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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1282843
審判番号 不服2013-5045  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-15 
確定日 2013-12-12 
事件の表示 特願2008-142566「舶用燃料供給システムおよび船外機」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日出願公開、特開2009-287498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年5月30日の出願であって、平成24年8月6日付けで拒絶理由が通知され、同年10月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月27日付けで拒絶査定がなされ、平成25年3月15日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同時に同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において同年5月23日付けで書面による審尋がなされ、それに対して同年7月3日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成25年3月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年3月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成25年3月15日付けの手続補正の内容
平成25年3月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年10月16日付け手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、ポンプを含まない燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、ポンプを含まない前記第2燃料タンクの外部に配置されかつ第2燃料タンクに固定されている、舶用燃料供給システム。
・・・(略)・・・
【請求項14】
船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、ポンプを含まない燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンと、
前記エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、ポンプを含まない前記第2燃料タンクの外部に配置されかつ第2燃料タンクに固定されている、船外機。
【請求項15】
船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、前記第2燃料タンクの外部に配置されかつ第2燃料タンクに固定されており、
前記ポンプ駆動部は、前記エンジンの駆動力により前記ポンプ本体部を駆動するように構成され、
前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプは、前記エンジンと離間した状態で配置されている、舶用燃料供給システム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、ポンプを含まない燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、ポンプを含まない前記第2燃料タンクの外部に配置されかつ前記第2燃料タンクに固定されているとともに、前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプの少なくとも一方は、平面視で、前記エンジンに空気を供給するための空気通路に重なるように配置されている、舶用燃料供給システム。
・・・(略)・・・
【請求項14】
船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、ポンプを含まない燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンと、
前記エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、ポンプを含まない前記第2燃料タンクの外部に配置されかつ前記第2燃料タンクに固定されているとともに、前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプの少なくとも一方は、平面視で、前記エンジンに空気を供給するための空気通路に重なるように配置されている、船外機。
【請求項15】
船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、前記第2燃料タンクの外部に配置されかつ前記第2燃料タンクに固定されており、
前記ポンプ駆動部は、前記エンジンの駆動力により前記ポンプ本体部を駆動するように構成され、
前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプは、前記エンジンと離間した状態で配置されているとともに、前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプの少なくとも一方は、平面視で、前記エンジンに空気を供給するための空気通路に重なるように配置されている、舶用燃料供給システム。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項15については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項15の「前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプは、前記エンジンと離間した状態で配置されている、」という記載を「前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプは、前記エンジンと離間した状態で配置されているとともに、前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプの少なくとも一方は、平面視で、前記エンジンに空気を供給するための空気通路に重なるように配置されている、」という記載にするものであり、「第2燃料タンク」及び「燃料供給ポンプ」の配置の仕方をエンジンに空気を供給するための空気通路との関係でさらに限定するものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項15に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、本件補正は、特許請求の範囲の請求項15については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項15に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-246164号公報(以下、「引用文献」という。)には、「筒内燃料噴射式エンジンの燃料供給装置」に関して、次の記載がある(以下、順に「記載1a」ないし「記載1e」という。)。

1a 「【0005】本発明は、上記問題を解決するものであって、気液分離装置を備える燃料供給系に高圧燃料ポンプを設ける場合に、燃料の温度上昇を防止することにより気泡の発生を少なくすると共に、燃料配管系を簡素化することができる筒内燃料噴射式エンジンの燃料供給装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】)

1b 「【0008】図1において、1は船外機であり、クランク軸縦置状態で搭載されるエンジン2と、エンジン2の下端面に接続されるガイドエキゾースト部3と、ガイドエキゾースト部3の下端面に接続されるアッパケース4、ロアケース5及びスクリュー6からなる。上記エンジン2は、筒内噴射式V型6気筒2サイクルエンジンであり、6つの気筒7a?7fが平面視でVバンクをなすように形成されたシリンダブロック7に、図2に示すシリンダヘッド8及びヘッドカバー9が図1の紙面垂直方向手前側に順次積層接続し、ヘッドボルト10により固定されている。また、シリンダブロック7の図1裏面側には図3に示すクランクケース23が形成されている。
【0009】上記気筒7a?7f内にはピストン11が摺動自在に嵌合配置され、各ピストン11はコンロッド12aを介してクランク軸12bに連結されている。ピストン11の頭部には、窪み状のキャビティ11aが形成されており、キャビティ11aは、シリンダヘッド8側に形成された窪み状の凹部8aとで燃焼室を構成している。上記シリンダヘッド8には、燃料噴射弁13及び点火プラグ14が挿入配置されている。燃料噴射弁13は磁力で開閉作動されるソレノイド開閉式であり、その噴射軸線はシリンダボア軸線aと一致しており、また、点火プラグの電極14aは前記凹部8a内に突出されている。」(段落【0008】及び【0009】)

