• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47K
管理番号 1282852
審判番号 不服2012-19055  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-28 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 特願2009-117941号「エンボス加工クレープ紙」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日出願公開、特開2009-178572号、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年6月7日(優先権主張平成17年6月9日)に出願した特願2006-158842号の一部を平成21年5月14日に新たな特許出願としたものであって、平成24年6月29日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成24年9月28日に本件審判が請求されたものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年12月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
クレープ原紙にエンボス加工を施してなるエンボス加工クレープ紙であって、坪量が6?28g/m^(2)であり、かつ、高低差0.01?3.00mmで4?200個/cm^(2)のエンボス形状を有し、保湿成分をパルプ当たり1?100%含有し、2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm^(3)以下、柔軟度が40mN/100mm以下、縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15?1.5kmであることを特徴とする、エンボス加工クレープ紙。」

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-199687号公報(以下、「刊行物1」という。)には、トイレット用巻取衛生ロール紙に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】ダブルエンボス加工が施された二枚重ね以上のトイレット用巻取衛生ロール紙であって、巻き密度が0.820?0.970m/cm^(2)であることを特徴とするトイレット用巻取衛生ロール紙。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、いわゆるトイレットペーパーロールなどのトイレット用巻取衛生ロール紙に関する。」
(ウ)「【0002】
【従来の技術】トイレットロールは、直接そのトイレットペーパーが肌に当たるので、消費者は滑らかさ、肉厚感、弾力感、ふんわり感、柔らかさ、滑らかさといった官能性に優れることを要求し、生産者はトイレットロールの官能性を向上させることが要求される。このようなトイレットロールに対する消費者の要求を満たすべく、ふんわり感や柔らかさを保持しつつ肉厚感や弾力感をもたせやすい2プライまたはダブルなどといわれる二枚重ねの製品が市販に供され、また、近年では、単に二枚重ねにした製品以上に官能性に優れるエンボス加工を施した製品も市販に供されている。かかるエンボス加工の仕様とトイレットロールの官能性とは非常に密接な関係があり、エンボス加工の仕様により人の感じる肉厚感、弾力感、滑らかさ、肌触り感といった官能性が変化する。」
(エ)「【0006】即ち、従来の品質測定方法では、トイレットロールに求められている、手触りの滑らかさ、柔らかさ、弾力感、ふんわり感等を十分把握することができず、品質を再現すること、あるいは再現したことを確認することができなかった。紙質データ、ソフトネス及びMMDだけでは、人が感じる微妙な品質が十分把握されてなく、時系列での絶対評価、競合他社品との差異分析も十分にできなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の主たる課題は、人の官能評価において優れてマッチし、その官能評価が高く、かつ流通上および使用上の問題点が生じないトイレット用巻取衛生ロール紙を提供することにある。」
(オ)「【0016】かかるダブルエンボス加工が施されたトイレットロールは、図2に示されるように、2つの金属製エンボスロールE,Eを使用し、各金属性エンボスロールとそれと対になる表面がゴムなどの弾性可撓性ロールとの間、あるいは前記エンボスロールE,Eの凹部に各突起が対応する金属製の雌エンボスロールR,Rとの間に、それぞれ原紙W_(0),W_(0)をニップしながら通して2枚のエンボス付与原紙T’,T’を製造し、そのエンボス加工を施した2枚のエンボス付与原紙T’,T’の滑らかな面t,tが外側になるように重ねあわせ、その後ロール形態のトイレットロールT_(R)とすることで製造することができる。」
