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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1283073
審判番号 不服2013-16677  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-29 
確定日 2013-12-26 
事件の表示 特願2009-116386「リアクトル」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日出願公開、特開2010-267700〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】経緯

[1]手続の概要
本願は、平成21年5月13日の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年11月27日(起案日)
意見書 :平成25年 1月25日
手続補正 :平成25年 1月25日
拒絶査定 :平成25年 5月28日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 8月29日

[2]査定
原審での査定の理由は、以下のとおりである。

〈査定の理由〉
本願の各請求項に係る発明は、下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
記(刊行物)
刊行物1:特開昭55-107214号公報
刊行物2:実願昭47-141408号(実開昭49-95442号)のマイクロフィルム
刊行物3:特開平10-41153号公報
刊行物4:特開2007-322137号公報
刊行物5:登録実用新案第3150315号公報


【第2】本願発明

本願の請求項1?8までに係る発明は、本願特許請求の範囲,明細書及び図面(平成25年1月25日付けの手続補正書により補正されたもの)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8までに記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである(なお、下線部は、平成25年1月25日付けの手続補正書で手続補正された部分を示す。)。
記(本願発明)
第1の端子と第2の端子間に直列に介在させた巻線部と導体部を備え、
前記導体部を前記巻線部の軸線に平行する形態で配置し、
前記第1の端子と第2の端子間の距離d1が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1>4aの関係を満たすように設定されていること特徴とするリアクトル。

【第3】当審の判断

[1]引用刊行物の記載の摘示
刊行物2:実願昭47-14140号(実開昭49-95442号)のマイクロフィルム
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記刊行物2には、以下の記載(下線は、注目箇所を示すために当審で施したものである。)が認められる。

(K1)「本考案はFMチューナ用局部発振に使用される温度係数の小さい高周波コイルに関するものである。」(1頁12行?14行)

(K2)「第1図、第2図および第3図はそれぞれコイルの巻線、ボビンにコイル巻線を固定した場合の側面図およぴ含浸が施されている高周波コイルの一部断面図を示す。
第1図に示す形状のコイル巻線1がセメダインあるいは含浸剤によって、熱膨張係数が線材より大なる材質、たとえぱナイロンよりなるボビン2に固定されている場合、高周波コイルは温度変化によってコイルの形状が次のように変化する。コイル半径Rは線材の熱膨張により、また巻ピッチPはボビンの熱膨張により、それぞれ変化する。コイル半径Rと巻ピッチPの増加は、それぞれコイルのインダクタンスの増加、減少方向に作用するため、インダクタンス変化が零となる、コイル半径Rと巻ピッチP、すなわちコイルの形状が存在する。形状が種々異なった高周波コイルの温度係数の測定結果および上述したことにもとづいた計算結果より、コイルの巻回数をT、線半径をAとしたとき、0.55≦1√R/T≦0.60で、かつ2≦P/A≦4なる形状の高周波コイルの温度係数は極めて小さい(±1PPM/℃)ことが判明した。例えばコイル半径R=3mm、巻ピッチP=1mm、線半径A=0.5mm、巻回数T=4 1/4の形状であるコイル巻線が、ナイロンボビンに含浸接着剤(富士高分子工業社製商品名ベルガD)によって含浸接着されている高周波コイルの温度係数は±1PPM/℃である。
本考案による高周波コイルはその温度係数が極めて小さいので、この高周波コイルをFMチューナ用局部発振に使用すれぱ、発振周波数の安定性を著しぐ向上させることができる。」(2頁4行?3頁14行)

(K3)「4.図面の説明
第1図はコイルの巻線、第2図は第1図のコイル巻線をボビンに巻きつけた場合の側面図、第3図は含浸が施されている高周波コイルの一部断面図を示す。」

[2]刊行物2に記載された発明(以下、「引用発明」という。)