1c 「【0013】図4?図7は、本発明の筒内燃料噴射式エンジンの燃料供給装置の1実施形態を示し、図4は全体構成図である。図4には、図1で説明したV型6気筒エンジン2の左バンクの気筒7a?7cのみが示され、クランク軸12b、気筒7a?7c及び燃料供給レール40が縦置状態に配置された構成が示されている。30、31は船体側に配設された主燃料タンク及び第1の低圧燃料ポンプであり、本発明に係わるベーパーセパレータタンク35、燃料予圧ポンプ36、高圧燃料ポンプ37、圧力調整弁38、燃料供給レール40及びこれらを接続する配管は、船外機のカウリング32内に配設されている。
【0014】主燃料タンク30内の燃料は、手動式の第1の低圧燃料ポンプ31によりフィルタ33を経て第2の低圧燃料ポンプ34に送られる。この第2の低圧燃料ポンプ34は、エンジン2のクランク室7gのパルス圧により駆動されるダイヤフラム式ポンプであり、燃料を気液分離装置であるベーパーセパレータタンク35に送る。該ベーパーセパレータタンク35内には、電動モータにより駆動される燃料予圧ポンプ36が配設されており、燃料を加圧し配管Cを経て高圧燃料ポンプ37に送る。高圧燃料ポンプ37の吐出側は、配管A、圧力調整弁38を介してベーパーセパレータタンク35に接続されると共に、配管Aから分岐する分岐配管Bにより燃料供給レール40に接続されている。
【0015】燃料供給レール40の上部終端は閉口されており、燃料を各気筒7a?7cに装着した燃料噴射弁13に供給するように構成している。また、分岐配管Bの途中にはフィルタ39が配設され、さらに、配管Cには燃料冷却器41の一端が接続され、その他端は圧力調整弁42を介してベーパーセパレータタンク35に接続されている。また、クランク軸12bには駆動プーリ43が固定され、高圧燃料ポンプ37の回転軸には従動プーリ44が固定され、駆動プーリ43と従動プーリ44間には駆動ベルト45が張設され、高圧燃料ポンプ37がクランク軸12bの回転により駆動される構成となっている。
【0016】図5及び図6は、図4の燃料供給装置の具体的配置例を示す模式図であり、図5は側面図、図6は平面図である。・・・(略)・・・
【0017】そして、エンジン2の側面にベーパーセパレータタンク35、燃料予圧ポンプ36、低圧燃料ポンプ34、フィルタ33、燃料冷却器41が配置され、エンジン2の後面に燃料供給レール40、フィルタ39、圧力調整弁38が配置され、エンジン2の上面に高圧燃料ポンプ37が配置されている。」(段落【0013】ないし【0017】)

1d 「【0019】上記構成からなる本発明の作用について説明する。ベーパーセパレータタンク35内の燃料は、燃料予圧ポンプ36により例えば3?10kg/cm^(2)程度に予圧され、加圧された燃料は、高圧燃料ポンプ37により50?100kg/cm^(2)程度若しくはそれ以上に加圧され、加圧された高圧燃料は、圧力調整弁38にて設定圧を越える余剰燃料がベーパーセパレータタンク35に戻され、必要な高圧燃料分のみを配管Bを経て燃料供給レール40に供給するようにしている。従って、燃料を予圧して高圧燃料ポンプ37に送るため、高圧燃料ポンプ37までの管路の気泡の発生を抑えることができ、また、配管B及びフィルタ39には必要な燃料分のみが流れるため、高圧燃料の全量を流す場合と比較してその分だけ配管抵抗、フィルタによる圧力損失を低減することができる。また、フィルタ39には必要な燃料分だけが通過するため、フィルタの交換時期を延ばすことができる。」(段落【0019】)

1e 図4及び図5から、従動プーリ44は高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分(便宜上、このように表現する。)の燃料通過経路から隔離されていることが看取される。

(2)引用文献の記載事項
引用文献の記載1aないし1e及び図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2f」という。)。

