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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B |
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管理番号 | 1283170 |
審判番号 | 不服2013-11708 |
総通号数 | 170 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-20 |
確定日 | 2014-01-20 |
事件の表示 | 特願2008-161186「透明ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法、並びにそれを使用した包装材料」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月 7日出願公開、特開2010- 678、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成20年6月20日の出願であって、平成24年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年7月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年4月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年6月20日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?16に係る発明は、平成24年7月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであって(以下「本願発明1?16」という。)、本願発明1は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物を蒸着層として形成した無機酸化物蒸着層と、該蒸着層側に、ガスバリア性塗膜を設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、 前記ガスバリア性塗膜が、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル-ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、加熱乾燥処理して形成したものであって、前記ポリビニルアルコール系水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂中の酢酸ナトリウムの含有量がポリビニルアルコール系水溶性樹脂に対して1重量%未満の範囲内に調製したものを用いて形成したガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内である緻密な膜構造を有することを特徴とするガスバリア性積層フィルム。」 3.原査定の理由の概要 本願発明1?16は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2008-73986号公報 引用文献2:特開2001-121659号公報 4.引用文献 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。 (a)「【請求項1】 基材フィルムの一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、更に、該無機酸化物の蒸着膜の上に、一般式R^(1)_(n )M(OR^(2))_(m)(ただし、式中、R^(1)、R^(2)は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、鱗片形状二酸化ケイ素粒子と、ポリビニルアルコ-ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。」 (b)「【0018】 次に、・・・本発明に係るガスバリア性積層フィルムを構成する基材フィルムについて説明すると、・・・各種の樹脂のフィルムないしシ-トを使用することができる・・・。」 (c)「【0103】 (1).まず、基材フィルムとして、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレ-トフィルムを使用し、・・・下記に示す条件により、厚さ200Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した。・・・ (2).他方、・・・ポリビニルアルコール・・・エチルシリケート(テトラエトキシシラン)・・・2N塩酸、・・・攪拌し、無色透明のバリアー塗工液を得た。・・・次に、上記の(1)で形成したプラズマ処理面に、上記で製造したガスバリア性組成物を使用し、これをグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、100℃で30秒間、加熱処理して、厚さ0.4g/m^(2 )(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成して、ガスバリア性積層フィルムを製造した。」 (d)「【0115】 本発明に係るガスバリア性積層フィルムおよびそれを使用した積層材、更に、それを使用して製袋した包装用袋は、・・・特に、水蒸気バリア性に優れ、・・・各種の飲食品を充填包装するに有用であり、かつ、その内容物の充填包装適性、品質保全性等に優れているものである。」 そして、上記記載(a)?(d)を総合すると、本願発明1の記載に倣って整理すれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「樹脂のフィルムからなる基材フィルムの一方の面に、無機酸化物を蒸着膜として形成した無機酸化物の蒸着層と、該無機酸化物の蒸着膜の上に、ガスバリア性塗布膜を設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、 前記ガスバリア性塗布膜が、一般式R^(1)_(n )M(OR^(2 ))_(m)(ただし、式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂と、鱗片形状二酸化ケイ素粒子と、2N塩酸とを含有する混合溶液を用い、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、加熱乾燥処理して形成したものであるガスバリア性積層フィルム。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (e)「【請求項1】樹脂基材フイルム(D)の少なくとも片面上にポリビニルアルコール系重合体組成物(A)を積層したフィルムにおいて、ポリビニルアルコール系重合体組成物(A)中の残存酢酸ナトリウム量が0.5%以下で且つケン化度が99%以上であることを特徴とするガスバリア性フィルム。」 (f)「【0012】本発明ではポリビニルアルコール系重合体組成物(A)は残存酢酸ナトリウム量が0.5重量%以下、・・・より好ましくは0.1重量%以下・・・高湿度下でもガスバリア性低下の少ない、よりガスバリア性の優れたフィルムを得ることが出来る。 