ア 刊行物2には、「FMチューナ用局部発振に使用される温度係数の小さい高周波コイル」{前掲(K1)}が、第1?3図と共に記載されている。
前掲(K2)(K3)及び第1,2図によれば、その高周波コイルは以下のように構成されているということができる。
・コイル巻線1は、ボビン2に固定されている。
・コイル巻線1は、コイル半径R,巻ピッチP,線半径A,巻回数Tであるとされているところ、コイル半径Rは、第1図の「2R」と矢印の先端位置からすれば、明瞭ではないものの、巻回中心から巻線の芯中心/または巻線の外周までの距離をいうものと理解される。
・第1図に示される「コイルの巻線」{前掲(K3)}は、ボビン2の外周に巻回されてる部分(以下、「巻線部分」という)と、「巻線部分」の両端側に「巻線部分」に続く互いに平行に延びる長短2つの「軸方向直線部分」を有していると認められ、第1図において引き出し線で「1」で示される部分は「巻線部分」であり、第2図において引き出し線で「1」で示される部分は「長い軸方向直線部分」の始まり部分ということができる。
・すなわち、「1」で示される「コイル巻線1」は、「巻線部分」と「巻線部分」の両端側に「巻線部分」に続く互いに平行に延びる長短2つの「軸方向直線部分」を有していると認められる。
・上記2つの「軸方向直線部分」の線半径についてみるに、「巻線部分」と2つの「軸方向直線部分」を有する「コイル巻線1」について「例えばコイル半径R=3mm、巻ピッチP=1mm、線半径A=0.5mm、巻回数T=4 1/4の形状であるコイル巻線」としていること、図からみて「軸方向直線部分」と「巻線部分」とが異なる線材でできているとはいえないし、むしろ技術常識からみても同じ線材でできているのが普通であるといえること、からすれば、上記2つの「軸方向直線部分」も、「巻線部分」と同じく、その線半径はAであるということができる。
・「長い軸方向直線部分」(第1,2図の左側)は、半径方向で「巻き線部分」の外周側位置から「巻き線部分」の外周面に沿って軸方向に延び「巻線部分」を超えた端部まで達する。
・「短い軸方向直線部分」(第1,2図の右側)も、半径方向で「巻き線部分」の外周側位置から「巻き線部分」の外周面を延長した仮想外周面に沿うように「巻線部分」から離れる軸方向に延び端部まで達する。
・コイル半径R,巻ピッチP,線半径A,巻回数Tは、例えば、コイル半径R=3mm、巻ピッチP=1mm、線半径A=0.5mm、巻回数T=4 1/4である。

イ 以上を総合すると、本願発明と対比する引用発明として、下記の発明を認定することができる。

記(引用発明)
p:FMチューナ用局部発振に使用される温度係数の小さい高周波コイル(第1、2図)であって、
q:そのコイル巻線1は、ボビン2に固定されており、
コイル半径R(巻回中心から巻線の芯中心/または巻線の外周まで),巻ピッチP,線半径A,巻回数Tであって、例えば、コイル半径R=3mm、巻ピッチP=1mm、線半径A=0.5mm、巻回数T=4 1/4であり、
r:コイル巻線1は、ボビン2の外周に巻回されている巻線部分と、該巻線部分の両端側に、巻線部分と同じ線半径Aで該巻線部分に続く長い軸方向直線部分と短い軸方向直線部分とを有し、
s:長い軸方向直線部分は、半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面に沿って軸方向に延び巻線部分を超えた端部まで達し、
短い軸方向直線部分は、半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面を延長した仮想外周面に沿うように巻線部分から離れる軸方向に延び端部まで達するものである、
p:高周波コイル。

[3]本願発明と引用発明との対比(対応関係)

(1)本願発明(構成要件の分説)
本願発明は、以下のように要件A?Dに分説することができる。

記(本願発明、分説)
A:第1の端子と第2の端子間に直列に介在させた巻線部と導体部を備え、
B:前記導体部を前記巻線部の軸線に平行する形態で配置し、
C:前記第1の端子と第2の端子間の距離d1が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1>4aの関係を満たすように設定されていること特徴とする
D:リアクトル。