2a 記載1cの「30、31は船体側に配設された主燃料タンク及び第1の低圧燃料ポンプであり」(段落【0013】)及び「主燃料タンク30内の燃料は、手動式の第1の低圧燃料ポンプ31によりフィルタ33を経て第2の低圧燃料ポンプ34に送られる。この第2の低圧燃料ポンプ34は、エンジン2のクランク室7gのパルス圧により駆動されるダイヤフラム式ポンプであり、燃料を気液分離装置であるベーパーセパレータタンク35に送る。」(段落【0014】)という記載、図4並びに主燃料タンク30及びベーパーセパレータタンク35は燃料を貯留するものであるという技術常識によると、引用文献には、船体側に配設されるとともに燃料を貯留する主燃料タンク30と接続され、燃料を貯留するベーパーセパレータタンク35が記載されている。

2b 記載1bの「上記シリンダヘッド8には、燃料噴射弁13及び点火プラグ14が挿入配置されている。」(段落【0009】)という記載、記載1cの「図4には、図1で説明したV型6気筒エンジン2の左バンクの気筒7a?7cのみが示され、クランク軸12b、気筒7a?7c及び燃料供給レール40が縦置状態に配置された構成が示されている。」(段落【0013】)及び「燃料供給レール40の上部終端は閉口されており、燃料を各気筒7a?7cに装着した燃料噴射弁13に供給するように構成している。」(段落【0015】)という記載並びに図2ないし図6によると、引用文献には、エンジン2に燃料を供給するための燃料噴射弁13が記載されている。

2c 記載1cの「高圧燃料ポンプ37の吐出側は、配管A、圧力調整弁38を介してベーパーセパレータタンク35に接続されると共に、配管Aから分岐する分岐配管Bにより燃料供給レール40に接続されている。」(段落【0014】)及び「燃料供給レール40の上部終端は閉口されており、燃料を各気筒7a?7cに装着した燃料噴射弁13に供給するように構成している。また、分岐配管Bの途中にはフィルタ39が配設され、さらに、配管Cには燃料冷却器41の一端が接続され、その他端は圧力調整弁42を介してベーパーセパレータタンク35に接続されている。また、クランク軸12bには駆動プーリ43が固定され、高圧燃料ポンプ37の回転軸には従動プーリ44が固定され、駆動プーリ43と従動プーリ44間には駆動ベルト45が張設され、高圧燃料ポンプ37がクランク軸12bの回転により駆動される構成となっている。」(段落【0015】)という記載、記載1dの「ベーパーセパレータタンク35内の燃料は、燃料予圧ポンプ36により例えば3?10kg/cm^(2)程度に予圧され、加圧された燃料は、高圧燃料ポンプ37により50?100kg/cm^(2)程度若しくはそれ以上に加圧され、加圧された高圧燃料は、圧力調整弁38にて設定圧を越える余剰燃料がベーパーセパレータタンク35に戻され、必要な高圧燃料分のみを配管Bを経て燃料供給レール40に供給するようにしている。」(段落【0019】)という記載、記載1e、図4並びに図5によると、引用文献には、高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分と、前記高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分の燃料通過経路と隔離された従動プーリ44とを含み、ベーパーセパレータタンク35に貯留された燃料を燃料噴射弁13に供給する従動プーリ44が固定された高圧燃料ポンプ37が記載されている。

2d 図4ないし図6によると、引用文献には、従動プーリ44が固定された高圧燃料ポンプ37は、ベーパーセパレータタンク35の外部に配置されていることが記載されている。

2e 記載1bの「上記気筒7a?7f内にはピストン11が摺動自在に嵌合配置され、各ピストン11はコンロッド12aを介してクランク軸12bに連結されている。」(段落【0009】)という記載、記載1cの「図4には、図1で説明したV型6気筒エンジン2の左バンクの気筒7a?7cのみが示され、クランク軸12b、気筒7a?7c及び燃料供給レール40が縦置状態に配置された構成が示されている。」(段落【0013】)及び「クランク軸12bには駆動プーリ43が固定され、高圧燃料ポンプ37の回転軸には従動プーリ44が固定され、駆動プーリ43と従動プーリ44間には駆動ベルト45が張設され、高圧燃料ポンプ37がクランク軸12bの回転により駆動される構成となっている。」(段落【0015】)という記載、図4ないし図6並びに記載事項2cによると、引用文献には、従動プーリ44は、エンジン2の駆動力により高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分を駆動するように構成されていることが記載されている。

2f 記載1aの「筒内燃料噴射式エンジンの燃料供給装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】)という記載及び記載1bの「図1において、1は船外機であり」(段落【0008】)という記載によると、引用文献には、船外機用燃料供給装置が記載されている。

