード層の上に反強磁性層を形成する工程と、
前記反強磁性層の上にピンド層を形成する工程と、
前記ピンド層の上に絶縁トンネル層を形成する工程と、
前記絶縁トンネル層の上にフリー層を形成する工程と、
前記フリー層の上にキャップ層を形成する工程と、
前記の一連の工程により形成された積層膜を基板に達するまで選択的にイオンミリングすることにより、側壁面を有する積層体を形成する工程と、
無酸素雰囲気中において、前記側壁面に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第1の封入層を形成する工程と、
13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する工程と
を含み、その後に続く熱処理工程中の前記絶縁トンネル層の酸化を防止する
ことを特徴とする磁気デバイスの形成方法。
【請求項7】
前記第1の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項8】
前記第2の封入層を、5nmないし40nmの厚さをもつように形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項9】
前記第1の封入層と同じ材料を用いて前記第2の封入層を形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項10】
前記第2の封入層を、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成する
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項11】
前記積層体は、傾斜した3つの側壁面と1つの平坦なエアベアリング面とを有する再生ヘッドである
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項12】
前記積層体は、磁気メモリ素子である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項13】
前記絶縁トンネル層は0.4nm?1.0nmの膜厚を有し、その耐圧は2ボルト以下である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項14】
250°Cで300分にわたる熱処理を行ったときの前記絶縁トンネル層の抵抗値増加が1%未満である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法。
【請求項15】
基板上に順に、シード層、反強磁性層、ピンド層、絶縁トンネル層、フリー層およびキャップ層を含むと共に、側壁面を有する積層体と、
酸素を捕獲可能な材料を用いて前記側壁面に無酸素雰囲気中において酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて形成された第1の封入層と、
前記第1の封入層の上に13.3mPa以上の酸素分圧下において酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて形成され、酸素を含有する第2の封入層と
を含み、熱処理工程中の前記絶縁トンネル層の酸化が防止されている
ことを特徴とする磁気トンネル接合構造。
【請求項16】
前記積層体は、傾斜した3つの側壁面と1つの平坦なエアベアリング面とを有する再生ヘッドである
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項17】
前記積層体は、磁気メモリ素子である
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項18】
前記第1の封入層は、5nmないし40nmの厚さをもつ
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項19】
前記第2の封入層は、5nmないし40nmの厚さをもつ
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項20】
前記第2の封入層は、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成されたものである
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項21】
前記絶縁トンネル層は0.4nm?1.0nmの膜厚を有し、その耐圧は2ボルト以下である
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。
【請求項22】
250°Cで300分にわたる熱処理を行ったときの前記絶縁トンネル層の抵抗値増加が1%未満である
ことを特徴とする請求項15に記載の磁気トンネル接合構造。」

(2)補正事項の整理
(補正事項a)
(補正事項a-1)補正前の請求項1の「無酸素雰囲気中において、前記側壁面に第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成し、」を、補正後の請求項1の「無酸素雰囲気中において、前記側壁面に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X ))からなる群から選ばれる材料を用いて第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成し、」と補正すること。

(補正事項a-2)補正前の請求項1の「13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に第2の封入層を形成する」を、補正後の請求項1の「13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X ))および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する」と補正すること。

(補正事項b)
(補正事項b-1)補正前の請求項5の「前記第1の封入層の材料として、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いる」を、補正後の請求項5の「前記第2の封入層を、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成する」と補正すること。

(補正事項b-2)補正前の請求項5の「請求項4に記載の磁気トンネル接合の封入方法」を、補正後の請求項5の「請求項1に記載の磁気トンネル接合の封入方法」と、引用関係を補正すること。

(補正事項c)
(補正事項c-1)補正前の請求項6の「無酸素雰囲気中において、前記側壁面に第1の封入層を形成する工程と、」を、補正後の請求項6の「無酸素雰囲気中において、前記側壁面に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第1の封入層を形成する工程と、」と補正すること。

(補正事項c-2)補正前の請求項6の「13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に第2の封入層を形成する工程と」を、補正後の請求項6の「13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する工程と」と補正すること。

(補正事項d)
(補正事項d-1)補正前の請求項10の「前記第1の封入層の材料として、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いる」を、補正後の請求項10の「前記第2の封入層を、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成する」と補正すること。