【0013】ポリビニルアルコール系重合体組成物(A)中の酢酸ナトリウムは、主成分であるポリビニルアルコール系重合体(B)をポリ酢酸ビニルからケン化することにより製造する際、ケン化工程で生成される。従がって、ポリビニルアルコール系重合体組成物(A)中の酢酸ナトリウムの量が上記範囲となるためには、ポリビニルアルコール系重合体(B)中の酢酸ナトリウムの残存量が、0.5%以下、より好ましくは0.2%以下であることが望ましい・・・。」 5.本願発明1と引用発明1との対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「樹脂のフィルムからなる基材フィルム」は本願発明1の「プラスチックフィルムからなる基材フィルム」に相当し、同様に、「蒸着膜」は「蒸着層」に、「ガスバリア性塗布膜」は「ガスバリア性塗膜」に、それぞれに相当する。 フィルム上に他の層を設けることについて、引用発明1の「フィルムの一方の面に」及び「該無機酸化物の蒸着膜の上に」は、本願発明1の「フィルムに」及び「該蒸着層側に」に、それぞれ相当する。 引用発明1の「一般式R^(1)_(n )M(OR^(2))_(m)(ただし、式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド」は、本願発明1の「一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシド」に相当する。 引用発明1の「2N塩酸」は、本願発明1の「酸触媒」に相当する。 引用発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂」は、ポリビニルアルコール系樹脂であれば水溶性であることは技術常識であるから、本願発明1の「ポリビニルアルコール系水溶性樹脂」に相当する。引用発明1の「ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物の塗工液」は、本願発明1の「ゾル-ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。 《一致点》 「プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物を蒸着層として形成した無機酸化物蒸着層と、該蒸着層側に、ガスバリア性塗膜を設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、 前記ガスバリア性塗膜が、一般式R^(1)_(n )M(OR^(2))_(m)(式中、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル-ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、加熱乾燥処理して形成したものであるガスバリア性積層フィルム。」 《相違点》 本願発明1は「ポリビニルアルコール系水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂中の酢酸ナトリウムの含有量がポリビニルアルコール系水溶性樹脂に対して1重量%未満の範囲内に調製したものを用いて形成したガスバリア性塗膜の表面自由エネルギーが60dyne未満の範囲内である緻密な膜構造を有する」と特定されているのに対し、引用発明1はそのように特定されたものではない点。 6.判断 (1)相違点についての判断 (ア)引用文献2には、ポリビニルアルコール系重合体組成物の残存酢酸ナトリウム量が0.5重量%以下とすることによりガスバリア性の優れたフィルムを得ることができるとの技術事項が示されている。 しかしながら、引用文献2のガスバリア性組成物は、ポリビニルアルコール系重合体組成物そのものであって、アルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル-ゲル法によって得られるガスバリア性組成物については、一切記載も示唆もされていない。そうすると、引用文献2には、アルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用い、ゾル-ゲル法によって得られるガスバリア性組成物についてガスバリア性を向上させるという技術的思想は、記載も示唆もされていない。よって、引用発明1に引用文献2の技術事項を採用する動機付けがあるとはいえない。 (イ)そして、引用発明1は、アルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を用いて、ゾル-ゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布するものであるから、この混合溶液中のポリビニルアルコール系水溶性樹脂の構成のみを抜き出し、他のポリビニルアルコール系水溶性樹脂に置換する動機付けがあるとはいえない。 (ウ)小活 したがって、相違点に係る本願発明1の構成については、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明2?16についての判断 (ア)本願発明2?9は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当するから、少なくとも、前記5.に示した《相違点》で引用発明1と相違する。 (イ)そして、前記(1)に示したとおり、《相違点》に係る構成は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本願発明2?9は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)本願発明10は、本願発明1の発明特定事項を全て含むガスバリア性積層フィルムの製造方法であり、本願発明11?16は、本件発明10に、さらに他の限定を付加したものに相当するから、少なくとも、前記5.に示した《相違点》で引用発明1と相違する。 (エ)そして、前記(1)に示したとおり、《相違点》に係る構成は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、本願発明10?16は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 7.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1?16は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2013-12-20 |
出願番号 | 特願2008-161186(P2008-161186) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B32B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 宮崎 大輔 |
特許庁審判長 |
河原 英雄 |
特許庁審判官 |
二ッ谷 裕子 紀本 孝 |
発明の名称 | 透明ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法、並びにそれを使用した包装材料 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 結田 純次 |