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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1283005
審判番号 不服2011-12125  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-07 
確定日 2013-12-24 
事件の表示 特願2006-509090「ピペリジニルプロスタグランジンE類似体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月16日国際公開、WO2004/108215、平成18年11月30日国内公表、特表2006-527189〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年6月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年6月6日,2004年1月22日,2004年6月3日,いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答し平成23年1月12日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成23年2月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年6月7日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、平成23年8月1日付けで請求理由の補正書(方式)が提出されたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋に応答し平成25年6月17日付けの回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?30に係る発明は、審判の請求と同時に提出された平成23年6月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?30に記載された事項により特定されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項29に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は次のとおりである。
「【請求項29】
式:
【化19】

[式中、点線は結合の存在または不存在を表す。ただし、α鎖(COOH基を除く)に少なくとも1つの二重結合あるいは三重結合を有する。]
で示されるαおよびω鎖を有する化合物;
あるいは
下記b?eの変更の1つまたは2つをα鎖および/またはω鎖に加える以外は上記に示した構造を有する上記化合物の誘導体:
b. アルコールをカルボニルに変換する;
c. CO_(2)Hを、下記から成る群から選択される成分に変換する:CONMe_(2)、CONHMe、CONHEt、CON(OCH_(3))CH_(3)、CONH_(2)、CON(CH_(2)CH_(2)OH)_(2)、CONH(CH_(2)CH_(2)OH)、CH_(2)OH、P(O)(OH)_(2)、CONHSO_(2)CH_(3)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)N(CH_(3))_(2)、SO_(2)NH(CH_(3))、
【化20】

d. フェニル成分を、ピリジニル、フリルまたはチエニル成分に変換する;またはe. 非水素原子1?3個を有する置換基を、芳香環または複素芳香環に付加する;
あるいは
医薬的に許容されるそれらの塩。」

3.原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成22年 7月 7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2、3によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、その拒絶理由通知書に記載された理由3は、
「3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた下記の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。」というものであり、
さらに、「記」において、
「理由3について
・請求項 1-30
・引用文献等 8、9
・備考
出願8、9はいずれも本願出願日より前の優先権の主張を伴う特許出願であり、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の当初明細書(出願8;優先権主張番号 60/457700(US)、優先日 平成15年3月26日、出願9;・・・略・・・)には、緑内障等の治療に用いられるプロスタグランジン類縁体である、1,6-ジ置換ピペリジン-2-オンが記載されている(出願8;Claims、Example 5,11、出願9;・・・略・・・)。
本願の請求項1-30に係る発明と出願8、9の当初明細書に記載された発明とを対比すると、両者の発明特定事項に差異はない。」と指摘され、
「引用文献等一覧」に、出願8について、
「8.PCT/CA2004/000470号(国際公開第04/085430号)」
と記載されている。なお、該出願について特許法第184条の4第3項の規定によるみなし取り下げが無いことは、その国際出願の明細書と請求の範囲の翻訳文が記載された特表2006-520758号公報(特願2006-504090号)が発行されていること(即ち国内書面提出期間内に翻訳文が提出されていること)から明らかである。

そして、原査定の理由の備考には、次のように記載されている。
「・・・ 出願8の当初明細書には、claim 9にてα鎖がヘプト-5-エン酸である化合物が記載され、かつ、α鎖の基を導入する合成スキームもScheme IやExample等に開示されていることから、出願8の当初明細書には、α鎖における炭化水素鎖中に二重結合が含まれる化合物が記載されているに等しいといえる。そうすると、本願発明のうち、α鎖における炭化水素部分に二重結合や三重結合のいずれかが存在する化合物に関する部分については、・・・、出願8の当初明細書に記載された発明と同一である。」