(補正事項d-2)補正前の請求項10の「請求項9に記載の磁気デバイスの形成方法」を、補正後の請求項10の「請求項6に記載の磁気デバイスの形成方法」と、引用関係を補正すること。

(補正事項e)
(補正事項e-1)補正前の請求項15の「酸素を捕獲可能な材料を用いて前記側壁面に無酸素雰囲気中において形成された第1の封入層と、」を、補正後の請求項15の「酸素を捕獲可能な材料を用いて前記側壁面に無酸素雰囲気中において酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて形成された第1の封入層と、」と補正すること。

(補正事項e-2)補正前の請求項15の「前記第1の封入層の上に13.3mPa以上の酸素分圧下において形成され、酸素を含有する第2の封入層と」を、補正後の請求項15の「前記第1の封入層の上に13.3mPa以上の酸素分圧下において酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて形成され、酸素を含有する第2の封入層と」と補正すること。

(補正事項f)補正前の請求項20の「前記第1の封入層は、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料で構成されている」を、補正後の請求項20の「前記第2の封入層は、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成されたものである」と補正すること。

(3)新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
(3-1)補正事項aについて
(3-1-1)補正事項a-1について
補正事項a-1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成」することについて、「酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X ))からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定的に減縮する補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-1-2)補正事項a-2について
補正事項a-2は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第2の封入層を形成する」ことについて、「酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X ))および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-2)補正事項bについて
(3-2-1)補正事項b-1について
補正事項b-1は、補正事項a-1にともない、補正前の請求項5に係る発明の発明特定事項である「前記第1の封入層の材料として、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いる」ことを削除するとともに、補正前の請求項5が引用する補正前の請求項4がさらに引用する補正前の請求項1に係る発明特定事項である「13.3mPa以上の酸素分圧下において、」「第2の封入層を形成する」ことについて、「前記第2の封入層を、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成する」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-2-2)補正事項b-2について
補正事項b-2は、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項4を引用することを、補正後の請求項1を引用することに変更する補正、すなわち、補正前の請求項4の発明特定事項である「前記第1の封入層と同じ材料を用いて前記第2の封入層を形成する」ことを削除する補正であり、特許請求の範囲の拡張に該当するので、特許法第17条の2第4項の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
したがって、補正事項b-2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3-3)補正事項cについて
(3-3-1)補正事項c-1について
補正事項c-1は、補正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「第1の封入層を形成する工程」について、「酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-3-2)補正事項c-2について
補正事項c-2は、補正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「第2の封入層を形成する工程」について、「酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-4)補正事項dについて
(3-4-1)補正事項d-1について
補正事項d-1は、補正事項c-1にともない、補正前の請求項10に係る発明の発明特定事項である「前記第1の封入層の材料として、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いる」ことを削除するとともに、補正前の請求項10が引用する補正前の請求項9がさらに引用する補正前の請求項6に係る発明特定事項である「13.3mPa以上の酸素分圧下において、」「第2の封入層を形成する工程」について、「前記第2の封入層を、66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成する」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-4-2)補正事項d-2について
補正事項d-2は、補正前の請求項6を引用する補正前の請求項9を引用することを、補正後の請求項6を引用することに変更する補正、すなわち、補正前の請求項9の発明特定事項である「前記第1の封入層と同じ材料を用いて前記第2の封入層を形成する」ことを削除する補正であり、特許請求の範囲の拡張に該当するので、特許法第17条の2第4項の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
したがって、補正事項d-2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3-5)補正事項eについて
(3-5-1)補正事項e-1について
補正事項e-1は、補正前の請求項15に係る発明の発明特定事項である「無酸素雰囲気中において形成された第1の封入層」について、「酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-5-2)補正事項e-2について
補正事項e-2は、補正前の請求項15に係る発明の発明特定事項である「13.3mPa以上の酸素分圧下において形成され、酸素を含有する第2の封入層」について、「酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-6)補正事項fについて
補正事項fは、補正事項e-1にともない、補正前の請求項15に係る発明の発明特定事項である「前記第1の封入層は、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料で構成されている」ことを削除するとともに、補正前の請求項20が引用する補正前の請求項15に係る発明特定事項である「13.3mPa以上の酸素分圧下において形成され」「る第2の封入層」について、「66.5mPa以上665mPa以下の酸素分圧下において形成されたものである」と限定的に減縮する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この補正は、当初明細書の【0030】段落の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3-7)新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についてのまとめ
以上、検討したとおり、本件補正のうちの補正事項b-2及びd-2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないから、本件補正は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない。