(3)引用発明
引用文献の記載1aないし1e、記載事項2aないし2f及び図面の記載を整理すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「船体側に配設されるとともに燃料を貯留する主燃料タンク30と接続され、燃料を貯留するベーパーセパレータタンク35と、
エンジン2に燃料を供給するための燃料噴射弁13と、
高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分と、前記高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分の燃料通過経路と隔離された従動プーリ44とを含み、前記ベーパーセパレータタンク35に貯留された燃料を前記燃料噴射弁13に供給する従動プーリ44が固定された高圧燃料ポンプ37とを備え、
前記従動プーリ44が固定された高圧燃料ポンプ37は、前記ベーパーセパレータタンク35の外部に配置されており、
前記従動プーリ44は、前記エンジン2の駆動力により前記高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分を駆動するように構成されている、船外機用燃料供給装置。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「船体側」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「船体」に相当し、以下、同様に、「配設」は「設置」に、「主燃料タンク30」は「第1燃料タンク」に、「ベーパーセパレータタンク35」は「第2燃料タンク」に、「エンジン2」は「エンジン」に、「燃料噴射弁13」は「燃料噴射装置」に、「高圧燃料ポンプ37の燃料通過経路を有する部分」は「燃料通過経路を有するポンプ本体部」及び「ポンプ本体部」に、「従動プーリ44」は「ポンプ駆動部」に、「従動プーリ44が固定された高圧燃料ポンプ37」は「燃料供給ポンプ」に、「船外機用燃料供給装置」は「舶用燃料供給システム」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、
「船体に設置されるとともに燃料を貯留する第1燃料タンクと接続され、燃料を貯留する第2燃料タンクと、
エンジンに燃料を供給するための燃料噴射装置と、
燃料通過経路を有するポンプ本体部と、前記ポンプ本体部の燃料通過経路と隔離されたポンプ駆動部とを含み、前記第2燃料タンクに貯留された燃料を前記燃料噴射装置に供給する燃料供給ポンプとを備え、
前記燃料供給ポンプは、前記第2燃料タンクの外部に配置されており、
前記ポンプ駆動部は、前記エンジンの駆動力により前記ポンプ本体部を駆動するように構成されている、舶用燃料供給システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

ア 相違点1
本願補正発明においては、燃料供給ポンプは第2燃料タンクに固定されているのに対し、引用発明においては、そうでない点。

イ 相違点2
本願補正発明においては、第2燃料タンクおよび燃料供給ポンプは、エンジンと離間した状態で配置されているとともに、前記第2燃料タンクおよび前記燃料供給ポンプの少なくとも一方は、平面視で、前記エンジンに空気を供給するための空気通路に重なるように配置されているのに対し、引用発明においては、そのように配置されているか明らかでない点。

(5)相違点についての判断
そこで、上記相違点1及び2について、以下に検討する。

ア 相違点1について
船用燃料供給システムにおいて、燃料供給ポンプを第2燃料タンクに固定することは周知である(必要であれば、下記の特開平11-125162号公報の記載を参照。以下、「周知技術1」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術1を適用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

・特開平11-125162号公報の記載(なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)
「【0031】ヘッドカバー9の後面にはプランジャポンプよりなる2個の低圧燃料ポンプ88が並列に設けられており、これら低圧燃料ポンプ88によって、船内に設置された主燃料タンク(図示せず)から燃料供給管L_(1)を介して吸引した燃料が、図示しない低圧燃料フィルタ及び燃料供給管L_(2)を介してエンジンEの右側に配設した補助燃料タンク89に供給される。・・・(略)・・・
【0034】補助燃料タンク89には、該タンクの直下で軸線を前後方向に向けた高圧燃料ポンプ91と、該タンクの直後で軸線を上下方向に向けた高圧燃料フィルタ92とが取付けられる。
【0035】・・・(略)・・・高圧燃料ポンプ91は補助燃料タンク89の底壁外面に締め付けて取付けられる。即ち、補助燃料タンク89の下部一側に前後一対のフック係合部138が、またその下部他側に前後一対の取付ボス139が一体に形成されており、各取付バンド136の一端のフック136aを対応する上記フック係合部138に係合すると共に、各取付バンド136の他端を対応する上記取付ボス139にボルト140で固着することにより、高圧燃料ポンプ91は補助燃料タンク89の底壁外面に締め付けられる。・・・(略)・・・」(段落【0031】ないし【0035】)

