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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1283033
審判番号 不服2013-2263  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-06 
確定日 2013-12-25 
事件の表示 特願2009-186287「ポリアリーレンスルフィド」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日出願公開、特開2009-270118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年9月20日(優先日 平成17年9月22日 平成18年1月17日)の特許出願である特願2006-534512号の一部を、平成21年8月11日に新たな特許出願としたものであって、平成24年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年11月5日付けで拒絶査定がなされ、平成25年2月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年2月28日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で同年6月3日付けで審尋がなされ、同年7月30日に回答書が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年2月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「重量平均分子量が10,000以上、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であって、且つ、加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィド。
△Wr=(W1-W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由となった平成24年7月5日付けの拒絶理由通知書に記載された理由2の概要は、本願発明は、引用文献1?3及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。

引用文献1:特開平6-172530号公報
引用文献2:特開2003-113242号公報
引用文献3:特開2000-281786号公報
引用文献4:特開平5-163349号公報



第4 引用文献の記載事項

本願の原出願の優先日前に頒布されたことが明らかな引用文献4(特開平5-163349号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】重量平均分子量(Mw)が2000?500000、Mwと数平均分子量(Mn)の比(分子量分布)が1.1?5.0の範囲内にあり、塩素含有量が1000ppm以下であるポリアリーレンスルフィド。」(特許請求の範囲請求項1)

イ 「参考例1(環状フェニレンスルフィドオリゴマーの回収法)
各実施例で用いた環状フェニレンスルフィドオリゴマーは、以下の操作により回収した。
攪拌機、脱水塔およびジャケットを装備した15lの反応器に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)5lおよび硫化ナトリウム(純度:Na_(2)S 60.4%)1872.5gを仕込み、攪拌下ジャケットにより加熱し、内温が約205℃に達するまで脱水塔を通じて脱水を行った。この際、420gの主として水からなる流出液を留去した。次いで、p-ジクロロベンゼン2153gを添加し、250℃に昇温後、3時間反応させた。反応終了後、反応混合物を約100℃まで冷却し、反応器内を減圧後、再加熱することにより、脱水塔を通じて主としてNMPからなる流出液5200gを留去した。反応器系内を常圧に戻し、水8lを添加して水スラリーとし、80℃で15分間加熱攪拌した後、水スラリーを反応器下部の取り出し口から抜き出し、遠心分離してポリマーを回収した。さらに、ポリマーを反応器に戻し、水8lを添加し、180℃で30分間加熱攪拌を行い、冷却後、水スラリーを反応器下部の取り出し口から抜き出し、遠心分離してポリマーを回収した。得られたポリマーをジャケット付きリボンブレンダーに移して乾燥を行った。得られたポリマーは1450gであり、溶融粘度は240ポイズであった。
次いで、このポリフェニレンスルフィド200gを塩化メチレンを溶媒とし、ソックスレー抽出を行った。その後、飽和塩化メチレン抽出液をメタノールに投入し、沈澱物を濾過、乾燥し、環状フェニレンスルフィドオリゴマー混合物1.2gを得た。この環状オリゴマー混合物は、マススペクトル、高速液体クロマトグラフィーの結果から、実質上7?15量体の環状フェニレンスルフィドオリゴマーであることを確認した。融点は260℃であった。
実施例1
参考例1で得られた環状フェニレンスルフィドオリゴマー 540mgとチオフェノールのナトリウム塩1.8mg(0.3重量%)を10mlの重合用試験管に仕込み、窒素置換後、減圧下で封管し、300℃の溶融塩浴に30分間浸した。得られた灰白色の生成物を室温まで冷却した後、粉砕し、230℃で1-クロロナフタレン 250mlに再溶解させた。室温に冷却すると白色の沈澱が得られた。沈澱を濾過、洗浄(塩化メチレン、メタノール)、乾燥し、白色粉末430mgを得た。収率は80%、融点285℃であった。得られたポリマーの重量平均分子量は61000、分子量分布は2.2であった。
元素分析の結果を次に示す。従来の重縮合で得たポリフェニレンスルフィドと比較してNa、Cl含有量が低下していることが分かる。
元素分析結果:
実測値 (計算値)
───────────────────
C: 66.6% (66.6%)
H: 3.5% ( 3.7%)
S: 30.1% (29.6%)
N: 0% ( 0%)
Na:200ppm
Cl:440ppm
」(段落0060?0065)



第5 引用発明

引用文献4には、摘示アとイとを併せ読めば、「重量平均分子量(Mw)が61000、Mwと数平均分子量(Mn)の比(分子量分布)が2.2であり、塩素含有量が440ppmであるポリアリーレンスルフィド。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。