(2)本願発明と引用発明との対比(対応関係)
本願発明の各構成要件について、引用発明と対応する。

ア 要件A,B,及びCの「これらの端子(第1の端子と第2の端子)に接続された導線」について
(要件A「第1の端子と第2の端子間に直列に介在させた巻線部と導体部を備え、」
要件B「前記導体部を前記巻線部の軸線に平行する形態で配置し、」)

ア-1 本願発明の「導体部」,「導線」,「端子」
《導体部と導線》
請求項1には、「導体部」と「導線」との関係を明示的に特定する記載はないものの、
「巻線部」・「導体部」は第1の端子と第2の端子間に直列に介在すること(要件A)、「導体部」,「巻線部」と「リード部」との関係に関する明細書・図面の記載
{・図3(一実施の形態)についての段落【0013】の
「このリアクトル10-1は、導線を柱形状に巻いた単層巻構造の巻線部13と、この巻線部13の外周側に隣接配置された導体部14とを備えている。
巻線部13の一端は、該巻線部13の径外方向に導出されたリード部13aを介して端子15に接続されている。一方、導体部14の一端は、上記リード部13aに近接、平行するリード部14aを介して端子16に接続されている。そして、導体部14は、巻線部13の軸線に平行する形態で該巻線部13の一端側から他端側に亘って延びた後、巻線部13の他端に接続されている。」、
・図10(他の実施の形態)についての段落【0022】の
「このリアクトル10-3においても、巻線部13および導体部14の一端がそれぞれリード部13aおよび14aを介して端子15および端子16に接続されている。リード部13a,14aは、いずれも巻線部13の軸線に平行する形態で導出され、かつ、該軸線を含む同一の平面に位置されている。
導体部14は、そのリード部14aが上記軸線に対して上記リード部13aとは反対の側に位置されるように設けられている。したがって、リード部13a,14a(端子14a,15a)は、上記軸線を挟む形態で離隔している。」}
に照らせば、
要件Cの「これらの端子(第1の端子と第2の端子)に接続された導線」は、明細書記載の(平行配置された)2つの「リード部」に対応するものであって、
『(巻線部の軸線に平行する形態で配置した)「導体部」または「巻線部」に接続される導線』をいうものと理解される。
また、上記「導線」の導出方向については、実施の形態では「径外方向に導出」/「巻線部13の軸線に平行する形態で導出」するとしているが、請求項1において何ら特定されていない以上、その導出方向は問わないものである。

《端子》
そして、本願発明でいう「第1の端子」「第2の端子」における「端子」について、明細書の記載をみるに、
上記段落【0013】や【0022】において、それは、図面上でリード部13a,14aの端の「15,16」を付した“小さな丸点”で示されるものと説明されているに止まっており、このことに照らせば、本願発明でいう「端子」とは、少なくとも「端部」といえるものである。

ア-2 引用発明との対比
(ア)引用発明のrの「ボビン2の外周に巻回されている巻線部分」は、本願発明でいう「巻線部」ということができる。

(イ)引用発明のr及びsで規定される「長い軸方向直線部分」は、
「巻線部分と同じ線半径Aで該巻線部分に続く」もので「半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面に沿って軸方向に延び巻線部分を超えた端部まで達」するものであるところ、
そのうちの「巻き線部分の外周面に沿」う範囲部分は、「導体」で構成されていること、要件B「前記導体部を前記巻線部の軸線に平行する形態で配置し、」とする「導体部」と合致する(要件Bの「前記巻線部の軸線に平行する形態で配置し、」も満たしている)から、この範囲部分は、本願発明でいう「導体部」ということができる。
そして、「長い軸方向直線部分」の残る「巻線部分を超えた端部まで」の部分は、『(巻線部の軸線に平行する形態で配置した)「導体部」に接続される導線(部分)』といえ、
同じくr及びsで規定される「短い軸方向直線部分」は、「半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面を延長した仮想外周面に沿うように巻線部分から離れる軸方向に延び端部まで達するものである」から、『「巻線部」に接続される導線(部分)』ということができ、
上記のように解される,本願発明の「導線」と一致している。