4.先後願の関係について
特許法第29条の2の適用にあたり、本願と出願8のいずれにおいても、パリ条約による優先権主張をともない優先権証明書が適法に提出されていることを踏まえ、先後願の関係について検討する。
ところで、パリ条約による優先権主張を伴う特許出願における特許法第29条の2の先願としての地位については、「優先権主張を伴う出願においても、その明細書及び図面に記載された範囲全部に実際に特許請求の範囲に記載された発明と同じ先願としての地位の基準日、換言すると後願排除の基準日を与えるのが相当であり、この場合の先願としての地位の基準日(後願排除の基準日)は、パリ条約第4条B項及び特許法第26条の規定により優先権主張日(第一国出願日)を指すものと解すべきである。」(東京高裁昭和56年(行ケ)第222号判決)とされている。
ここで、上記出願8を「先願」と言い、その先願の後記認定する、「先願明細書」に記載された発明を「先願発明」と言うこととする。

前記本願発明(請求項29に係る発明)は、本願の国際公開2004/108215号のクレーム29に対応するものであり、その後の本願審査経緯での2回の補正によって、「ただし、α鎖(COOH基を除く)に少なくとも1つの二重結合あるいは三重結合を有する。」との特定が付されたものであり、単に元々記載されていたものを選択し残したにすぎないものと認められる(なお、「COOH基を除く」との特定は、α鎖の範囲を明確にするだけで、その特定が有っても無くても、二重結合あるいは三重結合がへブテン酸あるいはヘプタイン酸のC-C結合についてのものと解するのが相当であることに鑑みると、本願発明の把握に影響を与えないものと認められる。)から、国際出願日である平成16年6月4日(2004年6月4日)を出願日と認定することができる。なお、国際出願の手続において補正はなされていない。
そして、本願には、3件のパリ条約に基づく優先権が主張されていて、その優先権主張日(優先権基礎出願の第1国の出願日)は2003年6月6日、2004年1月22日、2004年6月3日である。

これに対し、先願の国際公開(国際公開第04/085430号)は、その公開日が2004年10月7日であるから、本願の国際出願日(2004年6月4日)より後で公開されたものと言える。なお、先願についても、国際出願の手続において補正はなされていない。
そして、先願の国際出願の出願日は平成16年3月26日(2004年3月26日)であるが、そのパリ条約に基づく優先権(優先権主張番号:米国、60/457700)の主張日は、平成15年3月26日(2003年3月26日)であって本願のいずれの優先権主張日よりも先であり、その優先権が、後記のとおり認定する先願発明について有効(パリ条約による優先権主張の利益を享受することができること)であるから、本願発明の優先権の有効性を判断するまでもないことになる。
そのため、本願発明に伴う3件の優先権のいずれの段階からの優先権が、包含されるいずれの化合物について有効かの判断を個々にする煩雑さを避けるため、以下、本願発明の優先権の有効性を問うことなく検討を進めるものとする。なお、もし、本願発明について、最初の2件の優先権が認められない場合には、3件目の優先権主張日(2004年6月3日)や国際出願日(2004年6月4日)が先願の国際出願日(2004年3月26日)より後であることに鑑み、先願の優先権の有効性を検討するまでもないが、その場合でも、同じ特許法29条の2の条文が適用されることに代わりはなく、以下の判断は有効である。

5.先願明細書の記載と先願発明
原査定の拒絶理由に引用された先願であるPCT/CA2004/000470号(特願2006-504090号、国際公開第04/085430号;以下、便宜的に「先願明細書」ともいう。)には、次の技術事項が記載されている。なお、英文であるため、先願の翻訳文に相当する特表2006-520758号公報(以下、「参照公報」ともいう。)の記載を参考にし和訳して摘示する(なお、摘示箇所の頁行に続いて、参考として参照公報の対応箇所の段落等も記載した)。下線は当審で付した。