(カ)「【0018】上記の如く施される本発明に係るエンボスの好適例は、図3に示されるように、実質的に平坦な頂面を有し、形状が菱形のものである。・・・図示はされないがエンボス深さは0.54mmである。・・・本発明に係るトイレットロールでにおいては、頂面P,P・・・がトイレットペーパー10mm四方にあたり約50?130個とするのが好適である。」
(キ)「【0030】柔らかさ曲げ特性は、引張強度、縦横比、クレープ形状(クレープ率、クレープの高低差等)、水分率、密度、紙力剤の添加等により調整することが可能である。」
(ク)「【0035】以上の結果からして、実施例のものは、「ふんわり感」「柔らかさ」「弾力性」「トイレットロール適性」のすべてにおいて、優れていることが判る。」
(ケ)表1には、実施例として、
紙質データ:米坪15.8g/m^(2)、紙厚[2プライ]234μm、密度0.135g/m^(3)、クレープ率22.0%、引張り強さ[縦]264.0CN、引張り強さ[横]106.0CN、引張り強さの縦横比2.49
製品データ:紙管径38mm、巻き長さ40m、ロール巻径113mm、ロール巻き密度0.899m/m^(2)、エンボスの種類ダブル
ロール巻き固さ:TO-TM1.80mm
柔らかさ曲げ値:B0.0090g・cm^(2)/cm
圧縮特性:LC0.4070、TM/TO-TM1.157
表面特性:MIU0.3915、MMD0.0259
官能評価:滑らかさ4.1、ふんわり感3.2、弾力感4.2、柔らかさ4.2
のものが記載されている。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものということができる。
「ダブルエンボス加工が施された2プライのトイレット用巻取衛生ロール紙であって、
米坪15.8g/m^(2)、紙厚[2プライ]234μm、密度0.135g/m^(3)、クレープ率22.0%、引張り強さ[縦]264.0CN、引張り強さ[横]106.0CN、引張り強さの縦横比2.49、紙管径38mm、巻き長さ40m、ロール巻径113mm、ロール巻き密度0.899m/m^(2)であり、
エンボス深さは0.54mmで、頂面P,Pがトイレットペーパー10mm四方にあたり約50?130個とするのが好適であるトイレット用巻取衛生ロール紙。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-218151号公報(以下、「刊行物2」という。)には、繊維ウエブへの薬液塗布方法および薬液塗布装置に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】
ティッシュペーパーやトイレットペーパー等の家庭用薄葉紙に代表されるような繊維ウエブよりなる製品においては、吸湿性や柔軟性を付与するためにローション薬液等の薬液が塗布されたものが知られている。この繊維ウエブに薬液を塗布する方法としては、例えば繊維ウエブに薬液をスプレーしたり、繊維ウエブを薬液に浸漬したり、塗工ロールによって薬液を塗布したりする方法が採用されている。後者の塗工ロールによる方法としては、例えば下記特許文献1に示されるように、グラビア版ロールおよびオフセット塗工ロール(転写ロール)からなる塗布装置を繊維ウエブを挟んで対峙させた状態で配置した、所謂グラビア転写方式のローション薬液塗布装置により、繊維ウエブの両面にそれぞれ同時的にローション薬液を塗布する方法が記載されている。」
(イ)「【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、原反ロールから繰り出される繊維ウエブの製品化過程において、高速下であって均一に薬液を塗布することができるとともに、繊維ウエブに薬液を迅速に含浸させ、しっとり感を早期に立ち上げできる繊維ウエブへの薬液塗布方法および薬液塗布装置を提供することにある。」