(ウ)引用発明の「長い軸方向直線部分」の端部、及び「短い軸方向直線部分」の「端部」は、「端部」として「第1及び第2の端子」と一致しているということができる。

(エ)まとめ
以上によれば、
○引用発明も、『「第1の端部」と「第2の端部」に直列に介在させた巻線部(「巻線部分」)と導体部(「長い軸方向直線部分」の「巻き線部分の外周面に沿」う範囲部分)を備え、』といい得るものであり、この点では、本願発明と相違しない。
○もっとも、それら「端部」を「端子」とはしておらず、この点、相違が認められる。(→相違点)
○そして、引用発明も『前記導体部(「長い軸方向直線部分」の「巻き線部分の外周面に沿」う範囲部分)を前記巻線部(「巻線部分」)の軸線に平行する形態で配置し、』ということができ、要件Bにおいて本願発明と相違しない。
○引用発明の、「長い軸方向直線部分」の、「巻き線部分の外周面に沿」う範囲部分を除いた残り部分,及び,「短い軸方向直線部分」は、要件Cの「これらの端部(第1の端部と第2の端部)に接続された導線」ということができ、この点では、本願発明と相違しない。

イ 要件Cについて
要件C「前記第1の端子と第2の端子間の距離d1が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1>4aの関係を満たすように設定されていること特徴とする」

イ-1 本願発明(解釈)
距離「d1」、及び要件Cが要求する範囲「d1>4a」について検討する。

《d1》について
(a)本願発明でいう「前記第1の端子と第2の端子間の距離d1」とは、
「・・・距離d1が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1>4aの関係を満たすように」と特定していることを踏まえた上で、
明細書,図面の記載{段落【0018】,図7,段落【0022】,図10,段落【0020】「図8に示すように、平行する2本の導体(導線)17の半径をa[m]、距離をd[m]とし、・・・」,図8,段落【0021】,図9,特に、半径aを有する実体のある導体(導線)が明確に示されている唯一の図8}に照らしてみれば、
実質的に、『第1の端子と第2の端子に接続された、平行する半径aの2本の導体(導線)(「これらの端子に接続された導線」、「リード部」に対応する。)における導体の芯中心間の距離』(以下、『D』という)を指して/もしくは少なくとも含んでいうものと理解され、
上記「前記第1の端子と第2の端子間の距離d1」は、そのような2本の平行導体(導線)に端子を接続した結果、その平行導体間の距離『D』がそのまま{平行導体(リード部)端に位置する}端子間の距離d1となる(D=d1)ことから、その結果である端子間距離d1で表現したものと理解される。
このように理解することが相当であることは、単に“小さな丸点”で示される2つの“端子”間の距離だけを規定してもそれにより容量が決まるものではないことが当業者に自明であることからみても、明らかである。