(1-i)「クレーム1. 構造式Iを有する化合物
【化1】

(式中、Qは(CH_(2))_(m)、(CH_(2))_(m)C_(6?10)アリール、(CH_(2))_(m)C_(5?10)ヘテロシクリル、(CH_(2))_(m)C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、(CH_(2))_(m)C_(3?8)シクロアルキル、C(ハロ)_(2)であり、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘテロシクリルは非置換であるか、又は1個から3個のR^(a)基によって置換されており、
X及びYは、独立して、CH_(2)、O、NR^(9)又はSを表すが、但し、X及びYは同時にO、NR^(9)又はSではなく、
UはH、C1?3アルキルを表すか、又はWが=Oのときは存在せず、
WはOH又は=Oを表し、但し、Wが=OのときUは存在せず、
R^(1)は、(CH_(2))_(p)ヒドロキシ、(CH_(2))_(p)CN、(CH_(2))_(p)CO_(2)R^(10)、(CH_(2))_(n)SO_(3)R^(6)、-(CH_(2))_(p)CF_(2)SO_(2)NH_(2)、-(CH_(2))_(p)SO_(2)NH_(2)、-(CH_(2))_(p)CONHSO_(2)R^(2)、-(CH_(2))_(p)SO_(2)NHCOR^(2)、-(CH_(2))_(p)PO(OH)_(2)、(CH_(2))_(p)CONHPO_(2)R^(6)、(CH_(2))_(p)CONHR^(8)、(CH_(2))_(p)C_(1?4)アルコキシ、-(CH_(2))_(p)シクロアルキル、(CH_(2))_(p)-ヒドロキシメチルケトン又は(CH_(2))_(p)ヘテロシクリルを表し、前記ヘテロシクリルは非置換であるか、又は1個から3個のR^(a)基によって置換されており、場合によって酸性水酸基を含有し、
R^(2)は、独立して、C_(1?10)アルキル、(CH_(2))_(m)C_(6?10)アリール、(CH_(2))_(m)C_(5?10)ヘテロシクリル、(CH_(2))_(m)C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、(CH_(2))_(m)C_(3?8)シクロアルキル、O-C_(1?10)アルキル、O-C_(6?10)アリール、O-C_(3?10)シクロアルキル、O-C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、O-C_(3?10)ヘテロシクロアルキルを表し、但し、R^(2)がO-C_(1?10)アルキル、O-C_(6?10)アリール、O-C_(3?10)シクロアルキル、O-C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、又はO-C_(3?10)ヘテロシクロアルキルのとき、R^(3)及びR^(4)はハロゲンではなく、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘテロシクリルは非置換であるか、又は1個から3個のR^(a)基で置換されており、
R^(3)及びR^(4)は、独立して、水素、ハロゲン若しくはC_(1?6)アルキルを表し、又はR^(3)及びR^(4)は一緒になって、O、S、SO、SO_(2)及びNR^(9)から選択された1個から2個のヘテロ原子が場合によって割り込んだ3員から7員の炭素環を形成することができ、
R^(6)及びR^(7)は、独立して、水素又はC_(1?4)アルキルを表し、
R^(8)は、水素、アシル又はスルホニルを表し、
R^(9)は、水素、C_(1?6)アルキルを表し、前記アルキルは、1個から3個のハロゲン、CN、OH、C_(1?6)アルコキシ、C_(1?6)アシルオキシ又はアミノで場合によって置換されており、
R^(10)は、水素、C_(1?10)アルキル、C_(3?10)シクロアルキル、(CH_(2))_(p)C_(6?10)アリール、(CH_(2))_(p)C_(5?10)ヘテロシクリル、CR^(6)R^(7)OC(O)OC_(3?10)シクロアルキル又はCR^(6)R^(7)OC(O)OC_(1?10)アルキルを表し、
Zは、三重結合、O、S、(C(R^(b))_(2))_(n)又はCH=CHを表し、
R^(b)は、水素、C_(1?6)アルキル又はハロゲンを表し、
R^(a)は、C_(1?6)アルコキシ、C_(1?6)アルキル、CF_(3)、ニトロ、アミノ、シアノ、C_(1?6)アルキルアミノ、ハロゲンを表し、又は、R^(a)はさらにアリール及びヘテロシクリル、SC_(1?6)アルキル、SC_(6?10)アリール、SC_(5?10)ヘテロシクリル、CO_(2)R^(6)、OC_(6?10)アリール、OC_(5?10)ヘテロシクリル、CH_(2)OC_(1?6)アルキル、CH_(2)SC_(1?6)アルキル、CH_(2)Oアリール、CH_(2)Sアリールを表し、
---は、二重結合又は一重結合を表し、
pは、0?3を表し、
nは、0?4を表し、
mは、0?8を表す。)
又は薬剤として許容されるそれらの塩、エナンチオマー、ジアステレオマー、プロドラッグ若しくは混合物。」(第55頁?57頁1行のクレーム1を参照;参照公報【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(1-ii)「クレーム6
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブチル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(3R)-3-ヒドロキシ-4-フェニルブチル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸イソプロピル;
・・・中略・・・