(4)独立特許要件について
(4-1)検討の前提
上記(3)において検討したとおり、本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないが、仮に本件補正が当該要件を満たすものであるとした場合には、上記(3)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、一応検討する。

(4-2)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1ないし22に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その請求項1ないし22に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(4-3)引用刊行物に記載された事項及び発明
(4-3-1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前である平成15年8月29日に日本国内で頒布された刊行物である特開2003-243630号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図3とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体において付加したものである(以下同様。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気メモリ装置およびその製造方法に関し、詳しくは、トンネル磁気抵抗素子を構成する強磁性体のスピン方向が平行もしくは反平行によって抵抗値が変化することを利用して情報を記録する不揮発性の磁気メモリ装置およびその製造方法に関する。」
「【0035】本発明の磁気メモリ装置1では、TMR素子13の側面、特にトンネル絶縁層303の側面とこのトンネル絶縁層303を挟む磁化固定層302および記憶層304との界面付近の側面は、水素(水素イオンも含む)、水酸基、酸素等に対してバリア性が高い窒化シリコンまたは酸化アルミニウムからなる側壁バリア層61で覆われている構成が採用されていることから、第4絶縁膜44の形成開始時における酸化性雰囲気や層間絶縁膜中に含まれる水素(水素イオンも含む)や水酸基イオンの侵入を防御することができる。このため、TMR素子13の特性の劣化やトンネル絶縁層303の膜厚バラツキを生じることが抑えられる。」
「【0037】次に、本発明の磁気メモリ装置の製造方法に係る実施の形態を、図3の製造工程断面図によって説明する。」
「【0042】その後、上記第3絶縁膜431上に上記書き込みワード線11、第2ランディングパッド35等を覆う上層部分の第3絶縁膜43(432)を、例えばP-TEOS膜を例えば100nmの厚さに堆積して形成する。このように、書き込みワード線11、第2ランディングパッド35等を覆う第3絶縁膜43がP-TEOS膜で形成される。」
「【0045】続いて、PVD(Physical Vapor Deposition)法によって、バリア層(図示せず)、反強磁性体層305、強磁性体からなる磁化固定層302、トンネル絶縁層303、強磁性体からなる記憶層304、キャップ層313を順次成膜する。」
「【0051】次いで、図3の(2)に示すように、レジスト塗布工程、リソグラフィー工程により、上記キャップ層313上にマスクを形成した後、そのマスクを用いてエッチング(例えば反応性イオンエッチング)により上記キャップ層313をエッチングする。その後レジストのマスクを例えばアッシングにより除去した後、上記キャップ層313をマスクにしてTMR素子を形成するための上記積層膜(例えば記憶層304?反強磁性体層305)を加工して、TMR素子13を形成する。図面では記憶層304から磁化固定層302上までを加工している。エッチングの終点は、トンネル絶縁層303から最下層の反強磁性体層305の途中で終わるように設定する。図面では磁化固定層302上でエッチングが終了している。このエッチングには、エッチングガスとして例えば塩素(Cl)を含んだハロゲンガスもしくは一酸化炭素(CO)にアンモニア(NH3 )を添加したガス系を用いる。
【0052】次に、側壁バリア層を形成するために、上記TMR素子13を被覆するように例えば窒化シリコン(例えばプラズマ-窒化シリコンシリコン)膜を例えば化学的気相成長法によって堆積する。次いで、窒化シリコン膜を全面エッチバックして、TMR素子13の側面にP-窒化シリコン膜をサイドウォール状に残すことで側壁バリア層61を形成する。この側壁バリア層61は、少なくともTMR素子13のトンネル絶縁層303側面およびトンネル絶縁層303と記憶層304との界面を覆うように形成される必要がある。また側壁バリア層61は、水素(水素イオンも含む)や水酸基イオン、酸素等に対するバリア性が高い絶縁膜であればよく、窒化シリコン膜の他に例えば酸化アルミニウム膜で形成することができる。なお、成膜方法は、TMR素子13の側面に膜付けできる成膜方法であればいかなる成膜方法であってもよく、例えばスパッタリングによる成膜もできる。」
「【0054】次に、図3の(3)に示すように、CVD法もしくはPVD法によって、TMR素子13を覆うように全面に酸化シリコンもしくは酸化アルミニウム等からなる第4絶縁膜44を堆積する。このときTMR素子13の側面は、窒化シリコンまたは酸化アルミニウムからなる側壁バリア層61によって覆われているため、第4絶縁膜44の堆積開始時に酸化性雰囲気にさらされることは無い。その後、化学的機械研磨によって、その堆積した第4の絶縁膜44表面を平坦化するとともに、TMR素子13の最上層のキャップ層313を露出させる。」
「【0056】上記磁気メモリ装置の製造方法では、TMR素子13の側面に不純物イオンを通さない側壁バリア層61を形成することから、例えば還元性物質の水素イオンや酸化性物質の水酸基イオンがTMR素子13の側面より侵入することが防止される。この結果、例えば第4絶縁膜44の形成工程において第4絶縁膜44中より発生する水素の拡散や、フォーミングガスによるシンタ工程での水素の拡散による還元作用によって、TMR素子13のトンネル絶縁層303の膜厚が変化して膜厚が薄くなり、還元反応が進みすぎた場合にトンネル絶縁層303を挟み磁化固定層302と記憶層304とが短絡するという問題が回避される。また、トンネル絶縁層303を挟んで形成される磁化固定層302や記憶層304が酸化され、それによってトンネル絶縁層303の膜厚が厚くなるという問題も回避される。」