《要件Cが要求する範囲「d1>4a」》について
(b)要件Cは、「リアクトル」という“物”について、「d1>4aの関係を満たすように設定されている」“物”であることをを特定する要件であるから、“物”が「d1>4aの関係」を満たせば足りるとするものであることは明らかである。
また、要件Cは、d1の下限を示すものではあるが、明細書の記載
{「平行する2本の導体(導線)17の半径をa[m]、距離をd[m]とし、これらの導体17間に介在する誘電体の誘電率(この例では空気の誘電率)をεとすると、該導体17、17間の浮遊容量C」(段落【0020】)は、【数1】に従い、「d/2aが大きいほど小さくなる傾向を示」し「端子15,16間の距離d1を大きくすることによって浮遊容量C1が低減され、それに伴って高周波に対するインタダクタンス特性が向上することになる。」(段落【0021】)、
「 図10および図11は、端子間距離をより大きく設定することが可能な構成を有する本発明の他の実施形態をそれぞれ示す。」(段落【0022】)等}
に照らしてみれば、d1を、その下限4a近く小さくすることではなく、むしろその逆で、これを大きくすることで浮遊容量を低減できることをその重要な作用効果とするものである。
そして、その下限である4aは、段落【0020】の式【数1】から導いたもので、端子間浮遊容量を十分に低減するための目安であると説明している(段落【0026】)。
以上のことからしても、要件Cは、
d1をその下限4a近く小さく設定した物をも含んではいるものの、むしろ、逆にこれを大きく設定することで浮遊容量を低減することを主眼とし,想定して特定する要件といえ、d1を大きく設定した物を当然に含んで特定する要件というべきである。
すなわち、上記の通り“物”が「d1>4aの関係」を満たせば足りるとするもの、すなわち、「d1>4a」を満たしているすべての“物”を権利範囲として要求する要件と理解すべきであり、そして、請求項1を引用する請求項2?8のすべてのものを含むものである。
なお、その「端子間浮遊容量」とは、上述したように、実質的には、端子に接続する平行する2導体間の浮遊容量と理解される。

イ-2 引用発明との対比
上記イ-1を踏まえ、引用発明と対比する。

上記イ-1(a)で示した「第1の端子と第2の端子に接続された、平行する半径aの2本の導体(導線)」に相当するものは、引用発明の「長い軸方向直線部分」及びその「端部」と、「短い軸方向直線部分」及びその「端部」であるから、
上記『第1の端子と第2の端子に接続された、平行する半径aの2本の導体(導線)における導体の芯中心間の距離D』は、引用発明における「長い軸方向直線部分」及びその「端部」と、「短い軸方向直線部分」及びその「端部」間の、それぞれの芯中心間の距離であり、それは、
・「長い軸方向直線部分」は「半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面に沿って軸方向に延び・・・端部まで達」するもので、
「短い軸方向直線部分」は「半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面を延長した仮想外周面に沿うように巻線部分から離れる軸方向に延び端部まで達」するものであって、共に、線半径はAであること、
・巻線部分の線半径もAであること、
から、
D=巻線部分の内径+6Aと計算される。

かかる計算の詳細は以下のとおりである。
第1図に示されるRは、巻回中心から巻線の芯中心までの距離なのか、
巻回中心から巻線の外周までの距離なのか、明瞭ではないので、両者についてみてみると、
(i)コイル半径Rが、巻回中心から巻線の芯中心までの距離である場合
D= A(長い巻線部分の線半径)
+A(巻線部分の線半径)
+2×コイル半径R(巻回中心から巻線の芯中心まで)
+A(短い軸方向直線部分の線半径)
+A(巻線部分の線半径)
=2R+4A であり、
(ii)コイル半径Rが、巻回中心から巻線の外周までの距離である場合
D=2R+2A である。
ここで、巻線部分の内周の半径をR’(このとき、巻線部分の内径=2R’)とすれば、
(i)の場合、R=R’+Aであるから、
D=2R’+6A=巻線部分の内径+6A となり、
(ii)の場合、R=R’(内径)+2Aであるから、
D=2R’+6A=巻線部分の内径+6A となる。
いずれの場合においても、上記D=巻線部分の内径+6Aとなる。

したがって、要件Cになぞらえれば、引用発明は、
「前記第1の端部と第2の端部間の距離d1(=D)が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1=巻線部分の内径+6aの関係を満たすように設定されている」ということができる。
そして、引用発明のかかる設定、すなわち、上記「d1=巻線部分の内径+6aの関係を満たす」設定は、「巻線部分の内径」は種々に設計されるものであるが少なくとも常に>0であるから、常に「d1>4aの関係」を満たしている。
そうすると、引用発明は、「d1>4aの関係」を満たせば足りるとする、すなわち、「d1>4a」を満たしているすべての“物”を権利範囲として要求する要件C{上記(b)}に、含まれ,該当していることは明らかである。
したがって、引用発明は、要件Cにおいて、本願発明と相違するとはいえない。