(5E)-7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプト-5-エン酸;
・・・中略・・・
(5E)-7-{(2R)-2-[(3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブチル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプト-5-エン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-3-メチル-4-フェニルブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
7-{(2R)-2-[(1E,3S)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-3-メチル-4-フェニルブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-(2-ナフチル)ブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4-(1-ベンゾチエン-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4-(1-ベンゾフラン-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4-(3-クロロフェニル)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4-(3-クロロフェニル)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-(3-メトキシフェニル)ブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
6-[(1E)-(3R)-3-ヒドロキシ-4-フェニル-ブト-1-エニル]-1-[6-(1H-テトラアゾール-5-イル)-ヘキシル]-ピペリジン-2-オン;
7-{(1E)-(2R)-2-(3S)-3-ヒドロキシ-4-フェニル-ブト-1-エニル]-6-オキソ-ピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
7-{[(1E)-(2R)-2-(3S)-3-ヒドロキシ-4-フェニル-ブト-1-エニル]-6-オキソ-ピペリジン-1-イル}ヘプタン酸イソプロピル;
7-{(2R)-2-[(3R)-3-ヒドロキシ-4-フェニル-ブチル]-6-オキソ-ピペリジン-1-イル}ヘプタン酸イソプロピル;
7-{(2R)-2-(3R)-3-ヒドロキシ-4-フェニル-ブチル]-6-オキソ-ピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
7-{(2R)-2-[(1E)-4,4-ジフルオロ-3-オキソ-4-フェニルブト-1-エニル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸イソプロピル;
7-{(2R)-2-[(3R)-4-(3-ブロモフェニル)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシブチル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプタン酸;
・・・中略・・・
(5Z)-7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブト-1-エン-1-イル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプト-5-エン酸イソプロピル;
(5Z)-7-{(2R)-2-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニルブト-1-エン-イル]-6-オキソピペリジン-1-イル}ヘプト-5-エン酸;
・・・中略・・・
である化合物、又は薬剤として許容されるそれらの塩、エナンチオマー、ジアステレオマー、プロドラッグ若しくは混合物。」(第57頁?62頁のクレーム6を参照;参照公報【特許請求の範囲】の【請求項6】)
(1-iii)「クレーム9
高眼圧症又は緑内障の治療を必要とする患者に、請求項1に記載の化合物の治療有効量を投与することを含み、前記化合物が液剤又は懸濁剤として局所製剤に入れて投与される、高眼圧症又は緑内障の治療方法。」(第63頁のクレーム9を参照;参照公報【特許請求の範囲】の【請求項9】)
(1-iv)「【背景技術】
緑内障は、眼圧が高すぎるために正常に目が機能しにくくなる眼の変性疾患である。その結果、視神経乳頭に障害が生じ、視覚機能が不可逆的に失われる可能性がある。治療しないと、緑内障は最終的に失明に至る可能性がある。高眼圧、すなわち視神経乳頭の障害又は緑内障に特徴的な視野欠損が見られない眼圧が高い状態は、緑内障発症の最も早い段階に過ぎないと眼科医により現在考えられている。」(第1頁4?10行を参照;参照公報段落【0001】)
(1-v)「本発明は、プロスタグランジンE2受容体のEP_(4)サブタイプの作動薬並びに緑内障及び患者の目の眼圧上昇に関連するその他の状態の治療におけるそれらの使用又はそれらの製剤に関する。特に、本発明は、一連の1,6-2置換ピペリジン-2-オン、3,4-二置換1,3-オキサジナン-2-オン、3,4-二置換1,3-チアジン-2-オン及び4,5-二置換モルホリン-3-オン誘導体並びに眼疾患を治療したり、哺乳類種、特にヒトの目に神経保護効果をもたらしたりするためのそれらの使用に関する。本発明はさらに、骨芽細胞及び破骨細胞の骨モデリング及びリモデリング過程を媒介するための本発明の化合物の使用に関する。
より具体的には、本発明は、構造式Iを有する新規EP4作動薬
・・・」(第2頁2?12行を参照;参照公報段落【0004】?【0005】)
(1-vi)「