イ 相違点2について
船用燃料供給システムにおいて、第2燃料タンク及び燃料供給ポンプを、エンジンと離間した状態で配置するとともに、第2燃料タンク及び燃料供給ポンプの少なくとも一方を、平面視で、エンジンに空気を供給するための空気通路に重なるように配置することは、周知である(必要であれば、下記の特開平11-125162号公報の記載を参照。なお、船用燃料供給システムにおいて、第2燃料タンク及び燃料供給ポンプを、エンジンと離間した状態で配置することについては、下記の特開2001-65412号公報の記載も参照。以下、「周知技術2」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術2を適用し、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

・特開平11-125162号公報の記載
「【0026】次に、図2ないし図4に基づいてエンジンEの吸気系の構造を説明する。
・・・(略)・・・
【0028】スロットルボディ80は、次に述べる吸気マニホールド85に接続固定される。エルボ81と、サージタンク82と、4本の吸気管83a,83b,83c,83dと、取付フランジ84とを一体に備えた吸気マニホールド85がエンジンEの右側面に沿うように配置される。・・・(略)・・・
【0032】また図6ないし図12に示すように、前記補助燃料タンク89は下側のタンク本体89_(1)と、その上端に結合される上部キャップ89_(2)とに2分割されており、タンク本体89_(1)には、後方へ長く延びる第1ブラケット130_(1)と、前方に突出する比較的短い第2ブラケット130_(2)と、上方に突出する比較的短い第3ブラケット130_(3)とが一体に形成される。これらブラケット130_(1),130_(2),130_(3)の先端の取付孔には弾性グロメット131がそれぞれ装着され、これらグロメット131を介して第1及び第2ブラケット130_(1),130_(2) は、第4吸気管83d及びシリンダブロック6に形成した第1及び第2取付ボス132_(1) ,132_(2) にボルト129_(1),129_(2)によりそれぞれ取付けられ、また第3ブラケット131は、サージタンク82の側面に突設した支持ピン133に支持される。上記弾性グロメット131は、エンジンEから補助燃料タンク89への振動伝達を防ぐと共に、熱伝導をも抑えることができる。
・・・(略)・・・
【0034】補助燃料タンク89には、該タンクの直下で軸線を前後方向に向けた高圧燃料ポンプ91と、該タンクの直後で軸線を上下方向に向けた高圧燃料フィルタ92とが取付けられる。」(段落【0026】ないし【0034】)
図2から、補助燃料タンク89(及び高圧燃料ポンプ91)が、吸気管83a(及び83b,83c,83d)に平面視で重なるように配置されていることが看取される。
上記段落【0032】及び【0034】の記載を踏まえると、図2ないし図6から、補助燃料タンク89および高圧燃料ポンプ91が、エンジンEから離間した状態で配置されていることが看取される。

・特開2001-65412号公報の記載
「【0013】まず初めに、船外機の全体構造を説明する。・・・(略)・・・
【0014】アッパーカウリング1およびロワーカウリング2からなるカウリング1,2の内部には、燃料噴射式のL型4気筒の4サイクルエンジン9が配置されている。」(段落【0013】及び【0014】)
「また、ベーパーセパレータータンク79には、高圧ポンプ116が設けられ、この高圧ポンプ116の吐出口は、前述の吐出パイプ80を介して燃料レール77の下端に接続されている。・・・(略)・・・」(段落【0024】)
上記段落【0014】及び【0024】の記載を踏まえると、図4及び図5から、ベーパーセパレータータンク79および高圧ポンプ116が、エンジン9から離間した状態で配置されていることが看取される。

ウ 効果について
そして、本願補正発明により、引用発明並びに周知技術1及び2からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

(6)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし15に係る発明は、平成24年10月16日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項15に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」の【請求項15】のとおりである。

2 引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-246164号公報(以下、上記「第2[理由]2 2-2(1)と同様に「引用文献」という。)には、上記「第2[理由]2 2-2(1)」のとおりの記載があり、該記載及び図面の記載から、上記「第2[理由]2 2-2(2)」のとおりの記載事項が記載されていると認める。
そして、引用文献には、上記「第2[理由]2 2-2(3)」のとおりの発明(以下、上記「第2[理由]2 2-2(3)」と同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記「第2[理由]2 2-1」で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が上記「第2[理由]2 2-2(4)及び(5)」のとおり、引用発明並びに周知技術1及び2(周知技術1及び2については、上記「第2[理由]2 2-2(5)」のとおりである。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明により、引用発明並びに周知技術1及び2からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-09 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-10-28 
出願番号 特願2008-142566(P2008-142566)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷川 啓亮  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
金澤 俊郎
発明の名称 舶用燃料供給システムおよび船外機  
代理人 宮園 博一  

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