また、本願発明(請求項1)が含む、その従属請求項である請求項2を引用する請求項3のものは、「前記導体部は、前記巻線部の外周側に隣接配置されて」(請求項2)「前記巻線部の一端から他端に亘って延設されている」(請求項3)ものであり、その「導線」として、図10のように周方向に180°ずれた2つの位置から軸線に平行する形態で導出(上記ア-1参照)したものも当然に想定されるところ、かかる形態は、
刊行物2の第1図、引用発明のコイル巻線1の、
rの「該巻線部分の両端側に、巻線部分と同じ線半径Aで該巻線部分に続く長い軸方向直線部分と短い軸方向直線部分とを有し」と、
sの「長い軸方向直線部分は、半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面に沿って軸方向に延び巻線部分を超えた端部まで達し、
短い軸方向直線部分は、半径方向で巻き線部分の外周側位置から巻き線部分の外周面を延長した仮想外周面に沿うように巻線部分から離れる軸方向に延び端部まで達するものである」
構成と同様であることからみても、引用発明が要件Cに含まれるものであることは明らかである。

念の為、引用発明において、例示されている線半径A=0.5mm,コイル半径R=3mmについても検証しておくと、
上記(i)の場合、
d1=2R+4A(4a)=8mm>4A(4a)=2mmであり、
上記(ii)の場合、
d1=2R+2A(2a)=7mm>4A(4a)=2mmである。
したがって、引用発明の例示のものも、要件Cの「d1>4aの関係を満たすように設定されていること」を満たし、これに含まれている。

《まとめ》
以上によれば、「端子」と特定していることを除き、
引用発明も、要件C「前記第1の端子と第2の端子間の距離d1が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1>4aの関係を満たすように設定されている」といえ、要件Cにおいて、本願発明と相違するとはいえない。

ウ 要件D「リアクトル」について
「リアクトル」とは、一般に、電気回路に接続され、誘導性リアクタンス(インダクタンス)を発生させ/導入する装置と定義されており、電線をコイル状に巻いたものともされている(例えば、下記A?E参照のこと)ものであるところ、
引用発明の「高周波コイル」も、当該定義を満たすから「リアクトル」ということができる。
また、引用発明の高周波コイルは、「局部発振に使用される」ものであるから、容量と共に用いて共振し局部発振電力(用語“局部発振電力”については,例えば、特開平1-235216号公報参照)を得るためのインダクタであるところ、そのような共振・発振等の用途などに用いられる種々のインダクタも「リアクトル」と呼ばれている(例えば、下記F?I等参照のこと)ことからみても、「リアクトル」である点において本願発明と相違するとはいえない。
引用発明は、要件Dにおいて本願発明と相違するとはいえない。

記(「リアクトル」)
A:「電気工学ハンドブック(第6版)」,社団法人電気学会,2001年2月20日 第6版第1刷発行,p.727
「4.1.1 定義
リアクトルとは、電気回路に接続され、誘導性リアクタンスを発生させる機器である。」

B:「理工学辞典」,東京理科大学理工学辞典編集委員会 編集,株式会社日刊工業新聞社 発行,1996年3月28日発行,p.1511
「リアクトル reactor 《電気》 リアクトルは、回路にインダクタンスを与えるための装置である.コイルが鉄心に巻かれている場合は鉄心リアクトル,鉄心のないものは空心リアクトルと呼ばれる。鉄心入りは大きなインダクタンスが得られるが,鉄心の飽和のため非線形特性を示す.」

C:「OHM 電気電子用語事典」,オーム社,昭和60年8月30日 第1版第3刷発行,p.972
「リアクトル reactor 回路にインダクタンスを導入することを目的とした装置.鉄心上に多数の巻線を施したものがよく用いられる.」