」(第22頁のScheme1を参照;参照公報段落【0070】)
(1-vii)「実施例5
7-{[(2R)-2-[(3R)-3-ヒドロキシ-4-フェニル-ブチル]-6-オキソ-ピペリジン-1-イル}ヘプタン酸
^(1)H NMR(400MHZ、CD_(3)OD):δ7.3-7.1(M、5H)、3.8?3.7(M、2H)、3.4(M、1H)、2.9?2.7(M、3H)、2.3(M、4H)、1.9?1.3(M、16H);MS(-ESI):M/Z374.2(M-1)^(-)。

・・・」(第37頁4?9行を参照;参照公報段落【0122】?【0124】)

ここで、これら摘示の記載と同様な記載が、先願の優先権主張番号60/457700の米国特許出願明細書(以下、「先願優先権明細書」ともいう。)にされているかを検討すると、次のとおりであるから、先願の優先権主張は、少なくとも、先願明細書の上記摘示の技術事項から導かれる発明(後記の「先願発明」)については適法であり、有効であるといえる。
上記(1-i)の記載については、先願優先権明細書のクレーム1(第47?49頁3行参照)において、基R^(a)についての「CO_(2)R^(6)」の選択肢が記載されていない点以外は同一の記載があり、上記(1-ii)の記載については、先願優先権明細書のクレーム9(第50?54頁参照)において、同じ化合物の列記がある。そして、上記(1-iii)の記載については、先願優先権明細書のクレーム11(第55?57頁10行参照)おいて、クレーム1を引用することなく再度式1を用いている点と投与形態について言及していない点を除き、高眼圧症又は緑内障の治療方法が同様に記載されている。上記(1-iv)?(1-vi)の記載については、順に先願優先権明細書第1頁4?12行と第4頁18?29行、第27頁に同じ記載があり、上記(1-vii)の記載については、先願優先権明細書第35?36頁の実施例5において、NMRなどの記載順序は違えても、同じ記載がある。

次に、先願明細書に記載された構造式20の化合物(摘示(1-vii)参照)は、構造式Iにおいて、X=Y=CH_(2)、n=1、Z=(C(R^(b))_(2))_(n) (ここで、R^(b)=H、n=2)、R^(1)=(CH_(2))_(p)CO_(2)R^(10)(ここで、p=3、R^(10)=H)、---は一重結合、W=OH、U=H、R^(2)=(CH_(2))_(m)C_(6?10)アリール(ここで、m=0、C_(6?10)アリールとしてフェニル基)、R^(3)=R^(4)=Hを選択したものであることが明らかであり、構造式Iの化合物を具体化した一態様であると言える。

そうすると、先願には、適法に優先権主張がされた(優先権が有効である)、高眼圧症又は緑内障の治療に有用な、次の発明(以下、「先願発明」という。)が開示されていると言える。
「構造式20の化合物

