• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1282831
審判番号 不服2012-25536  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-25 
確定日 2013-12-13 
事件の表示 特願2008-72847号「レンジフード」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月8日出願公開、特開2009-228937号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年3月21日の出願であって、平成24年6月18日付けで拒絶理由が通知され(発送日:6月20日)、これに対し、平成24年8月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年9月24日付けで拒絶査定がなされ(発送日:9月26日)、これに対して、平成24年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、この審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]

平成24年12月25日の手続補正を却下する。

[理由1]
1.補正の内容
平成24年12月25日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?4を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?4に補正するとともに、明細書を補正するものであり、そのうちの補正前後の特許請求の範囲は、以下のとおりである。

(補正前)
「 【請求項1】
調理器具の上方に配置され、調理時に発生した油煙を捕集するフード1と、
このフード1で捕集した油煙を屋外に排気する排気手段2を備えたレンジフードであって、
前記フード1は、左右側面部3,3と上面部4で下向きに開口した捕集用凹部5を有し、
前記排気手段2は、前記上面部4の背面側の排気空間10と、この排気空間10内の空気を吸引して屋外に排気する吸気ファン11を有し、
前記上面部4は、捕集した油煙をフード前部に向けて流れるようにガイドするガイド部6と、このガイド部6の前端部と連続し下向き円弧形状に湾曲して油煙を旋回流とする旋回流発生部7を有し、
前記ガイド部6の前後方向中間に、前記排気空間10に連通して捕集した油煙の一部を吸い込む吸込口が形成され、
この吸込口と前記旋回流発生部7を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流におけるガイド部6に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けたことを特徴とするレンジフード。
【請求項2】
前記ガイド部6の左右方向両側に、前記排気空間10に連通して捕集した油煙の一部を吸い込む吸込口がそれぞれ形成されている請求項1記載のレンジフード。
【請求項3】
前記前後方向中間に形成した吸込口は、前後方向の開口幅が小さく、左右方向に長いほぼスリット形状で、
前記左右方向両側に形成した吸込口は、左右方向の開口幅が小さく、前後方向に長いほぼスリット形状である請求項2記載のレンジフード。
【請求項4】
前記前後方向中間に形成した吸込口の背面側開口縁に沿って、吸引ファン11の吸引方向に向かう第1吸込ガイドを設け、
前記左右方向両側に形成した吸込口の背面側開口縁に沿って、吸引ファン11の吸引方向に向かう第2吸込ガイドを設けた請求項2又は3記載のレンジフード。」

(補正後)
「 【請求項1】
調理器具の上方に配置され、調理時に発生した油煙を捕集するフード1と、
このフード1で捕集した油煙を屋外に排気する排気手段2を備えたレンジフードであって、
前記フード1は、左右側面部3,3と上面部4で下向きに開口した捕集用凹部5を有し、
前記排気手段2は、前記上面部4の背面側の排気空間10と、この排気空間10内の空気を吸引して屋外に排気する吸気ファン11を有し、
前記上面部4は、捕集した油煙をフード前部に向けて流れるようにガイドするガイド部6と、このガイド部6の前端部と連続し下向き円弧形状に湾曲して油煙を旋回流とする旋回流発生部7を有し、
前記ガイド部6の前後方向中間に、前記排気空間10に連通して捕集した油煙の一部を吸い込む前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口が形成され、
前記ガイド部6の前記吸込口よりフード後側位置には前記排気空間に至る前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口は存在せず、
この吸込口と前記旋回流発生部7を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流におけるガイド部6に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けたことを特徴とするレンジフード。
【請求項2】
前記ガイド部6の前後方向中間に形成した吸込口は、当該ガイド部6に沿って流れる油煙の一部及びフード1内の空気を吸い込む請求項1記載のレンジフード。
【請求項3】
前記ガイド部6の左右方向両側に、前記排気空間10に連通して捕集した油煙の一部を吸い込む左右方向の開口幅より前後方向の開口幅の方が長い吸込口がそれぞれ形成されている請求項1又は2記載のレンジフード。
【請求項4】
前記前後方向中間に形成した吸込口の背面側開口縁に沿って、吸引ファン11の吸引方向に向かう第1吸込ガイドを設け、
前記左右方向両側に形成した吸込口の背面側開口縁に沿って、吸引ファン11の吸引方向に向かう第2吸込ガイドを設けた請求項3記載のレンジフード。」