第6 本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「重量平均分子量(Mw)」の値は、本願発明における「重量平均分子量」の数値範囲と重複一致している。
引用発明における「Mwと数平均分子量(Mn)の比(分子量分布)」は、本願発明における「重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度」に相当し、それらの数値も重複一致している。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「重量平均分子量が10,000以上、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド。」の点で一致し、次の相違点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「加熱した際の重量減少が、下記式を満たす
△Wr=(W1-W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)」と規定しているのに対し、引用発明では、特に規定されていない点。



第7 相違点に対する判断

ポリアリーレンスルフィドの技術分野において、ポリアリーレンスルフィドが溶融時の揮発性成分の発生量が多いため成形加工時に発生する揮発性成分による種々のトラブルの原因となっていたという課題が存在していたことは周知のことと認められる(例えば、引用文献1の段落0003、引用文献2の段落0006並びに引用文献3の段落0003及び0005を参照のこと)。
そして、かかる課題を解決するために、引用文献1では、ポリアリーレンスルフィド樹脂を有機溶媒中で加熱し、有機溶媒に可溶な重量平均分子量1000以上15000以下のオリゴマーを固液分離によりポリアリーレンスルフィド樹脂に対して4重量%以上除去し、得られたポリマーを非酸化性の不活性ガス雰囲気下、200℃以上ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融温度未満で熱処理することによって、空気中330℃で30分加熱後のポリマー重量減少率が0.1重量%以下のポリアリーレンスルフィド樹脂を得ることが記載されており(特許請求の範囲請求項1)、ポリマー重量減少率の定義として「ここでいうポリマー重量減少率とは、ポリアリーレンスルフィド樹脂をオーブン中120℃で2時間乾燥後のポリマー重量(A)に対して、オーブン中330℃で30分加熱後のポリマー重量(B)がどの程度減少しているかを示す値であり、以下の式により表される。
ポリマー重量減少率(重量%)=(A-B)/A×100
」とも記載されている(段落0019?0020)。
そうすると、引用発明において、かかる周知の課題を解決するために、引用文献1の手段をさらに適用することは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば容易になし得ることであるといえ、その場合、引用文献1では、空気中330℃で30分加熱後のポリマー重量減少率、すなわち、ポリアリーレンスルフィド樹脂をオーブン中120℃で2時間乾燥後のポリマー重量(A)に対して、オーブン中330℃で30分加熱後のポリマー重量(B)の減少値が0.1重量%以下なのであるから、得られたポリアリーレンスルフィドは、加熱した際の重量減少が、本願発明で規定する要件(昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量を基準とした330℃到達時(すなわち、11.5分後)の試料重量から求められる値が0.18重量%以下)を満たすことは明らかである。

また、本願発明の効果について検討すると、狭い分子量分布及び高分子量という点は、第6 で述べたとおり、引用発明のものと差異はないし、高純度であるという点も、加熱した際の重量減少の値が本願発明の式を満足すれば、当然に高純度であるといえる。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第8 請求人の主張に対する検討

請求人は、平成23年11月21日提出の意見書の「(2)『理由2』について」において、「審査官殿は引用文献1?3と引用文献4?5を組み合わせることの可否については言及されず、本願発明は引用文献1?3及び引用文献4?5に記載された発明から当業者が容易に想到し得ると認定されましたが、この点について承服しかねます。本願請求項1に係る発明は、環状ポリアリーレンスルフィドを含むプレポリマーを触媒を使用せずに加熱したときにのみ得られる性質を規定した重合体の発明であり・・・ます。そこで当業者が、たとえば引用例1?3・・・を知り、更に引用文献4を知り得たとしても、引用文献4に記載のない『触媒なし』の条件にすれば、分散度が2.5以下で、加熱時重量減少率が0.18%以下になると予測することは不可能であったと考えられます。したがって、本願請求項1・・・に係る発明は、引用文献1?5に記載の発明から当業者が容易に想到することができたものではないと考えます。」と主張している。

しかしながら、本願の請求項1において、触媒なしで製造されたかどうかという点は、その発明を特定するために必要な技術的事項ではないから、この主張は、本願の請求項1の記載に基づかない主張であって採用することができない。
そして、第7 で述べたとおり、ポリアリーレンスルフィドが溶融時の揮発性成分の発生量が多いため成形加工時に発生する揮発性成分による種々のトラブルの原因となっていたという課題が存在していたことが周知のことにすぎないものと認められる以上、引用発明において、かかる課題を解決することを目的として、引用文献1に記載された手段を適用することは、当業者であれば容易になし得る程度のことであるといわざるを得ない。
また、そのことによる効果も、第7 で述べたとおり、当然に奏されることにすぎない。

よって、意見書における請求人の主張は、採用することができない。



第9 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献4及び引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は原査定のとおり拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-08 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-11-05 
出願番号 特願2009-186287(P2009-186287)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 塩見 篤史
須藤 康洋
発明の名称 ポリアリーレンスルフィド  

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