を一態様として採用し得る、
構造式Iを有する化合物
【化1】

(式中、Qは(CH_(2))_(m)、(CH_(2))_(m)C_(6?10)アリール、(CH_(2))_(m)C_(5?10)ヘテロシクリル、(CH_(2))_(m)C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、(CH_(2))_(m)C_(3?8)シクロアルキル、C(ハロ)_(2)であり、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘテロシクリルは非置換であるか、又は1個から3個のR^(a)基によって置換されており、
X及びYは、独立して、CH_(2)、O、NR^(9)又はSを表すが、但し、X及びYは同時にO、NR^(9)又はSではなく、
UはH、C1?3アルキルを表すか、又はWが=Oのときは存在せず、
WはOH又は=Oを表し、但し、Wが=OのときUは存在せず、
R^(1)は、(CH_(2))_(p)ヒドロキシ、(CH_(2))_(p)CN、(CH_(2))_(p)CO_(2)R^(10)、(CH_(2))_(n)SO_(3)R^(6)、-(CH_(2))_(p)CF_(2)SO_(2)NH_(2)、-(CH_(2))_(p)SO_(2)NH_(2)、-(CH_(2))_(p)CONHSO_(2)R^(2)、-(CH_(2))_(p)SO_(2)NHCOR^(2)、-(CH_(2))_(p)PO(OH)_(2)、(CH_(2))_(p)CONHPO_(2)R^(6)、(CH_(2))_(p)CONHR^(8)、(CH_(2))_(p)C_(1?4)アルコキシ、-(CH_(2))_(p)シクロアルキル、(CH_(2))_(p)-ヒドロキシメチルケトン又は(CH_(2))_(p)ヘテロシクリルを表し、前記ヘテロシクリルは非置換であるか、又は1個から3個のRa基によって置換されており、場合によって酸性水酸基を含有し、
R^(2)は、独立して、C_(1?10)アルキル、(CH_(2))_(m)C_(6?10)アリール、(CH_(2))_(m)C_(5?10)ヘテロシクリル、(CH_(2))_(m)C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、(CH_(2))_(m)C_(3?8)シクロアルキル、O-C_(1?10)アルキル、O-C_(6?10)アリール、O-C_(3?10)シクロアルキル、O-C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、O-C_(3?10)ヘテロシクロアルキルを表し、但し、R^(2)がO-C_(1?10)アルキル、O-C_(6?10)アリール、O-C_(3?10)シクロアルキル、O-C_(3?10)ヘテロシクロアルキル、又はO-C_(3?10)ヘテロシクロアルキルのとき、R^(3)及びR^(4)はハロゲンではなく、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール又はヘテロシクリルは非置換であるか、又は1個から3個のR^(a)基で置換されており、
R^(3)及びR^(4)は、独立して、水素、ハロゲン若しくはC_(1?6)アルキルを表し、又はR^(3)及びR^(4)は一緒になって、O、S、SO、SO_(2)及びNR^(9)から選択された1個から2個のヘテロ原子が場合によって割り込んだ3員から7員の炭素環を形成することができ、
R^(6)及びR^(7)は、独立して、水素又はC_(1?4)アルキルを表し、
R^(8)は、水素、アシル又はスルホニルを表し、
R^(9)は、水素、C_(1?6)アルキルを表し、前記アルキルは、1個から3個のハロゲン、CN、OH、C_(1?6)アルコキシ、C_(1?6)アシルオキシ又はアミノで場合によって置換されており、
R^(10)は、水素、C_(1?10)アルキル、C_(3?10)シクロアルキル、(CH_(2))_(p)C_(6?10)アリール、(CH_(2))_(p)C_(5?10)ヘテロシクリル、CR^(6)R^(7)OC(O)OC_(3?10)シクロアルキル又はCR^(6)R^(7)OC(O)OC_(1?10)アルキルを表し、
Zは、三重結合、O、S、(C(R^(b))_(2))_(n)又はCH=CHを表し、
R^(b)は、水素、C_(1?6)アルキル又はハロゲンを表し、
R^(a)は、C_(1?6)アルコキシ、C_(1?6)アルキル、CF_(3)、ニトロ、アミノ、シアノ、C_(1?6)アルキルアミノ、ハロゲンを表し、又は、R^(a)はさらにアリール及びヘテロシクリル、SC_(1?6)アルキル、SC_(6?10)アリール、SC_(5?10)ヘテロシクリル、 、OC_(6?10)アリール、OC_(5?10)ヘテロシクリル、CH_(2)OC_(1?6)アルキル、CH_(2)SC_(1?6)アルキル、CH_(2)Oアリール、CH_(2)Sアリールを表し、
---は、二重結合又は一重結合を表し、
pは、0?3を表し、
nは、0?4を表し、
mは、0?8を表す。)
又は薬剤として許容されるそれらの塩、エナンチオマー、ジアステレオマー、プロドラッグ若しくは混合物。」