2.当審の判断
(1)補正後の請求項1は、補正前の請求項1に、吸込口に関して、「前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い」との形状についての限定を付加するとともに、「ガイド部6の前記吸込口よりフード後側位置には前記排気空間に至る前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口は存在せず」との配置についての限定を付加したものである。

したがって、請求項1に係る補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。

(2)補正後の請求項2は、請求項1を引用し、さらに「ガイド部6の前後方向中間に形成した吸込口は、当該ガイド部6に沿って流れる油煙の一部及びフード1内の空気を吸い込む」との要件を備えるものである。

一方、補正前の請求項2?4は、「ガイド部6の左右方向両側に、前記排気空間10に連通して捕集した油煙の一部を吸い込む吸込口がそれぞれ形成されている」という補正後の請求項2にない要件を備えるものである。

そうすると、補正後の請求項2には対応する補正前の請求項がなく、新たな請求項を追加するものといわざるを得ない。

したがって、補正後の請求項2に係る補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。

また、補正後の請求項2に係る補正は、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。

(3)補正後の請求項3は、補正前の請求項2に、吸込口に関して「左右方向の開口幅より前後方向の開口幅の方が長い」との限定を付加したものである。

そして、補正後の請求項3は、補正前の請求項3に記載された吸込口についての「スリット形状」の要件や、補正前の請求項4に記載された「第1吸込ガイド」や「第2吸込ガイド」の要件を備えていない。

そうすると、補正後の請求項3は、一応、補正前の請求項2に対応するものといえる。

しかしながら、補正前の請求項2が請求項1を引用するものであったところ、補正後の請求項3では「請求項1又は2記載のレンジフード」と請求項1又は2を引用するものとなっている。

したがって、補正後の請求項3に係る補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。

また、補正後の請求項3に係る補正は、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。

(4)まとめ
上記(2)及び(3)で述べたとおりであるから、補正後の請求項2及び3に係る補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げられた事項を目的とするものでないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定を満たすものではない。

3.結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反し、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由2]
仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

1.補正後の発明
補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記「[理由1]1.補正の内容(補正後)」の項での【請求項1】のとおりのものである。

2.刊行物その記載事項
(1)原審の拒絶理由にて引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特表2003-519771号公報(以下「刊行物1」という。)には、実施例に対応する図2、3、並びに、両実施例と基本構成が同じである先行技術に対応する図1と共に、次の記載がある。

ア.「【0004】
図1を参照すると、一般的な先行技術の排気フード90がレンジ15上に配置されている。排気フード90は、少なくとも一つのベント65(フィルタ60により覆われている)を備える凹部55と、汚れた空気45を流出させる排気システム(図示せず。)に通じる排気ダクト30とを備えている。ベント65はプレナム(plenum)37を規定するバリア35の開口である。通常、排気システムは外部配管と、空気及び汚染物質を建物外に引き出して処理施設へ排出し、又は単に大気中に排出する一個又は複数個のファンとからなる。通常、汚染物質生成プロセスにより粒子及び蒸気汚染と共に熱が生成されるため、汚染物質の捕捉において排気フード90の凹部55が重要な役割を果たす。熱はそれ自体の熱対流駆動の流れ、すなわちプルーム10を生じさせ、汚染物質が間断なくフードから吸い出されている間、プルーム10が凹部55内でフードによって捕捉されなければならない。凹部は緩衝ゾーンを生成し、この緩衝ゾーンによって過渡対流プルーム(transient convection plume)がベントを介して安定した排気流れを逃さないことが容易に保証される。対流駆動の流れ、すなわちプルーム10がコアンダ効果により渦流れパターン20を生成する場合もあり、それによってサーマルプルーム10が後壁に貼り付く。実用的応用における排気速度は、室内空気5が汚染物質と共に吸い出されるように設定されている。」(段落【0004】、下線は当審にて付与、以下同じ。)