(ウ)「【0027】・・・前記薬液としては、一般的に使用されているものであればどのようなものであってもよい。具体的には、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ソルビトール、グルコース、キシリトール、マルトース、マルチトール、マンニトール、トレハロース等の糖類、グルコール系薬剤およびその誘導体、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール、流動パラフィンなどの1種以上を任意の組合せで用いることができる。また、これにグリシン、アスパラギン酸、アルギニン、アラニン、シスチン、システィンなどのアミノ酸、アロエエキス、アマチャエキス、アシタバエキス、カリンエキス、キュウリエキス、スギナエキス、トマトエキス、ノバラエキス、ヘチマエキス、ユリエキス、レンゲソウエキスなどの植物抽出エキスや、オリーブ油、ホホバ油、ローズヒップ油、アーモンド油、ユーカリ油、アボカド油、ツバキ油、大豆油、サフラワー油、ゴマ油、月見草油等の植物油や、ビタミン、加水分解コラーゲン、加水分解ケラチン、加水分解シルク、キトサン、尿素、ハチミツ、ローヤルゼリー、ヒアルロン酸ナトリウム、セラミド、スクワラン、ワセリンなどを配合することができる。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-262489号公報(以下、「刊行物3」という。)には、柔軟性を有する繊維ウェブおよびその製造方法に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、柔軟で、肌触り及びしっとり感の双方に優れる、柔軟性を有する繊維ウェブ、およびその製造方法に関する。・・・
【0003】
【従来の技術】・・・
【0005】しかし、この種の柔軟剤は化学合成品であるために、敏感な肌に対して、必ずしも適切とは言えない。また、柔軟性の発現を期待するあまり、逆に、紙粉が発生しやすい傾向を招き、吸水性が低下するなどの問題がある。
【0006】そこで、例えば特開平5-156596号公報においては、吸湿性を有する塩類(塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム)と、吸湿性を有する多価アルコール及び糖類(グリセリン、D-ソルビット、マルチトール、還元麦芽糖水飴、還元澱粉加水分解物)と、保水性を有する糊料(アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、繊維素グリコール酸ナトリウム(CMC)、繊維素グリコール酸カルシウム、澱粉グリコール酸ナトリウム、澱粉リン酸エステルナトリウム、カゼイン、カゼインナトリウム)とを含有する薬液を、不織布または紙に含浸させることを開示している。」
(イ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる先行例では、滑らかさ(肌触り)及びしっとり感(湿潤感)ともに充分なものではなかった。
【0009】したがって、本発明の主たる課題は、滑らかさ(肌触り)及びしっとり感(湿潤感)を向上させることにある。」
(ウ)「【0016】・・・また多価アルコール類の含有量がウェブ素材の乾燥重量に対して0.01%未満であると、しっとり感を殆ど感じなくなり、逆に多すぎるとと、ねばつき感(べとつき感)を与えるようになる。・・・界面活性剤および多価アルコール類の含有量は、繊維ウェブ素材の乾燥重量に対してそれぞれ0.01?50%とされる。より好適には界面活性剤および多価アルコール類の総含有量が0.01?30%、特に0.1?0.8%であるのが好ましい。」
(エ)「【0031】
【実施例】以下実施例により本発明の効果を明らかにする。円網抄紙機で薄葉紙を抄造し、これをドライヤーで乾燥させることにより乾燥状態のティシューを得た。このティシューに対して各種柔軟剤を水に溶かした液を噴霧付与し本発明に係るティシューペーパー(実施例1及び実施例2)を得た。さらに、これら実施例1及び2に係るティシューペーパーを用い、加熱乾燥前、加熱乾燥後における各種特性を評価した。また、柔軟剤未付与のティシューを比較例とした。
【0032】各例の評価結果を柔軟剤含有量とともに、表1に示す。なお、表1中、官能評価は試験者が手触りで滑らか感及びしっとり感を確認して、◎…非常に良い、○…良い、△…普通の3段階で評価した。」

3.対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「ダブルエンボス加工が施された2プライのトイレット用巻取衛生ロール紙」は、「クレープ率22.0%」で、刊行物1記載事項(オ)の「2枚のエンボス付与原紙T’,T’を製造し、・・・重ねあわせ、その後ロール形態のトイレットロールT_(R)とすることで製造することができる。」ものであるので、本願発明の「クレープ原紙にエンボス加工を施してなるエンボス加工クレープ紙」に相当する。
(b)引用発明の「米坪15.8g/m^(2)」であることは、本願発明の「坪量が6?28g/m^(2)」であることに相当し、以下同様に、
「エンボス深さは0.54mm」であることは、「高低差0.01?3.00mm」であることに、
「頂面P,Pがトイレットペーパー10mm四方にあたり約50?130個とする」ことは、「4?200個/cm^(2)のエンボス形状」であることに相当する。