(4-3-2)そうすると、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「書き込みワード線11、第2ランディングパッド35等を覆う第3絶縁膜43をP-TEOS膜で形成し、
続いて、PVD法によって、バリア層、反強磁性体層305、強磁性体からなる磁化固定層302、トンネル絶縁層303、強磁性体からなる記憶層304、キャップ層313を順次成膜し、次いで、レジスト塗布工程、リソグラフィー工程により、前記キャップ層313上にマスクを形成した後、前記マスクを用いてエッチングにより前記キャップ層313をエッチングし、その後前記レジストのマスクを除去した後、前記キャップ層313をマスクにして前記記憶層304?前記反強磁性体層305を加工して、TMR素子13を形成し、
次に、前記TMR素子13を被覆するように窒化シリコン膜もしくは酸化アルミニウム膜を、化学的気相成長法もしくはスパッタリングによって堆積し、次いで、前記窒化シリコン膜もしくは前記酸化アルミニウム膜を全面エッチバックして、前記TMR素子13の側面に前記窒化シリコン膜もしくは前記酸化アルミニウム膜をサイドウォール状に残すことで側壁バリア層61を形成し、
次に、CVD法もしくはPVD法によって、前記TMR素子13を覆うように全面に酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積し、
その後、化学的機械研磨によって、前記第4絶縁膜44の表面を平坦化するとともに、前記TMR素子13の最上層の前記キャップ層313を露出させる
磁気メモリ装置の製造方法。」

(4-4)対比
(4-4-1)刊行物発明の「強磁性体からなる磁化固定層302」、「強磁性体からなる記憶層304」、「トンネル絶縁層303」及び「TMR素子13」は、各々補正後の発明の「ピンド層」、「フリー層」、「これらの間に設けられた絶縁トンネル層」及び「積層体」に相当し、刊行物発明の「TMR素子13」が側壁を有していることは明らかであるから、刊行物発明の「PVD法によって、バリア層、反強磁性体層305、強磁性体からなる磁化固定層302、トンネル絶縁層303、強磁性体からなる記憶層304、キャップ層313を順次成膜し、次いで、レジスト塗布工程、リソグラフィー工程により、前記キャップ層313上にマスクを形成した後、前記マスクを用いてエッチングにより前記キャップ層313をエッチングし、その後前記レジストのマスクを除去した後、前記キャップ層313をマスクにして前記記憶層304?前記反強磁性体層305を加工して、TMR素子13を形成」することは、補正後の発明の「ピンド層と、フリー層と、これらの間に設けられた絶縁トンネル層とを含むと共に、側壁面を有する積層体を用意」することに相当する。