イ.「【0019】
(図面の詳細な説明)
図2を参照すると、グリル175上で食物を調理する時に生じる排出物により、天蓋凹部140内へ上昇するプルーム170が生成される。凹部140は、渦状流れ135に対する抵抗を低減するために内側面が刻面状又は湾曲状となるよう形成される。油脂又は他の粒子は、天蓋凹部140内の排気ベント130に配置された空気フィルタ115により除去される。」(段落【0019】)

ウ.「【0025】
ここで図3を参照すると、代案の実施例では、排気フード225は凹部240の表面が渦135に対する抵抗を低減するような平滑な湾曲をなすように形成されている。側面から見て鋭利な変化がある凹部及び/又は複数の凹部(例えば隅部)であると、乱流が生成されて渦135を阻害する。」(段落【0025】)

エ.図3には、以下の事項が図示されている。
・排気フード225には、上面部(部分245から図1におけるバリア35と同等の部分(以下「バリア部分」という。)の総称)及び左右側面部で下向きに開口した凹部240が形成されていること
・上記バリア部分の前後方中間位置に、排気ダクト180に連通して捕捉したプルーム170の一部を吸い込む排気ベント130が配設されていること
・上記ウの記載及び図示の渦135の形成状態からみて、バリア部分及び上面部の部分245によって、捕捉したプルーム170が排気フード225前部に向けて流れるようにガイドされ、つづいて渦135とされることは明らかである
・上記バリア部分の上記排気ベント130より後側位置には上記排気ダクト180に至る吸込口は存在しないこと
・上記排気ベント130の配置により、上記排気ベント130からプルーム170の一部が吸い込まれる方向に渦135における流れが向かっていること

以上の事項を総合すると、刊行物1には、図3対応の発明として、次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という)が記載されているものと認められる。

グリル175の上方に配置され、食物を調理する時に生じるプルーム170を捕捉する排気フード225と、
この排気フード225で捕捉したプルーム170を建物外に排出する排気システムに連結したグリル用排気フードであって、
前記排気フード225は、左右側面部と上面部で下向きに開口した凹部240を有し、
前記排気システムは、前記上面部の背面側の排気ダクト180と、この排気ダクト180内の空気を吸引して屋外に排気するファンを有し、
前記上面部は、捕捉したプルーム170を排気フード225前部に向けて流れるようにガイドし、つづいてプルーム170を渦135とする、バリア部分及び表面が渦135に対する抵抗を低減するような平滑な湾曲をなす形状とした部分245を有し、
前記バリア部分の前後方中間位置に、排気ダクト180に連通して捕捉したプルーム170の一部を吸い込む排気ベント130が配設され、
前記バリア部分の前記排気ベント130より後側位置には前記排気ダクト180に至る吸込口は存在せず、
前記排気ベント130の配置により、前記排気ベント130からプルーム170の一部が吸い込まれる方向に、渦135における流れが向かっているグリル用排気フード。

3.発明の対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「グリル175」は本願発明の「調理器具」に相当し、以下同様に、「食物を調理する時に生じる」は「調理時に発生した」に、「プルーム170」は「油煙」または「空気」に、「捕捉する」は「捕集する」に、「排気フード225」は「フード1」に、「建物外に排出する」は「屋外に排気する」に、「グリル用排気フード」は「レンジフード」に、「凹部240」は「捕集用凹部5」に、「バリア部分」及び「部分245」は「ガイド部6」及び「旋回流発生部7」に、「渦」は「旋回流」に、「上面部は、捕捉したプルーム170を排気フード225前部に向けて流れるようにガイドし、つづいてプルーム170を渦とする、バリア部分及び表面が渦135に対する抵抗を低減するような平滑な湾曲をなす形状とした部分245を有し」は「上面部4は、捕集した油煙をフード前部に向けて流れるようにガイドするガイド部6と、このガイド部6の前端部と連続し下向き円弧形状に湾曲して油煙を旋回流とする旋回流発生部7を有し」に、「バリア部分の前後方中間位置」は「ガイド部6の前後方向中間」に、「排気ダクト180」は「排気空間10」に、「排気ベント130」は「吸込口」に、各々相当する。