(c)引用発明の「密度0.135g/m^(3)」であることと、本願発明の「2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm^(3)以下」であることとは、前者が「2プライのトイレット用巻取衛生ロール紙」のものであって、2枚重ねのものであるので、両者は「2枚重ねの密度が所定の値」であることで共通する。
(d)引用発明の「引張り強さ[縦]」は、本願発明の「縦方向の引張強さ」に相当し、
引用発明の「引張り強さ[縦]264.0CN」であること、本願発明の「縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15?1.5km」であることとは、「縦方向の引張強さが所定の値」であることで共通する。

(2)両発明の一致点
「クレープ原紙にエンボス加工を施してなるエンボス加工クレープ紙であって、坪量が15.8g/m^(2)であり、かつ、高低差0 .54mmで約50?130個/cm^(2)のエンボス形状を有し、2枚重ねの密度が所定の値、縦方向の引張強さが所定の値であるエンボス加工クレープ紙。」

(3)両発明の相違点
ア.エンボス加工クレープ紙が、本願発明は「保湿成分をパルプ当たり1?100%含有」するのに対して、引用発明はそうでない点。
イ.エンボス加工クレープ紙が、本願発明は「柔軟度が40mN/100mm以下」なのに対して、引用発明はそのようなものか不明な点。
ウ.さらに、本願発明は、上記ア.イ.と共に、「坪量が6?28g/m^(2)であり、かつ、高低差0.01?3.00mmで4?200個/cm^(2)のエンボス形状を有し」、「2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm^(3)以下」、「縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15?1.5km」であるのに対して、引用発明は、「米坪15.8g/m^(2)、・・密度0.135g/m^(3)、・・引張り強さ[縦]264.0CN、・・エンボス深さは0.54mmで、頂面P,Pがトイレットペーパー10mm四方にあたり約50?130個とするのが好適である」ものの、それは、パルプ当たり1?100%の保湿成分を含有しない状態の値である点。

4.本願発明の容易推考性の検討
(1)相違点ア.?ウ.について
(a)一般に紙の坪量、引張強さ等は、保湿成分を含有することで変化するものであるので、上記相違点ア.?ウ.について、まとめて検討する。
(b)ティッシュペーパーやトイレットペーパー等の家庭用薄葉紙に保湿成分を含有してしっとり感を与えることは、刊行物2記載事項(ア)や、刊行物3記載事項(ア)に、従来の技術として記載されている様に、周知慣用技術であり、引用発明のトイレット用巻取衛生ロール紙に、適当な量の保湿成分を含有させて、しっとり感を付与することは、当業者が容易になし得る事項である。
一方、(a)に記した紙の坪量、引張強さ、さらに、エンボスの形状等の紙質データは、保湿成分を含有することで変化するものと認識されるところ、引用発明のトイレット用巻取衛生ロール紙を「保湿成分をパルプ当たり1?100%含有」するものとして、その状態において「坪量が6?28g/m^(2)であり、かつ、高低差0.01?3.00mmで4?200個/cm^(2)のエンボス形状を有し」、「2枚重ねで測定したときの見掛け密度(荷重下)が0.13g/cm^(3)以下」、「縦方向の引張強さが裂断長に換算して0.15?1.5km」であるものとすることは、刊行物1?3のいずれにも、記載も示唆もされていない。
(c)本願発明は、当該構成を備えることによって、明細書記載の「【0009】・・・微細なエンボス形状を明確に備え、嵩高で柔軟性に優れているとともに強度も十分にあり、ふんわり感としっとり感にも優れていて、脂分などの吸収性能にも優れたエンボス加工クレープ紙を提供する」ものと認められる。
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物1?3記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-20 
出願番号 特願2009-117941(P2009-117941)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 楠永 吉孝  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
杉浦 淳
発明の名称 エンボス加工クレープ紙  
代理人 松本 武彦  
代理人 松本 武彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