(4-4-2)刊行物発明の「前記TMR素子13を被覆するように窒化シリコン膜を、化学的気相成長法もしくはスパッタリングによって堆積し、次いで、前記窒化シリコン膜を全面エッチバックして、前記TMR素子13の側面に前記窒化シリコン膜をサイドウォール状に残すことで側壁バリア層61を形成」することと、補正後の発明の「無酸素雰囲気中において、前記側壁面に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X ))からなる群から選ばれる材料を用いて第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成」することとは、「前記側壁面に窒化シリコン(SiN_(X ))からなる材料を用いて第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成」するという点で共通する。

(4-4-3)刊行物発明の「CVD法もしくはPVD法によって、前記TMR素子13を覆うように全面に酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積」することと、補正後の発明の「13.3mPa以上の酸素分圧下において、前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2) )、窒化アルミニウム(AlN_(X ))および窒化シリコン(SiN_(X) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する」こととは、「前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))および二酸化シリコン(SiO_(2) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する」という点で共通する。

(4-4-4)刊行物発明の「磁気メモリ装置の製造方法」は、補正後の発明の「磁気トンネル接合の封入方法」に相当する。

(4-4-5)そうすると、補正後の発明と刊行物発明とは、
「ピンド層と、フリー層と、これらの間に設けられた絶縁トンネル層とを含むと共に、側壁面を有する積層体を用意し、
前記側壁面に窒化シリコン(SiN_(X ))からなる材料を用いて第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成し、
前記第1の封入層の上に酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))および二酸化シリコン(SiO_(2) )からなる群から選ばれる材料を用いて第2の封入層を形成する
ことを特徴とする磁気トンネル接合の封入方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)補正後の発明では、「無酸素雰囲気中において、」「第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成」するのに対し、刊行物発明では、「窒化シリコン膜を、化学的気相成長法もしくはスパッタリングによって堆積」する際の雰囲気について、特定されていない点。

(相違点2)補正後の発明では、「13.3mPa以上の酸素分圧下において、」「第2の封入層を形成する」のに対し、刊行物発明では、「CVD法もしくはPVD法によって、前記TMR素子13を覆うように全面に酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積」する際の酸素分圧について、特定がなされていない点。

(4-5)判断
(4-5-1)相違点1について
引用刊行物の段落【0035】に、「本発明の磁気メモリ装置1では、TMR素子13の側面、特にトンネル絶縁層303の側面とこのトンネル絶縁層303を挟む磁化固定層302および記憶層304との界面付近の側面は、水素(水素イオンも含む)、水酸基、酸素等に対してバリア性が高い窒化シリコンまたは酸化アルミニウムからなる側壁バリア層61で覆われている構成が採用されていることから、第4絶縁膜44の形成開始時における酸化性雰囲気や層間絶縁膜中に含まれる水素(水素イオンも含む)や水酸基イオンの侵入を防御することができる。このため、TMR素子13の特性の劣化やトンネル絶縁層303の膜厚バラツキを生じることが抑えられる。」と記載されているように、刊行物発明の「側壁バリア層61」は、「第4絶縁膜44の形成開始時における酸化性雰囲気」「の侵入を防御」し、「TMR素子13の特性の劣化やトンネル絶縁層303の膜厚バラツキを生じることが抑えられる」という効果を奏するものであるから、該「側壁バリア層61」を形成する際の雰囲気中に敢えて酸素を含ませることはないものと認められる。そして、刊行物発明は、「窒化シリコン膜を、化学的気相成長法もしくはスパッタリングによって堆積」するものであり、これらの成膜法は、雰囲気中に酸素を含ませる必要がないものである。
そうすると、刊行物発明においても、「窒化シリコン膜を、化学的気相成長法もしくはスパッタリングによって堆積」する際に、無酸素雰囲気中において行っているものと認められ、仮にそうでないとしても、「窒化シリコン膜を、化学的気相成長法もしくはスパッタリングによって堆積」する際に、無酸素雰囲気中において行うことにより、補正後の発明のように、「無酸素雰囲気中において、前記側壁面に」「窒化シリコン(SiN_(X ))からなる」「材料を用いて第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成」する構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、上記相違点1は、実質的なものでないか、仮に実質的なものであったとしても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-5-2)相違点2について
刊行物発明において、「CVD法」「によって」「酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積」した場合、雰囲気中に、成膜原料ガスの一部である酸素を13.3mPa以上の分圧で含有させることは、成膜後の酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムにおいて要求される物理的性質を決定する一つの要素である酸素組成比に応じて、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
また、刊行物発明において、「PVD法によって、」「酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積」した場合において、当該PVD法が、例えば反応性スパッタリング法であれば、成膜原料ガスの一部である酸素を13.3mPa以上の分圧で含有させることも、上記「CVD法」「によって」「酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積」した場合と同様、当業者が適宜設定し得る設計的事項であり、当該「PVD法」がターゲットSiO_(2)を用いたスパッタリング法により行われるものであるとしても、ターゲットSiO_(2)を用いたスパッタリング法において、スパッタリングガスに通常のアルゴンに加えて酸素を混合することによって、成膜される酸化シリコンの膜質を向上させることは、以下の周知例に記載されているように、周知の技術的事項であり、その際、酸素の分圧をどの程度にするかということも、要求される膜質の程度に応じて、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。