6.対比、判断
そこで、本願発明と先願発明を対比する。
先願発明の一態様である構造式20の化合物は、本願発明の式【化19】のα鎖及びω鎖における点線の結合の不存在を選択したものに相当し、本願発明では、「α鎖(COOH基を除く)に少なくとも1つの二重結合あるいは三重結合を有する。」と特定されているのに対し、構造式20の化合物は、α鎖に二重結合あるいは三重結合を有していない点で一応相違する。
しかし、先願発明は、一態様にすぎない構造式20の化合物に限定されないことは明らかであり、構造式Iに包含される化合物はすべて発明として把握し得るものといえ、先願明細書において意図されているものといえる。構造式Iにおいて、α鎖の一部を形成する「基Z」について、シングル結合(Z=(C(R^(b))_(2))_(2) ,ここで、R^(b)=H、即ち-CH_(2)CH_(2)-)との並びで三重結合やCH=CHが選択肢として明示されているし、現に具体的化合物として請求の範囲(クレーム6)に特定明示された中には、本願発明とは同一の化合物ではないものの、「・・・ヘプト-5-エン酸」(α鎖に二重結合を有していることが明白)のものが幾つも明示されているのであるから、ヘプタン酸基の代わりにそのようなヘプト-5-エン酸基(即ち、-CH_(2)-CH=CH-CH_(2)CH_(2)CH_(2)COOH)の構造を採用することは適宜なされる自明なことと言うべきである。ちなみに、プロスタグランジンE_(1)のα鎖はヘプタン酸基であり、プロスタグランジンE_(2)のα鎖は5-へプテン酸基であることから、そのプラスタグランジンの類縁体(摘示(1-v)も参照)を想起するに際しα鎖に二重結合がある場合を対象外とすべき理由は見いだせない。
してみると、本願発明のうちb.?d.による変更を受ける前の式【化19】の化合物は、先願発明と同一であると言うべきである。

ところで、請求人は、審判請求理由において、本願発明の「R^(3)は、α鎖に二重結合を有する場合、フェニル基ではありません。」(当審注:R^(3)は本願明細書に記載の式Iの基R^(3))と主張するが、本願発明(請求項29に係る発明)ではそのようなことは特定されていない。また、請求人は、先願ではω鎖にジフルオロメチレン基を有することを指摘するが、先願発明がそのような態様をとり得る場合があるとしても、その態様に限定して解すべき理由はない。なお、そもそも、先願発明では、フェニル基以外にもナフチル基(C_(10)アリールに相当)やベンゾチエン基、ベンゾフラン基なども採り得る(摘示(1-ii)を参照)し、ジフルオロメチレン基を必須とするものでもないのであるから、たとえ一部の態様の違いを単に対象外としたところで、本願発明には先願発明と同一と言える部分があることにかわりはなく、上記認定を左右しえない。

さらに、先願発明の構造式Iに包含される化合物は、高眼圧症又は緑内障の治療に有用なものであることも明示されている(摘示(1-iii)、(1-v)など参照)のであるから、その有用性においても本願発明と先願発明に格別の差異はない。そして、本願明細書を検討しても、本願発明に包含される全ての化合物が、先願明細書に開示された発明に比べて、格別顕著な作用効果を奏し得たものであるとは認められない。
ちなみに、構造式Iの化合物は、先願明細書に記載された製造方法(例えば、摘示(1-vii)参照)を参考に化学常識を加味して適宜に製造され得るものと認められる。

また、この出願の発明者(ディビッド・ダブリュー・オールド と ダニー・ティ・ディン)がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者(ビロー,グザビェ と コルツチ,ジョン と ハン,ヨンシン と ウィルソン,マリークレール と ヤン,ロバート・エヌ)と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人(アラーガン、インコーポレイテッド)が上記外国語特許出願の出願人(メルク フロスト カナダ リミテッド)と同一でもないことは明らかである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項29に係る発明は、有効な優先権主張を伴う先願明細書に開示された発明であると言えるので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-25 
結審通知日 2013-07-29 
審決日 2013-08-13 
出願番号 特願2006-509090(P2006-509090)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三上 晶子  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 穴吹 智子
岩下 直人
発明の名称 ピペリジニルプロスタグランジンE類似体  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 市川 さつき  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  

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