D:「日本大百科全書 23」,小学館,1988年12月1日 初版第二刷発行,p.856
「リアクトル reactor 回路にインダクタンスを導入することを目的とした装置。構造的には、電線をコイル状に巻いたもので、鉄心をもつものと、空心とに大別できる。・・・」

E:「大辞泉 増補・新装版」,小学館『大辞泉』編集部 編集,小学館 発行,1998年12月1日 第1版発行,p.2766
「リアクトル 『reactor』 交流回路にリアクタンスを生じさせる装置。リアクター。」

F:特開2003-78348号公報
{「リアクトルL11,L12」(段落【0038】,図1),例えば、局部発振用VCOの共振部に用いられているインダクタL)}

G:特開2006-115541号公報
{「リアクトルL」(段落【0025】,図1),RF発振変調回路90}

H:実願昭56-1927号(実開昭57-115232号)のマイクロフィルム
{従来の高周波リアクトル(図1)及び高周波リアクトル(図2)、例えば、通信機のVHF帯やLHF帯で使用される共振回路,フィルタに用いる(3頁3行?4頁2行等)}

I:特公昭62-52550号公報
{「リアクトルL1」(図1),LC振動(1頁右欄8行))

[4]一致点、相違点
以上の対比結果によれば、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりであることが認められる。

[一致点]
A’第1の端部と第2の端部間に直列に介在させた巻線部と導体部を備え、
B 前記導体部を前記巻線部の軸線に平行する形態で配置し、
C’前記第1の端部と第2の端部間の距離d1が、これらの端子に接続された導線の半径aに対してd1>4aの関係を満たすように設定されていること特徴とする
D リアクトル。

[相違点]
上記A’,C’の「端部」が
本願発明では、「端子」であるのに対して、
引用発明では、「端子」とはしていない点。

[5]相違点等の判断

《相違点克服の容易性》
上記相違点を克服すること、すなわち、引用発明の「端部」を「端子」とすることの容易想到性について検討する。
一般に、コイルの巻線部分を構成する導線を巻線に寄与しない部分に延長しその端部を「端子」とすることは、周知かつ技術常識である(下記周知例等参照)ことから、
上記相違点の克服、すなわち、引用発明の「端部」を「端子」とすることに、格別の困難性はなく、上記相違点の克服は当業者が容易に想到し得ることである。
記(「端子」の周知例)
(a)特開昭63-178513号公報
{巻線端子12,13等,図1?図3}
(b)特開平1-266705号公報
{コイル端子1a1,1b1等,図1?図6}
(c)実願昭50-48980号(実開昭51-130045号)のマイクロフィルム{端子ピン1a,1b等}
(d)実公昭55-52652号公報{端子部9,10等}
(e)実公昭55-13933号公報{リード端子6等}
(f)実願昭49-39933号(実開昭50-129856号)のマイクロフィルム{リード端子2等}

《本願発明の容易想到性》
以上のとおり、引用発明を出発点として、上記[相違点の克服]をすることで、本願発明の構成に達するところ、同克服は、刊行物2および周知技術に基づいて当業者が容易になし得ることであるから、本願発明は刊行物2および周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

《予備的検討》
「d1>4aの関係を満たすように設定されている」点について
要件Cの「d1>4aの関係を満たすように設定されている」は、上記「[3](2)対比のイ-1(b)」でみたとおり、d1がその下限である4a近くのものに限定するものではなく、“物”が「d1>4aの関係」を満たせば足りるとするもので、「d1>4aの関係」を満たしているすべての“物”を権利範囲として要求する要件といえ、
引用発明は、かかる「d1>4aの関係」を満たしているすべての“物”に含まれるものであり、「d1>4aの関係を満たすように設定されている」といえるのであるから、本願発明と相違するものでないことは、前記のとおりであるが、念の為、次の論点についても検討しておく。