(周知例)
本願の優先権主張の日前である平成1年6月9日に日本国内で頒布された刊行物である特開平1-147834号公報には、以下の事項が記載されている。
「[産業上の利用分野]
本発明は半導体装置の製造方法に係り、特にバイアススパッタ法を用いてデバイス表面を平坦化する工程を含む半導体装置の製造方法に関する。
[従来技術]
今日の高集積化の進行に伴い、半導体装置における配線部の段差は、デバイスの横寸法に比べて益々激しいものになって来ている。このようにデバイス表面の凹凸が激しくなってくると、デバイスの上層での段差被覆性、特に多層配線での第2層目の配線の被覆形状が悪化し、チップ歩留り、デバイスの信頼性が低下する。
この問題を解決する方法の1つに、バイアススパッタによる層間絶縁膜の平坦化法がある。
この方法は、例えば高周波電力を印加することによりターゲットSiO_(2)を基板側に被着させると同時に、基板側にも高周波電力を印加して自己バイアスにより基板側もスパッタリングする方法である。この方法の特徴は、基板側のスパッタリング速度がスパッタガス粒子の入射方向に依存するという性質を利用してデバイス表面を平坦化することにある。
第3図は、バイアススパッタ法を一般的に説明するための模式図である。
同図において、SiO_(2)の下地材料1上にAl又はAl合金の配線2が形成され、自己バイアスによってArイオン3が飛来して、基板表面をスパッタリングする。こうして基板表面にSiO_(2)の平坦化膜が形成される。
なお、スパッタガスとしては、通常、Arを用いた高速成長が行われているが、Arに微量のO_(2)を混合させることによって、成長速度は低下するものの、SiO_(2)の絶縁膜の膜質が向上する。」

そうすると、刊行物発明において、「CVD法もしくはPVD法によって、前記TMR素子13を覆うように全面に酸化シリコンもしくは酸化アルミニウムからなる第4絶縁膜44を堆積」する際に、、13.3mPa以上の酸素分圧下において行うことにより、補正後の発明のように、「13.3mPa以上の酸素分圧下において、」「第2の封入層を形成する」構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、上記相違点2は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-6)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明との相違点は、実質的なものでないか、周知技術を勘案することにより、当業者が、容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、補正後の発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

(5)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさないものであり、また、仮に、そのような違反がなく、本件補正が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合においても、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成24年9月28日になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし22に係る発明は、平成24年3月22日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その請求項1ないし22に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

4.刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物には、上記2.(4-3-1)及び(4-3-2)に記載したとおりの事項及び発明(刊行物発明)が記載されているものと認められる。

5.判断
補正後の請求項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「第1の封入層(a first encapsulating layer)を形成」すること及び「第2の封入層を形成する」ことについて、各々「酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 ))、二酸化シリコン(SiO_(2 ))、窒化アルミニウム(AlN_(X) )および窒化シリコン(SiN_(X ))からなる群から選ばれる材料を用いて」と限定したものである。逆に言えば本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,補正後の発明から上記限定事項をなくしたものである。
そうすると、上記2.(4)において検討したように、補正後の発明が,引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当然に、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-16 
結審通知日 2013-07-17 
審決日 2013-07-31 
出願番号 特願2006-277396(P2006-277396)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文瀧内 健夫  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 加藤 浩一
小野田 誠
発明の名称 磁気トンネル接合の封入方法、磁気デバイスの形成方法、および磁気トンネル接合構造  
代理人 三反崎 泰司  

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