また、刊行物1記載の発明の「上面部の背面側の排気ダクト180と、この排気ダクト180内の空気を吸引して屋外に排気するファンを有」する「排気システム」と、本願補正発明の「上面部4の背面側の排気空間10と、この排気空間10内の空気を吸引して屋外に排気する吸気ファン11を有」する「排気手段2」は、共に「排気設備」といえる。

さらに、刊行物1記載の発明の「排気ベント130の配置により、前記排気ベント130からプルーム170の一部が吸い込まれる方向に、渦135の流れの一部が向かっている」と、本願補正発明の「この吸込口と前記旋回流発生部7を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流におけるガイド部6に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けた」は、刊行物1記載の発明においても渦135は湾曲をなす形状とした部分245(旋回流発生部)により形成されるものであるから、共に「この吸込口と前記旋回流発生部を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向に旋回流における流れが向かうように設けた」といえる。

したがって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
調理器具の上方に配置され、調理時に発生した油煙を捕集するフード1と、
このフード1で捕集した油煙を屋外に排気する排気設備を備えたレンジフードであって、
前記フード1は、左右側面部3,3と上面部4で下向きに開口した捕集用凹部5を有し、
前記上面部4は、捕集した油煙をフード前部に向けて流れるようにガイドするガイド部6と、このガイド部6の前端部と連続し油煙を旋回流とする湾曲した旋回流発生部7を有し、
前記ガイド部6の前後方向中間に、排気空間10に連通して捕集した油煙の一部を吸い込む吸込口が形成され、
前記ガイド部6の前記吸込口よりフード後側位置には前記排気空間10に至る吸込口は存在せず、
この吸込口と前記旋回流発生部7を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向に旋回流における流れが向かうように設けたレンジフード。

(相違点1)
排気設備が、本願補正発明では「上面部4の背面側の排気空間10と、この排気空間10内の空気を吸引して屋外に排気する吸気ファン11を有」する「排気手段2」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「上面部の背面側の排気ダクト180と、この排気ダクト180内の空気を吸引して屋外に排気するファンを有」する「排気システム」である点。

(相違点2)
油煙を旋回流とする湾曲した旋回流発生部が、本願補正発明では「下向き円弧形状に湾曲して油煙を旋回流とする旋回流発生部7」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「表面が渦135に対する抵抗を低減するような平滑な湾曲をなす形状としてプルーム170を渦とする部分245」である点。

(相違点3)
吸込口が、本願補正発明では「前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口」とその形状が特定されているのに対し、刊行物1記載の発明では、形状が不明な点。

(相違点4)
吸込口と前記旋回流発生部に関して、本願補正発明では「この吸込口と前記旋回流発生部7を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流におけるガイド部6に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けた」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明では「排気ベント130の配置により、前記排気ベント130からプルーム170の一部が吸い込まれる方向に、渦135における流れが向かっている」ものに留まり、吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が渦135の外周のほぼ接線方向と一致しているか否かが不明である点。

4.判断
そこで、上記各相違点につき検討する。

(相違点1について)
レンジフードの排気設備として、レンジフード自体にファンを取り付けた「レンジフードの上面部の背面側の排気空間と、この排気空間内の空気を吸引して屋外に排気する吸気ファンを有する排気手段」を用いることは、例えば、原審の拒絶理由にて引用された特開2005-226915号公報(図1参照)記載のように、従来より周知の技術手段である。

よって、刊行物1記載の発明において、排気設備として「レンジフードの上面部の背面側の排気空間と、この排気空間内の空気を吸引して屋外に排気する吸気ファンを有する排気手段」を用いることは、上記周知の技術手段に倣って、当業者が容易になし得た事項である。