「端子間浮遊容量を十分に低減する」「目安」として(段落【0026】)「d1>4aの関係を満たすように設定されている」とする本願発明は、「d1の設定範囲を4aを下限とする範囲とすること」を技術思想として含んでいるからこの点が引用発明との相違になり得るという論点も想定される。
そのような技術思想を含んでいるとしても、物として「d1>4aの関係を満たすように設定されている」点では引用発明と相違しないものであるから、あくまで予備的検討としてではあるが、
仮に、「d1の設定範囲を4aを下限とする範囲とすること」が引用発明との相違になり得たとして、その場合について検討しておく。

一般に、距離d(芯中心間距離)を隔てて平行に配置した,半径aの2本の導体間の単位長さ(1m)当たりの静電容量Cは、
電磁気学の計算により、
C=πε/log{(d/2a)+√((d/2a)^(2)-1)} (F)
=πε/cosh^(-1)(d/2a)
≒πε/log(d/a) (a≪dの場合、すなわち、距離dが半径a
に比較して十分大きい場合)
なる計算式で与えられることは、本願明細書でも段落【0020】に示しているように当業者に周知の技術常識である。

当該計算式に従い計算すれば、
上記静電容量Cは、
d=2a(d/2a=1)のとき、
(すなわち、2導体が間隔0で接しているとき、)
無限大となり、
dが大きくなるにつれて急激に小さくなっていき、例えば、
d=4a(d/2a=2)のとき、
(すなわち、2導体の間に同径の導体が1本入る距離隔てているとき)
πε/log(2+√3) ≒21.1*10^(-12)F 、
d=20a(d/2a=10)のとき、
πε/log(10+√99) ≒ 9.3*10^(-12)F 、
d=200a(d/2a=100)のとき、
πε/log(100+√9999)≒ 5.2*10^(-12)F 、
と、小さくなっていくことを示すものであり、それは、本願図9が示すものに他ならない。
すなわち、平行2導体間の容量Cは、本願図9のように、(d/2a)が、1より大きくなるにしたがって急激に、10を超える当たりから徐々に、連続的に小さくなっていくことは当業者に周知の事項である。
つまり、d1とaの関係に従い容量Cがどのような値となるかはすべて当業者に既知で自明なのであり、加えて、d1=4aを境に、容量Cの値が跳躍的に顕著に変化するわけでもないのである。
そうすると、下限の目安としては、d1=4aもd1=10aもd1=20aもあり得る訳であり、要求される性能(浮遊容量の小ささ,絶縁耐性)に応じて、そのd1の下限も決まり、それに応じてd1は設定されると言うべきであるし、
目安としての「d1の設定範囲を4aを下限とする範囲とすること」が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものでもない。

一般に、コイルのリード端子を接続するとき、その端子間を、端子間浮遊容量や絶縁性が問題とならない程度隔てることは、当業者にとってごく普通のことにすぎず、
このとき、導線端部の2端子(リード端子)を、少なくとも、端子間に同径の導体が1本入る以上の間隔は隔たるようにする(このとき、下限である、芯中心間距離d1=4aとなる)ことも通常の設計である。
すなわち、端子間距離をd1=4a以上とすることは、当業者にとって普通のこというべきであり、端子間距離の下限をd1=4aを目安とする程度のことが、格別、想到困難な技術思想とはいえない。

以上、仮に、「d1の設定範囲を4aを下限とする範囲とすること」が引用発明との相違になり得たとしたとしても、かかる数値限定に格別顕著性はなく、当業者が容易に想到し得る技術思想というべきである。

《まとめ》(相違点等の判断)
以上、本願発明は、刊行物2および周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

【第4】むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-25 
結審通知日 2013-10-29 
審決日 2013-11-12 
出願番号 特願2009-116386(P2009-116386)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 純一  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 石井 研一
酒井 伸芳
発明の名称 リアクトル  
代理人 松本 洋一  

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