(相違点2について)
刊行物1記載の発明の「表面が渦135に対する抵抗を低減するような平滑な湾曲をなす形状」という事項は「平滑な湾曲をなす形状」が円弧であるとまでは特定していない。

しかしながら、レンジフードの技術分野において「平滑な湾曲をなす形状」の代表的なものとして円弧が存在することは、例えば、特開平11-193947号公報(第2の案内面10B参照)記載のように、従来より周知の技術事項である。

よって、刊行物1記載の発明における「表面が渦135に対する抵抗を低減するような平滑な湾曲をなす形状」として、円弧を採用することは、上記周知の技術事項に倣って、当業者が容易になし得た事項である。

(相違点3について)
排気用吸込口の寸法、形状は、排気すべき流量、排気領域の大きさ・位置等に応じて、当業者が、適宜決定すべき設計的事項でる。

また、このような実例として、原審の拒絶理由にて引用された上記特開2005-226915号公報(図2参照)、特開平6-159754号公報(図3参照)には、「前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口」が記載されている。

よって、刊行物1記載の発明において、吸込口を「前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口」とすることは、排気すべき流量、排気領域等の条件を考慮して、当業者が適宜なし得た事項である。

(相違点4について)
刊行物1記載の発明においては、その図面が発明の説明のため図面であって厳密なものでないこと及び明細書に明文の記載がないことから、「吸込口(排気ベント130)と旋回流発生部(渦とする部分245)を、吸込口(排気ベント130)から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流(渦135)におけるガイド部(バリア部分及び部分245の一部)に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けている」か否かが明確でない。

しかしながら、図3をみるに、図示の「排気ベント130」の位置で吸い込んだ場合、吸い込まれるプルーム170の一部の流れ方向は、渦135の外周のほぼ接線方向となっている。

また、レンジフードの上面部に設けられる吸込口(排気ベント130)はプルーム170の排出を行うために必要となる所定の前後方向の開口幅を有するものであり、その吸込口から吸い込まれる空気の流れ方向も前記開口幅に対応して、一定の角度範囲を有するといえる。

また、図3の矢印、排気ベント130等の位置関係が、設計図の様に厳密なものでないとしても、吸い込まれる空気の流れ方向は一定の角度範囲として存在すること、さらに渦が旋回することに対応して「渦の外周の接線の方向」も広い角度範囲であることを考慮するならば、排気ベント130は、グリル175から上昇するプルーム170の一部と共に渦となったプルームの外周より一部が吸い込まれる唯一の吸込口といえるから、刊行物1記載の発明においても「排気ベント130から吸い込まれるプルーム170の流れ方向は、渦における上記バリア部分及び部分245の一部に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向」であるといえ、相違点4は、実質的相違点ではない。

そして、本願補正発明の奏する効果も、刊行物1記載の発明、及び上記周知の技術事項から、当業者が予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

[回答書における請求人の主張に関する検討]
請求人は、平成25年7月18日付け回答書で、本願発明と引用発明1の発明(刊行物1記載の発明)の間に次の相違点が存在するとして、本願発明の特許性を主張しているので、以下に検討する。

(1)請求人主張の相違点(回答書第1頁27行?第2頁第15行)
(相違点イ)本願発明では、吸込口はガイド部材の前後方向中間に形成されているのに対し、引用文献1記載の発明では、吸込口はガイド部の始まりの立ち上がり部に形成されている点

(相違点ロ)本願発明では、ガイド部6は、捕集した油煙の前進成分をフード前部に向けて流れるようにガイドするものであるのに対し、引用文献1の発明では、ガイド部の立ち上がり部は基本的には汚れた空気の内、後部側で立ち上がる成分を排気ベント130に直接排出しようとするものであり、それより前方部はそれで対応できない領域にある油煙をガイドするものである点

(相違点ハ)本願発明では、吸込口と前記旋回流発生部7を、その吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流におけるガイド部6に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けているのに対し、引用文献1の発明では吸込口から吸い込まれる空気の一部の流れ方向が、旋回流におけるガイド部6に向かう流れ部分の外周のほぼ接線方向に向かうように設けているかは不明な点(少なくとも図上では初期的に吸い込まれる空気と旋回流とは別物のように見える)

(相違点ニ)本願発明では、フードに強制的な気流作成手段は使用されていないのに対し、引用文献1の発明では、排気フード前端にエアジェットを下方に吹き出す手段があることを必須としている点

(2)検討
(相違点イについて)
刊行物1記載の「バリア」は「ベント65はプレナム(plenum)37を規定するバリア35の開口である」という記載(摘記事項ア)及び図1の記載からも明らかなように、バリア35の前後方中間位置にベント65が配設された構成を有しており、これは、図3に対応する刊行物1記載の発明においても同様である。
そして、刊行物1記載の発明における「バリア部分及び部分245の一部」が本願補正発明における「ガイド部」に相当するので、刊行物1記載の発明も「吸込口はガイド部材の前後方向中間に形成されている」といえる。
よって、請求人の主張は採用できない。

(相違点ロについて)
刊行物1記載の発明におけるガイド部(バリア部分及び部分245の一部)は、請求人の主張するように「ガイド部の立ち上がり部は基本的には汚れた空気の内、後部側で立ち上がる成分を排気ベント130に直接排出しようとするものであり、それより前方部はそれで対応できない領域にある油煙をガイドするものである」かもしれないが、「ガイド部により捕集した(後方境界壁に沿って上昇する)油煙をフード前部に向けて流れるようにガイドするもの」である点においては、本願補正発明と相違しない。

請求人の主張は、排気ベント130からの排気量とフード前部に向けてガイドされる量の相違を主張しているとも考えられるが、本願補正発明においても「吸込口」は「ガイド部6の前後方向中間の吸込口」のみしか特定されておらず(他にガイド部の左右方向の第2吸込口9が特定されるのは請求項3以降である)、この場合、前記吸込口から油煙全量が排気されるため、流量に関しても刊行物1記載の発明と比べ格別に異なるものとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(相違点ハについて)
上記相違点4において検討したとおりである。

(相違点ニについて)
刊行物1記載の発明の実施例に相当する図3の実施例は、請求人の主張しているように「カーテンジェット150」を設けている。

一方、刊行物1には、カーテンジェットを持たない従来例においても渦(渦流パターン20)が生成されることが記載されている(図1、段落【0004】参照)。

そして、刊行物1に記載された「カーテンジェット150」は、「フードの有効な捕捉能力及び封じ込め能力」を「増強」させるためのものであり(段落【0011】参照)、渦の存在自体で既に「逆流176に対する吸引力」を有しているが「カーテンジェット150」を持たない形態に、さらに機能増強のために付加される技術手段である。

よって、「カーテンジェット150」がないことをもって、進歩性を有する発明であると主張する請求人の主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1記載の発明、及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.結び
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上述のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年8月3日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「[理由1]1.補正の内容(補正前)」の項で【請求項1】として記載したとおりのものである。

2.刊行物とその記載事項
原査定で引用された刊行物(刊行物1並びに周知刊行物)と、その記載事項は、上記の「第2」の[理由2]の2及び4に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明において、発明特定事項である「吸込口」に関して、「前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い」とのその形状についての限定、及び「ガイド部6の前記吸込口よりフード後側位置には前記排気空間に至る前後方向の開口幅より左右方向の開口幅の方が長い吸込口は存在せず」との配置についての限定を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項である吸込口についての形状についての限定、配置についての限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」に記載したとおり、刊行物1記載の発明、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、相違点3の検討を除いた同様の理由により、刊行物1記載の発明、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-02 
結審通知日 2013-10-09 
審決日 2013-10-25 
出願番号 特願2008-72847(P2008-72847)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24F)
P 1 8・ 572- Z (F24F)
P 1 8・ 575- Z (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 鳥居 稔
前田 仁
発明の名称 レンジフード  
代理人 佐藤 嘉明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